一年という時間で最高の座に就こうと考えた。リーグを超えてチャンピオンに。
当代のチャンピオンはワタルで、ドラゴンタイプの使い手だ。
「今年どこまで行くつもりだ?」
「どこまでって?」
「ジムチャレンジと、チャンピオンリーグについて」
「うーん……」
通常一年でこなすものではないのだろう。常識が邪魔をしている、そういう反応だった。
しかし私はそうして欲しくなかった。これは私の我儘だろう。
ジムチャレンジに何年もかけるなど、ゲームではない。
「最寄りのトキワジムはリーグへの門番でもある。今叩いても開いてもらえないだろう。
一つ先のニビジムが初手になるだろうが」
岩タイプ専門のジムリーダーだ。マサラタウン出身のトレーナーにとって初めてのチャレンジであり、タイプ相性と種族毎の得手不得手を押し付けてくる。
「ニビジムはきっと大丈夫! タイプ相性も良いって聞くし!」
不安を感じない明るい顔だった。私もそう思っている。
「そうだろう。私でも、シャワーズでも、ドククラゲでも良い。
"みずでっぽう"で蹂躙できる筈だ」
事実その通りで、ニビシティジムリーダーが繰り出す岩タイプは物理耐久こそ高いが、特殊耐久はいまいちだ。水タイプの入門技、みずでっぽうは特殊技だ。
相手の苦手なタイプで、相手の不得意な攻撃方法ならそのジムチャレンジに苦戦などありえはすまい。
「ならばこそだ。準備をしようか」
「準備?」
彼女は聞き返しがてら、愛用の水筒と鍔広帽を私に掲げて見せた。その愛らしさに空気が綻ぶ。
別名ブリムハットとも呼ぶのだったか。モチーフにしたと思しきポケモンたちはこの地方にはいない。
「旅の準備は勿論。その帽子はよく似合っている」
「そうだよね? かわいいよね!」
「ああ。しかし準備とはバトルの準備のことだ」
「えっと、どんな事をするの?」
「トレーナーの役割について。そしてイワークというポケモンの厄介さについてだ」
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岩タイプと地面タイプを併せ持つポケモンで、防御が高く、攻撃は弱い。そして意外と素早い。
「あととても大きい」
「テレビで見たことあるよ! おおきいよね」
「陳腐な例えだが、全長は三階建の建物と同じだよ」
「えっ。そんなに大きいの?」
「ああ、大きい」
的が大きい訳でもあるから、決して相手方にばかり有利な訳では無い。そしてまた、タイプの関係も我々にばかり有利でもないのだ。
「岩、地面というタイプは珍しくない組み合わせだ。タケシのもう一体の手持ちもそうだしな。
しかしイワークの場合はなかなか厄介なことになる」
「イワークだけなの? どうして?」
「岩タイプの技は上から落ちてくるものが多く、地面タイプの技は下から波及してくるものが多いんだ」
一度言葉を区切った。少女の脳裏にその光景が浮かぶのを待った。
「ええと、イワークって三階建てなんだよね。じゃあ岩技は三階の屋根から降ってくるってこと?」
「そうだ。そして地面技は一階の床から飛んでくる」
「じゃあさ、じゃあ……どっちが来るか運試しってこと!?」
「いいや、両方避ける」
さあ、一年でチャンピオンになろう。私たちで。
「君が両方見るんだよ。
一歩下がって、私たちの後ろから」
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「"来る"!」
少女の声に合わせて、ドククラゲが横に滑るように回避行動を取る。一瞬遅れて、イワークの岩で組まれた身体からこぼれ落ちた"いわなだれ"が、ドククラゲのいた場所に振り注いだ。
「"よけて"!」
ドククラゲが後ろに飛び退くように回避行動を取る。続いて、イワークが尾で叩いた地面から"どろかけ"が、誰もいない場所を打ち据えた。
攻撃技の指示は聞こえない。出合い頭に、相打ち上等の至近距離で打ち込んだ"どくづき"が、時間によってイワークの体力を奪っていくからだ。
「もしやと思ったが……。こちらの繰り出す技にあわせて掛け声を変えているな!」
「あっ、ばれちゃった!」
「ははは、俺はジムリーダー! 君の実力を確かめるのも仕事だ!
だか、まだ何かあるようだな」
確かにドククラゲは、その巨体からは信じられないほどの回避を成功させていた。しかし全て上手く行った訳では無い。少なからず体力を削られてもいる。
「本当によく耐える!
せめて"どろかけ"が一度でも当たっていれば!」
事前に取り決めた優先順位があった。
二系統の技を同じように避けている訳ではなかった。岩と地面のうち、ドククラゲにとって地面技はタイプ相性が悪い。地面技をその身に受けることは、決着までの時間を悪い意味で早める。
そういう意識を、予め深く共有していた。
後ろから「来る」と聞こえた時、実のところドククラゲには自由が与えられていたのだ。自分の判断で、避けたくなければ避けなくても良いと伝えられていた。
ドククラゲが動くたび、彼の体皮がスポットライトに反射する。きらきらと煌めくそこには、大小様々な傷跡があった。古いものから、新しいものまで。
「カントー最大規模の水棲ポケモンの群れの主だぞ。
その地位に就くために、そしてその地位を守るために何千勝したのやら」
ボールの中でシードラは呟いた。そんなポケモンが、少女の指示と言葉に価値を感じていることが嬉しかった。