—1週間後 劇団ララライ稽古場
脚本家と原作者のオンライン打ち合わせによって一気に書き換えられた脚本...
演者の演技力任せの脚本内容、難易度がより一層上がるような内容だったがより原作寄りの脚本内容になったこと等からあかねの演技にも力が入る。それだけではない、相方とも言えるアクアもようやく本腰を入れるようになり始めたのだ。
演出の金田一に向けて二人で通しで演技を見せることになり、やや嬉しそうにしているあかねと相変わらずクールな表情のアクア。
金田一に呼ばれるまで稽古場の脇で待っている二人に誰かが歩み寄ってきた...有馬かなだ。新しい台本を丸めて肩を軽く叩くようにしながらもこう話しかけてきた。
「アンタたち、前に二人で舞台観に行ったそうね?」
「え、どうしてそれを...?」
「雷田さんが嬉しそうに話してるのたまたま横で聞いたのよ。アンタたち、自分達がどんな存在かって自覚が足りて無いわね。少しは気を付けなさい」
ややキツめの口調でそう言うとかなの目はアクアの隣に立っているあかねの方へと向く...そのまま少し詰め寄るようにしては指を差して「とくにアンタ」と釘を刺すように告げてから台本を向け、その理由をスラスラと並べ始めた。
「アンタの場合は公的に知られている彼氏がいるわけでしょ?」
「そ、そうだけど今回のはそういうのじゃないよ!
私はアクアくんと舞台会場の下見をするために...!!」
「アンタがそういうつもりでも、世間一般的に見たらどっからどう見たって浮気に感じられるわよ。
アンタの彼氏の五十嵐ハジメだって、写真を切り抜かれた挙げ句に加工されてスキャンダル扱いされたんでしょ?
世の中、そんなに綺麗じゃないわよ。仕事だから何やってもイイなんて考えてたらそのうち足元掬われるわよ。
それこそ、この時期にスキャンダルなんて上がってみなさい。キャスト変更になる可能性もあるし、最悪の場合は公演中止のなる可能性もある。もう少し引いた目線で物事を見なさい?」
その言葉に何も反論出来ないあかね...
俯きながらも「...ごめん」と謝った彼女を見たかなは呆れたように「はぁー...」と小さく息をつきながらも軽く腕を組んで語り続けた。
「まあ、変装のおかげか知らないけれど...幸いにも今回は誰にもバレないように済んだみたいね。SNSにそれっぽい情報も出回ってないみたいだし...これを期に気を付けなさい?」
そう呟いてから背中を見せるように歩き始めると「じゃあ、私は姫川さんと稽古で合わせるから」と片手をヒラヒラと見せるようにして去っていくかな。
その後ろ姿を見たあかねは再び罪悪感に見舞われる...
だが、浮気じゃない。裏切っていない...決して。
そう思っている間に「次、黒川と星野」と金田一の声が聞こえてきた。どうやら自分達の番が来たようだ。
「いくよ、アクアくん」
「ああ...」
そう掛け合いながらも金田一の前で演技を披露する...
今回披露するのは今回の舞台でも屈指のシーン、亡くなった鞘姫を刀鬼が支える場面だ。合図と共に倒れたあかねをアクアが支えるようにしてスタートした。
「鞘姫...!」
目の前に自分の光とも言える存在の命が消え掛かっているという絶望の表情で咄嗟に支える中、あかねが虚ろな目で必死に何かを伝えようと手を伸ばしながらも掠れた声で呼びかけた。
「刀、鬼....」
あかねが思う原作のイメージ通りの動き...台本が変わってよかった。
そう思ってる時だ。
アクアが急に胸を押さえて苦しみ始めた。
「あ、アクアくん...!?」
騒然とする周囲。あかねはすぐに起き上がり、逆に確認するように彼の側に寄り添うと呼吸や顔の表情を確認。
身体の震え、呼吸困難...意識はありそう。
あらゆることから推測できることが一つだけある。が、それを指摘する前にまずは彼を安静にするところからだ。
「黒川、傍で見てやれ」
「はい」
金田一の促しに答えてからアクアの肩を支えるようにして移動...壁に凭れさせるような形で安静にさせてから「待っててね」と伝えてミネラルウォーターを手にして彼に近づけた。
「ほら、お水」
「っ、あぁ...」
落ち着いてきた所で水をゆっくりと飲ませてからその場で安静にさせ続ける。そして、少し間が空いたところであかねは気になったことを恐る恐る問いかけた。
「アクアくん...今の、パニック発作だよね?
今の演技で...何か思い出したの?」
問いかけに目を逸らして誤魔化そうとするアクア...
この感じからして図星なのを隠したいのだろう。よくよく振り返ってみれば彼は今ガチ収録時の彼の言葉がそれに該当しそうだ。
"「昔...物凄い怖い思いをしたんだ。
たまにその時の記憶がふと蘇って、夢に出ることがあるんだ」"
恐らく、この怖い思いをしたというのが彼のパニック発作のトリガーになっているのだろう。そんな彼の心を察したあかねは安心させるように小さく笑みを浮かべながらもこう伝えた。
「無理に答えなくてもいいよ。ゆっくり一緒に乗り越えよ?」
「...悪い」
そう言っている間に金田一がやや深刻そうな表情で歩み寄ってくる...少し間を空けるようにその場で考え込んだ彼は「黒川」と呼びかけてからこう告げた。
「今日は早く上がって星野を介抱してやれ。他に診れる余裕があるヤツがいない」
「...はい、わかりました」
コクリと頷いてからまだ万全の状態でないアクアに目を向ける...彼を無事に帰さなければ。両親や頼れる人の元に連れて行こう。
「アクアくん、ご両親の家とか頼れそうなところはある?」
「...ある。比較的ここにも近い」
この答えに少しホッとするあかね。
あとはそこへ連れていく移動手段..電車やバスは論外。
タクシー...そう言えばハジメなら車を持っている。
彼に頼めば...と考えたが、あの車は2シーター。
例えアクアだけ乗せて送るという形になっても、後に誤解を生むような事案だ...そう考えるとこの案はなし。
普通にタクシーを呼ぼう。
そう思いながらもスマホを手に取り、アプリでタクシーを手配した。
・
—数時間後 ベリッシモモーターワークス
トレーニングルーム
様々なジム用品が設置されたこの部屋で一人黙々とランニングマシンで走るハジメ。白シャツに黒いパンツと動きやすい格好で一定のリズムで息を吸いながらもタンタンと足音を上げる...その走り込む姿を見た秋山は後ろから「おつかれさん」と声を掛けた。
「っ、あぁ...監督でしたか」
それに気づき、ランニングマシンの速度を緩めてから電源を落とすハジメ。機器の手すりに軽く凭れるようにしてから顔を向けると秋山はフッと小さく笑みを浮かべて褒め始めた。
「随分と気合い入ってんなぁ、シミュレーターでの岡山のタイムは石神よりもお前の方が速いっていうのに」
「っ...まあ。ただ、現状だと自分はフィジカル的には他の選手よりも劣るのは目に見えているのでその課題を埋めるためのトレーニングです」
ハァハァ...と呼吸を小さく整えながらも答えるハジメ。
モータースポーツには選手のフィジカル的な要素が必須になってくる。
彼が走るスーパーGTではレースの内容にもよるがドライバーは大体一人当たり3時間、または300kmの総距離の最低でも1/3以上走って別のドライバーと交代しなければならない。
つまり、一人あたり最低でも1時間、または100kmの距離を必ずアタックしなければならない。
マシンや路面、周辺のあらゆるコンディションを考慮した上でそれだけの長時間アタックするのだ。
その身体への負担は高速道路で100km/h巡航で1時間、または100kmの距離を走らせるのとは全くと言っていいほど訳が違う。
200km/hオーバーで戦う世界...加速Gや減速G、コーナリング中の横G等による肉体的負荷。車両の状態や追い抜き、ブロッキングのポイントを考えるメンタル的な負荷まで掛かる...そして、それらが掛かった上で最適なドライビングをするにはドライバーのフィジカルというものは必須になる。
モーター"スポーツ"と呼ばれる所以はそういうところから来ているのだ。
「一人でここまで詰めるなんて、大したやつだ。
最近の若えのも侮れねえな」
「いえいえ。他との差を埋めようとしてるだけです、大したことはしてませんよ」
「そうか。とりあえず、お前が最後だから施錠頼むぞ。カギあっちに置いておくから」
「はい、お疲れ様です」
片隅にあるテーブルにジャリンとカギを置いてから「んじゃあ、お疲れさん」と告げてトレーニングルームから出ていく秋山。そんな彼を目で見送ってからランニングマシンをピッと操作して再度操作して追い込むように走る...
誰もいない部屋でタンタンと一定のリズムで足音を響かせるように走り込んでいく...時間が経てば経つほど喉が締め付けられるような苦しさが増していった。
...今日はこれぐらいにしようか?
いや、まだやれる。
岡山の開幕戦まで2ヶ月を切っているのだ、時間を無駄には出来ない。だが、足も流石にしんどくなってきた...明日も休みというわけではない。チームではなく、個人の依頼で筑波での実車インプレッションがあるのだ。
とりあえず、ピッと再度操作してランニングマシンを停止させる。ここから再開するかどうかは自分との相談で決めることに。
「ふぅ...」
小さく息をついてからランニングマシンから一旦降り、床に置かれたスポーツドリンクを手に取ってゴク、ゴク...と半分ほど一気飲み。
プハァ...!と生き返ったように声を漏らしてから自分自身に再度問いかける。
明日を考えてここで切り上げるという安牌を取るのか、更に自分を追い込んでいくのか...
そんな時、ふと脳裏に浮かんだ人物が...自分の彼女の黒川あかねだ。
「(...あかねならこういう時、どうするだろう?)」
今のハジメにとっては彼女が心の支えになっていると言っても過言ではない状態だ。彼女の声を聞いたらもっと頑張れるかも知れない...その思いからスマホを手に電話を掛けてみる。
だが...
なかなか出てくれない。何かあったのだろうか?
「(あれ?おかしいな...)」
トレーニングルームの壁に掛けてある時計に目を向ける...時刻は19時。最近遅くても18時には稽古が終わってたが、なにかあったのだろうか?
「(なんだろう...嫌な予感がする)」
その嫌な予感は考えれば考えるほど募りに募っていき、やがてそれは大きな不安へと変貌していく...
いや、彼女に限ってそんなことあるわけない。
考えるほど不安を感じるなら、考えないように他のことに没頭しよう。
そう思ったハジメは残りのスポーツドリンクを一気飲みし、空になったペットボトルをゴミ箱に投げ捨てると不安を断ち切るように再びランニングマシンで走り始めた。
・
—同時刻 五反田スタジオ
スタジオという名ではあるものの、ある人物の実家。
その人物とはアクアの映像作成関係の師と言っても過言ではない五反田泰志だ。
まだ復活しきっていないアクアと共にこの場所を訪れたあかね...当初の予定では彼を預けて早く帰ろうと考えていたが、五反田の母に唆されて長居することになってしまった。
お菓子やジュースなどを次々と出され、手厚いすぎる待遇に内心申し訳なく感じると自分から彼らの夕飯を作ろうとエプロンをまとってキッチンに入り、手伝うことに...
弱火でグツグツと煮える肉じゃがのつゆを確認しようとお玉で掬って味見...味は悪くないと小さく笑みを浮かべながらも頷く。
完成だ。
作っている間に自分のスマホが鳴っていることにも気づかないぐらい入り込んでしまった料理...それを皿に盛り付けていき、テーブルまで運ぶ...その完成度の高さに五反田の母や五反田、アクアですら驚いていた。
「すごいなぁ、プロがつくったって言っても信じるレベルだぞ...」
思わず呟いた五反田の一言をキッカケに「いただきます」と全員で食べ始める...五反田の母は肉じゃがのじゃがいもを箸で取って食べるとややオーバーリアクションに目を開いて興奮気味に「まあ!」と呟いてから味についての感想を並べた。
「おいしいわねぇ!あんな短時間でこんなに味が染みてるなんて!!」
「ホントうまいな、どこかで習ったのか?」
母に続くようにして実際に口にして続けるように問いかける五反田。親子続けるようにして口にした賛辞に流石のあかねもやや小っ恥ずかしいながらも頬を赤らめて照れるとこう答えた。
「お母さんとよくお料理教室に通っているので...」
「そうか。どおりで美味いわけだ...
こんな"彼女"を持てて幸せものだなぁ、早熟。
俺の知らない所でやるところはやってて安心したぞ」
五反田はニッと口角を上げるようにしては静かに食事を食べ進めるアクアの方へと目を向ける...が、そのフレーズと共に斎藤真奈美との会話が頭の中でフラッシュバックしてきた。
"「黒川あかねのことは....諦める。
今後、彼女とは関わらないように立ち回る」"
"「その言葉、嘘じゃないよね?
もし嘘だったら...アンタの人生無茶苦茶になるまで追い詰めるから」"
思わず手を止めてしまうアクア。表情はいつもの冷静な表情だが、やや深刻そうに見えなくもない。一方、そのフレーズを聞いて深刻そうにしてるのは彼だけでない...あかねもだ。
手料理を誰かに振る舞うのはハジメと共にサーキットに行った時以来だ...
あの時とは違って今では正式に付き合っている関係だが、あれ以来彼に向けて手料理を作ったことはない...自分は本当に彼の彼女と言えるのだろうか?
そう思ってる最中にアクアが持っていた箸を置いては静かな口調で「監督」と呼んでは五反田の言葉に対してこう指摘した。
「俺とあかねは仕事仲間という関係だ。それ以上でもそれ以下でもない、あまりそういう目で見ないでくれ」
そう言っては再び箸を手に取り、先ほどよりも早く食べ進めるアクア。彼なりの照れ隠しだと勘違いした五反田親子はニヤニヤしながらもこう続けた。
「アクアくーん、早くしないとあかねちゃんみたいな良い娘取られちゃうわよー!」
「そうだぞ、早熟。
こんな何でも出来るような娘そういないぞ」
二人が積極的に勧めたところで食事を食べ終えたアクア。その場から逃げるように自分のお椀や皿、箸を纏めながらも察して欲しそうにため息混じりにこう答えた。
「あかねには彼氏がいる...関わりすぎるわけにはいかない」
その言葉に驚いた表情を見せてからやや気不味そうにする五反田親子。二人に構わずに立ち上がり、「ごちそうさま」と言い残して皿を下げていくアクア。
それとは正反対に3人の言葉を引き摺っていたあかね...
強くなる罪悪感。でも、アクアが万全な状態じゃなければ東京ブレイドの舞台は出来上がらない。再び自分の気持ちを押し殺して食べ進める。
そこからしばらく時間が経過、皿洗いをしたり等して「お邪魔しました」と五反田スタジオを去るあかね。
再び2月の春前の寒い夜風を感じながらも帰路を歩きながらも近くのバス停で立ち止まり、スマホで時刻と通知を確認...
時刻は21時30分。
通知は2件...1件は母親、もう1件はハジメからだ。
「(予定よりも長居しちゃった...)」
内心そう思いながらも最初に母親に連絡...
「ゴメン、お母さん。稽古遅くなっちゃった...今から帰るね」と言って通話を切り、次にハジメに連絡...なかなか出てくれない。
「(忙しいのかな...)」
心配に思っている間に自分が乗り込む予定のバスが来てしまった。ドアが開くと共にスマホをしまい、足早に乗り込むあかね...その背中は仕事という蓋で押さえつけられた罪悪感でいっぱいになっていた。
・
—しばらくして
ベリッシモモーターワークス トレーニングルーム
大の字で床で寝ていたハジメは節々の痛みを感じながらも起床...疲労感のあまり寝てしまったが、身体の芯から響くような痛みに思わず「アテテ...」と小さく呟きながらも身体を起こす。
仮眠のつもりがガッツリ寝てしまった。
身体を軽くクイッと伸ばしながらも部屋の壁にある掛け時計に目を向けると彼は目を軽く見開いて驚いた。
「い、1時...!?何時間寝てたんだ、オレ...!!?」
そう、もう日を跨いでいたのだ。
腕を組んで寝る前の時間を思い出す...うろ覚えではあるものの、確か21時だった。
つまり、4時間近く寝てたのだ。
流石に施錠して帰らないと....だが、なんだかベトつくような感じもある。シャワーでも浴びよう...
そう思い、ロッカールームから着替えを持ってくると服を脱ぎ、シャワールームでシャワーを浴びる...身体を拭いて帰れる格好に着替えてから秋山が置いていった鍵を手に各部屋の施錠作業に入る。
ミーティングルーム、シミュレータールームと施錠していくその合間にスマホで通知などを確認...通知は2件。
1件はあかねからだ。
寝なければひょっとしたら出られたかもしれない時間からの電話...恐らく自分の通知を見て掛けて来てくれたのだろう。流石に今から折り返すのは難しい。
もう1件は意外な人物からだ。
今ガチで共演した鷲見ゆきだ...こちらはなんとそれほど時間が経ってない。恐らく、自分がシャワーを浴びている間に掛かってきたのだろう...今からでも折り返せそうだ。
施錠作業を一旦止め、折り返し掛けてみると3コール目で出てくれた。
「もしもし?」
「—あ、ハジメくん。ごめんね、遅くに掛けちゃって...どうしても早く聞きたいことがあって」
「聞きたいこと...?なんだ?」
「—4月のあかね達の舞台、公演初日に久々に今ガチメンバーで集まって観に行こうって話になってるんだけど...ハジメくんもどうかなって。もう席も埋まってきてるから予約するなら早くがいいと思って...」
4月のあかねの舞台...東京ブレイドの舞台のことだ。
主演の姫川大輝を筆頭に繰り広げられる舞台。
あかねは鞘姫役でアクアは刀鬼役とペアと言ってもいいような関係だ。他の役者でも自分の彼女といい感じになってる演技なんて見たくないのに、よりにもよってかつての恋敵とだ。
だが...そんな思いを抱いている中でハジメが出した答えたは意外なものだった。
「...行くよ、俺も」
「—え、なんか意外...アクアも出てるんだよ?しかも、あかねとペアの役で」
ゆきに言われてここで踏み止まろうか一瞬悩むように間を空けるハジメ。しかし、彼は決めたからにはとその決断に至るまでの理由を語り始めた。
「知りたいんだ...ちょっとでもあかねのことを。
今、お互い仕事が忙しくてなかなか会えなくてさ...このままだとアイツがどっか行くような気がするんだ。
だから、少しでも知れるようにするために行くよ」
「—そっか...本当ににスキなんだね。あかねのこと」
「っ、ま、まあな...」
ゆきに言われて思わず言葉が詰まり掛けるハジメ。そんな彼の分かりやすい反応にクスッと小さく笑うゆき。しかし、あまりおちょくったところで話が進まないと本題に戻した。
「—予約は私のほうでするね。現地で払って貰うから。集合場所とかはまた今度伝えるね」
「ああ、それで頼む」
「—わかった、じゃあ...おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ピッと通話を切ってスマホをポケットにしまうハジメ。すると、彼は自嘲染みた笑みを浮かべてはふとこんなことを思い出した。
「(思えば東京ブレイドの公演日って4月前半だったよな...2週間後にはもう開幕戦だったからシミュレーターやトレーニングでちょっとでも追い込みたかったけど...
まあ、いいや。ちょっとした息抜きだと思えば)」
そう思いながらも施錠を進め、裏口から出て施錠してからセキュリティカードをかざし、監視スタートを確認。
時刻はもう2時を回っていた...流石に寒い。
もうこんな時間だし、わざわざ家に帰るのも面倒だ。
「(明日の現場近くのネカフェまで走った方が良さそうだな...)」
そう思いながらも駐車場に停められたNSXに乗り込み、エンジンを掛ける。ヴァゥン!!という始動音からアイドルでエンジンを温め、ある程度暖気が済んだ所でウィーンとリトラクタブルヘッドライトを上げてはゆっくりと走り始め、駐車場を出ていった。