オブ・ザ・キングドラ 作:スパボンがswitchで遊べる
冬の日の火葬場で、燃え上がる炎と私の命が、降りしきる雪を溶かし押し上げていた。
死への憧憬など持ち合わせていなかった。だが、焼かれていく骸は、私の短い生涯で一番の輝きを放ち、美しさというものを今更ながらに教唆する。
これが死か、と私の口が崩れてしまう前に呟いた。
目も耳も口もない、たましいと呼ぶべきものへ昇華する寸前の行いだった。私は安堵していた。
こうやって人は死ぬのだ。このように眠るのだ。
生きていた頃の私の行いに、恥じるべきことは然程なく、罵るべきこともなかったが、誇るべきこともまた、なかった。
炎に焼かれ、骨が崩れ落ちていく。私の誇るべき死と、美しい死をつくりあげている。
生まれ、生きて、納まるべき場所に納まるのだと知った。
火の粉の散る音が遠く離れていく。私の耳が、私のたましいの一部となる。
誇るべき死を鮮やかに覚えていたくて、視界がかすれる前に、私は目を閉じた。
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私は新しい体と新しい生について、第二の人生ではなく人生の余暇と定めることにした。
前世の記憶と思考を引きずっていた。新しいたましいが貰えなかったのだ。
生まれたての体に一定の思考能力と判断基準が宿っていることが、常に大幅な利点であるかというとそんなことはないらしい。
二度目の難題を前にして、一度目の経験が役にたたないとわかってしまえば、そこに喜びなどなく、困惑と倦怠感のみが体中を支配している。
「水棲のこの身体にとって、炎に焼かれて死ぬことは正しい死に方なのか、どうなのか……」
呟きが気泡となり海面へ上っていく。海流がうずを巻いている。
「つまらないことを考えている」
死に方など、たましいの磨耗に怯え、余りだす時間の莫大さに倦んでから考えればいい。
確かに、身体が高熱で焼かれていくさまは胸をうつものだった。あれは失敗ではなかった。
こうして記憶を保持して転生してしまった以上、成功でもないのだろうが、幸運程度に考えておけばいいのだ。
「炎が頭から離れない、もっと生産的なことを考え、いや、生まれたばかりで生産的とか、もっと気楽に、でも魚の腹におさまるのは」
それは嫌だ。
「もっと強い、もっと激しい炎で……それは自然なさまか?
燃え上がる、そうだ、雷に撃たれれば」
かみなりの命中は70、そこそこ外れる。
「そういう世界なんだ。納得しろ」
上司に叱責されたサラリーマンのように、私は落ち着いた。
ああ、この表現は悪くない。前世を思い出す。
餌を得るために動き出す。体のまわりで海流がうずを巻いている。
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落下する川の流れが、滝つぼの中央にある見事な岩肌に叩き壊されている。
平時、森中にこだまするであろう水音は、徹底的に輪郭をぼかされ、定かでない。
シードラが呼び込んだ豪雨が、滝そのものを叩いている。
周囲に蔓延する轟音、水の音が、
川はほぼ氾濫寸前で、川辺にあった背の低い草たちはすでに飲み込まれている。その曖昧な境で、少女が叫んでいた。青い唇。
「みつけた! みつけたよ! ……あなた……つがいはいる!?」
大人に引けをとらぬ長身で、すっきりと伸びる手足の白さが際立つ。
反対に幼い顔立ちと、どこか不安定な骨格が、彼女の年齢をつぶさに物語っていた。
前の感覚と照らし合わせてみれば、まだ中学生にもならぬ年齢なのではと、シードラには思われた。
「おねがい! 話をきいて! あなたに、あなたが!」
シードラはこの雨の中で、のどの嗄れを恐れず張り上げる彼女に呼びかけられている何者かが、自分であることにようやく気づいた。
そうして彼女の言葉を今一度反すうし、なんとも場違いな問いかけだと、含み笑いをした。
ふと豪雨が途切れる。蓄えた流れをまとめて落とした滝が、爆音を響かせる。
森から音が消える。
「つがいなど、そんなものはいない」
たわむれに返事をしてやった。
ポケモンが、呼びかける人間に一声鳴いただけだ。そこに人間をつたなく満たしてやる以上の意味はない。
シードラを満たす何かが訪れることはなにも、
「よかった……! じゃあ、私のポケモンになって! ください!」
シードラは身構える。理性が理解するのを躊躇ったため。
無意識に逆立ったトゲを見て、少女は頓着せずに腰からボールを投げて一歩下がった。
「私のポケモン、今はイーブイだけど、この子がシャワーズになったら、あなたにもう一度会いにきます。
そのとき、私たちと一緒に冒険しよう?」
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シードラは、良い鴨にされているな、と溜息をつこうとして、ふと思い直した。
勝てる相手に何度も勝負を挑むのは、確かに嫌らしい。だが、シャワーズとドククラゲという構成は、本当に楽に勝てる相手なのか。
少女の言により見えてきた相手の像は、二匹ともフルアタックの殲滅力のみを追い求めた構成で、確かにえげつない。
だが、こちらの二匹も守りに関しては相応のものであり、専守防衛に徹すれば易々と突破されることはない。その上シャワーズの種族的な特攻値を見れば、守りつつ撃破することも十分可能である。
ただ鴨にしたいのであれば、草タイプや電気タイプを連れて来るだけでいいのだ。電気はともかく草タイプの調達は容易だし、即興の構成であってもタイプ相性は抜群のアドバンテージとなるだろう。敵がそれを用いないのはなぜだ。トレーナーの矜持、プライドというやつだろうか。
ならばその少女の幼馴染はなぜ、繰り返し勝負を持ちかけ、繰り返し勝利をもぎ取って行くのだ。
「それにね、卑怯なの! お姉さんがすごいトレーナーでね、ずっと旅をしてるんだけど、沢山沢山きあいのタスキを送ってもらって、いっつもそれで勝つんだ」
きあいのタスキ。体力満タン時に一撃確殺級のダメージを負った場合のみ、微かなHPで堪え瀕死を免れるアイテム。
相当優秀なアイテムといえるが、とんでもなく貴重だ。一度使ったら破けてしまうというのが、それに拍車をかけている。
なおさらわからない。なぜそんなアイテムを使ってまで、容易な勝利を挙げて満足するのだろう。
「あんなレアアイテム使われたら、負けるに決まってるよ……。
ごめんね、シードラ、私弱虫だね」
「いや、その気弱さは、人間と会話できるという私の充足を損なうものではないよ。
それに、どんなレアアイテムでも、それの有無だけで試合が決まってしまうかというと、そんなことはない」
そうだ。どんなアイテムも一長一短。きあいのタスキの破壊力は凄まじいものだが、その分戦法に組み込むのは難しい。どれほど優秀なトレーナーでも、その力を常時十全に発揮できているわけではない。
「相手が何度も同じ戦法で来るというのなら、それを逆手にとってやればいい。
きあいのタスキにだって弱点は存在するし、そこを突くのは難しいことでは」
シードラは口を噤んだ。二対二の戦いで不安定なフルアタ構成、湯水のごとく消費されるきあいのタスキ、そしてシャワーズとドククラゲのパーティで一度も勝てない。
きあいのタスキというレアアイテムのせいで、負けて当然、いかに相手の隙を突いて勝ちを取るかに向かっていた思考が、冷めていくのを感じた。それは興味や熱意の消失ではない。体の細い部分から湧き上がってくる、純然とした畏敬によるものだった。
「相手がきあいのタスキに頼った戦法ということはわかった。きあいのタスキは確かにレアアイテムだが、それが単純に思いつく中で最も効果が発揮されるのは、フルアタ同士のノーガードの殴り合いの中でだ。
守り型二匹がここまで完封されるほどのアドバンテージではない」
きあいのタスキにも勿論弱点がある。そもそも言ってしまえば、限定状況下で一ターン稼ぐ程度の能力でしかない。その一ターンすら稼げない場合もある。
「勝って当然、負けて当然ではないよ、これは。いつだって相手の勝利は綱渡りだったろうし、お前の敗北は紙一重だったはずだ。
いいか、きあいのタスキは攻撃を受けた際にHPを1残すアイテムだ。優秀だな。
だが、一度毒や火傷を負うだけでそのアドバンテージは無意味なものとなる。毎ターン微かなHPを失うこの状態異常にかかってしまえば、きあいのタスキなどただの布くずだ」
驚愕に目を見開いた少女が嚥下するのを待ちながら、シードラはゆっくりと言葉を紡いだ。自分が抱いた相手への尊敬を少女にも共有して欲しかった。
「相手は二分の一の確率で毒タイプが出てくるという、すこぶる不利な状況で、きあいのタスキを活用する術をお前相手に磨いているんだ。決して安易な勝利を稼いでるわけじゃない。
何がそうさせるのかはわからないが。執念か矜持か。……どんなトレーナーになりたいのか、伝わってくるよ。正直尊敬する。
お前はどうする?」