ホウセンの旅を賭けたダイアとの最終バトル。
無事に勝利したホウセンだったが、ともに旅に出るはずのカトレアはすでにバッジがあと一つの状態。カトレアはホウセンに合わせて後半シーズンに狙いを絞るつもりだったが、足並みを揃えることにホウセンは強く反発した。
反発を受け、かつてない感情の乱れにトレーナーとしての誇りを忘れかけたカトレアはシキミの説得もあってホウセンとともに強くなり続ける決意の証として、8月30日イッシュ地方最強のジムリーダー“ダイア”に挑むことになった。
———
8月29日、天気は晴れ。ホウセンの特訓場所はいつも通り浜辺。
「次は俺が力を貸す番だカトレア。全力でサポートする」
「ゾロッ」
痛々しい青痣は短期間で肌色を取り戻し、ホウセンの折れていたはずの右腕にはあるポケモンが掴まっていた。
「え・・・・・・あの、そのゾロア、見た目が少し・・・・・・というよりいつの間にそんなに仲良く?」
「コイツは俺の妹だ」
「ゾロ!」
「なに言ってるのアナタ?」
カトレアは酷く困惑した。“全身が”黒くないゾロアなど見たことも聞いたこともない。しかも黒い部分も若干青みがかったものだった。首回りにはシキミが付けるマフラーと似ている毛が巻かれており、頭頂をゆらゆらと聳り立つ頭髪がゴーストポケモンらしい不気味さを放っている。
———
時は少し遡り早朝。ホウセンは、カトレアのダイア対策を一通り自室で書き残したあと、新たなヒントを探して昨日戦ったバトルフィールドを訪れていた。
「ゾロ(どんなバトルが好みだ?)」
激闘を思い出すように浜辺を歩いているとふと運命がホウセンの眼前に現れた。
「ドラマティックなバトルだ」
ホウセンは驚愕に襲われながらも、語り続けた理想のバトルを一息に口にした。
突如、ゾロアの脳内に溢れ出した存在しない記憶。
『また同族と喧嘩したのか?』
『アイツらの言い分はつまらないのさ。相手を一度騙すだけの『イリュージョン』なんて私の求める答えじゃない』
『じゃあおまえはどんな夢を見ているんだ?』
『そうだね。『イリュージョン』を利用した異種格闘技、ワザの姿形を偽る『イリュージョン』。そういうのにロマンを感じる。笑うかい?』
『笑うね。おもしろいじゃねえか!』
『!』
『そうと決まれば特訓だ。おまえの夢を実現するために必要なピースを集めに行くぞ』
『・・・・・・・・・・・・兄貴』
気がつけばゾロアの眼から涙が溢れ出していた。
「ゾロぉ(どんなときも親身に。それがホウセンだったね)」
「? おまえなんで俺の名前を」
「ゾロ(モンスターボールを出しな。今日から私らは兄弟だ)」
———
カトレアはその話でより一層困惑した。ゾロアの脳内を襲った存在しない記憶とはなにか、それ以前にホウセンがなぜゾロアの思考を理解しているのか、初対面で意味がわからないほどに繋がっている二人に・・・・・・少々の嫉妬心が生まれた。
「そう。ゾロア、言っとくけれどアタクシが先だから。抜け駆けは許さなくってよ」
「言われなくても私がブラザーにケツを振ることはないよ。私はホウセンが描く夢を実現するために踏ん張るだけさ」
違和感。
「な・・・・・・なんで喋って!?」
「『イリュージョン』の応用だ。声帯を人のものに近づけ、適切な口内の動きで声を再現する。出会って5分で完成させたことに俺も少なからず驚いている」
「・・・・・・」
最早カトレアに発する言葉は無かった。驚き過ぎてなにも言えなかった。
放心するカトレアを置いておいて、ホウセンは左手にある重ねたA4用紙をホッチキスで留めた資料を覗き、「さて」と本題に入る。
「今回のジム戦でカトレアにとっての一番の泣きどころはキリキザンだ。『バークアウト』で火力を下げられた上で、『まけんき』によって上昇した攻撃力で効果抜群なあくタイプワザを積極的に使ってくるはずだ」
「え・・・・・・ええ」
ようやく思考が切り替わったカトレアは真剣な表情で頷く。
「昨夜教えてもらった手持ちポケモンをもう一度確認するぞ」
ホウセンは手元の資料をカトレアに覗かせながら指をなぞる。
・ランクルス
・シンボラー
・ゴチルゼル
・ムシャーナ
・エルレイド
・メタグロス
「ええ、合ってるわ」
最終確認は済んだ。ホウセンは一つ頷いて、あるモンスターボールに手をかけた。
「シュバッ」
「どうしてダイアさんのシュバルゴが・・・・・・」
「シュバルゴは元々親父が俺のためにゲットしたポケモンだ。訳あって親父に勝つまでは預かってもらってたが、いよいよ解禁だ。テンション上がるぜ!」
「シュバ!」
好戦的な笑みを浮かべたホウセンが、カトレアにポケモンを出してこいとオーラで囁く。
「! ゴチルゼル」
「ルゼ」
浜辺で向かい合う二体のポケモン。
「まずは実践で見せる。好きに攻めてこい」
「シュバ」
シュバルゴが自然体でゴチルゼルの正面に立つ。近接、中距離、遠距離、全ての攻撃が当たる絶妙な立ち位置。
「『サイコキネシス』!」
「ル〜ゼェ」
ゴチルゼルの『サイコキネシス』。しかし、うまく決まらなかった。
カトレアも薄々予想はしていた。『メタルバースト』を使われれば、『サイコキネシス』のエネルギーを吸収され、身体を操るに至らない。
「シュバ!」
シュバルゴの腕が鋼色に輝く。
「っ、これは!」
しかし、シュバルゴの行動はそれで終わることはなかった。
「常々思っていたんだ。シュバルゴにエネルギー弾型の『メタルバースト』は向いてねえんじゃねえかなってよ」
槍のような腕に『メタルバースト』のエネルギーを付与して武器とする、シュバルゴ向きにカスタムした『メタルバースト』。
「だから、エネルギーの吸収をエネルギー弾ではなく、腕全体に指定した。遠距離攻撃こそ不可能になるが、これによりどれだけ攻撃力が下がろうと『メガホーン』の火力はワザを受けるたびに増していく上、『ファストガード』の脊髄反射を利用して理論上どんなワザも防げる」
「っ!!」
戦慄。それ以外の感情が湧かなかった。実際に戦っていたのは確かにホウセンだったが、それでも『こらえる』という絶対的な隙の改善をこんなにも早く仕上げた発想力に、カトレアは背筋に氷を入れられたような衝撃を味わっていた。
「悪い。テンション上がりすぎた。今はカトレアの特訓だったな」
一方、得意気に語ったホウセンはハッとなって、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ウフフ。いえ、いいえ。アナタはやはりアタクシのライバルだと改めて思い知らされたわ」
カトレアにも好戦的な笑みが浮かぶ。どんなアプローチであの『メタルバースト』を崩すか、それを考えている今が楽しかった。ホウセンと出会ってから、カトレアにはバトルで退屈を感じる暇がない。
「そうか」
釣られてホウセンも笑う。彼女との初バトルで感じた切迫した雰囲気がないことに安心した。
「そのまま抱き締めちゃいなよブラザー」
そこでカプ厨ゾロアが顔を出す。ホウセンは一言「揶揄うな」と諌めて、全てのボールを宙に投げる。
「ガイア」
「ダイト」
「アギ」
「ダマ」
ホウセンの全戦力が集結する。
「ギガイアスはナットレイ役、イダイトウはエアームド、アギルダーはドータクン、シュバルゴはキリキザンとボスゴドラを兼任してもらう」
それぞれに役割を振ってなにも言われなかったヒヒダルマが首を傾げる。
「おまえはギギギアル役だ。遠距離ワザの連続攻撃と『とんぼがえり』でギギギアルの『ギアチェンジ』を再現してくれ」
「ダマ!」
頷くヒヒダルマを皮切りにカトレアも全てのボールを空中に投げる。
「出ておいで!」
「ラック」
「ボラ」
「ムシャ」
「エル」
「メタ」
どのポケモンもダイア対策に手を貸してくれた戦友。今度はこっちが助ける番だとホウセンのポケモンたちも気合いを入れる。
「さあ長い一日になるぞ。欠伸をしている暇はねえからな!」
「フフ、素敵な時間がはじまりそうでワクワクしてきちゃう」
———
8月30日、サザナミジム戦当日。
「へえ、この建物が・・・・・・」
ホウセンはその建造物を感慨深気に見上げる。ぱっと見、劇場のそれに近いが建物の中心にはジムであることを示すマークがある。
「なんで気づけなかったんだ・・・・・・」
自身の鈍さに思わず天を仰いだホウセンの背中をカトレアがつつく。
「ダイアさんたちには聞かなかったの?」
「聞こうと思わなかった。物心ついたときから本の虫だったし、5歳のときからポケモンスクールの学生寮に入ってて、親父とお袋に会うときは土日祝だけだった。そのほとんどもお袋に捏造した学生生活の言い訳を話して終わってた」
「・・・・・・大丈夫よ。これから正直に話せる思い出を作っていこうね」
なんだか励まされる自分が情けなくなって、カトレアから顔を逸らしたホウセンは軽く咳払いする。
「今日はおまえが主役だ。これまでの全てを存分にぶつけて来い」
「ウフフ。ええ、後悔のないよう死力を尽くしてくるわ。なにかアドバイスはある?」
逸らされたホウセンの顔を覗き込んで尋ねたカトレアに「じゃあ二つだけ」と断って口にする。
「ポケモンたちには理由のある期待をほどほどに。それと親父には堅実な一手を打たせるバトルを心がけろ。奇策を打つタイミングを見誤るなよ?」
「わかったわ。見ていてホウセン、今度はアタクシがアナタに夢を見せてあげる」
悪戯な笑みを浮かべてカトレアが意気込んだ。
———
「ようこそ、サザナミジムへ」
「急な申し出を受けていただき感謝いたしますダイアさん。今日はアナタの極上な強さを学ばせていただきます」
「だ、だからそんな畏まらなくていいって」
相変わらず上品な口上にたじたじなダイアだったが、一つ深呼吸をすればジムリーダーの顔つきに変わる。
「これよりジムリーダーダイアとチャレンジャーカトレアのバトルをはじめる」
使用ポケモンは3体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能に陥った時点でバトル終了。ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められる。
「んじゃ、両者ポケモンを」
ホウセンの言葉に合わせて、まずはダイアが繰り出した。
「ギギギアル」
「アrr」
「先鋒はギギギアル・・・・・・」
口にして、モンスターボールに手をかけた。
「エレガントに乗り越えましょう、ランクルス!」
「ラック」
(理想的な対面。あとはカトレアとランクルスの我慢がどれだけ続くか・・・・・・)
審判役として立ちながら公平性の欠片もない思考を一旦置いてホウセンが左手を掲げる。
「先攻はチャレンジャー。バトル開始!」
その手がフィールドの中心に振り下ろされた。
「『サイコキネシス』!」
「『ギアチェンジ』」
ランクルスの『サイコキネシス』。ギギギアルは『ギアチェンジ』で射程圏外へ離脱した。
「アrr」
小さな歯車に浮かんだ顔は余裕そのもの。捨て置いた歯車に『サイコキネシス』がヒットするさまを危なげなく見届けている。
「っ、やっぱり速いわね」
ギギギアルの攻撃が上がった。素早さがぐーんと上がった。
(緊急脱出タイプと身代わりタイプの大きな違いは避けるか盾にするかだ。俺とのバトルのときは身代わりタイプを使っていたが、なるほど。範囲攻撃か否かで使い分けているのか)
だが、カトレアの攻撃はまだ続いている。
「そのまま歯車で攻撃よ!」
ランクルスの『サイコキネシス』の対象となった歯車がギギギアルへ向かう。
「『じばそうさ』」
(? ギギギアルが受けに転じた?)
それは本来、『プラス』と『マイナス』の特性を持つポケモンの防御力を上げるワザ。
ギギギアルの『じばそうさ』。『サイコキネシス』で操られた歯車が弾かれた。
「ラクッ"!?」
「え?」
弾かれた歯車がランクルスに直撃する。
(なるほど! 『じばそうさ』というワザが持つ磁力の特性を利用したのか。『ギアチェンジ』で捨てた歯車が持つ磁力とギギギアルの持つ磁力はどちらも同じ・・・・・・ゆえに反発する。そのうえ・・・・・・)
「アrr」
ギギギアルの防御と特防が上がった。
(ギギギアルのステータスがどんどん上昇して手がつけられなくなっていく。これは『ちょうはつ』無しでは厳しいか?)
「戻ってランクルス」
「ラック」
たった一度の攻防。カトレアはギギギアルの新たな戦術を知った。『サイコキネシス』という汎用性に優れたワザと手持ちに戻せば回復する『さいせいりょく』という特性を最大限に活用した遊びの一手。
「随分とクレバーな戦い方してくれるなぁカトレアちゃん」
「ええ。これもランクルスの長所ですから」
ダイアの表情は苦々しいものだった。結果的に見れば悪戯に手札を晒して終わったようなものだ。
「お願いエルレイド!」
「エル」
交代先はエルレイド。
(おいおいマジか。キリキザンに当てるはずのエルレイドをここで。早くも賭けに出たか。・・・・・・忘れるなよカトレア。ギギギアルには『ボルトチェンジ』がある)
この場合、カトレアは交代でターンを終えたため、ダイアが先攻となる。
「『ギアチェンジ』」
ギギギアルの攻撃が上がった。素早さがぐーんと上がった。
「『かげうち』」
しかしどれほど速かろうと相手の影に瞬間移動できてしまうこのワザの前には形無し。
「アr?」
ギギギアルがいとも容易く背後をとられる。
「っ! 『ギアチェンジ』!」
「『アンコール』」
ギギギアルの『ギアチェンジ』緊急脱出。ギギギアルの『ギアチェンジ』がアンコールされた。ギギギアルはしばらく同じワザしか使えない。
(ギギギアルのワザの発生速度が裏目に出たな)
「『せいなるつるぎ』!」
ここでカトレアはギギギアルの上がった防御力に関係なく攻撃できる『せいなるつるぎ』をチョイスした。
「『ギアチェンジ』!」
「アr!」
エルレイドの『せいなるつるぎ』は当たらなかった。
ゴキッゴキッ。
エルレイドが腹立たし気に首を鳴らす。肘の刃を最大限に伸ばした上で、カトレアの指示無しに追撃をはじめた。
「エッレィ!!」
「『ギアチェンジ』!」
横一文字の力強い一閃。ギギギアルは咄嗟に上へ逃げる。
「『かげうち』」
そして、室内ライトに照らされたギギギアルの影からエルレイドが出現する。
「エルッ!」
「アr!?」
(相変わらず恐ろしい『かげうち』だ。空中だろうと地面だろうと影さえあればエルレイドは移動できる)
ギギギアルに組み付いたエルレイドの肘の刃が伸びる。
ギギギアルのアンコール状態が解けた。
「『せいなるつるぎ』!」
「『ボルトチェンジ』!」
振り下ろす一閃、弾ける電撃。
「エルァ!?」
「アrrッ!?」
ダメージ的にはギギギアルの方が大きい。しかしエルレイドは、ギギギアルが離れたことによって空中に置いていかれている。
ザッ!
ギギギアルの速度に唆されて砂が舞う。
「『ギアソーサー』!」
「『かわしなさい』!」
ギギギアルの『ギアソーサー』。
「エルッ!」
エルレイドには当たらなかった。巧みな身体操作で迫る歯車を躱し、『ギアソーサー』はエルレイドの横を通り過ぎた。
「『じばそうさ』!」
クイッ!
エルレイドの背後へ飛んだ歯車がギギギアルの発する磁場に引き寄せられ、歪な軌道を描いて戻ろうとする。その間にはエルレイドが居る。
一瞬の逡巡。『かげうち』か否か。
「っ! 『せいなるつるぎ』!」
「エルァ!」
カトレアの答えは否。未だ空中を漂っているエルレイドは背後に迫る歯車に伸ばした肘の刃を命中させて逸らす。
エルレイドは歯車の軌道を逸らした。
「エル!?」
エルレイドにもう一つの歯車が当たった。
しかし、『ギアソーサー』によって放たれる歯車は二つ。エルレイドの体勢では一つの歯車を迎撃するので精一杯だった。
「エルレイド!」
思わず地面に落下したエルレイドを呼びかけるカトレア。キリキザンの対抗戦力がここで消耗される展開は彼女にとってこれ以上ないほどの不利を強いる。
「・・・・・・エッレィ!」
エルレイドが気合いいっぱいに立ち上がる。
(? 思ってたより元気だな)
「平気なのエルレイド?」
「エル」
いや、気合いだけじゃない。カトレアは感じ取っていた。ギギギアルの上昇した攻撃力で受けるはずだった甚大なダメージが、エルレイドにはない。
「・・・・・・わかりました。ギギギアルの『じばそうさ』で操られた歯車は秒単位で威力が弱まっていくのね」
「エル」
カトレアの分析にエルレイドもまた自身に湧いた違和感の正体がそれだと察した。
「バレたか。まあでも、ギギギアルの歯車を操る技術は、威力ではなく手数を埋めるためのものだ。こっからが本番だぜ」
「アrrr」
『ギアチェンジ』で捨てた歯車はすでにバトルフィールドに数多く転がっている。長引けば長引くほどにギギギアルのフィールドが仕上がっていく。
「決めるぞギギギアル。『じばそうさ』」
そして、ダイアは『じばそうさ』による特異性をあと二つ隠していた。正確には切り札をまだ切っていなかった。
ふわ・・・・・・ヒュン!
「っ!?」
周囲に転がった歯車全てがエルレイドの下へ集約する。
「全開よ! 『せいなるつるぎ』!」
ギギギアルは先刻命中させた歯車に付与していた磁力をエルレイドに移していた。すなわち、ギギギアルはエルレイドをS極と定義した。N極の磁力を転がる歯車に付与することで、歯車はエルレイドに集まっていく。
「エルァァ・・・・・・」
エルレイドの肘の刃がこのバトル一番に伸びる。
そして、この『じばそうさ』に宿されたもう一つの特異性。それは絶対に壊れない歯車を作れるという点にある。入れ替えたとはいえ、元はギギギアルの本体。その歯車にはギギギアルが持つ特性、『プラス』を持ち合わせている。
ギギギアルの防御と特防が上がった。歯車の防御と特防が上がった。
「レィッドォ!」
パキン。
エルレイドの一閃。それはエルレイドに向かう歯車全てを切り裂いた。
「は?」
まだ伏せていた壊れない歯車。それが壊れたダイアの衝撃は大きかった。
『せいなるつるぎ』は相手の能力ランクの変化に関係なく攻撃できる。たとえ、歯車であろうと。
「『アンコール』」
全ての歯車の処理を終えたカトレアはここで詰めにかかる。ギギギアルのワザをしばらく『じばそうさ』に固定させ、意味のない防御力上昇を強いる。
「『せいなるつるぎ』!」
「『かわせ』!」
ギギギアルの『じばそうさ』。エルレイドの『せいなるつるぎ』。
「・・・・・・あrrr」
「ギギギアル戦闘不能」
———
「お疲れさんギギギアル・・・・・・ふぅ」
ダイアは少々の驚愕を呑み込んで、深呼吸を一つ挟む。
(最近の若者若すぎないか?)
気分はすっかり若者に置いていかれるおじさんだった。これでもまだ19である。14のカトレアとは5歳差である。
「強いなカトレアちゃん。だが、次は君にとって最大の関門だ」
「ということは、二番手はキリキザンかしら?」
「ご名答! いけキリキザン!」
———
「キザッ」
フィールドに降り立ったキリキザンは肘の刃を覗かせながら、悠然と佇んだ。
(来たな。キリキザンはボスゴドラと違ってそもそも『サイコキネシス』が効かない相手。エルレイドをどれだけ上手く活用できるかが、今後のバトル展開を左右する)
「エルレイドvsキリキザン。バトル開始!」
ホウセンが腕を振り下ろす。先攻はダイア。
「『アイアンヘッド』!」
「『せいなるつるぎ』!」
開始の合図とともに二体のポケモンが指示に弾かれたような速度で走り出す。開始早々接近戦のガチンコ勝負。
「エッルァ!」
エルレイドは『せいなるつるぎ』を振り抜いた。
「ルレ"ッ!?」
同時にキリキザンの蹴りが腹部に突き刺さった。
「っ! 騙されたのね」
キリキザンの『ふいうち』。
(なんてステップだ。真正面から来ると思わせて緩急のついた足運びで『せいなるつるぎ』を空振らせた)
ホウセンは固唾を飲んで見守る。キリキザンの『ふいうち』を利用したアドリブバトル。ダイアではなくカトレア・・・・・・相手トレーナーの指示に合わせて行われるキリキザンのそれは、トレーナーとポケモンの息を合わせることを問うバトルを強いる。
「『ちょうはつ』」
キリキザンの『ちょうはつ』。エルレイドは挑発に乗った。
「さあどうする? 『ふいうち』に合わせて『はやてがえし』でも使うか?」
「っ!?」
ダイアが「お、ドンピシャか」とカトレアの反応で彼女の狙いに当たりをつけた。
(まあ、キリキザンのバトルを突き詰めていけば行き着く課題だな)
「ホウ———っ!!」
思わず審判役のホウセンを覗いたカトレア。
彼女の視線に気づいたホウセンは立てた人差し指を口元に持っていった。その行動の意味は二つ。一つは審判役にヒントを求めるなという意思表示。
『ポケモンたちには理由のある期待をほどほどに』
もう一つは、一つ目のアドバイスを活かせという合図。
「ええ、わかったわ」
狙いがバレたのなら新しい景色を描けばいい。乱された心を持ち直したカトレアは自身のバトルの原点へ立ち返る。
「『トリプルアクセル』。エレガントに舞いなさい!」
「エルッ!」
それはエレガントなバトル。ポケモンコンテストが行われるシンオウ地方には独特なバトル体系が確かに存在していた。それは魅せるバトル。
鋭い氷を纏いながらエルレイドが肘の刃を伸ばして回転する。
「っ、『メタルバースト』!」
ダイアは『せいなるつるぎ』と『トリプルアクセル』の連動を目の当たりにして咄嗟に近接ワザを吸収する『メタルバースト』を指示する。
「キザ!」
一回転目。
キリキザンは問題なく左腕で受ける。
「エル!」
「キ———ザ!」
二回転目。
一回目とは明らかに威力が増しすぎているそれにキリキザンの左腕が衝撃で弾かれる。
しかし、このときにはキリキザンの右手の中に『メタルバースト』のエネルギー弾が完成していた。同時に、エルレイドの高速回転を生み出すワザエネルギーが無くなったことを証明した。
「足よ!」
端的に告げられた指示をエルレイドは残った回転の勢いのままに繰り出した足払いによって完璧にこなした。
「キザ!? ———っキィザ!」
体勢が崩れたキリキザンは咄嗟にエネルギー弾をエルレイドへ飛ばす。
「『かげうち』!」
キリキザンの『メタルバースト』は当たらなかった。
すでに背後には『せいなるつるぎ』を構えたエルレイドがそこにいる。
「決めるわ! 『せいなるつるぎ』!」
伸びた肘の刃がキリキザンへ振り上げられる。
ガンッ!
「エル?」
刹那、キリキザンはエネルギーを吸収する部位と発散部位を分けた。振り上げられる『せいなるつるぎ』に右足を当てエネルギーを吸収、右手にそのエネルギー弾が瞬時に溜められる。
(マジか・・・・・・)
「・・・・・・おいおい」
その動作を目の当たりにして一番の衝撃を受けたのはダイアだった。
「『メタルバースト』!」
しかし、絶好の決定機を前にして指示を出さないダイアではない。ベストタイミングに合わされた指示を受けてキリキザンがそれを放つ。
「キィザァァ!」
キリキザンの『メタルバースト』!
「・・・・・・エルレイド戦闘不能」
———
「戻ってエルレイド。素晴らしいバトルだったわ」
自身のポケモンを倒されたカトレアだったが、その表情は達成感に満ちていた。
漠然と描いていた自分の理想とするバトルスタイル。『エレガントなバトル』の正体が実感となってカトレアを覆ったためだ。
(なんてザマだ)
一方、ダイアは若い才能についていけない自身を憂いていた。
(キリキザンが気を利かせてくれなきゃ負けてた。なんだ。なにが足りない? 俺のポケモンたちは全力で戦っているのに、俺自身はこの若き才能を研磨できる存在になれていない感じがする)
ダイヤはダイヤでしか磨けない。
その言葉が脳裏を過ぎり、ダイアのなかで自身の凝り固まったなにかを自覚した。
(俺はガキになりきれていないんじゃないか? ジムリーダーになって、一丁前に振り翳す戦術が完成されたものだと思い込んでいるんじゃないか? いや違う。大人ぶっているうちに、求めないことを覚えてしまったのか)
甘ったれやがって。
———
ホウセンは感じた。まだ見ぬ怪物が卵を割るような気配。それはカトレアとも言えるし、彼女だけじゃないとも言える奇妙な気配。
(親父が?)
実際ダイアの圧はかつてないほどに増している。
「ウフフ、楽しくなりそうね」
しかし、カトレアは楽しげに上品な笑みを浮かべて、次のモンスターボールに手をかけた。
「次はアナタ・・・・・・ゴチルゼル!」
「ルゼ」
(ランクルスじゃない?)
そのチョイスに疑問を持ったのはホウセンだった。『メタルバースト』使いの相手は体力量をかさ増しできるランクルスか近接戦闘ができるエルレイドとメタグロスで対処するよう事前に打ち合わせていたからだ。
「ウフフ」
顔に出ていたホウセンにカトレアが微笑んだ。言葉よりも雄弁に語るその仕草が彼の心を期待で埋め尽くした。
(なにが起きるんだろうな)
ホウセンが左手を掲げる。ジムリーダーとチャレンジャーが今かと今かと合図を待っている。
「ゴチルゼルvsキリキザン。バトル開始!」
「おいでなさいな」
始まって早々にカトレアは自身のターンを捨てた。
「っ! 地面に『アイアンヘッド』!」
「キィッザ!」
ダイアは歯噛みしながらも指示を出す。キリキザンは強烈な頭突きを地面に喰らわせ、フィールドに荒々しい砂塵を漂わせる。
「・・・・・・」
視界を防がれてもカトレアは指示を出さない。ゴチルゼルもまた機を待つ彼女に合わせて自然体を保つ。
「なんのつもりだ?」
ダイアはバトル中に思わず溢した一言をひとまず呑み込んだ。
「キリキザン『ふいうち』だ。いけると感じたらおまえの判断で飛び込め」
「キザ」
頷くキリキザン。そして、ダイアもまたキリキザンの一挙手一投足を見逃さないよう注視して、その背中を見つめる。
「ゴチルゼル、準備はできていて? 『かわらわり』」
砂塵の中へ投げかけた問いを返される前にカトレアが指示を出す。
「キザ!」
刹那、キリキザンが砂塵の中へ飛び込んだ。
キリキザンのふいう———ガァァァン!———ちはうまく決まらなかった。
「っ! 『メタルバースト』!」
それがなんの音か、ダイアは図りかねた。だが、一つ確信していることがある。キリキザンはワザを受けた。ならば、エネルギー弾はすでに出来上がっているはずだ。
・・・・・・。
「キリキザン? おいキリキザン! なにが起きている!?」
ダイアが呼びかけるもキリキザンからの応答はない。
「勝負はつきました」
「なに?」
一時的に舞い踊っていた砂塵が晴れる。
「キリキザン戦闘不能!」
「きざぁ」
倒れ伏すキリキザンとホウセンのコールをダイアは呆然と受け止めた。
———
(なにが・・・・・・起きやがった)
ダイアは今、かつてない困惑に見舞われている。GOサインを出して、キリキザンが砂塵の中に飛び込んだところまでは見届けた。
しかし、砂塵が晴れたときにはキリキザンが倒れていた。
「よくやったキリキザン」
ダイアがキリキザンをボールに戻す。
(あの音だ。いや、問題は音ではない。重要なのは音を発せられたのがキリキザンである点だ。つまり、『ふいうち』で対処できないワザがあったということ、そのワザに対処ができないでいるうちに『かわらわり』をノーガードで喰らった。これが一番しっくりくる)
ここへ来てダイアに冷静な思考が齎された。
(落ち着けダイア。俺とホウセンとカトレアちゃんでは強さを証明する手段が違う。ドラマティックなバトル、エレガントなバトル、俺は計算と分析が信条の合理主義バトルだ)
そのボールを手にしてようやくその思考を受け入れた。
それは嫉妬だった。自身より少し若いまだ見ぬ新しい才能が今を煌めいている景色への羨望。
「追いかけるぜ。俺なりのバトルで!」
息子のホウセンは安心した。最近のダイアは熱くなりやすいきらいがあった。ダイアに挑戦している最中には気づけなかったが、バトルのリザルトを残したA4用紙を流し読みしていてそれに気づいた。
特段、高速アタッカーのエアームドとギギギアルの戦い方ではそれが顕著に表れていたためである。
「いくぞボスゴドラ!」
爽やかな意気込みとともにダイアはボールを投げた。
「コッドォォォォ!」
フィールドに降り立ったボスゴドラが眼を赤く光らせた。
現れた巨体にカトレアの表情が自然と引き締まる。
「ゴチルゼルvsボスゴドラ———」
それでも笑っていた。試したいことがまだまだあると言わんばかりの無邪気な微笑みでバトルに臨む。
「———バトル開始!」
「『ストーンエッジ』」
「コドォ!」
ボスゴドラが地面に打ちつけた拳の正面に数多くの剣山が生える。
「『サイコキネシス』」
「ルゼ」
カトレアはゴチルゼルに自身を対象とした『サイコキネシス』の空中浮遊で『ストーンエッジ』の射程圏外へと逃がす。
「『ストーンエッジ』」
現実を鑑みて、ダイアはボスゴドラに礫を放つ『ストーンエッジ』を打たせる。
(空中にいても、離れている距離はたかが知れている。射程の長い『ストーンエッジ』で撃ち落とす)
ボスゴドラの『ストーンエッジ』。
「『きあいだま』」
機関銃の弾丸のように迫る岩礫を前にして、カトレアはここで“四つ目のワザ”をチョイスし、ゴチルゼルに正面のみの岩礫を撃墜させるために『きあいだま』で迎撃させた。
どちらもうまく決まらなかった。
ゴチルゼルの『サイコキネシス』が解けて落下していく。
「『ドラゴンテール』」
ボスゴドラが地面に『ドラゴンテール』を打ちつけた。
「っ! これはヒヒダルマの」
弾かれるように跳んだボスゴドラはそのまま攻撃体勢に入る。その先にはゴチルゼルがいる。
「『ストーンエッジ』」
数々の岩礫をボスゴドラ自身の周囲に留め、ゴチルゼルへ向かって射出する。
ボスゴドラの『ストーンエッジ』。
あまりにも速い遠距離攻撃を前にしてなお、ゴチルゼルはボスゴドラの五体を視界に収めていた。
「『サイコキネシス』」
ボスゴドラの巨体が猛烈なサイコパワーで固定される。だがゴチルゼルの眼前には『ストーンエッジ』が迫っている。
「『サイドチェンジ』」
「ルゼ」
ゴチルゼルとボスゴドラの位置が入れ替わった。
「コドォ!?」
ボスゴドラに『ストーンエッジ』が当たった。バトルフィールドにその巨体が落下する。
「なに!?」
「『かわらわり』」
ダイアが動揺する間にゴチルゼルがボスゴドラへ接近する。
(ゴチルゼルの接近速度から見てもボスゴドラがエネルギーを溜める時間はない)
「無ければ作る! 『受け止めろォ』!」
ダイアがボスゴドラに絶対の信を置く理由は『がんじょう』ではない。
ボスゴドラの真剣白刃取り!
「ルゼ!?」
どんな攻撃をも受け切る覚悟だ。
「コォドォォ・・・・・・ッド!」
ボスゴドラの『メタルバースト』。
「『サイドチェンジ』」
「ルゼ」
ゴチルゼルとボスゴドラの位置が入れ替わった。ボスゴドラに『メタルバースト』が当たった。
「・・・・・・なるほど。見えたぜ、『サイドチェンジ』に対抗できるプラスアルファが」
「え?」
———
『いいかカトレア。ゴチルゼルの『サイドチェンジ』は確かに強力な技術だが、その反面全体攻撃にはめっぽう弱い』
『全体攻撃?』
『『ふんえん』、『じしん』、『だいばくはつ』。広範囲に行き渡るワザや攻撃のことだ。仮に親父のボスゴドラがワザを一つ残していた場合は高確率で『じしん』か『いわなだれ』がくる』
『その場合の対処法を考えてってことね』
『その通り。しかし、これはあくまでシステム的な確率論に近い。実際のバトルのときは、シビアな判断力が求められる可能性があることを念頭においたうえで編み出すんだ』
———
「『サイコキネシス』」
カトレアが編み出した対処法は『サイコキネシス』の空中浮遊。これにより、『じしん』の影響は受けず、『いわなだれ』が来ようと『サイドチェンジ』で回避できる。
「『メタルバースト』を撃ち上げろ!」
(無理よ。アタクシのゴチルゼルの空中浮遊速度は『メタルバースト』の弾速よりも断然速いわ。どんなふうに攻撃して来ようとエレガントに回避してみせる)
ボスゴドラが『メタルバースト』を真上に撃ち上げた。
「っ!」
ホウセンはこの動作に強烈な既視感を覚えていた。アニポケで猛威を奮っていたあの最強のドラゴンワザにそっくりだったからだ。
『メタルバースト』のエネルギー弾が破裂した。『メタルバースト』の欠片がフィールドに降り注ぐ。
そして、既視感は現実となった。
「っ! 『サイコキネシス』!」
飛来する『メタルバースト』の欠片を前にしてカトレアは最も信頼できるワザで対抗する。『サイコキネシス』の強制力に逃れられるものはいない。
『メタルバースト』の欠片がエネルギーを吸収した。
「なんですって!?」
それは驕りだった。
「ルゼッ!?」
ボスゴドラとゴチルゼルに『メタルバースト』の欠片が当たった。
「・・・・・・えげつねえ」
地面に落下していくゴチルゼルを見届けるホウセンは思わず溢した。
『メタルバースト』の欠片にも宿る遠距離ワザ完全吸収の技術。ダイアはボスゴドラのその技術がキリキザンを凌駕している点に目をつけて、『りゅうせいぐん』さながらの『メタルバースト』を繰り出す決心をしたのだ。
「・・・・・・ゴチルゼル、優雅にお立ちなさい」
「ゼル!」
しかし、そのダメージは分解していたこともあって、『サイコキネシス』分より少々加算された程度。
カトレアとホウセンはこの戦術の恐ろしい点はボスゴドラで耐久戦を強いることにあると考える。
(一度は耐えたけれど、ゴチルゼルの耐久力ではあと二回耐え切れるか微妙なところね。ボスゴドラも『メタルバースト』に巻き込まれているけれど、それはダイアさんのプラスにしかならないわ)
「どんどんいくぞ! 『メタルバースト』!」
ボスゴドラが『メタルバースト』を撃ち上げた。
「ウフフ、見えたわ!」
同時にカトレアのスイッチが入った。
「『きあいだま』!」
まずは『メタルバースト』を撃ち終わったボスゴドラの隙を咎めるような遠距離ワザ。
「『ドラゴンテール』!」
それをボスゴドラは尻尾の打撃で弾き返す。
『メタルバースト』のエネルギー弾が破裂した。『メタルバースト』の欠片がフィールドに降り注ぐ。
「『きあいだま』を操るわよ! 『サイコキネシス』」
「ゼル!」
ゴチルゼルが目を光らせると同時にクイッと『きあいだま』が曲がり、再びボスゴドラの下へ向かう。
「『メタルバースト』!」
だが遠距離ワザの吸収体勢はすでに整っている。
———
『『サイドチェンジ』の対象?』
『そうだ。トレーナーとして知っておくべきことだ。ゴチルゼルは相手に『サイコキネシス』を使うか、近距離でなければ『サイドチェンジ』を使えない。それはなぜか?』
『・・・・・・もしかして、サイコパワーを纏わせないと使えないのかしら?』
『グレート。ならその仮説を検証しよう』
———
「『きあいだま』と『サイドチェンジ』!」
ゴチルゼルと『きあいだま』の位置が入れ替わった。
「なにッ!?」
「『かわらわり』よ!」
『きあいだま』の位置関係で、ボスゴドラの眼前に浮かぶゴチルゼルがありったけの力を込めた手刀を頭頂に振り下ろした。
「ゼル!」
「コ"ドッ!?」
ボスゴドラには効果抜群だ。ボスゴドラが維持していた『メタルバースト』が解かれた。
ゴチルゼルはその勢いに任せて、ボスゴドラの頭上を通り過ぎていく。
「っ! 『こらえる』!」
ボスゴドラの正面にはゴチルゼルと入れ替わった『きあいだま』があった。とても今の状態で耐え切れるワザではない。ゆえに四つ目のワザをダイアは迷わず指示した。
「コッドォ!!」
ボスゴドラは『きあいだま』を堪えた。
「急げ『メタルバースト』!」
すぐさま体力を回復するべくダイアが指示を出した。
「チェックメイト」
「ルゼ」
カトレアとゴチルゼルが告げる。ボスゴドラの下にはすでに鋼色の流星が迫っていた。当時、堅実だったはずの一手が牙を剥く。
ボスゴドラに『メタルバースト』の欠片が命中した。
———
「ボスゴドラ戦闘不能! ゴチルゼルの勝ち!」
バトルフィールドにはあの巨体が沈んでいた。
「よって勝者、チャレンジャーカトレアァ!」
ホウセンの張り切った声がサザナミジムいっぱいに響く。カトレアが微笑んだ。
「やられたな・・・・・・俺もまだまだだ」
ダイアはどこか清々しくその敗北を受け止めた。ジムリーダーではなく、一人のトレーナーとして自身もまだ成長の余地があったことにダイアは爽やかな喜びを胸にボスゴドラを戻した。
「ほらホウセン。アタクシにご褒美をちょうだいな」
「へ?」
ダイアがそちらを見ると、腕を広げたカトレアを前にたじたじになっているホウセンがそこにいた。
『ほらダイアくん! ご褒美をください!』
既視感のあるその光景から目を逸らして、「若いな」と微笑ましく思っていた。
「・・・・・・ヒウンアイスじゃなくていい———」
「———いいの」
カトレアはホウセンの口答えも許さず、自身より少し背の高い身体を抱き締めた。
「・・・・・・・・・・・・感激したぜ」
「アタクシのハグに?」
「バトルもだ」
———
ハグの時間はダイアの思いの外短かった。
「親父・・・・・・バッジを」
カトレアとともに彼の眼前に立ったホウセンが促す。彼は一つ頷いて手に持つそれを差し出した。
それは灰色の足跡だった。足跡には土色のデザインがいくつもあり、泥臭さを感じるそれはダイアの生き様そのものだった。
「アクセルバッジ・・・・・・これを手にしたトレーナーは確実に以前の自分よりも前を歩いている。おめでとうカトレアちゃん、君の勝ちだ」
「ええ・・・・・・アクセルバッジ、しかといただきました!」
カトレアのジムチャレンジはここで終わる。しかし、それは新たな戦いの幕開けでもあった・・・・・・つづく。
聞かせてくれ。私のキレは無くなっているのか? クオリティ担保できているのか? 疑惑が生まれている。忌憚ない意見を聞かせてくれ。