「チャンピオンリーグの門番。トキワジムのサカキは完璧なトレーナーだ。
その高い育成力が高練度高耐久の手持ちを揃えているし、高い統率力でそれらを一部の隙もなく統制している」
ここが大一番であることに間違いはなかった。キングドラは普段以上に言葉を選び、少女の反応を確認しながら続けた。
「数あるポケモン技の中でも、彼が得意とする"じしん"は最高の攻撃技のひとつだよ。無警戒で挑んでは返り討ちにあう」
「じめんわざなんだよね? ギャラドスなら飛んでるから大丈夫!」
「ああそうだ、だからこそサカキも、何が何でもギャラドスは刈りに来るだろう。
本当に優れたトレーナーなんだ。こちらがここだと思ったタイミングも、当然のように読んでくる。
そこに岩技を合わせてきたら苦しい」
「なら、どうしよう。一番最初に出すとか?」
「それでは読み以前の問題になってしまう。こちらの初手がギャラドスなら、という点は当然考慮して初手を決めているはずだ。
準備の段階で対策されていると考えてよい」
「そのさ」
ふと少女の声色が変わったのを感じた。普段の口調に僅かながら含まれる、迷いや気弱さといったものが無くなっていた。
「ギャラドスを出すタイミングは、決めないで挑もうよ。
私がバトル中にずっと相手を見て、悩んで、考えるから」
硬質な声だった。何度か聞いたことがある。キングドラはその感情を知っていた。
自信だ。
「それでね、そうしたらサカキさんはそれを読んで合わせてくるんでしょ。
だから……」
キングドラが決めてよ。
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「水タイプ統一とは、なかなか意気が込んでいる」
対面したサカキの第一声だった。ジムトレーナー達との対戦を見ていたぞ、という圧力でもあった。
対策されているかも、と感じて指揮が狂うトレーナーは少なくない。そしてサカキは、そんな半人前にジムバッジをくれてやるつもりもない。
その上でもうひと言、付け加えねばならなかった。少女に特別な才能があったからだ。
「いずれもよく育っている。信頼関係も築けている。
そして君は、ポケモンの言葉が解っているな」
「えっ、はい。なんで……?」
「戦闘後のラプラスの鳴き声を聞いて、頭に伸ばしていた手を引いて尻尾から撫でたろう」
サカキが言った。
「ポケモンの反応を見てそれを撫でること、あるいは撫でるのをやめることは一流なら当然できる。しかし細かい要求を汲み取ることは難しい。
あり得ないと思ったが、一度そう疑って見ていたらそうとしか思えなかった」
「そうなんだ……。はい、そうです」
「そうか。いい才能だ。大事にするんだな。
だが!」
そこでサカキは振る舞いを変えた。完璧な先達、完璧な大人としてのジムリーダーから、全身に満ちた彼の思想が滲み出る、何者かたちの指導者へ。
「何を避け、何を疎み、何に臆するかは振る舞いから伝わるものだ。
言葉は必ずしも必要ではない」
八番目のジムバトルが始まった。
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先鋒のドククラゲ、次手のラプラスが既に倒れていた。
ドククラゲはその上位者としての振舞いの余韻を、ラプラスは力を振るう際の微かな躊躇いを。
どちらも油断とも言えない、僅かな時間の繋ぎ目を突かれた。
そうして彼の切り札たるサイドンの前には、今キングドラが立っている。
キングドラたちの次の手について話そう。
サカキの経験上、指示を無視して勝手に暴れるポケモンはいくらでもいた。
ただし、そうしたポケモンの振る舞いは当然、トレーナーの低い力量に起因する。サカキの見立てでは、少女はその域を脱していた。
だからこそ、サカキは対戦相手の視線を追っていた。何を警戒しているのか、何を予想して対応するつもりか。つまりこちらの次の手を、どこまで想像できているか。
こうしてトレーナーの力量を見抜き、サカキはそのスキルに合わせた指示を出す。
しかしサカキは、同じようにキングドラの視線も追うべきだった。自分と同じ視座の戦術眼を持つ相手は、眼前の少女ではなかった。
ハイドロポンプとメガトンパンチを透かし合った直後のこと。
キングドラが鳴いた。
サイドンは敵の威嚇に身構えた。
サカキは敵の攻め気を感じ、返り討ちを目論んだ。
キングドラの言葉を理解したのは、少女一人だった。
サカキとサイドンが気づいたのは、事が済んだ後。
「わかった! ここで交代だね、キングドラ!」
キングドラは「威嚇だ」と吠えただけだ。
そこに特別な技や特性の効果は含まれていない。野性のポケモンが度々やる仕草でしかない。
サイドンは目の前のポケモンが自分を威嚇したと感じた。
サカキはサイドンがそう受け取ったことを読み取った。
しかしキングドラと少女にとって、威嚇とは彼のことだ。
ボールの中からギャラドスが飛び出した。
その濁流が全てを飲み込んだ。
ジムリ全員書くことにした