オブ・ザ・キングドラ   作:LAC

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ラプラス

「勝手にさせれば渋い木の実ばかり食べるから、食事は満遍なく食べさせて欲しい?

 うん、はい、はい……わかっ、わかりました……」

 今日出会ったばかりのポケモンに対して、まるでくたびれた大人のように相槌を打つ彼女を傍目に、私は自分の食事を続けていた。

「週に一度は辛い木の実を出す? んですか?

 好き嫌いのない子に育ってほしい、なるほど……」

 知識として、ポケモンがそれぞれの性格によって好みの味があることを知ってはいた。

 それが矯正できるものかどうかは知らなかった。ゲームでは一律に適用されていたシステムだったからだ。

「夕方の五時を過ぎたら歌は禁止、と。

 そうだよね、流石にそれはめいわくだよね……」

 一行の目の前には川があり、浮かぶ二匹のポケモンがいた。二匹は母親と娘で、口煩く話を続けているのが母親。娘は黙って俯いている。

 しかし話の内容に強く不満を持っていることは所作の節々から伝わった。きっと毎日渋い木の実を食べたいし、一度だって辛い木の実は食べたくないし、夕方五時を過ぎても毎晩気の向くまま歌いたいのだろう。

 希少なラプラスの加入という降って湧いた幸運の筈だった。

 しかし眼前の光景は、まるで一人暮らしを前にして煩く言う母親と干渉を嫌う娘のようだった。

 

---

 

「古今東西、子に親離れを期待する親の心境は変わらないよ。

 一人前になって欲しい、立派になって欲しい……」

「私も! チャンピオンになるって言ってバイバイしたよ!」

「チャンピオン、いいね。立派だ」

 私たちが話す傍らに、不貞腐れたラプラスがいた。

「いっとう立派なトレーナーだな。

 では立派なポケモンとは何だろう」

 シャワーズが美しさと答えた。

 ドククラゲが強さと答えた。

 ラプラスは黙っていた。

「私たちはチャンピオンになるよ、ラプラス」

 ラプラスを除く全員が共有している意識だった。彼女はまだ知らない称号だろう。だがそれで良い。

「希少な種族に生まれたことを誇って暮らすのは、一人前ではない。

 強い仲間が居ることを誇って振る舞うのも、一人前ではない」

「そうなの? すごいって思っちゃう」

「確かに凄いことだ。しかし拠り所にはならないよ」

 この言葉はラプラスに届いているだろうか。私には解らなかった。

「野生のポケモンにとって一人前とは、生き延びること。

 親元を離れ、一人で生き延びて、その生命を繋ぐこと」

 そうあって欲しくば、彼女はどこかの海辺に一匹放り出されていただろう。きっと彼女の母はそうしたくなかった。

 かつてラプラスを何度も見たのだ。この手に握った小さな画面で。

 誰もが一様に優しかった。

 

---

 

 多種多様な種族の中でも際立って高い素早さから先手を取る。

 幅広いタイプの技を打ち分けて弱点をつく。

 わかり易く強い。

「まさかここまで全員水タイプとはね。私に憧れちゃったのかしら?

 君、素質あるわよ!」

 相手が操るのは鍛え上げられたスターミー。高い素早さと特攻が特徴的で、水とエスパーを併せ持つ。カントー地方に於いて特別に強いタイプがいくつかあるが、エスパーもその一つだ。

 かのポケモンが繰り出す"サイケこうせん"は格別に強力で、長い試合が得意な私たちのいずれも、耐え続けることは難しいだろう。

 しかし逆に言えば、その一点のみだった。

 私たちがこの試合に勝利するための障害は、このスターミーだけだったのだ。

「まだ、大丈夫!

 ラプラスはそんなのじゃ倒れないよ!」

 野生で生き延びるのなら、僅かな傷も負ってはいけない。

 かつてこのゲームの世界に生まれ落ちた時、私が自身に戒めた言葉の一つだ。

 些細な傷でも気軽に治す手段なんてない。外界から完全に切離された場所もない、完全に安心して養生できる場所もない。

 己ただ一匹を守るために、自分以外の全てを犠牲にする覚悟を持たねばならない。

 ラプラスの母はこれを、娘に教えたくなかったのだ。

 生まれつき高い能力を持ちながらも、その気性故に争いを避けるあまり、大きく数を減らした種族でありながら。

「あっ、時間だ」

 白熱するバトルの中で、私たちの少女がそう零した。

 時間帯は合わせた上でジムチャレンジに臨んだが、こうもピタリと嵌るタイミングでくるものなのか。

 スターミーの繰り出す技はどれも強かった。いかに高い耐久力を誇るラプラスとはいえ、受けるのは後二回が限界だ。三回目は無理だろう。

「……さあ、ラプラス! いこう!

 あなたはあなただよ!」

 ジムの壁に掛けられた時計の針が、十七時を指していた。

 私はこの瞬間をこそ、彼女の母親に見て欲しかったのだろうか。

 ラプラスは今から、あなたの言いつけを破って歌う。

 のびのびと晴れやかな声で。遠くまで届くように。

 ラプラスは今から瀕死になる。

 後を仲間が引き継いでくれると信じて。無防備な身体を晒す不安を打ち捨てて。

「さあ、おもいっきり歌おう!

 "ほろびのうた"!」

 その歌を聞いたものは三ターン後に倒れる。相手も、自分も。

 ラプラスが息を吸い込んだ。

 




こいつは害悪
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