中央に活火山。他の街とは分断された島。辿り着く唯一の手段は、多種多様な水棲ポケモンがひしめく長大な水道を乗り越えるのみ。
ポケモン研究所があり、ポケモン屋敷があり、そして炎タイプのジムリーダーが待っている。
セキチクシティを発ったキングドラたちは、七番目のジムを目的にグレン島を訪れていた。ジムチャレンジを前にした小休止の時間だ。
「いろんな子と会えて、おもしろかったぁ」
道中経由した19番・20番水道で、一行は巨大な水棲ポケモンの群れと遭遇していた。
「ドククラゲ、友達がたくさんいたね!」
彼が率いていた群れだ。今はかつて右腕だったというニョロボンが率いている。ニョロボンの体もドククラゲと同じように、様々な傷跡で彩られていた。
「カントーの水タイプが勢揃いだったな。
通常の手段で出会える水ポケモンとは全て出会えたんじゃないか」
数多の水ポケモンが集った、壮観な光景だった。化石ポケモンを除いた全ての水棲ポケモンが揃っていたと思えた。
「えっ、でも。あなた以外のキングドラはいなかったよ?」
「私はまだ未発見だからな」
先日進化したばかりだった。
特別なアイテムを持たせて通信交換することで姿を変える。まだこの世界の人々はそれを知らないが、キングドラは知っていたし、野生の頃にそのアイテムを確保していた。
「そうなんだ! じゃあさ、ジムリーダーの人もびっくりするかな?」
「するんじゃないか?」
キングドラはさらりと答えた。ゲームの中の知的好奇心溢れる老人を知ってはいたが、直に会うというのに皆まで伝えるような事でもない。
「炎タイプのジムリーダーなんだ。水タイプについては当然よく研究している筈だ」
「そこにみはっけんのキングドラが登場するんだね! びっくりしそう!」
そこでふと、ブルーが口を噤む。何に思いを馳せているのだろう、大きな眼をきょとんと広げている。
「どうした?」
「あのね。
みんな海を越えてチャレンジに来るんだし、みずタイプをゲットする人、多そう」
「まあ、そうだろう」
彼女はラプラスの背に乗って水道を越えた。種族は違えど、水ポケモンの力で海を越えるトレーナーは多いだろう。そして道中もまた、魅力的な水ポケモンで溢れている。
「そしたらさ、みんなみずタイプ持ってるよね?
なんでそんな所で、ほのおタイプのジムにしたんだろ」
火山があるから、炎タイプが棲息しているから。いくつか浮かんだ言葉をキングドラは呑み込んだ。
確かに難事であると思われたからだ。
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「ほのおタイプが一番、強くてカッコイイからじゃ!」
「ちがう! みずタイプが一番!」
「そうか。であれば、ワシにとってはほのおタイプが一番。キミにとってはみずタイプが一番。
そういうことじゃろ」
「ちがう……」
カツラにはカツラの価値観がある。当たり前のことで、優劣をつけるものではない。そんなことを、キングドラは口が避けても言うつもりはなかった。
自分にとっては一番。別の人にとっては、二番か三番。そんなものは、一番ではない。
知らしめることはできるよ、できるんだ。
旅立つ前の幼い頃、彼女の傍らにイーブイしかいなかった頃。テレビの中で見たはずだ。一番強くて格好良い称号を持つ人とポケモンたちを。
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繰り出すポケモンいずれもがエース級。炎タイプの大技"だいもんじ"を振りかざし、一匹で勝負を決める力を持つ。僅かな隙を狙って"オーバーヒート"で制圧しにくるものもいる。
強い技を強く振るう。カツラの育て方がよく解る。
「"やけど状態"になったのう。知っているかな?
この状態になったポケモンは、時間と共にどんどん体力が減っていくぞ!」
ラプラスが燃えた。
何度も相手の大文字や火炎放射に耐えていた。何度も相手に同じ技を使わせたなら、確率の低い状態異常を被ることもある。
しかしラプラスは、まるで堪えていないかのように振舞う。彼女が呼び出した渦潮で敵のウインディを拘束し続ける。
シャワーズが置いていった雨雲の下でのびのびと歌う余裕すらあった。
「特別な特性なの。"うるおいボディ"っていうんだって」
雨天候下で、毎ターン状態異常を回復する。ポケモンがそれぞれ備える特性の中でも、夢特性と呼ばれる珍しいものだ。
ただでさえ個体数の少ないラプラスの、更に希少なそれは、カツラの知識にない。
表皮が一瞬煌めいて、ラプラスに取りついた炎が掻き消えた。
効果が途切れた雨雲を再度シャワーズが集めてから、再びブルーの手元に戻る。カツラは交代のタイミングに合わせて、後続に大文字を放った。
「悪いが次は私でね」
キングドラが現れる。
直撃した筈の大文字は目立った効果を残さず、余波が寂しげに散った。
「シードラか? いや、別のポケモンじゃな……?」
カツラの困惑も致し方あるまい。
水とドラゴンの複合タイプは、どちらも炎技が半減の"かなりいまひとつ"。威力を四分の一に抑えてくる複合タイプとは、初めて会うだろう。
そして雨の中のキングドラに、追いつけるものなどいない。
これで終わり。
「だがワシの愛は! 消火できんぞ!」
倒れ際のセリフもダジャレのようで、カツラの性格が表れていた。
負けても愛が残るなんて、いかにも老人が言いそうなことだ。
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やがて革命の世代が来る。ブルーと同じ、マサラタウン出身の二人の挑戦者が、目まぐるしい交代劇を演じにやってくる。
その時彼女はあの場所に立っているだろうか。その後も立っているだろうか。
もしも万が一、退いた時。カツラの言葉を思い出せるだろうか。
きっと思い出すだろうと、キングドラは思った。そしてその時も、自分は傍にいるだろう。
オブ・ザ・キングドラ 完
このSSのことジジイの説教って呼んでました
最後まで読んでくれた人ありがとう