IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第三幕 ANTARES act.3

 

 

 

—3日後、夕方

 

チューニングショップ・スパイラル

 

 

岡山から帰ってきたハジメはNSXの整備を任せようと久々にこの場所まで足を運んだ。早速リフターで上げられる自分の愛車を眺めていると整理されたツールボックスからスパナを手に取ってきた彼から質問が飛んできた。

 

 

 

「どうだった、岡山は?」

 

 

 

「そうですね..正直な話をすると筑波や富士、鈴鹿と比べてあまり走り慣れたコースじゃないんでチグハグ感があったことは否めませんね。

ただ...コース以上にマシンはもっとチグハグ感がありました」

 

 

 

ハジメの言葉に作業に取り掛かろうとする奥山は手を止め、意外そうな表情で確認するように見てくる。

 

やはり、自分の悩みは端から見れば贅沢すぎるもの...

 

 

例えV6ターボでもフェラーリには変わりないのだ。

 

 

そう心の中で言い聞かせてはふと別の話題を思い出し、「そういえば」と言いながらもあるものを奥山に見せた。

 

岡山のお土産のきび団子だ。

 

 

 

「お、悪いな」

 

 

 

「いえ、いつもお世話になってるんで...遠慮なく受け取ってください」

 

 

 

そう伝えては作業台の邪魔にならなさそうなスペースにきび団子を置くハジメ。そんな中、後ろから誰かの気配を感じ取る...斎藤真奈美だ。

 

 

 

 

「お前、どっから出てきた...てか居たのかよ」

 

 

 

「うんっ。お土産のニオイがしたもので」

 

 

 

「どんなニオイだよ...」

 

 

 

呆れた様子でそう言いながらも数歩ほど距離を取るようにすしてから「お前の分も後でやるから安心しろ」と告げるとフフーン!と小学生染みた満面の笑みを浮かべる真奈美。

そんな中で作業を進め始めた奥山が「そう言えば...」と別の話題に切り込んだ。

 

 

 

「ハジメ、あかねちゃんとはどうなんだ?」

 

 

 

「どうって...まあ、上手くやってると思いますよ。

 

先週辺りに初詣行きましたし」

 

 

 

「初詣?随分遅いな...1月も終わりの終わりじゃないか」

 

 

 

「まあ、お互いに予定が合わなかったもので...

でも、1月終わりでもわりと有名なところ行ったんで人はめちゃくちゃ多かったですよ。あれを一番盛り上がる元旦とかに行ったら本当に身動き取れないぐらいやばかったと思いますよ」

 

 

 

ハジメの言葉に作業を進めながらも「有名人ってのも大変だな」と言葉を漏らす奥山。カチカチ、カチカチ...とラチェットを回す音が響く中で今度は真奈美が話を切り出してきた。

 

 

 

 

「忙しくてもよく会うようにしないとダメだよー?」

 

 

 

「そんぐらい分かってる」

 

 

 

「分かってないよー、そうじゃないとあかねちゃんみたいな綺麗で性格の良い子は取られちゃうよ?

若干無理にでもいいから予定合わせてデートしたほうがいいと思うよー?」

 

 

 

真奈美の言葉に珍しく一理あると「んー...」と困ったように眉間にシワを寄せるハジメ。

少し間を空けようにしてスマホを手に取り、スケジュールチェック...

 

今週末に会見があるが、上手いこと行けば昼過ぎに全部終わる..夕方頃から会えそうだ。

 

 

 

「今週末会うか...連絡入れよ。岡山の土産も渡さないとだし」

 

 

 

ハジメの呟きに「「おっー!!?」」と盛り上がりを見せる二人。彼がピッピッとスマホを操作している間に二人で更に加速するように勝手な盛り上がりを見せた。

 

 

 

「あかねちゃん、今年で18なら免許取れるよね!?

それなら二人で視察がてら車観に行くのはどう!?」

 

 

 

「おぉー、それいいな。是非ウチにも来てくれよ、ヤードに割といいの入ってきてるぞ」

 

 

 

二人の盛り上がりぶりにやや困惑気味な様子のハジメ。

「まだ行くって決まったわけじゃないし...」と一言前置きしつつもスマホの操作を続けてあかねに直接連絡を取ろうと試みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

—同時刻 劇団ララライ

 

 

今日の稽古の内容にイマイチどうすればいいのか分からずに困惑の表情を浮かべながらも帰り支度を進めるあかね。

 

私服に着替え、ロッカーを締めた時にハイライトのように浮かび上がってくる...それは原作者の鮫島アビ子が稽古を見学しに来た時のハイライトだ。一度原作者に納得して貰おうと現状の舞台を通しで見せた時に彼女からこんな打診があったのだ。

 

 

 

「—台本、全部書き直して下さい。こんな内容では納得行きません」

 

 

 

原作者の一言で今までの稽古をしてきた台本の内容が全て無しになり、現場全体の雰囲気も不味い状況に...更に言えば自分の相方とも言える星野アクアはイマイチ前向きではない状態だ。

せめて、自分にできることを少しずつ行なって現場をいい方向に導くアシストをしたい。

 

そう思いながらも更衣室から廊下に出た時にピロピロと自分の着信音が鳴り響く...反響するように響く音に立ち止まり、相手を確認。ハジメだ。

 

 

 

「もしもし?」

 

 

 

「—もしもし、あかね?いま大丈夫?」

 

 

 

一度その場で立ち止まり、辺りを確認してから廊下の壁際の方に軽く移るように歩きつつも「うん、大丈夫だよ」と返すあかね。すると、彼は「—そっか、良かった」と安堵するような言葉から本題に入るように語り始めた。

 

 

 

「—今週末、確か空いてたよな?

その...会見の予定あったけど、昼過ぎぐらいで終わるからそれから会わないかなーって」

 

 

 

予想していなかった誘いに「えっ」と思わず言葉を漏らすあかね。今週末はアクアと一緒に自分達が舞台を行う予定の会場まで足を運び、現場の雰囲気がどんなものなのか一緒に観に行く予定だ。

だが、こっちの予定を蹴ったら今後の現場の雰囲気を悪化させてしまう可能性もある...そう思い、悩んでいる間に電話越しのハジメが更に楽しげな声で語り続けた。

 

 

 

 

「—あかね、今年で18だろ?

その...よかったら一緒にどんな車があるか見て回らない?

 

奥山さん、覚えてるよね?

前に走行会の時のショップにいたオーナーの人。

あの人が割と張り切っててさ、自分の売り場見てほしいなんて言ってるし...真奈美も楽しそうだし、手伝うみたいなこと言ってるし。あ、ダメなら横浜辺りで普通にデートでも...!」

 

 

 

ハジメの言葉に気持ちが揺らぐあかね。

しかし、自分は舞台役者だ...現状からしてこの選択が舞台の成功と失敗を大きく変える可能性だってある。

 

自分の選択で現場が更に険悪なムードになるのは避けたい...

 

 

あかねは葛藤するように間を空けるも、心を鬼にし「ごめんね」と断る決意をした。

 

 

 

「その日、予定が入っちゃったんだ...本当にごめん」

 

 

 

「—そっか...俺の方こそごめんな。もっと早くに言えば良かった」

 

 

 

「ううん...また今度行こ?」

 

 

 

「—そうだな。舞台稽古、忙しいだろうけど頑張れよ?応援してる」

 

 

 

「うん、ありがとう。じゃあね」

 

 

 

そう言って通話を切るあかね。

星野アクアはハジメにとっては過去の恋敵...その男と自分は週末に舞台鑑賞。やや後ろめたい気持ちもあるが、恋愛などではなくあくまで仕事のため。

 

自分の選択は間違ってない...はず。

 

 

そう心の中で言い聞かせつつも稽古場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

—週末 ベリッシモ本社 会見室

 

 

Belissimo Motor Worksと大きく綴られた白黒の背景をバックにテーブルがセットされ、登壇して着席する四人。

記者席から見て左から井出、秋山、石神、ハジメの順番だ。

井出はスーツ姿、秋山はベリッシモの公式の白いブルゾンを身に纏い、石神とハジメは公式の白いレーシングスーツに白キャップと言った格好だ。

 

記者席はGT300の参戦会見としては異例なほど埋まっており、モータースポーツ関係だけでなく芸能関係の記者も何人かいる状態。パシャパシャッとカメラのフラッシュが差し込んでくる中、記者から井出の方に向けて質問が飛んでいった。

 

 

 

 

「—井出さん、帝国新聞の金山です。今回の参戦理由についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

「参戦理由...ですか?

ズバリ、昨今の国内モータースポーツ...特にハコでのレース事情があまりにも美しくないためです。鉄で例えると完全に錆びついてしまっております...錆びてしまった鉄というものは磨きを入れなければなりません。我々はその磨きを入れる...言ってしまえば研磨剤の役割です。その使命を果たすべく、参戦を決意しました」

 

 

 

 

「—月刊ステアジャーナルの山田です。

井出さん、将来的なビジョンなどはありますか?」

 

 

 

 

「そうですねぇ...まずはGT300で実績を上げること。

そして、10年後に大手自動車メーカーとパートナーシップを締結...新規契約後にGT500参入というのが私の展望です。ですが、まずはメーカー側から求められるような大きな実績を残さなければなりません。その為、今回ここにいる3人には土台作りも兼ねてしっかりと頑張って頂きたいと思っています」

 

 

 

「—GT500ですと既にスーパーフォーミュラで戦っているTKマッハコーポレーションの存在がありますが、やはり意識されてますか?」

 

 

 

「いいえ、特には。現状はクラスも違うもので...

ですが、もし10年後に私の展望通りにGT500という同じクラスになった際は容赦なく叩きのめす気でいます」

 

 

 

若干オーディエンスを沸かせるような強気な姿勢を見せながらも淡々と受け答えしていく井出...仕事柄、こういう会見にも慣れているのだろう。そして、記者達の注目は監督初挑戦の秋山の方へと向いた。

 

 

 

 

「—週刊カービジョンの竹中です。

秋山監督に質問があります。

今回、初の監督挑戦となりますが...意気込みや考えなどを伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 

「自分はサーキットでのハコレースだけではなく、ラリーやジムカーナでの経験もあります。ですので、一つのことに縛られない多角的な見方で選手たちを見て導いて行きたいと考えてます。それと経験はないですが、ハートの熱さではどの監督にも負けない自信はあります。そういった面でも勝負をしていきたいと思っています」

 

 

 

井出、秋山と続いて次は石神だろうと油断していたハジメ...しかし、ここで次の記者はまさかの石神を飛ばしてハジメをご指名してきた。

 

 

 

 

「—月刊イグニッションの山本です。

五十嵐選手に質問があります。

秋山監督同様、今回が初のスーパーGT参戦となりますが...目標などはありますか?」

 

 

 

 

自分が当てられるとは思ってもおらず、一瞬動揺するように表情を崩すハジメ。隣の石神から一瞬睨まれたような気もするが、それ以上にタダでさえこういう畏まった会見は慣れてないため緊張が一気に跳ね上がっていく。

しかし、こんな感じの質問は来ると予想がついていたハジメ...緊張の中で少し間を空けるようにしてゴクリと唾を飲んでからゆっくりと口を開けて語り始めた。

 

 

 

「...自分の目標は今シーズン中に表彰台の一番高い位置に立つことです」

 

 

 

ハジメのまさかの言葉に記者達が一気にざわつき始めた...というのも、記者達も2年前から復帰してからほぼ独走状態のあの男の存在を知っていたからだ。

 

火原幸也...別名、"不墜の火星"。

 

90年代モータースポーツ黄金期を創り上げたレジェンド的ベテランの一人だ。

 

 

このような答え方をするとは知らなかった石神からも強く睨まれた気がする。が、言った所で今のなしでと訂正するのはダサすぎる。撤回する素振りも見せずに毅然とした態度を見せる中、記者は少し落ち着いた段階で再確認するように間を空けてから問いかけた。

 

 

 

「—五十嵐選手...その言葉は火原選手への宣戦布告と受け取ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 

驚きの表情のまま再度問いかけてきた記者。

ここで引き下がろうと思えば引き下がれる。

だが、引き下がったら格好がつかない...覚悟を決めないと。決心したハジメは真っ直ぐとした目を向けながらもこう答えた。

 

 

 

「...そう受け取って頂いても構いません。

自分の速さを証明してみせます、スーパーGTでも通用すると」

 

 

 

 

ハジメの言葉と共におぉー...!?というどよめきから一気にシャッター音がパシャッ!パシャパシャッ!と鳴り響いた。この瞬間は切り抜かれるかもしれない...その後も会見は続くも、決意を固めてしまったというプレッシャーからか自分への質問以外は誰がどんな質問をされたかほとんど聞けなかったハジメ。そんな中で会見は終盤に...机の下でこっそりと身につけていたソーラー腕時計を確認し、ホッとしていると最後になるであろう質問が彼に向けて飛んできた。が、その内容は想定外のものだった。

 

 

 

 

「週刊芸能ウォッチャーの朝野です。

五十嵐選手に質問があります。

近々、東京ブレイドの舞台で貴方の彼女の黒川あかねさんが鞘姫役出演されますが...相方とも言える刀鬼役を演じるのは貴方のかつての恋敵のアクアくんです。これに関してどう思われますか?」

 

 

 

 

こういう質問が飛んでくるとは予想もしなかったハジメ。思わず、戸惑いを見せて間が空いてしまうと急いで助け舟を出そうと秋山が勢いよく話に割って入ってきた。

 

 

 

 

「失礼しますが、その質問はウチのモータースポーツ事情とは全く関係がありません。そのような内容に関しては...」

 

 

 

回答を断るような姿勢を見せようとする秋山。しかし、ハジメは真っ直ぐとした目を向けながらも「監督」と静止するように呼びかけた。やや驚いた表情で引き下がる秋山を見てから井出にアイコンタクトで"話していいか?"と問いかけると彼は小さく笑みを浮かべてからそっと目を閉じた...

 

"答えてもいいが、ケツは拭かない"

 

彼の性格や取った態度からしてそんな答えだろうと内心察しつつもハジメは再び記者達に目を向けて答えた。

 

 

 

「彼女はあくまで仕事でやっています、自分達が走っているのと同じです。止める理由は一切ありませんし、その資格は自分にはありません。彼女らしく真っ直ぐ直向きにやってほしいと考えています。

 

公演は4月の第一週から始まるそうです、皆さんどうぞ足を運んでやって下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

—同時刻 劇場

 

 

アクアと舞台の下見がてらこの場所まで足を運んだあかね。

上演されている舞台は卓球漫画を題材としたもので、従来の舞台からは想像つかないCGを使った背景や風を切るような風圧を感じる装置...

 

これには舞台が好かないといったアクアも流石に驚きを隠せない様子だ。

 

 

 

 

「(スゴいな、想像以上だ...)」

 

 

 

演者が玉を打つ度に顔の横をすり抜け行くような感覚...その上、演者が映像を通さずに演じるライブ感も重なって彼が気にしていた没入感の欠落というものはクリアするどころか一般的な映像作品を凌駕するクオリティにまで仕上がっていた。

 

横で見ていたアクアの様子に上手くいったと思わず小さく笑みを浮かべるあかね。

 

終演後にしっかりと互いにサングラスや帽子で変装しつつも外を歩く...冬の冷たい風を感じつつも歩く中で「どうだった?」と問いかけるアクアの顔を覗き込むようにして問いかけると彼は考え込むように自らの顎を軽く持つようにして理論的に分析した。

 

 

 

「想像していたよりも良かった。

背景にCGなどを駆使することによってシーンの切り替えも人力に頼らず、スムーズに出来ている。席周りも没入感を感じられるように体験型アクション映画のような要素が盛り込まれていて、更に言えば舞台でしか味わえないライブ感も備わっている。下手な映像作品よりも没入感が味わえる...」

 

 

 

 

「よかった、楽しんでくれたみたいで」

 

 

 

 

アクアに理解させるという当初の目標を達成することが出来たあかね。満足そうにしながらも歩いていると出入り口付近で見覚えのある姿を見つけた...東京ブレイドのイベント進行を勤める雷田澄彰だ。

 

 

 

 

「雷田さん...?」

 

 

 

「いやー、二人とも見に来てくれてたんだ。

この舞台も僕が手かげていてね...どうだった?今回の舞台」

 

 

 

 

「楽しかったです、非常に良いものを観させて頂きました」

 

 

 

 

「そっか、良かったよ。

僕も肩書きは社長って身分だけど自分が手掛けた公演の後は必ずお客さんの顔を見るようにしてるんだ...

楽しそうにしてたら上手くいったんだなぁとか、ムズかしい顔をしてたらビミョーだったんだなぁって。そういう反応見るたびにこの仕事をする糧にもなるんだ」

 

 

 

 

そう言いながらも談話しながら帰っていく客の反応を見る雷田...楽しそうに談話するその様子を見て小さく笑みを浮かべては「今日は上手くいったみたいだね」と言葉を漏らす。

しかし、そんな彼の注目は次にあかねとアクアの方へと向いた。

 

 

 

 

 

「それにしても、二人でここまで足運ぶなんてねー...例の彼氏さんは?」

 

 

 

悪気なさそうにあかねに問いかけてきた雷田。

例の彼氏...ハジメのことだろう。いきなりの質問に思わず「えっ」と声を漏らすあかね...こちらが先約だったとは言え、彼の誘いをこちらは断って二人で行動している。

今頃会見も終わり、向こうも撤収している頃だろうか...等と考えていると罪悪感のようなものに見舞われながらもその場で笑顔をつくってこう答えた。

 

 

 

「彼、今日はお仕事みたいで予定が会わなくて...なのでアクア君と会場の下見がてら鑑賞しに来ました」

 

 

 

 

咄嗟についた嘘。強くなる罪悪感...

しかし、今下向きになっている東京ブレイドの舞台を少しでも上向きにさせるためにこれは必要悪なのかもしれない。

心の中でそう言い聞かせていると雷田の方は「そっか、それは残念だねぇ」と呟いてから頭を掻くようにしつつもこう呟いてきた。

 

 

 

 

「にしても、アクアくんとあかねくん...二人ともお似合いだよ。

あのレーサー坊やには悪いけど、僕は番組やってる時から二人がカップルになるんじゃないかって予想してたんだ。鏑木ちゃんに二人名指しでオファー出したのもそれを見越してのことだし。まあ、結果としてああなったにも関らず強く推して来たのは誤算だったけど」

 

 

 

 

雷田の言葉で動揺したような表情を見せるあかね。

本当にハジメが好きだったらここで多少注意することぐらいは出来たのかもしれない...が、出来なかった。

 

自分が気弱な性格だからか?

 

いや、あるいは...

 

本当はアクアが好きでハジメのことは...

 

 

心の中で色々と自分の中に質問を投げかけるも、答えという答えは見えてこない。

 

そんな彼女の様子を見て色々と察した雷田は「おっと。悪い、悪い」と苦笑いしながらも謝罪しては背中を見せた。

 

 

 

 

「あまり気にしないでくれよ?ただの戯言ぐらいに受け取ってくれ。じゃあ、僕はまだ仕事があるから」

 

 

 

 

そう言い残してその場から去る雷田...彼の背中を二人で見送ってからアクアは数歩歩いてから振り向いてあかねにこう提案した。

 

 

 

 

「時間が時間だし...昼、いこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

—ベリッシモ本社 控え室

 

 

会見が終わり、ここまで移動してきてはレーシングスーツを着たままスマホを手にするハジメ。

 

 

時間と通知を確認...

 

ちょうどお昼時の時間、通知はなし。

 

 

 

あかねは今頃何をしているだろうか?

 

 

 

内心そう思いながらも着替えようと振り向いてロッカーに手を掛けた時、バンッと勢いよくドアを開ける音が部屋中に鳴り響く...石神だ。怒りの形相を浮かべながらもハジメに詰め寄るようにしてきた。

 

 

 

 

「さっきの会見の質疑応答、どういうつもりだ?」

 

 

 

 

「どういうつもりって...どの質問に関しての答えについてですか?」

 

 

 

 

「全部だ、全部!

特に気に入らないのは今シーズン中に表彰台の一番高い位置につくという宣言だ、1位なんて何シーズンも走ってきてる俺ですら一度も立てたことがないんだぞ!?」

 

 

 

かなりの勢いで詰め寄る石神...しかし、そんな彼の仲裁に入るように一人の男が「俺が許可した」と言いながら歩み寄ってきた...入り口の方に目を向けるとそこには秋山の姿が。彼はそのままハジメを擁護するようにこう語り続ける。

 

 

 

 

「事前にありそうな質問を掻き集めてコイツに回答をつくってもらったんだ。井出のおやっさんも了承済みだ...おやっさんに関して言えば"これぐらい大口叩いた方が注目を集めれる"って褒めてやがった」

 

 

 

 

軽く腕を組むようにしながらも答える秋山。しかし、彼にもハジメに関して懸念する事があった...それは芸能記者の最後の質問された時のことに関してだ。

 

 

 

「にしても、五十嵐...最後の質問に関しては答えなくて良かった」

 

 

 

 

「そうですか...やはり内容がダメでしたか?」

 

 

 

 

「いや、内容自体は及第点ってところだ。

だが...その前の質問された時の表情だ。

ああいう鳩が豆鉄砲を食らったような表情は記者の奴らからすれば弱みとも捉えれる。写真だけ切り抜かれて悪用されたりなんてざらにあるからなぁ、ああなるぐらいなら答えなくていい」

 

 

 

 

「そうですか...すいません、次からは気をつけます」

 

 

 

 

頭を軽く下げるハジメに対して何かに気づいた秋山。フッと鼻で笑ってから軽く肩にポンッと手を置くと単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

「さっきから浮かねえ顔してるなぁ...何かあったのか?」

 

 

 

 

「いや、実は会見後に例の彼女と会おうって誘ったんですが...断られちゃって」

 

 

 

 

「なんだ、そんなことか...よし。

じゃあ、夜空いてるか?全員で呑みにいくぞー。

もちろん、俺の奢りだ。

お前らの仲を深めるためにも、な?」

 

 

 

 

石神とハジメを交互に見る秋山...そんな彼の動きに二人ともやや気まずそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

—1週間後 とある道場

 

 

居合を終えて正座して精神統一する火原の元に一本の電話が掛かってきた...

邪魔をされたとやや不機嫌そうにしながらも立ち上がり、携帯を手に取って応じてみる...相手はMARSの監督の菊正だ。

 

 

 

 

「—火原さん、例の会見の内容はご覧になりましたか?」

 

 

 

 

「ああ、あの小僧のことか?随分とデカい口を叩く奴が入ってきたものだな...」

 

 

 

その場で軽く腕を組みながらも綴られていた記事の内容を思い出し、フッと思わず鼻で嘲笑う火原。そのまま道場内の片隅に掛けられていたカレンダーに目を向けるとこう呟いた...

 

 

 

 

「開幕戦の岡山まであと2ヶ月と言ったところか...

刀の錆にしてやるのが楽しみだ」

 

 

 

 

 

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