この春高校に入学した圭介と沙也加は幼馴染である。今日もいつもと変わらず沙也加の家に集まって登校をしていた。沙也加の母親である志織さんとの仲も良好。そんな時、圭介と志織さんが入れ替わってしまう事態が発生し……

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第1話

 

「おっはよー、圭介!今日もいい天気だねー。」

「おはよー、今日も元気だな。」

「なんか圭介っていつも朝はクールな感じだよね。」

「朝は苦手だからよ、この世で朝日が一番憎い。」

「なにそれw、厨二病?w」

「そろそろ完治して欲しいと思うけど、特効薬がないね。」

「あんまり変なこと言ってると友達できないよ?w」

「おう、心配してくれてどーも。」

 

この春、俺と沙也加は同じ高校に入学した。沙也加とは幼稚園からの幼馴染で、よく知っている仲だ。まあ、俺自身は多少の恋愛感情を持ったことがあるが、本人はあまり俺に対してそのような気持ちは無い様子だ。仕方ない、なんせ小学5年生まで一緒に風呂に入ってたくらいだ。その年で風呂に入るなんて、普通はあり得ないと思う。それくらいお互いに意識はしていなかったということだ。一緒に入ることをやめたのも、俺が習い事を始めて夜の帰りが遅くなってしまったからだ。だから、別に喧嘩したとか気まずくなったわけでは無い。

 

「沙也加ー、忘れ物はないね?お弁当の中に箸は入れた?」

「ちゃんと入れたよー!ありがとう、お母さん!」

 

玄関先で話していると、沙也加の母さん、志織さんが出てきた。志織さんとも長い付き合いだ。俺の両親が留守の時は、夜ご飯を食べさせてくれたり、宿題を見てくれたり、当然お風呂も用意してくれたり、時には泊まったこともある。俺にとっては第二の母親と言ってもいいだろう。それに、俺の母さんよりも若々しい。年齢は同じくらいだが、スタイルが良く、肌も綺麗でいつもおしゃれだ。それに優しい。おっとりした雰囲気と母親らしい、娘への愛情と気遣いを感じる。何度、俺の母親になってくれと思ったことか。

 

 

「はいねー!圭介くんも沙也加のこと頼んだよー。」

「はーい、しっかり面倒みてやりますよー。」

「何それムカつくー!ウザー!」

「はいはい、2人とも気をつけて行ってきてね!」

「「行ってきます!」」

 

 

今朝も、途中までは一緒に登校する。沙也加はおそらく女友達が合流する。それまでは俺が一緒だ。別に恋バナをするわけでもなく、沢山話すわけでもなく、ただ家が隣で通う高校が同じというだけだ。

 

「あ、咲だ!おはよー!!」

「お、沙也加!おっはよー!」

「ねえねえ、昨日のドラマ見た?めっちゃ展開良かったよね!私、ずっとキュンキュンしちゃったよー。」

 

沙也加が友達と合流をしたようだ。俺はその瞬間に早歩きになり、距離を取る。あくまでも途中まで一緒にいく仲に過ぎない。友達とのおしゃべりに水を差すわけにもいかない。そんな感じで俺は先に校舎に入った。

 

「おはよ、健人。」

「おはよー、圭介!相変わらず朝はクールだなw」

「朝日が憎いだけだよ。」

「まーた変なこと言ってるw」

「悪かったな、変なこと言って。」

「まあ、なんでもいいけどw。それより、今日の一限の事前課題写させてくれない?全然終わらなくてヤバいんだよ!」

「わーかった。はい、ノートのここ。あと30分あるからいけるっしょ。」

「ありがとう!めっちゃ助かるぜ!」

 

そんな感じで俺の一日が始まった。いつもと変わらない日常、友達と喋って、授業を受け、それなりに楽しく過ごした。異変が起きたのは、その日の夕方だった。

 

「あ、圭介くん。お帰りなさーい。今帰り?」

「はい、ちょうど今帰ってきました。」

 

家路についた時、志織さんと一緒になった。パートの帰りだろう。買い物袋を提げながら歩いていた。

 

「そうなんだー。圭介くん、時間あるなら少し家に寄ってく?親戚からお菓子を沢山もらったんだけど、食べきれなくって。」

「いいんですか!?是非とも!お腹空いてたんですよー。」

「まあ!それは良かったわ!お茶も淹れるからゆっくりしていってね!」

「よろしくお願いします!」

 

そう2人で話しながら歩いていた。その時、空が急に暗くなってきた。夕立なのか、遠くで雷の音がゴロゴロ聞こえてくる。

 

「なんか急に暗くなってきましたね。降る前に家に入っちゃいましょう。」

「そうね、急ぎましょう。」

 

次の瞬間、ピカッと光る───

 

 

バリ……ッ!ゴロゴロゴロ────ッ!!

 

 

光ってから音が鳴るまで、ほぼ同時だった。近くに雷が落ちたのだろう。驚いてしまい、よろけて体勢を崩した。

 

「大丈夫ですか?志織さん。」

「ええ、大丈夫よ。今すごく近かったわね。」

「そうですね。…って、え?」

 

おかしい、俺の声がすごく高い。女の人の声だ。と言うか、これって志織さんの声じゃないか?なんで自分の口から志織さんの声がするんだ?てか、視界が狭い?あれれ、髪が長くなってる!!

 

「どうなっているんだ!?」

「け、圭介くん!も、もしかして、私たち入れ替わってるー!?」

「うわっ!マジで入れ替わってるじゃないですかー!!こんなの映画とかでしか見たことないですよー!!」

「お、落ち着いて圭介くん!確かにそうかもしれないけど、雷のせいで気を失って夢を見てるのかも!」

「あ、そうか!ならちょっと頬をつねってみますか!」

 

そう言うと、お互いに自分の頬をつねた。めっちゃ痛かった。

 

「痛っっ!!」

「痛いー!これは現実だねー!」

「マジですか!こんなことってあり得るのか…」

「うん…現実だね…」

「どうしますか?」

「とりあえず、私の家に行きましょう?」

「そ、そうですね。まずはそうしますか。」

 

現状の確認と今後のことを話し合うため、志織さんの家に向かった。というか、今は俺の家になるのか?ともかく急いだ。

 

…って、走りにくい!!志織さんって胸大きいし、ロングスカートだから走るのに向いていない!それに仕事終わって髪を結んで無いから、走るたびに髪が揺れて気になる!買い物袋を肩にさげてるから、両手が使えなくて早く走れない!

 

「ごめんねー。私胸大きいし、髪解いてて袋もあるから走りにくいよね…」

「大丈夫です!頑張ります!」

「そんなに距離無いし、ゆっくりでいいからねー。」

「お気遣いありがとうございます!」

 

そう言いながらも、早歩きで志織さんの家に向かった。この時、無意識に女の子走りになっていたことに気づいていなかった。

 

「やっと着いたー。」

「着きましたねー。短い距離ですけど、長く感じましたよ。」

「汗かいちゃったよね、タオル持ってくるよ。」

「すみません、お願いします。」

 

そう言って志織さん、今は俺の姿だが、タオルを取りに行った。しかし、すぐには戻ってこないので、様子を見に行った。そこでは、タオルの場所を探しているが見つけられない俺の姿があった。

 

「んー?ここだったと思うんだけどなー。」

「見つかりませんか?」

「そうなんだよー。自分の家なのにね。おっかしーなー。」

「そうなんですね、まあゆっくり探してもらえればいいですよ。」

 

そう言いながら、洗面台や棚を見ていく。すると、見覚えのある棚があった。もしやと思い、開けてみる。すると、タオルが入っていた。

 

「あ、タオルありましたよ!」

「ありがとうー!なんでわかんなくなっちゃったんだろう?」

「どうしてですかね?俺もなんでタオルの場所わかったのか謎です。」

「前から知ってたっけ?」

「いえ、そこまでは知らないですよ。」

 

どうしてタオルの場所がわかったのか、不思議であった。まるで、前から知っていたような感じだった。少し、ゾクっとした。寒さではなく、奥の方から来る恐怖のようなものだった。

そう考えると余計に汗が出た。素早く汗を拭く。

 

「いやー、暑いですね。」

「そうだね、変な汗かいちゃうよね。」

「そう言えば、もうそろそろ沙也加が帰ってくる時間じゃないですか?」

「あれー?そうかー。ご飯作らないとなー。」

「手伝いますよ、その方が早いですよ。」

「いいってー!さっき言ってたお菓子食べてて!お茶も淹れるから!」

「すみません、お願いします。」

 

俺の体の志織さんがエプロンを着て、料理を始めた。俺はお茶を淹れてお菓子でも食べよう。ここの棚から急須を取ってと…

 

…って、ん!?なんで俺、ごく自然な流れで急須を探して、自然な流れでお湯を沸かしてる!?急須の場所なんて、何度もお邪魔してるけど、そこまでは知らないのに。もしかして、志織さんの記憶が混ざってきている?そんなことを思っていたら、キッチンの志織さんが声を出した。

 

「指切っちゃったー。いつもみたいにやってるんだけどなー。それに料理の手順があんまり思い出せないなー。」

「大丈夫ですか!?絆創膏探してきます!」

「確かあっちの、テレビの隣の棚に救急箱があったと思う!」

「わかりました!」

 

俺は志織さんが指定した棚を探し始めた。しかし、救急箱は無かった。あったのは、俺と沙也加が小さい時に撮った写真だった。そう言えば、前はこの棚に写真が飾ってあったことを思い出した。この時、俺は無意識に髪を耳にかけたり、しゃがむ時には内股になっていたが、気づいていなかった。

 

ふと、棚の裏の棚を見た時、箱のような物を見つけた。手書きで救急箱と書いてあり、中には絆創膏が入っていた。なんとなく、この手書きは自分が書いたような気がする。そんなはずないのに。この箱に気づいたのも、置いた記憶があるような気がしたからだ。

 

「絆創膏ありましたね、テレビの隣とは違いましたが。」

「ありがとうー。血は止まってきたけど、水が染みるからね。」

「そう言えば、テレビの隣には昔沙也加と撮った写真がありましたね。」

「あー!懐かしいな!確か、この時沙也加が手を繋いでくれたんだよな。」

「ええ?志織さんそのこと知ってるんですか?」

「え?これは沙也加との2人の秘密なんだけど、まあ時間経ってるし、言ってもいいかー。」

「待ってください!そのこと志織さんが知ってるのも変なんですけど、俺の身体になっている志織さんが俺の記憶と混ざってきている気がして。タオルや救急箱の場所がわからないこと、料理の手順が出てこないくてうっかり指切っちゃうのも、俺の記憶が入ってきて志織さん本人の記憶が薄れてきているってことではないでしょうか!?」

 

俺は焦った。志織さんが段々と俺に染まってきている。話し方だけでなく、記憶や仕草についてもだ。少し前までは、女性らしい座り方や立ち方だったが、ついさっきは股を開いたり、包丁の使い方が少し雑だった。

と言うことは、俺も志織さんに染まり始めている。タオルや急須の場所がわかったり、知らなかったはずのお茶の淹れ方が、教わることなく自然にできた。それに、段々と男っぽく話すことに違和感を覚えてきた。

 

「んー。難しいことはわかんないけど、その通りかもな。もう喋り方が圭介くん、いや俺の喋り方の方が自然になってきたかな。前の俺、志織のようには話せないかも。なんとなく、そうなのかなって思ってた。」

「やっぱり、気づいていたんですね。志織さんも記憶が混ざってきたことに。」

「薄々とはね。それに、この家に入った時に沙也加のいる部屋のことを考えたら、少しドキッとした。それは俺が、圭介くんが沙也加のことを内心は好きな気持ちがあることの表れ。気づいていなかったかもしれないけど、沙也加はずっと圭介くんのことが好きだったんだよ。なかなか恥ずかしくて言えてないみたいだけど。」

 

まさか、こんなタイミングで沙也加の気持ちを知るとは思ってもなかった。でも、同時に安心した気持ちがあった。あの子、ちゃんと圭介くんのこと好きだったんだ。だったら早く告白しちゃえばいいのにっ!いくからでもタイミングあったでしょー。母親ながら娘の恋心にドギマギしてしまった。…って、ええ!?

 

「私、いま初めて沙也加の気持ちを知って自分のこと母親だって思っちゃって…。てか、今自分のこと私って言ってる!?」

「圭介くん、いえ志織さんも本格的に精神が変化して来たね。おそらく、この変化を加速させるものは沙也加の恋心への関心。今、沙也加の気持ちを知って恋人になりたいとか、楽しいことをしたいとかではなく、親として応援したい気持ちが高まったと思う。それが強くなれば強くなるほど、あなたは志織になる。」

「そんなことって…。ま、まあ。確かにあの子がちゃんと圭介くんのことが好きってことを知れて安心したし、それだったら応援したいって思ったよ?それは母親として当然だし!ってまた志織さんみたいになってる!?そ、それにさっきの写真を隠れたところに置いたのも、沙也加が恥ずかしいって言うから。折角の写真なんだから片付けるのは勿体ないから見えないとこに私が置いたんだよ?ってこれも志織さんの記憶じゃん!」

 

私は座りながら、志織さんに自分が染まっていくことに抗っていた。しかし、沙也加が圭介くんのことを好きってことを応援したくなる気持ちが大きくなっていき、どんどん志織さんになっていく。内股で座ってしまうし、手を胸の前に合わせてしまうし、自然に髪を耳にかけたりする。

 

「志織さん。俺は今日、沙也加に告白します。圭介として、沙也加を幸せにしてやりたいと思います。ですから、このまま待っててもいいですか?」

「ええ!?いきなりじゃないかな?と言うか、それは本当は私がやるはずだったのに…」

「もう、志織さんにはできませんよ。俺が代わりにやります。応援してください、お願いします。」

「も、もう!そんなこと言われたら応援しちゃうじゃない!頑張れ圭介くん!」

「ありがとうございます!なので、このままリビングで過ごさせてもらいます。」

「わかったわ!私は料理の続きをやってるから、お菓子食べてて!さっき淹れたお茶冷めちゃったから、新しいの淹れるね!」

「はーい!」

 

私は胸の鼓動が抑えられないくらい嬉しかった。娘が、この後好きな男子に告白され、ほぼ成功が確定しているのだ。こんなの応援するに決まってるじゃない!!私は背中まである髪を結んでエプロンを着た。

 

「今日は沙也加の好きな唐揚げにしようかしら!」

 

私は鼻歌を歌いながら、唐揚げの下準備に取り掛かった。

 


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