IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第二幕 Buckshot act.9

 

 

ー数日後 

 

今ガチ特設スタジオ楽屋前

 

 

 

遂に迎えた新コーナー、恋愛ディベートマッチ当日。歩き回っていた星野アクアは最後に勝ちを決定付けるものはないかと悩みに悩んでいた。

 

 

武器は多いに越したことはない...そう思いながらも歩いていると電話しているディレクターとふとすれ違った。その際に彼からこんな言葉を耳にする。

 

 

 

 

「あぁ、出演者の情報リストか...スタジオの裏手に置いておくから確認よろしく頼むわ。

 

なかなか表向け出来ないやつだから丁重に扱ってくれよ?」

 

 

 

 

出演者の情報リスト?表向け出来ない?

 

そのフレーズが耳に残り、ゆっくりと振り向くとディレクターの手には何かの資料が挟まった黒いファイルが...あれがその表向け出来ないファイルだろうか?

 

 

こっそりとディレクターの後をつけると彼はスタジオの裏手のブースにあるテーブルの前で周囲を気にするようにキョロキョロと見回してからファイルを置き、何事もないように立ち去った。

 

 

立ち去り際にすれ違いそうになるアクアだったが、咄嗟に物陰に隠れてやり過ごす...

 

間違いない、あのファイルには自分が欲しいであろうあの情報がある。

 

 

内心そう思いながらもテーブルに恐る恐る近づくと、ファイルをバッと広げて大まかな情報を読んではページを捲っていく。そして、あるページに行き着いた彼はスマホを手にとってパシャッ、パシャと撮影していった。

 

 

そのあるページは...五十嵐ハジメの経歴と年齢だ。

 

 

公表されているものとは違い、チグハグで噛み合いづらい部分もこれを見るとしっくりとした噛み合い方を見せた。

 

 

 

 

「(これでいい...コレだけあれば充分だ。

これだけ武器が揃えばあの男は勝負の舞台から勝手に降りざるおえない)」

 

 

 

 

しっかりと証拠を押さえてから近くに掛けられていた時計を確認...まだ時間がある、ケーブル類もあるので裏手に回って印刷出来そうだ。

 

内心そう決めつつ、ポケットにスマホをしまうアクア...

そのまま何事も無かったように部屋から出ると入手した情報をコピーしようとプリンターが設置されている事務室まで移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―2時間後 恋愛ディベートマッチ本番

 

 

遂に迎えたディベートマッチ。

白一色で統一され、テーブルと椅子、それからモニターしか置かれていないシンプルな部屋に足を運ぶ二人...やや緊張した面持ちのハジメ。

普段の収録ではつけない三角型の革ベルトのリューズに指を伸ばすと、少しでも気を紛らわそうとジリリ...と回し始める。そんな彼に対し、アクアの方は余裕を見せるように小さく笑みを浮かべながらも話しかけてきた。

 

 

 

 

「良い時計だな、機械式の腕時計...差し詰め20〜30万ぐらいか。学生が身につけるには高級過ぎる気がするが?」

 

 

 

 

「何を身につけてようが俺の勝手だろ...

それとも、俺のこと揺すってんの?まだ戦いは始まってないはずだけど?」

 

 

 

 

視聴者が見ていない初っ端から見えないところでジャブをかましてくるアクア。彼の頭の中では勝利への大体の構想は出来上がっている...手数で押し切る作戦だ。

最初は軽いジャブ程度に軽い揺すりをかけ、最後の方に大台に入るという構想だ。その過程の間に失言などのボロが出たら御の字...ただでさえ優位な位置を保っている状況を更に優位に進めることが出来る。

 

 

一方のハジメは作戦こそは考えてきているものの、ここに来て緊張からかメンタル面が少し乱れて来ている...

レースとは全く違うベクトルの緊張、正直耐性という耐性がない。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

だが...そんな中でふと師匠の小柏の言葉が脳裏を駆け巡った。

 

 

 

 

 

『今のお前の状況をレースで例えればコーナーで後続にケツを突かれ、クラッシュしそうになったところを差されて先行を許したような状況だ。ここから正当なやり方で勝ってやれ、その状況からの勝ちは外野が見てもイチャモンがつけられない明白な勝利...

先行からの後追い勝利はボクシングで例えれば"KO勝ち"だ』

 

 

 

 

 

そうだ...感じ方は違うがレースだと思えばいい。

そして、劣勢になっているこの状況下で誰が見ても明確な勝ちだと思えるようなKO勝ちを見せつけてやればいい。

 

 

左右の手の甲を交互に撫でるように触れてから深く深呼吸。

 

1回、2回、3回...徐々に深呼吸の時間を長く、深く...

 

 

かなりメンタルが安定してきた。

 

それと共に今回のディベートの相手である星野アクアに目を向けた。

 

 

 

 

 

「(この男は自分より若いが、かなりの強敵だ...最後まで気を引き締めろ)」

 

 

 

 

 

心の中でそう言い聞かせると共にハジメは自分の作戦を振り返った...手数で押し切るアクアとは対照的に攻勢に出る上での中身の質で勝負する作戦。

 

 

そして、それを成功させる上で彼の方が優れている面を活かす必要があった...

 

それは体内時計の精度だ。

 

レーシングドライバーはレース中のペース配分考慮のためにかなり正確な体内時計を持っている。

 

世界で戦う一流ともなれば全開走行時で周回中の0.03秒のズレですら感じ取ってしまうほどの精度を持つ。

 

 

今のハジメはそれほどまでとは言えないが、一般人からは想像つかないほどの精度を有する。そして、彼が武器にするのはこの体内時計の精度の高さだ。

 

 

ディベートマッチの制限時間は5分...

リアリティを持たせるために時計は出演者たちには見えておらず、時間経過は番組スタッフと視聴者ぐらいしか分からない。そのため、この武器は攻勢に出るベストタイミングを見計らうという意味ではとてつもなく大きな武器だ。

 

 

 

 

 

「(今は自分が持てるものをとにかく信じろ...そうすれば勝てる。いや、勝たなきゃダメだ)」

 

 

 

 

 

そう思っている間にスタッフが合図を送ってきた...それから間もなくして前座で喋っていたスタジオからコチラのカメラへと映像が移行。スタジオで中継を繋げているアナウンサーが語り始めた。

 

 

 

 

 

「―では、スタジオから現場へお繋ぎします。

アクアさんと五十嵐ハジメさんです!

今日はよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

そう挨拶を交わされて「よろしくお願いします」と返す二人。緊張が走るスタジオでアナウンサーが二人にこう確認するように問いかけた。

 

 

 

 

 

「―では、改めまして...アクアさんにお聞きします。

ズバリ今回の意中のお相手は?」

 

 

 

 

 

「黒川あかねさんです」

 

 

 

 

 

「―五十嵐ハジメさんにお聞きします。

今回の意中のお相手は?」

 

 

 

 

「あかねさんです」

 

 

 

 

 

意中の相手が被っていると視聴者に見せつけるような演出から互いに睨みを利かせるアクアとハジメ...そのまま数秒間静寂続いた後にアナウンサーが再び語り始めた。

 

 

 

 

「―では、意中のお相手が被ってしまったということで...

互いにどちらが彼氏に相応しいのか論争をしていただきたいと思います。よろしいですね?」

 

 

 

 

 

アナウンサーの確認を聞いて頷く二人...

それと共に彼は視聴者のバイブスを上げるようにゴングを鳴らそうとこう宣言した。

 

 

 

 

「―では...互いに熱い思いをぶつけ合って下さい!

 

恋愛ディベートマッチ開始ッ!!」

 

 

 

 

 

その合図と共にスタッフがストップウォッチを押した...

それと同時にハジメの脳内でもストップウォッチを起動、イメージとして描いているのは筑波で一分切りを果たしたGRスープラでのタイムアタック。単純に考えればあのアタック5周すれば5分という計算だ。

 

が、そうこうしている間にまずはアクアの方から攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

「五十嵐さん。貴方、かなりいい車に乗っていらっしゃるようなので調べさせて頂きましたが...同じ条件の同車種が状態次第では軽く1000万円を超えています。

どれぐらいの負債を抱えているのでしょうか?」

 

 

 

 

いくつか質問のパターンを考えていたが、そう来たかと言わないばかりの表情を浮かべるハジメ。ここはディベートの場だし相手に合わせようと敬意を示す意味でも敬語で答えた。

 

 

 

 

「確かに負債は抱えていますが、一般的な範囲です。例えれば今のカローラクラスの新車をローンを組んで買うような感じです。バイトとレース活動で頭金を稼いだので」

 

 

 

 

「ほう...それで1000万の買い物を半値以下で組めるほどの頭金を稼いだと?」

 

 

 

 

「その1000万というのは今の相場ではありませんか?具体的なデータを提示していただきたい。それから、自分の買った個体は元々ATだったものをMTに載せ替えた過走行車。外観が綺麗なのもそれなりに手入れしてるからです。

更に言えば、買った当初は今よりも相場が安かったので手に届く範疇でした。最近はあの年代のスポーツカーは軒並み値上がりしているので分からないかもしれませんが」

 

 

 

 

「そうですか、ですが...若手のレーサーにしては散財が過ぎるのではないでしょうか?レーサーってそれほど稼ぎになる職業にはとても思えないのですが。

自分はあかねとその先の将来も考えているので、不安定な職をされている貴方には...」

 

 

 

 

そう語るアクアに対して1枚の紙を取り出してはバッと広げるハジメ。なんの紙だか分からずに出された紙に目を通すアクア...その内容はある契約書だった。予想してなかったと軽く目を見開いていると、ハジメは視聴者にも分かるように内容について語った。

 

 

 

 

 

「来シーズンから...

私、五十嵐ハジメはレーシングチーム・カタギリからベリッシモ・モーターワークスのGT部門に移籍。

それに伴い、国内最高峰のGTレースであるスーパーGTに参戦します。それ以上の侮辱は番組のメインスポンサーのベリッシモへの侮辱にもなりますが...続けますか?」

 

 

 

 

バンッと音を立てるように中央のテーブルにサインが綴られた契約書を置くハジメ。思わぬ形で武器が斬られたと思っていたが、アクアの方は序の口だと言わないばかりにメインの武器にすぐに切り替えた。

 

 

 

 

「そうですか。ですが、浮気の疑いがある相手にあかねを任せることは...」

 

 

 

 

「あの写真ですか?あぁ、あれ。捏造ですよ」

 

 

 

 

「捏造、ですか。証明出来ますか?」

 

 

 

 

アクアに聞かれるとスタジオに設置されているモニターの電源をつけるハジメ。まず見せるのは偽装された真奈美とのスキャンダル写真。そこからポチッと操作すると加工前の画像に移った...が、アクアはまだどこか余裕そうな表情だ。

 

 

 

 

「これが真相だと?距離感が離れただけですよね?」

 

 

 

 

「いいから、黙って見てな」

 

 

 

 

そこから更にポチッと操作するとその写真に当て嵌まる大元の写真が出てきた...GTウィングを装着した黄色いS2000の画像だ。あくまで二人は背景の一部で切り抜かれたものだということがここで分かる...が、アクアはまだ動じない。

切り抜かれたと知られただけで、まだ確信に迫れたわけではないと考えているからだ。

 

 

 

 

「これがどうかしましたか?二人でいる写真に変わりはな...」

 

 

 

 

中断させようとするアクア...それに対し、ハジメは真相を詰めてやろうと話を遮るようにして彼にこう問いかけた。

 

 

 

 

「俺たち車好きがこういうSNS向け写真を撮るにあたって...車以外に気を付けてることってのがあるんですが、何だと思います?」

 

 

 

 

 

「な、何だって言われても...」

 

 

 

 

 

「答えはボディの反射で人が写ってないかどうか」

 

 

 

 

 

更にポチッと操作するとS2000ボディの一部にフォーカスされる...そこから歪んだ光景を整えるようにさせるとある人物が映し出された。ハジメの元に駆け寄るあかねの姿だ。

 

 

 

 

 

「この世の中に...意中の相手を浮気現場につれていくような馬鹿っていますか?」

 

 

 

 

 

一番のメイン武器になっているスキャンダル画像も斬り伏せられた。だが、ここで公表したところで生放送を見ていない連中からは真相を知られない。

投票はSNSを通じて行われるため、ここで見てない連中も投票するのだ...

 

が、ハジメはある程度そのことも織り込み済みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―数日前

 

 

ハジメは自室のソファーに座りながらもある人物に協力を求めようとその人物に連絡した。

 

 

その相手は...

 

インフルエンサーのMEMちょだ。

 

 

 

 

 

「ちょっと頼みあるんだけど...いい?」

 

 

 

 

 

「―へっ?頼みって、エッチなこととかはダメだよ!」

 

 

 

 

 

「こらこら、そっちに持ってくな。こっちは真剣なんだよ」

 

 

 

 

 

そう言いながらもスキャンダルの真相写真と文章をMEMちょに送りつけるハジメ。既読がついて彼女が確認したところでその詳細について語り始めた。

 

 

 

 

 

「この資料を注目を浴びるような形にしてある日時にスケジュール投稿してほしい」

 

 

 

 

 

「―ある日時って?」

 

 

 

 

 

「ディベートマッチの放送開始時間の前後。

現場での打ち合わせが始まったぐらいのタイミングがベストかな?バズりそうな時間帯だろ」

 

 

 

 

 

ハジメの頼みに「―うーん...」とイマイチ乗り気じゃなさそうなMEMちょ。「ダメか?」と確認するように問いかけると彼女は悩んでいる理由について語り始めた。

 

 

 

 

 

「―タイミング的にアクたんを敵に回すようなタイミングなんだよねー、私的にどっちの肩を持つとかは特にないのだけど...番組終わったら私もB小町に加入するって話もしたから、なるべくアクたんとの関係は悪くしたくないというか...」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて内心"ダメか..."と頭を抱えるハジメ。

しかし、他を探そうにもこの仕事に適任なのが彼女ぐらいしか思い当たらない。ならば...と、ある提案をした。

 

 

 

 

 

「もし協力してくれるなら...動画のネタに付き合ってやってもいいけど?」

 

 

 

 

 

「―へっ?ハジめん、ホント!?

じゃあ、3回分ぐらいはネタにさせて貰おうかな!?」

 

 

 

 

 

「さ、3回って...1回は?」

 

 

 

 

 

「―3回」

 

 

 

 

 

「に、2回は....?」

 

 

 

 

 

「―ダメ、3回。

 

しばらくアクたんに顔合わせづらくなるんだよー?

それぐらいじゃないとわりに合わないよー」

 

 

 

 

 

MEMちょからの言葉に頭を軽く抱えるようにするハジメ。

しかし、しばらく考えると参ったと言わないばかりにハァ...と息をついてからこう答えた。

 

 

 

 

 

「わかった、3回な。その代わりキッチリ仕事こなしてくれよ?じゃなきゃ、この話はなしだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―恋愛ディベートマッチ 生放送

 

 

 

ハジメとアクアの直接対決の裏でMEMちょの手腕によって偽装スキャンダルの真相が瞬く間に拡散されていく。一部で推測班らしきものが立ち上がり、偽装スキャンダルを流したのがアクア本人、または信者なのではないかと推測が出回り始める。それ故にアクあかカップリング支持が急激な下落を見せた。

 

 

裏でそうなっているとは知らないものの、自分の持ってる一番の武器を切り伏せられたと流石に内心動揺するアクア。

 

しかし、彼にはまだ武器が残されていた...

 

今さっき入手した新鮮な武器だ。

 

 

更に言えばこれは偽りから生まれたものではない...覆しようのない事実だ。一瞬勝ちを確信して思わず冷たい笑みを一瞬浮かべるアクア...そして、こんな風にハジメに対して切り出した。

 

 

 

 

 

「ですが、五十嵐さん...貴方、隠していることがありますよね?」

 

 

 

 

 

「隠していること?」

 

 

 

 

 

確認するように問いかけるハジメ。すると、アクアは数歩彼に歩み寄るようにしてからこう答えた。

 

 

 

 

 

「年齢ですよ。貴方、19歳じゃありませんよね?

 

本当の年齢は...."21歳"。2歳詐称して番組に出演している」

 

 

 

 

 

 

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