IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第三幕 ANTARES act.7

 

 

 

 

―夜 あかねの部屋

 

 

暗い部屋のベッドの中に潜り込むようにしてエゴサーチするあかね...

 

 

東京ブレイドの千秋楽を終え、ようやく自分の時間に余裕が出来てハジメと交流しやすくなると思ってる中で流されたまさかのデートスキャンダル記事により、大荒れの状態だ。

 

 

脳裏に浮かび上がるのは今ガチでの炎上した時の記憶だ...

 

アクアに舞台に向けての演技に火をつけさせるために行った行為がここに来て仇になった...

冷静に考えればそうなることは予想出来たが、何よりも姫川大輝と有馬かなに勝つということを優先しすぎてしまった。

 

後悔に見舞われると共に浮かび上がってきたのはハジメの顔...彼はこれを知ってどう思うのだろうか?

 

 

だが、そこで裏切りに見えるような行為をしてしまった彼への罪悪感よりも自分に対する保身が真っ先に浮かんでしまったことに自己嫌悪に陥る。

 

 

 

 

 

「(私、何も成長してないな...あの時から1年ぐらい経つのに)」

 

 

 

 

 

ため息をつきそうな表情でそう思っている時にドアの向こうから母親がコンコンとノックしてきた。

 

 

 

 

 

「―あかね、ご飯よー?」

 

 

 

 

 

「ごめん、お母さん...今日はいらない」

 

 

 

 

「―そう。ここ置いておくから、もしお腹空いたら食べなさい」

 

 

 

 

 

母親も声のトーンからして察し始めているようだ....

過去の炎上した時の彼女の姿を見ているからだろう。

だが、あまりそれ以上は触れることもなく夕食をドアの近くに置いてから静かに去っていった。

 

母親なりの優しさなのか、それともどうすればいいのか分からずに傍観することにしているのか....

 

 

 

とは言え、これ以上は他人に迷惑は掛けられない。

 

 

今度こそは自分の手でなんとかしないと。

とは言え、SNSで弁明した所で前の炎上と同じように更に燃え広がってしまいそうだ...

 

 

 

どうしよう、どうすればいいのだろう?

 

 

 

 

布団の中で頭を抱えて考えるも正解は出ない...

結局、燃えている本人は何も出来ないのかもしれない。

 

 

 

 

誰か、助けて....

 

 

 

 

毛布をギュッ...と力強く握り締めると共に時間が過ぎていき、やがて夜が明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 朝

 

ベリッシモモーターワークス駐車場

 

 

 

季節は夏。

また煩く鳴き始めた蝉の鳴き声を聞きながらもクールビズということでワイシャツ姿でバッグを片手に出社したハジメ...

 

NSXにキーロックを掛けてからやや何時もよりも足取り早めに駐車場を出て一般道の向かい側にある建屋に入ろうとすると、脇に隠れていた記者達がバッと一斉に出てきた。

 

 

 

 

 

「―五十嵐さん、黒川あかねさんとアクアくんのスキャンダルについてどう思われますか!?」

 

 

 

 

 

「―番組終了後に疎遠になったという噂も聞きましたが、どーですか!?」

 

 

 

 

 

「―五十嵐さーん、コメント頂けませんかー!?」

 

 

 

 

 

群がる報道陣に予想していたのか、ため息をつきそうな表情を浮かべながらもその場で立ち止まるとバッグの中からある物を取り出す...それは、自分が番組に出演していた時に取り上げられた過去のスキャンダル記事だ。

 

それを広げるように記者達に見せてはこう述べた。

 

 

 

 

 

「こういう連中がこういうことを過去にやったことを忘れてませんか?

取り上げられたときは色々と持て囃されてましたが、真相を辿ると結局でっち上げられた嘘だらけの記事...彼女のだってその類ですよ。だから、信じてません」

 

 

 

 

 

「―では...番組終了後に疎遠になったというのは?

SNSでも二人の投稿をなかなか見ないので本当に付き合ってるかどうか、怪しむ読者も...」

 

 

 

 

 

「デタラメです、なんの根拠もない嘘です。

彼女も自分も予定が立て込んでいてスケジュールが合わないだけです」

 

 

 

 

 

そう言いながらもベリッシモモーターワークスのゲートまで歩くと、しつこく迫って来る記者達に向けて振り向きつつも最後に一言言い残した。

 

 

 

 

「では、4戦目の富士に向けての準備があるので...失礼します」

 

 

 

 

そう告げて背中を向けてから足早にゲートから中に入ろうとするハジメ...

しかし、数歩歩いた所で後ろからこんな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「―どうせ勝てないんだろ、やるだけ無駄だ」

 

 

 

 

 

 

まるで嘲笑うかのようにボソッと聞こえてきた一言。

 

 

 

....どうせ勝てない?

 

 

 

小馬鹿にしたように言いやがって....!

 

 

 

 

 

その場で立ち止まって込み上げてくる思いを抑えようと堪える...が、抑え込めば抑え込むほど湧き上がってくる怒り。

 

背を向けながらも両手を震わせるようにすると遂に少しずつ抑え込もうとしていたものが溢れ始めた。

 

 

 

 

「....誰だ、今言ったの?」

 

 

 

 

急に口調が変わったことに一部の記者はやや動揺している様子だが、もう一部はスクープになると予想してカメラを構えている。

 

だが、そんなことにもハジメは気づかない...

 

震えた拳を振り上げようと動作したその時。

 

 

誰かに手首をパシッと掴まれた。

急なことに驚きながらもゆっくりと顔を上げるとそこには秋山の姿が...

 

 

 

 

 

「あまりカッカすんな、向こうの思う壺だ。

そういうやり方でスキャンダルを狙うようなクズの集団だ...相手にするな、クズ相手にムキになるな」

 

 

 

 

小声で耳打ちするようにそう伝えてから記者とハジメの間に割って入るようにする秋山。そのままやや不機嫌そうに記者を牽制するように軽く睨みながらもこう問いかけた。

 

 

 

 

 

「アンタら、取材許可取ってんのか?」

 

 

 

 

 

「―許可....?」

 

 

 

 

 

「取ってねえならあまりしつこく付き纏わないでくれ。

今、次の一戦に向けた大事な時期なんだ。

2戦目で負けた富士のリベンジを果たすのが俺らの目標だ、あまり邪魔するなら警察呼ぶぞ?いいか?」

 

 

 

 

 

秋山の言葉を聞いて渋々と言った様子で引き揚げ始める記者たち。大人しく引き下がってくれたとホッとするように小さく「ふぅ...」と息をつく秋山。そんな彼に対してハジメは頭を下げた。

 

 

 

 

 

「すいませんでした、監督」

 

 

 

 

 

「いや、いいんだ。

ただ...お前は他のドライバーと違って注目を浴びやすい存在だ。もっと慎重に行動しろ、いいな」

 

 

 

 

 

そう言い残して施設内へと入っていく秋山...

彼の背中を眺めるようにして見てからハジメも続けて中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―夕方

 

 

 

翌日のタイムアタック依頼に向けて早めにシミュレーターでの練習を切り上げ、ベリッシモの施設から出ていくと怪しげな男が物陰から姿を現した。

深々と帽子を被って目元を見せないようにやや前傾姿勢になっている全身黒い服で覆われた男...如何にも怪しげな雰囲気の男に足を止めては背中を向け続けながらも単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

 

「誰だ、アンタ?」

 

 

 

 

 

「誰って、雑誌の記者だよ。黒川あかねの写真を撮ったね」

 

 

 

 

 

付け加えるような自己紹介に警戒するように身構えるハジメに対し、記者は「おぉっと」軽く苦笑いするようにしながらも待てと言わないばかりに手のひらを見せた。

 

 

 

 

 

「キミにしっかり真実を伝えた方がいいって思ってね」

 

 

 

 

 

「真実?」

 

 

 

 

 

「ああ、キミはあの写真はフェイクだと言っていたそうだね?

でも...ウチは紛い物はほとんど入れないのがウリでね」

 

 

 

 

 

そう言いながらも数枚の写真を取り出してはハジメに渡す記者...渡した写真は何れもあのスキャンダル写真の原本だった。しかし、それを見てもハジメの方は全く信じようとしていない。突っ返すように写真を返しつつもため息混じりにこう問いかけた。

 

 

 

 

 

「アンタらならコレぐらいの小細工幾らでもやるだろ?」

 

 

 

 

 

「コレぐらいなら信じないって?

じゃあ、これを撮影した時期も教えてあげようか」

 

 

 

 

 

時期?

 

そんな特殊な時に撮ったのか...?

 

 

 

そのまま帰ろうと思っていたが足を止めつつも「時期って何?」と問いかけるハジメ。すると、記者は不敵な笑みを浮かべながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

「2月の第一週の土曜日...

君が絶対にプライベートで動けないタイミングを見計らって彼女は動いていた」

 

 

 

 

 

2月の第一週...記憶を辿るように数秒間を空けるハジメ。

しかし、その日が何なのか思い出すと思わず動揺したように固まってしまう。記者の方は更に追い討ちをするようにこう答えた。

 

 

 

 

 

「2月の第一週...キミはベリッシモのドライバーとして記者団を前に会見を行なっていた。

彼女は確実に君がプライベートで動けないそのタイミングを見計らって行動に出た...

 

たく、清楚系な顔してて汚いことするよねえ。彼女」

 

 

 

 

 

記者の言葉と共に脳裏に浮かび上がったのはその前日の彼女とのやり取り...

 

会見の後に時間が出来るから会わないかという誘いを彼女はわざわざ断ったのだ。

 

 

 

彼女は自分が同じ目に陥った時に信じてくれたが、ここまで辻褄が合うと信じたくても信じられなくなる...

 

 

 

その場で立ち止まって固まってしまうハジメに対し、記者は「フッ」と鼻で笑うようにしてからこう言い残した。

 

 

 

 

 

「信じるも信じないもキミ次第だ。

だが、ここまで証拠が揃ってればもう確実に黒でしょ。

信じるだけ無駄だって、俺がキミなら即切るね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

―数時間後

 

 

 

 

すっかり日も沈み、夜の静寂が包み込むような時間帯。

 

 

稽古が終わったあかねは落ち着いた雰囲気の通りを一人歩いていた。その目的はハジメとカフェで落ち合うことだ。

 

電話で急に会えるかどうかと一方的に呼び出され、半ばその雰囲気に流されて了承して今に至る状態。役者としては次の舞台に向けてもっとソロで稽古したいところだったが、電話越しに聞こえてきた話す声のトーンからしてかなり深刻そうな感じだ....原因はあの時のスキャンダルだろう。

 

 

内心そう思いながらも待ち合わせのカフェに到着...

ドアを開くと共にカランコロン、と落ち着いたベルの音が鳴り響く。辺りを見回すとシックな黒を基調にした感じの雰囲気の店内...客の入りは時間帯が時間帯なこともあり、疎らになっている。そんな中、受け付けにいた執事のような男性店員が早速声を掛けてきた。

 

 

 

 

 

「黒川あかね様、でしょうか?」

 

 

 

 

 

「あ、はい....」

 

 

 

 

 

「奥の個室にて五十嵐様がお待ちです」

 

 

 

 

 

店員に言われるがまま奥の個室に足を運ぶ。

ガチャッとドアを開けて中に入ると、早速ハ深刻そうな表情のハジメを視界に入れる...彼は開閉音に反応するように目を向けてくるも、その目はどこか軽く睨んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

「....ハジメくん?」

 

 

 

 

「...まあ、いいや。座りなよ」

 

 

 

 

 

仕切り直すように軽く姿勢を整えるようにしながらも向かい側に座るように促してきたハジメ。やはり、今日の話はスキャンダルの件と関係がありそうだ。

自分が蒔いた種である為、説明義務があるものの重苦しい雰囲気からか中々切り出せない...

 

 

しばらくして互いに注文したアイスコーヒーがテーブルの上に置かれるも、とても話せる雰囲気ではない。コーヒーのグラスの反射で映る自分の顔を眺めるあかね...その顔は罪悪感に満ち溢れていた。

 

だが、本当に浮気したわけではない。

 

 

話せば分かってくれるはず...

 

 

しかし、いきなり本題に入るのもおかしな話だ。

 

 

 

ここは慎重に行こうと「久しぶりだね」と切り出して軽い世間話から持ち込もうと試みた。

 

 

 

 

 

「最後に会ったのは...いつ頃だったかな?」

 

 

 

 

 

「こうして面と向き合って話すのは初詣以来だな」

 

 

 

 

 

「そっか、もう半年近く経つんだ...」

 

 

 

 

 

ここから続けてお互いの仕事の話に持ち込もうとした時、ハジメは呆れるようにため息混じりにこう切り出してきた。

 

 

 

 

「スキャンダルの件、記者の連中にはガセネタだって吹き込んでやった。これでそっちも動きやすくなるだろ?」

 

 

 

 

 

まさかの一言に内心驚くと共に少し安堵したような表情を見せるあかね。

 

しかし、本題はここからだ。

 

 

ハジメは両手をポケットに突っ込むようにしてから背凭れに軽くもたれ掛かるようにするとこんな予想もしてないことを単刀直入に問いかけてきた。

 

 

 

 

 

「...あかね、2月の第一週の土曜日って何してた?」

 

 

 

 

 

「第一週...って、何かあったの?」

 

 

 

 

 

「俺がシーズン前の記者会見に出た日。

昼からは予定が空きそうだからってデートに誘った日...覚えてない?」

 

 

 

 

 

最後に付け加えられた一言により、あかねはその日がなんなのかハッキリと思い出した。その日はアクアと共に演劇を鑑賞した日であり、あのスキャンダル写真を撮られた日でもある。だが、何故彼がその日を知っているのかは全くもって分からない...どこから聞いた話だろうか?

 

そう考えていると表情に出てしまったのか、ハジメは察するように「ハァ...」と小さく息つくとスキャンダルが載った雑誌の記事を広げ、白黒の写真を見せるようにテーブルの上に置いてはこう語った。

 

 

 

 

 

「...タレコミがあったんだ、この写真は俺が会見してる裏で撮られた写真だって。

最初は俺も疑った...だが、辻褄的にもよく合う話だと思ったんだ。

 

正直に話して欲しい、覚えてないなら覚えてないでいいし」

 

 

 

 

 

ここまで言われたら誤魔化した所でそのうち真相を掴むと悟ったあかね。...いや、彼の性格からして言っていないだけでもう真相を掴んでいる可能性もあり得る。

 

言いづらい環境の中で決心するようにゴクリと唾を飲み込むとゆっくりと顔を上げながらも恐る恐る伝えることにした。

 

 

 

 

 

「....アクアくんと演劇を観てた」

 

 

 

 

 

「そっか...デート?」

 

 

 

 

 

「ち、違うよ...!

あくまでも会場の下見だから、東京ブレイドの」

 

 

 

 

 

「下見か...昼は一緒に仲良く食べたんだろ?」

 

 

 

 

「時間が時間だから食べた...けど、そういうのじゃ」

 

 

 

 

 

「嘘つくなよ!」

 

 

 

 

 

初めて声を荒げたような反論を見せてきたハジメ。

動揺するように言葉を詰まらせたあかねを見て我に返るように目を軽く見開き、目線を逸らしてから「...悪い」と直ぐに謝罪。

 

冷静に考えてみれば自分が同じような目に遭った時に彼女は誰よりも早く否定してくれた。

 

それにも関わらず、信んじられないなんて...彼氏失格だ。

 

 

 

自分はこのまま彼女と付き合っててもいいのだろうか?

 

 

彼女は自分と付き合うことを足枷に思っていないだろうか?

 

 

 

心の中で何度も質問を繰り返す中で、時間は静かに過ぎていく...そして、あかねの方から懸命に切り出そうとした時にハジメが「あかね」といきなり名前を呼んではふとこんなことを問いかけた。

 

 

 

 

 

「あかねは...俺以外に付き合った人とかいる?」

 

 

 

 

 

「...いないよ」

 

 

 

 

 

静かに響き渡る彼女の答えを聞いてから軽く腕を組んで考え込むように俯くハジメ。しばらくして何かを決心すると組んでいた腕を直しながらもこう提案した。

 

 

 

 

 

「1ヶ月、距離置いてみよ。

それで...1ヶ月後にお互いの答えを聞こう」

 

 

 

 

 

「お互いの答えって....もし、お互いの答えが違ってたら?」

 

 

 

 

 

 

「その時は....別れよ。

ズルズル引き摺ってても良いことなんてないのは目に見えてる」

 

 

 

 

 

覚悟はしていた。

 

自分が仕事を優先するが故に蒔いた種だというのの重々承知している。

 

 

 

.....だが。

 

こう面と向き合って言われると心に来るものがある。

 

 

自分への失望と本当に無くしてしまった喪失感から時間の流れの感覚が無くなるような錯覚に陥るあかね。そんな中、動けなくなった彼女の背中を押すようにはハジメはこう告げた。

 

 

 

 

 

「あかねはまだ若い。

こっちの業界で若手って言われてる俺よりも4つも下だ...

それに、俺で彼氏一人目だろ?別れた後にもっといい人に会える可能性は充分ある」

 

 

 

 

 

そう言いながらもポケットからボロボロになった財布を取り出すと、一万円札をスッと取り出してテーブルの上に置くハジメ。背中を見せるように出入り口のほうに歩くと最後にこう言い残した。

 

 

 

 

 

「それで会計してくれ。釣りは全部やるよ」

 

 

 

 

 

そのまま個室を後にするハジメ...

声を出して呼び止めようともしたあかねだったが、そんな勇気も出なかった。

 

彼女の視線はテーブルの上に置かれた一万円札の方へと向かう...その札はまるで別れの為の切手のようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1週間後 あかねの部屋

 

 

 

 

スキャンダルによる炎上自体はハジメの一言である程度沈静化されたものの、そばにいると思っていた彼が離れていった喪失感から中々立ち直れないあかね。

 

正直、新しい舞台への練習にも力が入らないような状態だ。

 

 

 

一人途方に暮れながらも寝間着姿で布団に入り、スマホを手に過去の思い出を振り返る....

 

行く先々でいろんな写真を撮ったが、半年近く前に撮った初詣のツーショットが最後の写真となってしまった。この時、お互いにこうなるだなんて1mmも思わなかったであろう。

 

振り返れば振り返るほど後悔の念が募りに募る....

 

 

 

この気持ちを誰かに伝えたい。

 

 

 

内心そう思ったあかねは通話アプリを開いてある人物に掛けた...今ガチで共演していた鷲見ゆきだ。

 

 

 

 

 

「....もしもし、ゆき?」

 

 

 

 

 

「―もしもし、あかね?

久しぶりだね...ゲンキなさそうだけど、何かあったの?」

 

 

 

 

 

こちらから言い出す前に軽く指摘しつつも問いかけてきたゆきに内心驚くあかね。軽く世間話でもしてリラックスしてから本題に入ろうと考えていたが、ここまで簡単に見抜かれるとそうしようも無さそうだ。

やや苦笑いの笑みを浮かべると「うん」と頷いて答えてからそのままで恐る恐る切り出すことにした。

 

 

 

 

 

「実はハジメくんとちょっと揉めちゃって...」

 

 

 

 

 

「―そっか...前のスキャンダルの件で?」

 

 

 

 

 

「...うん。

しばらくお互い離れて様子見しようって言われたんだけど、これって...もう遠回しに別れようってことだよね?」

 

 

 

 

 

「―そうだね、それにかなり近いかも」

 

 

 

 

 

ゆきの言葉にその無念を改めて感じてスマホを握る手を強くしてしまうあかね。あれ以上の炎上にはならなかったが、取り返しのつかないことをしてしまった...

 

どうしよう、もうダメなのかな?

 

そう考え込んでいる間にゆきの方が「―あかね」と呼んでからいくつか疑問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「―彼は別れ際に何か言ってた?」

 

 

 

 

 

「何かって...別れた後にもっといい人に会える可能性は充分あるって」

 

 

 

 

 

「―そっか。あかねは...元の関係に戻りたいと思ってる?」

 

 

 

 

 

「....うん。でも、もう無理だよ。

 

私が蒔いた種だし仕方がないよ」

 

 

 

 

問いに対して半ば啜り泣き混じりに既に諦めムードのあかね。

そんな彼女にゆきは珍しく何時もよりも厳し目の口調で彼女にこう言い残した。

 

 

 

 

 

「―仕方がないって、そのまま諦めるの?

 

確かに諦めたら楽だよ。でも、私から見るとハジメくんの言う通り彼よりもいい男が現れる可能性は...正直少ないかな。

 

少なくとも、彼ほどあかねを愛してくれる男はそういないと思うよ」

 

 

 

 

 

その言葉を聞くと啜り泣きを止めると共に「...え?」と顔を上げるようにするあかね。

彼女の反応に"何も知らないんだ"と内心呆れながらもその例を一つ挙げることにした。

 

 

 

 

 

「―あかね、彼が東京ブレイド舞台初日に鑑賞に来てたことは知ってる?」

 

 

 

 

 

「え?そう...なの?でも、MEMさんやゆきのインスタにも映って....」

 

 

 

 

 

「―あかねにあまり知られたくないからって言ってなるべく映らない位置に立ってたから。自分の元恋敵とパートナーが一緒に繰り広げる演劇なんて、絶対に観たくないのに彼は観に行った...その時、彼なんて言ってた分かる?」

 

 

 

 

 

「....分からない」

 

 

 

 

 

「―あかねのことを"少しでも知れるようにするために行く"って言ってた。しかも、あの時の彼は開幕戦開始2週間前の追い込みが必要な時期だった。

 

それよりも貴女を優先してあの舞台を観に行った」

 

 

 

 

 

彼女から出る言葉に自分への嫌悪感を強くさせるあかね。

自分は彼が観に来てくれたのも知らず、更に言えば彼がその時に追い込みが必要な重要な時期だということは一切知らなかった。

 

 

彼は私のことを知ろうとしてくれた。

 

なのに、私は目先の仕事ばかりを優先にして...!

 

 

衝動的に襲い掛かる強い嫌悪感から自分を打ちたくなるぐらいの感覚に見舞われる。が、そんな彼女の感情を抑制するようにゆきの方は先程とは違い、和やかなトーンで「―あかね」と呼ぶとこうアドバイスを送った。

 

 

 

 

 

「―まだ間に合うよ」

 

 

 

 

 

「間に合うって、そんなわけ....」

 

 

 

 

「―可能性が少ないってわけでゼロじゃないよ。

それとも...少ないからって諦めちゃうの?

 

また泣き寝入りして逃げるつもり?

 

 

今ガチでの炎上から貴女は変わった...違うの?」

 

 

 

 

核心を揺さ振るような言動に思わず動揺するように言葉を詰まらせるあかね。スマホを握っていた手から少し力を抜いた時、ゆきから更に優しい声色で「―大丈夫」と諭すように告げてからこう背中を押すように伝えた。

 

 

 

 

「―私も手伝うから、仕事忙しい私が動くなんて....

 

本当に出血大サービスだよ?滅多に動かないんだから」

 

 

 

 

 

「手伝うって、どうやって...?」

 

 

 

 

恐る恐る問い掛けるあかねに対して受話器越しにクスッと笑って見せるゆき。恐らく、電話の向こう側でいつもの小悪魔染みた笑みを浮かべているのだろう。

 

そして、そこから少し間を空けるようにして意味深にこう発言した。

 

 

 

 

 

「―それを今から伝えるところだよ。

それに...この一件で一番効きそうな特効薬を見つけたんだ」

 

 

 

 

そう言っている彼女のスマホの画面に映し出されたのはスーパーGTのホームページ。4戦目富士スピードウェイ450kmレースを開くと共に通話アプリであかねにこう伝えた。

 

 

 

 

 

「―あかね、8月の第一週の日曜日は絶対に空けておいて。詳しくはまた後で伝えるから」

 

 

 

 

 

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