相棒が僕を邪な目で見てるとかそんなのナイナイ!   作:邪神ナイナイ

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第五話 黒川比瑪のファッションショー

 

 

 

 

 

 そんなこんなで連れてこられたのは繁華街の一角。

 

 ごちゃごちゃとした雑多な雰囲気の、衣装棚の森、といった場所に引きずり込まれた僕はさっそく後悔していた。

 

 だって、来夢さんが持ってくる服、全部変なんだもん!

 

「おっ、これなんかどう?」

 

「いきなり網じゃん!! 服ですらないじゃん!! 北欧の戦乙女かっ!!」

 

 最初に渡されたのは、言葉通り網というか、メッシュというか、折り紙細工というか……まあそんな感じの物体xである。これを服と呼ぶのは服飾文化への嘲弄ではないだろうか。

 

「比瑪ちゃん、なぞに神話に詳しいよね……これ一枚な訳ないっしょ、この下に他の衣装を重ねてお洒落するのよ」

 

 そういって来夢さんが手渡してきたのは、水着か? ってぐらい、大事な処を最低限隠すだけの布の切れ端みたいな奴で。

 

「首もお腹も肩も隠せないじゃんそれ!! 水着なの!? それとも浮浪者!?」

 

「女の武器を隠してどうすんのよ、いいから試着しなさいって、ほら」

 

「重ね着してるのに何も隠せないんだけど!? ていうかこの季節にこんなの着たら風邪ひくでしょ、却下!」

 

 渾身の力で否定すると、来夢さんはきょとん、とした顔をした。解せぬ。

 

「あはは、何言ってるのよ比瑪ちゃん。服なんて数シーズン先を見越して買うもんでしょ、今着るもんを今買ってどうするのよー」

 

「え、あ。そ、そういうもの?」

 

「前から思ってたんだけど比瑪ちゃん元々どういう生活してたのん……? もしかして、保護者から渡された服をそのまま着てたんじゃないよね」

 

 ぎくりんこ。

 

 で、でも、マリアさんが用意してくれる衣装に過不足はなかったし……。時折ちょっとモコモコした可愛い系の服を混ぜ込んでくる悪癖はあるけど、それに気を付けてれば隠すとこはちゃんと隠せるいい感じの服だし。

 

 僕の事情を知ってるだけあって、ツボを押さえた服を用意してくれるから……その……。

 

 た、確かに、流行りとかとは縁が遠かったかもしれないけど……。

 

「まあとにかく、これは夏用。ま、今から気が早い、と言われても仕方ないかー。春先の服もなんか選んじゃおうかねー」

 

 手にしていた服を篭に詰め込んで、再び衣類の密林に潜り込んでいく来夢さん。僕はというと、迂闊に動き回ると遭難待ったなしなので、おとなしくここで待機である。なんでこんなむちゃくちゃな中で迷わないの? あとなんでこの中を行き来して化粧取れないの?

 

 来夢さんがおかしいんじゃなくて、他の客も平然と行き来している。顔にばっりばりに化粧決めてギラギラしている人も、普通に衣装を汚す事なく移動しているし、もうそういうスキルか何かを備えているようにしか見えない。

 

 もしかしてそれが出来ないと生物学的にも女性として認められないのだろうか……女の世界怖い……。

 

「ほい、ただいまー。これ、どう?」

 

「ジャケットと、インナースーツ……? あ、これなら俺も着れそう」

 

「でしょでしょ。比瑪ちゃんが気に入りそうなの探してきたんだからー。試着して、試着」

 

 詰め込まれるように試着室に押し込まれる。

 

 もう、そんな事されなくてもちゃんと着るってば。あ、こら、カーテンの隙間から覗くな!

 

 まったく……。

 

『ぶるるん』*1

 

 今着ている服をハンガーにかけて試着してみる。

 

 うん、インナースーツはやっぱいいな。この肌のぴっちり感、ちょっと圧迫感を感じるぐらいが安心感がある。肌を露出してないって素敵……。

 

 いやでも、これちょっと薄いというか、体形がモロにでるな。というか、ぶ、ぶ、ぶらじゃーの形が浮き出てる……。え、流石にこれは不味いでしょ。

 

 ジャケットの上を合わせないと……合わせ、あれ? ぼ、ボタンが、届かない……っていうか、これ、まさか……。

 

 僕はカーテンから顔だけだして来夢さんを呼んだ。

 

「ら、ら、来夢さん……」

 

「ん? どしたの比瑪ちゃん」

 

「このジャケット、サイズ合わないんだけど……」

 

 そう。袖を通しただけでこのジャケットは精いっぱいというか、前が合わせられない。子供の服を大人が着たみたいになっちゃってる。その割に、肩回りは余裕があるんだけど……の、のびちゃっただけとか、無いよね?

 

 困惑する僕の説明に、しかし比瑪ちゃんは首を傾げた。

 

「え? でも比瑪ちゃんのサイズに合わせた筈だけど……具体的にはどんな感じ?」

 

「ま、前が合わなくて。何か間違えたんじゃないの……?」

 

「? ああ、それ、前を合わせない奴よ。それで正しい着こなしなの」

 

 なんですと?

 

「え、でもそれじゃあインナーモロでは……」

 

「それがいいんじゃない、スタイリッシュで。春先よ? いつまでもモコモコしてたらカッコ悪いでしょ。風さえ通さなければそれなりに暖かいはずっしょ」

 

「体形がモロに丸見えなんだけど!?」

 

 ついでになんか下着も浮かび上がって見えるし! 合法かもしれないけど痴女だよこれは!

 

「えー? 比瑪ちゃん、綺麗なシルエットしてるんだからそれを出していけばいいじゃない。胸はその……だけど、結構マニアックな人気はあると思うわよ」

 

「余計なお世話だよ!! あ、あと、それにこれだと……ゴニョゴニョ……」

 

「? 何、声が小さい~」

 

 困窮した僕は、顔を寄せてきた来夢さんの手を引っ張って更衣室に引き込んだ。個室の内部で、小さく耳打ちする。

 

「だ、だから。これ……ぴったりすぎて、ぶ、ぶ、ぶ……」

 

「ああ、ブラジャーの形が浮き出る? ヌーブラかスポーツブラにすればいいじゃない。っていうか、あんだけお洒落恥ずかしがっておいて、ちゃんとブラジャーしてるのね。お姉さん正直安心しちゃった」

 

「う、うう……」

 

 だ、だって! 僕だってほんとならこんなの付けたくないよ、完全に女の子じゃんか! でもつけないと、相棒に騎乗してる時は激しく揺れるから、服に擦れて痛くなるし……。「ちゃんとしたので保護してないと千切れるかもしれないわ、クーパー靭帯とか」って言われたらそりゃ恐ろしくてちゃんと保護するよ!

 

 だ、だいたい体の正面にあんな表面積大きな急所をぶら下げてるとか人体おかしくない!?

 

『ぶるる……』*2

 

「なんか顔色で何考えてるか分かるわね……おもしろ……」

 

 面白い!? いま、面白いっていった!?

 

「言ってないわよ。まあ、マリア司令もその変はちゃんと比瑪ちゃんに教育したという事ね。ま、非番の時ぐらいは、色々試してみたらいいんじゃなーい? せっかくだからヌーブラ買う? あ、それともノーブラでいっちゃう? 勇気あるぅー」

 

「ヌーブラを買わせて下さい」

 

「素直でよろしい!」

 

 しくしく……また衣装棚の中身が増えていく。いつか男の子に戻れる日が来た時はどうやって処分しよう……?

 

 しくしく内心で涙を流していると、慰めるように影が小さく嘶いた。

 

『ぶひぃん……』*3

 

 相棒……僕の気持ちを分かってくれるのはお前だけだよ……!

 

「……比瑪ちゃんさあ……」

 

「? な、何?」

 

「いや、何でもなーい。知らない方がいいって事もあるわよね」

 

 意味深な事をつぶやきながら、カーテンの向こうに引っ込んでしまう来夢さん。僕は首を傾げながらも、試着していた衣服を脱ぎにかかった。

 

 結局、その後も次々来夢さんが持ってくる衣装をとっかえひっかえした結果、篭一杯の服を買ってしまう僕なのであった。

 

 

 

「いやー、楽しかった!」

 

「そ、そう……来夢さんが満足したなら、いいよ……」

 

 店を出てうーん、と背伸びする来夢さん。それに対して僕はなんていうか、うん。肩が重い……。いや別に抱えてる服が重いんじゃなくて、正直生気を吸われたみたいな気がする……。

 

 手にした紙袋にはめいっぱいの衣装。いやまあ、エージェントとして支払われてる御給金なら全然問題はないんだけど……こんなに買っても着こなせる気がしないよぅ……。

 

「シーズンになったらちゃんと着るのよー? 環境に合わせた着こなしも大事なんだからね!」

 

「俺はもう薄暗い鉄火場にだけ籠っていたいです……いやそれはそれで命の危機が……しかし……」

 

「また訳の分からん事いってるわねぇ……」

 

 だってえ!

 

 そんな事言われてもさぁ……。そ、それにすっかり忘れてたけど、こんな服持ってる事をマリアさんに知られたら……! 「破廉恥です、没収!」とかになったりするかも……いやそれはそれでいいか。

 

 むしろそっちの方が望ましくない? 一考の余地はあるか……?

 

「ふふふ……」

 

『ぶひぃん』*4

 

 お、相棒もいい考えだと思うか? だよねー!

 

「……また比瑪ちゃんがアホな事考えてる気配が……まあ、いっか。それで、次はどうしようか、何かリクエストはある?」

 

「んーと……お腹はすいてるけど……」

 

 時計を確認すると時刻はちょうどお昼。ご飯にはちょうどいいが、問題は今から並ぶと大分遅くなるという事だ。それに人の多い所に長時間滞在するのもあまりよろしくはない。

 

「……ちょっと、ぶらついて屋台の軽食で時間を潰さない? 人が減ったら、レストランに行こうよ」

 

「ん、意義ナーシ。それでいきましょ。何食べる?」

 

「軽い物がいいなぁ……お昼時で人が居なさそうだし、クレープとかどう?」

 

 こう、塩バターのみとかキャラメルのみとか、そういう生地だけ食べる奴ならお腹にもたまらないでしょ。本物の女子高生ならいざ知らず、エージェントとして鍛えた僕らは消費カロリーもそれなりに大きいし。

 

「悪くないわね。そうしましょうか」

 

「わーい」

 

 目的が定まって、店先の怪談を降りる。

 

 そのさなか、僕らの前方を一組のカップルが横切った。中年の紳士と、その傍らに寄り添う同い年ぐらいの女の子。女の子はおじさんの腕を取って親密そうに胸に抱いている。

 

 ……一瞬、ちょっとよろしくない想像が頭をよぎったが、まあ、人には人の事情がある。首を突っ込まないでおこう、そういうのは僕らの仕事ではないし。

 

 しかし真昼間からかあ、と二人の背を視線で追っていると、不意に僕の腕もがっしと誰かに掴まれた。

 

「え?」

 

「ちょっと気が変わったわ。衣装選びで疲れたし、歩き回らずにちょっと休憩していきましょう」

 

「え? え?」

 

 そしてそのまま、来夢さんは有無を言わさず、僕を引きずっていくのであった。

 

 年の差カップルの後ろを追うようにして。

 

 

*1
(副音声:残念だったね野生の鬼百合。なお俺っちは影から生着替えをいくらでも見放題、お前さんとは立ってるステージが違うのだよステージが)

*2
(副音声:まーたマイハニーが錯乱してる……。それいったら人間なんて全身急所じゃん? まあマイハニーは全身麗しいんだけどね、ぺろぺろしたい)

*3
(副音声:マイハニーったら、この期に及んでまだ男に戻れると思ってるんだ……。まあそんな所がいいんだけど。空回りする無駄な努力って見てて楽しいよね、げへへへ)

*4
(副音声:まーたマイラブリーガールが自分から熊の巣に忍び込もうとしてる……はちみつ塗りたくるだけでは足りない? 自ら鮭も抱えていくスタイル? 焚火に飛び込んだ野兎もびっくりのおもてなし精神だね)

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