「あなた達が来るのを随分長い間、楽しみにしていたわ」
事前に知っていたかのように言う。事実その通りなのだろう。彼女は人間の身でありながら、"みらいよち"を使う。
「ポケモンの言葉が解るのでしょう?
私、彼らの鳴き声は解らないけれど、何を思っているかは伝わるの」
"ねんりき"も、"テレポート"も。そして口ぶりから察するに、恐らく"トレース"もできる。
彼女と最初に出会ったなら、自分は彼女についていっただろうか。
あまり面白い想像ではないなという言葉を、キングドラは口の中に隠した。
ただ強いチームに加入したかった訳ではない。かつてと同じように、カントー地方を旅したかったのかもしれない。
そもそもタイプが合わないだろうという、この考えも眼前のエスパー少女には伝わってしまっているのだろうか。
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試合展開を追っていくうちに、ナツメの指示に無視できない偏りがあることが解ってきた。
シードラは気づいている。恐らく少女も。
そしてそれぞれ感想は異なるだろうが、仲間のポケモンたちも。
とりわけそれに気づいてから、苛立ちを隠さないのがドククラゲだった。
ドククラゲにとって、ナツメの指示はありえなかった。ポケモンを信頼していないだけではない。戦いの場に立つ仲間を、子供のように甘やかす、野生では決して許されない指示だからだ。
「ユンゲラー、回避だわ!」
ここは回避ではないな、と誰もが思った。ユンゲラーほどの素早さと力があれば、シャワーズの先手を取る事は容易い筈だ。攻撃の指示があるべきタイミングだった。結果そのためにユンゲラーがシャワーズの攻撃を受けたとしてもだ。
ユンゲラーのサイケこうせんは明白な脅威だ。いかにシャワーズの耐久が高いと言えど、彼女が放つ技を避けるために攻撃を諦めることなどありえない。
総じてナツメは、自分のポケモンが傷つくことを嫌がっている。
必要以上に。それも、バトルの流れに無視できない歪みを与えるほどに。
だがそれでも、優位に立っているのはナツメだった。
その歪みも織り込み済みなのだ。
ジムリーダーに相応しく鍛え上げられたポケモンの練度と、エスパーという強力なタイプがこちらを挫き続けている。
手を抜いているのではない、読み切っている。
そして結末がナツメの勝利ならば、なるほど確かに不要な傷など態々負う筈もない。
「ユンゲラー、ここで"サイケこうせん"よ!」
ナツメの指示と同時にユンゲラーが光線を放つ。バトル場に立つシャワーズに直撃した。
彼女は随分耐えてきた。手傷を負いながら、度々反撃もした。しかしキングドラの見立てでは、ここが限界であるように思われた。
ブルーの感触でも、ナツメの予知でもそうだった。
シャワーズの前脚から力が抜けていく。崩れ落ちようとしている。
彼女は気絶するだろう、次の手を繰り出さねばならない。
そう思った時、ナツメが己のポケモンの名を叫んだ。
「避けてユンゲラー!」
状態は気絶そのもの。恐らく視界も定かではない。
しかしその前脚には最後の力が漲っている。彼女の"みずのはどう"があのユンゲラーを打ち据える。
許せなかったのだ。賢しらに未来が見えると嘯き、自分たちの敗北を仄めかす相手のジムリーダーが。
「解ったよ。今日は全員で、これをやるんだな」
力を失ったシャワーズの身体が床を打ち据える音を聞いた。キングドラも、ドククラゲも、誰も彼もがこの日の戦い方を理解した。
敵が見た未来を、一手ずらして見せる。僅かだけでも良い、総掛かりで一歩ずつずらしてやる。
ナツメの頬を一筋の汗が伝った。
これは重なり合って、いずれ無視できない歪みになるだろう。
勝負の結果を変える程に。
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ラプラスが敵のモルフォンを打ち破った。何度もその身に攻撃を受けた末での大金星だ。
彼女自身も既に限界なのだろう、しかし立っている。
ここまでの戦いでシャワーズが倒れ、ギャラドスが倒れ、キングドラも倒れた。
そしてラプラスも、崖の縁で立っているだけだ。すぐにでも倒れるだろう。
一方で、ナツメの手持ちも最後の一匹を残すのみだった。
「ここまでね」
ナツメが言った。
最後の手持ちを繰り出した瞬間に、ラプラスは"ほろびのうた"を歌うだろう。
ナツメのポケモンが全力で先手を取り、ラプラスを打ち据えたとしても。その技だけは置いていくだろうという確信があった。未来を見るまでもない。これまでに倒れた三匹がいずれもそうだったからだ。
そして最後に残ったドククラゲが、たったの三手での突破を許すはずがない。
かつて見た未来で、ラプラスは倒れていたのだ。安全にエースが降臨し、それで終わり。だが変わってしまった。
ナツメは己の最後のポケモンがほろびのうたにより倒れる様を、想像の中に留めておくために宣言した。
「私の負け。……予測以上だったわ」
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「あら? ユンゲラーが、私たちは今のやり方で良いって」
戦闘後の緩やかな時間だった。
お互いのポケモンたちと二人のトレーナー。全員が話し合える空間だった。
「ジムリーダーの仕事はチャレンジャーの素質を見極めること。勝つことではない」
ナツメの口から語られるそれは、ユンゲラーからテレパシーで受け取っているのだろう。
「必要以上に、ワタシたちの痛みをお前が共有することはない。……もう、そんなことないのに」
たおやかな髭を撫でながら、紳士然と振る舞うポケモンが、いかにも言いそうなことだ。
このような関係もあるのだろう。