なんて酷いことを言うおじさんなんだろう。シャワーズは思った。
イーブイの頃から、生まれてすぐの頃から私はこの娘と一緒だったのに。私がブルーの一番のポケモンなのに。
眼の前のおじさん、シードラのやたら大人ぶった口調も癪に障るし、あの娘に一番に相談されているのも気に入らない。話の中身なんて論外だった。
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「シャワーズ! 落ち着いて!」
シャワーズは意図的に少女の声から耳を塞いだ。
今日の作戦に納得していなかった。
ドククラゲも、ラプラスも、そしてシャワーズも。誰も敵のポケモンを倒さないようにする、だなんて。
そしてそれを最後にシードラが全部倒すだなんて。
盤面が完成したら、シードラが敵の一匹一匹に"バブルこうせん"を撃ち、反撃させずに倒す。それを全員繰り返す。
そのために、シードラ以外の全員は相手が一撃で倒れるくらいまで、体力を削るのが仕事なんて。
シャワーズは指示を嫌がっていると示すために、首と尻尾を唸らせた。
私にやらせてくれれば、私を信じてくれれば。私がブルーを勝たせてあげるのに。
「シャワーズ!」
独断専行ではあるが、直ぐさま悪い結果を齎した訳でもなかった。シャワーズはよく鍛えられており、苦手なはずの電気技を何度も耐え、そして反撃した。
先鋒のビリリダマが倒れようとしている。
ほら見てよ。私に任せてくれれば大丈夫なんだから。
「あっ、避けて! シャワーズ!」
体力の限界で、まさに倒れようという最中に、ビリリダマが何か放った。
ここまでその素早さを振りかざし、先手を取り攻撃技を打ち続けてきたビリリダマの"でんじは"だった。
予めそのように訓練されていたのだろう。そのように指示されていたのだろう。ビリリダマのマチスの麾下で、一つの集団の構成員としての働きと使命感がシャワーズを襲った。
シャワーズは、身体がしびれて動けない。
次鋒のピカチュウが繰り出された。
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霞む視界の中。あの娘の大きな瞳に、涙が浮かんでいるのが見えた。唇を結んで、零すまいと眉間に皺を寄せて、しかしこちらをじっと見つめている。
記憶の中の今よりもっと小さなあの娘が、同じように涙を浮かべた時は、シャワーズはいつだって飛びついて頬を舐めてあげたのだ。
痺れた身体に力が入らない。
前脚が持ち上がらないのだから、あの娘の元に行ってやることもできない。
ああ、だけど、良かったな。
成長したあの娘の涙を止める、新しいやり方を知っている。
目標ができたんだ。チャンピオンってやつになるんだ。
そのために、勝って進むんだ。
シャワーズが全身に残された僅かな力を振り絞って、一声鳴いた。
屋内に黒い雲がひしめき出す。
おじさん、しくじったらあんたのこと一生許さないよ。
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「アテンション!」
暗雲が立ち込めると同時に、マチスが直ぐさま大声を上げた。
「フィールドが雨状態になったヨ!
ソルジャー各員、ウェポンの命中率を再評価シテ!」
上手い言い方だった。勿論シードラも、仲間たちも事前に雨状態の影響は確認している。
しかしながら、マチスはこちらにヒントを与える言い回しを避けている。
でんきタイプの当たれば強い大技"かみなり"が、雨状況下では必中状態になることを、そのまま言葉にせず己のポケモンたちに意識させた。
本当によく訓練されている。ポケモンたちが各々十分な知識を持ち、端的な指示で十全に動く。
マチスがその立ち居振る舞いから連想させる、軍隊そのものだった。
「だがまあ、ちょっとしたズルみたいなものだ」
シードラは己が進化することを知っている。カントー地方のトレーナーはまだ誰も知らない。その姿はカントーの図鑑に登録されていない。
タッツーの頃持ち合わせていた、野の中で振るっていた特性がある。一度失い、最終進化で取り戻す予定のものだ。
「やってみたら今も出来たんだから、使わない選択肢はない」
フィールドに雨が振っている時に限って、特別に発動する特性だ。"すいすい"という。
素早さが二倍になる。
「さあ行って、シードラ!」
シードラはシャワーズの期待を裏切らない。
誰も彼も素早さ自慢の筈のマチスのポケモンが、誰一人その影を踏むことすら叶わない。
"ハイドロポンプ"をピカチュウとライチュウに当てるだけだ。
今なら簡単に出来るだろう。