オリジナル要素あります。ご注意下さい。
彼は足早に地下道に入る。0時を回った地下道は薄暗く、人通りも滅多だ。
しばらく歩いていくと、評議会の正門の丁度真下、地下にあるセキュリティゲートに辿り着いた。窓口を覗くが、人はいない。
0時を回っていた為、彼が評議会に用がある時にしょっちゅう会う生徒はその場にいなかった。尤も、0時を回って尚職場に居ざるを得ないようでは相当
仕方がない為、彼は別の方法で評議会に入ることにした。
「え〜っとこれだったっけ」
首にぶら下げた名札をセキュリティゲートの読取部にかざす。そうするとフラップが開き、評議会への道が開く。
カヲルは受付への道を急ぎながら、左手につけた時計を見る。
「もう0時半…早く帰って寝ないと」
彼は足早に受付へ急いだ。
角を何度か曲がると、受付に着いた。
すると…
「ムニャムニャ…」
寝ている警備員の生徒が、パイプ椅子に座っているのを見つけた。
「…ごめんくださ〜い」
近くで囁くが、反応はない。仕方がないので、肩を持って揺さぶる。
ゆさゆさ
「うーんこんな時間にだれ…」
彼女は起きた。
「え…あ…学長!?」
めちゃくちゃ動揺しながら。
「すまんなこんな時間に…睡眠、邪魔してごめん」
「い、いえ‼︎全然邪魔じゃないです!?それにこんな時間に何の用が…」
彼は思い出す。右手に携えていた書類を。
「あっやっべそうだった」
カヲルは彼女に書類を差し出す。
「これ、遅くなっちゃったけど評議会に提出しといて」
「あっ…はい‼︎」
深夜の割には、すごく元気な挨拶だった。
「やばい…こりゃ今日は25時ベッドダイブコースだ…」
評議会への寄り道を終えたカヲルは、ただ一人アスガルドの執務室へと駆け戻っていた。
遅寝は体に悪いものと知っていたこともあり、急ぐつもりで帰っていたのだ…ふいに、彼は足を止めた。
「……?」
周囲を見渡す。
老朽化した建物に囲われた路地、薄汚れ、夕方の驟雨でインクが溶けたスプレーアートの描かれた外壁を見つめながら、カヲルは口にする。
「……どうした?ツルギ?コハル?」
「…………………‼︎」
「黙ってちゃ話にならん。コソコソと野鼠のように口を塞ぐ必要もない」
「………」
「様子が変だぞ?ツルギにコハル?そんな黙り込む事でもあったのか?」
「……そうだったわよね…先生は……知らない……でも、だからと言って…………!」コハル
「………せん……せい…」ツルギ
「?どうした、そんなに改まって…」カヲル
カヲルは、二人が異常なほどに改まっている事に困惑する。しかし、その理由はすぐに分かった。角から出て来たのは、泣き腫らしたツルギとコハルだった。
「ハスミさんとイチカさんが……」コハル
「へ?ハスミとイチカ?そういや正実の後片付けかなんかに」カヲル
「いや、違う…そうじゃない…そうじゃないんだ…二人は…」ツルギ
「?」
「……攫われた」
「……は?」
カヲルは状況を理解出来ていない。そりゃそうだ。ハスミにイチカ。ツルギやヒナほどでこそないものの、その強さはアスガルドでも上位に位置する二人だ。
「ああ……そういうと思ってたよ」ツルギ
「待て。俺は理解出来ない。ハスミもイチカも、ツルギほどではないが近接含め十二分に強い生徒の一人だ。それが攫われる?冗談じゃな…」
カヲルがそう言いかけたところで、コハルは肩掛けのバックからあるものを取り出す。
「…これ…先生なら何か…分かる?」
そう言いながらコハルが取り出したのは、ジップロックに入れられた折れた杖だった。
「杖…?」
魔導士なら大半が一度は手にする道具、杖。言うなれば魔法の杖だ。
「どうしてこんなんが…」
真っ二つに折れた杖、その持ち手のあたりに描かれた紋様…
「……‼︎」
その瞬間、彼は思い出した。釣り合う二つの秤、そしてその背後に斜めに刺された剣の
「『テミス』の杖と『ユースティティア』の杖は奪われちゃったみたいで…」
「…杖だ」
「?どうしたの?先生?」
「テミスの杖…カタコンベの部屋から盗まれたものだ」
「⁉︎」
カヲルの突然の発言に、二人は吃驚する。
「え⁉︎ええ⁉︎ぬ、盗まれ…」コハル
「どういう事だ先生⁉︎盗まれた?この杖が?」ツルギ
(兎にも角にも、魔法が一気に
「取り敢えず……私の仲間を……」
「…ツルギ」
「公安局治安課の暫定代表として学長に要請する。私の友人であり、上司でもあるハスミとイチカをどうか…助けてくれ」
「わ…私も…ハスミさんとイチカさんの事…お願いする!」
二人は泣きながら懇願する──震え、歯を食いしばり、自身の積み重ねて来た全てを擲って、彼女ら二人はカヲルに向かって必死の叫びを発した。
カヲルはそれに応える。
「分かった…俺が可能な全てを…
「あ…ありがとうございます!」
「か…感謝する!」
二人は笑顔に戻り、再び何処かへ去っていった。
暫くし、人の気配も消えた深夜の道を一人行くカヲル。彼は隠しようがない怒りと後悔に苛まれていた。
マガジンを出し入れしかちゃかちゃと音を立てながら*1一人、怒りを募らせる。
「ありがとうございます!先生」
「あっしらを頼ってな!先生!」
「やっぱり先生は凄いです!私、いつか先生みたいに…」
「こんな私達にも丁寧に教えてくれて…先生は…」
また、守れなかった。彼女らの笑顔を、人生を、安寧を、命を。
一歩一歩と執務室への歩みを進める度に、思い出したくないあの日々が蘇る。
「畜生!血が止まんねぇ!」
「馬鹿なもう助からないぞ!腕吹き飛んでるんだぞ!?」
「██さん…立派な最期でした…」
「もし世界に忘れられても…カヲルくんには、忘れて欲しくないなぁ…」
「お前は違う!人間じゃない!」
「卑怯者!」
「娑婆に戻る?君は娑婆を知っているのか?」
「やっぱすげぇよな…お前…」
「私、こんなになって死ぬなんて嫌だよ…」
「何人殺せば気が済むんだ?」
「何故撤退命令を出した!?」
「親友一人の命と友軍一万の命を天秤にかけろと!?」
込み上げてくる吐き気を飲み込み、頭の中を何年も走り続けるノイズのような存在を振り払おうと、何度頭を振ってもそれはこびり付いて離れない。
「…ああクソ!」
そう口にし、頭に銃口を突きつけ、何度も頭を銃で撃つ。
しかし混血でも一応キヴォトス人。生半可な銃ではないものの、死ぬどころか怪我すらしない。
(畜生!畜生!畜生!)
(何故守れなかった!何故見放した!何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?何故!?)
気付けば彼でさえも抑えきれないほどに、その
「生徒を守れず…仲間も守れず…自分も守れず…か…」
囈言のような言葉が溢れるが、それを聞き取る人間はいない。
仲間が、還っていく……
俺が…意気地なしだから……
██がいなくなった
奴等の魔の手から、俺を守り続け、それに貪られた
俺は██とは違う、俺はいつまでも
俺が守るべきであった、大切な仲間を。
██も…██も…██も…██も…イチカも……ハスミも…………
みんな、守れなかった……
俺が意気地なしからだ………
俺が自分ばっか気にして……
……誰かを守る事を忘れていたからだ…
俺のせいだ…………俺のせいで………
カヲルの神秘は蝕まれ、少しづつ侵されていく。
「…やれやれだ」
彼の呆れたような声が、深夜のキヴォトスに響いた。そしてついに…
「もう決めた。俺は逃げも隠れも怯えもしない。クソ野郎どもめ…
『