死体を異世界に捨てる簡単なお仕事   作:手の目は勝ちにくい

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11話 再燃

 昨日までの大雪は止み、今は小雪がちらつく程度だった。

 鬱蒼と茂る森の中までは、雪が深く積もっているわけではなかったので、概ね予定通りに現地入りすることができた。少々強行軍ではあったが。

 

 既に現場には、ミミルの街の捜査官たちが詰めかけていた。

 

 そこは木々が綺麗に切り倒され、森の中にぽっかりと空いた空間になっていた。雪が結界に当たり、雫になって流れていく。

 

 一際背の高い、厳つい顔の男が見える。懐かしい顔だった。

 向こうもこちらに気がついたようで、牙を覗かせて笑う。厳つい顔が、さらに恐ろしい表情になる。

 

「ノリツカノアシャヒメ殿! 久しいですな! 待っておりましたぞ!」

「バシャー、すまないな。遅れたか?」

「いえいえ! 儂も今来たところですよ! 寒いのはどうも苦手でして!」

 

 抱擁される。私の体の大きさだと、彼の胸にも届かない。外から見れば、ほぼ捕食されている図にしか見えないだろう。

 

 サキモリノバシャー。ミミルの街の警邏隊の隊長だ。今では珍しい熊獣人で、戦闘になるとその凄まじい背筋力と腕力で全てをなぎ倒す戦士でもある。ただ本人の資質から戦いそのものが苦手で、ついでに寒さにも滅法弱かった。声がやたらデカく、子供が大好きなのに、子供からは好かれない悲しき中年だ。

 

「自慢の毛皮が泣いているぞ。獣人が毛皮を着るなよ」

「旧態依然としとりますな! 冬場に働くには本能を誤魔化すしかありますまい!」

 

 豪快に笑い合う。十数年前までは隣国同士、殺し合っていた仲だったが、今では親戚だものな。時代は変わるものだ。

 

「それで? 見せてもらいたい」

「うむ。儂らは確証はないのですがな。どうにも異様でな」

 

 仕切られた結界の中に入ると、捜査員が慎重に雪を除去しているのが確認できた。

 そして、大穴の空いた大地には黒く焼けただれた遺体。あるいは既に灰となった骨。臭いと骨格で人族と分かる。それがおおよそ10体ほど確認できる。油の臭いだ。それも獣脂や植物油ではない。

 

 視線を滑らせると、鉄の荷車と呼ばれていたものが見えた。あれからも似たような臭いがする。それに血の匂い。小便。僅かながら火の秘薬の臭い。

 

 周りからは、ゴブリン共の悪臭。これは戦闘があったな。出血している。

 

「どうです! 例の人物ですかな!?」

「まぁ、待ちな。細かいのは今からやるよ。だいたい6日前ってとこだね……十分だ」

 

 アタイは体の魔力を巡らせ集中する。ノリツカ一族の秘技だ。私はこれがあるから、武力が重視される警邏隊の隊長なんて分不相応なものも勤まっている。

 肺の空気を()()残らず絞り出す。魔力は鼻先に集まり、脳に向かって根を張る。

 

 『サーチ』

 

 鼻から一気に空気を吸い込む。同時に情報の波が押し寄せてくる。強い目眩に襲われ、平衡感覚を失った。

 

 倒れそうになる直前で、バシャーが肩を抱いて止めてくれる。

 

「ゴホッ……。すまないねバシャー。アタイも年くっちまったもんだ」

「なにをなにを! アシャヒメ殿は今でもお美しいままですとも! 儂があと40若けりゃ求婚しとりましたな!」

「40年前は殺し合ってたよ……。ありがとよ。もう大丈夫だ」

 

 少しふらつきながら自分の両の足で大地を踏みしめる。

 パイプを取り出し、煙草を詰める。バシャーが気を利かせて火魔石を乗せてくれる。

 

 パイプを吹かしながら、頭の中に散乱している情報を丁寧に棚分けしていく。これを手早くやらないと、記憶がごっちゃになって馬鹿になっちまう。

 そうして、臭いの情報を分けていくと、覚えのあるものが浮かび上がった。

 

 6年前と同じ系統の臭いだ。やはり人族だ。成長しちゃいるが、間違いない。

 

 ナギツル(終わりに連なる者)だ。

 見つけたぞクソ野郎。

 

「間違いない。ヤツだ」

「ほう! 6年ぶりですな! 我が国に現れるとはいい度胸だ!」

「いや……ヤツは6年間もしっかり現れてたみたいだ」

「ふむ?」

 

 アタイは顎で場所を示す。

 

「そこらに杭がいくつかあるだろう。その下にもこれ(大穴)と同様に遺体がある」

「なっ……!」

 

 バシャーが慌てて周りを見回す。そうだろう。十数か所は存在している。同じ規模だとしたら100体は超えていることになる。

 

「なんという……!」

「捕まえてやるさ。もしかすると火葬のつもりかもしれんが、少なくとも6年前の罪は精算してもらう」

 

 闘志を(みなぎ)らせるアタイの背後に気配を感じる。

 足音は聞こえなかった。狼獣人の耳をでもだ。

 

「アシャヒメ様」

 

 振り返ると、美しい男が立っていた。

 獣人の価値観を持ってしても際立って美しい。人の造形とはどこか違う、整いすぎているのに冷たくはなく、むしろ静かな湖面のような穏やかさを湛えている。

 

「シュプーア殿。何度も言うがね。親しくない獣人は家名で呼びな。失礼だよ」

「失礼致しました。私どもの記憶では、獣人族の方々が家名と呼んでるものは、敬称か役職名であるため、どうにも違和感がございまして」

「そうかい。だがアンタ等の国ではないよ」

 

 困ったように優しく微笑む男。エルフだ。国際捜査権を持つ種族で、教会の異端審問官。若い連中がエルフを嫌う理由がよく分かる。胡散臭いのだ。全てがわざとらしい。絶対的な権力を持ちながら(へりくだ)るような態度はいっそ慇懃無礼(いんぎんぶれい)と呼べるものだった。

 

「残念です。親しき隣人となれるよう努力はしているのですが」

「警邏隊では努力は評価指標にならないんだ。結果だよ。勉強になったね」

「なるほど、左様でございますか」

 

 バシャーは横で唾を吐いている。気に食わないのだろう。

 

「非常に申し上げにくいのですが、ノリツカ様がナギツルと呼ばれている人物を捕縛した場合、私どもに引き渡していただきたいのです」

 

 シュプーアが深々と頭を下げる。

 

「ああ!? なに言ってやがんだ!」

 

 バシャーがいきり立つ。凄まじい迫力だ。獣人は自分たちの縄張りを荒らされる事を酷く嫌う。それは土地でも権利でもだ。気持ちはよく分かるが、前に出ようとするバシャーをアタイは抑えた。

 

「待てバシャー。シュプーア殿も我々が憎くてそう言ってるわけではない。彼らは常に職務に忠実だ。それは分かっているだろう。だが、シュプーア殿。正直、それは承服しかねる話だ。アタイ等の国で滅茶苦茶(めちゃくちゃ)やった人間は、獣人の法で裁かれねばならない。違うか?」

 

 頭を上げるシュプーア。その瞳に一切の怯懦の色は見て取れなかった。

 

「道理でございます。しかし決定事項です。殺害及び、傷害を禁ず。また、捕縛時には即時、身柄の引き渡しに同意していただきます」

 

「舐めんなァ! 長耳がぁ!」

「バシャー! 待て! 落ち着け!」

 

 体でバシャーを押さえる。地力は完全に向こうが勝ってるので、止められてるのはバシャーが自分で抑えているからだ。こうして代表が怒りを(あらわ)わにしなければ、下のものの不満が上司に向かってしまう。

 

「必ず、しかと徹底させてください。決して間違いを犯さないように。最重要事項と思っていただいて構いません」

「シュプーア殿、なぜだ? これは獣人の国の犯罪であって、あなた達が追う理由が分からない!」

 

 シュプーアはその美しい瞳を煌めかせながら、ある種の喜びを隠しきれない顔をしていた。

 

()()が長年探していたものの可能性が高いのです」

 

 

 3月3日・深夜・日本

 

 俺は新宿方面にバンを走らせながら、鏡で赤黒くなった鼻を確認していた。

 

「なぁ、これさっきより黒くなってない? 大丈夫かな。取れたりしないかな?」

「大丈夫じゃない?」

 

 こちらを一瞥もせずに助手席に座っているのは佐藤三(さとうみつ)。バカみたいな名前の、大馬鹿女だ。

 

 コンピューター関係に強いというニンベン(偽造)師を捕まえて()()して、協力してもらう。それが佐藤が出したプランだった。

 

 非常に不本意ではあったが、さりとて良案も無かったので、誰よりも先に名簿を確保するという方向性で進んでいる。出たとこ勝負になってきたな。

 

 もう何が起きてもおかしくないので、佐藤を先にバンに乗せて、セーフハウス(隠れ家)の物資はすべて『アイテムボックス』に入れた。隠蔽を気にするような段階は通りすぎているので『アイテムボックス』のスペースを空けておくのは勿体ない。これから逃亡生活が始まるかもしれないのだ。

 

 バンは佐藤が言うニンベン師がオーナーを務めているクラブへ向かっているはずなのだが、佐藤がスマホを無くしているため、ポンコツの記憶を頼りに俺のスマホを使って、GAGURUマップで調べている最中だ。結果は(かんば)しくない。

 

「おっかしいなぁ。検索に出ないなぁ。『トゥアイス』だと思うだけど……?」

「合ってんのかソレほんとに?」

「クラブの中で聞いたもん。看板も『TO』に『掛ける』があって『IC』だよ。ICでアイスって読んでるんだと思う」

 

 そうか? アイシーじゃないか?

 

「その『掛ける』ってのは何だ?」

「バツだよ。バツ。真ん中にちっちゃい『×』があるの」

 

 頭の中でアルファベットと記号を並べる。んん?

 

「TOXICじゃないか? TO×ICでトキシックだ」

「えー……? うわ、ほんとだ。出てきた。★2だウケる」

 

 このクソボケ。

 

「このクソボケ」

 

 声に出てた。

 

「いやしょうが無いよ。私、看護学校志望だったし」

「看護学校ナメすぎだろ! 入れるかお前が!」

 

 しばらくナビ通りにバンを走らせ、新宿に入る。先程から引っ切り無しにパトカー、救急車、消防車とすれ違う。街のあちらこちらが燃えている。人々がパニックになって走っている。凄い光景だ。とても日本とは思えない。

 

無茶苦茶(むちゃくちゃ)だな。なにがどうなったらここまで被害が広がるんだ。そのクラブもさすがに営業してないだろこれは……」

「どうかな。中は完全にイカれたヤツらの集まりだったから開いてるんじゃない? ドラッグも平気で売買してたし」

「そういや、よくそこがニンベン師の拠点だって分かったな?」

「エスカンパニーの連中が待ち受けていて、すぐ捕まったからね。私がもう殺されるって知ってたんじゃない? 自慢気にベラベラ喋ってたよ」

 

 ニンベン師の人物像を更新する。どうにもプロっぽくない。

 しかし佐藤が言うには腕は相当のものらしい。佐藤の知り合いの何人もが、偽造やクラッキングを依頼して、評判もかなりいいらしい。

 

 クラブのオーナーを務めるぐらいだから、商売の腕は確かなんだろう。薬物売買をクラブ内で大っぴらにやってたとすると、エスカンパニーとの伝手も強力なものだったのかもしれない。

 

 クラブの近くでバンを止める。二人してガスマスクをつける。フードを下ろせば立派な不審者の出来上がりだ。

 

「よし。打ち合わせ通りに行くぞ。5分。出来れば3分でここに戻ってくるつもりで」

「打ち合わせもなにも、ほぼ強襲っていうんじゃないの……?」

「いくぞ!」

 

 クラブの入口にはガタイの良いガードマン2人が扉を守っている。悲鳴が聞こえるこの新宿で、直立不動で微動だにしない姿は、阿行(あぎょう)吽形(うんぎょう)を思い出させた。アイツも紗季さんにこき使われてるに違いない。

 

 にこやかに手をふりながら近づく。

 残り3mになると、俺たちの異様な格好にきづいたのか、片方が一歩前に出ようとした。

 

 俺はぶら下げているバッグの中からモグズハード590カスタムを取り出し、分厚いガードマンの胸目掛けて2発ずつ発砲した。

 

「ぐあァ! なん……ゴホッ……! こ、れ、ガァァ……!」

「ギャアア! 目が、目がァア……!」

 

ペッパー弾だ。白羽時計修理工房の店長お手製のショットシェルだった。中にカプサイシン(トウガラシ成分)を基本とした催涙剤が粉末状で入っており、人体に命中すると弾けて中身を撒き散らす仕組みだ。命中精度は5mが限界だろう。

 

「中に連絡はするな。分かるな? 次は実弾を撃ち込むぞ。新宿はもう戦争状態だ。お前達も帰れ。大事な人ぐらい居るだろ。守ってやれ」

「お水ここに置いておきますねー……。どうもー……すみませんー……」

 

 モグズハード590に弾を込めながらクラブに入る。

 通路を抜けると、重低音の音楽とも呼べない代物が、音割れ寸前の爆音で流れているフロアに入った。中では半裸の男女が半狂乱に踊っている。隅を見ると、床でおっぱじめてるヤツらも居る。ひでぇな。

 

「どれだ!!」

 

 佐藤に叫ぶ。インカムも装備すればよかった。

 

「左のあの部屋がVIPルームで取引現場!! このまま真正面右のドアがバックヤード!!」

 

 入口側から押さえる。つまり先にVIPルームを潰す。

 

 壁沿いに進む。途中、遮ろうとしたやつやVIPルームのガードマンは、弾丸をゴム弾に変えたモグズハード590の餌食となった。天井でも撃って、客を脅しつけて逃がすつもりだったが、この音量じゃ、発砲音が目立たない。風営法をなんだと思ってるんだ。

 

 しかし、この狂乱状態ではオーナーを拉致しても誰も気にしないだろう。

 

 VIPルームのドアを開ける。施錠はされていなかった。

 中では裸の男女が絡み合って、テーブルには白い粉が散乱していた。

 

「居るか!?」

「居ない!!」

「ンだテメェ!!!」

 

 発砲。男の鼻に当たったようだ。(うずくま)って悶えてる。痛いよな、鼻。

 

 再びポケットの中のゴム弾を装填する。ゴム弾は低殺傷兵器だが、当たりどころが悪ければ、普通に死んでしまう代物だ。伊達に()殺傷兵器と名乗っていない。非殺傷ではないのだ。それでいて、興奮していたり、厚着だったり、それこそ薬物をやってたりすると、全然動きを止める事が出来ない。シラフの状態か、先手で痛みを与えるのが絶対的な使用条件だ。

 

 バックヤードへの扉は鍵が掛かっていた。ドアには丁番が見えなかった。つまりこれは押戸だ。

 モグズハード590をポンプ。ゴム弾が排莢される。マガジンチューブにスラッグ弾を込める。再びポンプ。もう一度、スラッグ弾を込める。これで薬室と次の弾はスラッグ弾になった。

 

 扉の鍵に対してモグズハード590を立てるように構える。

 発砲。同様に方向を少し変えて発砲。錠前を破壊する。

 角度をほぼ90度にしたが、それでも跳弾して中の人物に当たったなら諦めよう。天命だと思う。

 

 扉を全力で蹴破る。男が慌てて引き出しを開けようとしていたので、即座にモグズハード590で発砲した。3発目はゴム弾になってる。はずだ。多分。そうだよな?

 

「ぐあぁぁ痛ぇぇ……!」

 

 よしゴム弾だ。ちょっとドキっとした。まだ慣れてないんだ。

 

「どうだ?」

 

 促すと、肩越しに佐藤が部屋の中を覗き込む。

 

「……! コイツだ! 間違いない!」

「よし。手早くやろう」

 

 男が性懲りもなく、引き出しに手を伸ばす。もちろん発砲する。

 

 1発目。

 

「ぎゃ!」

 

 2発目。

 

「ぐがぁ!」

 

 3発目。

 

「いぶぅえ!」

 

 4発目。

 

「待ったァ! 待っでくれ!! 撃たないでぐれ!!」

 

 男は両手を震えながら上げて泣いていた。

 

「ごめんなざい……ごめ゛んなざい゛……!」

 

 俺は佐藤に道を開けながら、横にスライドしていく。まず拘束しなくては。

 佐藤が拘束バンドを持って近付いていく。

 

 男は泣きながら手をゆっくりと下げようとした。

 5発目。

 

「ああ!! あぁあぁぁぁぁぁー……」

「両手はそのままだクソ野郎! 次は実弾ブチ込むぞボケ! 両手の平を見せるんだよ! タマ潰すぞ貴様!!」

「ヒィ……ひぃぃ……」

「佐藤さっさと拘束しろ」

「う、うん」

 

 男の両手を後ろ手で縛る。金髪でタンクトップの筋肉質な男だった。まだ若い。こいつがニンベン師か。なんか、プログラミングのプの字も知らなさそうな感じだ。もっとギークというか、オタクっぽいというか。もさっとしてるイメージがあったな。

 

「お、おま、お前は……ばかな……!」

 

 ニンベン師が佐藤に気がつく。びっくりの再会だな。なにせ自分が売った人間が三度現れたのだ。しかも今度はいきなり撃ちまくる頭のおかしな人間を引き連れて。

 

 俺はニンベン師にショットシェルを見せる。

 

「見ろ。これは砂弾と呼ばれてるものだ。バードショットよりさらに小さな粒で構成されている。発射されるや否や急激にその勢いを失速させ、エネルギーは失われる。射程でいえば1mも無い。だが1m以内であれば、人体を痛めつける事が出来る弾だ。皮膚は裂け、肉に食込み、無数の弾丸が筋肉内に留まる。除去はとんでもなく手間だし、皮膚の表面が元に戻ることは二度とない」

 

 モグズハード590に込めてポンプする。

 

「これをテメーの顔にブチ込む。大丈夫だ。死にはしない。ぐちゃぐちゃになるが」

 

 銃口を顔に向ける。

 

「いいいいいいひぃぃぃぃー……! か、勘弁してくれ! 許して! 許してぇくれぇ!」

「お前は佐藤に借りがあるはずだ。金を受け取っておきながら、仕事をしないとは!」

「分かった! 悪かった! その通りだ! 何がほしいんだ! 言ってくれ! 大抵のものは用意できる!!」

「お前自身のスキルだよ。パソコン得意だろ? ちょっとエスカンパニーに襲撃するから、手伝ってくれ。それでチャラでいいよ」

 

 ニンベン師はきょとんとした顔になって、再び泣きそうになる。

 

「む、無理だ。エスカンパニー? 無理に決まってるだろ……!」

「大丈夫よ。外の状況見たら? もう戦争みたいに、しっちゃかめっちゃかよ。エスカンパニーに付け入る隙は十分にあるわ」

 

 佐藤が謎の励ましを送っている。久しぶりに聞いたな、しっちゃかめっちゃか。

 

「いや、そうかもしれないが……無理なんだ。俺では無理なんだよ……!」

「テメーに拒否権はねぇーんだよボケ! 自ら率先してやるのと命令されるのとでは、やる気に違いが出るだろうから、提案っていう形にしてるだけだ!」

 

 銃口を額にグリグリと押し付ける。

 

「ひぃぃやぁぁあぁぁっ……! ちが、ちがう。違うんだ! 俺じゃないんだ! 俺は、ただの、受付っ……! 手押し(直接取引)の要員なんだ……! 技術屋じゃない……!」

「ああ!? 何いってんだ! 俺が撃たないとでも思ってんのか! よぉしいい度胸だ! 風呂上がりに鏡を見る度に後悔するんだなッ! 従っときゃよかったってよ!!」

 

 モグズハード590を肩付けして固定する。いかにも撃ちますよっていう迫力が出ててほしい。

 

「ちょ、ちょ、モルグ。ちょっと待って!」

「本当だ! 本当なんだ! 俺じゃない! 妹! 妹なんだ! ニンベン師は妹なんだ! 俺は窓口ィィ!!!」

 

 男のパンツが湿り気を帯びて、液体が流れてくる。

 

「うわばっちぃ」

 

 佐藤が思わず飛び退く。可哀想だろ。あんまやるなよそういうの。

 

「いもうとぉぉぉ……いもうとぉなんだぁよぉぉぉ……」

 

 上からも下からも液体を垂れ流し続ける男を挟んで、俺と佐藤は思わず顔を見合わせた。

 それから視線だけで、アングラクラブのオーナーの尊厳を破壊した責任を押し付け合った。

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