IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第二幕 Buckshot act.7

 

 

 

 

 

 

 

―2週間後 今ガチ撮影

 

 

それはデートマッチ、2回戦目の放課後デートを終えてからの収録日のことだ。

 

 

いつも通り「うっすー」とブレザー姿で現場入りしたハジメだったが、撮影前にしては異様なほどざわつきを感じる現場の雰囲気に違和感を感じていた。出演者だけでなく、スタッフの一部もスマホを手にして何かを話している。

 

何があった...?

 

イマイチ把握出来てないハジメは円を組むような形でスマホを手にザワついている演者達に声を掛けた。

 

 

 

 

「どうした、なんかあったか?」

 

 

 

 

「何かあったって...知らないのか?SNSでエゴサしたらすぐ分かる」

 

 

 

 

ケンゴにそう言われるがままにスマホを手に取るハジメ。

自分の名前で検索を掛けて出てきた記事に驚きの表情を隠せなかった。

 

 

 

白黒の写真で自分と真奈美らしき顔にモザイクが掛かった女性が仲睦まじそうに顔を近づけて話している写真が出てきたのだ。どうやら、ゴシップネタを取り扱う週刊誌から流出そていた。

 

 

 

"恋愛リアリティショー出演のレーサー、熱愛発覚!?"

 

 

 

"お相手は女子大生の車好き!?

リアリティショー出演は所詮はお遊びか...!?"

 

 

 

"まさかの二股疑惑!?誠実さの裏の顔"

 

 

 

言いたいように書かれた記事の内容に怒からか手の震えが止まらなくなる...

 

 

人の思いを捻じ曲げて弄ぶクズ共が。

 

 

 

空いた片手で拳をつくり、ギッ...!と握り締めているとノブユキが恐る恐る「...なあ」と話しかけてきた。

 

 

 

 

「念のため聞くけど、これ...嘘だよな。

わざわざ気を遣って自分の気持ちを抑えていたようなアンタがやることじゃない」

 

 

 

 

「もちろん、付き合ってる相手なんて今いないし...」

 

 

 

 

その答えに対して「そうか...」と何処か安心したような笑みを浮かべるノブユキ。そんな中、今度は有馬かながハァ...ため息混じりに腕を組むと一歩前に出てきた。

 

 

 

 

 

「アンタ、こういうゴシップの対策とかしてないの?」

 

 

 

 

 

「そりゃあな...元々の業界が業界だし」

 

 

 

 

 

「そう...まあ、起きてしまったものは仕方ないわ。

とりあえず何時ドコで撮られたのか、誰と撮られているのか...特定できるものは特定しましょ」

 

 

 

 

 

その提案をしている間に静かに離れる一人の男...星野アクア。

陰湿なその背中から感じるオーラに思わず疑いの目を向ける...このタイミングでこの情報を流して得をするのは間違いなく彼だ。だが、手がかりも何も無い...仕方ない。今は疑いを追及するのをやめよう。

 

そう思ったハジメは再びスマホに目を向けて画像を拡大した。

 

 

 

 

「ハジめーん、私も手伝うよー!」

 

 

 

 

 

「私も混ぜてもらっていい?」

 

 

 

 

MEMちょとゆきも名乗り出てきた...そして、最後にあかねもだ。ゆっくりと歩を進めると決意を固めたかのように真っすぐとした眼差しで顔を上げてハジメのことを見てきた。

 

 

 

 

 

「私も...協力させて」

 

 

 

 

 

あかねの姿を見て時が止まったような錯覚に陥るハジメ。

てっきり疑われると思っていたが、全くそんなこともない凛々しく感じさせる彼女の姿に目を軽く見開いているとMEMちょがグイグイと肘で身体を押してきた。

 

 

 

 

 

「ハジめーん、あかねにまた惚れてるのかーい」

 

 

 

 

 

「っ、いいから分かるところ特定するぞ」

 

 

 

 

 

顔を赤らめながらも話を本題に戻すようにスマホを机の真ん中に置いて画像を拡大してじっくりと眺める今ガチ一同...意外にも第一声を真っ先にあげたのはあかねの方だ。

 

 

 

 

「このお相手の人...真奈美さんじゃ?」

 

 

 

 

あかねの言葉に頭上に?を浮かべるハジメを除いた今ガチ一同。ゆきが「その真奈美って人は...?」と問いかけるとあかねは小さく頷いてからハッキリした口調で答えた。

 

 

 

「ハジメくんと一緒に行った走行会にいた人だよ。

関係性として師弟関係でお弟子さん...って言ったらいいのかな」

 

 

 

 

「で、でで、弟子ぃーっ!?

ハジめん、その年齢で弟子いるのッ!?」

 

 

 

 

MEMちょの驚きの言葉に少し間を空けるようにして「...まあ」と答えながらも頷くハジメ。真奈美の存在を知っている二人を除いた全員がやや唖然とした表情を浮かべていると、ノブユキが「でも、まあ...」と振り返るようにして語り始めた。

 

 

 

 

 

「前の横浜であんなすげえことやったぐらいだし...

単純に力量として考えればおかしくねえ話かもな」

 

 

 

 

 

そう答える中でハジメが次にないかと画像のあちこちを更に拡大して探っていく...すると、更に別の情報を得ることが出来た。彼が手に持っていたヘルメットの反射で見えた赤い建物でハジメはどこなのか特定した。

 

 

 

 

 

「この赤いの、多分富士スピードウェイのレストランの建屋だ」

 

 

 

 

「すごい、コレだけでよくわかったな...!」

 

 

 

 

「まあ、何度も通ってるからな。

そうなると、ここはAパドックだ...走行会の最中だろうな」

 

 

 

 

ケンゴが驚いている間に情報を更に特定していくハジメ。そんな彼を援護するように有馬かなが一言告げた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、その真奈美って人と走行会に行ったのはいつ?」

 

 

 

 

 

「あかねの炎上の件より前の時期だ。しかも、その時はあかねも一緒だった」

 

 

 

 

 

「そう...他に行ったことは?」

 

 

 

 

 

「ない、アイツと富士に行ったのは今のところはそれが最初で最後だ」

 

 

 

 

 

話を進めていく間に情報が次々と浮き彫りになっていく。

が、あるところでピタッと止まってしまった...それはカメラが二人を捉えた位置だ。

 

 

 

 

「望遠レンズとか使って撮ったんじゃ?」

 

 

 

 

「いや、富士のAパドックって周辺が結構な傾斜になってるから...この角度で遠くから撮ろうとしてもこんな風に撮れない。それにこの頃はまだ番組で目立つような存在じゃなかったからな、そこまでして追うような週刊誌はいないだろう」

 

 

 

 

 

「たしか、かなちゃんと一緒にコントする芸人枠だったよねー。あの頃のハジめん」

 

 

 

 

 

懐かしそうにMEMちょが呟くと何処か悲しげな表情を浮かべる有馬かな。なんか悪いことしたか...?内心そう思いながらも彼女を見ているとあかねがふとあることを呟いた。

 

 

 

 

 

「もし、撮った人がハジメくんや真奈美さんに怪しまれるような人じゃなかったら...

近くで撮られても気付かないかも」

 

 

 

 

 

「走行会で走ってた誰かがこの写真をリークした...ってこと?」

 

 

 

 

 

「うん。あまり疑いたくないけど...そうなるかな」

 

 

 

 

 

あかねの言葉に色々と思考を巡らせるハジメ...

言われてみれば、画角的にこんな写真を見たことあるような無いような。

 

 

しかし、答えに辿り着けずに本番の収録がスタート。

だが、撮影時もずっとモヤモヤが付き纏っているような状態だ...早くこのモヤを解消したい。

 

その思いからか、休憩の合間に廊下に出るとスマホを手にしては別の角度から切り込むことにした...週刊誌の編集部に問い合わせたのだ。

受け付け経由でなんとかあちら側の編集長と繋ぎ合わせることは出来たものの、向こう側は案の定答える気は無さそうだ。

 

 

 

 

「―わざわざ掛けて貰って申し訳ないけど、ウチも守秘義務というのがあってね。情報元は明かせないよ」

 

 

 

 

 

「嘘...ジョーダンでしょ!?

こっちは被害被ってるってのに...!!」

 

 

 

 

 

 

「―悪いけど、一々それを明かしてたらウチもこの業界でやっていけなくなるんだ。

秘密保持の信頼性ってやつだよ、それを担保に情報を貰ってるんだ」

 

 

 

 

 

分かるだろと言わないばかりの若干馬鹿にしたような口調の編集長の言葉に苛立ちを込み上げてくるハジメ。

 

ここまでイライラしたのはいつぶりだろうか?

 

内心そう思いながらも理性で感情を押し殺し、別の角度から切り込んでみようと考え、一歩引き下がった視点からこう頼んだ。

 

 

 

 

「わかりました...

では、この画像の元データを頂きたいです」

 

 

 

 

「―元データ?そんなのダメだよー、ダメダメ。

コレはもうウチの所有物なんだからはいそれと簡単に渡せる物じゃないんだ」

 

 

 

 

更に馬鹿にしたような口調に苛立ちが隠せなくなり始めたハジメ。コチラは冷静に紳士に対応しようとしてるのに、何故こんな見下すような上から目線の下衆な受け答えしかしないのだろうか?

 

内心そう思っていると編集長は何かを思い出したかのように「―あっ」と言葉を漏らすとこんなことを告げてきた。

 

 

 

 

「―こうしてる場合じゃなかった。このあと情報提供者とのアポを控えていてね、悪いけどもう切るよ」

 

 

 

 

「ちょ、話はまだ...!?」

 

 

 

 

止めようと試みたハジメだったが、一方的に通話を切られてしまう。ピー、ピー...と虚しく鳴り響く音に遂には苛立ちが抑えられなくなった。

 

 

 

 

「くそっ...!!」

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後、夕方

 

チューニングショップ スパイラル

 

 

オイル交換に来店した真奈美。

奥山の手で作業が進められる白い86の後ろでスマホを触っていた彼女だったが、表情自体は険しかった。

 

 

 

 

「どうした、そんな顔して?」

 

 

 

 

作業を終えた奥山がふと顔を出して問いかけると彼女は見ていたスマホの画面を奥山に見せた。

 

ハジメのスキャンダルの一件だ。

 

スキャンダルの話題は瞬く間にSNSで広まりに広まったようで、デートマッチで稼いだ6:4の優勢は一気にひっくり返り、再び3:7の劣勢に戻された。このまま行けば3:7どころか2:8ぐらいまで行きそうな勢いだ。

 

 

 

 

 

「ヒドイな、これ...」

 

 

 

 

思わず画面を見て呟く奥山。

ありもしない情報に踊らされた世論からはハジメへの批判的な声が次々と上がっていた。

 

 

 

 

 

·あんなことやっておきながら浮気してたのかよ

#今ガチ #アクあか #アクあか支持

                @suui__chin02

 

 

 

 

·あやうく騙されるところだったわ

#今ガチ #アクあか #アクあか支持

                @yamikika046

 

 

 

 

·結局のところあかねとは遊びだったってこと?

#今ガチ #アクあか #アクあか支持

               @4_sachinmaru__

 

 

 

 

·クズ男が、二股なんて最低

#今ガチ #アクあか #アクあか支持

               @hideren__32ai

 

 

 

 

あんなに真剣にやってたのにたった1枚の捏造染みた写真でこうもひっくり返るとは。

他人の事ではあるものの、思わず頭を抱える奥山...あまりにもヒドイ。

 

 

 

 

 

「いったい、誰がこんなマネを....」

 

 

 

 

 

「決まってますよ。この時期にこんなことして得するのって、明らかに一人しか居ませんよ」

 

 

 

 

 

そう言って再びスマホを自分の方に向け、SNSを閉じる真奈美。今度は検索アプリを使ってあることについて調べ始めた...スキャンダルの記事を出した出版社についてだ。

 

 

 

 

 

「(流石に今回は黙って見てられないね...

一歩間違えればハジメくんも私もあかねちゃんの炎上になりかけないような事態だし)」

 

 

 

 

 

そう言いながらの検索を進めて出版社の住所を入手した真奈美。そのままスマホをしまうと肩を回すようにした。

 

 

 

 

「(さて、人肌...脱いじゃおうかな。

久々に本気出して動いてみますか、斎藤真奈美)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜

 

ベリッシモ本社 CEO室

 

 

 

井出に呼び出されてこの場所に赴いたハジメ。フォーマル寄りな衣装を身に纏い、秘書に案内されるがままに「失礼します」と一言告げて入室した彼に対し、玉座に座りながらも迎え入れた。

 

 

 

 

「どうぞ、そちらにでもお掛けになって下さい」

 

 

 

 

そう言いながら長いテーブルと一緒に並べられたソファーの方に手を向ける井手。促されるままにハジメが座ると、早速本題に入った。

 

 

 

 

「星野アクアの調査が終わりました。

五十嵐ハジメ、貴方の想定は概ね当たっております」

 

 

 

 

そう言ってから秘書に対して「例の物を」と伝えると彼は一礼してから資料を取り出し、ハジメの前に置いた。

内容を開いてみる...星野アクアの正しい相関図や家系図などだ。

 

 

 

 

「貴方の予想通り、星野アクアは12 年前に殺されたアイドル、アイの隠し子。

彼が執念深く追っているのはアイを殺したであろうもう一人の真犯人です」

 

 

 

 

「その真犯人...っていうのは?」

 

 

 

 

「恐らく、彼の実の父親です」

 

 

 

 

井手の言葉に目を見開くようにして驚くハジメ...

ここまでは全くと言っていい程予想してなかったのだ。

ペラッと捲って他のページもしっかりと確認している中、井手は「ところで...」とあることを聞いてきた。

 

 

 

 

「貴方、最近スキャンダルがありましたよね」

 

 

 

 

「まあ...でも、あれは全くのデタラメで」

 

 

 

 

「わかってます。貴方は星野アクア本人、または彼を支持するであろう人物に偽りの弾丸で撃たれたということを。

 

なので...私から"弾丸"のプレゼントがあります」

 

 

 

 

そう言った時に秘書が追加で色々な資料を持ってきた。最初に出した資料よりも圧倒的に膨大な量の資料だ。

恐る恐る手にとって中身を読むハジメ...その内容は"殺人者と同様の傾向がある"と鑑定された精神鑑定書や彼が不特定多数の人物からDNAサンプルを取って鑑定していたという事実、更には彼が所属しているイチゴプロの不祥事...まさに芸能界が汚物として蓋に蓋を重ねた汚い部分だ。思わず血の気が引いてしまった。

 

 

 

 

 

「こ、これは...?」

 

 

 

 

「私が貴方に与える武器です。

...貴方はスーツという海外ドラマをご存知ですか?

そのドラマでこんなセリフがあります。

 

 

"相手が銃を向けてきた時はどうするか?こっちはもっとデカい銃を向けてやればいい"と。

 

 

つまり、スキャンダルという拳銃で貴方を撃った相手に対し...私はより強力なショットガンで応戦しろと言っているのです。確実に相手の息の根を止めるのです」

 

 

 

 

井手の言葉を聞きながらももしこれを公表したらと想像するハジメ...そんなの出来るわけがないと手を震わせながらも思っていると彼の心境を察したのか、玉座から立ち上がって歩み寄りながらもそれを公言した。

 

 

 

 

 

「まあ、私がライフルではなくてショットガンとして表現したことの意味は...その内容を読んでお分かり頂けたかとおもいます。ショットガンに装填された弾丸は散弾(バックショット)です、単発ではありません。

これを公表すれば、そのダメージは彼のみならず周囲にいる者をも巻き込みます。

イチゴプロに所属している者は必ずといってもいい程巻き込まれるでしょう...今ガチで貴方と共演している有馬かなも例外ではありません」

 

 

 

 

 

その言葉と共に脳裏に浮かんだのは自分がショットガンをアクアに向けて撃ち、彼だけでなくその周囲に立っていた物が血塗れになって倒れる姿だ。そんなの断固としてやりたくない、出来るわけがない...それに見知った顔もいるんだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「これは...受け取れません」

 

 

 

 

 

そう言いながらも資料を返そうとするハジメ。

だが、井手は資料を手にすると彼の胸に軽く押しつけるようにしてそれを拒否した。

 

 

 

 

 

「持ちなさい、自分の身を守るためです。背に腹は代えられません」

 

 

 

 

 

「ですが...!」

 

 

 

 

 

脳裏に浮かぶ血塗れになって倒れる有馬かな。

こんな代償を払ってまで勝ちたくない...そう思っていると井手がフッと小さく笑ってからこんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

「五十嵐ハジメ、貴方はパラベラムという言葉をご存知ですか?9mmの弾丸の名前にもなっている言葉なのですが」

 

 

 

 

 

「はい、聞いたことなら...」

 

 

 

 

 

「パラベラム...その言葉の意味は

 

 

"汝、平和を望むなら戦いに備えよ"です。

 

 

...持っていきなさい、五十嵐ハジメ。

使うかどうかは貴方に任せます。戦いに備えるのです」

 

 

 

 

 

井手の再催促に困惑した様子のハジメ。

 

彼は手を震わせながらも....

 

 

 

 

その資料(ショットガン)を受け取った。

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