イッシュ地方サザナミタウンには富豪の域に達した金持ちたちの別荘がいくつも存在し、イッシュでは『金鳥の寄る辺』と密かに囁かれている。
そして、富豪と波が寄る町サザナミタウンに、とある一軒家がある。端から見たらそこらに点在する数々の別荘となんら変わりないが、その豪邸は毎日灯りが灯っていた。
サザナミタウンで住居を構えるという事実が少しだけ異常だった。しかし、詮索する住人は居ない。ここはあくまでも『金鳥の寄る辺』。他所の卵に触れる愚者は、己が隠した卵も暴かれる。
だがある日、清濁入り混じるその『卵』が孵化を遂げようとしていた。
———
「つうわけや親父。僕は明日旅に出るわ」
「ざけんな却下だ。そのコガネ弁もやめろ」
「ひどいなぁ・・・・・・人の心とかないんか?」
今トレーナーとして産まれようとしている少年の名はホウセン。人生ナメくさってそうな垂れ目碧眼を携えた紫髪ツーブロックの高身長少年である。
彼は弱冠八歳にして、トレーナーズスクールの卒業資格を手にした天才だった。
「第一、この喋り方移ったんはお袋の脚本の読み合わせに付き合ったからやろ。文句ならお袋に言うたら?」
否! 嘘である。この男ホウセンは転生者である。そして関西人ではない! 禪◯直哉ごっこがしたいがために母親が手掛けた脚本の読み合わせをした事実を盾に関西弁フル稼働しているだけである。
「じゃあいい」
そして、ホウセンの父ダイアは重度の愛妻家である。
現金なやっちゃ♪とほくそ笑むホウセンにダイアの鋭利な碧眼が瞬いた。
「だが、旅はダメだ。許可しない」
「なんでや? 旅出るんに必要なんはトレーナーズスクールの卒業証明書だけやろ。あとはポケモンバトル強かったらええやん。・・・・・・僕、在学中に負けたことないで?」
ダイアの強面に青筋が一つ立った。
「・・・・・・2ヶ月前の授業参観は覚えているか?」
「2ヶ月ぅ? そんな昔のこと忘れたわ。それよりどないすれば旅に出してくれるん? 僕そろそろサザンドラとか捕まえたいんやけど?」
ドォン! と床にダイアの鉄拳が叩きつけられた。
ありゃりゃあ、高いフローリング凹ませとるやん。どんな力しとんねん。
「俺は授業参観あの日、バトル実習が観れると聞いて胸が躍った。ホウセン・・・・・・おまえとガントルがどれだけ成長したのかワクワクして仕方なかった!」
———
当日は晴天。そして、ホウセンとホオズキという少年がバトル実習最後のトリだった。
「バッフロン『つるぎのまい』!」
それはトレーナーズスクールの生徒が扱うには育ち過ぎていた。大きく、硬く、大雑把すぎるほどのレベル差が開いていた。
「『てっぺき』」
対してホウセンのガントルも自前で育てたがゆえの自力の強さは持ち合わせていた。なにより色違い! バッフロンとのレベル差は目算で12ほど。だが色違い!
ギャラリーはその異様な光景を虚飾に塗れた声援で盛り上げた。それはホオズキの親が人間社会に多大な影響を与えている会社の社長だったから。
その光景に歯噛みしながらもダイアは息子のホウセンのバトルの行く末を見守っていた。
「ハッ! どれだけ防御上げようが、俺様のバッフロンのレベルとパワーで圧倒してやるぜ。『つるぎのまい』テメェの不敗神話もここまでだホウセンンンンン」
「やかましいねん『てっぺき』」
「『つるぎのまいぃぃぃぃ』! これで俺様のバッフロンの攻撃力は四倍! 一切の死角無し!」
「どうやろな。『ロックオン』」
ガントルはバッフロンに狙いをつけた。拮抗していた防御力と攻撃力に差が生まれた。ホオズキの口角が釣り上がる。
「ホウセン敗れたりぃぃぃぃ! ゆけバッフロン『ばかぢからぁぁぁ』!」
「ブモォォォォォォォ!」
溢れるパワー、力、膂力。フィールドに蹄のクレーターを刻みながら猛進する圧倒的筋肉。
「しっかり避けえや」
「ガトッ」
それはガントルの跳躍にしては跳びすぎていた。0.9m、102kgの鉱石ポケモンが跳べる限界を越えた大雑把すぎる跳躍だった。
「高ッ———」
「———終いや『ボディプレス』」
そして、重力を思い出したかのようにその圧倒的重量がバッフロンに飛来した。
「ガントォォォォ!」
「ブモッホォォォ!? ・・・・・・ゥ、ォ」
「バッフロン戦闘不能。が、ガントルの勝ち! よって、勝者ホウセン」
審判が動揺を押し隠しながらジャッジする。
そこまではなんの問題もなかった。
ダイアは握り拳を作り「やったぞホウセン!」と喜びを露わにした。しかし当の本人は、膝から崩れ落ちるホオズキを冷たい瞳で睨みつけていた。
「な、なぜだ? 俺様はパパからとっておきのバッフロンを借りたのに・・・・・・こうまでしてなんで勝てない!?」
「へえ、とうとう教育も資本主義に負けたんか、笑えるわぁ」
その一言に誰もが言葉を失った。父親であるダイアでさえも、あまりに豹変したホウセン。
「みんな内緒やで? カネモンの七光が親から借りたポケモン腰にぶら下げて威張ってんの・・・・・・ぶっちゃけダサい思てんねん」
「ッ!!」
「ええよなぁ。弱いこと嘆いてるだけで力借りて勝つんやろ? 一周回って哀れやわ。本物の勝利を知らんのやから」
「ぐぅっ!」
「なんや、ポケモン借りて勝つん後ろめたかったん? 安心しぃよ、今回のバトルはオトンから借りたバッフロンやったんやろ?」
周囲の人々がなにも言えず増長していくホウセンの発言。
「せやったらこの敗北も偽モ”———!!」
それを咎めたのはダイアの張り手だった。
ざけんなや げんさくすぎや ドブカスが
———
「バトルは良かった! バトルはな! トレーナーが勝利の口上を切るのはいいが、罵倒していいという意味ではない! 断じてない!」
「そない念押しせんでええやん」
「そのコガネ弁やめろォォォォ!」
とうとうダイアが銀髪を逆立てるほど発狂しそうになったため、ホウセンは直哉ごっこを解除した。
「わかったよ。やめりゃあいいんでしょやめりゃ。ったく、なんだよ八歳が年相応に遊んでなにが悪いんだよ」
「そうかそうか、八歳はまだ旅出ないもんな。これから十歳になるまで仕事で構ってやれなかった分しっかり躾けるから覚悟しろよ」
青筋浮かべたダイアが優しく諭すようにそういった。
「困るよ親父。俺はポケモンリーグで一位になって思い上がりたいんだ」
「言うに事欠いて思い上がるだぁ? そのイカれた思想ごとダーテングの鼻へし折ってやろうか?」
再び拳を握り始めたダイアを前にしてもホウセンの言葉は切実さを込めて続けられる。
「聞いてくれよ親父。最近俺さ、いろんなところで辻バトルするんだけど、手応え全然無いんだよ。きっとこのままダラダラとバトルを続けているとどんなバトルをしたかったかも忘れる気がする」
「なんだよ。嫌に真剣だな。で? それが旅に出ることとどう繋がるんだ?」
「親父はさ。勝ちたいって感情はどうやって生まれると思う?」
「勝ちたい? ・・・・・・まあ、負けたときか」
「やっぱりそう思うよな」
ホウセンはおもむろにガントルの入ったモンスターボールを手にして、それを食い入るように見た。
「ガントルをゲットしたとき、俺はコイツとどんな風に勝ちたいか、どんな風に活躍させるかってアイデアが止まらなかった。だが、最近のバトルは違う。『てっぺき』と『ボディプレス』、これで大抵のポケモンは倒せてしまう。そうしているうちに俺はバトルの最中に退屈を感じるようになった」
「そんな自分が嫌なのか?」
ダイアの問いにホウセンは「あぁ、そうだよ!」と荒々しく肯定した。そのなかにあった思いは、転生して実際に動くポケモンと接して来たからこそ向上したバトルのアドリブ性に捧げられた筋金入りのエンジョイ勢のロマン。
「ロマンがねえ効率化されたバトルなんて俺のやりたいバトルじゃねえ! 人もポケモンも機械じゃねえんだ! この世界だったらドラマティックなバトルは誰でも、どこでも、できるはずなんだよ・・・・・・」
「ホウセンおまえ・・・・・・」
「このままそこら辺のトレーナーとずるずるバトルしても魂が腐っちまう。俺は燃やしたいんだ! 魂燃やすバトルで、ロマン溢れる奇跡を起こしたい!」
対戦で親の顔ほど見たありきたりなポケモンでさえ例外はないと考えていた未知のバトル。だが、その未知を課せるポケモンとトレーナーはそれほど多くは居なかった。
「だから俺は、俺の腐り始めた魂を燃やしてくれるヤツに会いに行く。俺の思い上がった勝利の方程式にXを貰う!」
バトルを主とするトレーナーに宿る燃えるような飢え、それを前にしたダイアはどこか誇らしく思いながらも・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・とんだ思い上がりだな」
心境の大部分を占めていたのは、親としての危機感だった。
「言ってろ。この思い上がりを崩すために旅に出るんだ。邪魔すんなよ親父」
荒々しく告げたホウセンに、ダイアは溜め息を一つ溢して立ち上がり、リビングの端を占領するレベル調整用のゴツイ機械にモンスターボールを一つ置いた。
「・・・・・・親父?」
調整を終えてモンスターボールを片手にダイアはリビングを抜けて玄関の方へ歩いていく。ホウセンは呆気にとられながらもついていく。
玄関ドアを開けた先の向こう側は打ち寄せる波の音と昇りかけの満月が夜を照らしていた。
「ついてこいホウセン。おまえの思い上がった方程式にXをくれてやる」
親としてではなく、一トレーナーとしての挑戦状にホウセンは野生的な笑みを讃えて告げた。
「おもしれえ! やってみろ」
———
(前世のオンライン対戦で、一番おもしろいと思える瞬間はマイナーポケモン使いと対面したときだった。ボールから出た瞬間、思考が止まるあの感覚。厨ポケと対面したときとはまるで違う、星の数ほど浮かぶ選択肢)
サザナミタウンの砂浜は柔らかくも確実に衝撃を吸収する上質な砂で満ちている。
(それを読み切ったとき・・・・・・まるで出来の良い推理小説の謎をストーリーより先に明かした陶酔感がある。あの感覚が好きだった)
二人の足跡が砂浜に浮かんでは波の中へ消えていく。
(戦術のなかに夢があった。バトルを心から楽しむための工夫があった。あれをはじめて体感したとき、俺は自分の生まれた世代がもう少し早ければと悔やんだ)
数々の別荘が二人の視界の端に浮かんでは消えていった。
(俺のポケモン歴はアニメ版はDVDも合わせてアドバンスジェネレーション〜サン&ムーン。ゲーム版はXY〜SV、その世代ではメガシンカやZワザなどの暴力的な強さがモノを言う。それ以前の世代の戦術にはどんな夢があったのか、どんなワザで相手を翻弄していたのか、想像することしかできなかった)
ポケモンセンターの前の砂浜でダイアが止まった。
(でも今は違う。メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタル。まだその存在すら知らないトレーナーが山ほどいる。ダイマックスとテラスタルはもしかしたら知らなくて当然の時代の可能性だってある)
ボールを突き出したダイアに合わせて、ホウセンもガントルの入ったボールを構えた。
(BWはやったことねえから時系列わかんねえが、カミツレなら知ってる。タイムリミットはカミツレがスターになるそのときだ)
「ガントル以外にポケモンは捕まえたのか?」
「いや。コイツほどワクワクできるポケモンはそういねえよ」
「そうか。じゃあ、バトルは一対一だ」
(そのときになるまで俺は、戦略バトルを楽しみ続ける!)
ホウセンの決意と共に賽は投げられた。
「いくぞガントル」
「ガントッ!」
「伸びた鼻っ柱へし折るぞエアームド!」
「エアァァ!」
ホウセンはエアームドを目の当たりにした瞬間、訝しんだ。ダイアがはがねタイプ使いなのはホウセンももちろん知っている。だが、繰り出してきたのはひこう複合のエアームド。しかもレベル調整が為されたそれに、大人特有の子どもに合わせるハンデに思えて仕方なかった。
「いつでも来い。おまえの思い上がりが、どれだけ意味のない虚しい精神性か思い知らせてやる」
ダイアの口上に合わせてエアームドが鳴き声をあげた。
「レベル調整に加えてひこう複合使っておいて・・・・・・思い上がってんのはそっちだろうが! 『てっぺき』」
まずはガントルが防御力を上げた。
「・・・・・・堅実だな。『まきびし』」
(まきびし? 交代なしだぞ?)
ホウセンが抱いた違和感はあっという間に現実となって、ガントルを襲った。
「ガトッ!?」
ガントルが苦しげに前足を上げた。誰の目から見てもダメージを受けていることは一目瞭然だった。
「・・・・・・まさか!」
(ダイパでシンジがやっていたどくびしか! 違うところは時限爆弾のように時間差で炸裂するように仕込まれているところか!)
『まきびし』が炸裂するのに合わせてガントルの鎧が続けて砕けてゆく。
「まずはまきびしを対処するぞ! 『じならし』!」
「ガントォォォォ!」
ガントルが振り下ろした前足から衝撃波が走り、フィールドに散らばっていた『まきびし』が宙に浮かぶ。
「もう対処法を編み出したか」
「『じゅうりょく』」
それは軽くする『じゅうりょく』。ガントルの周囲に低重力空間が生まれ、『まきびし』が宙に浮かぶ。エアームドが制空権を失った。
「ワンテンポ待て・・・・・・低空飛行で『ドリルライナー』」
しかし、ダイアもまたバトルを主とするトレーナーだった。低重力によって浮かんだ『まきびし』は『じならし』の衝撃も相まって、高く飛んでゆく。それを読んだがゆえに『まきびし』が空中に跳ね切ってからの低空飛行だった。
(迷いのない端的で正確な指示! ・・・・・・なんだよ居たじゃねえか)
「『てっぺき』で受け止めろォ!」
(本物のバトルができるヤツがよ!)
ガントルが防御力を上げる。だが、先程の『まきびし』の多段ヒットによって発動されたガントルの『くだけるよろい』はすでに三回。ガントルは一段階アップの防御力でエアームドを受け止めることになった。
「エアァァァ!」
「ガンドォォォォ!?」
(急所に当たりやがったな、こんちくしょうめ!)
さらにガントルの防御力が一段階下がる。しかし、その分素早さは最大まで向上していた。
(『がんじょう』個体の可能性。仮にそうでないにしても、今の防御力で『ボディプレス』してもエアームドを倒しきるには至らない。つか、ワザの制限あるか聞いてなかったぁ。まあ四つだろ。常識的に考えて・・・・・・)
「捕まえて『じならし』!」
エアームドに片足で組み付いたガントルが前足を振り翳す。
(四つ目のワザは安易に使えねえ!)
本来ならひこうタイプのポケモンにじめんタイプのワザは効かない。だがそれはあくまでも、飛んでいるポケモンにじめんタイプの攻撃が当たらないという前提条件の下にある。
「ガントォォォ!」
「エァァァ!?」
エアームドに振り下ろされたガントルの前足から衝撃が走ってエアームドのひこうタイプを無視したダメージが入った。
エアームドのよろいがくだける。
「『くだけるよろい』だと?」
「その通り。俺のエアームドの特性はおまえのガントルと同じ『くだけるよろい』だ」
(なら多段攻撃で防御下げきって倒してやる)
状況が変わった。
「捕まえてろガントル・・・・・・『ロックブラスト』!」
ホウセンは迷いなく最後のワザを使う指示を出した。ガントルの背中から伸びる岩が淡く光る。『ロックブラスト』を放つパワーがじょじょに溜められている。
「今だ。『ドリルライナー』」
刹那。金属を擦るような激しい音がサザナミタウンいっぱいに響き渡った。とんでもない回転を起こしたエアームドがガントルの拘束から悠々と抜けて羽ばたいていく。
(あの打たれ強いガントルが離した!? いや、さっきより回転速度が上がっている。回転数が増したことでガントルの前足の鉱石を削られて隙間ができた。そこから逃げたのか!)
「逃がすなガントル『じゅうりょく』だ!」
ガントルの真上の上空に羽ばたいてゆくエアームドを捕えるために、ガントルが展開したのは超重力。敵味方問わず、全てを対象に倍近くの重力を課す、正当な『じゅうりょく』の扱い方。
ダイアはそれを引き出したかった。
「急降下しつつ『ドリルライナー』」
超重力に引っ張られているはずのエアームドはすでに嘴を下に向けて体勢を整えていた。
(Shit! 誘われたのか!)
ガントルはすでにワザを四つ使い切っている。空中のエアームド相手に適切な迎撃ができるワザは一つ・・・・・・とホウセンは考えた。
「っ! 『ロックブラスト』」
淡いエネルギー波が連続でエアームドに放たれるが、『ドリルライナー』の圧倒的な回転数によって発揮されるパワーに弾かれてしまった。
(バカか俺は!)
「ガントォォォォ!?」
「ガントル!」
サザナミタウンにガントルの断末魔が響いた。羽ばたくエアームドの下に居たのは、戦闘不能に陥って砂に沈むガントルだった。
「負けた?」
「あぁ。ワザ二つ、エアームドが今のおまえを倒すのに必要な力の数だ。だがホウセン、おまえは工夫次第でもっと粘れたはずだ。少なく見積もってワザ三つ・・・・・・授業参観で感じたおまえのバトルセンスには、それだけ必要だと感じていた」
「っ!」
ホウセンは思わず歯をぎしりと鳴らした。
「安易な『てっぺき』が全てのバトル展開の足を引っ張った」
「わかってんだよクソッタレ!」
砂浜にホウセンの膝が沈んで、柔らかいそれにありったけの悔しさを込めた両拳が振り下ろされた。
「クソがァ! なに腑抜けたバトルしてんだよオレェェェ!」
———
ガントルをボールに戻し、昇り切った満月が海を反射したとき、ホウセンはようやく自身が敗北を受け入れたことを自覚した。
「親父、次は勝つ。もうこんな腑抜けたバトルはしねえ」
「ん? あ、あぁわかった」
敗北は良くも悪くも人を変える。ダイアは良い方向へ変えるために、退屈なバトルを忘れさせ、充実した敗北を与えるつもりだった。
だが、しょっぱなの『てっぺき』。『まきびし』を処理する方法を即座に思いついたホウセンのバトルセンス。『くだけるよろい』の弱点を突くための『ロックブラスト』が、ホウセンに不甲斐無さを自覚させた。
ワザ二つの件は言い過ぎたとダイアは反省する。親ではなく一トレーナーとしてどうしても看過できなかった。
「俺・・・・・・親父に勝つまで旅に出ないよ」
「そうかそう———なに?」
「一週間に一回、レベルを統一して俺とバトルをしてくれ。一週間以内に親父のポケモンに勝てる方法、もしくはポケモンを見繕ってゲットしてくる」
「おいおい」
「バトルに出すポケモンの数は俺に合わせてもらう。一体なら一体。二体なら二体でバトルする」
ダイアは呑まれていた。ホウセンが放つ覇気に。
「わかった。だが、十歳になるまでだ。十歳の誕生日を迎えるまでに勝てなかったら家を追い出す。それまでに・・・・・・俺を倒して旅に出ろ」
「OK。その条件でノッた!」
気がつけばダイアは好戦的に笑うホウセンにのせられていた。
その選択を後悔し始めたのは、帰路についたときだった。「俺一人でポケモンセンター行ってるから、先に帰ってくれ」とホウセンが言ったため、一人で歩く空間が仕上がり、自問自答する時間が増えた。
ホウセンに与えられた二年というアドバンテージ。その二年を棒に振る可能性が出てきたことに密かな後悔を抱いていた。ダイアとしては、バトル中の言動に不安を持っただけだったため、ある程度の礼儀作法さえ教えればそれで良かった。
「どうするっかね〜」
しかし、どんな角度から考えても、結局は一人のトレーナーとして手加減はしないという結論だけが残った。
———
テンテンテレレン♪
ポケモンセンターを出てホウセンが向かったのは自宅ではなく波打ち際だった。
「ガントル、少し話そうか」
「ガント」
ボールからガントルを出して、砂浜に座る。
「俺たちははじめて負けた」
「ガト(首肯)」
「しかも俺たちが憧れたアドリブ塗れのバトルでだ。これほどの衝撃はお袋が“11で俺を産んだ”って聞かされたとき以来だ。親父もとんだプレイボーイだったらしい」
「ガ、ント?(マジで?)」
「で、だ。俺たちもプレイボーイにならなくちゃいけねえ。親父に勝つためにおまえはこれからギガイアスになる」
「ガ、ガント(待て話についていけない)」
「そして、おまえの特性は『すなおこし』へと変わる」
「ガン、ト(あっはい)」
「正直、この世界で“ガントルの『くだけるよろい』”を上手く使えるイメージがつきそうにない」
「ガント(返事)」
「どうだガントル。おまえはギガイアスになってくれるか?」
「ガントォ!(首肯)」
「よし! お袋に協力してもらっておまえがギガイアスになったら、チャンピオンロードの洞窟外の崖に行く。狙いはドテッコツ」