【供養】ブラボ主人公憑依転生オリ主(本編クリア後)をフリーレン世界にぶち込んで観測してみよう 作:啓蒙61
まず、先手を打ったのはソリテールの方だった。
虚空に浮かべた無数の剣のうち、4本を射出してくる。
それぞれの剣の軌道は読めた。
1本目は、俺の右腕へ。
2本目は、俺の左腕へ。
3本目は、俺の右足へ。
4本目は、俺の左足へ。
ソリテールの宣言通り、このまま大人しく突っ立っていれば、俺の両手両足は切り裂かれるだろう。そしてやつの実験動物として悲惨な末路をたどるに違いない。
俺は、獣狩りの短銃を左手で構え、飛来する1本目の剣に向けて発砲する。
1本目を打ち落とし、次に迫る2本目の剣をノコギリ鉈で叩き落とす。
最後に、同時に来る残り2本の剣に対応する。
ぎぎぎ、と俺の右手から火花が散る。
正確に言えば、右手で握りしめたノコギリ鉈が、その内部機構を作動させ、別の姿へ変貌しているのだ。
そして変形が完了し、二倍のリーチに伸びたノコギリ鉈を、遠心力を活かして振りかぶり、2本の剣を打ち砕く。
仕掛け武器とは、ヤーナムの狩人が獣狩りに用いる武器だ。
今手にしているこの武器は、その代表的なもののひとつ。『ノコギリ鉈』。
その鉈のギザギザの刃は、獣の骨肉を切り裂くためにデザインされたもの。
すべての仕掛け武器の中で、最も獣に対して特効だ。
だからこそ、目の前の人を偽る獣を殺すために、もっともふさわしい武器だと思い、選んだ。
移動しながら、すばやく左手の獣狩りの短銃をエイム。
銃弾を、ソリテールの頭、胸、下半身、それぞれ三か所に打ち込む。
それと同時に風を切るように、走る。
ソリテールは、新たに生成した剣を盾のようにして、銃弾を防ぐ。
それは俺の予想通り。剣を盾にしたことで、ソリテールの視界は一時的に塞がれる。
それを誘発するための、銃撃だ。
銃弾が到達して一拍、俺はソリテールへ肉薄する。
ソリテールはわずかに動揺したような顔をしていた。
俺が想像を上回る速度で移動したからだろう。
今のソリテールは、隙だらけだ。
さっきまで俺を弱者だと定め、自分の方が獲物を狩る存在だと思っていたのだろう。
お前の方が、狩られる側だというのに。
「ッ!!」
変形したノコギリ鉈を振りかぶり、ソリテールの胴体を両断しようとした。
だが直前で、ソリテールは後退し、かすっただけに終わる。
ソリテールは剣を放ちながら、距離を取る。
俺は放たれた剣を、すべて叩き落としていく。
ソリテールの雰囲気が変わった。
警戒するようなまなざしだ。
きっとコイツの中で、俺は弱弱しい獲物から、注意すべき人間へランクアップしたのだ。
「……君って相当強いね。たぶん将軍級なら今ので仕留められていた。君の強さは、おそらく人間の中でもかなり上位に来る」
「ああ、お前のような手合いとは嫌というほど付き合ってきた。そしてお前のような油断した獣を何度も狩ってきた。今のが、絶好の機会だった」
ソリテールは、俺の実力を見誤り、隙をさらしていた。
油断した獣ほど、狩りやすい存在はいない。
ソリテールは、観察するように、じっくりと俺へ視線を這わせる。
「戦士特有の闘気もなければ、いくら探知しても魔力を感じられない。そういう人間ってすっごく弱いはずなんだけど……とっても不思議」
どうやら、このフリーレン世界では、俺はそういう風に見られているらしい。
標準体型だが、こう見えても常人よりも頑強だし、スタミナも筋力もある。
一応、ブラッドボーンにおいて、魔力の力を示す『神秘』も極めているし、魔法である『秘儀』も無数に習得している。
だがそれは、かえって有利だろう。
自分が弱者であると相手に思い込ませて、油断を誘えるからだ。
「ああ、だめね。つい驕っちゃった。悪い癖ね。いつも魔族はそうやって人間に油断し、敗北してきたもの」
しかし今、ソリテールは俺を同格の相手だと認識し、油断も隙も一切見せようとしない。
このまま相手が逃走してくれればいいのだが、そんなつもりもないらしい。
数秒間、お互いにその場で立ちすくんだ。
俺たちは、それぞれ次に相手がどう出るか、思考を張り巡らせて、次にうつべき一手を準備している。
ああ、この感覚。
これこそが、闘争なのだ。
研ぎ澄まされた、静寂な空気。
おたがいの殺意が、この場を支配している。
動き出したのは、ソリテールだった。
視界を埋め尽くすほどの無数の剣を生成し、射出してくる。
たしかに、これは恐ろしい技だ。
しかし避けるのは容易い。
なにより、ソリテールの攻撃はこれだけで終わるはずがない。
ソリテールは、魔族の中でも人間への警戒心が強い。そして俺を同格の存在だと認識した。何らかの策を打ってくるだろう。
思考を回す。
俺は『葬送のフリーレン』の記憶をたどり、ソリテールについて思い返す。
こいつは、まだ奥の手を見せていない。
ソリテールが使う、最も強力な攻撃。『魔力をぶつけるだけの魔法』
それは、自分の魔力を凝縮させて、質量の塊として放つ。
膨大な魔力量を持つソリテールが、長い探求の果てにたどりついた最強の攻撃魔法が、このシンプルな魔法である。
本気となった今のこいつなら、それを使用してくるのだろう。
そして、ソリテールは俺が初見であると思っている。
だが、俺は原作知識により、こいつの全てを知っている。それを、ソリテールは知らない。
なら、次にとるソリテールの行動は────
10、20、30。数えきれない量の魔法の剣が迫りくる。
俺は迅速に後退する。飛来する剣の軌道をすべて読み、安全な地点まで移動する。
空中から近づいてくる剣に注意を注ぎ続ける。
だから、地上にいるソリテールが、すぐそばまで接近していることに気が付かなかった。
「引っかかったね」
ソリテールは、俺に手のひらを向ける。
圧縮された無色透明な魔力の塊を、俺の方向へ拡散しようとしている。
『魔力をぶつけるだけの単純な魔法』だ。
「ああ、お前の方がな」
だって、わざとお前から注意をそらしたんだから。
ソリテールは警戒心が強い。臆病な獣を狩るためには、無防備な姿をさらすのが最も有効なのだ。
「──え」
左腕を前方に突き出し、獣狩りの短銃の照準をソリテールの胸元にさだめる。
そのまま、水銀弾を撃ち込む。
短銃から放たれた水銀弾は、ソリテールの胴体を貫いた。
「あ……」
ソリテールは血を流し、姿勢を崩して、そのまま地面にひざをついた。
俺は狙い通り『銃パリィ』を成功させた。
ソリテールは、無防備に、血に染まった胸元をさらしだしている。
俺はノコギリ鉈を振りかぶる。
するとソリテールは、感情のこもっていない口調で言った。
「ごめんなさい」
「改心します」
「許してください。本当は人間と仲良くなりたかっただけなんです」
それからソリテールは、作り物のような笑みを浮かべた。
「……なんて命乞いしてみたけど、君のような人間からすれば、獣の鳴き声にしか聞こえないんだろうね?」
「ああ、そうだな」
「君のことをもっと知りたかったね」
俺は、ノコギリ鉈をソリテールの心臓部分めがけて突きさし、『内臓攻撃』を実行する。
だがここで、予想外のことが起きた。
刺突した鉈の刃が、ソリテールの体に突き刺さることなく、金属がぶつかりあうような音を立てて阻まれた。
よく見ると、ソリテールの胴体が、魔力のオーラを身にまとっている。
おそらく、とっさに胴体部分に魔力を集中させて、防護アーマーのようにしたのだろう。
ぴしり、と音を立てて、ソリテールの魔力の壁が破れる。
しかし勢いを失ったノコギリ鉈は、軌道がそれて、ソリテールの脇腹に突き刺さった。
窮地を脱したソリテールは、冷や汗をかいていた。
「どうやら、君を生け捕りにすることは不可能だったみたい。それどころか勝つのも困難だった」
だった、と過去形を使う。
それは、自分の勝利を確信したからだろう。
ソリテールは、俺の胸に手を当てた。
そしてその手から、ゼロ距離で魔力を放射する。
直撃を喰らった俺は、引き裂かれるような痛みに襲われる。
……並みの戦士ならば、今の攻撃で死んでいただろう。あるいは、戦闘不能になっている。
だが、この程度で屈するようでは、獣狩りの夜は生き延びれない。
俺は痛みを平然と受け入れ、ソリテールの脇腹に突き刺さっているノコギリ鉈を引き抜いた。
「え、なんで……動けるの?」
ソリテールは、呆気にとられているようだった。
そう思うのも、なんらおかしくはない。
ソリテールの攻撃によって、俺の胸に風穴があいているのだから。
生きているのが、不思議なくらいだ。というか、このままでは死ぬ。1分も持たない。
だからその前に、アレをすればいい。
ソリテールは、その場から離れようとする。
俺はノコギリ鉈を振りかぶり、ソリテールの体を一文字に切り裂く。
雨のように、噴き出す血。ソリテールの苦痛にゆがんだ表情。
俺は、ソリテールの血を浴びた。
すると、俺の胴体に空いていた穴が見る見るうちに塞がっていく。
『リゲイン』
それは、ブラッドボーンにおいて、最も肝といえるゲーム設計のひとつだ。
敵の攻撃を受けた際、一定時間内に反撃することでHPを回復できるシステムである。
案の定、この肉体でも、リゲインの能力は備わっている。
返り血を浴び、回復した俺は、ソリテールに一歩ずつ近づく。
ソリテールはというと、先ほどの攻撃で失血し、地面にうつ伏せになっている。
もう、こいつには戦う力は残されていない。
勝敗は決した。
「あはは、君って本当に人間なの?」
「俺自身もお前たちと同類なのかもしれないな」
狩人として、終わりのない戦いに身を投じた。
だからだろうか。生き物を殺しても、なにも感じない。
人の血を浴びても、生暖かいとしか思えない。
啓蒙を積み重ね、俺は正気を失ったのだろうか。あるいは精神そのものが化け物になり果てたのか。
仰向けになったソリテールの首筋に、ノコギリ鉈を押し当てる。
すると、ソリテールは力のない声でつぶやいた。
「最後に……君の名前を教えてよ」
「狩人だ」
「ううん、違う、それは君の仮の名前でしょ? 本当の名前は?」
「本当の……」
「あ、もしかして、自分の名前が嫌で名乗りたくない? 大丈夫、私は魔族だから、感情がない。君の名前がいくら変でも気にしないよ」
これから殺されるというのに、ソリテールには恐怖も、悲しみも、絶望もない。
それは感情がない魔族だから、というわけではない。魔族も生物なのだから、恐怖ぐらいはする。
「だから、死ぬ前に教えて? 君のことをひとつでも」
興味、感心、好奇心。ソリテールの瞳には、それらの感情が浮かんでいた。
死ぬよりも、自分の知的好奇心を満たしたいがために、俺に問いを投げているのか。
「君の本当の名前は?」
答えるな、これは獣の鳴き声のようなものだ。
今すぐ、こいつの首を跳ね飛ばして、おわりだ。
そう思いつつも、俺は思考を止められなかった。
本当の名前……。
そう、現代日本にいた頃、本当の名前があったはずだ。
だというのに、頭に霧がかかったみたいになって、思い出せない。
名前、名前、俺の名前は……。
「あれ……どうして俺は戦っているんだ?」
気が付けば、俺はソリテールの首筋にあてていた、ノコギリ鉈を離していた。
ソリテールは、何が起きているのか理解できないのか、目を見開いている。
ぐるぐると、思考が回転する。
すると体中に沸き上がっていた闘争心が落ち着いて、冷静な状態に戻った。
ん? そうだ。俺はヤーナムから解放されたんだ。
じゃあ、もう戦う必要はないじゃないか。
痛いのは嫌だし、戦うのは怖い、血だって臭いし、人間も化け物も戦うなんて嫌だ。
けど、少し待て。
目の前にいるのは、人類の敵で、たくさんの人間を殺した大魔族だ。
この世界のためには殺しておいた方がいいだろう。
ここがフリーレン世界のいつの時代なのか分からない。ソリテールを殺せば、原作の流れが大きく変わってしまうかもしれない。
それでも、合理的に考えて、とどめをさすべきだ。
だけど、俺の感情は別だ。
あのヤーナムの街で、人も獣も大勢殺してきた。
もう、人間によく似た何かを殺すのは、御免なのだ。
ただ、楽になりたかった。
たとえこれがよくないことだとしても、俺はそうしたかった。
両手に握っていた武器を手から放り投げる。すると、ノコギリ鉈と獣狩りの短銃は消失する。
それからソリテールに背を向けて、歩き出した。
「なんで、私のことを殺さないの?」
俺は、振り返らなかった。
ソリテールの声が、またしても響く。
「どうして? 私は魔族で、君たちの敵なのに? なんで私を生かすの?」
引き留めるような、どこか必死な声だった。
「知りたいよ。君のこと、君の全てを、教えてよ」
それは人間を欺くための、偽りの声音なのか。
はたまたソリテールの本心なのか、俺には分からないし、どうだってよかった。
それから、俺は薄暗い森を歩き続けた。
やがて立ち並ぶ木々が途絶えて、視界が開ける。
俺は、息をのんだ。
地平線まで広がる、緑豊かな平原。
雲一つない、快晴の青空。
そして、大地を照らす太陽。
ずっと長い間、狂気と血で満ち溢れた、あの夜の世界で戦いつづけてきた。
いつか戦いの果てに、夜明けの世界にたどりつけると、信じていた。
日の光の下で歩くのは、いったいいつ以来だろう。
ようやく俺は、自由の身になった。そう思った。
ふいに、草原の中心に、ぽつんと何か紫色に光るものがあった。
俺はそれが気になって、草原の中を歩き、その光る場所へ近づく。
だんだんとそれの輪郭がつかめてくる。
地面に刺さった長杭に、紫色の光を放つランプが吊るされている。
それはヤーナムの街で、何度も見かけた、馴染みのあるもの。
『灯り』だ。
これはヤーナムの各所に点在する物で、ゲーム内において、いわゆるチェックポイントとしての機能を果たす。
触れて光にあたれば、傷を癒すことができる。
さらに『灯り』を使って、自らの拠点である『狩人の夢』に移動できるし、そこからさらに別の『灯り』が設置されている場所にも移動可能だ。
「ひょっとすると、このフリーレン世界にも『灯り』があるのか?」
もちろん、原作フリーレンではこのようなものが登場するはずがない。
ということは、ヤーナム世界から俺が転移してきたことによる、影響なのか。
ひょっとすると、この世界の住人には見えず、俺だけが視認できるものなのかもしれない。
『灯り』の近くに、腰を下ろした。
ランタンの光を見つめているうちに、心が穏やかになっていく。
さて、これから、何をしよう。
ひとまずは戦いとは無縁な、どこか遠くの街でゆっくり過ごそう。
もう自分は狩人である理由も、戦う理由も存在しないのだから。