俺を倒して旅に出ろと言った親父が強すぎる   作:山雅将暉

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 待たせたなぁ。待たせすぎちゃったかもしれません。



三週目の最終調整 〜カトレアに潜んだリアリスト〜

 

 ダイアとの対戦を明日に控えたホウセンはサザナミタウンの砂浜で、いつもと同じように特訓をしていた。

 

「ダッマ!」

 

 ヒヒダルマの『きしかいせい』巴投げ!

 

「ッ、ガイア!」

 

 ギガイアスは『じゅうりょく』によって逃れた。

 

「やめだヒヒダルマ」

「ダマッ!?」

「ギガイ」

 

 ホウセンは“すぐこれだ”と頭を抱える。ヒヒダルマの元主人は柔道に長けていたのだろう。ヒヒダルマはその技術を乱用する傾向がある。

 

「空中機動を可能とする相手に投げ技使ってどうする?」

 

「ダマァ」

 

「どうするかって聞いてんだよ。投げたあとに繋げられる技があるのか?」

 

「ダマぁ」

 

 ヒヒダルマは無念そうに首を横に振った。

 

「だったら『ゆきなだれ』を使え」

 

「ダマ?」

 

「『ゆきなだれ』は空中に雲を生成して強烈な雪を降らせる。空中に居る相手に有効なワザはあるんだ。いつも言っているだろう・・・・・・“技に逃げるな”。“修めたワザは適切に使え”」

 

 ヒヒダルマの頭に電流走る。以前の主人は自身の技の乱用を抑えようとしていた。だがホウセンは自身が技を利用するに足る状況を作り出そうとしている。

 

 己に足りなかったのはワザに対するリスペクトだったのではないか。

 

 それは元主人の技に魅了された自身の過ちであると捉えた。技とワザはどちらも尊敬すべき技術の継承が行われている。ことここに至ってヒヒダルマはその事実に震えた。

 

「ダマ!」

 

 己の技術は未だ見ぬ領域に連れていってくれるだろう。

 

「やる気があるのはグレート。だが工夫を忘れるな。後付けでもいいから一つ一つの行動に意味を持たせろ」

 

「ダンッマ!」

 

 ヒヒダルマは力強く頷いた。

 

———

 

「高尚な心がけね」

 

「ん?」

 

 サザナミタウンに気品ある声が響き渡った。海に向かっていたホウセンの視線が後ろに回った。

 

「アタクシはカトレア」

 

 腰まで伸びた茶髪。肩から先へと緩やかなウェーブを靡かせ、白とピンクを交えた服装が気品ある立ち姿を際立たせる。

 

「お」

 

 ホウセンはその少女の姿に見覚えがあった。髪色こそ彼の知るそれとは異なるが、“アニメポケットモンスターベストウィッシュシーズン2”で見た彼女の面影がある。

 

「今アタクシは力試しの真っ最中なの。勝手ながらアナタたちの特訓を拝見しておりました」

 

(マジか。俺が考えるタイムリミットって)

 

「相手をしてくださる? 三対三のポケモンバトルで」

 

(思ってた以上に少ないのか?)

 

———

 

 ホウセンのなかでナイーブな想いが芽生えた。メガシンカなどの圧倒的な力がモノを言わない時代でポケモンの潜在能力を限界まで上げた予想もできない超次元バトルを堪能すること。

 

 体系化された力は人から工夫を奪う。それはドラマの消失だ。力の押し付け合いにロマンなどない。それがホウセンの持論だ。

 

「戻れ。ギガイアス、ヒヒダルマ」

 

 ホウセンが二体のポケモンをモンスターボールに戻した。

 

「OKだ! そのバトル、サザナミタウンのホウセンが受けよう!」

 

 ゆえに、現在はその持論が活きる時代だと割り切って今を楽しむことに切り替えた。

 

「ウフフ、あくびがでちゃうような退屈な勝負だけはかんべんね」

 

 ポケモントレーナーのカトレアが勝負を仕掛けてきた。

 

———

 

 ポケモントレーナーのホウセンが勝負を受けた。

 

 カトレアは高揚していた。バトルキャッスルではコクランが彼女の代役を務めてポケモンバトルをしていた。しかし、とある方法で自身の指示でバトルする許可を家からもぎ取った。

 

「いくぞヒヒダルマ!」

「ダマッ」

 

 その方法とは、彼女が圧倒的なバトルセンスで勝ち続けること。それにより家が許可せざるを得なかった。

 

「おゆきなさい。ランクルス!」

「ラック」

 

 カトレアは敗北を知っている。けれどそれは、コクランという代役あっての敗北だ。彼女自身で戦うようになってから、このときまで窮地に陥ったことなど一度もない。

 

(さあ、アタクシを楽しませて!)

 

「『サイコキネシス』!」

 

 彼女は、育て上げた絶対の自信の根幹であるワザを繰り出させた。

 

「ダマ!?」

「『ゆきげしき』」

 

 自身の身体が宙に浮いて動揺するヒヒダルマに対して、ホウセンの指示は端的だった。

 

 雪を降らせる雲がサザナミタウンに照り付ける太陽を覆い隠した。熱い砂浜に雪が積もり始める。

 

「叩きつけなさいランクルス」

「ラック!」

 

 ランクルスが目に宿した念動波はヒヒダルマの身体を下へ急降下させる。

 

「ダマ!」

 

 ヒヒダルマは地面に叩きつけられる寸前に右手をつけて前転した。

 

「? ランクルスもう一度よ。今度は背中から」

「ラック」

 

 再びヒヒダルマの身体が持ち上げられ、空中でひっくり返された。

 

「『ゆきなだれ』だ」

「ダマ! ダァァァッマ!」

 

 ヒヒダルマが生成した雲が雪雲と連動して巨大な雪の塊の数々を大地に降らせる。

 

「ランクルス急いで!」

「ラック! ラックゥゥゥ!?」

 

 ランクルスに『ゆきなだれ』が直撃する。同時にヒヒダルマを雪に覆われた砂浜に叩きつける。

 

「ダマ」

 

 が、ヒヒダルマは後頭部を抑えて受ける衝撃を最小限に後転する。

 

「また!」

 

(ランクルスの『サイコキネシス』が通用しない。いえ、積もった雪と最適な受け身でワザのダメージを最小限に抑えられているのね)

 

 動揺しようとした感情を理性的な心で抑えつける。

 

「衝撃が通じないのなら、ダメージを直接弾けさせればいいのよ。『10万ボルト』!」

 

「『ゆきなだれ』」

 

 カトレアはワザの発生が遅い『ゆきなだれ』の選択に勝利を確信する。

 

 ランクルスの『10万ボルト』!

 

「ダッマァァァ!」

 

 ヒヒダルマが防御体勢に入ってランクルスの『10万ボルト』を耐えている。

 

(避けないわよね。避ける指示なんてしてないもの)

 

 カトレアのランクルスの特性は『さいせいりょく』。“目に見える”特殊攻撃の指示を合図にランクルスの秘策が背後に回る。

 

「来るぞ」

 

 ホウセンが小さく呟いた。

 

(気づかれた! けれど、もう遅いわ)

 

 ランクルスが行ったのは『10万ボルト』の光に紛れ、『じこさいせい』と『さいせいりょく』を重ねた高速の細胞分裂を駆使して“腕を伸ばす”。

 

 過剰な再生力は体格すらも変化させる。

 

「『きあいだま』」

 

 ヒヒダルマの背後、ランクルスの伸びた腕が凄まじいエネルギーの球体を生成する。

 

「・・・・・・一本背負い」

 

「え?」

 

 カトレアは思った。そんなワザは存在しない。

 

「ダマ!」

 

 しかし、ヒヒダルマの技は存在する。

 

「ラク!?」

 

 指示を受けたヒヒダルマは咄嗟に伸びてきた腕の手首を掴んで捻り、手のひらを地面に向けさせて『きあいだま』を炸裂させる。

 

「ッ!? ランクルス『サイコキネシス』!」

 

 カトレアのリカバリーは速かったと言える。が、ヒヒダルマはまだホウセンの指示を遂行中だ。

 

「ダッマァ!」

「ラックゥゥゥ!?」

 

 ヒヒダルマはランクルスの腕を一本背負い、『ゆきなだれ』の雪雲へその身体を突入させる。

 

「グレート!」

 

 ヒヒダルマの『ゆきなだれ』!

 

「ランクルス!」

 

 ランクルスに最大効果の『ゆきなだれ』が直撃する。同時に、ヒヒダルマが掴みっぱなしにしているランクルスの腕がさらに一つ捻れるように成長した。

 

 ランクルスの『じこさいせい』。

 

 カトレアはそれに気づいた。ホウセンは上空にいるランクルスを警戒して上を向いている。

 

「『きあいだま』!」

 

 ヒヒダルマが掴む腕から凄まじいエネルギーの球体が瞬時に生成される。

 

「ッ! 離せヒヒダルマ!」

 

 ランクルスの『きあいだま』!

 

「ダマァァァ!?」

 

 ヒヒダルマの急所(脇腹)に当たった。ヒヒダルマは倒れた。

 

「shit、一本背負いは欲張りすぎた! あそこは背負い投げだった・・・・・・」

 

「か、勝った、のよね?」

 

 悔やむホウセン。一方カトレアは半ば放心状態でその事実を受け止めた。

 

(かみ・・・・・・ひとえ。ええ、あまりにも薄すぎる紙一重。なんなの、胸の鼓動が止まらない)

 

 カトレアの茶髪が荒ぶり始める。雪状態から晴れ上がり、フィールドに照らされた太陽がカトレアの影を砂浜に映したことで乱れる自身の心を自覚した。

 

「も、戻ってランクルス」

「ラック・・・・・・?」

 

 ランクルスも疑問に思いながらもボールの光線に吸い寄せられた。

 

(負けたくない。負けたくない負けたくない負けたく・・・・・・ない!)

 

「ぁ?」

 

 ホウセンの違和感が増した。その強迫観念に囚われたようなカトレアの表情に、彼の知る彼女の像から離れていくのを感じた。

 

「大丈夫か?」

 

「愚問よ! やっとよ、アタクシはやっとアタクシ自身のポケモンでバトルができるようになったの! こんなところで終われないわ!」

 

 その表情は楽しさを忘れていた。

 

「・・・・・・わかった。続けよう」

 

 だからこそ、ホウセンはこのバトルを最後までやる決意をした。

 

———

 

「お願いシンボラー!」

「ボラ」

 

「頼むぞアギルダー」

「アギ」

 

 先攻はホウセン。カトレアは茶髪を荒ぶさせ、神経を張り詰めてホウセンの指示が下されるのを今か今かと待っていた。

 

「『やれ』」

 

 ホウセンは指示らしい指示を出さなかった。が、ポケモンになにかを指示したという事実で先攻の番は終わる。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 シンボラーの『エアスラッ———』

 

「ボラ?」

 

 しかしワザが出なかった。

 

「どう、して?」

 

 その答えはアギルダーの手の中に生成された真空の刃がいやと言うほど物語っていた。

 

「アギ」

 

 アギルダーの『さきどり』。

 

(『さきどり』? いいえ、あれはワザを奪うワザではないはず)

 

 カトレアは頭はあっという間に動揺一色に染まってしまった。

 

「なにをしたの? アナタはアタクシのシンボラーになにをしたの!?」

 

「『さきどり』。それ以外に与える解は無い。過程の公式はおまえが自分で解くんだ」

 

「うるさいうるさい! 『こごえるかぜ』!」

 

 駄々っ子のように喚きながらもシンボラーに下した指示はアギルダーの素早さを奪うことを目的とした堅実なバトル展開にするものだった。

 

 アギルダーの『エアスラッシュ』。

 

 シンボラーの『こごえるかぜ』。

 

「ボラァ!?」

 

 真空の刃はあっという間に『こごえるかぜ』を突っ切ってシンボラーに命中した。

 

(負けたくない! 負けたくないのにぃ!)

 

 焦るカトレアに対し、ホウセンもまた焦っていた。

 

 どうする? どうすればバトルの楽しさを思い出させることができる?

 

 ポケモンバトルの時間の長さなどタカが知れている。三対三は良くて30分程度。短い時間に自身がどれほど鮮烈なドラマで彼女に感動させられるか、母親譲りのシナリオ構築力が試されていた。

 

「勝ちたいよな!」

 

 次の瞬間、そんなものは豚に食わせろと言わんばかりにホウセンはカトレアに直接問いかけた。

 

「ッ! ええ、勝ちたいわ」

 

「どんなふうに?」

 

「どん・・・・・・な?」

 

 シンボラーとアギルダーが静止する。指示を出さずに悩むトレーナー相手に悪戯な行動の全てが野暮だ。

 

(どんなふうにって、アタクシはただ勝ちたくて———)

 

「———俺はドラマティックに勝ちたい!」

 

 暗闇が覆い始めたカトレアの視界を一人のトレーナーが輝いた。

 

「俺のポケモンだけが極められたオリジナリティ溢れるワザと技術で、バトルの主役を飾りたい!」

 

「・・・・・・へ?」

 

「負けたくないだけでバトルすんのは勿体ねえだろ。どうせなら欲を張って張って張りまくって、好きな勝ち方すらも作って、ポケモンバトルをもっと好きになろうぜ!」

 

(ポケモンバトルをもっと好きに・・・・・・)

 

 カトレアの夢が脳内を瞬く間に過ぎては消えていく。どんなふうに勝ちたかったか、どんなバトルに憧れたか、思えば思うほどにこの現実を満喫していないことが勿体なく感じた。

 

「さあ始めようぜ! おまえと俺の夢バトル!」

 

「ええ、エレガントに行きましょう!」

 

 はじまる。その予感が二体のポケモンに駆け巡った。

 

「『アシッドボム』」

 

「『こごえるかぜ』」

 

 アギルダーがシンボラーに『アシッドボム』を吐き出すも巧みな飛行でそれを躱し、今度はシンボラーが『こごえるかぜ』を吹きかけるもアギルダーに躱される。

 

 二人にとってそれらの行動は下準備に過ぎない。

 

「『むしのさざめき』」

 

「『エアスラッシュ』」

 

 片やアギルダーはシンボラーの周囲に漂う『アシッドボム』の誘爆。片やシンボラーは『こごえるかぜ』に乗せて『エアスラッシュ』、真空の刃がさらに鋭利に研ぎ澄まされる。

 

「アギ!」

「ボラ!」

 

 命中したのは互いに整えた下準備のみ。つまり、『アシッドボム』と『こごえるかぜ』の残りカスだけだった。

 

 アギルダーの素早さが下がった。

 

 シンボラーの特防が下がった。

 

「日和ったなアギルダー!」

「もっと狙いなさいシンボラー!」

 

 二人の無茶振りが加速する。

 

「『みずしゅりけん』! 仕込んどけよ!」

「『サイコキネシス』! 『こごえるかぜ』を操りなさい!」

 

 アギルダーは『みずしゅりけん』に『アシッドボム』の成分を染み込ませ、シンボラーは頭上に飛び出る眼から『こごえるかぜ』を放出しながら『サイコキネシス』によって、冷たい気流を生成する。

 

 アギルダーの『みずしゅりけん』はうまく決まらなかった。

 

「shit!」

 

 このアイデア勝負はホウセンの負け。

 

「今よシンボラー『エアスラッシュ』!」

 

「『さきどり』」

 

 しかし、アギルダーの技術がシンボラーを追い詰める。

 

 アギルダーの『エアスラッシュ』。

 

「気流の流れを変えなさい!」

 

 シンボラーには当たらなかった。

 

 風の流れを『サイコキネシス』で変えて『エアスラッシュ』の軌道を逸らした。

 

「陽光はおまえの味方だ! 『みずしゅりけん』」

 

 その間にホウセンはアギルダーに空を指差してキーワードを送った。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 シンボラーの『エアスラッ———

 

「ボラッ!?」

 

 ———『みずしゅりけん』に反射した陽光がシンボラーの目に突き刺さった。

 

 アギルダーには当たらなかった。

 

 シンボラーが目を閉じたことで『こごえるかぜ』の気流が分散する。

 

「チェックだ! 『むしのさざめき』」

 

 ここでホウセンは直接攻撃に出た。

 

(避けるのは、間に合わない。少々不恰好だけど)

 

 

 カトレアの髪色が金色に染まる。

 

 

「ッ!?」

 

 その神秘的な光景に目を奪われて、ホウセンはシンボラーから視界を外してしまった。

 

「今はただ愚直に進みましょう、シンボラー!」

「ボラ!」

 

 シンボラーの『こごえるかぜ』。

 

 羽から冷たい風を強く吹かせてターボ代わりにワザを使用し、アギルダーの『むしのさざめき』のなかを突っ切った。

 

「ッ!! 『さきどり』!」

 

 ホウセンが最後に頼るのは信頼ある技術。

 

「『さいみんじゅつ』」

 

 それが最大の墓穴となった。

 

 ホウセンが腰のモンスターボールに手をかけるかかけまいか、生じた僅かな迷い。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 その迷いをカトレアの凛とした指示が引き裂いた。

 

 シンボラーの『エアスラッシュ』。アギルダーは倒れた。

 

「ッ、shit!」

 

———

 

「イダイトウ!」

「ダイトォォ!」

 

 勝負の行方は一体のポケモンに託された。

 

(なんでしょうか・・・・・・はじめて見るポケモンだけど、彼が纏っているオーラでタイプがわかるわ。みずとゴーストね)

 

 カトレアが今までにない感覚にただ微笑んだ。彼女にとって超能力とは荒ぶる力の象徴でしかなかった。しかし、未熟な精神との決別が彼女の有り余るエネルギーを支配する術を感覚的に獲得した。

 

(凄まじいエネルギー。これまで倒れてきたポケモンの残留オーラを吸収してさらに強くなっているのを感じるわ)

 

「シンボラー戻って」

 

 今回は自信満々にシンボラーを戻した。その判断には一切の恐れも油断もなかった。

 

「カトレア・・・・・・」

 

「アナタが自慢のポケモンで勝負を決めるというのなら、アタクシもとっておきのポケモンで応えましょう」

 

 カトレアは一つのモンスターボールを手に取った。

 

「・・・ハハッ! 最高にドラマティックだ! 燃えてきたぜ」

 

 ホウセンは思わず天を仰いで目元を覆った。この嘆かわしいほどに絶望的な現実が心地良くて仕方なかった。

 

「さあ、アタクシたちの新しい晴れ舞台で踊りましょう。ゴチルゼル!」

「ルゼ」

 

 鍛えられ方が尋常じゃない。反射的にそう思ったホウセンは切らしかけた息を整えて指を立てる。

 

「いくつだ?」

「ダイト」

 

 イダイトウの解答にホウセンが頷く。

 

(どうしましょうか。アタクシはこの二人の連携を怖がっている。二人の間を繋がる太い糸、これを切る手段はあるにはあるけれど・・・・・・)

 

 カトレアには勝算があった。しかし、その手段は果たして彼に報いるバトルとなってくれるかという迷いが生まれる。

 

「四発だ」

 

「はい?」

 

「四発で決める」

 

 一瞬、カトレアはなにを言われたかわからなかった。しかし、理解が追いついたとき、彼女のなかに生じたのは怒りではなかった。

 

「ウフフ、楽しみね」

 

 彼女は鬼気迫るホウセンたちの前で上品に笑ってみせた。安心と無邪気な喜び、今は流儀や礼儀よりも優先すべきバトルがある。

 

 真剣勝負の前にはいかなる邪道も正道なのだ。

 

「けれど、アタクシたちのダンスはこれで終わりよ」

 

「ハッ、そう言っていられるのも今のうちだ」

 

 好戦的に笑う二人の頬には幾つもの汗が浮かんでいた。ホウセンは前髪を掻き上げ、カトレアはウェーブかかる金髪を軽く流して最低限の集中力を取り戻す。

 

「俺たちの先進技能を味わいな! 『アクアジェット』」

 

 イダイトウの『アクアジェット』!

 

 カトレアは一つ頷いて、ゴチルゼルにその強烈なタックルを受けさせた。

 

「『おだてる』」

 

 ダメージこそ受けたが、ゴチルゼルはイダイトウを確実に混乱させた。

 

「こんのッ! 『ウェーブタックル』!」

 

 有り余る苛立ちを飲み込むような呻き声をあげて、ホウセンは次の指示を出す。

 

 イダイトウの『ウェーブタックル』。しかし照準が合わない。

 

「ワザの扱いが雑になっていてよ。『シャドーボール』」

 

 ゴチルゼルの『シャドーボール』。イダイトウには効果が抜群だ。

 

 混乱状態によって生じたワザの乱れ。精神の乱れがイダイトウのワザと肉体の扱いに精彩を欠かせている。

 

 精神を整えるには・・・・・・・・・・・・夢だ!

 

「ッ! 地中回遊で持ち直せ!」

「・・・ダイ!」

 

 それはイダイトウとホウセンが掲げた夢のバトルスタイル。

 

 イダイトウの『アクアジェット』!

 

「へ? 地面に潜った!?」

 

 カトレアはすぐさま自身の超能力でイダイトウを補足するが、突如として気配が消えた。

 

「な、ぜ?」

「ルゼ!」

 

 動揺に呑まれそうになるところをゴチルゼルに呼び戻される。

 

「か、『かげぶんしん』!」

「ルゼ」

 

 ゴチルゼルの『かげぶんしん』。

 

「いけイダイトウ!」

「っ!?」

 

 ホウセンが合図を送ったことでカトレアは背筋に汗を伝わせて唇を噛んだ。

 

(『かげぶんしん』が確実に見切られているわ!)

 

 迷う。迷う。走馬灯の如く引き延ばされた時間でカトレアはありったけ悩む。

 

 イダイトウの『ゴーストダ———。

 

「『サイドチェンジ』!」

 

 ゴチルゼルの『サイドチェンジ』。

 

「ダイト!?」

 

 イダイトウの『ゴーストダイブ』は当たらなかった。

 

 ゴチルゼルは『かげぶんしん』と位置を入れ替えた。当たるはずだった『ゴーストダイブ』はゴチルゼルの側の分身とかち合った。

 

 

「『シャドーボール』!」

「『ウェーブタックル!』」

 

 

———

 

 ゴチルゼルとイダイトウが倒れた。

 

(『おはかまいり』ケチったなぁ・・・・・・)

 

「「はあ、はあ」」

 

 互いに息を整えているうちに立っていられなくなり、その身体が砂浜に寝転がった。

 

「二対ゼロか。ふぅ、クール・・・・・・いや、エレガントと言った方がいいか」

 

 ホウセンは負けた。ゴチルゼルの『おだてる』によって生じた混乱の戦術的不利でなんとか相打ちに持ち込むのが精一杯だった。

 

「いえ。いいえ、アタクシはアナタの言葉がなければバトルの楽しさを思い出せませんでした」

 

 砂に汚れて文字通り転がるように這いながら、カトレアはありったけの笑みを浮かべてホウセンの悔しげな顔を覗き込んだ。

 

「素敵な時間をありがとう。ホウセン」

 

 金髪を艶やかに照らす夕陽が彼女の超能力的な美しさに拍車をかけた。ホウセンはその表情を見るだけで満足しそうな現金な自分に少しムカついた。

 

「ぉ・・・・・・ぅ」

 

 ホウセンの目の前が真っ暗になった。

 

———

 

「すぅ、すぅ」

「すぅ、すぴぃ」

 

 夜が深くなったサザナミタウンの海岸沿い。カトレアは満足感、ホウセンは失意と安堵を抱えて眠っていた。

 

 カトレアは無意識のうちにホウセンの腕を枕にして、ホウセンもカトレアの肩を抱いて、夜風に晒されていた。

 

「・・・・・・あ」

 

 ふとホウセンは目が覚めた。隣に眠るお嬢様を目の当たりにして間の抜けた声を出して、起こさないよう最大限注意しながら上体を起き上がらせる。

 

「・・・・・・失策だな」

 

 二重の意味で、と一言溢してカトレアを横抱きに抱えて砂浜を歩き始める。

 

(『おはかまいり』。俺はまだそのワザをトレーナー同士のバトルで使えていない)

 

 剥き出しにしていた闘争心は鳴りを潜め、クールな脳が反省を促させる。

 

(2から1.5。イダイトウの『おはかまいり』は特別だ。しかし、溜めの時間が少し長い。腕利きのトレーナーであれば、初見で発動できるかすら怪しい)

 

 奇しくもカトレアの抜群のバトルセンスがホウセンの抱える課題を表面化させた。

 

(発動すれば大抵のポケモンには勝てる。・・・・・・だが切り札は切れてこその切り札)

 

 どうすれば使える?

 

 月明かりに照らされる影が不安気に揺れる。

 

「ん・・・・・・あたくし・・・・・・」

 

 そうこうしているうちにカトレアの目が覚めた。細い指で目元を拭い、深い碧眼が海とホウセンを映した。

 

「あら、起きたのね」

 

「こっちのセリフだ」

 

「驚いたわ。いきなり気を失ったかと思えば、気持ち良さそうに寝息を立てているんだもの。アタクシもつい隣で眠ってしまったわ」

 

 カトレアはくすりと悪戯っ子のように笑って、ホウセンの首に腕を回して・・・・・・それを支えに砂浜へ足を下ろした。

 

「驚いたのはこっちもだ。バトル中に髪色が変わるトレーナーなんてはじめて見た」

 

「かみ・・・・・・?」

 

 目を丸くするカトレアの金髪をホウセンは軽く流した。付着していた砂粒が落とされる。

 

「まあ! 淑女の髪に易々と触れるなんて、イッシュのトレーナーは随分と野生的なのね」

 

「人聞きの悪いことを言うなよ! それとイッシュ人は俺よかもっと紳士的だ!」

 

「ウフフ」

 

 一つ微笑んでカトレアは金髪に変わった長髪を指で弄ぶ。

 

「ねえ、ホウセン」

 

「・・・・・・なんだよ」

 

 ホウセンは不貞腐れたように耳を傾ける。顔をこちらに向けない彼に対し、カトレアは正面に回り込んでホウセンの頬を両手で抑えた。

 

「アタクシと旅をしない?」

 

「!」

 

 真剣な面持ちで告げられた提案はホウセンの心を揺さぶった。

 

「きっと楽しいわ。アナタと退屈しないバトルをたくさんして、互いを高め合うの。そうしているうちにアタクシたちはもっと強いトレーナーになれるわ」

 

 しかし、ホウセンはその提案を受けたくとも受けられない理由があった。正確には確約できない。明日のバトルの行方など誰にもわからないのだから。

 

「・・・・・・旅には出たい」

 

 小さく呟いた。そのさまざまな想いを搾り上げたような一言がカトレアに並々ならぬ理由があることを察しさせた。

 

「断定できない理由があるのね?」

 

 ああ、と一つ頷いてホウセンは口にする。

 

「俺は親父に勝つか、10歳になるまで旅に出られない」

 

「・・・・・・」

 

 沈黙。漣の音だけが満ちるあまりにも静寂な空気。氷を被ったかと幻視するその空間内でカトレアがじょじょに動揺という熱を浮かび上がらせた。

 

「あ、あ、アナタ成人してなかったの!?」

 

「まだ八歳だ」

 

 え、え。とちぃかわのように喘ぐカトレアが愉快で、ホウセンは悪戯な笑みを浮かべながら答えた。動揺で豊かな金髪を荒ぶらせるカトレアは言葉を探しながら舌を動かした。

 

「い、意外だわ。イッシュ人って成長が早いのね」

 

「いや、俺が特別なだけだ。基本的に背の高いイッシュ人に俺の成長速度が上乗せされてこの身長になった」

 

「はえぇ」

 

「ハハッ! なんて声出してんだよカトレア! おもしれえ!」

 

 心底愉快そうに笑われて流石に恥ずかしくなったカトレアは顔を真っ赤にして「笑いすぎよ!」と激昂した。

 

 ポカポカと殴りつけてくるあまりにも力のこもっていない握り拳から逃げるようにホウセンは自宅へ歩き出した。

 

「ウチに来いよカトレア。歓迎するぜ」

 

「・・・・・・っ、いいでしょう。生半可なおもてなしでは承知しなくてよ」

 

「さて、お嬢様に気に入っていただけるかな?」

 

 ホウセンは挑戦的な笑みを浮かべて、ライブキャスターで母にメッセージを送った。

 

『友達を連れていく』

 

 ただそれだけのあたりまえのやり取りが空っぽのメッセージ欄に追加された。

 

———

 

「はわわ〜ホウセンくんがお友達を〜!? ・・・・・・最近の子がハマる本ってどんなジャンルでしょうか?」

 

 シキミははじめこそメッセージに驚いていたが、すぐさま作家としての思考に切り替わった。ホウセンが連れてくる友人に勧められる本を妥協しないために、幾つもの山の中を指折り数えて整理しはじめた。

 

「どうしたんだシキミ〜?」

 

 滅多に本を片付けない妻が山を動かしている音を聞いて、ダイアがノックを鳴らして入室した。

 

「ホウセンくんがお友達を連れてくるそうです」

 

「・・・・・・えマジで!?」

 

「はい! 私も嬉しくてお友達に勧める本を探していたんですよ」

 

「わかった! シキミはとっておきの本を用意しといてくれ! 俺は歓迎パーティーの準備をする!」

 

「合点です! イッシュの名にかけて最高のエンターテイメントを用意しましょう!」

 

———

 

「なんだぁあれぇ?」

 

 意外! ホウセンの目に飛び込んできたそれは有り余る装飾に飾られた我が家だった。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや・・・・・・」

 

 ホウセンは目を擦ってもう一度それを見る。

 

 豪邸を下品にならない程度に飾られたイルミネーションの光が砂浜に浮かべられたパワーストーンをクールに照らす。ご丁寧に歩ける位置を明確にする薄いカーペットまで敷いている。

 

(なんだ? 俺はお袋に変なことを言ったか?)

 

 腕につけたライブキャスターのメッセージ欄を確認するも簡素な一文しかなかった。

 

「まあ! 素敵なお家ね!」

 

「そ、そうだな」

 

 ここでホウセンはあることを思い出した。

 

(親父は空間、製品などなどを兼任する万能デザイナーだったはず。もし親父がお袋にお願いされたのなら、この衝撃的なビフォーアフターに納得がいく)

 

 ホウセンは考え始めていた。カトレアへの言い訳と予定変更の打診をどうやって告げるか。

 

 ガチャ。

 

 そうこうしているうちに豪邸のドアが開いた。

 

「お! ホウセンもう来てたのか!」

 

「え?」

 

 ダイアが快活に告げた言葉に、カトレアは疑問符を浮かべてホウセンを覗き込んだ。

 

「よ・・・・・・ようこそ我が家へ」

 

 ホウセンの笑みは引き攣っていた。

 

———

 

「もう、アタクシの反応を見て遊んでたのね? 意地悪な殿方だこと」

 

「違う。気まずかったんだ」

 

「あらどうして? こんなにも素敵な邸宅に恥ずかしがる理由なんてないじゃない」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 ホウセンはこの飾り自体は見事だと思うが、飾り付けの理由が自身のメッセージにあることに羞恥心を覚えていた。

 

 友人に過保護な教育をされている一面を見られて恥ずかしがっているお坊ちゃんのような心境だ。

 

「・・・・・・俺がカトレアの家に行けばわかるよ」

 

「?」

 

 いまいちピンと来ていない彼女にこれ以上言い訳を続けるのを諦めた。煌びやかに飾られた玄関ドアを尻目にカトレアと自宅に足を踏み入れる。

 

「いらっしゃい。わァ、綺麗なお嬢様! お名前は?」

 

 そこにはホウセンと同じ紫髪のシキミが立っており、万年筆とメモを片手にカトレアへ取材のようなノリで質問した。

 

「お招きいただきありがとうございます。アタクシはカトレア。シンオウ出身の新人トレーナーですわ」

 

(相変わらず礼儀作法が行き届いてんなぁ。所作の一つ一つに品がある)

 

 カトレアのスカートを持ち上げるお嬢様ならではの所作に魅入っていたホウセンは次の瞬間、衝撃的な事実を耳にする。

 

3

 

2

 

1

 

「ご丁寧にありがとうございます。アタシはイッシュ四天王のシキミ。本業は小説家ですので、物語については人よりも詳しい方だと思います。今回はおもしろい本をたくさん用意したのでよければ読んでいってください!」

 

 カトレアが「まあ!」と歓びを露わにする一方でホウセンは話についていけてなかった。

 

(アィェェェ!? 四天王!? 四天王ナンデ!?)

 

 隣にカトレアが居なければ胸に秘めた発狂のままにのたうち回っていたことだろう。それをしないのは偏に漢としての意地だった。

 

(ヤッベッ四天王!? お袋四天王なの!? アニメ出てねえじゃん! こんな特徴的なマフラーあったら流石に気づくって! ってか小説家が本業ってなに!? 副業で四天王やってんの!? ナニ四天王!?)

 

 事実は小説よりも奇なり。

 

 まさかホウセンもシキミの出産年齢以上に驚愕すべき事実があるとは思わなかった。

 

———

 

 それからのホウセンはカトレアが見てもわかるほどにぐだぐだだった。ディナーは全く手がつかず、誰かに話しかけられるたびに吃りまくり、どうにか話せるようになったのは食事が終わり、カトレアに部屋を案内している最中だった。

 

「こっちは客室用、こっちは俺の部屋。隣り合ってるから間違えないように気をつけてな」

 

「ねえホウセン」

 

「そんで階段を登ったところは吹き抜けになっているから寄りかかりすぎて落ちないように気をつけて。上の階は基本的にお袋と親父が使っている」

 

「アナタ、狼狽えてらっしゃる?」

 

 カトレアはシャワーを浴びてさっぱりとした金髪を靡かせながらホウセンに尋ねた。

 

「お、おおお俺のどこが狼狽えて見えるんだよ?」

 

 精一杯の強がりすらも不発に終わり、カトレアにクスリと笑われたホウセンは羞恥のあまりそっぽを向いた。

 

 前を歩こうと足を踏み出すもカトレアが巧みにブロックしてホウセンは逃げ場を失った。

 

「・・・・・・知らなかったんだよ」

 

「へえ、なにを?」

 

「お袋が四天王だって知らなかった」

 

 カトレアはキョトンと真顔を作って、次の瞬間吹き出した。

 

「ウフフ・・・アッハハハ! あ〜可笑しい」

 

「くっ、これほどの屈辱は産まれてはじめてだ」

 

「・・・・・・フフフ、ごめんなさい。意地悪するつもりはなかったの。フフ、だってシキミさんが自己紹介したときのアナタの顔ときたら・・・フフフフ」

 

「バレてたのか!? あんときからバレてたのか!」

 

 くっ、と強く唸ったホウセンは「客室使えよ!」と捨て台詞を残して自身の部屋へ入り込もうとするも、カトレアはドアを閉める寸前に足を割り込ませた。

 

「こんの!」

 

「あら、閉めないの?」

 

「うるせえ! イッシュ人の男はみな紳士だ! 俺だけがその流儀に反するわけにはいかねえんだよ!」

 

 ホウセンは観念したように、カトレアの足を挟む寸前で止めたドアを開けた。

 

「フフ、お邪魔します♪ ・・・・・・!」

 

 ホウセンが納得いかない心境のまま、部屋に入れられたカトレアは上下左右一面に張り巡らされたメモ書きのノート用紙の数々に息を呑んだ。

 

「これは・・・・・・」

 

「部屋汚えと感じたらすぐ出て———」

 

「———いえ! いいえ! とても綺麗よ」

 

 莫大な文字の配列。達筆なそれが自由に壁を泳ぐ姿にカトレアは魅了されていた。壁沿いを歩きながら撫でるように指で触れる。

 

『Q.空中戦に対抗する範囲攻撃』

 

『A.ギガイアスの結晶からのワザ使用』

 

『Q.地中戦を制する泳法』

 

『A.四次元空間を交えたイダイトウの『ゴーストダイブ』フェイント』

 

『Q.攻撃パターンに合わせての回避方法』

 

『A.見えれば『さきどり』引けねば弾く』

 

『Q.格闘戦の取捨選択』

 

『A.』

 

 手持ちポケモンに合わせた鍛練。しかし、ポケモンの身体と人体はあまりにも異なる。普通のトレーナーならば、ワザの威力を強めるために繰り返しワザを使用する鍛練でポケモンたちを鍛える。

 

 カトレアはそう思っていた。

 

「・・・・・・ポケモンには特徴がある。体格、エネルギー、それら全て人間にはない特徴だ。そこで俺は思った。ワザによって体系化された強さだけではポケモン本来の強さを引き出したとは言えないのではないかってな」

 

 カトレアは魅入られた。あまりにも鮮烈な研磨を見せられて高揚していた。

 

「笑うか?」

 

「ええ笑うわ! こんなにも夢いっぱいでワクワクする世界観ははじめてだもの!」

 

 テーマパークに来た幼子のようにはしゃぐカトレアにホウセンは自然と笑みを浮かべた。

 

「ねえホウセン。アナタはどうしてここまでストイックになれるのかしら?」

 

「・・・・・・ん〜」

 

 ホウセンは悩んだ。仮に前世の知識を伝えてカトレアがホウセンの知るそれとは異なる道を歩んだらどうするか。

 

 カトレアは四天王になる。その輝かしい未来を邪魔してしまうことは言えない。

 

 こういうときの言い訳を考えるのがしんどいと思いながらホウセンは頭を回す。

 

「出来が悪かったから」

 

「え?」

 

「俺は見ての通り、書いていなきゃ覚えたいことも覚えられない人間だ。記憶に刻むのに人より時間がかかる」

 

 カトレアは地雷を踏んだかと思って顔を青ざめさせた。

 

「だが、そうして身につけた知識には愛着が湧く」

 

「あい・・・ちゃく?」

 

「そうだ。愛着の湧いた知識はいつかの夢となり、不便な現実を変える革新的なヒントをくれる」

 

 知らなかった。こんな考え方をする人間をカトレアは知らなかった。

 

 ホウセンは一枚の紙に指先を重ねた。

 

『『てっぺき』と『ボディプレス』』

 

 それはダンゴロを手に入れてから考えた夢とも呼べない現実的システムの引用だ。

 

「不便は夢のはじまり。俺にとっての不便とは敗北だ。一つの敗北に本気で悔しがっているうちにドラマティックな勝利を夢見て頑張って、その夢を現実に起こせる。ポケモントレーナーって職業が堪らなく好きだ」

 

 カトレアはどうしようもなく胸が高鳴った。

 

「ストイックでいれる一番の理由は、この出来の悪い頭に浮かぶ夢を見続けたいからだ。だが、理想とは実力が伴う者だけが口にすることができる現実。強くなることを諦めた人間に夢を見る権利はない」

 

 露わにした闘争心宿る野生的な笑み、全てを自分のモノにすると言わんばかりの鋭い眼光。

 

「俺がなりたいのはロマンチストじゃない。ドラマティックなリアリストだ」

 

 それらに晒されてカトレアは自然と両頬を抑えて、感じ入った全てを凝縮して唇を動かした。

 

「素敵♡」





 これがカトレアの魔力。決して逆らえない魅力が彼女にはある。でなければ一話丸々使った事実が説明できない!

 追記:これから書く旅の話に整合性をとるために、ちょいとカトレアの経歴をイジりました。

 具体的にはカトレアは『今回がトレーナーとしての初バトル』というところから『トレーナーになってから負け無し』に変更いたしまたした。

 カトレアの才能は世界一ィ! ですが、それではホウセンのポケモンたちとやり合えるランクルスたちのレベルに説得力がないと思った次第です。

 またもや勝手な変更申し訳ありません。


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