「なぁ…お前らって、付き合ってんの?」
「え?」「は?」
ヒバリの突然の発言に、2人は同時に振り返った。
2人、とは9号部隊所属のウミネコと7号部隊所属のムギマキに他ならない。
先日の"カササギ騒動"により敵対していた2組だったが、いまではわだかまりも解けともに訓練に励んでいる。
「だってのに、いきなりなんだオメェ? そんな脳内どピンクなスケだったんか?」
仲間を悪く言われたように感じたのか、語気が荒くなったのはムギマキと同じ7号部隊のブンチョウだ。見た目はヤンキー少女だが、友情にアツいところがある。
「いやいや! だって気になりますって! 2人妙に一緒にいるし、話も合ってる感じだし!」
シノビとは思えないほど感情豊かなヒバリは、年相応に色恋にも興味がある。自分が悶々とした感情を抱きながら何も行動できずにいるのも原因のひとつだ。
「で〜、よ。実際のとこ…どうなんだよ!?」
ヒバリのまっすぐな問いに、2人は目を見合わせる。どちらも慌てる様子も、顔を赤らめる事も無い。淡々としたものだ。
「はぁっ…彼とは部隊の連携について意見交換していただけです。9号部隊で唯一建設的な会話ができそうだったので」
ムギマキがクールに、少し毒を交えて溜め息を吐き出す。完全に劣等生を見下す優等生の目だ。
「オレも、細かい雑事の確認です。9号部隊の中でやれるのは、オレだけだと思うんで」
『すまないウミネコ〜〜』
会話に割って入ってきたのはそれぞれのイヤホンを通じているシノビたちのオペレーター、9号だ。普段は冷静に物事を対処しているが、最近になって増え続ける雑務に忙殺されそうなのをウミネコに助けてもらっているため、申し訳なさで頭が上がらない。
ちなみにもう一人9号部隊にはスズメという女子がいるが、別任務に就いていて今回の会合には不参加だ。この場にいたら誰よりも騒いでいた事だろう。当人である7号部隊隊長のカササギも、今回は参加を見送っている。
「下劣な質問がもう無ければこのあたりでお開きにしましょうか。このまま続けていても実りは無さそうですし」
目を細めて「くだらない」と言っている態度を隠そうともしないで背を向けるムギマキ。他のメンバーが気圧されて声を掛けれずにいるが、ウミネコがその腕を掴んだ。
「おいっ、失礼だろう。チームワークを深めるのも訓練のひとつなんだぞ」
情に厚いウミネコが叱責する。普段は温厚だが仲間の為にアツくなれる男なのが、信頼を勝ち得ている。
『ウミネコ……』
「たとえそれが下世話な、人のプライバシーにずけずけと入り込んでくるような話題でもだっ!」
『ごめん~~!』
現代のシノビにはプライバシーもしっかり守られて然るべきである。
無言で腕を振り払うと、少し考えてからムギマキは自身の手をウミネコの頬に添えた。
「なら……皆さんの前でキスでもしてみますか? 熱いベーゼを…」
「ふざけるな。真面目にやらないなら――」
「き…キーッス! キーーッスッ!」
周りの面々が口を挟めないでいる中で、空気の読めない大声が響き渡った。
声の主はそう、9号部隊のエース、ヨダカだった。いたのかお前。
『お前…何やってるの?』
「し、知らないんですか9号さん!? こういう仲睦まじい男女を応援する場合はこうするらしいんですよ!」
誰も動けず、ヨダカの必死の声と手拍子だけがしばらくこだましていると、不意にムギマキが再び目を細めて歩き出した。
「待て! ……ったく」
遅れてウミネコが背中に声を掛けるが、ムギマキは歩みを止めずに去っていった。
「……えっ、と…もしかして……もしかしなくとも、僕…また失敗しちゃいましたか……?」
『お前は成長できる子だと信じているよ……』
9号の甘さが炸裂していた。
「でもよぉー…ほんっとにあの二人、何も無いのかぁ~?」
次の日の放課後、仕切り直しという事で再び9号7号部隊の交流会が開かれ、そこへ向かう途中にヒバリは昨日の件を蒸し返した。ウミネコは雑務でまだいない。
「で、でも、お2人とも肯定しませんでしたよ? …とくに否定もしませんでしたけど」
反省しているのかヨダカは落ち込み気味だ。上手くやろうとしない分、丁度良くなっているのが悲しい。
『実は…』
しばらく沈黙を貫いていた9号が、ボソリとつぶやく。イヤホン越しなので意味がないが、大きな声では言い辛い内容なのは伝わった。
『付き合っては、いるんだ…あの2人』
「………。…はぁっ!?」
舐めていたキャンディーを放り出しそうになったヒバリが体勢を立て直すと、何から聞こうかと逡巡しているとヨダカが先に口を開いた。
「どうして9号さんが知っているんですか? 報告があったとか?」
「そ、そうだ! まずそれだ! ど…どう、なんすか?」
息が荒くなるヒバリ。最近自身の恋心に気付いたばかりな為、近しい人物の恋バナに必要以上に動悸が激しくなってしまう。それでも聞きたい気持ちが強く、何とか息を整えて返事を待った。
『えっと、だな……まず、報告があったワケじゃない。プライバシーは、大事だからな。うん。…そうじゃなくて、一週間くらい前にウミネコと通信していたら……』
何かツラい事でも思い出したのか、9号は一度言葉を止める。深呼吸をして覚悟を決めたのか、続きを話し出した。
『突然ムギマキがやってきて……ちゅっちゅし出した……』
ウミネコの特記事項。戦闘能力はヨダカに劣るものの、基本的に何でもそつなくこなす。が、詰めが甘い。
「…………ぐぇ~~っ!」
同僚の生々しい部分を聞いて、ヒバリは倒れ伏した。
「はぁ………ハァ?」
キャパオーバーなのか、ヨダカは理解できなかった。
『部隊に亀裂が走りかねなかったから一応共有したけど、絶対に秘密厳守だからな』
「……本当は?」
『お前らも道連れだッ!』
顔を上げたヒバリが、再び勢い良く潰れた。