IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第一幕 HEART BEAT act.Final

 

 

 

―横浜湾内

 

 

二階建てのクルーザーに乗り込んだ今ガチメンバーたち...番組サイドがわざわざチャーターしてきたと聞いて乗船と共に周囲を見回すと「すっげー!!」と男性陣は大いに盛り上がりを見せていた。

 

 

 

「スピーカーも派手なの付いてるし、それにあのデカいモニター...!むちゃくちゃすげえな!!」

 

 

 

 

 

「ここならライブも開けそうだ」

 

 

 

 

 

「ケンゴくんの生演奏、ここで聴いてみたいなぁー」

 

 

 

 

 

一階でノブユキとケンゴ、ゆきが盛り上がりに盛り上がる中...二階に上っていたアクアとあかね。あかねの方が飛んでいるカモメを指差しながらもアクアの袖をクイクイと引っ張っていた。

 

 

 

 

 

「ねえ、ねえ!アクア!カモメさんだよー、餌投げたら食べてくれるかなー?」

 

 

 

 

 

「...かもな」

 

 

 

 

 

そうやり取りしている間に出航するクルーザー。しかし、辺りを見回していたMEMちょがあることに気づいて一階にも二階にも伝わるように「みんなー!」と焦ったような口調で声を上げた。

 

 

 

 

 

「ハジめん、この船に乗ってないよっー!」

 

 

 

 

 

「いいじゃん、別にさ。アイツ抜きでも」

 

 

 

 

 

「ノブくん、それは言い過ぎだよ」

 

 

 

 

 

「皆、最後に見たの何時だ...?」

 

 

 

 

 

少しざわつく一同...そんな中で有馬かな一人だけ脳裏にある光景が浮かんだ。水族館の裏手から謎のスタッフと共に抜け出した彼の姿だ。

 

 

 

「(アイツ...なんか企んでるわね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして 

 

横浜 ベリッシモ所有の港

 

ジムカーナが行われる会場になるが、パッと見は港の荷卸などをしているようにしか見えない。普通にフォークリフトで荷物を運んだり、荷卸しをしたりしているような状況だ。

 

そんな会場で位置についたスタッフ達が無線で最終の安全確認を開始した。

 

 

 

 

 

「―ポジション1、クリア。問題なし」

 

 

 

 

 

「―ポジション2、異常なし。いつでも行けるぞ」

 

 

 

 

 

「―ポジション3、異常なし。

 

"白鳥"を確認した、予定通りの時刻で行う」

 

 

 

 

 

「―了解、接岸確認次第連絡と共に退避するように...あとは主役に任せよう」

 

 

 

 

 

無線のやり取りを聞いていたハジメ...真っ暗な中でGRヤリスの車内で精神統一するように瞳を閉じたままスゥー...と深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

一方、今ガチ一行を乗せたクルーザーは港に接近するや否やいきなり停船。妙な場所に停まったと全員があたふたしている。

 

 

 

 

「なんでこんな場所に停めた?」

 

 

 

 

 

「さあ...エンジン壊れた、とか?」

 

 

 

 

 

「そんな古い船には見えないけど...」

 

 

 

 

 

そうやり取りをしている間に確認をしていたスタッフが退避を完了。それと共に無線でハジメにこう伝えた。

 

 

 

 

 

「―退避完了。いいぞ、主役。"撃鉄を起こせ"」

 

 

 

 

 

その言葉と共に流れてきたのはあかねとの思い出達....

一緒に体験稽古に付き合って貰ったことからサーキットに行ったこと、バーベーキューを楽しんだこと...それから、あの雨の日に彼女を救えなかったこと。

 

良いことも悪いことも...全て一瞬のうちに頭の中に過ってきた。そして、最後に見えたのは彼女を救いながらも何かしら企んでいるであろう星野アクアの背中。

 

...今度こそ彼女を守り切る、利用させてたまるか。

 

その決意が固まると共に閉じていた瞳を一気に開いた。

 

 

 

 

 

「COPY.」

 

 

 

 

 

無線で伝えながらもプッシュボタンを押してエンジン始動....

 

ヴゥァァゥンッ!ヴァゥゥゥンッッ!!と飢えた猛獣の咆哮のようなエキゾーストと共にスタートしたエンジン。

 

 

ついに戦いのゴングが鳴り響いた―

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

―少しして

 

 

動き出さないクルーザーに痺れを切らしそうなノブユキ...MEMちょも「地響きみたいなのがした気がする!」と騒いでいる。それに対し、アクアはどこか胸騒ぎがするような感覚に見舞われていた。

 

 

 

 

 

「(何か違和感がある...)」

 

 

 

 

 

辺りの光景を眺めるアクア。

 

まずは前を見てみる...パッと見は何処にでもあるような港湾施設だ。

 

現場監督のような者が資材の運搬の監督をしていて、フォークリフトが行き交いしている。大きなシャッターがいくつもあり、中は見えない状態...何故見えない?運搬しているのなら開いていた方が作業性は良さそうだが。

そして、左側の片隅に後ろを見せるようにして停められたトラック...荷台の箱からしてかなり大きな荷物が積まれてそうだが、あれはなんだ?

その逆側...右の方には廂のようなものがあり、その下で作業員がタバコを吹かしたりして立ちながらも休憩している。だが、怪しいのが冷蔵庫があることだ...何故屋外なのに冷蔵庫が?

 

よく見れば見るほど怪しい点が多い。

 

そして、怪しいのは前だけでない。

自分たちが乗っているクルーザーの艦首側を見ると停泊している一隻の背が低めの中型クラスの輸送船が...単に荷物を運ぶだけの輸送船にしてはコンテナが固められずに散らばるようにして配置されている。

 

 

 

 

 

「(何だ?見れば見るほど怪しい、ただ...一つだけ言えるのはスタッフが意図的にここにクルーザーを停泊させたということだ)」

 

 

 

 

 

色々と思考を巡らせているとあかねが誰かを演じるように不安そうな表情を見せながらも顔を覗き込むようにした。

 

 

 

 

 

「アクアー、船全然動かないね...大丈夫かな?」

 

 

 

 

 

そう聞いた時に急にクルーザーに搭載されていたスピーカーがビリビリ!と通電を始めた。急なことに全員が驚きながらもモニターを確認する...そこにはある文字が記されていた。

 

 

"Bellissimo GYMKHANA for YOKOHAMA Habaor"

 

 

"PRESENTED BY Bellissimo and R/T KATAGIRI"

 

 

"Driver HAJIME IGARASHI"

 

 

 

ついにハジメ会心のジムカーナが開演された―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

―ジムカーナ、映像

 

 

冒頭はドラマパートから始まる。

 

 

鋭利なガラスの破片のようなエレキギターのイントロと共に真っ暗な部屋に入ってきた一人の男。ブレザー姿でスマホを手に取り、SNSを開いてエゴサーチする男...内容は男に対する批判的なものばかりだ。

 

 

"アイツ、ただの芸人でしょ?"

 

 

"芸人が笑い取れなくてどうするんだよ"

 

 

"居る意味あんの?"

 

 

"最近ほとんど出番ないし、番組降りた方がいいんじゃない?"

 

 

そんな投稿を確認すると共にBGMで流れていた曲に女性ボーカルの声で歌詞が追加された。

 

 

 

 

 

Shout to all my lost boys

Sh-sh-shout to all my lost boys

We rowdy

 

(迷子の息子たちよ、叫べ!叫べ!叫べ!

全ての迷子たちよ、乱暴に叫べ!!)

 

 

Shout to all my lost boys

Sh-sh-sh-sh-sh-shout to all my lost boys

We rowdy

 

(迷子の息子たちよ、叫べ!叫べ!叫べ!!

全ての迷子たちよ、乱暴に叫べ!!)

 

 

 

 

何度も同じ歌詞が繰り返される中でスマホを後ろに投げ捨てる男。男はブレザーから赤いレーシングスーツに着替え、黄色のフルフェイスヘルメットを被るとある1台の白い車に乗り込んだ。それと共に表示される文字。

 

 

"MACHINE TOYOTA GR YARIS"

 

 

"ENGINE 2JZ−GTE"

 

 

"MAX TORQUE 130.8kgf MAX POWER 1018.1PS"

 

 

シートに座って座って四点式のシートベルトを締める男...バイザー下ろし、真っ赤なプッシュボタンスイッチを押すと曲がピタリと停まると共に映像が真っ暗になった。

 

 

そして、その数秒後....

 

 

曲のあるフレーズと共に時が動き始める。

 

 

 

"Bangarang! (騒げ!)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―ベリッシモ所有の港

 

 

空気を激しく裂くような曲のシャウトと共に左側奥のトラックの荷台の箱をバンッ!!と突き破って飛び出す白いベリッシモのGRヤリス。

いきなりのことに驚く今ガチメンバー...

VARIS製のKAMIKAZE STREETの名を持つド派手なエアロを装着した1000馬力の猛獣を自動追尾ドローンが追尾。後ろから撮影開始すると、早くも横向きに車体を向けてドリフト態勢に...右に軽く振ってフェイントモーションを掛けてから左に一気に振って滑らせた。

 

 

ヴァァゥッン!!ヴァァッ!ヴァッヴァッヴァッッ!!と暴れる猛獣の咆哮...いや、銃撃にも聞こえるような音を轟かせながらも狙うは今ガチメンバーが乗るクルーザー。ギリギリのラインを通そうとステア操作とアクセルワークに全神経を集中させる...

 

 

モクモクとタイヤスモークを上げながらも横滑りして接近してくる猛獣にノブユキはその勢いから思わず顔を青褪めさせた。

 

 

 

 

 

「お、おい...!ぶつかるんじゃ...!!」

 

 

 

 

 

「馬鹿、そんなわけ...」

 

 

 

 

 

そう言っている間に猛獣がキィィィ!!とスキール音を上げながらもドリフトのまま自分たちの前を通過してくる...

 

海上に停泊しているクルーザーに対し、"手を伸ばせば届く距離"のラインを通してきた。モクモクと上がるタイヤスモークを浴びているその時、その場にいる全員がある感覚に陥った。時がゆっくり流れるような感覚だ...その時こそヒヤッとしたが、何事もなかったかのように通過して走るその姿に今ガチメンバーも火がついた。

 

 

 

 

 

「す、すっげー...!?車ってあんな動きすんのか!!?」

 

 

 

 

 

「ぎ、ギリギリ過ぎだろ...寿命縮んだかも...!」

 

 

 

 

 

「あ、あれ、本当に乗ってるの五十嵐くん...!?」

 

 

 

 

 

「す、スマホ!スマホ!!これはバズる予感!!」

 

 

 

 

 

ノブユキとケンゴ、ゆき、MEMちょが興奮してあたふたと動く...が、他の三人は違う見方をしていた。

 

 

 

 

 

「(やっぱり...何か考えてるとは思ってたけど、そういうことだったのね。やるじゃない、アイツ)」

 

 

 

 

 

手摺に凭れるようにしながらもそう思っては何処か楽しげな表情を浮かべる有馬かな。

一方、クルーザーの二階で見ていたあかねは彼の心境を読み取った。

今まで隠していた本気の自分を解き放ち、アピールしようとしている...

その姿は今、"アイ"の演技をしている自分と何処か重なっているようにも見えた。

 

 

 

 

 

「(五十嵐さん....)」

 

 

 

 

 

固唾を呑んで見守るようにしているあかね。その隣でアクアはやや眉間にシワを寄せながらも心の中でこう呟いた。

 

 

 

 

 

「(....焦げくさっ。こんなのの何がいいのやら)」

 

 

 

 

 

 

一方、猛獣は次の獲物に目をつけたのは徐行で荷物を運んでいるフォークリフトだ。

 

それを中心に円描きドリフトを開始...

徐行で動いているのに合わせてイン側のラインを少しずつズラすようにして対応。

その間にモニターに映し出されるはフォークリフト視点での猛獣の動きだ。360°カメラがヴァァッ!ヴァッ!ヴァァッ!!咆えるようなエキゾーストを響かせる猛獣の動きに追従するように動き、その姿を捉える...

 

 

1周、2周、3周....5周を終えたところでフォークリフトから離れて次の獲物を探し始める。

 

次の獲物は廂の下の冷蔵庫だ...作業員がドアを開けっ放しにしている。

 

左車体を振るようにして冷蔵庫に向けてドリフト態勢に入る猛獣...そのまま車体のリアを冷蔵庫のドアに当てて締めた。

 

 

 

 

 

「い、いい、今っ!車で冷蔵庫のドア締めたかっ!?」

 

 

 

 

 

「この目で見たのが信じられないんだが...」

 

 

 

 

 

冷蔵庫のドアを締めてその場で停車する猛獣。ハジメがウィンドウを開けると閉めてくれたお礼にと作業員が缶ジュースを投げ渡してきた。軽く礼を伝えるように片手を上げるとそのまま走行再開、中央付近でキィィィッ!と円描きをして海側に向けて停車すると一部目が終了。それと共に曲が切り替わった...

 

 

先程の激しい曲調とは対照的に控えめなイントロが、まるで夜明け前の静寂のように忍び寄る。どこか賓があるようにすら感じられるエレクトロニクスな音色と共に3台のハイエースが現れた。

 

ハイエースから次々と降りてくる白のつなぎにヘルメットを装着した男たち...ピットクルーだ。

高速でピット作業を開始、ジャッキアップしてはインパクトでタイヤ交換に入った。ギュインッ!ギュインッ!!と作業をしている車内でハジメは一旦ヘルメットを脱ぎ、先程貰ったジュースを一気飲み。飲み終えたところでピットクルーが持ってきてくれたゴミ袋にポイッと投げ入れては再びヘルメットを被って戦闘態勢に入った。

 

前を見るとストップのバーを持ったピットクルーがスタンバイ。それとは別のタイヤ交換をしていたクルーがAピラーをコンコンと叩いて作業完了を合図...ハジメが親指を立てて了承を伝えるとセンターコンソール下に後付けされたスイッチをカチッと操作。

一般的にラインロック装置と言われるものだ。

 

それとともに後輪のタイヤが空転し始めた。グォォゥゥゥンッ!!というエンジンの咆哮と共にモクモクと上がる煙...その間に目の前に傾斜がついた台が載ったトラックが現れた。

 

 

 

 

 

「お、おい...まさか!?」

 

 

 

 

トラックが配置についたと共にストップバーを振り上げるピットクルー。それと共に流れていた曲のテンポも一気にアップ、スイッチを解除して傾斜台に向けて全速疾走するGRヤリス。ヴァァァンッ!!と響き渡る咆哮を上げるその姿を港湾施設の倉庫脇から見ていた小柏は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「(見ていな、ガキども。1000馬力の猛獣が火の玉みたいにぶち上がる瞬間を)」

 

 

 

 

 

ヴァァァァンッ!!と轟音轟かせながらも傾斜台を駆け上がっていくGRヤリス。着地点は...クルーザーの艦首側に停泊していた輸送船だ。

しかも、そのまま着地しただけでなく船上でコンテナをパイロンに見立ててドリフトし始めたのだ。ラグジュアリーながらもバイブスを上げるようなエレクトロニクスに合わせて左右に振っていく猛獣、曲が終わると共に車用の橋が降りてそこから疾走するように船を降りては倉庫に向けて走り始める。一番左の空いた倉庫に飛び込んでシャッターが閉まると2部目が終了...再びドラマパートに切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ジムカーナ、映像

 

 

港のシャッターまでGRヤリスを走らせたハジメ。

燃料計を見ると0になっていた。仕方ないと言わないばかりに車から降りると倉庫の片隅にはカバーが被った青い車の姿が...

 

ヘルメットを脱ぎながらも近づいて見ると、所有者と思われる男性と鉢合わせる。ジェスチャーで"貸してくれ"と頼むも、逆にジェスチャーで"少し時間がかかる"と返されてしまった。身につけていた三角形の腕時計で時間を確認...少し眉間を寄せて困ったようにしている彼の元に一人の男が近づいてきた。"俺に任せろ"と言わないばかりに自らの胸を拳で軽く叩いてから指を差すとそのまま何処かへ立ち去った。

 

 

それと共に3部目の曲が始まった。

 

明るいブラスバンド系の旋律から急に始まった曲...

 

その曲調と共に"And so we put our hunds up"の静かに響くようなボーカルが流れる。

 

映像は先程の自分に任せろと言った男のシーンに移った。

倉庫の奥にまで足を運び、仲間を呼んでいく。仲間たちはポーカーなどをして楽しんでいたが居ても立ってもいられないとその場から立ち上がった。

 

次々とどこかへと駆け足で向かう仲間たち...向かったのは自分たちの車の方だ。車種はシルビアや86、マークⅡ、スカイライン....中にはマスタングや古い型のBMWまである。

 

まるで戦闘服のように各々がヘルメットとグローブを着用してエンジンを掛けると、映像に連動するように実際の倉庫から轟音が響いてきた―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―ベリッシモ所有の港

 

 

一番左右以外の全ての倉庫のシャッターが開くと、盛り上がろうぜ!と言わないばかりの"Na na na na!Na na na na!!"に合わせて一気に複数台の車が飛び出してきた。

 

ヴァァァンッ!ヴァヴァヴァッ!!と次々に出てくるスポーツカーの群れ。時折、ドリフトを披露したりするようなその圧巻の絵面にクルーザーから見ていた今ガチメンバーもこれは"予想出来なかった"と驚きの表情を見せる。

 

スポーツカーも1台1台の演出の仕方が個性的でそのまま港の出入り口まで走らせる者もいればクルーザーの近くまで走っては見せつけるように円描きドリフトをする者まで...

 

 

見ていて飽きない、思わず曲に合わせて身体を跳ねさせるアクアを除いた今ガチ一同。有馬かなは周りがやってるから恥ずかしながらと言った様子...冷ややかに見ていたアクア隣でミュージカルのような波長の乗せ方にあかねの波長も自然とシンクロ、いつの間にかノリノリで身体を揺らしていた。

 

一方のアクアは一人だけ冷静に思考を巡らせていた...

 

 

 

 

 

「(何を考えている、五十嵐ハジメ...何が目的だ?)」

 

 

 

 

 

そう思っている間にスポーツカーの群れが途絶えた。

が、遂に閉まりっぱなしだった一番左右のシャッター開く...

 

一番左には27のゼッケンがついた青いGRスープラ...

 

GTウィングやディフューザー、カナードなどが装着しているその車両のドライバーは五十嵐ハジメ。彼の名を轟かせた1台だ。

 

一方、逆側のシャッターからはシルバーの80スープラ...

レーシングチーム·カタギリの社長代理の皆川が昔乗っていたモノでいまチームの所有物になっているものだ。

 

ドライバーはハジメの師匠の小柏カイ。

 

 

互いにヘルメットを被りながらもインカム越しに無線通話を取った。

 

 

 

 

 

「―いくぞ、馬鹿弟子。締めの出走だ」

 

 

 

 

「COPY!」

 

 

 

 

互いに左側から港の外周をなぞるようなラインでツインドリフトを決めていく...競い合うように青いGRスープラとシルバーの80Sスープラのキィィィッ!とスキール音が轟く中、BGMもサビに切り替わった。

 

 

 

 

Can we go back, this is the moment

(あの日に戻れるか、今が動くときだ)

 

Tonight is the night, we’ll fight till it’s over

(今夜しかない、終わるまで俺らは戦い続ける)

 

So we put our hands up like the ceiling can’t hold us

(だから手を挙げよう、天井が俺らの力に耐えられないぐらいに)

 

Like the ceiling can’t hold us

(天井が俺らの力に耐えられないくらいに)

 

 

 

 

 

クルーザーのバイブスも最高潮にまで達する中、ツインドリフトを終えて最後の締めに差し掛かる。

 

曲も最後のサビのリピートに入る中、2台は互いに中央まで移動してキィィィッ!!と円描きドリフトに差し掛かった。

 

 

だが、単なる円描きドリフトではない...ギリギリのタイミング狙ったドリフトだ。走行ラインからしてタイミングを間違えれば衝突する円描きドリフトだ...師匠と弟子、長年の付き合いから成せる阿吽の呼吸だ。

 

そして、曲が終わった時...

 

タイヤスモークがモクモクと上がる中で2台は左右対局的な方向を向いて停車。

 

 

その停車はこのジムカーナの終わりを告げていた。

 

 

程なくしてクルーザーから足場出され、港に上陸する今ガチ一同。パチパチと拍手する中で青いGRスープラが近づいてきた...そのままあかねと目が合ったハジメ。

 

ウィンドウを開け、グローブボックスの中から手紙を手に取っては彼女に渡した。

 

 

 

 

 

「えっ...これ?」

 

 

 

 

 

キョトンとしながらも固まっている彼女に対して何も言わずに再びGRスープラを走らせるハジメ。サイドブレーキを上げてキィィィッ!とサイドターンを決めて走り出すと星野アクアの視線を感じる...互いに静かに睨み合う二人。そして、GRスープラは小柏の80スープラと合流すると共に走り去っていった。

 

走り去るのを目で追った皆が次に注目したのは彼女が貰った手紙...

 

 

開けてみるとこう綴られていた。

 

 

 

 

 

―黒川あかね様

 

本日18時、山下通りの交差点で待っています。

 

                五十嵐一より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―約束の時間

 

山下通り、交差点

 

 

恐る恐ると言った様子で早めにこの場所まで移動してきたあかね。影から今ガチの撮影スタッフもカメラを回している状況...配信時にここまで視聴していた視聴者からの意見は肯定的なものもあれば批判的なものもあると言った感じだ。

 

 

肯定的なものは以下の通りだ。

 

 

 

·内容的にスゴい引き込まれる映像だった!

  @livit3345

 

 

 

·素人でよくわからないけど、エキサイトしちゃった!

       @kuro_2346

 

 

·今ガチ、あかねの一件以来マンネリ化してたけどその雰囲気を一気にぶっ壊してくれた。  

                @aya6829i

 

 

 

·Is that a Supra?!

                @strikeigod06

 

 

 

·EEEEEEEHE!!SUPRAAAAAAA!!!

                @Goddess540

 

 

 

 

 

その一方、批判的な意見はこんな感じだ。

 

 

 

·ゴリ押しじゃん、アクあかと違ってエモさがない

                @iria2488

 

 

·アクあかが注目されてるからって、急にあかね狙ってくるとか...コイツ何様?

                @mika8876

 

 

 

·あかねの笑顔はアクアと居る時が一番輝いてる、しゃしゃり出てくんなよ。芸人

                @touko_ilov04

 

 

 

 

そんな感じで両極端で中間の意見がほとんどないといった感じだ。そんな中で少し待っていると帰宅ラッシュの人をかき分けるようにしてハジメが現れた。レーシングスーツから番組から支給されたブレザーに着替えている。

あかねの姿を見つけては焦ったように駆け寄った。

 

 

 

 

 

「悪い、待った?」

 

 

 

 

 

目の前に現れた彼の姿を見てどうしようか悩むあかね....

視聴者目線でウケが良い"アイ"を演じるべきか、はたまた素の自分で向き合った方がいいのか...?

 

悩んでいる間に妙な間が出来てしまった。

が、彼から「黒川?」と気にするように聞かれた時にどうしようか決意した。

 

 

 

 

「....大丈夫です。私も今来たばかりなので」

 

 

 

 

小さく笑みを浮かべながら答えるその姿は...偽りのない本来の彼女の姿だ。その姿に思わず小さく笑みを浮かべると「じゃあ、行こ」と促してある場所へと案内した。比較的閑静な路地沿いにあるコインパーキングだ。

 

その片隅に停めていた1台の車の前まで案内した...彼の愛車の白いNSXだ。

 

 

 

·なに、この車!?

      @ME6803

 

 

·えー、なんか古臭ッ。レクサスとかじゃないの?

               @wakana5583

 

 

·ヒラメみたい

               @minami5873

 

 

·馬鹿にすんなよ!日本の名車だぞ!!

               @masa_gogo

 

 

·NSXじゃん!?クッソかっけえな!!

               @taka5431

 

 

·学生なのによく維持できるな!!

               @yukigodsky

               

 

 

·ヒーハー!野郎共、VTECの時間だぜ!!

               @vg4805id

 

 

 

 

視聴者からの様々なコメントが飛び交う中、NSXの助手席を開けて先に乗るように促すハジメ。彼女が乗り込んだのを確認してから運転席に乗り込む。ヴァゥンッ!とエンジンを掛けてはリトラクタブルヘッドライトをウィーンと起こしては走らせていく。

 

 

その間に真剣な眼差しで運転するも、信号待ちで頬を赤らめながらも思わず目を逸らすハジメ。ここに至るまで何を話すかしっかり練ってきたが、いざ二人きりで車内でカメラも回っていると意識すると頭の中が真っ白になった。一方、隣でどうしようか緊張している様子のあかね...だが、彼の様子を見て一声掛けてあげるべきだと考えれば恐る恐る自ら話すことに心に決めた。

 

 

 

 

 

「五十嵐さん、どちらへ向かうつもりですか?」

 

 

 

 

 

自然な質問に「え?」と彼女に目を向けながら問い返すハジメ...先程まで緊張していた糸が一気に解けたような気分だ。自分が話したいこととは違うことではあるが、とりあえず一歩を踏み出せそうだと語り始めた。

 

 

 

 

 

「一緒に観たい景色があってさ...ダメだった?」

 

 

 

 

 

「い、いえ...本当に私で相手でよかったんですか?」

 

 

 

 

「ああ。むしろ、なんというか...黒川とじゃないと」

 

 

 

 

 

そう答えている間に再び青信号になり、動き始めるNSX。先程の激しいドライビングとは対照的にハイギアで加速Gやエキゾーストの音量に気をつけながらも運転。チラリと彼女の方に目を向けるハジメ...彼女は穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「どう?"久々に"乗ったこの車の助手席は?」

 

 

 

 

 

久々という急なフレーズに理解が追いつかない様子のSNSのコメント欄。『は?』、『え?』、『どういうこと...?』と埋め尽くされる中であかねは小さく笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

「...とても落ち着きます。また乗れるとは思いませんでした」

 

 

 

 

 

それと共にフェードインするようにして番組内に流れたのは彼女とハジメの思い出の写真たち...炎上する前に撮られた物たちだ。富士スピードウェイの入り口で撮ったNSXと二人が写った写真に始まり、お試し舞台稽古の写真やバーベーキューの写真まで...裏でこんなことがあったなどと知らない視聴者も『えぇっー!?』、『マジでかー!?』とコメントを埋め尽くされた。

 

 

その間にもNSXはETCにゲートを潜り抜け、首都高速横羽線に合流。

目的の場所に向けて走り続ける中、ハジメはテンポに乗り始めた会話の波長に合わせてあることについて申し訳なさそうに謝罪した。

 

 

 

 

 

「黒川...悪かったな。お前が大変だった時、何もしてやれなかった」

 

 

 

 

 

「いえ、五十嵐さんは五十嵐さんなりに私を助けようとして下さいました...あの雨の日、歩道橋の下を走るこの車が見えました」

 

 

 

 

 

「見えても間に合わなかったかもしれない...あの日は事故渋滞とかあったから時間がかなり掛かったんだが、そんなのは言い訳に過ぎない」

 

 

 

 

 

「そう自分を責めないで下さい...私の方こそ、ごめんなさい。最近の五十嵐さん、撮影の時に浮いてる感じがあったのに...助け舟を出そうにも出せませんでした。怖かったんです...出したら元の私に戻るんじゃないかって」

 

 

 

少し辛気くさい雰囲気になってしまった車内。このままこの雰囲気のままでいるのも気まずいとハジメはクスッと笑うと運転しながらもこう切り出した。

 

 

 

 

 

「じゃあ、お相子...ってことで。この話は終いにしようか」

 

 

 

 

 

ハジメの表情に釣られるように笑みを浮かべると「そうですね」と答えるあかね。

二人の会話の波長に合わせるようにスコンッとシフトアップしてスピードアップするNSX...それから程なくして目的地に到着した。

 

フェードインするようにしてカットされると共に映し出されたのは海ほたるだ。

 

日本の夜景100選にも選ばれる景色...

360度に広がる漆黒の海が、遠くの東京や千葉の街明かりを鏡のように映し出す。風は潮の香りを運び、波の音がかすかに耳に届く。

まるで世界の果てに立っているかのような錯覚に陥る。

しかし...動くネオンライトのようにも見える高速道路を走る車列のテールランプは人工的だが、どこか幻想的にも見え...そこに注目すると先程の錯覚とは対比して未来へと繋がる一本道にも見えた。

 

 

二人で何も言わずに手摺に凭れるようにしながら夜景を眺める...心が洗われるような感覚に見舞われるとあかねの方からゆっくりと語りかけてきた。

 

 

 

 

「綺麗...ですね。こうして夜景を見るのは初めてかもしれません。ありがとうございます、五十嵐さん」

 

 

 

 

 

そう呟く彼女に対して言おうかどうか悩むように軽く漆黒の空を仰ぐように眺めるハジメ。少し間を空けてから意を決するように前を見てから「あのさ...」と切り出してみた。

 

 

 

 

 

「俺達、共演者としてわりと長い付き合いだし...そろそろタメ口で呼んでくれてもいいと思うけど」

 

 

 

 

 

「た、タメ口...ですか?」

 

 

 

 

 

「ああ、なんかあまり畏まりすぎるのもなぁーって」

 

 

 

 

 

そう言うと考え込むように少し間を空けてから「わかりました」と告げるあかね。しかし、彼女はそこから恐る恐る条件を付け足してきた。

 

 

 

 

 

「私ももっと親しみたいので...名前で呼びたいのですが、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

「ん、じゃあ...俺も名前で呼ばせてもらっていい?」

 

 

 

 

 

「はい、これで..."お相子"ですね」

 

 

 

 

 

互いに目を合わせてクスリと笑いながらも再び夜景を眺める二人。静かな海の波音に合わせるようにして互いにこう呟いた。

 

 

 

 

 

「ありがとう、"ハジメくん"」

 

 

 

 

 

「どういたしまして。また連れてってやるよ、"あかね"」

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―放送日翌日 昼

 

ベリッシモCEO室

 

 

玉座座りながらもスマホを触るCEOの井出。ネットニュースなどで取り上げられている「今ガチ」関連の記事に思わずフフフッと野太い笑い声を響かせていると彼の秘書が入ってくる...彼が隣に立ったタイミングで一旦スマホをポケットにしまうと共に雑談に移行した。

 

 

 

 

 

「良いですねぇ....私が望む形になってまいりました。貴方もそう思いませんか?」

 

 

 

 

 

「はい、マンネリ化気味だった環境を立て直した感じがします」

 

 

 

 

 

真っ直ぐと目線でハキハキとした口調で答える秘書に対してフフフッ...と再び笑い声を響かせる井出。だが、少しずつ真剣な表情に変えて「しかし...」と切り出すとこんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

「五十嵐ハジメが黒川あかねを狙うのであれば...相手はあの星野アクア、ですか」

 

 

 

 

 

「そうなりますね」

 

 

 

 

 

「私としてはファンの一人として五十嵐ハジメを応援したいところですが...星野アクアはたった一人で番組に一杯食わせた男です。蛇のように狡猾なこの男を相手にするのは...少しばかり酷かもしれませんねぇ」

 

 

 

 

 

そう言いながらも立ち上がっては身体を振り向かせ、外の景色を眺める井出...そのまま秘書にある質問をした。

 

 

 

 

 

「貴方に質問致します。五十嵐ハジメが星野アクアと対峙した際...彼は勝利を収めることができるでしょうか?」

 

 

 

 

 

井出の質問に対してどう自分の答え方をしようか考える秘書...そして、「そうですね...」とゆっくりと重たい口を開いてはこう答えた。

 

 

 

 

 

「今のままでは....勝算は薄いかと」

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 アメリカ

 

 

Youtuber デニスモーリス自宅

 

日本とは13時間の時差があるため、辺りは真っ暗...部屋もPCの照明の電源以外の明かりはついていない状況。

 

ぽっちゃり体型にメガネを掛けたデニスはエナジードリンク片手に動画の編集作業に没頭していた。PCの明かりの前でカタカタと次の動画をアップしようとしていると、彼の元に一通のEメールが届いた。日本にいる友人からのものだ。

 

 

 

 

"よう、デニス!最高にクールな動画持ってきたぜ!!"

 

 

 

 

そう綴られたメールを開いてリンク先を見る...今ガチのYoutubeチャンネルに上がっていたハジメの走行動画だ。

 

キィィィ!!というタイヤスキール音を上げながらモクモクと煙を上げてクルーザーギリギリの走行ラインをドリフトで走る衝撃の映像...デニスのYoutuber魂にも火がついた。

 

 

 

 

 

「な、なんだこれ!?こうしちゃいられねえ!他の配信者が嗅ぎつける前に動画のネタにしねえと!!」

 

 

 

 

 

あたふたと動き始めるデニス。カメラやマイクをセットし、消していた照明をつけて撮影準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

―第一章 Fin.―

 

 

 









楽曲


Bangarang/Skrillex

Animals/Martin Garrix

Can't Hold Us/Macklemore & Ryan Lewis
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