オブ・ザ・キングドラ   作:LAC

10 / 10
シャワーズ(マチス)

 なんて酷いことを言うおじさんなんだろう。シャワーズは思った。

 イーブイの頃から、生まれてすぐの頃から私はこの娘と一緒だったのに。私がブルーの一番のポケモンなのに。

 眼の前のおじさん、シードラのやたら大人ぶった口調も癪に障るし、あの娘に一番に相談されているのも気に入らない。話の中身なんて論外だった。

 

---

 

「シャワーズ! 落ち着いて!」

 シャワーズは意図的に少女の声から耳を塞いだ。

 今日の作戦に納得していなかった。

 ドククラゲも、ラプラスも、そしてシャワーズも。誰も敵のポケモンを倒さないようにする、だなんて。

 そしてそれを最後にシードラが全部倒すだなんて。

 盤面が完成したら、シードラが敵の一匹一匹に"バブルこうせん"を撃ち、反撃させずに倒す。それを全員繰り返す。

 そのために、シードラ以外の全員は相手が一撃で倒れるくらいまで、体力を削るのが仕事なんて。

 シャワーズは指示を嫌がっていると示すために、首と尻尾を唸らせた。

 私にやらせてくれれば、私を信じてくれれば。私がブルーを勝たせてあげるのに。

「シャワーズ!」

 独断専行ではあるが、直ぐさま悪い結果を齎した訳でもなかった。シャワーズはよく鍛えられており、苦手なはずの電気技を何度も耐え、そして反撃した。

 先鋒のビリリダマが倒れようとしている。

 ほら見てよ。私に任せてくれれば大丈夫なんだから。

「あっ、避けて! シャワーズ!」

 体力の限界で、まさに倒れようという最中に、ビリリダマが何か放った。

 ここまでその素早さを振りかざし、先手を取り攻撃技を打ち続けてきたビリリダマの"でんじは"だった。

 予めそのように訓練されていたのだろう。そのように指示されていたのだろう。ビリリダマのマチスの麾下で、一つの集団の構成員としての働きと使命感がシャワーズを襲った。

 シャワーズは、身体がしびれて動けない。

 次鋒のピカチュウが繰り出された。

 

---

 

 霞む視界の中。あの娘の大きな瞳に、涙が浮かんでいるのが見えた。唇を結んで、零すまいと眉間に皺を寄せて、しかしこちらをじっと見つめている。

 記憶の中の今よりもっと小さなあの娘が、同じように涙を浮かべた時は、シャワーズはいつだって飛びついて頬を舐めてあげたのだ。

 痺れた身体に力が入らない。

 前脚が持ち上がらないのだから、あの娘の元に行ってやることもできない。

 ああ、だけど、良かったな。

 成長したあの娘の涙を止める、新しいやり方を知っている。

 

 目標ができたんだ。チャンピオンってやつになるんだ。

 そのために、勝って進むんだ。

 

 シャワーズが全身に残された僅かな力を振り絞って、一声鳴いた。

 屋内に黒い雲がひしめき出す。

 おじさん、しくじったらあんたのこと一生許さないよ。

 

---

 

「アテンション!」

 暗雲が立ち込めると同時に、マチスが直ぐさま大声を上げた。

「フィールドが雨状態になったヨ!

 ソルジャー各員、ウェポンの命中率を再評価シテ!」

 上手い言い方だった。勿論シードラも、仲間たちも事前に雨状態の影響は確認している。

 しかしながら、マチスはこちらにヒントを与える言い回しを避けている。

 でんきタイプの当たれば強い大技"かみなり"が、雨状況下では必中状態になることを、そのまま言葉にせず己のポケモンたちに意識させた。

 本当によく訓練されている。ポケモンたちが各々十分な知識を持ち、端的な指示で十全に動く。

 マチスがその立ち居振る舞いから連想させる、軍隊そのものだった。

「だがまあ、ちょっとしたズルみたいなものだ」

 シードラは己が進化することを知っている。カントー地方のトレーナーはまだ誰も知らない。その姿はカントーの図鑑に登録されていない。

 タッツーの頃持ち合わせていた、野の中で振るっていた特性がある。一度失い、最終進化で取り戻す予定のものだ。

「やってみたら今も出来たんだから、使わない選択肢はない」

 フィールドに雨が振っている時に限って、特別に発動する特性だ。"すいすい"という。

 素早さが二倍になる。

 

「さあ行って、シードラ!」

 シードラはシャワーズの期待を裏切らない。

 誰も彼も素早さ自慢の筈のマチスのポケモンが、誰一人その影を踏むことすら叶わない。

 "ハイドロポンプ"をピカチュウとライチュウに当てるだけだ。

 今なら簡単に出来るだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

スキル【10匹の熊】(作者:LAC)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一人一スキルの現代社会に【転生】スキルを持って生まれた主人公朝倉アサヒが、▼実質無能力者かと思いきやスキルを共有するスキルを持った少女との出会いにより5秒で最強になる話▼熊10匹に勝てるわけないだろのノリで行きます▼カクヨムにも投稿しています


総合評価:8705/評価:8.71/完結:27話/更新日時:2026年07月23日(木) 21:54 小説情報

聖女の仕事が無給で無休だったので【返品】しました ~召喚特典は世界救済ではなく、理不尽を送り主に叩き返す返品スキルでした~(作者:kuratn)(オリジナルファンタジー/コメディ)

「無給、無休、相部屋、冷めたスープ。……じゃあ、やらないです」▼終電後に異世界召喚された事務員・佐伯リカ(27)。▼聖女に任命――されそうになったので、労働条件を確認して辞退した。▼神様がくれた特典は【返品】。▼一方的に押し付けられた理不尽を、送り主に差し戻すスキルだった。▼召喚費用の請求書→決裁した文官へ。▼呪いの札→書いた神官へ。▼婚約解消の違約金→言い…


総合評価:1011/評価:7.76/完結:44話/更新日時:2026年07月15日(水) 15:51 小説情報

シナリオ崩壊しても知らねぇぞ!(作者:名無しのマスター)(原作:Fate/)

人類最後のマスターになる覚悟を決めた転生者は召喚事故に遭いながらも人理保障の旅に出る……!


総合評価:11509/評価:8.88/短編:9話/更新日時:2026年07月23日(木) 17:23 小説情報

地球連邦軍上層部はいつも多忙です。(作者:はにわはにわ)(原作:機動戦士ガンダム)

宇宙世紀0083年。核攻撃で観艦式が壊滅する中、地球連邦軍最高司令部の苦労人大将は、コロニー落とし阻止のため胃薬片手に奔走する。▼第二章スタートしました。0083年から機動戦士Zガンダム本編開始直前の0087年までを描きます。


総合評価:6068/評価:8.36/連載:24話/更新日時:2026年07月03日(金) 01:00 小説情報

転生闇落ちガチ勢トレーナー(害悪厨)が心を折るまでの話。(作者:地霊殿の壁)(原作:ポケットモンスター)

無敵のチャンピオン・ダンデ相手に四度目の敗北の味をキメるまでの話でもある。▼一旦は一話で完結の予定。▼反響が良ければ続くかもしれない。▼26/7/4/07:00 総合日間3位.


総合評価:5999/評価:8.18/連載:3話/更新日時:2026年06月29日(月) 18:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>