IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第二幕 Buckshot act.2

 

 

 

―十勝スピードウェイ

 

 

この日は北海道の老舗ショップが組み上げたR32 型スカイラインGT-Rの走行をすることになったハジメ。

50Rの最終コーナーを抜けてブゥウォォォォンッ!というRB26エンジンの快音を響かせながらも次の周回に入るガンメタの車影にピットでタイムを見守っていた全員が「うおぉー...!?」と驚きの声を上げていた。それぐらい失恋で失われていた彼の調子が戻っていたのだ。

 

 

 

 

 

「おいおい、アイツ...!

あの32、何周か軽くウォームアップで乗り回しただけだろ!?

なんであんなに速いんだよ...!」

 

 

 

 

 

「それどころじゃない、十勝走るの今日が初めてって話だ」

 

 

 

 

 

「う、ウソだろ!?勘弁してくれよ、ベテラン勢の顔が真っ青になるレベルだよ...!」

 

 

 

 

 

そのまま何周か周回が済んだところでピットに戻ってきたR32。赤いレーシングスーツを身に纏いながらも運転席から降りてきたハジメが黄色いヘルメットを脱ぐと、そのタイミングに合わせるようにショップのオーナーと雑誌の取材班が駆けつけてくる...取材班は動画サイト投稿向けにカメラマンも引き連れているような状況だ。

 

 

 

 

 

「どうでしたか、ウチのR32は」

 

 

 

 

 

「そうですね、今回はレストア+αのライトチューンということでしたが非常に乗りやすい仕様になってると思います。普段使いだけでなく、今日みたいにサーキットで軽く流したりしても不安に思う点は特にありません。

それどころか、今回の十勝のようなアベレージスピードが高めのコースでも何不自由なく踏み切れてストレスフリーだったのがスゴいです。とても92年式の車とは思えない古さを感じさせない、寧ろベースの強さを活かした良い仕上がりになってます。

富士や鈴鹿規模になるとやってみないとなんとも言えませんが、筑波ぐらいなら気持ちよく回しきれるかと思います」

 

 

 

 

 

ショップのオーナーに対して即座に感じたことを脳内で変化しつつも真剣な口調で答えるハジメ。オーナーからの「ありがとうございました」という礼を聞いてから「こちらこそありがとうございました」と礼を返してスポーツドリンクを飲み始めた時、今度は雑誌の取材班が疑問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「めずらしいね。キミ、あまり日産車乗らないイメージあったけど」

 

 

 

 

 

「ええ。別に毛嫌いしてるわけじゃありませんよ。

新型のRZ34なんかも気になりますし、今回アタックで使ったR32もかなり好きですし」

 

 

 

 

 

そう答えてからアシスタントからスポーツタオルを受け取り、「ありがとうございます」と返事しつつも汗を拭うハジメ。そこから再びスポーツドリンクを飲み始めた彼に取材班がある意地悪染みた質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「あかねちゃんか今回のR32、どっちが好き?」

 

 

 

 

 

思わずスポーツドリンクをブフォーッ!!と吹かすハジメ。

ケッホ!ケッホ!!と大きく咳き込むようにすると口から垂れ出しそうなスポーツドリンクの残りを軽く拭いながらもこう苦言を呈す。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと質問...変えて貰っていいですか?」

 

 

 

 

 

「分かったよ。じゃあ、質問変えるね」

 

 

 

 

 

そう言われてホッとした様子で再びスポーツドリンクを飲み始めるハジメ。しかし、取材班の質問はこんなものでは済まなかった。

 

 

 

 

 

「今回のR32かNSXかあかねちゃん、どれが好き?」

 

 

 

 

 

質問内容に再びブフォ―ッ!とスポーツドリンクを引き出すハジメ。スポーツドリンクの蓋を締めて少し間を空けてから「...あのさ」と前置きしては再度苦言を呈した。

 

 

 

 

 

「前半の比較も答えるの難しいし、後半に車じゃなくて人がついてくるのおかしいでしょ」

 

 

 

 

 

「分かった、じゃあ比較するのやめるよ」

 

 

 

 

 

「頼んますよ...マジで」

 

 

 

 

 

「じゃあ、質問変えるね。何かねちゃんが好き?」

 

 

 

 

 

「もーはーやーR32関係ないしッ!

そもそも何なんっすか、その質問!!

もっと色々あるでしょ、ターボラグとか32特有のプッシングアンダーの話とか!!」

 

 

 

 

 

「んー、よく分かんなくなったからここで話し切るね」

 

 

 

 

 

「分かれッ!それから話切るなッ!!」

 

 

 

 

 

色々と漫才のような展開に所々からクスクスと笑い声が聞こえる...あのジムカーナの案件以来、ハジメはこういうキャラが定着した。今ガチでトーク力が鍛えられたことと向こうでもキャラ立ちが明白になってきたのが主な要因だろう。

 

一通りトークが終わり、ようやく帰れると安堵するような表情を見せるハジメ...

更衣室で黒いジャケットに白Tシャツ、ジーンズという組み合わせの私服に着替えてから駐車場に移動。

肩にカバンを掛けながらも三角形の腕時計のリューズをジリリ...と巻いてレンタカーの白いデミオに乗ろうとした時、後ろから「やあ」と誰かが話し掛けてきた。

 

ゆっくりと振り向くとそこには一人の男性の姿が...

黒縁眼鏡を掛けた爽やかな顔立ちの30代後半ぐらいの男。カジュアルフォーマルの服装の男に見覚えがなかったハジメは頭上に?を浮かべていたものの、彼が眼鏡を外したところで誰か判明してハッとした表情を見せた。

 

ベッリシモ・モーターワークスのドリフト部門の赤坂俊(アカサカシュン)。先日のジムカーナでも出演し、ハジメに協力した人物だ。

 

 

 

 

「あ、赤坂さん...!ごめんなさい、気づかなくて」

 

 

 

 

 

「いや、無理もないよ。

普段はこんな格好あまりしないしね。

にしても、脇でキミの走り見てたけど...相変わらずスゴくて驚いた」

 

 

 

 

 

そう言ってから眼鏡を布で拭いてから再び掛ける赤坂。そんな彼にふと浮かんだ疑問を投げ掛けることにした。

 

 

 

 

 

「今日は何故十勝に...?」

 

 

 

 

 

「明日、公式宣伝用に近くでジムカーナの撮影をやることになっててね。前入りした時にキミがここで走ってるって聞いてちょっと気になって顔出したって話だよ」

 

 

 

 

 

なるほど...となっている間にオメガの腕時計をチラリと確認する赤坂。すると、やや残念そうにしながらもスッと顔を上げてハジメにあることを伝えた。

 

 

 

 

 

「飯でも食いながらゆっくり話したかったけど、その様子からして蜻蛉返りしないといけないみたいだね」

 

 

 

 

 

「ええ、まあ...有難いことに明日も筑波で仕事があるので」

 

 

 

 

 

「ほー、そうかそうか。人気者は忙しいな」

 

 

 

 

 

 

デミオにカバンを載せるハジメに対してニコニコとした表情を見せる赤坂。彼は少し間を空けてからハジメにこう言い残した。

 

 

 

 

 

「キミもウチの看板を背負う一員になってくれれば心強いんだが」

 

 

 

 

 

デミオに乗り込もうとした時にそう言われてピタリと動きをとめるハジメ。ゆっくりと振り向くと赤坂はそのまま語り続けた。

 

 

 

 

 

「専門でもないのにアレだけのドリフトテクニックを披露したんだ。正直、俺等から見てもスゴい芸当だよ...キミみたいなのがウチに来てくれたら井出さんも大喜びするだろう」

 

 

 

 

 

「買い被りすぎですよ、それに...

本番であれほど上手く行ったのは紛れです」

 

 

 

 

 

「紛れだからただ運が良かっただけとでも?

言っておくが、運も実力のウチだ...車の神様に愛されてるって証さ」

 

 

 

 

 

そう言いながらも背中を見せて歩き始める赤坂。数歩進んだところでピタッと足を止めるとゆっくりと振り向いてこう呟いた。

 

 

 

 

 

「キミ、他所への移籍の話が来てるだろ?

その話がなくなったら...ウチに来ることも考えてくれ。

またキミと一緒に走れる日を楽しみに待ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後 今ガチの撮影日

 

教室に集まったメンバー達....

一番遅れるような形でブレザーに着替えたハジメが教室入り。両手に何かが入った紙袋を持っている。

 

 

 

 

「おっ、ハジめーん!」

 

 

 

 

MEMちょの一言で全員が彼に注目...しかし、入ってきて早々彼はあることに気づいた。

ノブユキが教室の片隅で気まずそうに顔を背けている姿だ。

 

「うっす」と軽く返事しながらも紙袋を教室の机に置いて注視してはケンゴに「なあ」と問いかけてみた。

 

 

 

 

「アイツ、あの撮影終わってからずっとあんな感じだけど...

俺、なんか悪いことでもした?」

 

 

 

 

「逆だよ、逆...

あの撮影の前に申し訳ないことしたって気持ちからああしてるんだ」

 

 

 

 

「ノブくん、色々言ってたよ...

ハジメくんに色々悪いこと裏で言っちゃったって。

本当は...本人も謝りたいと思う。

ああ見えて、ちょっと不器用なところもあるから」

 

 

 

 

ゆきの言葉に「んー...」と困った様子で腕を組んで考えるようにするハジメ。

あかねも若干心配そうに見守る中、「よし」と何かを決意するように呟くと早速顔を背けているノブユキに近づく。

そして、肩をトントンと軽く叩いた。

 

 

 

 

「ん...?」

 

 

 

 

誰だか分からず、呼びかけに振り向く。

しかし、振り向き時に頬をグイッと強く突かれるような感覚が...ハジメが人さし指を伸ばしていたのだ。

 

 

 

 

 

「ぷぷぷ....やーい、引っ掛かってやんの」

 

 

 

 

 

おちょくるような口調に思わずムスッと眉間のシワを寄せるノブユキ。しかし、すぐに自分の立場を弁えるように俯いてしまう。

そんな彼に対してハジメは強めにポンッと音を鳴らすように肩を叩くと軽く顔を覗き込むようにした。

 

 

 

 

 

「らしくないな、その表情。何があった?」

 

 

 

 

 

「何があったって...分かってるだろ、アンタも」

 

 

 

 

 

「かもな。ただ、その表情は似合わねえよ。

もうちょいで撮影始まるんだし、シャキッとしろよ。シャキッと」

 

 

 

 

 

ポンッポンッと背中を叩いて気合いを入れさせるようにしてから離れようとするハジメ。

そんな彼に勇気を出すように振り向くノブユキ。

 

 

 

 

 

「え、えっと、この前は...!」

 

 

 

 

 

言いたいことを言おうとする彼に対してハジメはハァ...と小さく息をついてから振り向き、微笑んで見せた。

 

 

 

 

 

「言わなくていい..."分かってるから"。

さっきの頬突いたのでお相子ってことで終いにしようか」

 

 

 

 

それだけ告げてノブユキから離れるハジメ。

離れた位置から2人の姿を見ていた有馬かなは思わず小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「(スゴいわね、アイツ...

前まで第二の黒川あかねになりかけていたのに、今ではあそこまで立て直した。それだけじゃない、第三の黒川あかねが出る前に助け出した)」

 

 

 

 

 

そんなことを考えると嬉しさ半分悲しさ半分と言った感覚に見舞われる有馬かな。

まるで自分がいる場所とは違うどこか遠くへ行ってしまったような...もうあんな漫才みたいなことも出来ないかもしれない。

内心そう思ってるとハジメの方が「はい、集合ー」と撮影前に教室の真ん中に出演者たちをかき集めた。

全員集まったところで置いていた紙袋からあるものを取り出す...十勝に行ったお土産だ。クッキーやらマドレーヌやらチョコやら色々揃っている。

 

 

 

 

 

「えっと、ハジメくん。これは...?」

 

 

 

 

 

「ああ、十勝行ってきたからそのお土産」

 

 

 

 

 

あかねの問いかけに答えつつも「好きに食べて、スタッフさんも」と全員に促すハジメ。それと共に「おー!」と声が上がってから撮影前にと全員集まる。そんな中、MEMちょがある質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「ハジめん、十勝って...旅行にでも行ってきたの?」

 

 

 

 

 

「いや、仕事仕事」

 

 

 

 

 

「仕事って...十勝にサーキットなんてあるのか?」

 

 

 

 

 

「ああ。十勝スピードウェイってところ...

富士とか鈴鹿ほどではないけど、結構大きいサーキット。

俺も初めて走ったけど、なかなかいいところだった」

 

 

 

 

 

そう答えながらも何か視線のようなものを感じるとノブユキがコチラを見てるのが分かる。何か聞きたそうだと内心思いながらも軽く心の中で受け答えの準備...すると、案の定恐る恐るの質問が飛んできた。

 

 

 

 

 

「わ、わざわざ北海道まで呼び出すような仕事もあるんだな」

 

 

 

 

 

「まあな。今回はちょっと特殊なケースだったけど」

 

 

 

 

 

「特殊?」

 

 

 

 

 

「ああ。依頼先のショップが北海道を拠点としてる老舗で頼まれた車がレストアしてあるとは言っても92年式の車...しかも、単にタイムを競うのが目的とかって感じじゃなく、レビューメインのインプレッションって感じだった。

そうなると車やらショップのスタッフを本州のサーキットに送るよりかは俺を呼んだ方が早いし、何よりも安上がりで済む。今回は雑誌の取材班がついてきたけど、それでも呼び出した方が安上がりだろうな」

 

 

 

 

ハジメの答えに「へー...」と答えるノブユキ。

そんな中で"雑誌の取材班"というフレーズを聞いたあかねが横でこんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

「読んでみたいなぁ...その雑誌」

 

 

 

 

 

その言葉と共に浮かび上がったのはあの当日の取材班の質問だ。何かにつけてあかねを会話の内容に取り込もうとしていたあの様子。

 

もし、あの取材で答えた内容がそのまま記事になっていたら...そう考えると無意識のうちに顔が真っ赤になった。

 

 

 

 

 

「ハジメくん、大丈夫...?茹でダコみたいになってるよ?」

 

 

 

 

 

「な、なんでもない...!」

 

 

 

 

 

咄嗟にプイッと顔を背けるハジメの心中を察したのか、少し間を空けてからクスクスと小さく笑うあかね。

全員がワイワイガヤガヤとなってる中、アクアは少し離れた位置で2人の様子を観察していた。

 

 

 

「(あの状態からあそこまで立て直すとはな...

でも、どうせ一時的な話だ。後半までこの勢いは続かない。

黒川あかねは俺が手に入れる、アイを殺した犯人...俺の実の父親を探し出し、殺すため)」

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―撮影終了後

 

 

まるで放課後のような雑談タイムを終え、私服に着替えて外に出るハジメ。

撮影に使われた学校内の駐車場に停めた自分のNSXに近づいた時、後ろから「五十嵐くん」と誰かが声をかけてきた...今ガチのプロデューサーの鏑木だ。

話し掛けられた側のハジメは立ち止まって振り向きながらも物珍しそうな目を彼に向けていた...

それもその筈、この2人。今まで直接的な会話という会話をしたことがないのだ。

 

 

 

 

 

「この後、空いているかい?」

 

 

 

 

 

業界人らしい軽めのトーンで問いかけてくる鏑木。

ハジメは「えぇ、まあ...」と少し困惑気味な様子ながらも答えると彼は小さく笑みを浮かべながらもこんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

「一緒に飯でもどうだい?魚は大丈夫かな?」

 

 

 

 

 

「ま、まあ。アレルギーとかはありませんけど...」

 

 

 

 

 

「良かった。なら、寿司にしよう」

 

 

 

 

 

話し掛けられただけでも困惑していたが、食事の誘い...しかも寿司となると更に困惑の色が隠せられない心理状態に。

 

 

鏑木雅也...

 

この男、手の内をなかなか明かさないタイプだ。

何か裏があるかもしれない...多少身構えておこう。

 

そう思いながらもハジメは「分かりました」と返事した。

 

 

 

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