【供養】ブラボ主人公憑依転生オリ主(本編クリア後)をフリーレン世界にぶち込んで観測してみよう 作:啓蒙61
自分について、いったいどこから話せばいいだろうか。
まず、事の発端は、学生時代のことだった。
俺は友人から、あるゲームを強く勧められて、購入した。
そのゲームの名は「Bloodbone」という。
ご存じの方も多い、フロムソフトウェアというゲームメーカーの中でも根強い人気がある、名作。
プレイし始めると俺はすっかりこのゲームの虜となった。
美しさと陰鬱さが入り交じったゴシックホラーなビジュアル。
練りこまれ謎に満ちた、クトゥルフをベースにした世界観。
男のロマンともいえる、仕掛け武器。
手ごたえのある難易度と、軽快なアクション。
ゲームクリア後も飽きることなく、周回を続けた。
その果てに、俺は地底人と化して、数か月間、聖杯ダンジョンを潜りこんだ。
またしばらく経ったある日、おれは友人からあるマンガを勧められた。
その漫画の名は「葬送のフリーレン」という。
友人から借りて、試しに読んでみた。
ついつい最新刊まで、読みふけってしまった。
魔王討伐後、かつて勇者一行だったフリーレンの「冒険の終わり」から始まる旅の物語。
ファンタジーが好きだった。
だから、この作品に魅了されるのはあっという間だった。
漫画でも物足りず、アニメも視聴した。
本当に、素晴らしい作品である。
ところで、なぜ唐突にこのような話題を上げたのだろうか?
この二つの作品には、なんら関連性がない。
ああ、関連性があるのはこの後の話だ。
ある日、俺は死んだ。
原因は、実にありふれている。
信号無視をしたトラックにひかれたせいだ。
居眠り運転かなにかだったのだろう。
避けようがなかった。まったく、ついていない。
★
目が覚めると、俺は暗がりの中で目が覚めた。
「あれ?」
自分はつい先ほどトラックにひかれたはずだ。
それがおかしなことに、生きている。
現実ではありえない状態だ。しかし、俺は瞬時に理解してしまった。
これは異世界転移なのではないか?
トラックにひかれて異世界へ転移……。
現実では唐突だが、web小説ではもはやお約束どころか、化石レベルのテンプレート。
それでも、実際に自分が体験すると、夢か幻覚でも見ているのではと疑ってしまう。
俺は、ボロボロにさびれた手術台の上で横になっていた。
手術台から降りた俺は、辺りを見渡して、つぶやいた。
「……どこかで見たことがある場所だ」
初めて訪れる場所だというのに、異常なまでの既視感があった。
ここは、ランプひとつだけ、室内を照らしている暗い病室。
周囲の家具はさびていて、まるで廃墟のようだ。
「ん、なんだこれ?」
手術台の近くにあった椅子に、文字を記した紙切れが置いてあった。
──『「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために』
「おいおいおい、嘘だろ……」
俺は、その場で叫びだしたくなった。
この文章を、俺は知っている!
既視感の正体。
今の自分の状況が、あるゲームの導入とまったく同じシチュエーションなのである。
もしこれが異世界転移ならば、いったいここはどんな異世界だろうか?
中世ヨーロッパ風の異世界? サイバーパンクなSF世界?
だが、こんな可能性もある。
それがもしゲームの世界だったとする。
そして、その世界のゲームの主人公に憑依転生してしまったなら?
それがもし絶対に転移したくない、ゲーム作品の世界だったならば?
俺は振り返る。
部屋の奥。そこには、室内の外へとつながる扉があった。
俺は、ゆっくりと扉に近づき、部屋の外へ出る。
外は長い廊下と、下り階段がある。
先に進みたくない。
だけど進まなければ、どうしようもない。
自然と足が動いた。
それは、この体の持ち主の影響によるものだろうか。
それとも、この導入パートを何度も画面越しに体験しているせいなのか。
下り階段の先には、大きめの部屋があった。
部屋中には、血の臭いと、腐ったような異臭、獣の臭いが充満している。
部屋の中心には、死体が転がっている。
その死体を、四足の獣が貪っている。
ああ、信じたくない。
自分があのゲームの世界に転移してしまったなんて。
これから自分がいったいどのような苦難を味わうのか、想像できてしまうから。
獣の眼光が俺を貫く。
新しい獲物を発見したのが嬉しいのか、獣はうるる、とうなり声をあげる。
俺は、絶望と恐怖で動けなくなった。
まさに恰好の餌。
獣にのしかかられて、首筋を嚙みちぎられた。吹き上がる血。暗転していく視界。
俺はブラッドボーンの主人公に憑依転生してしまった。
そして転生して、わずか数分で死んだ。
★
目が覚めた俺は、ゲームの進行通り、狩人の夢で目が覚めた。
水盆の死者から武器をもらう。
まずは右手に持つ武器。
<ノコギリ鉈>、<獣狩りの斧>、<仕込み杖>。
次に左に持つ武器。
<獣狩りの短銃>、<獣狩りの散弾銃>
右手武器をひとつ、左手武器をひとつ。それぞれからひとつ選ぶのだ。
俺は迷いなく、<ノコギリ鉈>と<獣狩りの短銃>を選ぶ。
そうして、墓石に触れて、自分が目覚めた病室に戻る。
そして、自分を殺した獣と再戦。
次は武器を携えているから、勝てるはず……なんてことはなく、あっさりと獣の爪に引き裂かれて死んだ。
それはそうだ。
昨日まで、俺は現代日本でのほほんと暮らしていた。
武器といえるものは、包丁くらいしか持ったことがない。
何かと戦うという経験なんてひとつもない。
だから俺は、殺されつづけた。
体を引き裂かれ、首をへし折られ、胸を食いちぎられて、血だまりの中に倒れ伏して。
何度も、何度も殺されて……そして18回目の死闘の末に、獣を殺すことができた。
しかし、これはまだ序の口であることは、ブラッドボーンを知る者ならば当然理解しているだろう。
ヨセフカの診療所を出た俺が向かう先は、町の外門だった。
こんなクソみたいな世界は、とっとと逃げ出すにつきる。
道中、出会うヤーナム住人に殺されたり、うっかりヤーナムキャンプファイアーの場に迷い込み、囲まれて撲殺されたり、犬に殺されたり……。
とにかく殺されまくりながら、どうにか外門にたどりついた。
門を登り、外に出ようとしたその瞬間、俺の体は爆発四散した。
この世界はゲームだ。だからシステム外のことをやろうとすれば、世界のバグが発生し、自分が死ぬのだろう。
あるいはなんらかの上位者の干渉によって、引き起こされているのかもしれない。
ヨセフカの診療所にリスポーンした俺は、数時間泣きわめき、暴れまわったあと、覚悟した。
このヤーナムの世界を攻略するしかない。
ヤーナム各地をめぐり、ゲームクリアにたどりつくしか選択肢はないのだ。
そうして、俺はこのヤーナムで血と闘争に塗れた日々を過ごすことになった。
そこからの日々は、まさに終わりのない悪夢だった。
最初のヤーナム市街の道中で、俺は30回死んだ。
そして最初のボスである聖職者の獣に40回殺された。
次に突破率50%を下回る初心者の壁と名高い、ガスコイン神父に70回殺された。
それらも全部突破して、攻略を進めていく。
殺され続けていくうちに、摩耗したはずの精神は研ぎ澄まされ、洗練されていった。
戦うことへの恐れ、死への恐怖、痛みへの忌避。
戦いを繰り返し、経験値を積むことで、それらを闘争心が上回ったのだ。
俺は少しずつ、狩人として目覚めていった。
ヤーナムの獣たちを狩る、闘争者。
俺がスクリーンの向こうで「かっこいい」と憧れた存在に、いつの間にかなっていた。
気が付けば、悪夢の辺境で上位者アメンドーズを切り殺していた。
倒れて、霧散していくアメンドーズを目にして、俺は達成感よりも、徒労を覚えた。
「もう戦うのは疲れた。早く終わりにしたい」
俺は狂人ではなかった。なれなかった。
闘争心を湧き立たせるのは、自分の恐怖を押し殺すためだったのだから。
殺して、殺されて。死んで。狩って、狩られて。
それを繰り返して、ついに終着点まで着いた。
狩人の夢。燃え盛るゲールマンの屋敷。
花畑の中で、最初の狩人ゲールマンに打ち勝ち、ラスボスである月の魔物との戦闘に入る。
この戦いでは、珍しく一度も死なずに、勝利を収めた。
「お前に会いたかったよ。終わりにしよう」
月の魔物の心臓部分に、得物であるノコギリ鉈を突き刺した。
月の魔物が悲鳴を上げて、消滅していく。
そして突き刺した部分から血が噴き出し、雨のように俺の体に降り注ぐ。
通称上位者END。
それは、ブラッドボーンの分岐する3つの結末のひとつだ。
『幼年期の始まり』と呼ばれるそれは、人間を逸脱し、上位者の幼体へと変化するエンディング。
これにより、悪夢は根絶され、ヤーナムの夜は二度と訪れない。
(ああ、ほんとうに救われない展開だな)
どうして、俺はこの結末を選んでしまったのだろう。
もう二つの結末がある。
ひとつは『ヤーナムの夜明け』。
ゲールマンに介錯されることで、自分だけが悪夢から解放されるエンディング。
しかし救われたのは自分だけで、悪夢は永遠に続くのだ。
もうひとつは『遺志を継ぐもの』。
これはゲールマンの後継者となり、ヤーナムの夜を永続させるエンディング。
……ゲールマンの後を継ぐなど、死んでも嫌だ。
そうだ。『ヤーナムの夜明け』を選べばよかった。
それだけが、この悪夢から助かる唯一の手段なのに。
そんな唯一の希望を俺は捨てて、悪夢を消滅させる代わりに、人間であることをやめてしまった。
どうしてだ?
そうか、きっと自分だけが助かるのが嫌だったのだ。
自分だけが救われても、悪夢の世界でヤーナムで生きる人々は苦しみつづける。
もしかしたら、この結末を選んだゲームの主人公は、実はそう思っていたのかもしれない。
しかし、それはそれとして嫌である。
ヌメヌメしたイカっぽい上位者の幼体になるなんて。
★
「どういう状況?」
目が覚めると、俺は森の中にたたずんでいた。
おかしい。
今頃、俺はイカっぽい上位者に生まれ変わり、人形ちゃんに抱きかかえられているはずだ。
これは上位者となった俺が生み出した、空想の世界なのだろうか?
しかし、それにしては幻想的で綺麗な森だ。
もし俺のすさんだ心が生み出した空想ならば、腐敗した森が現れるだろう。
森の中を散策していると、池が目に映る。
近づいて、自分の姿を確認してみた。
そこに映されたのは、現代日本にいた頃の俺……ではなく狩人である俺の姿。
帽子。マント。ズボン。ブーツ。
すべてが漆黒で統一された、狩人の衣装。
これは工房で用意された狩装束だ。
そこそこの防御性能ではあるが、この衣装を着こなし続ける理由は、ひとえに「なんとなく好み」だからにつきる。
自分の姿をチェックしたあと、歩き出した時だった。
気配がした。
人間のものではない。
いくら隠し切ろうとも隠し切れない、獣の気配だ。
俺は、とっさに背後を振り向いた。
木々の間を、ひたひたと何か動く。
それは少女だった。
緑髪の、小柄な女の子。
額に、人外の証である一対の角が生えていた。
この人外の少女に見覚えがあった。
長いヤーナムの戦いで擦り切れた、現代日本にいた頃の記憶。
それをなんとか引っ張りだして、目の前の少女のことを思い出そうとする。
だれだ? ゲームだったか、漫画だったか?
今の自分には、ブラッドボーンの原作知識と、あのヤーナム世界での悪夢の日々だけが、記憶に焼き付いている。
それ以外はすべて絶望と血の闘争で、擦りつぶされている。
ん、まてよ?
ということは、俺はヤーナムからどこか別の世界に転移したのではないだろうか?
あのおぞましいヤーナムの世界から、ついに俺は解放されたのではないか。
そう心の中で歓喜していると、少女が口を開いた。
「警戒しなくても、大丈夫だよ。私は君をけっして襲わない」
どう考えても、バレバレの嘘だ。
「私は、人間を食べない魔族だから」
──魔族。
その単語で、埋没していたある漫画の記憶が、浮かび上がっていく。
その漫画には、ある種族が登場する。
魔族。
それは、人類の絶対的な敵。
人の言葉を騙り、欺く、感情を持たぬ獣。
俺はここで、ようやく気が付いた。
この世界は、葬送のフリーレンの世界であると。
「君のことを教えて? 私は君のことが知りたいの。君はこの近辺の村出身なのかな?」
目の前の魔族は、質問を投げかける。
この女の瞳では、俺は捕食対象か実験動物として映っているのだろうか。
思い出してきたぞ。
作中で、こんな風に初対面の人間に質問を投げる、無名の大魔族がいた。
「少し変わった衣装だね。帝国の魔導特務隊の制服に少し似ているね? ただ、色は君のように漆黒ではないかな。どこか遠い国から来たのかな?」
そう、こいつの名前は……。
この瞬間、俺の頭の中で、埋没していた『葬送のフリーレン』の原作知識がすべて蘇った。
脳内で目まぐるしく流れる情報の洪水。俺は、思わず、こうつぶやいた。
「……ソリテール」
「……!」
薄っぺらな笑みを浮かべていたソリテールは、面食らったような表情をする。
「……ちょっとびっくりしちゃった。私の名前を知っている人間なんかいるはずがないもの。
だって出会っている人間は全員殺しているから」
ソリテールの瞳には、強い好奇心が宿っていた。
それはまるで最高の実験対象を見つけたような、そんな風だった。
「どうして私のことを知っているの? 君のこと、もっと知りたくなった」
俺は、溜息をついた。
ああ、とことんツイていない。
クソみたいな世界からようやく解放されたと思いきや、次は、多少なマシなクソみたいな世界で、ろくでもないヤツと顔を突き合わせるハメになったのだから。
「教えて、君のこと。君の全部。何が好き? 何が嫌い? 魔族は憎い? 私は怖い? 君のこといっぱい知りたいね」
ソリテールの周囲に、次々と、宙に浮かぶ大剣が浮かび上がる。
すべての大剣の切っ先が、俺に向けられる。
「だから、まずは手足を全部切り落として、逃げられないようにするね。それから、じっくり君に質問するから」
ようやく血なまぐさい殺し合いから解放されたと思っていたのに。
もう戦いなんて、痛いし、辛いし、こりごりなのに。
戦いは避けられない。この大魔族が人間を野放しにするはずがないのだから。
俺は、虚空に両手を伸ばす。
すると不思議なことに、脳裏である情景が浮かぶ。
ブラッドボーンの、アイテムインベントリ画面が出現する。
そこから、<ノコギリ鉈>と<獣狩りの短銃>を選択するイメージ。
すると両手を伸ばした先の空間が歪み、ノコギリ鉈が右手に、獣狩りの短銃が左手に、それぞれ装着される。
どういう訳か、向こうの世界からずっとこういう仕様だった。
俺は入手したアイテムや防具や武器を、何もない空間に格納することができる。
そして、念じればこのように実体化して、自由に取り出すことができるのだ。
ソリテールは、興味深そうに目を細めた。
「ふぅん、お兄さん、魔法使いだったんだ? でも不思議だね、お兄さんから一切魔力が感じないもの」
「俺は、魔法使いじゃない」
「じゃあ、なんなの」
「俺は狩人だ」
戦いたくなかったはずだ。
だというのに、仕掛け武器を手に持つと、なぜか心が騒ぐ。
血と殺意をうずまく、獣との闘争をひどく求めてしまう。
「お前という獣を狩る、狩人だ」
さあ、