俺を倒して旅に出ろと言った親父が強すぎる   作:山雅将暉

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二度目の挑戦 〜共進化〜

『バオッキー“フレアドライブ”!』

 

『カブルモ“こらえる”』

 

 カブルモは『フレアドライブ』をこらえた。

 

『“カウンター”』

 

 カブルモの『カウンター』。バオッキーは倒れた。

 

———

 

 やや曇りの朝。

 

 ホウセンはいつかの辻バトルを思い出しながら、ダイアがどのようにシュバルゴを仕上げてくるか分析していた。

 

(元々我慢強くて『ゆうかん』だったカブルモは、相手の攻撃を耐えてから反撃するのが抜群に上手かった。なによりそのバトルスタイルはカブルモの『むしのしらせ』を発動させる上に、体力ギリギリの戦いでもパフォーマンスが全く落ちないパッションを・・・・・・アイツは持っている)

 

 ギガイアスの『メテオビーム』。

 

 アギルダーが目を開けた。

 

「アギッ」

 

 アギルダーには当たらなかった。アギルダーは目を閉じた。

 

(継続的強さに於いて、俺はカブルモの右に出るポケモンを知らない。カブルモの時点でそうだったんだから、これからどんな化け物に進化していくか・・・・・・)

 

 アギルダーの『さ———』

 

 アギルダーが咄嗟に目を開けた。

 

「アギッ!」

 

 ———イダイトウの『アクアジェット』。

 

 イダイトウを躱して、砂の上を転がったアギルダーがすぐさま体勢を立て直してギガイアスに向き合った。

 

(今から楽しみだ)

 

 ギガイアスの『メテオビーム』。アギルダーには当たらなかった。

 

 アギルダーがとあるワザを繰り出そうとするも間に合わず、再びギガイアスの『メテオビーム』を躱した。

 

 朝7時から繰り返しているギガイアスとイダイトウを相手に鍛える反応速度と『メタルバースト』攻略の特訓。

 

「アギッ!」

 

 砂の上を滑走するほどの速度で駆け抜けたアギルダーの下へ歩み寄るホウセンは「逃げに集中しすぎだ」と溢しながら。

 

「アギィィィ!?」

 

 イダイトウの『アクアジェット』。

 

 アギルダーが宙に飛ばされる光景を見ていた。懐から『オボンの実』を取り出し、アギルダーに手渡した。

 

「アギィ!」

 

 憎々しげにホウセンと『オボンの実』を交互に見ながら、アギルダーはそれを食した。

 

 その間にホウセンはギガイアスの結晶の光がいくつ無くなっているかを確認した。

 

「12のうち3つ。ギガイアスの莫大な結晶エネルギー9つ分は奪ったか、やっぱおまえは凄えよアギルダー」

 

 アギルダーは複雑な心境に陥った。今一番この憎たらしい状況を生み出しているホウセンに褒められたからだ。

 

「ただ、奪うことに集中しすぎるときがある」

 

「アギ」

 

 気がつけば目を閉じて、聞き入っていた。

 

「“適度な逃げ”と“奪うエネルギー”をマルチタスクと捉えるな。次は適度な逃げを成立させるために、自身を害するエネルギーだけを奪い取れ」

 

「アギッ!」

 

 ホウセンは目を閉じるアギルダーに「それと」と付け加えた。

 

「おまえはこのままだと・・・・・・今回のバトルで俺の『かわせ』という指示が如何に頼りないものなのかを思い知ることになる」

 

「アギ?」

 

 アギルダーは疑問だった。ホウセンという主人ができたのであれば、ホウセンの合図のときだけ目を開いて要所要所で集中すれば自身は無敵だと考えていたからだ。

 

「だから今の特訓を絶対に忘れるな」

 

 念押しするような言葉がアギルダーの脳に染み込んだ。

 

———

 

 テンテンテレレン♪

 

「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは元気になりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ仕事ですから。頑張ってねホウセンくん。頑固なお父さんを倒して旅に出るのよ!」

 

 サザナミタウンのジョーイさんは、すでに何度も利用しているホウセンの事情を知っていた。ここのポケモンセンターを利用する人が少なかったことと、珍しくサザナミタウンに住んでいるがゆえに、ジョーイさんは近所のおばさんよろしくホウセンを応援していた。

 

「あっはい」

 

 その応援はむしろ、バトルの楽しさに目覚めて求める結果と過程が逆転しかけているホウセンにとっては眩しすぎた。

 

———

 

 昼過ぎ。天気は晴天。砂がよく乾いて踏みやすくなっている。

 

「んんん」

 

 ホウセンは砂を踏みながら苦々しげな表情を隠さず唸った。約束の時間はすでに五分前。この環境でバトルすることは最早変えられない。

 

「待たせたな親父」

 

「時間通り・・・・・・むしろ、早いくらいだ。調整は無事に終わったか?」

 

「・・・・・・・・・・・・ぼちぼち」

 

 微妙な顔を作ったホウセンの言葉にダイアも渇いた笑いを作った。

 

「こっちもだ。お互いに今回のバトルは苦戦しそうだな」

 

 ここに生まれた共通の見解。アギルダーとシュバルゴのバトルは、かつてないほどトレーナーとしての技量が問われるモノになる。

 

 アギルダーは進化前との動きの擦り合わせ。速くなりすぎたがゆえに生じた現実のギャップ。

 

 シュバルゴも進化で鎧を身につけたことによる鈍重さに振り回されないように立ち回る必要がある。

 

 いい指示をできるかではなく、それぞれのポケモンのいい動きを引き出せるかの勝負。

 

「いつもと毛色の違う緊張感を感じるな」

 

「同感だ」

 

 二人はボールを構える。

 

「だがこの緊張感が———」

 

「———心地いい。だろ?」

 

 ホウセンとダイアは頷いて、ボールを宙に投げた。

 

「開戦の狼煙だぜ。ギガイアス!」

 

「ナットレイ!」

 

「ギガ!」キラン⭐︎

 

「ナットッ!」キラン⭐︎

 

 ホウセンは目を見開いた。すでにシュバルゴという三体目が待ち構えているにも関わらず、新しいポケモンを繰り出したことに少なくない驚きを抱いていた。

 

(柄にもねえことしてやがる)

 

 それがトレーナーの先達としてのダイアが送る駆け引きの世界。勝負の内容が、ポケモンの数を合わせるホウセンの手持ち総出バトルだからこそ、ダイアは三対三で戦えるこのタイミングでのみ有効な未知を与える。

 

 ホウセンの情報を知るトレーナーとのバトルという未知を。

 

(これは・・・・・・今回エアームドとボスゴドラは無し、か?)

 

 ホウセンは喜びに震えて感じ入る。このバトルはかつてないほどの未知に溢れていると。

 

「映えるねえ! 互いに色違いとはこれ以上ないほどに映える! このエンタメは俺がモノにする!」

 

 おまえらってほんとそういうの好きだよなと言わんばかりの表情を見せたダイアは「はじめよう」と開戦の合図をあげた。

 

「並列速射だ。『メテオビーム』!」

 

「ガィアァァァ!」

 

 12の結晶から同時に光線が立ち昇る。計12発の並列起動『メテオビーム』。

 

 ダイアは逃げ場をなくすための技術だと感じた。空を飛ぶエアームドを捉え、『くだけるよろい』を利用して防御を下げさせることを想定した多段ヒット型『メテオビーム』。

 

「『パワーウィップ』」

 

「ナトッ!」

 

 そう感じたダイアはナットレイに数えきれない巨大な蔦を何重にも正面に生えさせ盾とした。

 

 『メテオビーム』はナットレイの『パワーウィップ』に阻まれた。

 

「まだまだ軽いジャブだ・・・・・・『だいちのちから』!」

 

 しかしホウセンとギガイアスの本命は、二撃目の“特殊攻撃”にある。

 

 地面から隆起したじめんエネルギーの塊・・・・・・『だいちのちから』が『パワーウィップ』を弾き飛ばした。

 

「ナッ!?」

 

「っ! まさか!?」

 

 妻のシャンデラの『かえんほうしゃ』をギリギリで防ぎ切る密度の『パワーウィップ』をあっさりと貫かれたことで、浮かんだ仮定の甘さをダイアは察した。

 

「ナットォォ!?」

 

 ナットレイが苦悶の声をあげた。

 

「『やどりぎのたね』!」

 

 同時にダイアは『やどりぎのたね』の受け出しを反射的に命じた。ナットレイの口からいくつかの種が吐き出された。

 

「ギガッ? ガイッ!」

 

 ギガイアスに『やどりぎのたね』が植え付けられた。

 

(正面右左、それぞれに放出して逃げ場を潰されたか!)

 

 上手いと反射的に思い、次なる反撃に転じかけたホウセン。

 

 一方ダイアはギガイアスの能力変化に戦慄していた。『メテオビーム』6発分の能力上昇が一瞬で起きたことに冷や汗をかいた。

 

「『パワーウィップ』だ!」

 

 ナットレイは感じていた。ダイアの焦りを、そしてここで勝負に出なければ負ける。そんな分岐点に立っていると。

 

「は?」

 

 刹那、『やどりぎのたね』が急成長して太い蔦へと変貌した。

 

「ガイアァァァ!?」

 

 それは瞬く間にギガイアスを巨大質量の打撃を与えつつ、ギガイアスの関節に絡まり拘束した。

 

(上手え! なんだこの技術は)

 

 ホウセンはあまりにも鮮やかに捕えられたその美技に魅入っていた。

 

(とんでもねえな。ワザ二つでここまでの窮地に追い詰められるとは思わなかった。ナットレイの動きの無さをカバーするために、動きを固めて同じバトルを強要する・・・・・・強いて言えば“強制不動”。自分の土俵に上げるバトル)

 

 なんとなく、どんなポケモンのために仕上げられた技術なのかホウセンにはわかった。高速アタッカーに対処するための技術。

 

(クソったれ。天候に頼る気はなかったんだが———!)

 

 自然と歯噛みした。ホウセンは今この晴天という最大の運要素に頼ろうとしている。そうせざるを得ない状況に陥った自身の弱さが癪に触って仕方なかった。

 

「決めるぞナットレイ『タネばくだん』」

 

 強気なくさワザ偏重。ホウセンの後ろにイダイトウがいるゆえのワザ選択。

 

「ナッットォォ!」

 

 宙に生成した種型の爆弾がギガイアスに飛来する。

 

(———それもまたドラマ! この運を活かして俺は先にいく!)

 

 その結論に至った瞬間、ホウセンから迷いはなくなった。

 

 

「『ウェザーボール』!」

「ガィッアァァァ!」

 

 

 それは天候をエネルギーとして放つワザ。現在は、太陽が王権振り翳す晴天。そのエネルギーは太陽から炎を受け取り球体となって発射される。

 

 『タネばくだん』が炎で誘爆した。ギガイアスには当たらなかった。

 

「っ! 『パワーウィップ』!」

 

 間に合うか!?

 

 ナットレイの『パワーウィ———。

 

「ナットォォ!?」

 

 ナットレイには効果抜群だ。ナットレイは倒れた。

 

———

 

「戻れ『ナットレイ』」

 

 ダイアはしてやられたと言わんばかりの表情でナットレイを戻した。

 

(『メテオビーム』をも防ぎ切る『パワーウィップ』の壁もあくまで初期状態のギガイアスだったらの話。特殊能力が最高ランクまで上がったギガイアスの『ウェザーボール』はさすがに防げなかったな)

 

 冷静に今起きた状況を整理するホウセン。それは冷えまくった肝に熱を戻すためだった。ホウセンの脳内を過ぎるのは、晴れが無く、長期戦に持ち込まれた場合のバトル展開。

 

(マッジで晴れでよかったァ〜)

 

 バトルで熱くなっていた脳が冷えはじめて、ようやくその認識に至れた。

 

「この晴れを上手く活用したな」

 

「まあ、運が良かっただけだよ。活用できる運がそこにあった」

 

 その解答にダイアは心からの笑みを浮かべた。てっきり、その幸運に生かされる屈辱を味わっているのだとばかり思っていたからだ。

 

 この瞬間にホウセンから運に頼るという発想は消えた。運とは活用するものであると認識を改めたのだ。

 

「ふぅ・・・・・・次だ!」

 

 排気ガスのような溜め息を吐いて、急かすホウセンにダイアが頷いた。

 

「出番だドータクン」

 

「ドータッ」

 

 現れたのは銅鐸ポケモン。その釣鐘型の肉体が宙に浮いてから、ホウセンはボスゴドラの『メタルバースト』を味わったあのときに近い感覚を覚えていた。

 

(やべえ。ギガイアスが身体を蔦で固定された状態でコイツの相手はマズイ)

 

 先攻はダイア。

 

「『トリックルーム』」

 

 ドータクンが展開したそれは素早さの概念を逆転させる部屋。部屋内のポケモンが遅ければ遅いほど動きが速くなる。

 

「速攻だ『ウェザーボール』!」

 

 それはギガイアスにも共通していることだが、ナットレイが生み出した蔦が拘束具として残っている以上、ギガイアスがこの空間内で速く動くことはない。

 

「ガィアァァァ!」

 

 ギガイアスの『ウェザーボール』。ドータクンには当たらなかった。

 

 ドータクンは自身の身体を緩く回転させて、ギガイアスが放った『ウェザーボール』を華麗に躱した。

 

(おかしい、なぜ高速で動かない?)

 

 ドータクンの能力を数値的に知るホウセンだからこそ起きた困惑。この空間内ではもっと速く動けるはずなのにそれをしない。

 

「『ラスターカノン』」

 

「『メテオビーム』で弾き返せ!」

 

 ドータクンが放った『ラスターカノン』は、口内一点に集中されたギガイアスの『メテオビーム』に貫かれた。

 

「ドータッ」

 

 ドータクンは僅かに仰け反り、『ラスターカノン』を貫いたそれを回避した。

 

(まただ。回避がギリギリなのに余裕がある)

 

 その矛盾がバトル展開の気持ち悪さを増長させた。

 

「『ウェザーボール』!」

 

「ガイアァァァ!」

 

「『サイコキネシス』」

 

「ドータァ」

 

 ホウセンは『サイコキネシス』の意図を理解していた。理解した上で特殊能力を最大まで上げた『ウェザーボール』を操れるはずがないと高を括っていた。

 

「なっ!?」

 

「ガイッ!?」

 

(ギガイアスの“首を曲げやがった”!)

 

 しかしダイアは見抜いていた。『ウェザーボール』が結晶から発射できない事実を。

 

 ギガイアスの『ウェザーボール』は当たらなかった。

 

(コイツも上手え。ギガイアスにワザを外させた)

 

 射角を強引に変えられたギガイアスは『ウェザーボール』を明後日の方向に放ち、ドータクンから送られる念動波に苦悶の声をあげた。

 

「ドータ〜」

 

 ドータクンが緩やかにギガイアスへ接近する。

 

「『パワースワップ』」

 

「待て待てそりゃマズイ!」

 

 ホウセンがバトル中にはじめて、反射的な弱音を漏らす。

 

(『ウェザーボール』は当たらねえ! 上昇した特殊攻撃は奪われる! ここからドータクンの『サイコキネシス』の拘束力は上がりまくる・・・・・・クソッタレ!)

 

「『ステルスロック』」

 

「『ラスターカノン』」

 

 ギガイアスの『ステルス———』

 

「ドータァァァ!」

 

 ———ドータクンの『ラスターカノン』。ギガイアスには効果抜群だ。ギガイアスは倒れた。

 

「ッ・・・・・・恐れ入った」

 

 置き土産にギガイアスが『ステルスロック』を設置する間もなく倒された事実にホウセンが思わず言葉を溢させた。

 

(ここにきて『トリックルーム』を最大限活用した高速『ラスターカノン』。肝心なときに出す最高速度を対処できないタイミングで・・・・・・理想的な高速アタッカーのバトル展開)

 

「お疲れさん、ギガイアス」

 

 舌を巻きながらギガイアスをボールに戻した。

 

(それをまさか、ドータクンにやられるとは思わなかった)

 

 奇しくも、ホウセンがアギルダーにさせたいバトルをドータクンは完璧に実行していた。

 

 ギガイアスがボールに戻ったタイミングで『トリックルーム』が解けた。フィールドの戦略的アドバンテージはこれで五分五分に戻った。

 

「タイムだ親父! 5分だけ考える時間をくれ!」

 

 それによって、ホウセンは悩む決意ができた。

 

「わかった。飲み物はいるか? すぐそこに自販機があるから買ってくるぞ」

 

「サイコソーダを一本頼む」

 

「OK、じっくり考えろ」

 

 ダイアは能力変化をリセットさせないためにドータクンを出しっぱなしでポケモンセンターに向かっていく。

 

「ドータ〜」

 

 ホウセンに優しげに微笑んできたドータクンは、ダイアの背後を緩やかに浮かんでついていった。

 

(次のポケモンはどうする? “バトル的に考えてアギルダー”だが、この天気・・・・・・“環境的に考えるとイダイトウ”だな。仮にアギルダーが長期戦に持ち込まれたら勝ち目はますます薄くなる。かといってイダイトウの『おはかまいり』はまだ最大威力で使えない)

 

 ザバァと波打つ音がホウセンを攻め立てるように鼓膜を叩く。

 

(俺はまだバトルにプライドを持ち込んでいる)

 

 ギガイアスを倒させたことがそれを自覚的にさせた。

 

(ドラマティックに勝ちたい。現実でもアニポケのように勝ちたい。その憧れという夢が消えることはないし、それを俺も受け入れている)

 

 天気は未だ照りつける太陽が熱いくらいだ。あそこでギガイアスを戻しても『ウェザーボール』の使い道は後半に残っていたはずだということはホウセンも理屈でわかっていた。

 

 その上で、ダイアが未だポケモンの途中交換をしたことがなかったためにホウセンもギガイアスを交換しない判断を下した。

 

(だが今の俺は、その憧れを捨てて、未来を夢見ている)

 

 ボールホルダーから一つのモンスターボールを手にする。

 

(ドータクン戦で意地張って突っ張ったギガイアスのときのようなプライドが微塵も湧いてこない)

 

 こんな心境ははじめてだ。ホウセンは海を見た。水平線の先に空がある。

 

(このバトルで見る一時の現実を重視するか、その先にある夢を求めるか)

 

 揺れていた。波のように。

 

「ホウセン〜、サイコソーダ持ってきたぞ」

 

「ドータ〜」

 

「サンキュー親父」

 

 手渡された瓶の冷たさを感じると、ホウセンは蓋も開けずにジッとサイコソーダを眺めた。

 

「・・・・・・見たいな」

 

 蓋を開けてサイコソーダを呷る。

 

「なにがだ?」

 

「先が」

 

 ダイアの質問に毅然と答えたホウセンはサイコソーダを飲みきり、砂浜に突き刺した。

 

「待たせたな親父」

 

「いいのか? まだ3分しか経っていないぞ」

 

「ドータ〜」

 

 相変わらず能天気に宙を漂うドータクンに戦意を漲らせてホウセンは頷いた。それぞれが対角線上に距離をとり、ホウセンはボールを手に取った。

 

「やると決めたら直線だ・・・・・・ただひたすら真っ直ぐに!」

 

 手の中にあるボールを宙へ投げた。

 

「行くぞアギルダー!」

 

「アギッ!」

 

 砂浜のフィールドに降り立ったアギルダーを見て、ダイアはなんとなく先程のホウセンの発言を汲み取れた。

 

 イダイトウではなくアギルダーを起用したのは、先を見た選択である、と。

 

(正直、ドータクンの『れいせい』さに裏打ちされた速さの理想的な緩急をアギルダーがどこまで取り入れられるかはわからない)

 

 アギルダーは目を閉じている。

 

(だが少なくとも、この悪癖がバトル時だけは例外になるようにアプローチをかけられるのはこのバトルだけだ)

 

 例え遠い未来にその瞬間があったとしても、今この瞬間は現在にしか訪れない。

 

「はじめるぞ親父」

 

「おう、かかってこい」

 

「ドータ〜」

 

 ドータクンの顔と引き締まった。張り詰めた空気のなかでホウセンが指示を下す。

 

「『ガードシェア』」

 

 防御力と特防力を対象と合算し、半分に分けて各々に再分配するワザ。ドータクンの高い防御力とアギルダーの低い防御力では恩恵は後者の方が大きい。

 

「これまた変則的にきたな。『トリックルーム』」

 

「ドータ〜」

 

 ドータクンの『トリックルーム』。

 

「アギ?」

 

 再展開される異次元空間。アギルダーは身体を巡った違和感の正体を明確に感じ取った。

 

 遅かったあの頃に戻っている。

 

「焦るなよ」

 

「アギ」

 

 ホウセンの言葉にわかっていると言わんばかりに頷くアギルダー。

 

「『きあいだま』!」

 

 アギルダーが目を開いて、両手の中に球体のエネルギーを作り出す。

 

「かわせ」

 

 アギルダーの『きあいだま』。

 

「ドータッ」

 

 ドータクンはその身を縦にさせて被弾面積を減らした上で半分だけ回転させたその身体の勢いに任せて『きあいだま』から距離をとった。

 

「アギ」

 

 アギルダーはその動きを見ていた。

 

「できそうか?」

 

「アギ!」

 

 その問いにアギルダーは珍しくやる気になって“やる”と答えた。ホウセンも笑みを浮かべて頷く。

 

 アギルダーの目は開きっぱなしだ。

 

「フッ、やってみろ。『ラスターカノン』!」

 

 その様子を確認して、ダイアはドータクンに鋼色の光線を撃たせる。

 

「ドータ〜」

 

 ドータクンの『ラスターカノン』。

 

(速い!)

 

 あまりにも速い弾速にホウセンはそれを見失いかけた。

 

「かわせ!」

 

「アギッ」

 

 しかし、アギルダーの目はそれを捉えている。普段と比べ鉛のように重い身体、それを動かす最適解をアギルダーは瞬間的に導き出す。

 

 体勢を限界まで前に傾け、今発揮できる跳躍力を総動員して弾の射線上から身体を逃がす。

 

「アギャッ!」

 

 アギルダーは『ラスターカノン』の爆風に飛ばされた。

 

 さすがに火力の高まった『ラスターカノン』を『トリックルーム』の影響下で完全に躱すには至らなかった。

 

 が、爆風に吹き飛ばされた先はドータクンの正面。

 

「『マッドショット』!」

 

 指示を受けると同時にアギルダーはおちょぼ口をさらに窄める。

 

「アァッギィ!」

 

 アギルダーから吐き出された『マッドショット』。ドータクンの視界が真っ暗になった。

 

「ドタッ!?」

 

(いいねえ。理想的なクレバーさだ)

 

 アギルダーの『マッドショット』はドータクンの目に直撃したのだ。これで『サイコキネシス』は使えない。

 

「そのまま『きあいだま』!」

 

 アギルダーの『きあいだ———。

 

「かわせ!」

 

 アギルダーの眼前からドータクンが消える。いや、そう見えるほど速かっただけだ。“少なくともホウセンとダイア”にはそう見えた。

 

 しかし、アギルダーはその“乱れきった逃走ライン”を捉えていた。

 

「ドータッ!」

 

 浮けるというアドバンテージを活かし、上空に逃げたドータクンを、アギルダーはイダイトウから学んだ巧みな身体操作で照準を強引に合わせた。

 

 アギルダーの『きあいだま』。

 

「ドォタァァァッ!?」

 

 ドータクンの急所に当たった。

 

「『マッドショッ———」

 

「———戻れ」

 

 さらなる追撃が為されようとした瞬間、ダイアがドータクンを戻す判断を下した。

 

「マジか!」

 

 ここに来てのポケモン交換に、ホウセンは思わず声をあげた。

 

「アギ・・・・・・」

 

 アギルダーが目を閉じる。

 

(マズイ。アギルダーは“ドータクンだから”目を開けていた。あまり達成感を得られない戦果に嫌気がさしたら、また彼女の才能を十全に活かせない指示待ちポケモンに戻ってしまう可能性がある)

 

 ホウセンには“二つの”危惧があった。一つはアギルダーのモチベーション維持。彼女が目を開けて戦うことはアギルダーに多大なストレスを与える。それはチョボマキの頃から変わらない。

 

 必要なときにだけ目を開け、戦うスタイルをアギルダーが確立してしまうことにホウセンは危機感を覚えていた。

 

「アギアギ」

 

 しかし、アギルダーはその危惧を否定するように首を横に振った。

 

「・・・・・・脳は追いつくか?」

 

「アギ」

 

 アギルダーは目を瞑りながらも“追いつかせる”と返答した。その答えにホウセンは満足して頷いた。

 

「いくぞシュバルゴ!」

 

「シュバッ」

 

 両手が槍となり、下半身はチョボマキの巻貝に包まれている。そのポケモンはホウセンでもわかる・・・・・・いや、ホウセンだからこそわかるほど、照りつける太陽の熱量以上に精神が極まっていた。

 

(親父のヤツ、この対面を狙ってやがったな)

 

 感覚的に察した。互いに仕上がり切っていないポケモンを対面させ、バトルの最中に互いのセンスを磨かせる気だ。

 

「らしくねえほどドラマティックじゃねえか。ゾロアに化かされた気分だ」

 

「そこまで言う? 俺だって最近はドラマとかロマンとかわかるようになってきたんだぞ?」

 

 ダイアはあんまりな言い分に涙目さえ浮かべて悲しげに天を仰いだが、次には笑って言葉を続けた。

 

「だが俺はやっぱ合理主義だ。確実に勝てるプランを組んだ上でそこそこに遊ぶのが俺のスタイルだ」

 

「だと思ったよ。そのプランを崩してやる」

 

 互いに好戦的な笑みを浮かべたのがはじまりの合図となった。ボールを最後に戻したのはダイア、先攻はホウセンだ。

 

「『ガードシェア』!」

 

 再び発動される防御力の統合と二分化。

 

「シュバルゴ『メガホーン』」

 

「シュバッ。バァァァッシュバァ!」

 

 シュバルゴがアギルダーに急速接近。『トリックルーム』の影響は未だに残っている。

 

「アギ———」

 

 ———アギルダーの世界が止まる。シュバルゴは右側の槍を構えている。回避するなら右の外側、シュバルゴの可動域で咄嗟に対処できない位置。

 

「かわせ!」

「アギッ!」

 

 アギルダーの緩やかな回転。フィギアスケートの如き無駄のないトリプルアクセルが、シュバルゴの突き出した『メガホーン』を躱して外側へ膨らんでいく。

 

「シュバ!?」

 

 あっという間に、鮮やかに、シュバルゴの背後を捉えたアギルダーは、開戦前に放ったホウセンの言葉を思い出す。

 

———

 

『おまえはこのままだと・・・・・・今回のバトルで俺の『かわせ』という指示が如何に頼りないものなのかを思い知ることになる』

 

———

 

 その言葉をホウセンはあくまで、アギルダーが“目を閉じたままだったら”という前提で言い放った。

 

 確かに頼りない。アギルダーが咄嗟に算出した方が焦れったい指示を受けるよりも何倍も速く対処できる。

 

 アギルダーの『きあいだま』。

 

「シュバァァァッ!?」

 

 シュバルゴの急所に当たった。

 

「やっぱそうなるか・・・・・・!」

 

 ホウセンはギリッと歯噛みした。まだ指示を出していないのに自身が指示を出そうとしたことを完璧にこなしている。

 

(こっからは俺の問題だ。アギルダーの速度域に合わせる指示を俺が飛ばせるかどうか)

 

 アギルダーがドータクンのバトルで仕上がり過ぎたがゆえに起きたホウセンの遅れ。それが十全な速度を出せない『トリックルーム』下で起きている事実にホウセンは渇いた笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

「『メタルバースト』!」

 

「シュバァァァ・・・・・・」

 

 慣れていないのか、ボスゴドラに比べると僅かに遅い球体の生成速度。

 

 シュバルゴの『メタルバー———。

 

「———『さきどり』!」

 

 そして、アギルダーに試される修行の成果。

 

 先をとれない状態に陥った際、後の先をとり、相手の攻撃手段を奪うために身につけさせた『さきどり』のエネルギー吸収効率は、ギガイアスの『メテオビーム』によって生成された莫大なエネルギーの75%を一瞬にして奪い取る。

 

「シュバッ!?」

 

「なにッ!?」

 

 シュバルゴの『メタルバースト』はうまく決まらなかった。

 

 ダイアは今、イダイトウの地中回遊を目の当たりにしたときと同等以上の驚愕に満たされていた。自身のバトルキャリアの集大成たる『メタルバースト』が“真正面から”攻略されたことは今までなかったから。

 

「いけ!」

「アァッギィ!」

 

 アギルダーの両手に収められたそれは、シュバルゴが放つはずだった鋼色のエネルギー。

 

 アギルダーの『メタルバースト』!

 

 ダイアはそれを耐えられないと知っている。自身の集大成がそこまで甘いものでないことは他ならぬダイアが知っている。

 

「『こらえるぅ』!!」

 

 ゆえに喉を弾けさせて指示を出した。

 

「———シュバァァァ!」

 

 シュバルゴは攻撃をこらえた。

 

———

 

 ホウセンは思う。シュバルゴは“ここからが長い”。

 

 『トリックルーム』が解かれた。

 

(『トリックルーム』のスピードバトルはシュバルゴのやり方じゃねえ。スピードが増したことでシュバルゴ本来の戦い方ができていない)

 

 カブルモのときは、ひたすら耐えて耐えて活路を見出し、それを見逃すことなくモノにしていた。

 

(親父とシュバルゴのバトルはまだ経験が浅く、親父もシュバルゴの個性を十全に活かせてなかったが、ここからは違う)

 

「シュゥゥッバァァァ!」

 

 シュバルゴの『むしのしらせ』。

 

(シュバルゴが自身のバトルスタイルを親父に見せるはずだ)

 

 シュバルゴの身体に緑色のオーラが纏い、これまでとは別次元の虫エネルギーで溢れていた。

 

「アギルダー、シュバルゴはここからだ」

 

「アギ・・・・・・」

 

 アギルダーの警戒心が上がる。目は見開くほどに開かれていて、シュバルゴの一挙手一投足を見逃さない。追い詰められた獲物ほど怖いものはない。

 

「・・・・・・シュバルゴ、おまえのバトルを見せてくれ」

 

 ダイアはシュバルゴに任せることにした。後ろにドータクンがまだいることもあって、息を合わせるための要素を体力ギリギリの今から探す決断を下した。

 

「シュバッ、シュゥゥッバァァァ!」

 

 シュバルゴの『メガホーン』。

 

「『マッドショット』」

 

 アギルダーの『マッドショット』が『メガホーン』に貫かれる。

 

「アギ!?」

 

(すっげえパワー。だが)

 

 動揺もそこそこに、すぐさまアギルダーは回避体勢に入る。先刻よりもエネルギーの幅が広い、ゆえに次は宙を舞う体操選手の如き身のこなしで上から躱した。

 

 シュバルゴの『メガホーン』は当たらなかった。

 

「アギ」

 

 アギルダーはシュバルゴの頭上で悠然と口を窄めて、泥を吐き出す体勢を整えた。

 

「ッ!」

 

 アギルダーの『マッドショッ———。

 

「シュバッ!」

 

 その行動はシュバルゴの脊髄反射が生み出したものだった。ダイアとの『メタルバースト』でやった特訓は、ダメージ、ワザなどさまざまなエネルギーを知覚して吸収する訓練だった。

 

 ゆえにエネルギーの流れを感じ取ったシュバルゴは、放ったそのワザの反射で、腕をアギルダーのワザエネルギーの出発点へ貫かせた。

 

「アゴッ!?」

 

 ———シュバルゴの『ファストガード』。

 

 すなわち、アギルダーの喉だ。

 

「なっ!?」

 

 アギルダーが体勢を整える間もなく砂浜の上を転がった。誰だって喉を攻撃されれば苦しみで立ってはいられない。それはポケモンでも同じだ。

 

「ア”ギッ! ギル”ァ”ァァ!」

 

 喉を抑えて咳き込むアギルダーが砂浜に手をつきながらどうにか立ち上がる。迷う時間は2秒足らず、ホウセンはモンスターボールを手に取った。

 

「・・・・・・アギルダーこうた———」

 

「———アッギャァ“ァァ!」

 

 しかし、アギルダーは拒んだ。目の前のシュバルゴが引かないのに自身が引けるものかと、闘争心に溢れた目をしていた。

 

(どうする? こっからのバトルはおそらくシュバルゴがペースを握る)

 

 ホウセンには確信があった。体力ギリギリの長期戦こそがシュバルゴの本懐である上、『メタルバースト』もあるなら、今のアギルダーで攻めてもジリ貧だと。

 

「シュバルゴ、こっちに来てくれ!」

「シュバ」

 

 なにより、ダイアがなにかを思いついたのか、アギルダーが立て直す短い合間にシュバルゴと作戦会議をしている。

 

「引かねえんだな?」

 

「ア“ギッ!」

 

「わかった。なら後悔しねえように頑張ろうぜ!」

 

「アギル!」

 

 照りつける陽光がバトルの熱量をさらに上げていく。

 

———

 

 ダイアとシュバルゴの作戦会議はとうに終わり、ホウセンは『ガードシェア』によるワザの圧迫に苦しんでいた。

 

『ガードシェア』

『きあいだま』

『マッドショット』

『さきどり』

 

(最後まで戦い抜くというより、相手ポケモンの硬さを奪うワザ構成のつもりだった。アギルダーは目を長時間開きたがらねえし、繋ぎを上手くしてくれれば万々歳だったんだが)

 

「アギッ! アギッ!」

 

 喉の調子が整ったアギルダーが発声練習しながら構える。

 

(ったく、ドラマティック過ぎんだよおまえは。気に入ったぜ)

 

 ホウセンもまたその熱に乗せられた。

 

「『マッドショット』!」

 

 アギルダーの『マッドショット』。

 

 バトルは唐突に始まった。

 

「『こらえる』」

 

「っ!」

 

 シュバルゴは攻撃をこらえた。

 

「『メタルバースト』」

 

「またそれか! 『さきどり』」

 

 シュバルゴの『メタルバース———。

 

(生成速度が上がってる!)

 

 アギルダーが直前で奪いこそしたものの、その差異は明らかだった。シュバルゴの脊髄反射でエネルギーの流れをより深く感じた結果『メタルバースト』というワザの完成を速めている。

 

 ———シュバルゴの『メタルバースト』はうまく決まらなかった。

 

(ヒヤヒヤさせやがる)

 

「いけ! 『メタルバースト』」

 

 アギルダーの両手の中に鋼色のエネルギーが球体となる。

 

 アギルダーの『メタルバー———。

 

「『———ファストガード』」

 

 放たれる直前、ダイアの指示が下った。

 

 アギルダーの『さきどり』はエネルギーを奪う対象者に近づかなければ成立しない。奇しくもその射程距離は、シュバルゴの脊髄反射で間に合うギリギリの距離感だった。

 

「シュバァッ!」

「アギッ!?」

 

 シュバルゴの『ファストガード』

 

 アギルダーの両手をシュバルゴが弾く。手の中にあった鋼色のエネルギー体を維持するモノがいなくなり、『メタルバースト』は暴走していく。

 

 『メタルバースト』が暴発した。

 

「アギィィッ!」

 

 アギルダーの急所に当たった。

 

「シュバッ!」

 

 シュバルゴは攻撃をこらえた。

 

「そういうことか!」

 

 ここでようやくホウセンはダイアの狙いに気がついた。

 

(親父は『こらえる』と『ファストガード』を使い分けた近距離戦闘でアギルダーを攻略する気だ。『ファストガード』で間に合う距離はアギルダーの攻撃を弾き、離れすぎていると『こらえる』を使って追いかける)

 

 アギルダーが齎したXは完璧に解かれた。その事実がホウセンに重くのしかかる。

 

(理論派合理主義め。今出せる最良の手段をこんな短時間で思いつくのかよ)

 

 しかし、諦めたわけじゃない。

 

「アギルダー追いかけっこだ! そのスピードを思う存分活かせ!」

 

「アギッ!」

 

 アギルダーはその意図を正確に汲み取った。ヒットアンドアウェイに徹し、『こらえる』が間に合わないタイミングで攻撃を当てる。

 

(今はこれしか思いつかねえ!)

 

 脳をフル回転させ、次善策を考えつつ戦況を見守る。ホウセンもまた、この程度の策でダイアが崩れるとは微塵も思っていなかった。

 

「シュバルゴ、地面に『メガホーン』だ」

 

「シュッバァァァ!」

 

 距離を取り始めたアギルダーに対し、ダイアはシュバルゴの圧倒的なパワーの衝撃で砂を舞い上がらせた。

 

 サザナミタウンに軽度の『すなあらし』が発生した。

 

「アギッ?」

 

 奇しくも動揺するアギルダーはホウセンの近くにいた。

 

「アギルダー、よく聞け———」

 

 ホウセン最後の策がアギルダーに託された。

 

———

 

 ダイアは頬に流れる数えきれないほどの汗を拭う。次からはタオルを持参する決意をした。

 

 無論、これが最後になるかもしれない危機感はずっとある。それでもダイアは今が楽しくて楽しくて仕方ない。自身の『メタルバースト』を攻略した“チャレンジャー”は今までいなかったのだ。そして、その第一号が息子であることが誇らしくて仕方ない。

 

「このバトルの行く末はそのときにならないとわからないが、次があるとすれば、より高い壁を用意しないとな」と笑みを溢しながら考える時間が心地良い。

 

 ゆえにダイアは今、最高のモチベーションでバトルに臨む。

 

「さあ、どこから来る?」

 

 シュバルゴの脊髄反射はこの軽度の『すなあらし』でも有効だ。今の彼であれば、半径10m以内のワザのエネルギーは迷いなく探知するという確信がある。

 

「? シュバルゴ、気配は?」

 

「シュバァ」

 

 シュバルゴが首を横に振った。ダイアも仕掛けて来ないことは予想していたが、ワザすら出していないとは思わなかった。『マッドショット』で罠をかけることも、遠距離から『きあいだま』を飛ばしてくることもない。

 

「シュバルゴを見失っている?」

 

 その当たり前の解答はどうにもスッキリしなかった。相手はホウセンだ。確実にシュバルゴを捕捉する作戦も、また対処する作戦も立てるはずだという絶大な信頼が警戒を解かせなかった。

 

 もう少しで強引に作った『すなあらし』も無くなる。

 

「迎え撃つぞシュバルゴ」

「シュバッ」

 

 どこに立っていようと確実に追い詰める決意をもって、シュバルゴは雄叫びをあげた。

 

 『すなあらし』が収まった。

 

「? いない?」

 

 距離をとられ過ぎたかとも思ったが、そんなセコイ手をホウセンがとるはずもない。

 

 アギルダーの『マッド———。

 

「シュバッ!」

 

 ———シュバルゴの『ファストガード』。

 

 シュバルゴが突いたそれは砂の塊だった。このときのダイアには知る由もなかったが、『ねんちゃく』という特性で作った簡易的な砂の迷彩服でアギルダーは潜伏していたのだ。

 

「ア“ギッ!」

 

 再び喉を突かれたアギルダーは苦悶の声をあげながらも、両手の中に球体状のエネルギーを生成する。

 

「シュバッ」

 

 シュバルゴの反応が一瞬鈍った。もう一度『ファストガード』を使うか、『こらえる』を使うかで迷ってしまった。

 

「『こらえる』だ!」

 

 すぐさまダイアがその一瞬のロスを修正する。

 

「ア“ギャァァァ!」

 

 アギルダーの『きあいだま』!

 

「シュバァァァッ!?」

 

 シュバルゴの急所に当たった。シュバルゴは攻撃をこらえた。

 

 しかし、急所に当たったことでシュバルゴの肉体が反射的に強張り、次の行動に移れないでいた。

 

「くっ!」

 

 アギルダーの種族特性を活かしたことによって生じたイレギュラー。

 

「ア“ッギァァァ」

 

 アギルダーの『きあいだ———。

 

 ———バタリ。

 

 そして、アギルダーの身体を蝕んだのもまた種族特性だった。

 

「アギ? アギァ?」

 

 意識を失っていないのに、砂浜に沈むこの身体を立たせることができないアギルダーは困惑に呑まれながら、反射的に主人のホウセンを見た。

 

「クソッタレ!」

 

 ホウセンは焦りを隠そうともせず、イダイトウを繰り出していた。

 

———

 

 ホウセンの“もう一つの危惧”はアギルダーの種族特性。元来湿原に住んでいたアギルダーは乾燥に弱く、その身を纏う帯は自身の身体の乾燥を防ぐためにある。

 

 敗因は一つ・・・・・・“晴れすぎた”のだ。

 

「イダイトウ! すぐにアギルダーに水を!」

 

「ダイ———!」

 

「———アギッ(手え出すんじゃねえ!)」

 

 『みずでっぽう』を放とうとしたイダイトウをアギルダーが止めた。これで仲間から助けてもらおうものなら、アギルダーは完全な戦闘不能扱いになってしまう。その事実を知るがゆえにアギルダーはイダイトウからの助けを拒んだ。

 

「アギ、アギアギッ(アタイはまだやれる。やっとこの世界が心地良くなってきたところなんだ。とことんやるんだ!)」

 

 シュバルゴはすでにアギルダーをこれ以上乾燥させないよう、自身を日光から守る影としていた。

 

「アギィィ!(アタイを守るんじゃねえ!)」

 

「シュバ(ダメだ)」

 

 拒むアギルダーをシュバルゴはそれでも守る。最早戦えないのは自明の理だからだ。

 

「アギルダー・・・・・・」

 

「アギッ(ホウセン!)」

 

 アギルダーは倒れた身体をどうにか引き摺ってホウセンに近づいた。

 

「アギルッ(アンタならわかるだろ!? アタイがどんな思いでこのバトルに臨んでいるか! まだアタイは負けてないんだ! 命じてくれ! 戦えってアタイに命じてくれ!)」

 

 ホウセンは苦々しげに頭をかいて、「わかった」と一言口にする。それだけでアギルダーは救われたような心地になった。

 

「おまえはまだ負けてないんだな?」

 

「アギッ(そうさ! アタイはまだやれる!)」

 

「そうか」

 

 ガッカリしたような声音だった。アギルダーは背筋に薄ら寒いなにかを感じて、ダイアの下へ歩き出したホウセンに手を伸ばす。

 

「今回のバトル・・・・・・俺たちの負けだ」

 

 ダイアもまたその言葉を一つ頷いて了承した。

 

「あ、ぎ?(なん・・・・・・で?)」

 

「なんでって。これ以上続ける意味がない」

 

「アギ(なにを、いって)」

 

「だっておまえは負けてないんだろ? じゃあ次はちゃんと勝たねえとな」

 

「あ・・・・・・」

 

 アギルダーは自身が犯したとんでもない誤ちを自覚した。

 

「このバトルで勝っても俺は旅に出る気はない。だから、続ける意味がないと言ったんだ」

 

「アギ(アタイはそんなつもりじゃ・・・・・・)」

 

「これは俺の責任でもある。おまえにチームで戦っているという自覚を育てられなかった・・・・・・俺の負けだ」

 

 5分後・・・・・・ポケモンセンターに悲しげな回復音が響き渡った。




 スポーツ漫画とかにある運に絡む話ってどうしようもない現実感を与えるなって感じてて。運で勝てたこともあるけど、運で負けたという話を作りたくなった。
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