死体を異世界に捨てる簡単なお仕事   作:手の目は勝ちにくい

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12話 蓄熱

 ニンベン師(兄)が、しゃくり上げながら泣いている。少し落ち着かせる必要があるかもしれない。

 

「1分やる。泣くのを止めろ。1分後に気合が入ってなきゃコイツ(モグズハード590)で説得する」

「ほ、ほら。落ち着こう? 大丈夫だから。アンタなら出来るよ」

「だ、だ、だ、だウィ、じょう、ぶ。ちっちゃ、ちっちゃい、ころウィ、から、こ、興奮、すウィと、しゃっくり、がで、出てウィッ……」

 

 佐藤が中身のない励ましを送っている間に、ニンベン師(兄)が執着していた引き出しを確認する。開けると、中には無造作に錠剤と拳銃が転がっていた。しっかり反撃はしようとしてたんだな。

 

 拳銃を手に取って観察する。ノカレフTT33だ。珍しくコピー品じゃなく本物だ。銀ダラ(中国コピー)なんかはよく見かけるが、本物はなんだかんだいって初めて見た。不思議な錠剤(MDMA)っぽいものと一緒に、手元を隠しながら『アイテムボックス』に入れる。

 

 何かの役に立つかもしれない。

 

「1分だ。兄さん名前は?」

 

 こちらを見上げるニンベン師(兄)。

 

「っ……甲崎……ウィ甲崎、紅ぃ(こうざきべに)

「……カニみたいな名前だな」

「ちょっと! 親からの名前は選べないんだよ!」

 

 佐藤三(さとうみつ)が言うと説得力あるな。嫌なら変えりゃいいと思うが。

 名前……甲崎紅。一瞬だけ頭にノイズが走る。――命乞いをしている男だ。

 

『必要だから金を作ってるんだ! 勘弁してくれ! 俺には――』

 

 テーブルの上の無線機からノイズが鳴って意識を戻される。

 無線機へ連絡が入る瞬間のノイズ音だ。いかんな、ぼんやりしてた。

 

『甲崎オーナー……! ぐぅ、分けの分からん二人組が! そっちに……! 武装してます! ゲホッ……! 気をつけてくださいッ……!』

 

 これは入口のガードマンか? ガッツがあるな。俺としては困るが。

 俺は無線機のスイッチを切る。

 

「妹はどこに居る。先に言っとくが、言い淀んだり、悩んだり、時間稼ぎをしてると判断すれば、徹底的にやる。段階はない。いいな? 段階はない。それは尋問ではない。その過程で死のうが、それは仕方ないものと割り切る。いいな。念を押したぞ」

 

 銃口を押し付ける。よく見る脅しだが、やられると大変に怖い。

 

「妹は、どこに居る?」

「ち、ち、近く、近くのマンション、だ。一緒に、すん、ウィ、住んでる……」

「このクラブにハッキング等で必要な機材は置いてあるか?」

「……ぁ、わ、分からなウィ。たぶん、多分、無いと、思う」

「よし移動だ。立て」

 

 モグズハード590のスリングを肩に掛けて、OWB(腰の外側)ホルスターからカンバーk6sを引き抜いて、甲崎紅(こうざきべに)の背中につける。

 

「小走りだ。左回りの壁沿いでクラブから出る。外にバンが停めてある。行け」

「ひぃ。ひぃ。痛ひぃ。痛ひぃ」

 

 ゴム弾が当たった場所が痛いのか、ふらふらと覚束ない足取りで進み始める。

 

 バックヤードの扉から出ると、何人かの注目を集めた。

 クラブの音楽が爆音でも、さすがに銃声は目立つか。甲崎を小突く。

 

「行け!!」

 

 甲崎、俺、佐藤の並びで移動を始める。

 めちゃくちゃ緊張してきた。ガスマスクの視界が異常に悪い。突入時の先頭だとそうでもなかったが、人の背中に続いて走ると視界不良(はなは)だしい。

 

 カメラ対策で一石二鳥ぐらいに考えていたが、これは良くないぞ!

 

 「オーナー!!」

 

 大男がこちらに突進してくる。

 

 咄嗟にカンバーk6sを撃つ!

 だが、モグズハード590のスリングに引っかかり、狙いがブレてしまった。

 

 幸い、大男の太ももに命中したようだ。ぐらりと倒れる。

 顔を見ると顔が赤く腫れ上がっている。入口のガードマンだなコイツは。

 職務に忠実なのは結構なことだ。なら覚悟しての事だろう。

 

「ああぁああああッァァァ!!」

 

 甲高い悲鳴が上がる。見ると大男の後ろに居た客と思わしき女が、自分の足を押さえて悲鳴を上げている。しまった、カンバーk6sの弾丸が貫通したんだ!

 

「悪い!!」

 

 謝る。大変申し訳ない。それはそれとして甲崎を急がせなければ。

 

「……ッ!!」

 

 佐藤が、足を止めて女の元へ行こうか、逡巡(しゅんじゅん)している姿を視界の端で捉えた。

 

「止まるな! 何が優先か考えろ!」

 

 俺はガスマスクを放り投げる。くそ、邪魔だこれ。

 

「行け行け行け行け!」

 

 店の入口まで走る。客たちは呆然と見送るだけで、妨害はそれ以降なかった。

 

 入口にもう一人のガードマンが居るかと思ったが、姿が見えない。逃げたのかもしれない。全くもって真っ当な判断だ。これこそ普通の人間だと思う。向かってきたさっきのヤツは何を考えてるんだ。

 

 しかし、バンに乗り込む直前で、運転は一体誰がするのかを考えていなかった事に気がつく。

 俺が運転すると甲崎が暴れた際に対応できない。見張らせるために、佐藤に銃を持たせるのは論外だ。絶対に暴発して俺を撃つオチになる。

 

「佐藤、お前運転できるか?」

「免許持ってないけど出来る気はする!」

 

 そうか。却下だ。向上心は買おう。

 

「甲崎、運転は?」

「っ……!」

 

 悩む素振りを見せる甲崎。

 カンバーk6sを壁に向けて発砲する。

 

「ちが、違う! ペーパードライバーなんだ! 運転は10年以上……してない!」

 

 慌てて釈明する甲崎。

 

 甲崎に運転させるのがベターな選択のはずだ。

 しかし、明らかに酒を飲んでる――いや、街がこれだけ混乱してるんだ。飲酒検問なんてやってる場合じゃないだろう。

 

 少しだけ迷って、ナイフで甲崎を拘束しているバンドを切る。くそう。なんてマヌケな絵面なんだ。なんで逃走車に乗り込む手前で、まごまごしてるんだ俺達は。

 

「お前が妹の元まで案内するんだ。安全運転だぞ。妙な真似をしたら……分かってるな?」

「うわ、それ本当に言う人いるんだ。ザ・裏社会じゃん」

 

 佐藤が感動したのか、茶化してるのかよく分からない感想を言う。今のところお前はあんまり役に立ってないからな。荷物持ちだが、お前が居なかったら『アイテムボックス』を使えるから、やっぱりお前は要らない子だからな?

 

 

 甲崎が危なっかしい運転をするバンで、燃えている街を走り抜ける。

 いよいよ炎は関係のない家々に燃え移って拡大していく。災害以外でここまでの被害は、近年では相当稀な部類だろう。被害総額がいくらになるのか検討もつかない。

 

 そうしてクラブからおよそ15分ほどの距離にあるマンションに着いた。

 そこそこ立派な門構えだ。高級というほどではないが、オートロックがある、しっかりとしたマンションだった。

 

「何か部屋に入る前の符丁(ふちょう)はあったりするか?」

「ふちょう……?」

「合図だ。合言葉みたいなものとか。ノックのやり方とか」

「……」

 

 黙る甲崎。明らかに目が泳いでる。

 

「なぁ、いい加減にしろよ。俺は()()()無しでもいいんだ。ただ確率を上げたい。だからこうして、誠心誠意。お前に。頼んでる。分かるな? ……分かってんのか!!!!」

 

 カンバーk6sをふらふらさせながら、急にキレてみる。ホラ危ない人間だぞ。引き金が軽いチンピラだぞ。薬中の情緒不安定な人だ。テンポよく喋ろうぜ。

 

「モルグ。それ止めて」

「わかっ……なに?」

「その急に大声出すやつ」

 

 佐藤が真剣な顔でこちらを睨んでる。

 

「……? なんて?」

「昔のバ先のクソ店長思い出すからそれ止めて。私たちは普通に言えば分かるから」

 

 なにか変な記憶を呼び起こしたようだ。知らないよお前のバイト事情は。

 

「わがりま゛ず……! そうでずよね゛ッ……! なにも大声出さなくてもいいですよねっ……!」

 

 こっち(甲崎)もなにか感化されて泣き出した。なんだよお前ら。社会不適合者たち共通のトラウマなのか。ヤクザ社会だと基本が大声で恫喝だぞ。そんなので反社やっていけるのか。

 

「分かったよ。悪かったよ。符丁はないんだな?」

 

 後ろの席から甲崎の背中を佐藤が擦っている。

 佐藤よ。お前は甲崎兄妹に売られて死にかけたんだぞ。仲間意識を持つな。

 

「……合図はあります」

「あるんかい」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 

「危険を知らせるノックがあります。普段は、普通にチャイムを押します」

「一緒に住んでるんじゃないの? 鍵は?」

「……合鍵は、持たせてもらえません……」

 

 なんだか本物のニンベン師である妹との力関係が垣間見えるな。

 

「妹の名前は?」

「……しずくです。甲崎雫(こうざきしずく)

「雫ちゃんに怒られないように普段通りにいけ。行くぞ」

 

 オートロックを抜け、エレベーターで最上階の角部屋につく。

 

「バックヤードの扉と同じで、スラッグ弾だと鍵を壊せるからな。妙なことをせずにスムーズにやろうぜ」

 

 スチール製のドアだとブリーチングは無理かもしれん。ステンレスも怪しい。アルミであってほしいが、こういうマンションに使われるドアはそれなりの材質かもしれん。とはいえ、それを甲崎に教える必要はない。

 

 甲崎に念を押してインターホンの視野角の外まで下がる。キリトリ(債権回収)の仕事に付いていけばよかった。初めてのことは勝手が分からない。色々な場面で経験不足を痛感する。

 

 甲崎がインターホンを鳴らす。

 

「雫ぅ。お兄ちゃんだよぉ。開けておくれぇー」

 

 思わず佐藤と顔を見合わせる。

 

「キツいね」

 

 俺は何も言っていない。佐藤が腐した。家庭の事情はそれぞれだもの。

 佐藤が裏切られたみたいな顔をして、俺を指さしてる。

 君はあれだね、たまに出る口の悪さをどうにかした方がいい。

 

 玄関ドアが弾かれるように開けられる。

 

「お兄ちゃんどこ行ってたの! いまどうなってるか分かってんの!」

 

 あれが妹だろう。今年で高校3年生になるとか。

 兄が30手前っていうんだから、年の離れた兄妹だ。

 お兄ちゃんがドアの向こうに体を入れたので、こちらも動く。

 最上階に階段から現れた人間に驚いたのか、妹は早く入れと急かしてる。しかし甲崎兄はまごついている。ごめんな妹ちゃん。お兄ちゃんこそがトロイの木馬なんだ。

 

 ドアの中に体を滑り込ませ、バッグからモグズハード590を取り出し、突きつける。

 

「どうも」

「っ!?」

 

 後退りしながら、俺と、さらに後ろから入ってきた佐藤を見て驚愕する。

 

「覚えのある顔だと思うけど、説明は必要か? 貸しの取り立てに来たぜ」

 

 甲崎雫の顔がみるみる赤くなる。

 

「……! お兄ちゃん何で連れてくるの! 信じらんない! 頭おかしいんじゃないの!? いくらでもやりようはあったじゃん! またビビって考えなしに従ったんでしょ! 意味わかんない!」

 

 甲高い声で(まく)し立てる。やめてやめて。ご近所迷惑だから。お隣さん出てきちゃうから。思わず玄関の方を振り向く。

 

 佐藤と目が合い、ぎょっとした顔になった。

 

「モルグ!!」

 

 視線を戻すとニンベン師(妹)が廊下を猛然と奥に向かって走ってる。

 

 え。

 

 ちょ。

 

 慌ててモグズハード590ゴム弾を発砲。まるで避けるように甲崎雫が部屋に飛び込み、扉を閉められる。

 

 慌てて後ろを追い扉に体当たりする。

 

 ヒンジが弾けて部屋の中に転がり込む。甲崎雫は!?

 

 甲崎雫がスプレー缶を手に取り、噴射とこちらの発砲は同時だった。

 

「ぐァ!」

「おぶぅ!」

 

 催涙スプレーだ! ちくしょう、やりやがったな!

 目が潰される。激痛だった。しかし、呼吸してはならない。理性で本能を抑え込む。

 その場から飛び退くように、横に倒れて這って移動する。噴霧された薬剤が広がる前に呼吸できるスペースが必要だ。

 

 経験済みだ。これは経験した事があるぞクソったれ!

 

 俺は床の空気を大きく吸い込む。よし呼吸は出来る。しかし、目を開けるのは不可能だ。次に怖いのは武器を押さえられる事だったので、さっきまで甲崎雫が居ると思われる場所にモグズハード590を滅多撃(めったう)ちした。 

 

 部屋の中に響く発砲音と悲鳴。一発ぐらいは当たっててほしい。

 撃ち尽くして空になったモグズハード590を投げ捨てる。カンバーk6sを抜き、そのまま手探りで後ろの壁まで移動した。

 

「佐藤ォ! 声を出せ! いま何処だ!」

「ゴッホ……! ゴホ、ここ、ここにいるよ!」

「逃がすなよ!」

 

 佐藤の声のする方向から部屋の位置関係を想定する。

 カンバーk6sを取られないように、胸の位置で構えて反対の手は『アイテムボックス』を開いた。

 大まかな2点の視線から隠れるように後ろ手で『アイテムボックス』からペットボトルの水を取る。蓋を開けて頭から被る。無理やり目を開けて濯ぐ。目が痛い。信じられないくらい痛かった。

 

 2リットルの水を全て開けて、ようやくぼんやりと視界が戻ってきた。

 

(うずくま)って、腹を押さえている甲崎雫。催涙剤を吸い込んだのか、咳き込みながらオロオロと手が出せない甲崎紅。入口を塞ぐように仁王立ちのガスマスクの佐藤。

 

「ごめんモルグ! 多分これ私のクマ撃退スプレーだわ!」

 

 ガスマスク越しのくぐもった声で、どこか誇らしげに説明する佐藤。ニンベン師を捕まえる為に武装したっていうアレか。それを奪われ使われたと。疫病神みたいなやつだ。

 

「ゴホッ。換気と、水を持ってきてやれ」

 

 俺も立ち上がり、窓を開ける。

 ひんやりとした冬の風と、焦げ付いた火災の臭い。サイレンがあちこちで木霊(こだま)する。炎の明かりがここからでも見えた。広がっているな。

 

「喋れるか?」

 

 甲崎雫は、最初に撃ったゴム弾が見事に腹に当たっていたようだ。

 俺の使っているゴム弾のエネルギーは、大体、プロ野球選手のピッチャーが投げる硬式ボールぐらいの威力らしい。それが腹に直撃するんだ。下手すると内臓損傷もありえる。

 

「……無理」

「そうか。俺達はお前にエスカンパニーのある拠点まで一緒に来てもらい、そこで名簿と呼ばれるデータ群を回収したい。俺は()()()()の事は詳しくないからな。まぁ安心しろ。多分空振りだ」

「……お前さァ。いまどういう状況か分かってんの?」

 

 甲崎雫の声が一段と低くなる。明らかにこちらを侮蔑している顔だ。何処に出しても恥ずかしくない立派な反社のチンピラだった。

 

「氷室組がエスカンパニーに奇襲をしかけて、それ自体は成功したが、組織の規模がデカすぎて東京がめちゃくちゃになっている状況ってとこ? ちなみに引き金は俺だ。最悪なことに」

 

 佐藤が水の入ったコップを持ってきて配っている。

 

「甲崎のお兄ちゃんはもう水道で洗ってこいよ。なんならそのまま逃げてもいいぞ」

「あ、いや、だいじょうぶです……」

 

 もう用はないから逃げてほしいぐらいなのだが。

 

「死ねよ役立たず!」

 

 水の入ったコップを妹から投げられる兄。

 なんだか思わず同情してしまいそうだが、暴力に屈して敵を招き入れたのはコイツであるので、扱いとしては真っ当でしかなかった。

 

「お前、モルグって言ったか。聞いたことがあるぞ。死体を完璧に隠蔽する掃除屋だな? マジかよガキじゃないか。筋肉質な大男って噂だったんだが」

 

 口が悪い。佐藤より悪いかもしれない。いや初めて会った佐藤もこんな感じだったかもしれない。

 

「モルグは25歳なんだってさー。見えないよねー」

 

 個人情報をバラさないでほしい。

 

「嘘をつけよ。大方海外のガキが戸籍を買ったんだろうが」

 

 確かに顔つきはあまり日本人ぽくはないものな。

 

「まぁそんなところだよ。実際は17、8ってもんじゃないか? 同学年かもな。依頼を断ると同じ学校に編入してやるからな」

「そうなの!? やっぱ年下じゃない! これからは佐藤さんって呼びなさいよ!」

 

 佐藤のみっちゃんがはしゃいでる。年上マウントというやつだろうか。うざい。

 

 それを見て苛ついたのか、甲崎雫が激昂する。

 

「ふざけんなよ! お前らみたいな反社のカスと一緒にするな! 私は、真面目に学校に行って! 友達と遊んで! 大学に行って普通に就職するんだよ!」

「普通の人は私を反社代表みたいなところに売ったりしないと思うけど?」

 

 佐藤のツッコミ。ごもっとも。

 

「うるせぇよブス。借金を借金で返済するようなゴミが。黙ってろ」

「なんだとコイツ!」

 

 口が悪すぎる。貫禄がもうチンピラすぎた。

 

「金が要るんだよ。普通に暮らすには金が要るんだ。私は今まで社会に出て貢献するために、真面目に全てをこなしてきた。それが、金がないだけで、全て無くなるだと? ふざけんなよ。勉強の一つもやってこなかったバカ共が将来どうなろうが知ったことじゃないが、私は全部やってきたんだよ。教師ってだけで威張り散らすゴミに頭を下げて! 男と遊ぶことしか考えない雌に相槌をうって! 必死に努力して社会性と成績を維持してきたんだ! 私には将来を選択する権利があるだろッ!」

 

 甲崎の兄がそっと妹の肩に手を置く。

 

「母親が、浮気相手と駆け落ちして、父はそれが相当ショックだったみたいで、町工場も閉めて酒とギャンブルに溺れるようになり……」

 

 いや聞きたくないよ。そんなお決まりのお涙頂戴の話は。

 

「悪いが飛ばしてくれ。事情はどうでもいい。裏稼業をやってトバした相手に逆襲されて脅されてるのが現実だ。一応返答だけは聞いてやるよ。結果は変わらないが」

「……テメーこの戦争が氷室組とエスカンパニーの名簿を巡る攻防戦だって言ったな」

「言った」

「甘いよ。もっとデカい組織だ」

 

 ……? そうだな。エスカンパニーが想定以上の巨大組織だって話だ。

 

「違う。エスカンパニーは子会社だ。上の組織がある」

「……」

「知らなかったって(ツラ)だな。何と戦ってるか分かってないだろ。私もこの混乱に乗じてエスカンパニーから情報を抜けないかとハッキングしてたんだよ。金の流れを追ったが、間違いない。エスカンパニーは集金・人脈用の下部組織にすぎない。ヤバすぎる。私は降りる。関わりたくない」

 

 ……あるのか? そんな話が。

 

「世界を牛耳る組織だ。彼らがコントロールしてるに過ぎないんだよ。規模を見ただけだが、分かる。もはや国だ。国境なんてないが、世界中に存在している。いや、彼らが根なんだ。私達はただの結果でしかないんだよ」

「あのー、知ってる。それあれでしょ。フリーメイソンとかDSとかいう陰謀論の」

「アバズレは黙ってその辺でパパ活やってこいよ。あと死ネ」

 

 ついに佐藤が飛びかかった。クマ撃退スプレーはこちらで確保してるので、好きにさせて、考える。世界的な犯罪組織? イルミナティみたいな秘密結社か?

 

 どんなものでも、単一の思想というのは、それだけで国を跨いで組織されるのは容易なことではない。ほぼ無理なのだ。

 宗教がその成功例に当たるが、あれは表の活動があってこそなのだ。地下に潜って広がるのは考えにくい。やはり荒唐無稽に聞こえる。

 

 甲崎紅が2人を引き剥がして仲裁している。

 

「言っとくけどね! 私は売り(売春)はおろかプチ(本番ナシ)すらやった事ないからね!」

「くせぇんだよ! ババア! 喋ンな!」

 

 甲崎雫になにか狙いがあるかもと思って、警戒はしてるのだが、どうも喧嘩してるだけのような気がする。なにが気に入らないのか分からんが。

 

 視野を広げ、リビングを見渡すと、キャリーケースやバッグが並べられている。これは高跳び、あるいは避難の準備か? もしかすると兄が戻るのを待ってたのかもしれない。少なくとも本人は本気で信じているのかもしれない。

 

「まぁ雫ちゃんの馬鹿馬鹿しい話が本当だとしても、名簿を手に入れない理由にはならない。俺には交渉材料が必要でね」

 

 俺はモグズハード590を拾い、ダブルオーバック(00Buck)を装填していく。

 

「聞こえなかったのか? 私はもうニンベン師、いや、裏社会から逃げる。降りるよ。新天地で地道に生きることにする」

「そうか。聞こえなかったのかも知れないが、結果は変わらないんだ。連れて行く」

「……クソッ!」

 

 俺はモグズハード590をポンプした。強襲だ。




なんだか移動と戦闘ばっかりになってるが、この1日で1章が終わるクライマックスなので、許してほしい。1章終わったら直すかも?
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