オブ・ザ・キングドラ 作:スパボンがswitchで遊べる
優れた特殊防御とヒットポイント、そして試合展開を緩慢にする麻痺、眠りの状態異常。
伸びきった時間の中で、相対的に充填時間を減らし連発されるソーラービーム。
こうした待ちの戦いを得意とする草タイプにとって、戦術の根幹に位置するのがやどりぎのタネである。
毎ターン相手のHPを八分の一ずつ奪うこの優秀なわざを、正に狙い撃ちする特性があるのだが。多くの草使いはそれを記憶の彼方に追いやっている。
「そんな……っ。まさか、ヘドロえきですか!?」
エリカの驚愕は狙って引き出されたものだ。
相手にダメージを与え、自分は回復するHP吸収技の、回復分のHPを逆に奪ってしまう特性。やどりぎのタネにとっては正しく鬼門である。
しかし、通常やどりぎのタネを据えた戦術で想定するのは、それを含めた補助技を封じるちょうはつ、そして効果がない同じ草タイプと、みがわりだけ。
本来最も警戒すべきヘドロえきが一切考慮されないのは、その特性の持ち主がメノクラゲ、そしてドククラゲのみだからだ。それは二匹のタイプに起因する。
水と毒のタイプを併せ持つ。
これらがカントーで草タイプを相手取る試合など、誰も想定しないだろう。
カントーの多くの草ポケモンは、毒タイプを併せ持つことがほとんどだ。カントーの草タイプは草毒タイプであると言い切っても良い。
草タイプが水タイプにとって相性が悪いのは子供でも知っている。それでもかち合ってしまう時は、サブタイプの技で押し切るのが一般的なのだが、毒に毒は効かない。
つまりドククラゲは、草タイプを相手にした場合、ほぼ確実に手詰まりとなってしまうのだ。やどりぎのタネがどうこうの次元ではない。
だからこそ、草タイプ使いはやどりぎのタネについて熟考する際、一度はヘドロえきの存在に触れ、そして実戦をこなす内に忘れていく。
本来回復するはずの技でHPを減らし、苦しむ己のラフレシアに目を向けながら、同様にやどりぎのタネを植えつけられたことで苦しむドククラゲの鳴き声に思考をかき乱されながら、エリカは慌しく次の指示を出す。
その指示は幼いころから研鑽を重ね、草タイプのジムリーダーに就いてからも日々磨いてきた経験による条件反射そのものだった。
ジムリーダーの経験による条件反射。その指示が相当の錬度を持つ戦法から吐き出されたものであることに疑いはない。エリカははしたなくも唇を舐め、崩された精神の安定を取り戻さんとする。だがそれは適わないのだ。
エリカが己の経験から弾き出したと自己判断したその指示は、水タイプ三匹で草ジムに挑むという、本物の想定外を相手取る場合においては、正しく悪手だった。
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「私たちポケモンはトレーナーに攻撃できない。ポケモンバトルの基本的なルールだ」
当たり前のことを言った自分に、素直に頷き返すトレーナーに気を良くしながら、シードラは続けた。
「だがこの言葉は正しくない。正確には、トレーナーにポケモンわざを繰り出せない、だ」
「どう違うの?」
「私はお前に常々、相手の言葉に惑わされるな、と言っていたよな?」
「うん、バトルに勝つためには冷静な心が必要なんだよね。何を言われても焦っちゃいけないし、怒りで前が見えなくなるのはサイアクだって」
「そうだな。これはトレーナーとしては常識だ。
大抵のトレーナーはクラッシュトークを想定しているし、ほとんど初見の野良バトルで急所やトラウマを抉るような凄まじい言葉が飛ぶこともない。
だが、どんなトレーナーもバトル中に全く動揺しないかというと、そんなことはない」
「私もきっと、シードラが一撃で倒されちゃったりしたら、頭の中が真っ白になると思う。そうしたら後はずるずるだね。
まだまだ精進が足りませんっ」
「そうだ。ポケモンの攻撃で、トレーナーは容易に精神を乱される。これは禁止されていないよな?」
「そうだね……。当たり前だったけど、そういう言い方もアリかな」
「自分のポケモンが一撃で倒される。動揺するよな?
相手のポケモンと、相手のトレーナー両方にダメージを与える。二重の意味で攻撃技だ」
「攻撃技? えっと、対になるのは補助技だけど……。
トレーナーはねむりごなで眠ったりしないよ」
「夜中の三時に突然バトルを挑まれて、相手のポケモンがさぞ気持ちよさそうな"あくび"をしたらどうだ」
「あ、それは、うん。かなり眠気がクるね」
「そうだ。やりようはいくらでもある。相手のトレーナーに、ルールを破らず補助技を仕掛けることは確かにできるんだ。クラッシュトークはバトルのルールによって無効化されたのではなく、広く知れ渡って対策が練られすぎたに過ぎない。
だから服を着ろ、水着のおじょうさん。
そしてジムリーダーを"こんらん状態"にしてやれ」