IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第三幕 ANTARES act.11

 

 

 

 

 

―約束の日 朝

 

駅前のとある立体駐車場

 

 

 

週刊誌などに撮られるリスクも考え、ガラガラになっている上層階の駐車スペースで待ち合わせる一行。

 

日が昇ってからまだそれほど経ってないようなやや薄暗さも残る時間帯であかね、かな、ゆき、アクア、ノブユキ、ケンゴが到着していたものの肝心のドライバー2人がまだ来ていない。

 

予定の集合時間と現在時刻を照らし合わせるように確認しようとスマホチェックするあかね...

 

あと5分で予定の集合時間だ。

 

 

 

 

 

「はー、目的の富士までどれぐらい掛かるっけか?」

 

 

 

 

 

「渋滞とかも加味すると念のために3時間以上は考慮したほうがいいかもしれないな」

 

 

 

 

 

ノブユキの問い掛けにスマホで到着予想時刻を確認し、逆算して伝えるケンゴ。そんな彼らのやり取りに対し、アクアはかなの方に目を向ける...が、かなり距離間を開けるようにしている。捉えようによっては避けているようにすら見える感じだ。

 

 

スキャンダル発覚から彼もかなとの距離間を感じ始めていた...別に付き合っているわけではないが、心がすっかり離れてしまっているような感覚に彼としても喪失感のようなものを感じていた。

 

 

 

そんな中、先に着いたのはMEMちょだ。

黄色いミニクーパーをゆっくりと停めると「おひさ〜!」といつものテンションであかねやゆき、ノブユキ、ケンゴに手を振ってみせた。4人とも久々に会う彼女に思わず嬉しそうに笑みを浮かべて手を振るも、かなやアクアはそれなりに会っている為かいつも通りの調子だ。

そんな中で車から降りると早速アクアの方に近づいた。

 

 

 

 

 

「アクたーん、間に合ったよね?集合時間に」

 

 

 

 

 

「ああ...一応な。三分前だが」

 

 

 

 

 

腕時計で時間を確認しながらも淡々とした口調で答えるアクア。

これで残りは真奈美だけに...

そうなってくるとあかねとアクア以外は実際に会ったことがない斎藤真奈美という人物について興味が出始める。早速、5人を代表するようにノブユキが「なあ」とあかねに歩み寄りつつもこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「その、真奈美って人...五十嵐の後輩でいいんだよな?」

 

 

 

 

 

「...うん、今ガチの時に一回ハジメくんスキャンダルで炎上仕掛けたよね?その時の相手の人だよ」

 

 

 

 

 

「あー...なんかあったなぁ、そんなの。師弟関係かなんかだっけか」

 

 

 

 

 

思い出すように頷いて呟くノブユキ。しかし、途中で何か引っ掛かるように頷きを止めては「ん?待てよ...」と何か察し始めて恐る恐るこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「アイツの弟子ってことは、車は...」

 

 

 

 

 

「えーっと、確か86って車。トヨタのスポーツカーだよ」

 

 

 

 

 

「やっぱりスポーツカーじゃん!?

大丈夫か、快適に4人乗って富士まで行けるよな!?」

 

 

 

 

 

ノブユキの言葉にやや不安が積もりつつも彼女の車がどんなのだったか、過去の記憶を辿ってどんなのか思い出す...

「んー...」となりながらも顎に手を当てるようにしつつ、記憶の端切れを頭の中で繋ぎ合わせていくとこう答えた。

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫だよ...多分。後ろにタイヤいっぱい載せてたし」

 

 

 

 

 

「タイヤと人間でだいぶ違うんだが」

 

 

 

 

 

横槍を入れるようにケンゴが苦笑い混じりに突っ込みつつも待ち続ける。

 

...が、なかなか来ない。

 

 

チクタク、チクタクと体内の時計が静かに一方的に時間が進むような感覚に見舞われつつも不安が募り始めるあかね。

 

 

スマホを手に取り、時間確認...集合時間から10分ほど経過。流石にあかねだけでなく他のメンバーも不安が募り始めていた。

 

 

 

 

 

「おい、ホントに来んのか?」

 

 

 

 

 

「ちょっと遅いよな...」

 

 

 

 

 

「まさか...ドタキャン?」

 

 

 

 

 

「もー、縁起悪いよ。その言い方...」

 

 

 

 

 

「今から他の交通手段に乗り換えてってなると多分間に合わないわね...バスのロータリーもそれなりの距離あるし、今から並ぶってなると凄い列よ。最寄りの駅もあっち方面行くってなると、乗り換える回数エげつないことになるわ」

 

 

 

 

 

他のメンバーの言葉により更に不安が募るあかね。

 

やっぱり見捨てられたのかな...

 

 

そう思っている時だった。

 

 

 

 

1台の車がやや急いでいるような速度で立体駐車場を上がってきた...丸目の黒い堅牢で角ついたボディの左ハンドルの車輌。見るからに大きく、離れた位置から見てもMEMちょのミニクーパーよりも一回り以上の大きさがあるとハッキリ分かる。

2m近くあるような車体の高さで駐車場の天井ギリギリのラインを駆け抜けて行く...

 

グリルに付けられたブランドの哲学とアイデンティティを強く象徴した大きなエンブレム、スリーポインテッド・スター。そのエンブレムに7人が目を奪われていると自分たちの目の前に停まって意外な人物が降りてきてはあかねが驚いた様子でその人物の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

「ま、真奈美さん....?」

 

 

 

 

 

まさかの人物にアクア以外のが全員「「「えぇーッ!!?」」」と驚愕の言葉を漏らす。一方、当の本人は気にしないようないつもの気軽さで「やほー、おまたー!」と笑顔で手を軽く挙げてフリフリと振るように見せた。

そんな中でノブユキ、ケンゴ、MEMちょは車の方に注目し続けた。

 

 

 

 

 

「べ、ベンツじゃんか...!?」

 

 

 

 

 

「で、デカすぎだろ...」

 

 

 

 

 

「こ、これ...ゲレンデじゃん...

私の先輩Youtuberの人も最近買ったけど、確か最低でも2000万円近くしたような....」

 

 

 

 

「うげっ、そんなにすんのか!?この車!!」

 

 

 

 

 

 

震えるような声で語る3人に対し、真奈美は気にしないような様子で歩み寄りつつも改めるように自己紹介した。

 

 

 

 

 

「あかねちゃんから話は聞いてると思うけど、改めて自己紹介するね。

 

はじめまして!斎藤真奈美です、よろしくねー!」

 

 

 

 

 

イェイ!と言わないばかりに軽くピースする真奈美。ややアクティブな振る舞い...彼女自身の容姿も相まってケンゴやノブユキも少しドキッとしたように動揺するとそれを察したゆきが珍しくややムスッと不機嫌そうな表情でノブユキに近づくと彼の靴をグイッと踏んで牽制。イデデ...!となったのをチラッと確認し、足を退けたところでゆきから順番に自己紹介がスタート。

 

 

 

 

 

「私、鷲見ゆき。ゆきでいいよ」

 

 

 

 

 

「MEMちょだよー!よろしくねー!」

 

 

 

 

 

「有馬かな、かなでいいわ」

 

 

 

 

 

「熊野ノブユキ、よろしくー!」

 

 

 

 

 

「森本ケンゴ、よろしく」

 

 

 

 

 

各々の自己紹介が終わり、残りはアクアだけ...

裏で会ってる二人だが、表向きにはまだ初対面の二人。流石に自己紹介しないといけないと渋々ながらもアクアの方も名乗り始めた。

 

 

 

 

 

「星野アクア...よろしく」

 

 

 

 

アクアが名乗った時、一瞬ながらも牽制するように睨む真奈美。すぐにいつものムフーという笑みに変えるも、気を取り直すように手をパンッと合わせると全員にこう提案した。

 

 

 

 

 

 

「早速提案なんだけど、リスク分散の為に女性陣と男性陣に分かれて動くのはどうかなー?女性陣はMEMちょの車に乗ってかなちゃんを助手席に乗せる感じだとよりナチュラルに動けそうだし」

 

 

 

 

 

「確かにそうね...一理あるわ。私が助手席なら撮られたところでB小町で一緒に動いているようにしか見えないものね」

 

 

 

 

 

「それで男性陣は私の車。異論が無ければそれで行こうと思うけど、どうかな?休憩は海老名PA辺りで一回取ろ」

 

 

 

 

 

全員の顔を見るもこれと言って異論は無さそうだ。

「よーし、じゃあ!決定ぃー!」と張り切るように言って全員に乗車を促すと各々が動き始める。そんな中、どさくさに紛れて真奈美があかねの方に歩み寄ると耳打ちするようにこう小声で伝えた。

 

 

 

 

 

「今、彼を孤独から救えるのは貴女だけ...信じてるから。

今度こそ守ってあげて」

 

 

 

 

 

先程までのオチャラケとは打って変わったような重く真剣な一声。心の芯にまで響くようなその言葉...「はい」と力強く頷いて答えたあかねはそのままMEMちょのミニクーパーの後部座席に乗り込んだ。

 

一方、真奈美の方も自分のゲレンデに乗り込もうとするも適当に乗り込もうとしているアクアを見ては「待って」と呼び止めた。

 

 

 

 

 

「言うの忘れてたけどー。

アクアくんは"左後ろ"ねー、オッケー?」

 

 

 

 

 

わざわざの座席のご指名にちょうど彼の隣にいたノブユキは「おっ...!」とやや盛り上がっている様子だ。

 

 

 

 

 

「指定席って早速気に入られたか!?すげえな、お前」

 

 

 

 

 

「...かもな」

 

 

 

 

 

そうやり取りしながらも座席に乗り込んでいく...が、この時アクアは察していた。左ハンドルの車に対して左後ろということは彼女の真後ろに座ることになる...故に彼女が運転中にバックミラーで後ろを確認する際に自分の姿を視界にあまり入れずに済む。

要約すると"視界にすら入れたくないから指定した席"なのだ。

 

 

そんなこんなで全員が座席に乗り込んだ。

 

だが、一斉には出発しない。

 

 

MEMちょのミニクーパーが出てから5分ほど時間を空けてから真奈美のゲレンデが出発。ややこしいが、これもリスク分散の為だ。なるべく一緒に居ないように、逆に固まる時は全員で一斉に固まって団体感を出す。

真奈美がスキャンダルに巻き込まれた時に覚えた教訓だ。

 

 

 

 

 

「随分慎重な動きするな」

 

 

 

 

 

「まあねー、念には念をだよ。

汚い連中は画像弄くり回したりして疑惑でっち上げるのも好きだしね」

 

 

 

 

 

真奈美から返ってくる一言がズサッとアクアの心に刺さってきた。流石の彼も一瞬「うっ...」と反応仕掛けるも、何とか平静を装う事ができた。そんな中、アクアの隣に乗ってるノブユキの一言により、車内での会話の話題は今乗ってるゲレンデに切り替わった。

 

 

 

 

 

「にしても、すげえよな...!まさかこんなデカいベンツ持ってるなんてな」

 

 

 

 

 

「いやいやー、親からの借り物だよー。

私が持ってるのはトヨタ86GT1台だけだから。

まー、本音を言うとプリウスが借りたかったんだけど、親が今日はそっち使いたいって話でこうなったんだー」

 

 

 

 

 

「なんで!?ベンツの方がいいだろ...!!」

 

 

 

 

 

ノブユキの反応をバックミラーで確認しては赤信号で停車してからチッチッチと指を動かす真奈美。彼女が話す前に助手席に座っていたケンゴが察したのか、やや呆れたような様子ながらも代弁するようにこう話した。

 

 

 

 

 

「単純に車体が大きくて運転しづらいからじゃないか?

それに駐車する場所にも気を遣いそうだし...」

 

 

 

 

 

「場所って...広い場所事前に目つければ良い話だろ」

 

 

 

 

 

「...さっき入ってくる所見てなかったのか?

けっこう天井擦りそうな感じだったぞ、運転してて上に意識向けないといけないってかなりストレス溜まりそうだが...」

 

 

 

 

 

「おぉー!流石"ケンちゃん"!正解、正解!!」

 

 

 

 

 

唐突なケンちゃん呼びに「け、ケンちゃん...?」と少し動揺した様子。そんな彼の反応を楽しむようにクスッと笑みを浮かべると青信号で車を再び走らせるとノブユキが驚いたような様子でケンゴを見た。

 

 

 

 

 

「すげえな、お前。なんでわかった...?」

 

 

 

 

 

「下積み時代とかよくバンドメンバーが持ってるハイエースに音楽機材載せてからライブハウスに移動することがあったんだが、そういう時に割と立体駐車場の高さ制限に引っ掛かって場所変えたりとかしたんだ。

だから、そうなんじゃないかって察した」

 

 

 

 

 

「さすがー!結局の話、ただ単に移動するだけならフツーが一番いいんだよ。

プリウスだったら荷物も人も載るし、燃費もイイし」

 

 

 

 

「ち、ちなみにだが...この車、燃費どれぐらい?」

 

 

 

 

 

「リッター5」

 

 

 

 

真奈美の言葉に「「ご、ごご、5ーッ!?」」と驚くノブユキとケンゴ。互いに頭を軽く抱えるようにしてプツプツと呟き始めた。

 

 

 

 

 

「り、リッター5って...

ガソリン捨てて走ってるようなもんじゃん...」

 

 

 

 

 

「ま、まあ...乗り出しでも2000万ってMEMが言ってたし、これに乗るような人からすれば燃料代も端金みたいなものかもな....」

 

 

 

 

 

「まあね、今回燃料代や高速代は私持ちだから流石にキッツいんだよねー...

高速で走るから多少は燃費良くなると思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして 

 

富士スピードウェイ

 

 

 

 

渋滞に巻き込まれながらも到着した一行。

レースには間に合いそうだ...それどころか、中に入って色々回る時間もありそうだ。女性陣が固まって乗っているミニクーパーの運転席で「だはぁー、疲れたー...」と安堵するように息をつくMEMちょ。それに対し助手席のかなは辺りを見回して警戒しているようだ。

 

 

 

 

 

「混んでるのは予想していたけれど、予想以上ね...

こうも人が居るとなればかなり動きづらいわ」

 

 

 

 

 

高速道路走行時に外していた変装用のサングラスと帽子を装着。それを視界に入れたMEMちょも直ぐにサングラスと帽子を装着...後ろに座る二人をチラリと確認するも、あかねの方はある物に視線を奪われていてゆきはそれを気にしている様子だ。

その視線の先を辿るようにして目を向ける...

FUJI SPEEDWAYの大きなロゴだ。

 

まだ付き合う前に彼と一緒に写真を撮った事が鮮明に浮かび上がってくる...そんな昔の出来事でもないのに、凄い懐かしく感じていた。

 

 

今度こそ、必ず....取り戻す。

 

 

そう思いながらも握り拳をつくり、グイッと力を入れていると隣に座っていたゆきがそれを察したのかそっとしたような口調で「あかね」と彼女の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

「ゼッタイに振り向かせよ...私も全力でサポートする」

 

 

 

 

 

そのまま車列が進んでいき、一行は駐車場スペースにたどり着いた。ここで離れた位置に駐車し、男性陣と女性陣が合流。

互いに軽く変装している感じだ。

早速、腕を軽く組みながらもかなが男性陣にこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「どうだった?ベンツの乗り心地」

 

 

 

 

 

「もうサイッコー!道中すげえ道空けてくれたし!」

 

 

 

 

 

「それは、あんなデカい装甲車みたいなの後ろから迫ってきたら誰だって道空けたくなる...でも乗り心地ホントによかった」

 

 

 

 

 

「まあ、私のお財布事情はかなり死活問題になりそうだけど...」

 

 

 

 

 

ニャハハ...と自嘲染みた笑みを浮かべながらも語る真奈美に対してその後ろで目線を逸らして何処の方を遠くを見据えるように眺めていたアクア。そんな彼の事が気になったかな...そちらへ目を向けながらも直接問い掛けた。

 

 

 

 

 

「アンタは...どうだった?ベンツ」

 

 

 

 

 

まさか直接質問が飛んでくるとは思ってもいなかったアクア。一瞬驚いたような表情を見せた気もする...そこでかなも最近なるべく話し掛けないようにしていたが、無意識に彼に話し掛けてしまったと気付いた。

顔を真っ赤にしながらも手足をパタパタと動かしてから落ち着きを取り戻すと「い、一応聞いてみただけだから!」と急いでいるような早口で告げるもアクアの方は小さく笑みを浮かべてからこう答えた。

 

 

 

 

 

「まあ、悪くはなかったが...時々片側擦りそうにな」

 

 

 

 

 

発言が終わる前に笑顔の真奈美から周囲に気づかれないように素早く肘で一撃を食らわされるアクア。突然のことにガハッ...!?と腹を押さえてその場で膝をつきそうになる彼を彼女は何も知らないのを装うように大袈裟な態度で「あらー、大変!」と言いながらも彼を介抱するようにその場でしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

「アクアくん、お腹痛くなっちゃったみたーい!

最寄りのトイレの場所、ちょーっと複雑だから行くの手伝ってあげないとー!!」

 

 

 

 

 

そう言いながらもアクアの身体を支える真奈美。しかし、何を思ったのかかなが「ま、待ちなさい!」と彼女に告げて静止させてはこんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

「その役、私が引き受けるわ!」

 

 

 

 

 

「え、かなちゃん...最寄りのトイレの場所分かるの?」

 

 

 

 

 

「わ、分かるわよ!それぐらいッ!!」

 

 

 

 

 

咄嗟に強がってそう告げたものの、本当の事を言うと全く分からなかった。...が、かなの様子からそのことからそうする目的まで察した真奈美。

小さく笑みを浮かべて「じゃあ、任せよっかなー」と告げては彼女の歩み寄ってはそっと耳打ちするようにこう告げた。

 

 

 

 

 

「...多分、最寄りのトイレは混んでるだろうから離れたところ行ったほうがいいよ。駐車場の出入り口を左曲がった所のトイレ、外観が赤いから見れば分かると思う。頑張ってね」

 

 

 

 

 

全てを見抜かれたことに内心驚くかな。その彼女の反応を楽しむように小さく小悪魔染みた笑みを浮かべると何事もなかったかのように皆に向けてこう告げた。

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ私たちは先にイベント広場にいこっか!

かなちゃんとアクアくんはまたそこで合流しよっ、週刊誌なんかに撮られないように注意してね〜!」

 

 

 

 

 

手をフリフリと振ってから残りのメンバーを先導するように出入り口を出て坂を歩く真奈美。しかし、その際に向かい側の男3人組とすれ違う際に彼らがケラケラと笑い混じりに大声で話す会話の内容に全員の空気がガラリと変わった。

 

 

 

 

 

「―ベリッシモだぁ?あんなん、オワコンだろ。オワコン」

 

 

 

 

 

「―そうそう、前のマレーシアもタイヤバーストしてクラッシュしたしな。2戦目の富士もピットミスだっけか?

クルーも素人集めたんかよって感じ。監督も秋山って采配ビミョーだしな」

 

 

 

 

 

「―ドライバーもオワコンもオワコン。

特に五十嵐、会見であんな大口叩いたわりには大して成績残せてないじゃねえか。

しかも、まともに成績残せなくて女に捨てられたんだろ?

本人否定してたが、マジな話だろ。アレ」

 

 

 

 

 

全員が全員立ち止まり、一気にピリついた空気になった。

その中でも最も苛立ちを感じていたのは...あかねだ。

 

捨ててない、ゼッタイに...

 

込み上げてくる思いからグッ...と握り拳をつくり、すれ違った男3人組に立ち向かおうとするも、咄嗟に誰かに手首をパッと掴まれて止められた。...ゆきだ。

 

 

 

 

 

「...相手にしちゃダメだよ」

 

 

 

 

 

その静止によってようやく理性が明確に戻ってきた。

が、そんな中でも一人がクルリと背を向けるようにして、彼らに挑もうとしていた。真奈美だ...彼女は近くにいたMEMちょにこう告げた。

 

 

 

 

 

「...ちょっと先行ってて、イベント広場はここ上った突き当たりを左に曲がった所だから」

 

 

 

 

 

「...えっ、まなみんはどうするの?」

 

 

 

 

「アイツらとっちめてくる。関係ないようなフリして歩き続けて、あなた達まで巻き込んだら大騒ぎになる」

 

 

 

 

 

そう告げて男達に向けてズカズカと歩く真奈美。一行は行けと言われても不安からか、その場で立ち止まって見ることしかできない。そんな中で彼女はついに「ちょっと!」と静止するように呼び止める。彼らが「―あー?」と半ば不機嫌そうに振り向いてから彼女は力強くこう抗議した。

 

 

 

 

 

「アンタたち、命掛けて走ってる選手たちにオワコンってどういう意味よ!?」

 

 

 

 

 

「―なんだ、お前?」

 

 

 

 

 

「―あれ以上にオワコンなチームそうねえだろ」

 

 

 

 

 

「―もしかして、あそこ応援してんの?

レース観戦初心者っぽいし、俺らが手取り足取り教えてやろうか?」

 

 

 

 

 

真奈美が女ということもあって完全に舐めきったような態度の男達。一人に関しては下心があるような態度だが、真奈美は一切退かない。逆に噛みつくような口調でこう告げた。

 

 

 

 

 

「結構よ!アンタ達から教わるぐらいなら電柱と話してたほうがまだマシ!!」

 

 

 

 

 

「―なんだと、このアマ....!」

 

 

 

 

 

「―チョーシ乗ってんじゃねえぞ...!」

 

 

 

 

男達が彼女に手を出そうとした...その時。

一人の男が「お前ら!!」と力強く静止するように間に割って入ってきた。

nismoのロゴが入った黒い帽子と白い半袖のポロシャツにジーンズという格好...見た目は40代ぐらい。

眉は太く力強く、細く引き締まった瞳...強い情熱が宿っているようなその瞳と声に威圧され、両者がビクッと動きを止めると彼は両成敗するようにこう告げた。

 

 

 

 

 

「神聖なレースの地を喧騒で荒らすんじゃねえ!

喧嘩するならサーキットから出ていけ!!

 

それと、お前ら3人!

チームに対してオワコンとか舐めた発言してんじゃねえよ、そのチームを全力で応援してる奴だっているんだ!

 

お前らが応援してるチームは!?」

 

 

 

 

 

「―ヴィ、ヴィブルスです...」

 

 

 

 

 

「あそこだってMARSの火原が戻ってきてからまともに勝ててねえじゃねえか!

 

でもよ、全員が全員必死こいてやってんだ!!

その思いを踏みにじるような振る舞い方して、モータースポーツファンとして恥ずかしいと思わねえのか!?」

 

 

 

 

 

彼の発言に圧倒され、黙り込む3人組。

少しして「―す、すいませんでした...」と反省したように謝罪してから静かに立ち去ったのを確認すると真奈美はホッとするように小さく息をついてから仲裁に入った男の方に目を向けた。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「いやいや、傍から見て黙っていられなくなっただけだから...」

 

 

 

 

 

先程までの威勢とは打って変わり、一歩退いたような姿勢になった男。照れ隠しなのか帽子を整えていると離れた位置で見守っていた一行が心配そうに駆け寄ってきた。

 

 

 

 

「まなみん、大丈夫!?」

 

 

 

「真奈美さん!」

 

 

 

 

「大丈夫だよ、そんな心配そうにしなくても。このオジサンに助けて貰ったから」

 

 

 

 

 

"オジサン"というフレーズが引っ掛かったのか、ウグッと一瞬顔が引き攣る男。オホンと軽く咳き込むようにすると気を取り直すように腰に手を添えながらもこう告げた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はもう行くから。皆で楽しんでくれ」

 

 

 

 

 

そう言って足早に去っていく男。遠くにいた彼の知り合いらしき丸顔の男が「―池谷センパーイ!」と呼んでいるのが目に見える。恐らく、彼の連れだろう。なんだか微笑ましそうにその光景を眺める真奈美だったが、一行の発言で再び意識を一行に集中させる。

 

 

 

 

 

「にしても、マジでどうなるかと思ったぜ...」

 

 

 

 

 

「とにかく無事でよかった」

 

 

 

 

 

「ううん、ゴメンね。迷惑掛けちゃって」

 

 

 

 

そう言って再び一行と共に坂を上り始める真奈美。

そのまま広場へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻

 

ベリッシモチーム ピットガレージ

 

 

 

チーム監督の秋山は早速、最終確認をしようとドライバー二人をロッカールームから呼び寄せた。いつも通り変わらない装いをする石神に対し、どこか地に足がついていないような様子のハジメ...それもそのハズ、彼が前日の予選で走ったQ2の結果はここ4戦で最低とも言える結果だったのだ。

 

メンタルが底を突き掛けている...内心そう察する秋山だが、これという打開策が何も浮かばない。

 

離れた位置で見守っていたピットクルーもなんだか不安そうな様子だ。だが、ここで監督の自分が表情を曇らせたらチームという船は座礁仕掛けない。

 

いつも通りに全員をパイプ椅子に座らせてからホワイトボードにキュッキュッと今日の作戦を書き込んでいった。

 

 

 

 

 

「前日の夜に降った雨がまだ乾ききってない可能性があるが、マーシャルからウェット宣言が出されていない上に日中は快晴という予報だ。スタートは予定通りドライタイヤ、コンパウンドはミディアムで行って様子見だ。

路面温度も夏の陽射しでカンカン照りで熱くなってるところもあれば、さっき言ったように乾ききってない場所もある可能性があるからな」

 

 

 

 

 

「タイヤ交換はどうしますか?」

 

 

 

 

 

「予定では45周にタイヤ交換と給油だ。消耗次第ではリアタイヤだけの交換で済ませる。ほかに意見があれば話すが...」

 

 

 

 

 

特にないのか、挙手もなく静まり返るブリーフィング。秋山の解散の一言で全員が散り散りになる中、石神はロッカールームに戻って自分のカバンの中を漁る。しかし、そこであることに気付いたのだ...持ってきた痛み止めがないのだ。

 

 

 

 

 

「っ、まさか....!」

 

 

 

 

 

最近こっそりと一度病院に言って貰ってきた強力な痛み止め。しかし、それがないとなるとレースを走るのは困難を極める...が、誰かに相談した所で出走を止められるだけだ。

 

そんな情けない結果は死んでも嫌だった。

 

 

 

 

「....やるしかないか」

 

 

 

 

痛み止めなしでの出走...それを覚悟した。

 

 

 

 

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