俺を倒して旅に出ろと言った親父が強すぎる   作:山雅将暉

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一週目の挑戦と第二の壁 〜悪夢のような現実〜

 その日の調整はベストという他ないほど絶好調だった。

 

 ホウセンの広い自室の中でギガイアスの水色の結晶は輝き続け、イダイトウは『アクアジェット』による微調整で空中回遊の際に生じる排水ロスを極限まで減らしていた。

 

(どれだ。どのポケモンでくる)

 

 一方のホウセンはダイアが新たに繰り出す二体目に思考を割いている。勉強机に重ねられた本の山。それははがねタイプのポケモンについて綴られたものばかりだった。

 

(はがねタイプはそう多くない。前世で一番メジャーだったメタグロスはイダイトウで確実に勝てる。ハッサムはギガイアスのあれさえ当てればどうとでもなる。大穴でサーフゴー。一番怖いのはハガネールか。あの物理防御力はイダイトウの天敵、そしてギガイアスの特殊攻撃も相性有利をとれるのは一つのワザだけ)

 

 さまざまなはがねタイプが頭に浮かんでは消えていく。整理して呑み込んでも喉に引っかかるなにかがとれる気配はない。

 

「結局、どれだけ想定しても選択肢が多すぎてどうしようもない。ポケモンもワザも、“見て勝つ”しかない」

 

「ギガ」

 

「ダイト」

 

(それにこれはアニポケバトル。バトル展開は星の数以上に存在する)

 

 ふと前世の古代ローマ将軍が頭に浮かんだ。

 

(カエサルってすげえな)

 

 来た、見た、勝った。カエサルが戦場に居るだけで告げられたあまりにも呆気なく簡潔な圧倒的勝利を表す言葉。

 

 コンコンとノックが鳴る。

 

「カブカブ!」

 

 ノックを鳴らしたのは、真っ青な身体とカブトムシのように尖った頭が特徴のポケモンだった。ホウセンが産まれて二日後に捕まえたダイアのそれは、フレンドリーに手を振ってホウセンを呼んでいた。

 

「・・・・・・サンキュー、カブルモ」

 

 ダイアが情報上の公平性を保つために、カブルモを報告係にしたのだとホウセンは受け取った。

 

(勝負の時間だ)

 

 短い深呼吸を終えて、スッと立ち上がったホウセンは、カブルモの尖った頭を撫でた。

 

「頑張るよ」

 

「カブッ!」

 

 ピシッと、無い親指を立てるような動作をすると、カブルモはリビングの方へ走っていった。

 

「よし。行くぞ」

 

 モンスターボールとダイブボールを向けられた二体のポケモンは頷いて赤い光線に吸い込まれた。

 

「必ず親父のXを解いてやる」

 

———

 

 場所はサザナミタウンのポケモンセンターを少し抜けた先。海から少し離れた反対側には崖がある。地面は変わらず砂浜。天気はやや曇り、降水確率は10%。

 

「雨が降ったら———」

 

「———中止はねえよ親父」

 

 ダイアはホウセンに釘を刺された。この砂浜がどんな環境に変わろうと逃がさないという重い釘を。

 

「・・・・・・言ってみただけだ」

 

 ホウセンの覇気に触発されて、ダイアもボールホルダーに手をかけた。

 

「やるぞエアームド」

 

「エアァァァ!」

 

「ギガイアス」

 

「ガイアァァァ!」

 

 重々しく砂浜に着地したギガイアスにダイアは目を細めた。そこにあったのは感嘆と期待。ギガイアスに進化させる判断はあまりにも重い。

 

 ガントルを使い慣れている人間ほど、ギガイアスになった際に生じる重量差に苦しんでしまう。トレーナーをやっていれば、その重さを理解できる。

 

「旅の前哨戦だ。アゲてくぞギガイアス!」

 

「ガイア」

 

「まだ早えよ。あと一年は家に残ってもらう」

 

「エアァ」

 

 ギガイアスの高いテンションに反して、エアームドはもう許してあげればと言わんばかりに溜め息を吐いていた。

 

(エアームドの攻略のカギは“多段攻撃”。『くだけるよろい』によって低下した防御力を突く)

 

 ダイアがシャツの胸ポケットから取り出したコインを親指に乗せた。

 

「はじめようか」

 

「ダヴァイ!」

 

 何語だそれ。と思いながらダイアはコインを打ち上げた。

 

 波が引いていく音がいやに長く感じた。鮮明な時間だ。二人は極限まで伸ばされたときを味わっていた。

 

「っ」

 

 ダイアは伸ばされる時間のなかで僅かに困惑した。妻以外に久しく感じることのなかった手加減ができないバトルに足を踏み入れた感覚。

 

 サクッと砂浜にコインが刺さる音がした。

 

 ゆえに決断した。エアームドの最強理論を解放する。

 

「『ブレイブバード』!」

 

 エアームドが青白い光と共に空へ羽ばたいた。ホウセンはギガイアスに指示を出さず、上昇するエアームドを目で追っていた。

 

(『くだけるよろい』を活用した高速アタッカーなら『ブレイブバード』を使うことに違和感はない。違和感があるとすれば、親父がその型を使っていること)

 

 エアームドのよろいが砕けた。

 

「なるほど・・・・・・」

 

(『ブレイブバード』の自傷ダメージで『くだけるよろい』を発動させた。これでワザを受けずとも、スピードが加速度的に上がっていく)

 

 エアームドが雲を突き抜ける頃には目で追うのもやっとな速度へと至っていた。

 

「『ステルスロック』」

 

 ギガイアスが結晶から生成した岩が砂浜の上を散らばり、姿を消さずにフィールドに根差す。

 

「・・・・・・嫌な一手を覚えやがって」

 

 ダイアは思わず吐き捨てた。

 

 見える『ステルスロック』。それは相手の走行ルートを限定しつつ、交代先へのポケモンにプレッシャーを与える。

 

(親父はもうこの戦術がわかったのか。・・・・・・いや、知っていたんだろ。だが関係ない)

 

「エアームドォ! 『マグネットボム』!」

 

(親父の既知に俺の未知を混ぜる)

 

 空に届くよう声を張り上げたダイアに合わせて、エアームドが雲の中から現れた。

 

「エアァァァ」

 

 広げた翼から溢れる大量の磁石爆弾。それは不謹慎ながらも空襲を彷彿とさせた。

 

(空中からの絨毯爆撃。この戦術の長所は、速さと高さで翻弄してエアームドのワザを継続的に与え続けられることと、『ステルスロック』の排除が可能)

 

 エアームドの位置はギガイアスの真上に近く、照準を合わせている。ここで迂闊な『じゅうりょく』を使おうものなら、初戦の焼き直し。

 

 

「加重三倍『じゅうりょく』」

 

 

 それでも使う。ただし! 出力はワリ増しで!

 

 

「ギガ!」

 

「エアァァァ!?」

 

 その瞬間、エアームドがギガイアスの傍の砂浜に堕ちて、遅れて飛来した全ての『マグネットボム』が爆発する。それは奇しくも二体を巻き込み、それぞれにダメージを与えた。

 

(ギガイアスはまだまだ余裕そうだ。どうやら雲の向こうで『つるぎのまい』はされていなかったらしい)

 

「っ!」

 

 一方、いくらなんでも墜落速度が速すぎるとダイアは動揺した。そして、『じゅうりょく』の出力が増していることに気づいた。

 

「潜れ。『ドリルライナー』」

 

 エアームドが凄まじい回転速度で穴を掘り進めて地面に潜った。舞い上がった砂が収まる頃にはエアームドの姿はなかった。

 

(じめんワザの打ち所・・・・・・だが、ここでじめんワザを使うと空中戦を対処できるか怪しくなる。しかし、地中で『つるぎのまい』なんてやられたら勝ち目がなくなる)

 

「どうするホウセン。このまま睨めっこして終わるか?」

 

 大地と空のバトル。ダイアが考えたエアームドの活かし方は、圧倒的素早さを最大限活用した三次元バトル。

 

 それを理解して腹が決まった。

 

(ちょっと早いが、あれやるか!)

 

「ギガイアス『ステルスロック』を追加だ。穴ん中へぶち込め」

 

「ガイ。ガイアッ」

 

 すでに結晶を光らせていたギガイアスが『ステルスロック』を展開しようと構えた瞬間。

 

「『ドリルライナー』」

 

 砂浜に潜伏するエイの如く、浅く潜っていたエアームドがギガイアスの眼前で二本足で立ち上がって嘴を高速回転させていた。

 

(U型に穴を掘って浅い砂の中で過剰重力に慣れさせたのか。しかも隙を晒した瞬間これか! エグいな!)

 

 だが、ホウセンは落ち着いて人差し指を横に振り抜いた。それは、『ステルスロック』を含めた全ワザの発動キャンセルと、もう一つの意味を持った合図だった。

 

「なっ———に!?」

 

 ダイアは信じられないものを見た。260kgの超重量の身体が緩やかに横へスライドする景色。

 

 『ステルスロック』のキャンセルまでは想定していた。しかしまさか、ギガイアスがワザを躱すという行動が出ることは想定できなかった。

 

 水色結晶が著しく輝いた。『ラスターカノン』を遥かに凌駕する流星の輝石が瞬き、ホウセンが合図を出した。

 

 

「『メテオビーム』!」

「ガィアァァァ!」

 

 

 エアームドの視界が水色でいっぱいになった。

 

 

———

 

「・・・・・・たく、父親つっても俺はまだ19だぞ」

 

 戦闘不能に陥ったエアームドをモンスターボールに戻しながら、ダイアは嘆くように独り言ちる。

 

「ここまでされると・・・・・・」

 

 手強いトレーナーとバトルできて嬉しいような、また父親である自分を忘れて反省するような、複雑な心境でダイアはとっておきのボールを手にかけた。

 

「テンション上がって仕方ないだろ!」

 

 宙に舞った一つのモンスターボール。開くと同時に現れる圧倒的重量感。着地の衝撃で砂が緩いさざなみのように流れた。

 

「コッドォォォォ!」

 

 ボスゴドラに尖った岩が食い込んだ。だが、ボスゴドラは意に介していない。

 

(そう来たか。ポケモンの意外性もそうだが・・・・・・いくらなんでもデカすぎる!)

 

 ホウセンの脳裏に知識が浮かぶ。オヤブン個体。

 

 ボスゴドラが青い瞳を輝かせて雄叫びをあげた瞬間、またもや砂が宙を踊った。

 

(生まれてはじめて見た。これがオヤブン)

 

 ホウセンは自身の両頬を叩いた。短く切ったはずの紫髪が視界の端に映ってはじめて、下を向きかけていた自分に気づいたからだ。

 

「勝つ。勝って乗り越えんぞ!」

 

「ギガ!」

 

「鈍ってないよなボスゴドラ」

 

「コッドォォ!」

 

 第二試合にコインはない。公式ルールでは最後にワザを放ったポケモン側が自動的に後攻となる。すなわち、先攻はボスゴドラだ。

 

「『ステルスロック』」

 

 ボスゴドラは尖った岩を砂浜に食い込ませた。

 

(ギガイアスと同じ見える『ステルスロック』)

 

 ホウセンが目をあちこちに向けてフィールド上に散らばる岩の位置を把握する。配置はボスゴドラが立つ位置から“斜め等間隔”、気持ち悪いくらいに正確だ。

 

(・・・・・・考えられるパターンはフィールドに散らばる岩を盾に、ギガイアスに接近して高火力ワザを叩き込むスタイルか? いや、それだと———)

 

 本来高速で動くポケモンに有効な見える『ステルスロック』を鈍重なギガイアスに使われたことで、ホウセンには数多くの疑問符が浮かんでいた。

 

(どうする、最悪『まもる』使ってでも粘り勝つしかないか。いや、それは早計だ。ギガイアスが積み上げた『じゅうりょく』という技術を信じろ)

 

「チャージ重めで『メテオビーム』!」

 

「ガィィィィィィ」

 

 いつでもワザをキャンセルできるように人差し指を立てて指示を出す。ギガイアスの水色結晶が鋭く輝いていく。

 

「チャージ時間すらも罠にしたか。ったく、ここまでおそろしい『じゅうりょく』は初めてだ。・・・・・・サプライズ決めんぞボスゴドラ!」

 

「ッド! コォォォォドォォォォ」

 

 ボスゴドラの口に薄い鋼色のエネルギーが集約されていく。

 

(なんだ? なぜか、このボスゴドラに遠距離攻撃をしてはいけないと勘が言っている)

 

 ダイアは未だにワザ名を口にしていない上に、ボスゴドラの口に集約されたエネルギーの玉が透明になっていくことがホウセンの不安に拍車をかけた。

 

(だがチャージはすでに限界以上に極まっている。あとは最大パワーで撃ち抜くだけだ!)

 

「っ撃てェェ!」

 

「ガィアァァァ!」

 

 ギガイアスの口から溜め込まれた莫大なエネルギーが発射される。正当なる『メテオビーム』の使用法。

 

 ガッ! ガッ! ガァァァ!

 

 前方の見える『ステルスロック』の悉くを破壊していく水色系の光線。

 

 ギュゥゥゥゥ!

 

 それをボスゴドラは溜めていた透明なエネルギーにわざと当てて・・・・・・『メテオビーム』のエネルギーを我が物とした。

 

「は?」

 

 意識を宇宙の狭間に持っていかれたホウセンは、まるでブラックホールのように『メテオビーム』を吸収した“X”に対し、適切なアンサーを持ち得なかった。

 

「『メタルバースト』」

 

「コォドッ!」

 

 『メテオビーム』が球体となって返ってくる。ホウセンの意識がようやく地上の肉体へ戻った。

 

「———っ! 避けろォ!」

 

 ギガイアスの身体が横にスライド———。

 

「ガイッ!?」

 

 ———ギガイアスの身体に尖った岩が食い込んだ。

 

「なっ!?」

 

 と言いながらもホウセンの思考は回る。

 

(ミスディレクションか! 見える『ステルスロック』に混じって、透明な『ステルスロック』を設置していた! ギガイアスは必要な分しか動かない・・・・・・そこを突いた一発限りのイリュージョン!)

 

 

 動けないギガイアスに『メタルバースト』が命中した。

 

 

「ギガイアスゥゥゥ!」

 

 ギガイアスにホウセンの叫び声に応えられる力は、すでに残っていなかった。

 

———

 

 結晶の光が消え失せ、力尽きたギガイアスをモンスターボールに戻したホウセンは口元に手を当て猛省する。

 

(今の『メタルバースト』、特殊攻撃のエネルギーを瞬く間に吸収した。おそらく、相手のワザの威力そのまま自分のモノにした上で、はがねタイプに変化させている。でないと、ギガイアスがこうもあっさりやられた理由に説明がつかない)

 

 レベルは統一している。その事実が、訳もわからない『メタルバースト』を看破する手助けとなった。

 

(迂闊だったぜ。思い知れよホウセン。ここは現実・・・・・・強力なワザを当てれば勝てる世界じゃねえんだ!)

 

 ダイブボールの冷たさが、熱くなっていた脳味噌に冷静さを齎した。

 

(イダイトウの『おはかまいり』は、そのバトルで倒れたポケモンたちから力をもらう特別なものだ。だが、今回のバトルで倒れたポケモンはエアームドとギガイアスのみ。相性から考えても『ウェーブタックル』の方が火力が出る)

 

「行くぞイダイトウ!」

 

「ダイトォ!」

 

 霧のような赤い霊気が尾鰭を中心に覆ったそのポケモンが宙を泳ぎながら現れた瞬間、ダイアはこのバトル一番の動揺を露わにした。

 

「え、新種!?」

 

「違えよ親父。古代のポケモンだ」

 

「は・・・・・・いや、だが! 俺もシキミに倣って考古学をそこそこ読んじゃいるが、イダイトウなんてポケモン見たことも聞いたことも———」

 

 ダイアの知識は決して浅くない。むしろ深い方だ。小説家の妻に合わせて読むようになった本はなにも小説だけではない。トリデプスというはがね複合の化石ポケモンについて記された歴史書やらは深く読んでいた。

 

 それだけに、目の前の奇跡をうまく呑み込めなかった。

 

「———お袋の本に書いていた」

 

「あっそう。じゃあ、居るのか」

 

 はずだったが、彼は愛妻家である。妻に置かれた全幅の信頼が、目の前の未知を呑み込ませた。

 

(やっべえ。咄嗟に言っちまったけど、お袋そんな本持ってっかな?)

 

 一方、ホウセンは冷や汗ダラダラだった。

 

 全てを知るがゆえに起きた現実との擦り合わせにホウセンは頭を抱えた。

 

(まあ次、もっとそれらしい言い訳を考えればいいか。八歳がなに口走っても安易に信用されないだろ)

 

 と、殊の外楽観的に受け入れた。

 

「ホウセンをよろしくなイダイトウ」

 

「ダイトォ♪」

 

 呑気なやり取りをしているダイアとイダイトウに、ホウセンはイラっときた。それは「こっちの気も知らないで!」というこの世界の住人には少し理不尽な怒りと、さっきのバトルでの不甲斐無さに対する怒りだった。

 

(・・・・・・もっと楽しいバトルができるだろ! ここは夢の世界だ! ディズニーランドよりも素晴らしい世界だ!)

 

 最早怒りしかなかった。

 

「ぶっ潰すぞイダイトウ!」

 

「ダイ!?」

 

 和んでいた雰囲気が一気に引き締まった。

 

「おまえはこれから地中を泳ぐ! 名付けて地中回遊だ!」

 

「ん?」

 

 ダイアが「なに言ってんだコイツ」と言わんばかりの視線を向けるも、ホウセンは止まらなかった。・・・・・・イダイトウは止まれなかった。

 

「ダイト!」

 

 その夢に感化されたためだ。

 

「『ウェーブタックル』! 『ステルスロック』よりも深く潜航しろォ! 行けェ!」

 

「ダイトォォォォ!」

 

 莫大な水量がイダイトウを覆う。

 

 ダイアはこのとき「すげえ高火力ワザ覚えてんなぁ。これは頼もしい」と暢気に考えていた。それはホウセンの今の発言ができると思っていなかったがゆえの態度だった。しかし、ホウセンは確信していた。

 

(できるんだよ! なんせコイツは洞窟内の硬い岩盤すらもぶち抜いて泳いできたんだからな!)

 

 ズシュァァァァァァ!

 

 イダイトウが砂の中へ潜った。

 

「? っ!???!?」

 

「こ?!?!?」

 

 ダイアとボスゴドラは現実を直視できなかった。いや、正確には直視させられた現実を受け止め切れなかった。

 

「いやいやなんで泳げる!?」

 

「直進3mだ! 周回遅れの野郎どもに現実をくれてやれ!」

 

「ィダイットォォォォ!」

 

「コドォォォォ!?」

 

 ボスゴドラには効果抜群だ。ボスゴドラの急所に当たった。

 

「ボスゴドラ!?」

 

「コッドォ———!」

 

 防御力にはある程度の自信があった。たとえ、レベルを合わされてもその事実が覆ることは決してないと考えていた。だがボスゴドラは、腹部に喰らった『ウェーブタックル』の打撃点を思わず抑えて、膝をついていた。

 

 すでにイダイトウは再び地中を回遊している。

 

「ハッハ! なんてザマだよ。ったく、この年で人から若さを感じることになるとは思わなかったぜ」

 

「ッ、コド」

 

 今度はダイアとボスゴドラが己の不甲斐無さを感じるばかりだった。可能性を軽視した結果訪れたピンチとボスゴドラの腹部の痛み、それが———。

 

「いくぞボスゴドラ! 俺たちの集大成を見せてやれ!」

 

「コッドォォォォ!」

 

 ———本気のバトルで食ってたあの頃を思い出させた。

 

 ボスゴドラの全身が光り、その光が口に集約されて鋼色のエネルギーが球体となって溜まってゆく。

 

(きた。だが今度の『メタルバースト』の使い方は正当なそれだろ! 『がんじょう』の可能性を考える必要がなくなった今! 俺たちが日和るわけねえだろうが!)

 

「『アクアジェット』!」

 

 ホウセンはこのとき、無意識にゲーム的な戦法をとった。実際にこの世界でも腕の立つトレーナーであれば、体力が減った相手に“先制技”は定石。

 

 ガン!

 

 ゆえに考えなかった。

 

「なん、でだ———?」

 

(『ウェーブタックル』から威力が数段落ちるとはいえタイプ一致『てきおうりょく』だぞ? なんで、なんでおまえ)

 

 ボスゴドラが“余裕を持って”。

 

「耐えてんだよォ!?」

 

 耐えるという可能性を。

 

 

「お返しだ。『メタルバースト』!」

 

 

 めのまえがまっくらになった。

 

 

———

 

 ホウセンは、気がつけば以前のようにポケモンセンターでギガイアスとイダイトウを回復させて、豪邸も別荘もない海側の浜辺奥に立っていた。

 

「負けた。俺のなかにあった常識がおまえたちを負けさせてしまった」

 

「ガイ」

 

「ダイト」

 

 二体のポケモンが首を横に振る。

 

 しかし、ホウセンが悔やんだのはあの場面で迂闊に飛び込んでしまった浅慮だった。

 

「勝てると思っちまった。『アクアジェット』さえ当てれば、ボスゴドラを仕留められると・・・・・・思っちまったんだ」

 

 砂に二粒の雨が降った。ホウセンの視界を短い紫髪が入り込んだ。

 

「ごめん。ごめんなおまえら!」

 

 ドス!

 

 ホウセンの身体が海上へ飛んだ。

 

「ぶぐばぶるぶるが!」

 

 急に景色が海中へと変わったホウセンは、目と口に突如入り込む海水に戸惑いながらも、身体を横にして全身から力を抜き、水面へ浮かせた。

 

 すっかり晴れた青空を見上げる体勢でホウセンが口を開く。

 

「テメエイダイトウ! なにしやがるんだ! 俺はこの人生ではじめて謝ったんだぞ!」

 

「ギガ(はじめてだったのか)」

 

「ダイト(いい人生送ってやがんな)」

 

「答えろボケ! 人がナイーブになってるときは追い詰めちゃいけないんだぞ! 海上保安庁に訴えてやろうか!」

 

「ダイ(海上保安庁とはなんだ?)」

 

「ガイア(海の警察みたいなものだ)」

 

「ダイトイダイ(おお怖い怖い。助けてくれよギガイアスぅ)」

 

「ギガ、ガイア(人間は俺たちの言葉がわからないから弁明のしようがないな)」

 

「ィダイト(だがホウセンは訴えない)」

 

「ギガ(なぜなら)」

 

「「(泣いたからw)」」

 

「テメエらぶっ飛ばしてやる! イダイトウは炭の上で焼いて蒲焼きっぽい香りを出させながら目の前で飯食ってやる! ギガイアスは海の中に沈めて浮かんでこれるまで『じゅうりょく』特訓させてやるぅ!」

 

「ギガ(やれるものなら)」

 

「ダイト(やってみろ)」

 

「ちくしょぉぉぉ! 次は絶対に勝ってやるゥゥゥ!」

 

 海の潮水にちょっぴり酸っぱい水分が混じった。




 現在執筆中の話に合わせて、少し推敲いたしました。

 具体的にはダイアとボスゴドラが二発目の『メタルバースト』を放つシーンで『バトルで食ってたあの頃を思い出させた』を『本気のバトルで食ってたあの頃を思い出させた』に変更しました。

 勝手ですいません。
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