IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第二幕 Buckshot act.10

 

 

―今ガチ 恋愛ディベートマッチ

 

 

確信を突くように年齢詐称の事実を突き付けたアクア。

これは紛れもない事実...言い訳したところで先ほど入手した証拠を突きつけてやれば手も足も出ないだろう。

 

もう勝ったも同然だ。

 

 

内心そう確信しては証拠を突き出す準備を進めようとするも、ハジメから意外な言葉が飛んできた。

 

 

 

 

 

「ええ、確かに。

自分は年齢詐称をしていました、本当の年齢は21です。

酒だって飲めるし、煙草も吸える年齢です」

 

 

 

 

 

なんと、反論することもなくあっさりと認めたのだ。

スタッフでも一部の人間しか知らない情報に辺りのざわつきを感じるハジメ。

しかし、動じずにそこからこう繋げてきた。

 

 

 

 

「番組側からの要望で、コンセプトに合わせるためにも詐称して欲しいと頼まれてたのでその指示に従って出演させて頂きました。

とは言え、視聴者や共演者の方々を欺いたのは事実です。

この場を借りて謝罪させて頂きます」

 

 

 

 

 

「そうですか、ということは...あかねに対しても欺いてたと認めるのですね?」

 

 

 

 

 

思ったものとは多少違う形になったが、なんとか自分が向きたい方向に話を向けれたと内心安堵しつつも問いかけるアクア。しかし、ここで彼の口からどんでん返しするような事実が明かされた。

 

 

 

 

 

「いえ、その必要はありません。

何故なら...彼女にはだいぶ前にその事を伝えたので」

 

 

 

 

 

だいぶ、前...?

自分たちの知らないところでそんなことがあったとは思わなかったアクア。そこから隙かさず具体的な詳細について切り込んだ。

 

 

 

 

 

「そのだいぶ前、というのは...具体的にいつでしょうか?

1週間前?それとも、一ヶ月前?」

 

 

 

 

 

「いや、もっと前ですよ。

具体的に言えば炎上した時よりも前...彼女と一緒にプライベートで走行会に行った時です。もっと別の角度から具体的な話をしましょう。

アナタが彼女に手を伸ばし始めた頃から見て...

 

"一ヶ月以上前"です」

 

 

 

 

 

渾身の武器が斬られたような感覚に陥るアクア...

ちょうど別のスタジオから中継で見ていたあかねにカメラが移り変わり、スタッフが事実を軽く確認する。

 

 

 

 

 

「―年齢のこと...知ってたの?」

 

 

 

 

「―は、はい...

一緒にサーキットに行く道中で聞きました。

包み隠す様子もなく、かなりオープンな感じで...」

 

 

 

 

 

一方のアクアは対峙するハジメをここまで押し切っても潰せていないという事実に珍しく内心焦っていた。というのも、彼の戦い方は楽で手っ取り早く勝てるものではあるものの一つだけ致命的な弱点があるからだ。

 

相手のハジメや視聴者側にその弱点を指摘されたらマズい...

 

その前に畳み掛けようと折角入手したネタをベースに作戦を展開した。

 

 

 

 

 

「五十嵐さん、アナタはあかねの年齢を知ってますか?

 

彼女は17歳の女子高生。それに対してアナタは21歳の社会人...不純な恋愛だと思いませんか?」

 

 

 

 

 

アクアの問いかけに「いいえ」と即答するハジメ。そこから更にアクアは追い詰めようと展開を続ける。

 

 

 

 

 

「年齢差が4つある学生と社会人の恋愛、これを不純だと言わないで何だと言いますか?」

 

 

 

 

 

アクアの追撃するような問いに対し、一瞬ニヤリと笑みを浮かべたように口角を上げたハジメ。何がおかしいのか分からなかったアクアだったが、言ってから自分の言葉を振り返って思わず舌打ちを打ちそうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

「(この男、まさか...!?)」

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―数時間前

 

今ガチ特設スタジオ楽屋前

 

 

出演者の誰よりも早く到着したハジメは、廊下でディレクターを見つけては真っ先に話し掛けた。

 

 

 

 

 

「ディレクターさん、奥さんの誕生日近いらしいですが...プレゼント決まってますか?」

 

 

 

 

 

「いや、それがな...正直何渡せばいいかわかんねえし」

 

 

 

 

 

そう言って目線を逸らす彼にハジメはあるものを手渡した。

ベリッシモの化粧品セットだ、店頭価格で1万円以上するものだ。

 

 

 

 

 

「っ、それ....!」

 

 

 

 

 

「自分の言う通りに動いて頂ければ...このセット差し上げますよ」

 

 

 

 

 

「言う通りって?」

 

 

 

 

 

「これをアクアに見せるように仕向けて下さい」

 

 

 

 

 

そう言って資料が挟まったファイルを手渡しで見せるハジメ...中に挟まっていた資料は番組がスタッフに共有しているものをベースにしたものだが、ハジメの部分だけ詐称前の真実とも言える経歴と年齢に差し替えられていた。

 

 

 

 

「...これをアイツに見せるのか?明らかにお前が不利になる情報じゃないか」

 

 

 

 

 

「いや、不利に思えますが...しっかり対策は練っているので大丈夫です。蛇を罠に掛けるための上等な餌に過ぎませんよ。今までやってきた行為からしてこういうネタは好きそうですから」

 

 

 

 

「にしても、どうやって見せる?」

 

 

 

 

「彼が廊下で歩いているのを見たら自分がスタッフに成りすまして貴方に電話を掛けるので、それに合わせるように大声で会話しながら彼を横切るように歩いて下さい。スタジオの裏にこのファイルを置いてから撤収、彼がファイルに釘付けになったところでその姿を写真に撮り、自分の元に送ってください」

 

 

 

そう言って自分の楽屋の方へと戻っていくハジメ。

ディレクターの方は別れ際にため息を小さくつきながらもファイルをしっかり握った。

 

 

 

 

「ヘイヘイ、やっておきますよ」

 

 

 

 

そう言いながら一旦別れるディレクター。

1時間後、アクアが廊下で歩いているのを楽屋の出入り口から確認したハジメ。楽屋内に戻りながらもディレクターに連絡した。

 

 

 

 

 

「姿を確認しました、今からいけますか?」

 

 

 

 

「―ああ、ちょうど仕事に区切りがついた。やってやるよ」

 

 

 

 

そのままスタッフに成りすまして作戦を展開するハジメと話に合わせて動くディレクター。アクアが釘付けになってファイルの写真を撮っている姿をこっそりと写真に収め、ハジメに送りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―現在 恋愛ディベートマッチ本番

 

 

ハジメの頭のイメージで筑波サーキットを走り回っていたGRスープラは4周目のダンロップ下のコーナーを駆け抜けている頃合いだ。差し詰め開始から3分30秒...制限時間の5分から差し引くと残りは1分30秒というところだ。

ハジメにとってはようやく彼の狙っていた時間が回ってきたと言っても過言ではない...

 

この1分30秒というのは人間が話を覚えれる目安の時間だ。昔、学生の時に校長先生の話が長くて最後まで話を覚えてられなかったという経験がある者が多くいると思われるが、人の体の構造的なものを言えばそうなって当然とも言える。

 

ここで如何に視聴者に印象が残るような攻撃を仕掛けられるのか...ハジメの攻撃はそれを重視している。

 

 

 

 

 

「(お喋りは楽しかったか?クソ野郎。ここからは俺の時間だ)」

 

 

 

 

 

マズそうな顔をしているアクアに対し、彼の発言が時間的にもちょうど良いタイミングだったこともあってここからハジメの反撃の狼煙が上がり始めた。

 

 

 

 

「貴方、4つ差の学生と社会人の恋愛が不純だとおっしゃいましたよね?それはどういったデータを元に話されてますか?」

 

 

 

 

「データ、と言うと...」

 

 

 

 

 

「じゃあ、ここから時間を1年だけ進めましょう。互いの年齢は18歳と22歳。更に言えばそこから2年進めれば20歳と24歳、これのどこが不純だと?

それからこの国で4つ以上年の差のカップルは統計上全体の1/3以上を締めています、貴方の発言はそんな彼らへの侮辱にも与えします。その上、心理学的に4つ差カップルというのは意外にも1つ差や同年代よりも上手くいく傾向があると証明されているデータもあります」

 

 

 

 

データも何もない中で一方的な反撃が始まると共に逆にデータを次々と机の上に置いていくハジメ...アクアの疑念は確信へと固まった。この男は自分に失言させるためにワザと弱点をばら撒いたのだと。反撃の機会を伺う間もなく、更にハジメによる怒涛の攻撃は加速していく。

 

 

 

 

 

「学生と社会人が不純というのもおかしな話です。

自分は高校卒業後にレーサーという社会人になる道を選びましたが、年齢的に言えば大学生です。大学生も学生ですよね?

それから、貴方が不純だと言っているのを極端な話をすれば中卒で年下の社会人と高校在学中の年上の学生との恋愛も不純なのでしょうか?そうなる根拠は何処にあるのでしょうか?そのデータを提示して頂きたい」

 

 

 

 

 

まさかの反撃具合にデータも何も用意してなかったアクアは一方的に押されているような状態に...この男がここまでやってくるとは想像もつかなかったと苦虫を噛んだような表情を浮かべる彼に対し、更に別の視点から畳み掛けてきた。

それはアクアがこのやり方を展開しようとしている上で一番の懸念材料とも言えるものだった。

 

 

 

 

「というか、貴方。

討論が始まってから自分に対する攻撃しかしてませんが...

本当に彼女のことを愛してますか?

他人を蹴落とすことしか考えてないのですか?」

 

 

 

 

 

一番の欠点を指摘されたことで視聴者も一気にその流れに沿うような形になった。まずい、このままだとトドメを刺される...そう身構えながらもハジメの方を見ると彼は小さく笑みを浮かべながらも歩み寄ってきた。

 

 

 

 

 

「まあ、彼女が幸せになってくれるのであれば自分以外の人間...それこそ貴方を選んでも自分は悲しむことはありません。それが彼女の選択というなら受け入れます。

ただ、もし...その貴方を選んだ先で彼女が不幸に陥るようなことがあったら...」

 

 

 

 

そのまま更に歩み寄っていくハジメ。

片手を後ろに回し、こっそりと人差指と中指をクロスさせるようにしてスタッフに合図を送るとカメラはハジメの背中とアクアの顔に焦点を合わせ、音声はわざと電源を一旦落としす。

 

すると、ハジメはすれ違いざまにアクアの耳元でこう囁くように伝えた。

 

 

 

 

 

「...アンタを地獄の果てまで追いかけて殺してやる」

 

 

 

 

 

 

まさかの発言に驚きの表情を浮かべて固まってしまうアクア。この表情はカメラにしっかり収められた上、音声が切れているため視聴者側からは具体的に何を言ったのかは分からないものの化けの皮が剥がれかけるような衝撃的な発言をしたという想像はついた。

そんな彼も自分なりに反論を考えている様子だったが、ハジメは余裕の表情を浮かべていた。

というのも、彼の脳内で走っていたGRスープラは筑波の最終コーナーを立ち上がって最後の直線に入ったところだ。

 

 

 

 

 

「(言い返せるもんなら言い返してみな。

まあ、あと3秒もないがな....)」

 

 

 

 

 

それから間もなくしてディベートマッチ終了の銅鑼のSEが鳴り響いた。中継がディベートマッチ会場からアナウンサーがいるスタジオに移り、登壇している出演者たちが会話を繰り広げ始めたところでアクアが間を空けるような形でハジメに話し掛けた。

 

 

 

 

「お前...俺を嵌めたな?」

 

 

 

 

 

「ああ、悪いか?」

 

 

 

 

 

「いや...だが、やり方次第では不利になる情報だ。何故それを?」

 

 

 

 

疑問を投げ掛けるアクアに対し、フッと鼻で小さく笑うハジメ。そのままスタジオの方に戻ろうと歩いて背中を向けるとこう答えた。

 

 

 

 

「アンタが俺に対してそんな慎重にやるとはこれっぽっちも思わなかったからな。

 

それに、俺はアンタほどクールにことを運んでいこうなんて考えてない。

 

"肉を切らせて骨を断つ"...それが俺のやり方だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―数日後 

 

 

チューニングショップ・スパイラル

 

 

 

投票の結果がまとまった...7:3、ハジメ優勢。

 

デートマッチ時の6:4を上回る優勢への逆転劇に今日の鑑賞会は祝杯ムードが漂っている。普通に雑談しつつのいつもの鑑賞会も今回はお菓子やらコーラなどを持ち込んで軽いパーティーのような形だ。

ちなみにこうしようと考えたのは真奈美でお菓子もジュースも彼女が持参してきた。

 

 

彼女が主導になっていることもあって序盤から「カンパーイ!イェエエエイ!!」と特出するような盛り上がり方を見せていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「いやあー、スゴい展開。

策士策におぼれるの典型的な例だねー」

 

 

 

 

 

スマホで投票結果を見ながらもそう呟くとコーラをゴクゴク...と半分ほど一気に飲んでプハァ〜!と大袈裟に息をつく真奈美。まるで新橋辺りで仕事を終えて呑んでいるサラリーマンのようだ。

そんな彼女の姿を苦笑いしながらも見ていた奥山は彼女から貰ったコーラを一口飲んでからハジメの方に目を向けた。

 

 

 

 

 

「よくやったな、あの不利な状況からここまで逆転するとは正直思ってなかった」

 

 

 

 

 

「ええ、ただ自分一人の力じゃありません。

周囲の助力が無ければこんなやり方出来ませんでした」

 

 

 

 

 

「まあな。

だが、それもお前の力じゃないのか?

周囲をそれだけ惹き付けて束ねるのもお前のある種の才能だ...その辺は胸張ってもいいんじゃないか?」

 

 

 

 

奥山の自分を持ち上げるような発言に若干照れ気味のハジメ。そんな彼を横目に真奈美が買ってきたお菓子に手を付けようとテーブルに手を伸ばし、ビスケットの袋を開けると「にしても...」とそこから話を切り替えた。

 

 

 

 

 

「あかねちゃんがお前とくっつくなら...1年後には彼女も免許を取ってるかもな。そうなると、うちの常連になる可能性もあるというわけだ」

 

 

 

 

 

「おっ、となると車選びしないとですねっ!

ハジメくん的にはこれに乗って欲しいとかある?」

 

 

 

 

 

真奈美が首を突っ込むように話に参戦すると「そうだなぁ...」と腕を軽く組むようにしながらも天井に目を向けて考えつつも答えた。

 

 

 

 

 

「理想を言うとやっぱり後輪駆動か。車重が比較的軽めのやつ」

 

 

 

 

 

「となると、私と同じZC6とかZN6の86/BRZ辺り!?」

 

 

 

 

「一番買いやすそうなのはその辺りだが、お前とダブりたいとは思わないだろうからな...実用性皆無でもいいならロードスターも視野に入ってくる。

エイトなんかもいいが、REだから整備性がな...こうして考えてみると比較的新しめの軽い後輪駆動ってかなり限られてくるな」

 

 

 

 

色々と何を勧めようか悩んでいるハジメ。

しかし、そんな彼とは対照的に奥山はハハハッ...と笑ってはこんな事を言い出した。

 

 

 

 

 

「多少古くたって俺が面倒見てやるよ。

大体、ハジメ...お前のNSXだって94年式だろ?

今から何年前だって話だよ」

 

 

 

 

奥山の指摘に矢が刺さったようにウグッと動きを止めるハジメ。そんな彼を見ながら、クッキーを一つ手にしてモグモグと食べてから「でも、まあ...」と軽く同情するような口調になってはそのまま語り続けた。

 

 

 

 

「気持ちは分からないでもない、俺らがお前ぐらいの年齢のときはいい感じのスポーツカーがゴロゴロ転がってたからな。それが今ではその年式の車は軒並みプレミアがついて新車価格以上の値がついてる個体も珍しくない使用状況だ。それでもって古いから壊れやすく、整備はシビア...車によってはパーツが出れば御の字みたいなのもある。やりづらい時代になったな」

 

 

 

 

「確かに...でも、正直あかねが選べばどんな車でも構いませんよ。極端な話、ミニバンでも。アドバイスは言うにしても決めるのは本人ですから」

 

 

 

 

そう言ってから自分のコーラを開けてようやく飲み始めたハジメ。1/3ほど飲み終えて息をついた時に今度は真奈美の方が「ねえ、ハジメくん」とあることを問いかけた。

 

 

 

 

「ハジメくん、偽のスキャンダル流されて割と追い詰められてたのに...カウンターみたいなことはしないんだね。

スキャンダル流したのがアイツだって世間に知れ渡れば、7:3どころか9:1とかまで追い詰められたんじゃない?」

 

 

 

 

真奈美の問いかけに自分の考えを再度心の中で問うように静かにコーラの水面を眺めるハジメ。しばらくして答えが纏ってからゆっくりと顔を上げながらもこう答えた。

 

 

 

 

「暴走した正義ほど怖い物はない。

あかねが炎上した時だってそうだ、言ってる奴らは自分が正義だから何言ってもいいという気になって言いたい放題、やりたい放題の状態になる。

俺はそんな奴になりたくないし、そんな奴を量産したくない...これでいいんだよ、これで」

 

 

 

 

そう言って再びコーラを飲み始めるハジメ。

しかし、真奈美の方はあまり浮かない顔だ...彼の意見に賛同できないといった様子だ。

 

 

 

 

「言ってることの意味は分かるけど...優しすぎだよ、ハジメくん。

多分、あの男は息の根を止めない限り何度でも襲ってくると思うよ。それこそ取り返しがつかないような襲い方も厭わないかも...ああいうのは手段選ばないタイプだから」

 

 

 

 

「襲い掛かったところでまた追い返せばいいだろう。違うか?」

 

 

 

 

ハジメの問いかけに渋々頷く真奈美...しかし、内心では違うことを思っていた。

 

 

 

 

「(私がなんとかしないと...私の好きな世界を護るために)」

 

 

 

 

 

 

 

 

   

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―3日後、朝

 

イチゴプロ 事務所

 

 

 

ディベートマッチでの大敗はアクアにとっては痛い誤算だった。番組ももう間もなく終了という状況下、偽のスキャンダルは失敗に終わったというのも考えると即効性があるものででっち上げないとダメだ。

 

その思考から彼が思いついた作戦...

それはハジメにこっそり"薬物を所持させる"というモノだ。

 

 

収録の合間にバックなどに忍び込ませ、収録が終わった時に指摘して警察を呼ぶ...これで薬物所持の現行犯で引っ張ることが出来る。そうなれば向こうもあかねとの恋愛どころの話ではなくなるだろう。

気の毒ではあるが、アイを殺した実の父親を追い詰めるためにもあかねが必要...彼女をあの男に取られるわけには行かないのだ。

 

 

 

自室でノートPCを開くと秘匿性の高い掲示板でバイヤーとやり取りを行い、受け取りの場所と時間を設定...場所は駅前のコインロッカー。

 

受け取り時間は夕方...

午前中に同じロッカーに提示された金額を入れて取引する流れだ。入金されていない場合は取引自体がなくなる。

登校途中で立ち寄る形で行けるだろう...

 

そうこう考えてる間にドアの向こうから「おにーちゃーん!」と自分を呼ぶ声が聞こえてきた。ルビーだ...恐らく一緒に通学しようという話だろう。

 

 

 

 

「玄関で待ってろ、すぐにいく」

 

 

 

 

そう告げて制服に袖を通して何事も無かったかのように玄関まで足を運び、ルビーと横並びになるように通学路を歩き始める。番組が延期されたこともあり、季節はすっかり秋の暮れ...街路樹の葉も紅葉を終え、冷たい風に吹かれてどこかに散ってしまった。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、まだ諦めちゃダメだよ?

私、あかねお姉ちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しいってずっっと思ってるから!ファイトだよ!」

 

 

 

 

「あぁ...」

 

 

 

 

ルビーに番組のことで励まされている間にもあちこちで小鳥の軽やかな囀りが聞こえる...こんな清々しい登校は久々かもしれない。

しかし、それとは裏腹にこの後に駅で取引のための入金がある。横を歩いているルビーに気付かれないようにやらねば...そう思いながらも歩いて交差点の曲がり角を曲がった時だ。

 

 

 

目の前に手提げカバンを持った一人の女が立っていた。

パーカーを着ていてフードを深々と被っているものの、その姿に見覚えのあったアクアは不意打ちを食らうように足を止めた。

 

 

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

 

 

急に足を止めた彼の顔を覗き込むようにするルビー...

その間に女の方がズカズカと怒りを露わにするように近づいてくる女。

 

そして....

 

 

閑静な通学路にパァーンッ!という平手打ちの乾いた音が響き渡った。強烈な一撃.....激しい痛覚と共に鳴り響く耳鳴り。目を見開きながらも受けた箇所を押さえているとルビーが「ちょ、ちょっと!」と間に入るようにして制止するように入ってくるも女の方は動じる気配はない。

 

 

 

 

「へー、驚いたよ。アンタみたいなカスにも痛覚ってあるんだ」

 

 

 

 

その言葉と共に深々と被っていたフードを剥がす女...斎藤真奈美だ。彼女の姿に内心動揺するアクアだが、ルビーは自分の兄を守ろうと彼女に突っ掛かり始めた。

 

 

 

 

「人の兄をいきなりビンタしてカス呼ばわりって...!

貴女こそ...!!」

 

 

 

 

そう言う彼女の言葉に動じず、手提げカバンからあるものを手に取ると宙に投げ捨てるようにしてばら撒く真奈美。

何のことだか分からずに宙を舞う資料の一つを恐る恐る手に取るルビー...そこにはアクアがスキャンダルを捏造した証拠が全て書かれていた。

 

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん...これ...!?」

 

 

 

 

 

驚きのあまり声を震わせるルビー...一方のアクアは痛みが引いてようやく顔を前に向けようとしているところだったが、その間に真奈美にガッ!と胸ぐらをつかまれて引き寄せられた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「タマ付いてる癖に正々堂々勝負もできねえのか、クズ」

 

 

 

 

その指摘に目を逸らすアクア...だが、真奈美の方はそこから更に畳み掛けるように続けた。

 

 

 

 

「アタシ、あの時に言ったはずだけど?黒川あかねから手を引けって。じゃないとタダじゃ済まさないって」

 

 

 

 

「っ...やりすぎだ。妹まで巻き込む必要はないだろ」

 

 

 

 

「必要ない?どこが?

アンタ、下手すれば人の人生滅茶苦茶にするようなことしたんだよ?

なのに自分がやられればこれって...都合良すぎない?」

 

 

 

 

真奈美の指摘に反論できないアクア。彼を更に追い詰めようと更に真奈美の方は話を続けた。

 

 

 

 

「言っておくけど、アンタの次の手は分かってる。

とりあえず、駅前のコインロッカーには行かない方が良いって忠告しておくよ。私服警官が巡回してるだろうから」

 

 

 

 

なんと、次の手まで彼女に知られていたのだ。

 

どうして...?自分以外は知らないような情報をどこで?

 

 

考えに考えるアクアだが、答えが出てくるまではそれほど時間が掛からなかった...前に家に訪問してきた時にリビングに置かれていたノートPCに遠隔でモニターが見えるように小細工したのだろう。知らない間に戦う上でのイニシアティブを全て掌握されていたのだ。

 

 

この女...ただモノじゃない。

 

 

奥歯を噛み締めるようにアクア。そんな彼に対し、真奈美は最後の通告と言わないばかりにこう問いかけた。

 

 

 

 

 

「自分が何をすべきなのか...分かるよね?」

 

 

 

 

 

悔しいが、ここは認めるしかない...

アクアは両手で握り拳を作り、手を震わせながらも真奈美にこう告げた。

 

 

 

 

 

「黒川あかねのことは....諦める。

 

今後、彼女とは関わらないように立ち回る」

 

 

 

 

 

「その言葉、嘘じゃないよね?

もし嘘だったら...アンタの人生無茶苦茶になるまで追い詰めるから」

 

 

 

 

 

そう言い残して立ち去る真奈美...

アクアは彼女の背中を黙って見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

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