オブ・ザ・キングドラ 作:スパボンがswitchで遊べる
マサラタウンの南、21番水道と接続する水辺に打ち上げられているポケモンがいた。
「あっ、大変! 早く海に帰さなきゃ」
駆け寄っていく少女を眺めつつ、嘆息する。つくづく自然で生き残る事に不適な姿をしている。これほど力がなく、よく目立つ赤い鱗のポケモンが、いかにして無慈悲な自然の中で生きていけるのか。いいやきっと生きていけないのだろう。
ビチビチと尾を振って、不幸にも打ち上げらた浜で息絶えるだけだ。彼にはそれ以外何もない。
「かわいそう。私が戻してあげるからね」
可哀想ではない。それが彼の生態というだけだ。
そのように生まれたポケモンだ。原祖たる彼女から遺伝子を振り分けられながら、その物たちの中で、最も不遇で、最も得られなかった物。
そうやって懸命に尾を打っても、浜に打ち上げられた体が海に戻ることはない。十分な推進力をその体は生み出せない。そのように出来ている。
「ほらっ、海だよ。息をして。
大丈夫、大丈夫だからね……」
そのポケモンは手ずから海に戻され、しかしその力なき尾で変わらず海を撃った。
僅かに海は波打って、そして21番水道の大きなうねりに打ち返された。
彼は再び浜に打ち上げられていた。
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「あっ、また……」
「そうだな、そのポケモンはそういう定めなんだ。弱く惨めで、そのまま終える」
「そんな言い方ってないよ、シードラ。かわいそう……」
可哀想、その通り。言い方は悪いだろうが事実だ。
「そういうポケモンなんだ。彼の血や肉は他の水棲ポケモンたちの力となる。
微かで細い希望を掴んだ、限られた一握りだけが、世界に反逆する。そういうポケモンなんだよ」
私は再び打ち上げられた彼を睥睨した。カントー地方のどの町でも見かける、ありふれた光景なのだ。彼を睨めつける私ですら珍しい。普通に生まれて、普通に育って彼女のように感じることはない。どこにでもいて、傍目に忘れられる景色の一つなのだから。
「諦めて、忘れるのが良い。君の旅路には必要ないだろう。
自然の摂理だと、納得するべきだ」
この子の感性には感じ入る事が多くあるが、この感情は不要だろう。彼を手持ちに入れて潤沢に育ったとして、ガラル地方でもなければ強くは振る舞えない。そして彼が長じたとしても、素質が揃うことはあるまい。
「でもね……でも、聞いて」
打ち上げられたコイキングを見て、彼女が言った。
「何だろうか?」
ただ浜辺で、はねている。無力な非捕食者が。
「あの子……すごく、怒っているよ」
己の姿に。己の生まれに。己の運命に。
激しく振れる尾が砂を叩いた。
私の頬に細かな粒が当たった。
−−−
「さて、厄介なシャワーズを倒したぞ!
二の手は用意できているかな?」
先鋒のシャワーズが、敵が繰り出す搦手の数々を打ち破った。回避率を上げるちいさくなるで戦いを遅らせ、毒の状態異常を何度も打ち抜き、しかしシャワーズの優れた特殊耐久と回復技がそれらを跳ね除けた。
十分以上の働きだったが、やがて力尽きる時がくる。
良い働きだ。そうして敵の手管を削り、選択肢を狭め、眼前の百戦錬磨のジムリーダーは追い詰められている。
「後は繰り出す順番を間違うなよ。
それだけで君は勝てるだろう」
「うーん……何となくわかるけど。
でもこっちの方が良くないかな?」
彼女の結論は、試合の推移に半ば興味を失っていた私とは異なるものだった。
シャワーズの犠牲を数値として捉え、敵の残った手持ちを見据え、私たちが勝ちうる処理と数値。私の冷たい計算。
しかし私は彼女が、試合中の私の助言に異を唱えたことに驚いたし、嬉しくもなった。
「聞こう。次をどうする?」
「えっとね、あの子が、怒ってるの」
怒っている? 何故。
彼のボールが震えていた。尾を振るっているのだろう。
「そうか」
仲間を傷つけられて。
怒っているのだ。
「ああ、それは」
この世で最も、強い感情だ。