相棒が僕を邪な目で見てるとかそんなのナイナイ!   作:邪神ナイナイ

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第六話 血の逢瀬

 

 

「ちょ、ちょっと……?!」

 

 来夢さんに引きずられていく僕。彼女はニコニコした笑顔を張り付けたまま、僕の言葉に応えようとはしない。

 

 そして進む先には、寄り添って歩く年の差カップル。二人はやがて、通りの裏路地にある建物の中に姿を消していく。

 

 その入り口にかかる、曰くありげなデザインの看板。

 

 そう、そこは所謂ラブホテル、という奴である。

 

「え、ちょ、来夢さん?? 休憩って、まさか……」

 

「あら、他に何かある?」

 

「い、いや、ちょ。え?!」

 

 困惑している僕をよそに、ちゃっちゃと部屋を選んでいる来夢さん。まって、なんでそんなに手慣れてるの!?

 

 流されるがままに、気が付けば僕はエレベーターに連れ込まれていた。同じエレベーターには、例の年の差カップル。僕は気まずさを覚えて、部屋の隅っこで息を潜めた。

 

 え、何、これどういう状況?

 

 街で遊ぼうって、つまりそういう意味!? このまま、大人の階段上っちゃうの!?

 

 混乱のあまり思考がとまっている僕を他所に、現実はしかし淡々と時間を進める。

 

 チン、と音を立ててエレベーターがとまる。

 

 そそくさと出ていくカップル。その後を追う様に、来夢さんは僕の手を掴んでひっぱった。

 

 扉の並ぶ廊下を歩き、カップルを尻目に選択した扉の前に。

 

「はわわ……」

 

 そして、部屋に入る。

 

 連れ込まれた部屋は、真っ白な壁のおしゃれな部屋だった。

 

 ここらラブホだなんて思えない……なんて見まわしていた僕は、ベッドの前に透明なガラスの衝立があって、その中がシャワールームになっているのを見て目をひんむいた。

 

 前言撤回! ここ、まともな宿泊設備じゃないー!

 

 困惑していると、背後で荷物を床に落とす音と、衣擦れの音。

 

 ま、まさか、連れ込んで早速!? べ、別に操を立てる相手が居る訳じゃないけど、そんな、女の子同士だなんて……! だ、大体、僕は精神男の子~~!!

 

「ひ、ひぃん、ら、来夢さん、お、俺をこんな所に連れ込んで一体…………ん?」

 

 ドキドキしながら振り返る僕。

 

 が、そこに居たのは、エージェントの顔で、カバンを広げて装備を整えている来夢さんの姿だった。

 

 あれ?

 

 どゆこと?

 

「はひ?」

 

「……本当に気が付いてなかったの? あきれた……ちょっとたるんでるんじゃない?」

 

「…………はひ。すいません……」

 

 なんだかよくわからないが凄く罵倒されている気がして僕はしゅんと頭を下げた。

 

 一方、来夢さんは武装のチェックをしながら、どこかへスマホで連絡中だ。画面の中で文字情報がやり取りされる傍ら、じゃきん、とハンドガンにマガジンをセットする。

 

「さっきのカップルの女の方。組織で、指名手配がかかってるヤバイ奴よ。容疑は、遺産の無断使用。“ジャバウォオックの鋏”って呼ばれてる呪物で、既に4名もの男性が殺害されている。いずれも現場はラブホテルの一室。援交だかパパ活だかを装って大人を誘って、ラブホで生気を奪った後に殺害。典型的な、魔剣型殺人犯ね」

 

「え……!?」

 

 困惑から一転、聞かされた僕にも緊張が満ちる。

 

 連続……殺人犯!? あの女の子が?!

 

「遺産を用いた殺人事件は“事象泡沫化”の影響で普通の警察には追跡できない。テレビニュースにもなってないはずよ。比瑪ちゃんもエージェントの一角なら、ちゃんとそういった情報に目を通しておきなさい」

 

「はい……申し開きようもありません……」

 

 しょんぼりしながら、僕も準備を整える。そういう事なら、急がないと隣の男性が危ない。

 

「相棒」

 

『ぶるぅん』*1

 

 指示を出すと、影からでろり、と緑色の粘液に塗れた僕のアタッシュケースが排出される。たちまちしゅわしゅわと乾いていく粘液を拭って、ケースの中身を検める。

 

 よし、いつもの装備一式。服を脱いで、ボディースーツに袖を通し、偽装制服の下にナイフとハンドガン、マガジンを吊るす。

 

 メインアームは……目立つから置いておこう。どのみち市街地では迂闊に発砲できない。

 

 僕が着替え終わると、来夢さんも丁度準備を終えたようだ。

 

 サプレッサー付きのハンドガンを手にした彼女は、認識阻害装置のついたサングラスをつけている。僕もそれに倣て、バイザーを被る。

 

「本部には通達済みだけど、応援までは待てないわ。逃亡阻止に回ってもらう。……いくわよ」

 

「ラジャー」

 

 

 

 

 

「記録(ログ)開始。実働隊員(エージェント)、黒川比瑪。時刻(レコード)1257」

 

 来夢さんに続いて、部屋を抜け出す。

 

「作戦主目標(メインミッション)、指名手配中の連続殺人犯の拘束(バインド)。及び、殺害(キル)。補助目標(サブミッション)として、巻き込まれた成人男性の保護(レスキュー)」

 

 例のカップルが入っていったのは313号室。物音を立てないように廊下に出て、壁に身を寄せる。番号を確認、間違いない。

 

「時刻(レコード)1258、確認。作戦開始(ミッションスタート)」

 

「比瑪ちゃん、それわざわざやってんの? 物好きねえ」

 

「い、いいじゃんべつに、ほら、行くよ」

 

 部屋の前に待機し、インタフォンを鳴らす。

 

 ……反応がない。

 

「ちっ」

 

「俺がやります」

 

 ドアノブに銃を向けた来夢さんを静止し、僕はドアの前に立つ。自分の影が、ドアの向こうに入るように……扉の向こうで、ずるずると相棒の触手が這い出す気配。

 

 こういう時便利だよなあ、お前。おまけに以心伝心、流石相棒。

 

『ぶひぃん』*2

 

 ガチン、と扉の向こうで金属が動く音。

 

「解錠(アンロック)」

 

「よし」

 

 顔を見合わせて呼吸を整え、一息に動く。最低限開いたドアの隙間から、前転するように飛び込んでいく来夢さん……僕は小走りでその後に続く。

 

 二人そろって室内に銃を向けて警告。

 

「動くな!」

 

「……っ!」

 

 マグライトが、ピンク色に照らされる室内を照らしだす。同時に、鼻を衝く鉄の匂い。

 

 遅かった。

 

 ベッドの上で、半裸の男性が横たわっている。首元を中心に赤く染めている彼に走り寄り、救命を試みようとするが……駄目だった。

 

 首を、鋭利な刃物でざっくりと切られている。どんな名医でも、これは助けられない。

 

 死因は恐らく大量出血によるショック死。目を見開いたまま事切れている男性の目を閉じてやり、僕は周囲を警戒した。

 

 犯人はどこに?

 

「記録(ログ)。要救助対象の絶命(ロスト)を確認。補助目標(サブミッション)の達成はならず。標的の探索を続行する……来夢さん! そっちはどう!?」

 

「比瑪ちゃん、こっちに。どうやら、私達の事に感づいて、逃亡を図ったみたいね」

 

「浴室の窓から……!」

 

 シャワーを流したままの浴室。開け放たれた窓からは、ビルの合間の狭い空間が見えた。灰色に汚れたこの壁を、犯人は駆け上がって屋上に逃げたらしい。

 

 向かいの壁には、まだ濡れた足跡の痕跡が残っている。まだ逃げてそう立っていない。

 

「記録(ログ)、標的の逃亡(エスケープ)を確認」

 

「追うわよ!」

 

 言うなり窓から飛び出し、壁を三角蹴りの要領で駆けのぼっていく来夢さん。が、僕はそんな器用な事は出来ない。どんどん上に昇っていく彼女の姿を窓から見上げてあわあわしたあげく、恥を承知で僕は影に呼びかけた。

 

「標的を追跡(チェイス)……ご、ごめん、相棒、よろしく!」

 

『ブルル』*3

 

 影から実体化した相棒が馬の形を取るなり、その首元にしっかりと抱き着く。ひひん、と小さく嘶くと、相棒は窓から飛び出し、軽々と屋上まで駆け上っていった。

 

 ぴょーん、と飛び出した相棒が、着地と同時に影に溶け込むようにして姿を消す。なんとか屋上に足を落ち着けた僕は、ふぅ、と息を吐いて先行する二人の姿を探した。

 

 あ、いた。二つ隣のビルの屋上で、交差する少女の影。

 

「ちっ、大人しくしなさいっての!」

 

「……!」

 

 ナイフと刃物が切り結ぶ。火花を散らしながら、二人の少女が凌ぎを削っていた。

 

 殺人犯の少女が手にしているのは、大きな園芸鋏のような凶器。血に染まったあれが、“ジャバウォックの鋏”という奴だろうか。確かに遠目で見ても、不吉で、不気味な感じがする。

 

 少女は手にした鋏を大きく振り回し、来夢さんに切りかかる。

 

 一方、来夢さんはナイフを逆手に構えたスタイルで、質量に勝る相手の動きを巧みに受け流していた。素人剥き出しの殺人犯に対して、彼女の動きはプロの軍人のそれだ。

 

 勝負はすぐに決した。

 

 大振りの隙をついて、来夢さんが少女に組み付く。ナイフを大胆に投げ捨てて、不意を突かれた少女の手を取り、屋上に押さえ込んだ。

 

 鋏を持つ左手、関節が完全に決まっている。人間では、あそこから逆転するのは不可能だ。

 

「よしっ! 流石来夢さん!」

 

「遅いわよ比瑪ちゃん!」

 

 犯人の少女を押さえつけたまま、来夢さんが僕を見て呆れたように怒鳴る。

 

 ごめんなさい……。

 

 で、でも流石だ、凄いな! 一瞬の早業だった!

 

 こういう風に僕もなりたいなあ、と思いつつ、拘束用のバンドを取り出しながら彼女の元に向かう。

 

「まってて、今、拘束するから」

 

「急いでね。って、こら。いつまで抵抗してんの、諦めなさい! いくら暴れても、ここから、逆転、は……」

 

 尻すぼみに来夢さんの言葉が小さくなる。

 

 僕もまた言葉を失う。

 

 完全に関節を極められ、屋上に引き倒された犯人。その状態から、少しずつ、彼女の体が起き上がる。その腕を極めた来夢さんの、決して軽くはないの体が宙に浮く。

 

 信じられない。関節技食らった激痛の中で、無理やり体を引き起こす!? どういう根性と筋力……いや、もうそういうレベルじゃない!

 

「来夢さん、逃げて!」

 

 

 

*1
(副音声:ちぇ、ちょっとは期待してたのに……まあいいや、血沸き肉躍る展開には違いないもんね! あいよ、装備一式、まいど!)

*2
(副音声:そりゃあ、マイスウィードガールのお願いなんて、俺っちはいくらでも受け付けてるよん! 今日はがっかりだったが、その埋め合わせを俺っちに求めるならいつだって大歓迎! にひひひ)

*3
(副音声:え、俺っちの出番? やったー、全身使ってしっかり抱き着いてくれよ、首元に!)

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