俺を倒して旅に出ろと言った親父が強すぎる   作:山雅将暉

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 新ヒロイン出しちゃった♡
 カトレアに殺されるか俺ぇ。



ジョウトリーグ編
ジョウト編 〜悪の聖女の憂鬱〜


 

 やっぱりあくタイプのポケモンの仕業だったね。

 

 最近うちの子どもがアブソル見かけたって言ってんだよ。

 怖ぁ。

 

 デルビルどもが工事現場荒らしたらしい。

 迷惑な話だねぇ。早く縄張りでも見つけてどっか行ってほしいよ。

 

 ミカルゲの封印だなんてさ、ご先祖様も厄介な『おきみやげ』を残してくれたもんだよなぁ。

 

 ウリムーがニューラに住処を追われたそうよ。

 まあ可哀想。

 

 今日はヤミカラスがたくさん飛んでんなぁ・・・・・・不吉だぜ。

 

 やだ! ブラッキーなんて可愛くなぁい! ニンフィアがいい!

 

「———ぁッ!」

 

 女はありったけの脂汗をかいてようやく悪夢から覚めた。

 

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」

 

 そこは昨日から宿泊しているホテルの部屋だった。とある事情により、宿泊費を免除されていたが、ベッドの質もよく、こじんまりとした和室空間が醸し出すヒノキの香りは精神の安定を齎す。実に良い部屋だった。

 

「ルガ」

 

 それでも良くない夢を見た主人を心配して、部屋の端で眠っていたヘルガーが彼女の頬に頭を擦り合わせた。

 

「・・・・・・大丈夫よ」

 

 女は心から安堵した笑みを浮かべてヘルガーを撫でたあと、日の光が差していない朝のうちにシャワーを浴びた。

 

『先日、ヘルガー使いのトレーナーが高級住宅に立てこもった事件ですが・・・・・・』

 

 その間も無機質なテレビから熱の入ったアナウンサーの声が部屋に響いていた。

 

————

 

 10月20日。

 ジョウト地方一の大都市コガネシティ。

 

 いつもは賑わっている大規模な商業都市がその日に限って慌ただしい空気に呑まれていた。

 

「人質の数は!?」

「まだ確認中です!」

 

 コガネシティの警察組織が地下通路の入り口付近で冷や汗を流しながら捜査にあたっていた。

 

「とにかく今は急いで戦力を集めて! 近くにバッジ六つ以上のトレーナーが居れば迷わず協力させて!」

「はい!」

 

 いや、最早捜査というより突入準備の段階だった。地下通路がある犯罪組織に占拠され、中に居る人々は人質にされていた。その上地下通路から繋がっているコガネ百貨店も危ない。

 

「そっちの状況は!?」

 

 ジュンサーが無線に叫ぶ。それが繋がっている先はコガネ百貨店。

 

『こちら三階エスカレーター前! ドガースどもの『どくガス』がすぐそこまで来ている! 下のフロアはすでにガス塗れだ! 居合わせたトレーナーに協力してもらってありったけの『かぜおこし』でどうにか凌いでいる状態だ! このペースなら30分後には最上階へ追い詰められる! 至急援軍求む!』

「くっ!」

 

 その援軍は送れない。表立って動けば地下通路の人質に危害を加えると向こうは脅しているのだ。

 

「あたくしが地下通路を制圧するわ」

 

 一人の女がジュンサーに助け舟を出した。可愛いよりも綺麗が先立つ顔立ちに緩いウェーブのかかった淡い青髪。黄色のキャミソールに白のロングパンツとどこか扇状的な格好の女性。

 

「っ、カリンさん」

 

 その女性の名はカリン。ジョウトリーグシロガネ大会の参加条件であるバッジ八つを今期最速で集めた腕利きのトレーナーだ。

 

「『どくガス』の侵攻速度から、発生源のドガースは地下通路のエスカレーターから上のフロアへ昇らせていると考えてまず間違いないわ。これ以上、立て籠り犯の要求に従い続けるのはマズイ」

 

 今回の犯罪はそこまで大きくなるはずではなかった。高級住宅の立て籠り犯を追うために、ジュンサーはカリンに協力を要請したのだ。しかし、犯罪組織と連携した立て籠り犯は地下通路とコガネ百貨店の一部を占拠し、自身らを見逃すだけでなく今回の取引内容であるデルビルとヤミカラスの密輸を黙認させることを条件に人質をとった。

 

 だから。と区切ってカリンは一つのモンスターボールを開いた。

 

「おんみょーん」

「ミカルゲの『かげうち』と『あやしいひかり』で彼らの判断能力を奪う。そのために地下通路の犯罪者の人数を教えてほしいの」

 

「ですがカリンさん。私たちは元々ここまで大きい犯罪の———」

「———関係ないわ」

 

 カリンは凛とした態度で断じた。

 

「わ、わかりました! では———」

 

 ———-ブツッ!と唐突に無線が入った。

 

「地下通路を対処する必要はない」

「「!!」」

 

 その声は若かった。

 

「俺の名はホウセン。イッシュ地方サザナミタウンのホウセンだ。3歳まで出生届は出されていないが、怪しいモンじゃない」

「怪しさ満点じゃない」

 

 カリンが話す。ジュンサーはその間にパソコンでデータの照合を行った。

 

「文句は両親に言ってくれ。バタバタしてて忘れたんだと。実年齢12歳疑惑のある9歳だと思ってくれりゃあそれでいい」

 

 ジュンサーがカリンにパソコンの画面を見せる。彼もまた昨日八つ目のバッジを手に入れたトレーナーで、その情報に偽りはなかった。

 

「まあでも、お袋は11で俺を産んでいる。9歳ってのは間違いじゃねえよ。軽いジョークだ」

「・・・・・・わかったわホウセン。ひとまずあなたを信用するわ。けれど、地下通路の対処が必要ないってどういうこと?」

 

 無線の向こうからガッとなにかを力強く掴む音が響いた。

 

「こっちにデルビルとヤミカラスが居るからだ。整理すると、この事件は立て籠り犯とロケット団の共謀だ。ロケット団がデルビルとヤミカラスたちを地下通路に隠し、立て籠り犯はそれを運ぶ予定だったヘリの操縦士。ヤツらはデルビルとヤミカラスたちを運んでコガネ百貨店の屋上にあるヘリを使う予定だった。地下通路の立て籠り犯はメタモンだ・・・・・・そうだな?」

「は、はいぃ! その通りでございますゥ!」

 

 その声はジュンサーが先程聞いたものと一致していた。

 

「待ってその声は!」

 

 思わずジュンサーが声をあげる。

 

「警備員になりすましたロケット団だ。無線は盗んだものらしい」

「な、なんてこと!?」

 

「・・・・・・もしかして『どくガス』は」

「デマだ。外からどんな風に見えているかはわからないが、もしも建物から煙が出ているのならそれは『えんまく』だ」

 

 コガネ百貨店のビルの一階と二階から溢れている煙は毒々しい紫色。

 

「じゃああの色は?」

 

 カリンが質問する。

 

「色? さあ・・・・・・なんでか話せやコラァ!」

「ヒデブッファ!?」

 

 警備員に扮していたロケット団の悲鳴と痛々しい打撃音が無線から響いた。

 

「ど、ドーブルだァ! ドーブルの『えんまく』は色を自由に操作でき———ぶっふぁ!?」

「らしい」

 

「・・・・・・もう少し優しく聞きなさい」

 

 度重なる打撃音に居た堪れなくなったジュンサーがそう言った。

 

「毒性はないのかしら?」

「無い。100%断言できる」

 

 それはどうして、とカリンが問いただす。

 

「俺は二階の食堂エリアに居た。充満してきた煙を何人か吸うところを見ていたが、みんな健康そのもので"思い思い"の場所へ避難していったよ」

 

 かく言う俺もその一人だ。と締め括り、カリンとジュンサーはなんとも言えない気分で応答する。

 

「ひとまずあなたが無事で良かったわ。それであなたはどうして欲しいの?」

 

 フゥと溜め息を吐く音が無線越しに響く。

 

「俺が連れているデルビルとヤミカラスを保護してくれ」

「バウッ!」

「ヤミ〜」

 

「! もうすでに“商品”を抑えていたんですか!?」

 

 言葉にしてジュンサーが「あっ」と失言に気づく。隣でカリンが咎めるような冷たい瞳で睨んでいた。

 

「し、失礼しました。保護しますので場所を教えてください!」

「今は二階エスカレーター前。そろそろおかわりの対処で忙しくなる予定だ。来るなら———」

 

「———ドガース『だいばくはつ』だ!」

 

 ボカァン!

 

 無線の先の音と同時にコガネ百貨店の二階フロアが爆発した。

 

「っ! あたくしが先行するわ!」

「ちょっ———! カリンさん!」

 

 ジュンサーが止まる間もなくカリンはコガネ百貨店へ駆け出した。

 

———

 

 ピチャンと血が二階フロアに滴った。

 

「いってえなぁ」

 

 頭部からの出血。爆発の余波からデルビルたちを守るために身体を張った結果だった。

 

「バウバウ!」

「ヤミ〜」

 

 デルビルとヤミカラスたちが心配そうな表情で近づこうとするもホウセンは手のひらを突き出して拒む。

 

「ギガイアスはそのまま『ワイドガード』を継続」

「ガイア」

 

 ホウセンはすでに出していたギガイアスを距離が空いていたデルビルとヤミカラスたちの下へ送り、『ワイドガード』で守らせたのだ。そのため自身は一時的に無防備になってしまい、爆発の余波を諸に受けた。

 

「シュバルゴ出て来い」

「シュバ!」

 

 両腕が火傷でいっぱいになったホウセンに最早ボールを投げる余裕はなく、声を聞いたシュバルゴが自発的に出てきた。

 

「シュバ・・・・・・」

「気にするな。俺が事前におまえを出していなかったのが悪い」

 

「素晴らしい心意気だ! トレーナーの鑑とは君のような人のためにある言葉だね!」

 

 気取った拍手と声を響かせてエスカレーターから少し離れた階段を降りてくるその人物に、ホウセンはウンザリと眉を顰める。

 

「そっちはトレーナーとして地に落ちたか? ・・・・・・ホオズキ」

 

 懐かしの同級生。その男が着る服の中心にはRの文字が刻まれていた。

 

「口が減らないなぁ。俺様は君を蹴落とすためにここに来たというのに、労いの言葉も無しか」

 

 あたかも悲しげな表情を浮かべてホオズキはモンスターボールを繰り出した。

 

「ブロォン!」

 

 そのポケモンはバッフロンだった。

 

「さあ・・・・・・再戦をしよう! 戦利品はそこにいるデルビルとヤミカラスたちだ。君が出していいのはコイキングの糞を守るので精一杯なギガイアスとそのシュバルゴだけ、それ以上のポケモンを出すなら・・・・・・このフロアのどこかにいるドガースたちが爆発するだろう!」

 

 ホウセンはスゥとタバコを吸って吸い殻を飛ばし、煙を吐き出した。

 

「ハァァァ・・・・・・いいだろう。腐り切った性根にも美学は残っていたな」

「っ・・・・・・わかった風な口を利くなァ! 『アフロブレイク』!」

 

 激昂するホオズキに合わせてフロア全体を揺らす凄まじい脚力でバッフロンが突進する。狙うはシュバルゴ。

 

「『メタルバースト』」

「シュバッ!」

 

 バッフロンの『アフロブレイク』をシュバルゴは受け止め、ワザのエネルギーを腕全体に吸収した。

 

「な・・・に?」

「お返しだ」

 

 シュバルゴの『メタルバーストメガホーン』!

 

「ブルゥン!? プルルッ!」

 

 それを受けてもなおバッフロンは立っていた。なぜなら咄嗟に『こらえる』を使っていたためだ。

 

「いい鍛え方してんじゃねえか。トレーナーを勝たせるために頑張れるいいポケモンだ。・・・・・・その主がなぜロケット団に与したのかは疑問だがな」

 

 ホウセンの言葉にホオズキは歯噛みする。

 

「くっ・・・・・・俺様は! 結局敷かれたレールから外れることができなかった!」

 

 バッフロンの『きしかいせい』とシュバルゴの『メガホーン』がかち合った。

 

「君にわかるか!? 親が悪の犯罪組織の一員だった俺様の気持ちが!」

「仄暗い未来しか見えなかったか?」

 

 バッフロンの『10まんばりき』はシュバルゴの『ファストガード』に受け止められた。

 

「見えなかったさ! 俺様の前を悠然と歩く君にはわからないだろうがな!」

 

 バッフロンの『きしかいせい』はシュバルゴの『メタルバースト』に吸収された。

 

「なぜだ!? なぜ俺様を受け止める!?」

 

 バッフロンが泣いている。

 

「なぜ俺様は君に勝てない事実に安堵する!?」

 

 ホオズキが『きしかいせい』と指示を出す。バッフロンは動けない。

 

「動け! 動けよバッフロン!」

 

 ホウセンがシュバルゴとともにホオズキに歩み寄る。

 

「おまえがまだ捨てきれない未来を夢見てる証拠だろ」

 

 ホウセンは焼け爛れた右手を差し出した。

 

「なにが、なにがあると言うんだ・・・・・・俺様にはロケットチルドレンとしてのホオズキ以外になにがある?」

 

 ホオズキが問う。

 

「俺の同級生。それで納得できないのなら、サザナミタウンのホウセンのライバルになりたがっていた金持ち自慢のホオズキだ」

 

 その答えにホオズキは渇いた笑いを発した。

 

「結局・・・・・・ライバルにはなれなかったじゃないか」

 

 あまりにも熱いその手をホオズキは掴んだ。

 

「「「ドガァ」」」

「「っ!!」」

 

 突如眼前に現れた数匹のドガース。三方向それぞれから襲う爆撃に対処するため、シュバルゴは『メタルバースト』、バッフロンは『まもる』で防御を堅める。

 

「シュッ!」

「ブルッ!」

 

 だがあと一方向がガラ空きになっている。

 

 ドガースたちの『だい———「『さきおくり』」———-ばくはつ』は不発に終わった。

 

「「「ドガッ!?」」」

 

 『さきおくり』にされ続け、体内で溜め続けられた莫大なエネルギーがそのままダメージとなり、ドガースは戦闘不能に陥った。

 

「ありがとうミカルゲ。戻って」

「おんみょ〜ん」

 

「なんだ? なにが起きた?」

 

 戸惑いの声をあげたのはホオズキだ。自身とホウセンは『だいばくはつ』により最も死に近い場所へ誘われるはずだった。

 

「聞き覚えあるぜその声。名前は聞き損なったがな」

 

 カツカツとヒールの音が甲高く響く。

 

「あたくしはカリン。あなたがホウセンで合ってるかしら?」

「大正解だぜ」

 

———

 

(酷い怪我)

 

 不敵に笑う少年の両腕の傷。焼け爛れたそれを見てカリンはそう思った。保護対象のデルビルとヤミカラスたちはギガイアスが完璧に守っている。

 

「ようやくお迎えが来たってわけか。あの女じゃなくて安心したぜ」

「あの女?」

 

 キズぐすりを取り出したカリンが聞き返す。ホウセンは患部を差し出し、カリンはそこにキズぐすりを吹きかける。

 

「いつッ! アンタの隣に居た女だよ」

「? 安心して。彼女はジュンサーさんよ」

 

 カリンがそう言うと、床に座り込んでいたホオズキが「いや違う」と訂正する。

 

「ホウセンの危惧していることはあたっている!」

 

 何事かとカリンが訝しげにロケット団の制服を着たホオズキを覗いた。

 

「ドーブル『さいきのいのり』」

 

 その瞬間、聞き覚えのある女の声がカリンの鼓膜叩いた。

 

———

 

 2日前。

 10月18日15時10分コガネ屯所。

 

「知らないわ」

「嘘をつかないでください!」

 

 取り調べ室でカリンがジュンサーに詰められていた。

 

「何度も同じことを言わせないで。あたくしはそのとき最後のジム戦をしていたの。ヘルガーをボールから出していた理由は彼女を休ませたかったから」

 

「どうして休ませたいポケモンをモンスターボールから出すんですか?」

 

「ヘルガーは日向ぼっこが大好きなの」

 

 その答えを聞いてジュンサーが激昂する。カリンがここに来てからその繰り返しだった。カリンにかけられた濡れ衣は忽然と姿を消した立て籠り犯罪。

 

 結局、コガネジムの裏がとれるまでカリンは取り調べに応じ続けた。

 

「・・・・・・誠に申し訳ございませんでした」

「いいのよ。あなたが仕事熱心なのは充分伝わったわ」

 

 それは皮肉でもなんでもなくカリンの本心だった。

 

「・・・・・・ねえ」

「はい?」

 

「その立て籠り犯の捜索、あたくしにも手伝わせてくれない?」

 

 その熱意があったからこそ、カリンは協力する決意をした。

 

———-

 

 ドガースたちが復活する。

 

「ご協力ありがとうございます。おかげで“商品”に傷一つありません」

「ドブ」

 

 宙を漂うドガースたちの中心をドーブルを伴って悠々と歩むジュンサーがそこにいた。

 

「特にカリンさん。あなたはとてもいい隠れ蓑になってくれました」

 

 舌が渇く感覚、指先が意味もなく弾けたように動く、胸がキュッと苦しくて、目の前になにもない暗さが差し込む。

 

「そう。・・・・・・あたくしは騙されていたのね」

 

 失意。それ以外の感情が湧かなかった。誠実であろうと努めた心も、偶然被ったと思われていた濡れ衣に対する反骨心も、熱意に対する尊敬も全て、運命に弄ばれた結果に過ぎない。

 

「はい、もう用済みです。それとホオズキくんも」

「っ・・・・・・」

 

 そしてもう一人。運命に弄ばれた男に残酷な真実が告げられる。

 

「父親役から連絡がありました。あなたとは絶縁だそうです」

「・・・・・・・・・・・・そう、か」

 

 何者でもなくなったホオズキに深い絶望感が襲う。淡々と告げたジュンサーはドーブルに『さいみんじゅつ』の指示を出す。ドーブルはカリンに向けて打ち合わせ通りの催眠を施し———

 

「———ガイアァァァ!」

 

 ギガイアスの『メテオビーム』!

 

 寸前にギガイアスが恐ろしい密度のビームを発射し、ドガースたちを瞬く間に一掃した。

 

「っ! ちょっ———不意打ちとは卑怯な!」

「ドブッ!!」

 

 ジュンサーとドーブルが見つめる先にはカリンを抱き寄せたホウセンが居た。

 

「卑怯? トレーナーにワザを使うのがそっちの流儀なんだろ?」

「あ、あなた・・・・・・」

 

 焼き爛れた腕に抱かれたカリンは呆然とその光景を見つめていた。

 

「気に入らない現実をそのまま受け入れるなよ。ホオズキもカリンもまだまだ元気いっぱいな二本足で立っているじゃあねえか。それでも抵抗する気力が湧かねえのなら、俺がスローガンを掲げてやるッ!」

 

 その肉体はこの場にいる誰よりも傷ついていた。それでも堂々たる立ち姿を晒し、紡ぐ言葉に一点の迷いもない。

 

「・・・・・・俺たちは運命の奴隷じゃねえ!」

 

 黄金の輝きとも言えるその精神が二人の心を強く、強く、打った。

 

「っ、『きしかいせい』だバッフロン!」

「ブラッキー『しっぺがえし』!」

 

「ブルゥン!」

「ブラッキィィ!」

 

 立ち上がり突進するバッフロンとカリンのボールから飛び出したブラッキーが怒りのままに後ろ足で蹴り込んだ。

 

「ドーブル『まもる』!」

 

 ドーブルは身を防いだ。が、その先にはすでにもう一体のポケモンが槍のような腕を構えている。

 

「『メガホーン』」

 

「シュバァァァ!」

「ドブゥゥゥ!?」

 

 ドーブルの急所に当たった。ドーブルは倒れた。

 

 すでにジュンサーの手持ちはドガースも含めてほとんどが戦闘不能。彼女の慢心はドーブルの豊富なワザによって賄われていた。それが崩れ、“予定を遅らせていたツケ”が今になって回ってきた。

 

「あ・・・・・・時間切れだ」

 

 ジュンサーはその光景になにかを悟ったように直立不動を貫き、これ以上の抵抗は無駄だと言わんばかりだった。

 

 

「証拠隠滅コースかぁ」

 

 

 ドドドドッ!

 

「「っ!!」」

 

 突如起きた連鎖爆発。それはコガネ百貨店の支柱全てを折り、二階フロアから上の階層全てが落下しはじめた。

 

 

「NO」

 

 

 ホウセンが告げる。その運命は許容しないと端的に発言した。

 

「ギガイッァァァ!」

 

 ギガイアスの『じゅうりょく』。コガネ百貨店の落下は止められた。

 

「な、なに、これ。こんなパワーの・・・・・・『じゅうりょく』。まだ、まだ私にはヘルガーが———!」

 

 シュバルゴの『みねうち』。ジュンサーは目が真っ暗になった。

 

 地上ではサイレンが喧しく鳴り響いていた。

 

———-

 

 その後、警官になりすましたロケット団はジョウト警察の手により一斉検挙され、密輸されかけたデルビルやヤミカラスたちは一部の育て屋に保護された。そして、手錠をかけられる者のなかにはホオズキも含まれる。

 

「なあホウセン」

「どうした?」

 

 パトカーに入れられる直前、ホオズキは精一杯の強がりを含んだ笑みを浮かべた。

 

 

「ベストウィッシュ!」

 

 

 故郷の慣れ親しんだ今後の成功と幸運を祈る挨拶。それは自身に言っているようにもホウセンに言っているようにも感じられた。

 

「ベストウィッシュ・・・・・・親愛なる学友よ」

 

 確かなのは、彼は今運命の鎖を破るための意思を手に入れたのだ。

 

———

 

 ペラ。

 

 9月9日

 パーフェクトゲームで終了。イッシュリーグをカトレアが制覇した。

 

 9月12日

 チャンピオンリーグ初戦。カトレアがあくタイプ使いのギーマに敗れる。特殊なワザの使い方はなかった。相手のやりたいことをやらせず、自身が最大限に得をする立ち回りを終始貫かれた。

 しかし、カトレアに意気消沈した様子は見られず、バトルキャッスルという地元の施設で鍛え直すためにシンオウ地方に帰ることに決まった。

 

「チャンピオンリーグで待ってるわ」

 

 11月30日。

 コガネシティ 定食屋『メメしぃ』

 

 ホウセンはその定食屋でメモ帳の文字をなぞっていた。その文字はカトレアが書いたものでホウセンが書く字よりも品があると感じさせる達筆さだった。

 

「寂しいなぁ親父」

 

 奥の席からホウセンが声をあげる。

 

「別に俺ァ寂しくねえよ」

 

 親父とは店主のことであってダイアのことではない。

 

「客居ねえのに?」

「余計なお世話だ!」

 

 静かな店内にホウセンの笑い声が響く。ガーゼを巻いた腕でカツ丼を掻き込む姿は誰よりも楽しそうだ。すでに机に重なった丼は三つ、久しぶりの米料理は格別だった。

 

 ガラガラと引き戸が開かれる音が定食屋『メメしぃ』に響く。

 

「らっしゃい」

 

 店主は白タオルを頭に巻いた見た目も相まってラーメン屋を彷彿させた。

 

 カツカツとハイヒールが石床を叩く。

 

「失礼、紫色の髪をした高身長未成年男子を探しているのだけど」

「待て待て、高身長未成年男子ってなんだよ。第一嬢ちゃんはその男とどんな関係だい・・・・・・」

 

 それとなく店主が案内していいか詮索するも、彼女は「いるのね」と一言呟き、店内を散策する。

 

「親父、案内してもらって大丈夫だ」

 

 奥の座敷席からガーゼが巻かれた右手が挙げられた。店主は「女連れなら事前に言っとけ」と返し、ホウセンの座る席に指を指す。

 

「1ヶ月振りくらいか? 元気そうでなによりだ、カリン」

 

 彼はイッシュ人とは思えないほど手慣れた様子で残る米粒を箸で摘んで食べた。カリンは少々の安堵を含んだ息を吐いて、ホウセンの向かいへ歩く。

 

「そう見える? ・・・・・・あなたのせいで年下好きのレッテルを貼られて大変だったのよ」

 

 カリンがそう言いながら絨毯に腰を下ろす。ホウセンは「そりゃあ、あんな聞き方してたらな」と苦笑して四つ目の丼を重ねた。

 

「で、なんの用だ? デルビルとヤミカラスの件は無事引き取り手が決まったんだろ。コガネ百貨店もなんとか建て直されたし、あの事件はもう収束したはずだ」

 

「ええ、事件とは無関係よ。個人的な用事」

「へえ。そりゃまたなんで・・・・・・」

 

 痛々しいガーゼはまだ取れていない。その腕には火傷の跡が残っているはずだ。それでもカリンから見たホウセンは、図太い精神力に一切の陰りなく、あの事件を受け入れながらも前へ進んでいる。

 

「・・・・・・バトルしてほしいの。3vs3のバトルを」

 

 その精神に一度でも魅入られたからこそ、カリンは魅入られるに至った力の源を知りたかった。

 

「ここまで深刻な表情で挑まれたのははじめてだ・・・・・・理由、聞いてもいいか」

 

 カリンは頷く。

 

「あたくしはあくタイプに対する差別を無くしたい」

 

———

 

 カリンの父はジョウト地方の育て屋を円滑に運営するための営業を勤めている。具体的な業務内容は、すでに預けられていたポケモンと新規で預けられたポケモンがトラブルを起こした場合など、別の育て屋に移動させる橋渡し役としての役割が大きい。

 

 一時的にカリンの実家で預かるケースも少なくなく、その大半を占めるのはあくタイプのポケモンだった。

 

———

 

「『おきみやげ』・・・・・・育て屋に預けっぱなしにする行為の通称よ。ジョウトではあくタイプのポケモンが預けられたまま受け取りに来ないケースが一番多いの。だからあたくしはあくタイプの魅力に気づいて貰えるバトルがしたい。あたくしのバトルであくタイプのポケモンに対する固定観念を拭いたいの」

 

 切実さ溢れるその願いが口にされる。

 

「なるほど・・・・・・」

 

 ホウセンは思案顔を浮かべ、言葉を探す。

 

「一つ聞いておきたい」

「? ええ、なんでも聞いて」

 

 ズズッとお茶を啜り、舌を潤してからホウセンは問いかける。

 

「その思想の中心にある感情はなんだ?」

 

 感情・・・・・・とカリンが復唱する。

 

 憐れみ・・・・・・違う一番遠い。怒り・・・・・・はあるけれど中心ではない。責任感もしっくり来ない。

 

 

「・・・・・・渇望。あくタイプのポケモンと心を通わせることがあたりまえになった世界で、この子たちがイキイキとバトルする景色が見たい」

 

 

 ボールホルダーに取り付けられたモンスターボールを愛おしく撫でてカリンは答えた。

 

「グレート! そのバトル、サザナミタウンのホウセンが受けよう!」

 

 ホウセンの瞳に闘志の光が宿った。

 

———

 

 定食屋『メメしぃ』から少々離れ、某バトルフィールド。

 

「俺はロマン溢れるバトルが好きだ」

「ロマン?」

 

 トレーナーゾーンに立ったホウセンの言葉にカリンは不思議そうな表情を浮かべて聞き返す。

 

「平たく言えば、より鮮烈な夢を実現させるためのバトル。ボールからポケモンを出し、双方向き合い、よーいドンの合図で俺の目的は動きはじめる。すなわち、魂震える未知の景色の創造だ」

「っ」

 

 カリンが息を呑んでボールに手をかけた。ホウセンもまたボールを取り出して、天高く投げ込んだ。

 

「俺にとってバトルとは答えであり、過程。その全てがよりよいバトルの素材となる。妥協は・・・無い!」

「ゾロォ!」キラッ⭐︎

 

 現れたのはヒスイのゾロアーク。

 

「出番よブラッキー」

「ブラッキィ」

 

 対してカリンは相棒のブラッキー。

 

「さあ、おまえの感性が突き詰めた結実を見せてくれ!」

「フウン・・・・・・あなたにもそんな一面があったのね。そーゆーの素敵よ」

 

 思わずカリンが微笑んで、凛々しい立ち姿が整った。

 

「型にはまらないあくタイプの強さ。とくと味わいなさい!」

 

 ポケモントレーナーのカリンが勝負を仕掛けてきた。

 

———

 

 サザナミタウンのホウセンが勝負を仕掛けてきた。

 

(まずは盤上を整える!)

 

「ブラッキー『のろい』!」

「ブラッキィ!」

 

 ブラッキーの『のろい』。素早さが下がった。攻撃と防御が上がった。

 

「ゾロアーク『しっとのほのお』」

 

(マズイ!)

 

 『しっとのほのお』は能力ランクが上昇して5秒以内の対象に命中すると必ず火傷させる効果がある。

 

「『まもる』!」

 

 ブラッキーは『しっとのほのお』を防いだ。

 

「っ!?」

 

 同時にカリンはゾロアークの姿を見失った。一瞬、ほんの一瞬炎の影に隠れた隙にゾロアークが消えたのだ。

 

「『きあいパンチ』!」

 

 ブラッキーの背後に異次元空間が開かれた。

 

 ゾロアークは『ゴーストダイブ』を使っていた。すでに気合いは高まっている!

 

「『しっぺがえし』!」

「ブラッキィ!」

 

 ゾロアークの『きあいパンチ』! ブラッキーは額で突き放たれた拳を受け止めた。

 

「ゾロ・・・・・・!」

 

 その根性にさしものゾロアークも面食らった。

 

「今よ!」

 

 ブラッキーの『しっぺがえし』。

 

 シュン。

 

 ゾロアークの『イリュージョン』。バチュルに姿を変えたゾロアークにブラッキー渾身の蹴りは当たらなかった。

 

「そんな!?」

 

 ブラッキーの蹴りが横を通り過ぎた頃を見計らい、ゾロアークの変身が解ける。

 

「胴がガラ空きだぜ。『きあいパンチ』!」

「ロアァァック!」

 

 ブラッキーの急所に当たった。

 

「ブ・・・・・・ラッキィッ!」

「ゾロ!?」

 

 ブラッキーは振り抜かれたゾロアークの腕に噛みつき動きを止めた。それはワザとしての『かみつく』ではない。拘束するための技術である。

 

「あなたのゾロアークも隙だらけよ! 『しっぺがえし』!」

 

 ブラッキーの爪がゾロアークの胴体へ突き出される。

 

「バック」

 

 ブラッキーの『しっぺがえし』は当たらなかった。

 

「消え・・・た?」

 

 否! ゾロアークが駆ける音がバトルフィールドに響いている。その位置はブラッキーの背後!

 

(今の一瞬でどうやって離れたというの!?)

 

 『とんぼがえり』のワザの強制力を利用した後退。カリンはそれを知らない。

 

 ゾロアークの気合いが高まっている!

 

「『まもる』!」

「ブラッキィ!」

 

 ブラッキーが『まもる』体勢に入った。

 

 

「『ゴーストダイブ』」

 

 

 ブラッキーが展開した光り輝く障壁の眼前でゾロアークが消えた。

 

「カリン。おまえ・・・・・・随分と行儀のいいバトルをするんだな」

「っ!」

 

 異次元空間からゾロアークが飛び出した。位置はブラッキーが展開した障壁の中!

 

「ロアァァァック!」

「ブラッキィ!?」

 

 ゾロアークの『きあいパンチ』。ブラッキーは倒れた。

 

「・・・・・・ぁ」

 

 喉から振り絞った弱々しい声がバトルフィールドに横たわる相棒に届いた。届いてもどうにもならない声が。

 

「今わかったぜ。おまえは勝利に固執している」

「あたくしが・・・・・・?」

 

 ホウセンがゾロアークをボールに戻した。

 

「カリン。おまえは思想の中心にある感情は渇望と言った。その感情に偽りは無い。だが、その夢を尊ぶあまりバトル中に余計な使命感がチラチラと覗いてやがるんだ」

 

 明け透けに言い放つその言葉に苛立って思わず下唇を噛んでカリンは叫ぶ。

 

「っ、あなたにあたくしのなにが———」

「———わからねえよ」

 

 しかし、覆い被さったホウセンの発言がカリンの心に冷水を与えた。

 

「そうだ。こんなバトルじゃあ、あくタイプのなにが凄くて素晴らしいかなんてちっともわからねえ」

「ぁ・・・・・・」

 

 シャボッと懐から取り出したシガレットの先をライターで点火させる。一つ吸って煙を吐き出し、言葉を紡ぐ。

 

「俺は野菜の旨さを語らねえヴィーガンが嫌いだ。肉を食べるヤツはやたらめったら排斥して自分たちの思想に染めようとする癖に、いいところを挙げてみろと言ったら『健康を保てる』だの、『食用ポケモンたちが傷つかずに済む』だの言いやがる。それって結局マイナスから0に戻っただけだろ」

 

 ホウセンは思い出しながら腹が立ったのか、一際大きくシガレットを吸って、煙を口の中で少々弄んで緩く吐き出す。

 

「もっとあるだろ。どこどこのトマトの酸味を目一杯感じるには肉が無い方がいいんだ・・・・・・とか。野菜を最大限旨く食う方法を教えて人生を豊かにするのが、菜食主義の本質じゃねえのかよ」

「っ」

 

 ハッとカリンは顔を上げた。二度吸って落ち着いたのか、ホウセンは人差し指と中指の間にシガレットを挟み、真剣な面持ちでカリンを見つめていた。

 

「おまえに必要なのは覚悟じゃねえ。合理的に勝つ理性でもねえ。ただ一つ・・・・・・あくタイプのポケモンを誰よりも楽しく活かす遊び心だ」

 

 本気で楽しむヤツの心には誰も逆らえねえ。

 

 締め括り、ホウセンはシガレットを握り潰した。そして、モンスターボールを天高く投げ込んだ。

 

「ダマッ!」

「さあ来いよ。あくタイプの素晴らしさってヤツ、今度こそ見せてみろ」

 

 ガラルヒヒダルマのドラミングの音色がバトルフィールドに響き渡った。

 

(楽しむ心・・・・・・)

 

 形になりかけている精神の芯。それがカリンを突き動かした。

 

「・・・・・・いくわよヘルガー!」

「ルガッ!」

 

(あたくしが愛したあくタイプのポケモンたちで思う存分楽しんでみせる!)

 

 先攻はカリン。

 

「『スモッグ』!」

「ヘッガァ!」

 

 バトルフィールドが『スモッグ』に包まれた。

 

「っ、いきなり視界を塞いできたか!」

 

 なりふり構わない強さ。それこそカリンの憧れたあくタイプポケモンのオリジン。

 

「『グロウパンチ』!」

「ダマッ!」

 

 ヒヒダルマは煙の先にいる影に飛び込んだ。

 

「『ほのおのキバ』!」

 

 その指示が出された瞬間、カチッと火打石から火花が走る音が不穏に響いた。

 

「ダマァッ!?」

 

 『スモッグ』の煙に『ほのおのキバ』が引火した!

 

「フフッ、素敵よヘルガー」

「ルガァッ!」

 

「グレート、楽しくなってきたァ!」

「ッ、ダマァ!」

 

 効果は抜群とは言っても『スモッグ』の煙に引火した炎はそこまで威力が高くない。

 

「地面に『グロウパンチ』!」

 

 ヒヒダルマの『グロウパンチ』地割れ。ヘルガーの周囲のバトルフィールドが衝撃に釣られて僅かに盛り上がり、彼女の体勢が崩れる。

 

「追撃の『グロウパンチ』!」

「迎撃するわよヘルガー『イカサマ』!」

 

 ガァン!

 

 ヒヒダルマの拳とヘルガーの爪がかち合った。ワザの威力は拮抗している。

 

「バック!」

 

 ゆえに予想外の一手で差をつける。

 

「ダマッ!」

「ルガ・・・?」

 

 突如拮抗していた力の源が消えた。ヘルガーの体勢が前のめりに傾く。

 

(わかったわ! 『とんぼがえり』ね!)

 

 カリンはその原理を看破し、野性的な笑みを浮かべる。

 

「『いわなだれ』」

 

 距離をとったヒヒダルマが大小さまざまな岩を作り出し、ヘルガーへ射出する。

 

「『ふいうち』」

 

 前にヘルガーはヒヒダルマから離された間合いを完全に潰していた。尖った尾がヒヒダルマの眼前で揺らめいたそのとき。

 

「ヘッガァ!」

「ダマァッ!?」

 

 ヘルガーの爪がヒヒダルマの胴体に突き刺さっていた。

 

 ガシッ!

 

「ルガ!」

「え?」

 

 それは最早反射だった。

 

「ダッマァァァ!」

 

 ヒヒダルマの巴投げ! ヘルガーがヒヒダルマの頭上高く飛ばされた。

 

「ヒヒダルマ『いわなだれ』だ!」

 

 間髪入れずに追撃の岩を生成、ヘルガーの背後に幾つもの岩が浮かんでいた。

 

(あぁ・・・・・・なんて)

 

「尻尾を使って『イカサマ』!」

 

 パシッ!

 

 ヘルガーの尾が空気を叩く音を奏でた。

 

 ドガァ!

 

 次の瞬間には岩は壊されていた!

 

(なんて楽しいの!)

 

 恍惚と笑むカリンはしかし、ホウセンの一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりに目を血走らせていた。

 

「地面に『とんぼがえり』!」

「ダマッ!」

 

 ヒヒダルマが地面に反発してヘルガーの下へ跳び上がった。

 

「『ばかぢから』!」

「っ、『イカサマ』!」

 

 掲げられた拳と振り下ろされる爪。

 

 トン。

 

「っ!?」

 

 そんな衝撃音だった。いや、それは衝撃音ではない。ヘルガーがヒヒダルマの拳を起点に跳躍したのだ。『イカサマ』のワザエネルギーで『ばかぢから』のダメージを軽減、そして振り抜かれる勢いを貰って跳躍する高等技術。

 

「素敵♡ 『ほのおのキバ』!」

 

 上を取ったヘルガーがすぐさまヒヒダルマの下へ落下する。

 

「『こらえる』!」

 

「ヘガッ!」

「ダマァッ!?」

 

 ヒヒダルマには効果は抜群だ。しかしヒヒダルマはこらえている。

 

 ガシッ!

 

「っ!!」

 

 すぐさまヘルガーの胴体を抱き締めるように抱え、抵抗の術を奪うために全身を回転させる。

 

「決めろ『ばかぢからァ』!」

「喰らい尽くして『ほのおのキバ』!」

 

 ヘルガーの『ほのおキバ』。ヒヒダルマはこの時点で戦闘不能だが、その身に宿したワザエネルギーと技はまだ健在。

 

 ヒヒダルマの『ばかぢから』地球投げ!

 

———

 

(どうなった!?)

 

 落下の衝撃で浮かんだ粉塵がバトルフィールドを覆い隠していた。ヒヒダルマはすでに戦闘不能。それは決定事項だ。問題はヘルガーが立っているかどうか・・・・・・。

 

 

「ルガァッ!」

「っ・・・フフッ。ありがとうヘルガー」

 

 

 ヘルガーは立っていた。太陽に照らされて雄叫びをあげる姿がなんとも凛々しく映っていた。

 

「完敗だな、ヒヒダルマ」

 

 ホウセンは清々しい敗北感を覚えてヒヒダルマを戻した。

 

「そしてあなたもよ、ホウセン」

「ん?」

 

 ボールホルダーにモンスターボールを取り付けながらホウセンは突如かけられた言葉に反応する。

 

「今日のヘルガー、いつもよりもさらに素敵なの! あたくしが想像するよりももっともっとってワイルドに欲張って止まらない!」

 

 ヘルガーが照れ臭そうに尾で顔を隠した。

 

「こんなにも素敵なバトルができているのはあなたのおかげよ。あなたに出会えなければここまで楽しいバトルは実現しなかったわ」

「お・・・おう」

 

 ホウセンもまた照れ臭そうに目元を手で覆い隠した。

 

「だから勝つわ」

「!」

 

 カリンが力強く宣言する。

 

「こんな楽しいバトルだからこそ、あたくしは今までのどんなバトルよりも勝ちたくてしょうがないの!」

「ルガァァァ!」

 

 ヘルガーが決意の遠吠えをあげる。

 

「ハッハ! それは俺も同じだァ!」

 

 熱に唆された祝砲が今、バトルフィールドに降り立った。

 

「ガイアァァァ!」キラン⭐︎

 

 今日も今日とてギガイアスの水色結晶は輝いている!

 

———

 

(来たわね! 異次元の『じゅうりょく』使い!)

 

 コガネ百貨店3階より上の階層全てを持ち上げる『じゅうりょく』のパワーをカリンは目の当たりにしている。

 

「ギガイアスは男のロマンの象徴だ。果たして受けきれるかな?」

「フフッ、どんな戦術で来ようとあたくしたちの強さを貫いてみせる!」

 

 先攻はホウセン。

 

「『メテオビーム』!」

 

(? いきなりチャージありの大技———

 

 

 ———ギガイアスの『メテオビーム』!

 

 

「ルガァァァッ!?」

 

 ヘルガーには効果は抜群だ。ヘルガーは倒れた。

 

「・・・・・・え?」

 

 カリンは自身の横を通り過ぎたヘルガーを信じられない心境で振り返った。ヘルガーは横たわったまま動かない。

 

「・・・ガイア」

 

 圧倒的敗北感。楽しむ心を覚えたカリンに襲う理由ある絶望。

 

(結晶の光が・・・・・・消えかかっている?)

 

 その光景にカリンは僅かな光明を見出した。

 

「どうだ? 圧倒的火力。これに勝るロマンはない!」

「フフッ、ええそうね」

 

 ホウセンもまたその空笑いではなかった微笑みに、カリンが諦めていないことを察した。

 

「ホウセン・・・・・・賭けをしない?」

「賭け?」

 

 カリンが悪戯心が囁く。

 

「あたくしのポケモンとあなたのロマン、どちらが上か真正面からぶつかってみない?」

「真正面って・・・・・・ギガイアスと撃ち合いをするってのか!?」

 

 カリンが頷く。

 

「下準備が整えば、あたくしのポケモンはギガイアスに負けないわ」

 

 取るに足らない妄言。対戦相手が有利になる条件を自分から受け入れるトレーナーがどこにいるというのか。

 

「あたくしが最高の今をプレゼントしてあげる」

 

 受けるわけにはいかない。だがこれは公式戦ではない。守るべきプライドなど捨てていい試合。

 

「返答は?」

 

 その不敵な笑みがホウセンの26と9年の渇きを呼び起こす。

 

「もちろんYESだ!」

 

———

 

「フゥ」

 

 熱に浮かされた吐息を吐いて、カリンがモンスターボールを天高く投げ込んだ。

 

「ヤミィ」

 

(ヤミカラス・・・・・・だと!?)

 

 先攻はカリン。

 

———-

 

 ギガイアスの水色結晶は再び輝きを取り戻した。

 

「ヤミカラス『じこあんじ』!」

「ヤミィ」

 

 ヤミカラスはギガイアスの能力変化をコピーした。

 

「いいねえ。これで下準備は充分ってわけか!」

「お待たせ。さあ、思う存分酔いしれて♡」

 

 ひかえめな性格のギガイアスが柄にもなく昂っている。いつもはおっとりとしているヤミカラスが決闘時のガンマンのような眼光で合図を待っている。

 

 風に唆されて砂が舞う。

 

「「っ! 『メテオビーム(オウムがえし)』!!」」

 

 超出力! チャージ時間無し! 『メテオビーム』がギガイアスとヤミカラスの間で弾ける!

 

「ガイアァァァ!」

「ヤミャァァァ!」

 

 強力なビームを放出しているうちに5個、6個、7個とギガイアスの水色結晶が輝きを失っていく。しかし、ギガイアスを襲った予想外の現象はそれだけにとどまらない。

 

「っ!!」

 

 ヤミカラスの方が火力が高い!?

 

「ガイアァァァ!?」

 

 最後の水色結晶が消えたとき、ギガイアスの『メテオビーム』がヤミカラスのそれに押し負けた。

 

「『はがねのつばさ』! 『でんこうせっか』で加速して!」

 

 さらに恐ろしい素早さを得たヤミカラスがギガイアスに翼をぶつけながら旋回し、何度も何度も有効打を与えていく。

 

「出し切ったあとがあるとはなァ! 『じゅうりょく』!」

 

「ガイ・・・!」

「ヤミ!?」

 

 ヤミカラスの突進に合わせて、ギガイアスが適切な重力を自身に施し、地上の上を滑走して華麗に躱す。

 

「速い!」

 

 5個、6個、7個・・・・・・水色結晶の輝きが瞬く間に回復していく。

 

(まさかエネルギー源は重力!? けれど関係ないわ! 撃ったあとが一番の隙、そこを突いて必ず仕留める!)

 

 カリンもそれに気づいた。

 

「さあ今度こそ決めるぜ! 戦術名『グラニテブラストォ』!」

「『オウムがえし』!」

 

 ホウセンとカリンが合図を送る。

 

「ガイッアァァァ!」

「ヤッミャァァァ!」

 

 拮抗! ・・・・・・はしなかった。

 

「ヤミッ!」

 

 『グラニテブラスト』。『メテオビーム』のエネルギーに『ソーラービーム』を上乗せする。太陽と重力、二つのエネルギー貯蔵庫が存在するギガイアスだからこそできる脳筋戦術。

 

「旋回して『でんこうせっかァ』!」

 

 すぐさまヤミカラスは『メテオビーム』を中断して急速旋回! 『グラニテブラスト』は当たらなかった。

 

(これで決める!)

 

「『はがねのつばさァ』!」

「ヤミャァァァ!」

 

 『でんこうせっか』を常時発動して特攻するヤミカラス。ギガイアスの水色結晶に光は無い。『じゅうりょく』を発動する素振りもない。目に光を宿しているのみ。

 

「っ、ヤミカラス右!」

「ヤミッ!?」

 

 だが、『グラニテブラスト』は未だ健在!

 

「終いだ! 『サイコキネシス』!」

「ガイッアァァァ!」

 

 回り込んだ『グラニテブラスト』がヤミカラスに直撃した!

 

「ありがとうカリン・・・・・・ギガイアスで火力勝負なんて考えたこともなかった。間違いなく俺の人生史上最高の充実感だった!」

 

 ヤミカラス戦闘不能。しかし、その表情は主と同じく満足げだった。

 

「ええ、とても素敵なバトルだったわ」

 

 今はただ、どこまでも純粋に笑う少年に心打たれていた。

 

———

 

「ホウセン。あたくしはもっとバトルの強さを知るべきだと思うの」

 

 バトルフィールドの端にあるベンチで夕陽を眺めながらカリンがそう言った。

 

「いいんじゃないか。今のカリンなら人を魅了するバトルができると俺は思う。あとは奇想天外な戦術を基礎に落とし込めればおまえは無敵になれる」

 

 ガーゼを取り外しながらそう言ったホウセン。跡こそ残っているものの火傷がひりつく感覚は完全に消えている段階だ。

 

「あなたにも勝てるかしら?」

 

 その痛々しい傷が愛おしかった。

 

「さあな。そのときの俺はもっと無敵になってっから勝てねえかもな」

「フフッ、なによそれ」

 

 カリンはバッグを肩に掛けて立ち上がる。

 

「いくのか?」

「ええ、片っ端からバトルをしてくるわ」

 

 怖え怖えとホウセンが揶揄い交じりにカリンの正面に立った。差し出された右手にカリンは言葉を探す。

 

「決着は半月後のシロガネ大会だ」

「・・・・・・また会いましょ」

 

 結局、端的な言葉しか発せなかったが、その分力強い握手を交わした。

 





 呪術廻戦っていいよね〜
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