死ぬ。カトレアパワーに俺の脳味噌が活性化しすぎて壊される。どうにか書ききったぁ〜。俺の細胞がランクルス製でなければ死んでいた。
それと、この話に合わせて、三話を少し推敲いたしました。
具体的にはダイアとボスゴドラが二発目の『メタルバースト』を放つシーンで『バトルで食ってたあの頃を思い出させた』を『本気のバトルで食ってたあの頃を思い出させた』に変更しました。
勝手ですいません。
「それで? ダイアさんを倒す策はあるのよね?」
ホウセンの部屋で壁一面のノート用紙を一通り見渡したカトレアはふとそう言った。
「・・・・・・あるにはある」
その表情は、まだ未知の要素があることを予感してワクワクしながらも攻略できるかという不安を併せた実に複雑なものだった。
『メタルバーストの特徴』
テープで貼り付けていた一枚のノート用紙を剥がす。
「まず『メタルバースト』。これは遠距離ワザの完全無効化とダメージの全回復を最大の長所としている」
「・・・・・・未だに信じられないのだけど、『メタルバースト』で回復されるなんて」
「ハハハ、だよな。俺もはじめは夢の中にいるのかと思ったよ。とんでもなく悪い夢だった・・・・・・現実だったけど」
渇いた笑みを浮かべるホウセンに対し、カトレアはしっかりしなさいと言わんばかりに背中を叩いた。
「攻略法はあるのでしょう? ヒヒダルマの格闘技なら、勝算はあるはずよ」
「・・・問題はどこまでヒヒダルマを残せるか、だ。俺のヒヒダルマはガラル地方のリージョンフォーム、向こうの寒冷地帯に適応するためにこおりタイプへ変化している」
「なるほど、タイプ相性のハンデがあるのね」
一つ頷いてホウセンは『メタルバーストの特徴』の下に書いた“使用するポケモン”の欄を人差し指で撫でるところをカトレアに見せた。
・ボスゴドラ
・シュバルゴ
「二体も・・・・・・」
「そして、親父が扱うポケモンにはナットレイがいる。ほのおタイプのワザがなければ突破できない圧倒的防御力。正直、俺がヒヒダルマに求める役割はあまりにも多い」
「使い所に迷いそう。特にアナタは咄嗟の判断のときに考えすぎちゃうから、ヒヒダルマの役割は事前に決めておいてなさいな」
「・・・・・・やっぱそう思うか」
恥ずかしげに頭を掻いたホウセンの自覚的な悪癖。
前世のオンライン対戦マスターランク下位まで上り詰めたホウセンには、知識があるゆえの莫大な選択肢を常に抱えている。咄嗟に指示を出した際、その最適解を選択する。根っからのリアリストというある種の妥当性が、アドリブを求められる現実バトルの足枷となっている。
「どうも苦手なんだよなぁ、事前の取り決め無しに指示すんの。だからこそやり甲斐があるんだが」
一番やりたいバトルが自分というトレーナーに合っていない事実に天井を仰いだホウセン。またカトレアが背中を叩く。
「しっかりなさい。アタクシと旅に出るのでしょう?」
「勝てたらな」
「なによ。らしくもなく弱気になって」
「今日が初対面だろ」
「今日が初対面でもアナタの気質はオーラでわかります」
なにそれ怖と思うながらホウセンは気付け代わりに自身の頬を叩く。そして、一枚のノート用紙を壁から剥がす。
「俺のドッキリは殆どネタが割れている。だから、親父が最大限警戒すべき俺の像を逆算した」
『現在の見せ札』
手渡されたカトレアはすぐさま目を通す。
◯ギガイアスの加重移動とノータイム『メテオビーム』
A.それにより生まれる意識
・加重移動でも躱せない範囲攻撃と障害物の設置意識
・遠距離の撃ち合いは必ず『メタルバースト』のみに限定する
◯イダイトウの地中回遊と圧倒的な火力
A.それにより生まれる意識
・『じしん』などの地面ワザの枠を残す
・ナットレイの『やどりぎのたね』で地中に根を張る可能性
◯アギルダーの『さきどり』と回避性能
A.それによる生まれる意識
・アギルダーの前ではまず変化ワザ
・動きの阻害、もしくは捉えられる速度を担保できるエアームドを対面させる
「ヒヒダルマは?」
「まだゲットしたばかりでなにもバレてない」
そう。と一つ返事を返してカトレアはその情報の羅列に顔を歪めた。
「どのポケモンも、適切な回答が用意できるのね」
「その通り。親父は前々回のバトルまではポケモンを出す順番は固定していたが、前回のバトルではやめている。おそらく今回のバトルもな」
言いながらホウセンは部屋の端のコピー機の上に置いた裏返されたノート用紙を手に取った。
「で、今親父にバレていない手札がこれだ」
「ちょっと待って」
ご丁寧に裏に『見るな』とまで書かれたそれを気安く手渡そうとするホウセンに指を揃えた手のひらを前に突き出した。
「わかっているの? アタクシはイッシュリーグの挑戦者。そして旅に出たアナタも挑戦するでしょう。いい? アタクシたちはライバルなの、ライバルに気安く塩を送らないで」
厳しく凛とした声が一室に響き渡った。
ホウセンは「確かにそうだ」と引っ込めかけたその用紙をなぜか、無性に見せたい自分がいることに気がついた。ただの酔狂ではない。感情的な理由によってその自分が存在することを自覚した。
「・・・・・・カトレア」
「なに?」
「俺はこの時間がとても楽しい」
カトレアは突然優しげな表情で言われたその言葉を目を見開いて受け止めた。
「あっ」
そして、ホウセンは目を開ききったカトレアにノート用紙の表を見せた。カトレアは物覚えがいい。ホウセンは一度見た情報を瞬く間に記憶したその脳を信じてカトレアに見せた。
彼女なら一度見せた情報は決して忘れないと。
「なん、で?」
呆気に取られた声を出すカトレアにホウセンは満足げに笑って口を動かした。
「人は孤独に慣れても孤独を愛せない生き物。お袋の小説に書いてあった一番納得のいく一文だ」
「・・・・・・ええ、いい言葉ね」
少し昔の話をする。と断ってホウセンが続ける。
「ポケモンスクールで誰もが俺を孤高にした。実際成績は良かったし、真面目な気質が身を結んだ結果だ。本来なら喜びべき事実なのに、俺は楽しくなかったよ」
「孤独になったから?」
「そうだ。ずば抜けて優秀と証明されれば、天才という言葉が壁になって誰も俺と話そうとは思わなかった。一番マシだったのは、親の七光りと囁かれた負けず嫌いのボンボンが目の敵にしてくれたことだな。少なくともアイツのおかげで授業中の俺が孤独を味わうことはなかった」
けど、と挟んで口角を上げた。
「バトルについて、こんなに話せる友達はいなかった」
今を楽しむことに全力を注ぐ。それがホウセンの気質だ。カトレアは今やっと理解した。
(ホウセン、アナタはアタクシと同じなのね)
ポケモンバトルが好きで、孤独が嫌いで、負けず嫌い。
上品に微笑んで、『見るな』と書かれたノート用紙を受け取った。
「わかったわ。二人でダイアさんに勝ちましょう」
ホウセンとカトレアは長い夜を過ごした。
———
「大事な話がある」
「なんだよ親父」
翌日、バトル直前にダイアがホウセンを部屋に呼んだ。カトレアは先に砂浜へ行ってレジャーシートを敷いている頃だろう。
ポケモンリーグの最終到達点は四天王リーグ。チャンピオンリーグ優勝者が指定した地方のチャンピオンと四天王へ勝ち抜き戦を挑む、それが四天王リーグ。時に下剋上を果たしてその地位に座るトレーナーが入れ替わる。
そして、チャンピオンリーグに参加する権利は地方リーグの優勝。地方リーグは春夏の前半シーズン、秋冬の後半シーズンに分かれており、地方リーグの挑戦権はその地方のバッジ八つ集めることでようやく得られる。
地方リーグを制し、チャンピオンリーグを制し、四天王リーグを制す。
狭き門の連続。それを知るイッシュリーグ経験者のダイアにはとある危惧があった。
「カトレアちゃんと旅に出るときに気をつけることだ。いいか? ヤるときはしっかりとした機会と準備を設けてだ」
「・・・・・・・・・・・・ナンテ?」
「よく聞け。俺はよりにもよってシキミが四天王リーグに挑戦する前にやっちまった」
「・・・・・・いやなにやってんだ!?」
「俺もよく覚えてねえんだ。だがいつだったかはわかる。シキミが度数の高いワインを開けたあのときだ」
それお袋の確信犯だろ。というツッコミを呑み込んでホウセンは引き続き耳を傾けた。
「俺のアルコールと理性の弱さが招いた事態だ。もちろんホウセンが産まれたことはとても嬉しかった。だが、シキミのあのときの勢いならアデクさんをチャンピオンから引き摺り降ろすこともできたはずだ。でも大事をとって前任の四天王を攻略して終わった」
さながら懺悔室で嘆く信者のようだった。ホウセンは本気で悔やむダイアにかける言葉が見つからないまま、目をぐるぐると回した。
「だからこれは経験者からのアドバイスだ。なにをするにしても最適な機会があるということを忘れるな」
それだけ言ってダイアは部屋を出た。ポケモンたちのレベル調整に向かったのだろう。
(俺はどんなモチベーションでバトルすればいいんだ)
あとカトレアにどんな顔して会えばいい? と複雑な心境でホウセンは部屋をあとにした。
———
「お待ちしておりましたわ。今回のバトル、アタクシも見届けさせていただきます」
「おう、そんな大層なモンじゃねえからあんまり畏まらないでくれ」
気品漂う礼にダイアはたじたじになりながらも、定位置に立つ。
「ホウセンはまだでしょうか?」
「多分、最終調整だろうな。アイツは復習に余念がない」
「ええ、彼はそういう人です」
アタクシもわかっていますよと言わんばかりに頷いたカトレアの態度に、ダイアは『早めに言っておいて良かった』と安堵の息を吐いた。
そして、今日もこの砂浜にチャレンジャーが立ち入る。ダイブボールを片手に弄りながら、定位置に立ったホウセン。如何にもイダイトウを繰り出すことを示唆させながらその場に立った。
「エレガントに、ね」
「ああ」
ダイアは先週よりも冷や汗の量が増えた自身に気づき、頬のそれを拭った。
「先攻は親父」
「なに?」
「チャレンジャーの切実な頼みだ。聞いてくれるよな?」
楽しむ心がいつもより少ない。ダイアは、ホウセンに遊びの多い印象を抱いていた。だが今回はそれが極端に少ない。
(カトレアちゃんがホウセンを変えたか。また一流トレーナーの顔付きに近くなった)
荒れるぞ。と胸中が騒めく。
———
「頼むぞエアームド!」
「エア」
「イダイトウ!」
「ダイトォ」
エアームドが羽ばたき、イダイトウが宙を泳ぐ。天気はほどほどの晴天。高くもなく低くもない夏にしては絶妙な気温。
(あれほどイダイトウを先発に起用するアピールをしながらナットレイを繰り出さないのね。アギルダーを仕留めるのはナットレイに任せたと見てまず間違いないわ)
カトレアはわざわざ敷いたレジャーシートに座ることも忘れて、緩く握った手を胸に添えた。
「はじめるぞ。『ブレイブバード』」
エアームドが空へ羽ばたいた。あまりにも少ない自傷ダメージと防御力を犠牲にスピードを限界まで上げる高速三次元バトル。
「『アクアジェット』」
イダイトウが空中を回遊しながらエアームドへ追従する。
(ええ、それでいい)
エアームドの防御が下がった。素早さが上がった。
エアームドも速いが、まだ上がりきっていない素早さではイダイトウの『アクアジェット』の推進力を凌駕できず、すぐに追いつかれる。
「かわせ!」
イダイトウの『アクアジェット』はエアームドには当たらなかった。
巧みな飛行技術でイダイトウの高速突進を躱す。すかさずエアームドがイダイトウの後ろについた。
「『ドリルくちばし』!」
アギルダーを意識したワザ選択。エアームドの回転する嘴がイダイトウの尾鰭に迫る。
「『ゴーストダイブ』」
寸前、イダイトウが異空間へ潜った。
「なにっ!?」
「エア!?」
エアームドの『ドリルくちばし』は当たらなかった。
(今よ!)
「ダイトォ!」
「エアァァァ!?」
イダイトウの『ゴーストダイブ』。エアームドの急所に当たった。
イダイトウを追い越したところで本気の突進がガラ空きのエアームドの胴体を貫いた。防御力が下がったことで甚大なダメージを受けながらも、エアームドはどうにか飛行姿勢を整えた。
「『まきびし』!」
ここでダイアはエアームドに最低限の仕事をさせる作戦に切り替えた。
砂浜のフィールドに『まきびし』が撒かれた。
「『アクアジェット』!」
イダイトウが『まきびし』を撒いているエアームドに突進する。
「『ドリルくちばし』!」
そして、ダイアとエアームド本来の作戦が起動する。
ギィィィィ!
「「っ!!」」
それは迎撃ではない。水を纏うイダイトウの身体に自身の回転する嘴を当てて、衝撃を外に逃がす受け流し。
「『つじぎり』!」
そこでエアームドは自身の羽で擦れ違う間際にイダイトウの身体を引き裂いた。
刹那、カトレアとホウセンが微笑む。
イダイトウの『みがわり』が消えた。
「は?」
ダイアが間の抜けた声を出す。それを見るのは初めてではなかった。むしろ既視感に溢れた光景だった。
『ゴーストダイブ』で潜んだ異空間から『みがわり』を囮として外に出すワザの使い方。
「出てこいイダイトウ!」
異空間が開いた。
「ダイトォ!」
振り抜いた翼では迎撃などできない。ワザはすでに使い切った。
イダイトウの『ゴーストダイブ』!
「エァァァアァァァ!?」
エアームドが撃墜された。
———
「戻れエアームド」
ダイアは一人と戦っている気がしなかった。ホウセンとカトレア。指示を出していないはずの彼女がホウセンとともに優雅にタクトを振るう姿をなぜか幻視した。
「少し休んでくれイダイトウ」
冷静だ。その表情には勝利したというにはあまりにも引き締まっていた。ダイアがポケモンを繰り出した後に望み通りの対面を作ろうとしている。
「・・・・・・しゃあねえ」
それら全ての思惑を潰せるポケモンをダイアは早い段階で繰り出す決意をした。
(ホウセンとカトレアちゃんには酷なことをするが、俺だって・・・・・・俺だって一端のトレーナーとしてのプライドがある! 死力を尽くさずしてなにがトレーナーだ!)
「「っ!!」」
最早意地だった。勝ちたいという思いに全てを賭けるトレーナーとしての顔付き。
(認めるよホウセン。俺は今燃えている。この魂が! 鉄のように熱され、剣の形に整えられた。欲しいよなこの熱が! 堪らないよなこの熱が! じゃあやるよ! 火傷してもしんねえからなァ!)
「潰すぞ! ボスゴドラ!」
物騒な口上とともに腕の可動域いっぱいに繰り出されたあまりにも大きな体躯。ホウセンもカトレアも跳ねつける砂を払い、息を呑んで降り立ったそれを見上げた。
ギロリと瞳孔が赤く染まる。
「コッドォォォォ!」
———
(なんて威圧感。話には聞いていましたが、ここまで・・・・・・。それに、ダイアさんの圧も増したわね)
ボスゴドラ、ダイアと見渡したカトレアは最後にホウセンへ視線を送る。
「・・・・・・アギルダー」
「アギ。アギッ!?」
アギルダーに『まきびし』が炸裂した。
その頬に冷や汗を流しながらも、あくまでも冷静にと、人差し指の第二関節で額を叩いている姿にカトレアは安堵する。
『正直、ボスゴドラは軽くトラウマになりかけている』
昨日の夜にダイアの攻略法を探したカトレアとホウセン。そのホウセンが唯一弱音を吐いたダイアのポケモンを前にしても、パフォーマンスに影響はなさそうだ。
先攻は引き続きダイア。
「『ステルスロック』!」
「『ちょうはつ』!」
ボスゴドラは『ステルスロック』を出せなかった。
アギルダーのバトル展開で重要なのは、相手に攻撃ワザを出させるという意識。それを完遂できるワザは変化ワザの使用を禁じる『ちょうはつ』。
「『ストーンエッジ』!」
そのワザには地方ごとに流派がある。地面から剣山を飛び出させて攻撃するものと、自身の周囲に岩の礫を生み出し射出するもの。
「コドォォォォ!」
ボスゴドラが使用したのは前者。砂浜から剣山が立て続けに飛び出し、アギルダーに迫る。
「『きあいだま』」
「アギ!」
最早『かわせ』の指示は必要ないと言わんばかりに、華麗な動きでアギルダーはそれを躱しつつも両手の中にエネルギー弾を生成する。
(エレガントね。ワザの予備動作と回避を優雅に熟しているわ。けれど)
「『メタルバースト』」
(ボスゴドラも体勢が整っているわ)
カトレアは目の前にある事実を苦々しげな表情で受け止めた。
原理は単純、アギルダーが『きあいだま』を放つ頃には『ストーンエッジ』を使い終わったボスゴドラは悠々とそのエネルギーを吸収する『メタルバースト』の準備ができていた。
『時速300kmのパンチでも対処できれば遅いんだ』
ホウセンの言葉がまたもやカトレアの脳裏を過ぎる。
「『さきどり』」
ボスゴドラの『メタルバースト』はうまく決まらなかった。
「いけ!」
アギルダーの手の中に吸収した『メタルバースト』のエネルギーを見届けてホウセンがGOサインを出す。
アギルダーの『メタルバースト』!
「コドォ!? コォ・・・・・・」
そのエネルギー弾がボスゴドラに命中するも、ボスゴドラは受けたダメージに反してピンピンしていた。
(不気味ね。ワザを指示する余裕はあったはずなのになにもしないなんて)
ホウセンもその不気味さを感じていた。だがある種の正解でもあると思っていた。ボスゴドラがダメージを受ければ受けるほど『メタルバースト』の威力が上がる。
「っ!」
『さきどり』のワザ威力上昇効果を利用して、対処できない威力の『メタルバースト』を作り出すつもりか?
『がんじょう』のボスゴドラにワザのパワーがどれほど強大であろうとプレッシャーにならない。その前提条件を活用したバトルスタイルだとホウセンは読んだ。
「いけ。『メタルバースト』」
ボスゴドラの『ちょうはつ』状態が解けた。
「いいだろう。とことん付き合ってやる!」
ボスゴドラが口を開く。
「アギルダー『さきどり』!」
同時にホウセンが指示を出した。アギルダーがすぐさま『さきどり』のエネルギー吸収可能領域へと踏み込む。
「っ! ダメ!」
カトレアが叫ぶ。違和感。それは確かにホウセンも感じていた。
アギルダーの『さきどり』がうまく決まらなかった。
ボスゴドラがダイアの指示に反して『メタルバースト』を使わなかったその瞬間に、違和感が表面化した。
「なん———!?」
まだダイアに『さきどり』を防がれたことがないという事実が、ホウセンとアギルダーの自信を慢心に変えた。
「コォォォォ!!!」
ボスゴドラの『ほえる』!
アギルダーがボールに引っ込んだ。
「『やれ』」
ホウセンのダイブボールが一人でに開いた瞬間、ダイアが指示を出す。
いや、ボスゴドラはすでに前もって構えている。自身のダメージ全てを込めた究極のエネルギー弾。
「ダイト?」
「避けろイダイトオォォォォ!!」
ボスゴドラの『メタルバースト』!
ボールから強制的に出されたイダイトウは訳もわからずそのエネルギー弾に呑み込まれた。
———
「だい・・・・・・とぉ」
イダイトウ戦闘不能。
(『ほえる』でアギルダーの対策をした上で、後ろのイダイトウを『メタルバースト』でたおされた?)
茫然自失に陥りながらもトレーナーとして培ってきた反復行動がイダイトウをボールに戻させた。
指のなかの血に砂が入ったような冷たい感覚がホウセンを襲う。すでに彼の視界には濃い霧がかかっていた。
「ホウセン?」
(バカ・・・ヤロウ。わかってたはずだろ。『さきどり』と真正面からやり合うはずはねえって)
サクサク
(カトレアに見せた『現在の見せ札』にも書いてあった。アギルダーを前にした親父は変化ワザを駆使して戦うと)
サクサクサク・・・・・・バッ!
(やっぱり無理なのか? 俺にアニポケバトルはできないのか? システム的なバトルはできても、夢のようなバトルはでき———)
パシン!
「ダッ!?」
ホウセンの視界が流れる。いや、流れたのは首だ。頬の衝撃に対処すべく咄嗟のスリッピング・アウェーでダメージを軽減した。
「あら、また悪夢に苛まれているのかと思えば随分と器用に受けたわね。少し安心したわ」
「カト・・・・・・レア」
ホウセンの頬を叩いたのはカトレアだった。彼女は痛そうに手のひらを揺らしたあと、ホウセンの頭を鷲掴みにした。
「いい? アナタはアタクシのライバルなの。これからもアナタ以外に存在しないアタクシだけの好敵手」
濃霧が晴れる様を幻視した。しかし、辺りはずっと晴れていて明るいはずだ。それなのにホウセンは、カトレアがより一層輝いて見えた。
「そんなアナタが、まだ戦えるポケモンたちに失礼なことをしないで。彼らはアナタと戦う覚悟を決めたの。その決意に見合う夢を、最後まで追い続けなさいホウセン!」
「!」
「それがトレーナーとしてのアナタの義務よ」
カトレアは顔を上げたホウセンからそっと手を離した。
「・・・・・・ああ、ああ! 追いかけるさ!」
何度も頷くホウセンにカトレアは品のある微笑みを浮かべてバトルフィールドの外へ歩いてゆく。
「“夢を現実に”が俺たちのモットーだからな!」
彼女の背中へ向けてホウセンは力強く宣言する。ボールホルダーからモンスターボールを手に取り、戦い続ける意志を示すように砂浜を踏み抜いた。
「いくぞヒヒダルマ!」
———
「ダマァァァ!」
ヒヒダルマに『まきびし』が炸裂した。
気合い十分に叫んだヒヒダルマが出現し、カトレアはようやくレジャーシートに腰を下ろすことができた。
(よかった。いつも励まされてばかりだったから、励まし方も自然と身についたのかしらね)
カトレアは『勝たなくていい』と反射的に思った。
(アナタがアナタらしくバトルするところが・・・・・・好きよ)
自然と握り拳を作ったカトレアは「頑張りなさい」と命令口調の応援を投げかけた。
「ヒヒダルマ、ちょっといいか?」
「ダマ?」
ホウセンがヒヒダルマを呼びかける。ダイアとボスゴドラはその行動を見届ける。
どこか気負った表情でなにかを告げようとする主人にヒヒダルマが耳を傾ける。
「俺は今からおまえにとって好ましくない指示をする。だが———」
「———ダマ」
ヒヒダルマは最初の言葉を聞き遂げて、一つ頷き親指を立てた。そこにあったのは了承の意。迷いの無い瞳を見せて、ヒヒダルマはバトルフィールドの定位置に戻った。
「準備はできたか?」
「すぅ・・・・・・かつてないほどグレートだ!」
ダイアの質問に高揚する心のままに答えた。ダイアもまた安堵の溜め息を吐いた。
ボスゴドラがヒヒダルマの正面に立つ。
「コドコド」
存分に来い新顔と言わんばかりにヒヒダルマを挑発する。ヒヒダルマは大きな拳を構えて返答とした。
「走れ!」
「ダマ!」
勝負がはじまるのは突然に。ヒヒダルマがボスゴドラに飛び掛かるフリをして周囲を走る。
「コド?」
ホウセンがヒヒダルマを一番評価しているところは体術ではなく速度だ。リゾートデザートではアギルダーが瞬きをしていたとはいえ、ギガイアスへの接敵を許したその速度と格闘技譲りの足捌きが相手を翻弄する動きを作り出す。
「『用意しとけ』」
「コド」
(来たわね、暗号型の指示。けれどさっきの『メタルバースト』でボスゴドラの体力が回復したのはホウセンも見ているわ。牽制以上の意味合いはないはず)
相手に使用するワザを悟らせないための指示にホウセンは動じない。ただ脳内に降りた景色を再現するために全神経を張り巡らせる。
「接近しろ!」
「来るぞボスゴドラ!」
ボスゴドラの眼前に腰を低く構えたヒヒダルマが走り込む。ボスゴドラはワザをいつでも発動できるように口へエネルギーを貯める。
「『とんぼがえり』!」
「ダマッ!」
「コヅォ!?」
意外! ヒヒダルマは緩いアッパーをボスゴドラの顎に喰らわせてホウセンのボールの中へ帰っていった。
「? 『ほえる』だ!」
ダイアは疑問符を浮かべながら反射的な最適解を指示した。同時にホウセンのモンスターボールから水色結晶を光らせた相棒が飛び出す。
いや、ボスゴドラの正面へ“落ちてゆく”。
「コッドォォォォ!」
ボスゴドラの『ほえる』。しかし真正面にいるはずのギガイアスにはうまく決まらなかった。
ギガイアスの体勢はボスゴドラに足を向けながらも、地面に吸い寄せられるように『ほえる』ボスゴドラの方へじょじょに近づいてゆく。
「これは!」
「なんで引っ込まねえ!?」
カトレアとダイアが驚愕に包まれるなか、ホウセンはあたりまえだろと言わんばかりのしたり顔だった。
「『ほえる』だけで引っ込みがつくほどウチの相棒は柔じゃねえ! 加重三倍『ボディイプレス』!」
「くっ!」
ダイアは指示を出せなかった。ボスゴドラに『ほえる』をやめさせることはすなわち、拮抗している現在の状況からボスゴドラの敗北へと導く最短ルート。
「ガィアァァァ!」
「ゴドォォォォ!」
『ほえる』の強制力と260kg3Gのパワー、どちらが勝るのかという疑問。
「いけェェェェェェ!」
「止めろォォォォ!!」
「———ッド!?」
解答は、ギガイアス前人未踏のライダーキック。
ギガイアスの足が顔面にめり込んだボスゴドラ。その巨大な身体が有り余る衝撃に押されてダイアの側を通り抜けてゆく。
「うそ、だ、ろ・・・・・・」
『とんぼがえり』で『がんじょう』を潰されたボスゴドラにそれを耐えられたのか、知るためにダイアは振り返った。
「こ、ど・・・・・・」
ボスゴドラ戦闘不能、砂浜に沈む。
「ガィアァァァァァァ!」
「グレート!」
ホウセンのトラウマが完全に払拭された。
———
気がつけばカトレアはまた立ち上がって、祈るように両手を握り合わせていた。
「見たかカトレア! 見たよなぁ! 俺とギガイアスとヒヒダルマの連携ワザ!」
あまりにも楽しげに誇らしく言うものだからカトレアはついつい笑ってしまった。
「ええ、エクセレントな連携だったわ」
「〜〜ッ!」
ホウセンはあまりにも純粋な賛辞を受け、かつてない喜びに打ち震えた。
「ホウセン。アナタのバトルをもっと見せて」
「ああ、見てろ! 最高のエンターテイメントを用意する!」
———
盛り上がる二人の傍らでダイアは静かに自身のエースポケモンを戻した。
「火傷しちまったのは俺たちの方だったな。ゆっくり休めボスゴドラ」
戦闘不能に陥った相棒をボールホルダーへ取り付ける。その行為が随分久しぶりなものに感じた。
ダイアは思う。俺は今この現実を受け入れられているのかと。
「よっしゃ、次だ親父!」
いや、これは現実だ。息子があんなにも伸び伸びと笑っているこの空間が現実であることに喜びこそすれ、嘆くことなどありえない。
「・・・・・・出血大サービスだ」
「え?」
「ん?」
それはそれとしてこの状況は非常に好ましくない。そうトレーナーとして、不愉快極まりない現実だ。
「俺の全戦力を以て、おまえを倒す」
この不愉快な現実を否定するために、ダイアは使用するつもりのなかった一つのボールに手をかけ、父親である自身を再び忘れた。
———
「ギギギアル!」
三つの歯車を回転させたポケモンがバトルフィールド上を浮遊する。
「ギギア」
なんの変哲もないギギギアルだ。顔のある小さな歯車と大きな歯車、そしてコアのついた歯車を回すはぐるまポケモン。
「ギギギアル?」
ホウセンは思わず復唱した。
(腕利きのトレーナーのなかで扱っている方はいたかしら?)
カトレアは首を傾げた。
しかし、二人は湧き上がる疑問を振り払い、なけなしの警戒心を呼び起こす。
「準備はいいな?」
「ふぅ・・・・・・来い!」
ボスゴドラを失った今、後釜としてギギギアルを繰り出すに足る理由はバトルでわかるはずだ。
「『ギアソーサー』」
宙に生成された歯車がギガイアスに襲い掛かる。
「『じゅうりょく』」
『ギアソーサー』が地面に落下した。
(ダイアさんの狙いはなんなの?)
見え見えの攻撃があたりまえのように防がれて、カトレアの疑問が膨らんだ。
「もらった。『ギアチェンジ』!」
しかし、ダイアの狙いはギギギアルをも巻き込む『じゅうりょく』を引き出すことにあった。ギギギアルに過重力空間を耐え得る歯車を作り出させる。
「『メテオビーム』!」
「ガイアァァァ!」
そんな悠長なバトル展開は許さないと言わんばかりにギガイアスの口からノータイム『メテオビーム』がギギギアルに襲いかかった。
「やれ」
「ギア!」
刹那、ギギギアルが自身の生成した歯車を瞬間的に入れ替え、捨てた歯車を遮蔽物に『メテオビーム』を凌いだ。
「ほう」
(歯車を身代わりに・・・・・・大した曲芸だけど、ギガイアスの本命は二度目の特殊攻撃。その回避方法でギギギアルがもつかしら?)
どこか得意げに微笑むカトレアの想像通りのバトル展開される。
「『だいちのちから』」
「『ギアチェンジ』」
ここでホウセンは迷いなくギガイアス四つ目のワザを使った。ダイアは対処するために再びギギギアルに『ギアチェンジ』を使用させる。
ギガイアスの『だいちのちから』は『ギアチェンジ』で捨てた歯車に阻まれた。
地面から隆起するエネルギー波を、今度は盾ではなく緊急脱出。ギギギアルが変えたパーツに弾かれるように上へ跳んだ。
(今よ!)
「『ボディプレス』!」
隆起するエネルギー波を隠れ蓑にギガイアスがギギギアルの下へ高速で落ちてゆく。誘導された逃走経路。素早さがどれだけ上がろうとも逃れられない落下速度を武器とした超絶ライダーキック。
「ちっ! 『まもる』!」
ギギギアルは『まもる』の防壁でギガイアスの『ボディプレス』を防いだ。
「ガイア!?」
「大盤振る舞いだなァ!」
ダイアは今間違いなく『まもる』を使わされた。その証拠に動揺するギガイアスに対して、ホウセンは迷うことなく人差し指を突き立てた。
「『メテオビーム』!」
「っ! 『ギアソーサー』!」
「ガィァァァ!」
「アルrrrrr!」
互いにワザが炸裂する!
ペースはホウセンが確実に握っていた。しかし、最大威力の効果いまひとつな『メテオビーム』と攻撃力が二段階上昇し効果抜群な『ギアソーサー』。
「がい、あ・・・・・・」
威力ではなく、受けるポケモンが勝負を分けた。
(っ! ギガイアスでも倒せないなんて・・・・・・)
ここでホウセンの相棒ポケモンも倒れた。
「OKだ。最高にグレートだったぜギガイアス」
光が消えた水色結晶。砂浜に沈んだギガイアスがボールに吸い込まれる姿をカトレアは悔しそうに見送った。
(ホウセンアナタ・・・・・・笑ってる?)
その先でホウセンが新しい夢を描く。
———
「アギルダー!」
「アギ・・・・・・ギル」
フィールドに出現したアギルダーは手の中に冷たい水を作って身体を濡らし、公式の審判がワザを使ったと判断されないギリギリの水量で体調を整えた。
一方、ダイアは目元を覆って天を仰いだ。
(なんてザマだ。全戦力と豪語して送ったギギギアルの戦術がここに来て形無しか)
ダイアの想うギギギアルの最大戦略がアギルダーの『ちょうはつ』の存在によって崩されていた。
(だが『ちょうはつ』対策なんてのはプロの世界ではあたりまえ。まだギギギアルの戦略が死んだわけじゃない)
彼の脳裏には過去にホウセンが放った言葉が響いていた。
『周回遅れの野郎どもに現実をくれてやれ!』
意図せず歯軋りが鳴る。食いしばりすぎた歯が音を鳴らしたのだ。
(冗談じゃねえ。こちとら“サザナミジム”の看板を背負ってんだ! 俺のトレーナー人生は確かに終わったが、まだ先人を切ってんのは俺だ!)
(誰がなんと言おうと、いつかコイツに追い抜かされるその日までおまえは前を走り続けなきゃいけねえんだよダイア!)
ここへ来て、父としてのジムリーダーとしての意地が合致した。
———
(あと一回の『ギアチェンジ』でギギギアルの素早さは最大まで高まる。そうなれば、いくらアギルダーでもギギギアルを捉えることは困難になってしまうわ)
マズイ、その一言に尽きる状況だ。カトレアは重ねた手を握ってホウセンがどう動くかを見守る。
「アギルダー、イダイトウの『みがわり』を使え」
「アギ!?」
「はい!?」
カトレアとアギルダーは言葉の意味をすぐに理解した。理解した上で正気かと疑った。
「ホウセンアナタ! 自分がなにを言っているかわかっているの!?」
「落ち着けカトレア」
イダイトウの『みがわり』。それは『ゴーストダイブ』の異空間内から『みがわり』を飛び出させて、現実世界のポケモンを強襲するというもの。
度重なる反復練習の末、一昨日にやっとイダイトウは『みがわり』にワザを使わせることを可能にしたが、修得期間はアギルダーをゲットしてから・・・・・・一週間弱。
「いいか? 使わせるワザは一つだ・・・・・・それでギギギアルは完封できる」
「あ"?」
ダイアが思わずカタギが出しちゃいけない声を出した。
「アギ、ギル」
その立てられた一本の人差し指をアギルダーは信じることにした。できると信じるのではなく、できればいいと夢を描く。見るだけで満足しないのが、ホウセンのポケモンとなった自身の義務だ。
アギルダーの『みがわり』。
「ふざけんのも大概にしろ! ギギギアル『ギアソーサー』!」
「アルrrrrrrr!」
ギギギアルの『ギアソーサー———
ギギギアルの背後に歯車が生成される。
———はうまく決まらなかった。
「アr?」
が、出現した歯車は操ることができずに消えた。
「あ、ありえないわ。ぶっつけ本番で・・・・・・」
カトレアが信じ難いものを見るような目でアギルダーの『みがわり』を視界に入れた。
「アギ」
その手のなかにはギギギアルが操るはずだった『ギアソーサー』が握られていた。
「・・・・・・」
ダイアは驚き疲れてなにも言えなかった。
「『ちょうはつ』」
しかし、自身を著しく不利な状況へ持っていくその行動が飛んでいたダイアの意識を戻させた。
「ふざけんなって言ってんだろうが! 『まもる』!」
アギルダーの『ちょうはつ』が防がれた。
しかし、『まもる』の防壁はそこまで長くは続かない。本体のアギルダーが動いている間に、『みがわり』のアギルダーがギギギアルに照準を合わせた。
『みがわり』アギルダーの『ギアソーサー』!
「アrr!?」
「狼狽えんな! 『ギアチェンジ』だ!」
『ギアチェンジ』の緊急脱出。逃げると同時にギギギアルの素早さは最大まで高まった。
「アギ」
「アr!?」
だが、逃げた先にはアギルダーの本体が回り込んでいた。
「『きあいだま』!」
アギルダーの『きあい———「『まもる』だ!」———だま』は防がれた。
ホウセンはニヤリと笑う。逆に防いだはずのダイアは青褪める。
「『ちょうはつ』」
合図が送られる。
「アギ(機械の癖に冷や汗かいてんじゃないよ。ったく、アンタの歯車はカビ臭くて敵わないね)」
ギギギアルは機械である。純然たる機械型のポケモンである。メタグロスというポケモンがいた。コンピュータをいくつも搭載したような脳があった。しかし、ギギギアルはそういう手合いには負けたことがなかった。なぜなら機械特有の冷静さがあったからだ。自身が感情的になることなど。
「アrrr! (んだとコラァ!)」
この一時以外に有り得ないことだった。
ギギギアルの『ギアソーサー———
「バカ!」
———はうまく決まらなかった。
『みがわり』のアギルダーがすでに『さきどり』を発動していた。ギギギアルが放つはずだった『ギアソーサー』は『みがわり』アギルダーの手の中に。
「『ボルトチェンジ』!」
ダイアは手のひらを前に突き出しながら指示を出す。その行動の意味は『戻ってくんな』だ。これ以上『ちょうはつ』であと一体のポケモンの使うワザを限定させたくないため、ダイアはギギギアルでアギルダーを倒すと決めた。
ギギギアルの『ボルトチェンジ』!
『みがわり』アギルダーの『ギアソーサー』は当たらなかった。『みがわり』は役目を終えた。
「っ!」
それは距離を作るための『ボルトチェンジ』。『ちょうはつ』を繰り出していた本体のアギルダーは避けることができず、『みがわり』の『ギアソーサー』も当たらず、度重なるワザの使用によりとうとう『みがわり』も消えた。
「ここだ!」
ザッ!
ギギギアルの速度に唆されて砂が跳ねる。
「『ギアソーサー』!」
「『さきどり』」
ギギギアルの『ギアソーサー』はうまく決まらなか———ギギギアルの『ギアソーサー』。
「え!?」
「なに!?」
ここでダイアは上がりきった速度を利用して、『ギアソーサー』の二度打ちを決めた。
「アギャッ!?」
「アrッ!?」
互いに急所に当たった。
(どうなったの!?)
「アギルダー!」
「ギギギアル!」
ドササッ。
アギルダー、ギギギアル、共に戦闘不能。
———
ダイアの仕掛けた大博打が身を結んだ。
「あい、うち?」
カトレアが呆然と現状を口にする。
(そんな・・・・・・。ヒヒダルマは『まきびし』のダメージが蓄積された上に、『とんぼがえり』を使った状態。この状況でダイアさんの万全のポケモンを倒せるの?)
目元を抑えて視界が暗くなったカトレア。一夜とはいえ、誰よりもホウセンとダイアの対策に勤しんだカトレアだからこそわかる絶望的状況。
(ナットレイが出てくることは有り得ないわ。リージョンフォームとはいえヒヒダルマ。ダイアさんがほのおタイプのワザを警戒しないわけがない)
悪い予感が現実味を帯びて迫ってくる。
(いやよ! アタクシは、アナタと———!)
欲望が心を乱し、カトレアの金髪が超能力に触発されて荒ぶり始める。
「トリだぜ」
ホウセンのそんな一言がカトレアの覆っていた闇を振り払った。
「ヒヒダルマ、おまえがトリだ!」
モンスターボールが投げられる。
「ダマッ!」
ヒヒダルマに『まきびし』が炸裂する。しかし、ホウセンとヒヒダルマが気にした様子はない。
「そして、俺は新しい夢を見た! カトレア、おまえがいなかったら決して見ることのできなかった景色だ!」
「え?」
あれほど荒ぶっていた金髪は緩やかなウェーブを描いて腰へ垂れた。
———
『それだけの速さがあるなら投げ技に縛られるのはもったいないわ』
『ボクシングとかどうかしら? 下半身をあまり使わないジャブはヒヒダルマの速い攻撃に合っていると思うわ』
『そうなると・・・・・・威力は下がるけれど、中距離でパンチのエネルギーを飛ばす技術も鍛えた方がいいわね』
『最後の一体になったら『あくび』ね。忘れちゃダメよ。できない状況に陥ったらアタクシからアッパーをプレゼントするわ』
『ワザと技の使い分けはエレガントに』
———
わからない。共有し尽くしたはずの景色がホウセンのなかで未知へと変わっている。それがどんな景色なのか、カトレアは見ることができない。カトレアには相手の心を読む術がない。超能力といっても彼女にはサイコキネシス以外のそれを持ち得ない。
「ねえ、それってどんな景色なの?」
好奇心。それはあまりにも純粋で弾む胸を抑えられない感情の発露。
「慌てんな、これから見せる」
だからもう・・・・・・そんな顔すんな。
好戦的な笑みを浮かべるなかで微かに、されどしっかりと感じた言葉の波動。
「ええ、ええ! 特等席で見せてもらうわ! 退屈な勝負だけは勘弁ね」
カトレアは口元に手を当て上品に微笑んだ。
ホウセンは親指を立てて解答とした。ダイアの手がボールホルダーへ伸びる。
それもまた今回出すか迷っていたポケモンだった。ボスゴドラと同レベルか、それ以上に『メタルバースト』を使い熟す現役時代のダイアの二大巨頭。
「すぅ・・・・・・キリキザン!」
「キィザッ」
とうじんポケモンキリキザン。悠然とした佇まいで砂に立つキリキザンに隙らしい隙はない。変化ワザなど打とうものならすぐさま切り裂いてやると言わんばかりに肘の刃を煌めかせる。
「こういうとき、なんて言うんだったか・・・・・・」
「?」
ダイアが溢した一言に疑問を浮かべるホウセン。少ししてダイアは「そうだ思い出した」と告げて、両手を広げた。
「ダヴァイ(来い)!」
「! いくぞ親父ィ!」
下火は点いた。試し合いもとうに済んでいる。ならあとは。
「果たし合いだ!」
———
「『ほのおのパンチ』!」
ヒヒダルマがボクシングの構えをとりながらキリキザンに接近する。
「ダマァ!」
ジャブのように軽やかながらも確かな威力を秘めた拳を突き放った。
対してキリキザンはその巨大な拳に合わせるように、左手を添えた。
「『メタルバースト』」
ヒヒダルマの『ほのおのパンチ』が『メタルバースト』に吸収された。
「っ!!」
(『メタルバースト』にまだパターンがあったなんて。ボスゴドラというより、アギルダーに近いバトルスタイルね)
キリキザンの右手に、吸収した『ほのおのパンチ』のエネルギー弾が生成される。すぐさまキリキザンはヒヒダルマの腕を掴み、逃げを封じる。
(鮮やかね!)
「キィザッ!」
キリキザンの『メタルバースト』。それがヒヒダルマ直撃しようとしていた。
「バック!」
刹那、ホウセンが合図を送る。
「———キザ?」
キリキザンの眼前からヒヒダルマが消える。いや、瞬間的に後退した。
「ギギギアルの『ボルトチェンジ』か・・・・・・」
ダイアは苦々しげに吐き捨てる。
ボクシングスタイルで放たれる速度重視の『ほのおのパンチ』と『とんぼがえり』の連動。今回のバトルの経験でホウセンはヒヒダルマの速さを最大限に活かしたバトルスタイルを咄嗟に仕上げた。
「グレート」
「ダマ」
ヒヒダルマも親指を立てる。
(凄い・・・・・・凄いわホウセン。けれど、これはアナタが見た夢ではないのでしょう)
カトレアは焦れる。どんなドラマティックなバトルが見れるのか、楽しみで仕方なかった。
(速く、アタクシの知らない景色へ連れてって)
今はまだ、はじまったばかり。
「中距離『ほのおのパンチ』」
ヒヒダルマが再び拳に炎を纏った。しかし、それを突き出す位置は明らかにキリキザンから離れ過ぎていた。
「既視感バリバリだぜホウセン。『メタルバースト』」
ヒヒダルマの『ほのおのパンチ』の熱が空気に乗ってキリキザンに放たれるが、キリキザンの『メタルバースト』の透明なエネルギー弾に色をつけるだけだった。
「ザァキ!」
キリキザンの『メタルバースト』。
「ダマ」
ヒヒダルマにはあたらなかった。
中距離勝負は互いに見てから対処が余裕。ホウセンとダイアの思考が近距離戦闘に切り替わる。
「「殴り合いだ!」」
「ザキ!」
「ダマ!」
二体が接近する。
「『ほのおのパンチ』」
「『ふいうち』」
「ザッ」
「ダマ!?」
誰よりも速くキリキザンがヒヒダルマの懐に飛び込み、華麗な足払いでヒヒダルマの身体を浮かせる。
「『アイアンヘッドォ』!」
「ちっ! 『ずつき』!」
今度はホウセンがワザを使わされた。完全に肉薄しきった状態では手足のワザは悪手。
「ダァッ!」
「キザァ!」
ゆえに対抗ワザ。
「ダマァァ!?」
しかし、キリキザンは砂地という踏み台があり、ワザを放つ体勢から見てもキリキザンの方が遥かに威力が乗っていた。
「・・・・・・ッダマ」
それでも慣れない砂地という踏み台で少々威力が逃げていた。ヒヒダルマが悠々と立ち上がる。
『まきびし』2回と軽減された『アイアンヘッド』。
「ダァァァマァァァ!」
「来たか!」
それだけで退化と切り捨てたヒヒダルマの炎を呼び起こすには十分だった。
『ダルマモード』発動。
身体が丸まり、腕のリーチは短くなったが、以前を遥かに凌駕する炎エネルギーの獲得。攻撃力と素早さのさらなる向上。
「っ、忘れてたぜ。ガラルのヒヒダルマに『ごりむちゅう』がねえってことは、そういうことだよな」
(『ダルマモード』。ここから本領発揮ね)
「アゲてくぞヒヒダルマ! 『ほのおのパンチ』!」
「ダマァァァ!」
それは最早突進だった。一つ跳ねるだけで中距離の間合いを瞬く間に埋め尽くした。
「キザ!?」
「ッ! 『アイアンヘッドォ』!」
『メタルバースト』を使う時間はない。そう判断したダイアはキリキザンに『アイアンヘッド』での迎撃を指示。
ガンッ!
かち合うのは一瞬。
「ダァマァァァ!」
「キザァァァ!?」
ヒヒダルマのパワーに押されてキリキザンが吹き飛ばされる。
「『メタルバースト』!」
空中を高速で漂うキリキザンはすぐさまダメージ吸収の『メタルバースト』を起動。回復と攻撃を兼任する一手。
「『つららおとし』」
それをするにはヒヒダルマが遠すぎた。またもや『とんぼがえり』の連動によって遥か後方へ下がったヒヒダルマがキリキザンの頭上に巨大な氷柱を作り出す。
「ッ、キザ!」
キリキザンが歯噛みしながら、右手の中にある『メタルバースト』で『つららおとし』を迎撃した。
「ナイスキリキザン」
「ザキッ!」
信頼関係が構築されたトレーナーのポケモンは主人の意図を汲む。次に指示しようとしたことを前もって行動できるキリキザンとの信頼関係は並大抵のものではない。
「・・・・・・見えたぞ」
しかしホウセンは、その信頼関係に隙を見た。
『メタルバースト』
『アイアンヘッド』
『ふいうち』
キリキザンが使用しているワザはまだ三つ。四つ目のワザという不確定要素がホウセン一番の泣きどころだった。
「『バークアウト』!」
「ッ!」
(特殊攻撃をしないヒヒダルマにどうして『バークアウト』を!?)
が、その懸念は次の瞬間に吹き飛んだ。
「キィィィザァァァ!」
「ダマァ!?」
辺り一帯にキリキザンの咆哮に乗せられた悪エネルギーが発散される。そのときホウセンは信じられないものを見た。
ヒヒダルマのとくこうが下がった。
"キリキザンのとくこうが下がった"。
「ザァキィ!」
キリキザンの『まけんき』。こうげきりょくがぐーんと上がった。
現役のダイアが当時のシキミを追い詰めたこの戦術の恐ろしい点。
攻め手を欠いたら『バークアウト』が次々と放たれ、キリキザンの攻撃力が上昇し続ける。その上自身を傷つける『バークアウト』は『メタルバースト』の乱用を可能にする。
そして、キリキザンはボスゴドラ以上に『メタルバースト』を使える。遠距離攻撃を無効化する『メタルバースト』も当然可能。
キリキザンがエースと呼ばれない理由は、ボスゴドラの『がんじょう』以外に存在しない。
「いける」
それを察したホウセンはむしろ勝算が整った。
今はじまる。神ではなく人間とポケモンが打つ再現性不可の盤外一手。
(やっと、見れるのね)
カトレアがそれを感じた。
「中距離"で"『ほのおのパンチ』!」
「させんな『ふいうちィ』!」
ヒヒダルマが構えた瞬間にはキリキザンは懐に飛び込んでいた。
キリキザンの『ふいうち』が発動しない。ヒヒダルマはワザを使わなかった。
「ザキッ?」
再び放とうとした足払いが"膝で受けられた"。キリキザンとて現状は理解している。そのうえで信じられなかった。自身の攻撃力は現在のヒヒダルマの搾りかすのような体力を削れないほど貧弱じゃない。
待て。コイツ・・・・・・『ダルマモード』を解いている!?
「ダマッ!」
「キザ!?」
気づいたときには腕を取られ、胴体に足を入れられ、見事な巴投げで宙に飛ばされた。
「焦んな『メタルバースト』!」
そう、空中に飛ばされたとはいえキリキザン自身も『バークアウト』を受けている。そのダメージで抽出した『メタルバースト』で牽制すればいくらでもリカバリーがきく。
キリキザンの『メタルバースト』。右手にエネルギー弾が生成される。
「『つららおとし』」
「ッ! キリキザン!」
背中に寒気を感じた。文字通りキリキザンの背後に氷柱が生成されている。
だが、キリキザンはボスゴドラ以上の『メタルバースト』使い。空いた左手で『つららおとし』を吸収することなど造作もない。
ヒヒダルマの『つららおとし』!
キリキザンの『メタルバースト』。左手のエネルギー弾で『つららおとし』を吸収した。
「地面に『とんぼがえり』」
「ダマ!」
上を向いたままの身体を逆立ちで起こしてヒヒダルマが地面にワザを使う。(この間0.5秒)
ヒュンッ!
刹那、地面に弾かれるようにヒヒダルマが跳躍する。『とんぼがえり』の後方移動によって、キリキザンに肉薄した。
「なにィッ!?」
「くる!」
有り余る回転エネルギーを拳の威力へ変換する。
「『ほのおのパンチ』!」
両手は塞がり、足を咄嗟に出そうものなら『メタルバースト』を制御する余裕がなくなる。
キリキザンは完成され過ぎていた。
「ダァッマァァァァァァ!」
「ザギャァァァァァァ!?」
ヒヒダルマの『ほのおのパンチ』昇竜拳。
「ぁぁ・・・・・・素敵な現実」
キリキザン・・・・・・戦闘不能。
旅に出ます。
だってカトレアちゃん出しちゃったんだもの!
旅がどんな形になるかは今から考えます。もしかしたら読んでいただいている方々の逆鱗に触れるなにかをするような気さえします。そんな私を許していただけるのならもう少々お付き合いいただければ幸いです。
追記:ダイアの手持ちポケモンについて
・エアームド
・ナットレイ
・ギギギアル
・ドータクン
・キリキザン
・ボスゴドラ
こちらの現役時代のメンバーに、ホウセン用にゲットしたシュバルゴが加わっています。文字通り、全戦力を賭けて臨んだ決戦でした。