死体を異世界に捨てる簡単なお仕事   作:手の目は勝ちにくい

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5話 燻煙

 幹線道路沿いに、釣具屋やガソリンスタンドが並ぶ。その中に時計修理工房はあった。

 

 ここが裏社会の銃砲店らしい。

 ごく普通の、といっていいのか。修理店といったら個人がぽつんと経営してるイメージがあるが、ある程度の店構えだ。駐車場も10台は入る。時計修理にそんなに駐車場要るのか?

 

「看板は時計修理だが、それじゃ税務署を誤魔化せないってんで高級ブランドの売買もやってる。修理の腕も確かな職人と、鑑定師が揃ってるぜ」

 

 紗季さんとその部下を引き連れて来店。

 重さんは調べることがあるとかで離れてる。

 

 いくつかあるカウンターに紗季さんが時計をおく。受付がそれを調べると奥へと促された。どうやらこれが()らしい。俺と紗季さんだけが角の応接室に通され、さらに奥に、下へ続く階段があった。

 

 裏社会の人間って地下好きだよな。

 

 地下には所狭しと銃が並び、奥には、射撃レーンがあった。

 テーブルには拳銃を普通分解整備(フィールド・ストリップ)している老婆が居た。

 

「なんだい氷室の小僧か」

「小僧は止めてよ店長」

 

 おお? 紗季さんが嫌味じゃなく下手に出てる。珍しい。

 老婆は鋭い眼光で俺を上から下まで見据える。

 

「小僧が餓鬼を連れてきやがったね。世も末だよ全く。帰んな」

 

 舌打ちをして整備作業に戻るのを――まぁまぁ店長、と紗季さんがなだめる。

 

「モルグ。こちら白羽時計修理工房の店長、鶴城操(つるぎみさお)さんだ。苗字も名前も言うと怒るので店長と呼ぶように」

「よろしくお願いします店長」

 

 じろりと顔を上げる店長。

 

「お前さんがモルグかい。噂は聞いてるよ。本当に子供じゃないか。どんなに腕が良くったって、氷室の小僧なんかに着いていったら破滅するだけだよ」

 

 この人、案外まともかもしれないな。

 

「まいったね。今回はモルグに銃を買ってやろうと思ってね。最近も壊して、銃が必要なのさ」

「ハン。使ってるエモノを出しな。その壊れたってやつも持ってきてんだろ」

 

 カンバーと壊れたソードオフを渡す。

 

「……妙なもん使ってるね。このミクロの水平二連はともかくカンバーK6s? .357か。どこで手に入れたんだいこんなもん」

「アメリカに直接行ってツテで買ってきました。信頼性があって、小さくて、すぐ抜けて、確実に止められるやつ。そんな注文をしたらこれが出てきました」

 

 騙されたわけではないが、吹っ掛けられた。シリアル番号を削ってある違法なものだし、日本に持ち込めるルートも含めての値段だ。『アイテムボックス』に入れてしまえば見つからないが、どうやって当時16歳のガキ(パスポートでは22歳)が単独で銃を密輸出来るのか聞かれると困ることになる。

 

「コンシールドキャリーで9mmや45口径では駄目なのか?」

「駄目ってことはないんですが……。相手に1秒でも早く死んでほしくて……」

「……そりゃどういう殺意の高さなんだい?」

 

 紗季さんが壁に掛かってる銃を手に取り、嬉しそうにこちらを振り向く。

 

「おいモルグ、セミオートショットガンにしようぜ。『ジャン・ウィック』のやつだろこれ?」

「勝手に触るんじゃないよ小僧!」

 

 また勝手に……。そういう小さなことから信頼を失ってるんだろうなと思う。

 

「誰ですそれ?」

 

 知らん人だし。ガンマンの偉人か?

 

「おいおいおいモルグ。『ジャン・ウィック』観てないのか。マジかお前」

「ガキ。『ジャン・ウィック』はいいものだぞ。観ておけ」

 

 なんか二人から詰められてる。映画の話かこれ?

 

「いや、はぁ、まぁ……。あとで重さんに聞いてみます」

「なんでそこで火口の名前が出てくるんだ」

「なんでも変に影響されると判断が鈍るので、映画とかそういうのは禁止されてるんですよ。見ていいものは重さんが選んでくれてます」

「お、おお。マジか。火口マジか。いや。しかし、確かに。モルグの子供のころはかなり純粋というか、情報を貪欲に吸収するところあったからな。おかしくなる可能性は否定できないか」

 

 いやそんなにアホ扱いされるのも心外というか。

 

「うーむ。さすが火口。私の右腕。私の手が届かない所を的確にフォローしてくれる。私を信じる火口だからこそ、私も火口を信じることが出来るというものだ」

「……正直、いつまでも子供扱いというのは納得ができないので、解禁してもらいますよ」

「まぁ『ジャン・ウィック』は観てもいいだろっていうか観るべきだろ」

 

 知らないよ。しかしそういった創作物にはほぼ触れてこなかったから、あまり興味も出ないというのも本当のところだ。

 

「店長、これ試射してくるわ。モルグの決まったら呼んで」

 

 勝手知ったる他人の店。紗季さんは引き出しから弾丸を掴み射撃レーンに行こうとする。

 

「いいわけないだろ勝手に開けるなコラ! あーもう、イヤーマフ持っていきな! ここ(地下)で撃つと耳痛めるよ!」

「おっと。『デッド・ハード』のダイ・ウィリスも撮影で耳栓しなかったせいで、聴力失ったからな」

「……」

 

 ふと、黙ってる俺を見る二人。なんじゃい。

 

「なぁ、もしかして『デッド・ハード』も観てない?」

「……ええ、まぁ。観てないですが……」

「氷室よぉ。おいおいおいおいおい。テメーんとこのはどういう教育してんだい」

「モルグお前、普段なにを許可されて観てるんだ」

「え。『日本中統一』シリーズとか、『キタの帝王』とか……」

「……ぉぉ。いやアタシも好きっちゃ好きだがよ」

 

 どこかに電話を掛け始める紗季さん。

 

「オイコラァ火口重衛ゴルァ!! 舐めとんのかワレェ! 何が右腕じゃボケ調子こいてんじゃねーぞオラァ! 『デッド・ハード』は名作だろうがぶっ殺すぞカスゥ!!」

 

 叫びながら遠ざかっていく紗季さん。今更だが、重さんもなんで、こんな人に忠誠を誓ってるのか全然分からん。

 

「で? お前さんはなにが欲しいんだい?」

「ええと。一つは紗季さんが奢ってくれるそうなので、怒られない程度の金額のものを。悪環境でも十分な信頼性がある散弾銃がほしいです。あとは精度が良くて取り回しの楽な5.56mmのモノを」

「なら小僧がもっていったビネリM4は無しだ。良いものだがね。アタシらの商売考えるとシンプルな方がいい。特にアンタらヤクザ連中は銃の整備をしなさすぎるよ」

 

 ヤクザはさきさんだけだ。使いっぱしりみたいなものだが。

 ごとりと、ゴツいショットガンを置かれる。

 

「モグズハード590カスタム。12ゲージ。8と1発装填。軍用にカスタムした。実質的に米軍仕様だ。笑えるほど頑丈だよ。見た目は日本でも狩猟にもよく使われるものだから、多少の偽装効果もある。コスパも良い。銃剣も付けれる。いるかい?」

「あー、どうかな。欲しいかも」

 

 この前の戦闘を思い浮かべる。いやでも邪魔にもなるかな。分からん。

 

「仕入れたは良いが誰も買わないんだよ。もってけ」

 

 銃剣は余り物だったようだ。

 

 手渡された散弾銃は、所謂ポンプアクションのショットガンだ。日本では散弾銃は法律で薬室とマガジンチューブで合計3発しか入らないように、詰め物が入っている。同じ見た目でも継戦能力は段違いだ。

 

 持ってみるとずっしりと重かった。

 ポンプを引いてチャンバーを確認し戻す。引き金を絞る。カチリ。

 

「思ってたよりってポンプって重いですね……」

「まだやりやすい方だよ。正しい姿勢で慣れたら楽になる」

「ライトを取り付けたいです。出来ますか?」

「問題ないよ。だがあんまりゴテゴテするとアンタを含めた性能が下がるからね。トータルで考えな」

 

 どうしても先日の緑小人の戦闘が頭にある。あの時にあれがあれば、これがあればと考える。今なら選択肢は多く取れるはずだ。ショットガンの重量も許容範囲だ。

 俺も4年前に比べると、痩せてはいるが、銃を支えられる体になった。初めてソードオフでバックショット撃ったときはひっくり返ってたからな。

 

「次はこれだ。エアルX-15。AL-15のクローンだが価格帯の割に精度の良い仕事をするメーカーだ。拡張性も高い。適当に見繕ってやろう。だからこっちを奢ってもらいな。当たり前だが例の旧ソ連の銃とは設計思想が違う。乱暴に扱うとそれ相応に報いがあるからね」

 

 構えてホールドする。調整していないのにチークパッドもピタリと一致した。うん。いいなこれ。当たりそうだ。

 

「どちらも整備はしてあるが慣らしてきな。100発は撃ってこい」

 

 射撃レーンにつくと、紗季さんが丁度電話を切るところだった。

 

「ぉ、決まったか? なんかゴツい銃だな」

 

 あんたが今手に持ってるのも大概だよ。

 

「こちらのエアルX-15を、紗季さんから頂いたということでいいでしょうか?」

「ん?」

「……ん?」

「なんで?」

 

 なんで? とは??

 

「……あの、誕生日プレゼントを頂けるのでは?」

「いや?」

「いや!?」

 

 ハァ!? このおっさんの前頭葉はどうなってんだ!?

 

「私そんなこと言ったか?」

「い、言いました、けど。かなりハッキリ1時間前に」

「うーん。そうかも。でもなんで私がモルグの誕生日プレゼントを買わなくちゃいけないのか、よく分かんないから、それは自分で買えよ」

 

 う、嘘だろ……。

 あ、この人さっき重さんにキレてたからストレス解消してメンヘラ期が終わったのか!? なんでメンヘラ期が終わるとその時の記憶がなくなるんだよ!!

 

 なんだかもうどっと疲れた。

 本当に意味が分からない。

 

 思い出したかのように熱と体の痛みがぶり返してきた。ううう。これで射撃の慣らしをしなきゃいけないのか……。買うの、やめようかな……。

 

 結局、手伝ってもらいながら銃の慣らしを終わらせた頃には、日もとっぷりと暮れていた。

 

 

同日・異世界・ギノ・警邏隊詰め所

 

 遅めの昼食を食べて、食後の一服。

 火頭角(ひがしらかく)のパイプに煙草を詰めて火魔石(ひませき)を乗せ吹かす。

 

 若い連中はパイプ素材を瓢箪だのコーンだのとはしゃいでいるが、味わいに混ざりが出てしまうので、アタイは嫌っていた。頭ごなしに否定するほどじゃないが、やはり純粋に煙草そのものの味を楽しみたいのなら火頭角(ひがしらかく)を加工したものが良い。

 

 もともと燃えてる頭の上に乗っかってる角だから、熱にはやたらめったら強い。それでいて、熱を吸収、魔力に変換して、吸湿性も非常に高いという性質がある。煙が重くならず、ふくよかで純粋な味わいになる。

 

 椅子に体重をあずけながら、煙を燻らす。平和だった。

 最近はめっきり事件がない。

 書類仕事ばかりで、狼なのに猿獣人みたいにケツが禿げ上がりそうだ。

 

 窓の外は雪が深々と降り積もっている。

 静かだった。暖炉の薪が弾ける音が心地よい。

 寝てしまおうか。あるいはいっそ訓練の大号令をかけ、雪を掻き分けるか。

 

 パイプから出る煙が部屋を満たす。そういや、ミブの娘が局内をすべて禁煙にしようと働きかけているらしい。鼻が鈍るから止めろとさ。もう何十年も煙と共に捜査してんだ。そこまでヤワじゃない。

 

 まったく、狂ってるな。親戚筋だが、あの一族は頭が固すぎる割に、秩序というものを何か勘違いしてるんじゃないか。秩序に必要なのは規則正しい労働だ。正しい労働姿勢には憩いの時間が必要不可欠だ。つまりパイプ煙草は絶対に必要になる。

 

 外が騒がしくなる。ドタドタと忙しい足音。なにかにぶつかり非難の声。扉がけたたましい音を立てて開かれる。

 

「隊長! 隊長! 大変です!」

「ノック」

「すみません! でも」

「カガ、ノックだ。やり直せ」

「ぐぬ。り、了解です」

 

 こいつもミブの子供だ。図体ばかりでかくなって、直情的だ。いつの間にかアタイより頭二つはデカくなってるが、オツムの方は成長に追いついていない。公的機関に従事するものは紳士であれと、法に記載されてるんだぞ。最近の若いやつはどうなってるんだ。ミブの娘は秩序の破壊者で、息子は法を忘れてる。お前達は執行する側だぞ。

 

 カガが戻ってノックを鳴らす。

 

「入れ」

「隊長。あー。報告があります!」

「どうした」

「ナギツルが出ました!」

 

 思わず立ち上がる。なんだって?

 

「あ、いえ。確証がまだあるわけではないのですが」

「いいから。いつ、どこで、何を発見した!」

 

 引き出しから地図を取り出し、机に広げる。眠気は消し飛んでいた。

 

「はい! 場所はロンネル国のミミルの街から北に17ミルの森です。正確な場所はこちらに」

 

 カガが緯度経度を示した紙を差し出す。いいぞ。『星見』を持ってる奴が居たんだな。でかした。もう座標の特定が出来てるのは大きい。

 

「昨日の夜に、ロンネル国のハンターが、依頼で、森の奥にあるとされてる夜目の魔石を採取しにいったところ、森の途中で開けた場所にあたり、そこの10名ほどの人族と思われる大量の焼死体と、奇妙な鉄の荷馬車のようなものを発見したとのことで、例の事件の関係じゃないかと我が国に問い合わせがありまして」

 

 よし。6年前の事件で周辺国に詳細を送っていたかいがあった。ミミルの街の御上にはウチの一族からも養子が出てる。一応の親戚付き合いがあるおかげで、協力体制は盤石だ。素晴らしい速度の判断だな。

 

 地図上で発見された場所に紫のコマを置く。『母の森』の比較的浅い位置だな。

 穏当そうに感じる名前だが、奥にいくと化物がうじゃうじゃと犇めいている、所謂、魔の森の一つだ。なぜ母の森と呼ばれてるかは分からんが。

 

 この街からは直線距離で35ミル。道なりに通ると大体65ミルか。

 明日出発としても、ミミルの街に拠点を設けるのが一番だな。

 申請書を山程ださなきゃならん。

 

「副長を呼べ。国を超えて調査にいく。先方には副長が通信士に直接指示を出す」

「ハッ!」

「それと、その後で、お前は教会に行き、シュプーア殿にも報告してこい」

「な、長耳(エルフ)にですか!?」

 

 アタイはカガを睨み付ける。どうも若い連中はエルフをナメてる。

 それは我々の世代が口酸っぱく自立を促して、一族の誇りを持つように教育してきた弊害かもしれない。教会――ひいてはエルフの恐ろしさは十分に伝えてるはずなんだがな。

 

「敬称をつけろ。シュプーア殿。シュプーア司祭。シュプーア異端捜査官だ。忘れるなよ。ナギツルの捜査権は彼らが持ってるんだ。我々はあくまで協力だ。屈辱的だろうが、そもそも彼らの国際捜査権がなければ他国まで追えるわけがないだろ」

「しかし、俺たちの国で起きた事件で、犠牲になったのも国民です! それをいきなり横から介入してきて……」

「カガ! アタイは決定を伝えたぞ!」

「う、し、失礼しました! 副長にお伝えした後、教会に報告してきます!」

「行け」

「ハッ!」

 

 来たときと同じように慌ただしく走り去っていく。

 だから局内で走るなと……。まったく……。

 

 机の地図を睨み付ける。

 

 6年前、我々の国で大量の人族のアンデットが発生した。初動が遅れたため被害が拡大し、下手をすればスタンピードになっていたかもしれない事件だ。アタイの一族からも死傷者が出た。

 

 爆発的に増えるアンデットの大群に対処しながら、目撃情報や物証を集めた。

 どうやら、それを引き起こした犯人が、人族の子供というところまでは追えたのだが、匂いを辿っても、追手を嘲笑うかのようにプツリと途絶え、また違う場所で現れるというのを繰り返した。

 

 人なのか、あらざるものか。しかし魔法の痕跡はなかった。

 

 死者の匂いの中に混じる、覚えのない匂い。

 鉄と知らぬ煙の匂い。

 人族の子供の体臭に混じるゴミの臭い。

 

 パイプ煙草で鼻が鈍くなるって?

 

 忘れるかよ。あの匂いを。

 

 許すものかよ。あの匂いを。

 

 アタイらは神出鬼没の犯人をナギツル(終わりに連なる者)と名付け、アンデット騒ぎが終わった後も追っていた。

 

 しかし、不思議なことに、ある日を境にパタリと痕跡がなくなった。

 

 それから6年。

 隣国の未開の森とはね。

 

 まだ確証はない。だが恐らく当たりだ。

 先祖から続く狼獣人の狩猟本能がナギツル(終わりに連なる者)だと訴える。

 

 しかし、火葬だと? ならば6年前は。

 匂いの通り、悪霊の類ではなく、生身の人間だとしたら。

 成長し、学習したということか?

 あのアンデットの大群を生んだのは不本意だった?

 よしんば何も知らずあの事件を引き起こしたのだとしたら。

 

「ハッ」

 

 嘲笑。関係あるかよ。罪は罪だ。

 アタイが出来るのは、若い連中が喉笛を食いちぎる前に捕まえて断頭台に送ってやることだけだ。

 

 アタイは昂る気持ちを押さえるため、再びパイプに煙草を詰めて、ゆっくりとふかしながら副長との打ち合わせ内容を頭の中で反芻していた。

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