IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第三幕 ANTARES act.12

 

 

 

―1時間後

 

 

イベント広場

 

 

 

初めてレースイベントに足を踏み入れた一行...

ガヤガヤと周囲の賑やかな雰囲気に圧倒されるメンバー達。

所々に立ち並ぶ出店から漂う焼きそばのソースが焦げる香りや、唐揚げが揚がる音...食欲を掻き立てるような要素しかない上に初見ながらもどこか見覚えのあるような光景からノブユキが思わず呟いた。

 

 

 

 

 

「すっげー、なんか祭りみたいだな」

 

 

 

 

 

「ノブくん、せっかくだから何か食べて行かない?

ワタシ、お腹空いちゃった」

 

 

 

 

二人が賑やかなムードに紛れて屋台飯を頼もうとする中、トイレに行ってたアクアとかながようやく合流してきた。

 

 

 

 

 

「お、アクたんとかなちゃん。随分遅かったねー!」

 

 

 

 

 

「まあ、一度下ってからまた上るような道を歩いたから...

思ったよりも時間掛かったわね」

 

 

 

 

 

「なんでこんな勾配キツいところにサーキットなんかつくったんだよ...

徒歩で移動するのもスゴいダルいんだが。立地悪過ぎだろ」

 

 

 

 

 

ブツブツと悪態をつけるアクアに対し、やや不機嫌そうにムスッと表情を変える真奈美。逆に反論したかったが、MEMちょやかなが気づき掛けた為にニパッといつもの笑みを作って誤魔化す...若干違和感を感じるかなだったが、気を取り直して辺りを見回すと「にしても...」と前置きしてからこう呟いた。

 

 

 

 

 

「随分賑わってるわね。屋台みたいな出店だけじゃなしに、過去のレースマシンの展示、選手トーク用の登壇ステージ、あっちには子供向けのカート体験スペースもあったわ...意外と子供向けのスポットも多いわね」

 

 

 

 

 

「まあね。車離れが進んでる今において考えると、子供という芽からしっかり興味を持ってもらうのは大事だからっ。

そういうところにもしっかり力入れないと」

 

 

 

 

 

そう受け答えする真奈美に対し、未だにこの場において口一つ開かずにずっと悩むようにしている人物がいた。

あかねだ...そんな彼女の状態に気付いたのはMEMちょだった。

 

 

 

 

 

「あかねー、大丈夫?」

 

 

 

 

 

恐る恐る問い掛ける彼女に対しコクリと頷くあかね。

そのまま自分たちが観戦する予定のグラウンドスタンドの方に顔を向けるとこい呟いた。

 

 

 

 

 

「ハジメくん...居るんだよね、あの向こう側に」

 

 

 

 

あの向こう側...グラウンドスタンドの向こう側となるとチーム毎のガレージピットがある場所だ。「多分ね」と答えるMEMちょに対し、あかねは不安そうにこう呟いた。

 

 

 

 

 

「ワタシの思い、ホントに彼に届くのかな...?」

 

 

 

 

 

ここになって込み上げてきた不安に押されそうになってると察したMEMちょ。少しでもそれを解してやろうと間を空けてから小さく笑みを浮かべてはこう答えた。

 

 

 

 

 

「届くよ、大丈夫」

 

 

 

 

 

「....どうしてそんなハッキリ言えるの?」

 

 

 

 

 

「ワタシ、今でこそチャンネル登録者数とか多いけど...

始めたての頃はコネとかそういうのも無かったから全然ダメだったんだー。でも...どうしても昔夢見てたアイドルみたいに一人でも多くの人に勇気や希望、元気、笑顔を届けたかった...

そう思い続けながらも動画撮り続けてたら、一人...また一人とその思いは届いて、いつしかスゴい人数になった。

 

画面越しの知らない相手でもワタシの思いは届いた。

 

だから、顔を知ってる上にハジめんから愛されていたあかねの思いが届かないはずがない。

 

だから...胸張って、エールを届けてあげて。これでもかってぐらいの愛で」

 

 

 

 

 

その言葉で息を呑むような表情を浮かべるあかね。それに対し、MEMちょはその表情から自分がどんなことを言ったのか後になって自覚したのか、急にアハハ...と照れくさそうに頭を掻いてはこう呟いた。

 

 

 

 

 

「なーんか、ワタシらしくないこと言っちゃったかな」

 

 

 

 

 

「いや...ありがとう」

 

 

 

 

 

安堵するように小さく微笑みながらも少し離れていたところからその様子を見ていた真奈美。そんな中でふと体内時計が何かを察してスマホでパッと時間を確認。

もう入場した方が良さそうな時間だった。

 

 

 

 

 

「みんなー、いくよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

―グラウンドスタンド

 

 

 

指定された席に移る一行...挙動不審に辺りを見回すノブユキは前面に広がる圧倒的なサーキットビューとスタンドの人口密度と熱気に思わず「スッゲー...!」と呟いた。

 

 

 

 

 

「コレが国内最高峰の舞台か....!」

 

 

 

 

 

 

「まあー、厳密に言うとツーリングカーという部類の話だけれどね。単にレースって話だとスーパーフォーミュラとかもあるからー」

 

 

 

 

 

ノブユキの言葉に詳細を付け加える真奈美。そんな二人に対してゆきの方が「それにしても...」とそれ以上に意外に思ったことを語り始めた。

 

 

 

 

 

「そろそろ真奈美と別れかれるかなーって思ってたけど、まさか私たちの後ろの席だったとはね」

 

 

 

 

 

「ホントそれ!別々にチケット取ったのにスゴい確率だよねー!」

 

 

 

 

 

「でも、別れなくて良かったな。この7人じゃレース詳しくないからかなり詰むところだった」

 

 

 

 

 

そう言いながらも座った席は全体から見て左寄りの前から数列目の席。ノブユキが「この距離間で走んのか...!?」と言っている間にもMEMちょは配信者らしく自撮り棒を使ってショート動画の撮影...だが、ケンゴの後ろに座っていた真奈美が歩み寄ってくる人物の存在に気づいてふとそちらを見ると驚いたように声を出してしまった。

 

 

 

 

 

「あれ、さっきのオジサン!」

 

 

 

 

 

アクアとかな以外の全員が思わず「「「えぇっ!?」」」と驚きながらも目を向ける...そこには先程仲裁に入って助けてくれた男の姿が。男の方もまさかの再会に驚きの表情だったが、少しして落ち着くと被っていたnismoのキャップを軽く整えるようにしながらも「また会ったな」と返してきた。

 

が、男に助けて貰ったタイミングでちょうど一行とは別行動を取っていたアクアとかなは頭上に?を浮かべている様子だ。

 

 

 

 

 

「え、えっと...誰よ、この人」

 

 

 

 

 

「さっき二人がいないタイミングでちょっと助けて貰ったんだ。まさか私の隣の席とは思わなかったけど...」

 

 

 

 

 

説明に対し、「へー...」と言ったような返し方をするアクア。しかし、それに対してゆきがある事に気付くと「あれ?」と疑問を抱くように小さく呟いて辺りをキョロキョロと見回してからこい問い掛けた。

 

 

 

 

 

「さっきいた連れの人は...?」

 

 

 

 

 

「あー、アイツは指定席のチケット取れなかったから自由席なんだ。今ごろ、どっかの芝生でテント立てて観戦準備してるよ」

 

 

 

 

 

苦笑いしながらもそう説明した時にどこか遠くからハクション!と聞こえてきたような気がするが、特に気にも留めない一行。配信を止めて話の輪に入ってきたMEMちょが何かを思いつくと「ねえねえ!」と皆に向けて発言した。

 

 

 

 

 

「せっかくまた会ったんだしー、よかったら一緒に観戦しない?」

 

 

 

 

 

「お、いいな!それ!」

 

 

 

 

 

「正直、ワタシ1人でここにいるメンツ全員に説明するのも厳しいし...オジサンがイイなら助けてくれると嬉しいなーって」

 

 

 

 

 

"オジサン"というフレーズに再びウギッと心が傷ついたように反応してしまう男。しかし、事実一行に比べれば圧倒的にオジサンのため何の反論も出来ない。オホンと改めるように軽く咳払いすると腰に両手を添えるようにしながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

「まあ、1人で黙々観戦するよりかはそっちの方が良さそうだしな。いいぞ、一緒に観ても」

 

 

 

 

 

その言葉に安堵する真奈美。「ありがとうございます」と返してからスマホを操作し始めた彼女にケンゴが気付き、「何してるんだ?」と問い掛けると彼女はスマホの画面をパッと全員に見せながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

「レース実況のアプリだよ、現地にいれば無料で視聴出来るんだー。ここからだと目で見れる範囲でしか見れないけど、コレを使えば生の目では見えない奥の方までしっかり見ることが出来るからオススメだよ」

 

 

 

 

 

そう言われて一斉にアプリをダウンロードし始める一行。一方、男の方はハンディタイプの小型のラジオを操作しては耳にイヤホンを装着。ノブユキが不思議そうに彼に目を向けると単刀直入に問い掛けた。

 

 

 

 

 

「アプリ開かないのか?」

 

 

 

 

 

「まあな、俺はアナログ派だから毎回こっちで聴いてるんだ」

 

 

 

 

 

そうやり取りしてから数分後...遂に開会宣言が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―富士スピードウェイ 実況席

 

 

若干の熱気と緊張感の中で座る1人の男...

190cmはあるような長身、ドイツ人の父と日本人の母から受け継いだ混血の顔立ち。シャープな輪郭と柔らかな笑みを併せ持ち、ダークブラウンの短髪が額を縁取るように整えられている。

 

彼の名前はサーシャ、この実況の進行役だ。

 

 

彼のバリトンサックスのような低音ながらもどこか暖かみと安定感を感じさせるようなボイスと共にこのスーパーGTは静かに幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

「AutoBS PRESENTS Round4 富士スピードウェイ100RAP始まりました。本日も素敵なゲスト解説にお越しいただいてます。

池田竜次さんです。

池田さん、本日はよろしくお願い致します」

 

 

 

 

 

サーシャの紹介と共に隣に座っていた男...池田が動き始める。

容姿は坊主姿で威厳がありそうな出で立ち...顔立ちからか、サーシャよりも歳上そうな雰囲気を醸し出している彼は「よろしくお願いします」と低いながらも対照的に鋭さも感じさせるような声で軽いお辞儀混じりに一言返す。そのまま真っすぐとした目で実況席のウィンドウ越しに見えるレース車両を眺めるようにすると間を埋めるようにサーシャが直ぐに彼の経歴の説明に入った。

 

 

 

 

 

「池田さんはモータースポーツによる青少年育成を目的とする『ゼロ・アカデミー』の主宰者であり、実家は寺の住職。さらには今日から期日前投票が始まっている小田原市の市議会議員選挙の立候補者になります。そして今回はスーパーGTの解説と色々こなされてらっしゃいますね。

今回視聴されてる方々の中にも小田原市在住の有権者の方もたくさんいらっしゃると思うので、何かお伝えしたいこととかは...?」

 

 

 

 

 

「そうですね、この場はあくまでレース観戦の舞台ですので詳しい掘り下げはしませんが...今よりも住みやすい小田原市を皆さんと共に創り上げていこうと思っています。皆さんの清き一票をよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

サーシャによる慣れたような司会進行...池田の一言コメントが終わると共にGT500、GT300の順でグリッドを読み上げていく...GT300はポールポジションMARS、3番グリッドにヴィブルス、5番グリッドにディープスター...ハジメのベリッシモは参戦以来最低の8番グリッドだった。ここでサーシャが全て読み上げたところで彼のコメントが隙かさず入れられた。

 

 

 

 

 

「ベリッシモは不調ですね....

3戦目のマレーシアも2ndドライバーの五十嵐に交代する前にも無念のリタイア、2戦目の富士もピットミスで6位...あれが無ければ表彰台に立ってもおかしくなかったのですが。

池田さん、どう思われますか?」

 

 

 

 

 

「ドライバー、ピットクルー共々...無駄な感情が出ているような気がしてますね。怒り、不安、焦り...それらは人間が生み出すパフォーマンスに悪影響を与えます。

必要なのは全てを無にするゼロの心です。

コレが備わっているかどうかでパフォーマンスをどれだけ引き出せるかが大きく変わります」

 

 

 

 

 

落ち着いた口調で語る池田に対し、コース上で何かしらの変化があったことを目にするサーシャ。テンポよく回そうとカメラをそちらに向けるようにスタッフにこっそり合図...そのままカメラが移ったのを確認。パトカーや白バイがスタート地点からゆっくりと走り始めると共に後ろからGT500、GT300それぞれがグリッド順で追随するように走り始めると共にサーシャの説明が入った。

 

 

 

 

 

「さて、本日も静岡県警高速機動隊の先導の下でパレードランが行われております。パトカー白バイと共にレーシングカーが走っている、知らない方から見ると異様な光景かもしれません」

 

 

 

 

 

そのままサイレンを鳴らした白バイやパトカーがコースを一周して戻ってくるとピットレーンに退避。次はレーシングマシンたちによるフォーメーションラップ。魅せるための走りから本格的なウォームアップ...左右をジグザクと蛇行してタイヤを温める各車を見ながらもサーシャは池田に質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「池田さん、今日の路面コンディションどうですかね?」

 

 

 

 

 

「そうですね、正直非常にやりづらいコンディションだと思います。前日の夜に降った雨でによる影響があるかも知れません。パッと見では大丈夫そうに見えても、微妙に濡れていたり、路面温度が低い部分が多々ある可能性があります。また、マーシャルからウェット宣言が発言されていないのでスタート時からウェットタイヤを履くことが出来ません。前半は全チームかなり苦しむ所でしょう」

 

 

 

 

 

「予報だと本日は晴れとのことなので、後半は路面も完全に乾き切ってくるので走りやすいかもしれませんが...いかがでしょうか?」

 

 

 

 

 

「ええ、確かに。..."予報通り"なら」

 

 

 

 

 

一方、実況席のやり取りを聞いていたグラウンドスタンドの一行。ノブユキがチンプンカンプンと言った様子で頭上に?を浮かべていると「なあ」と真奈美に声を掛けた。

 

 

 

 

 

「さっきからGT500とか、GT300とかいう言葉が出てくるんだが...イマイチよくわかんねえんだよな」

 

 

 

 

 

「クラスが違うんだよ、GT500は自動車3大メーカー直系のレースメーカーと共同で作られたレース専用の車。GT300は市販車をベースに改造して作られた車。GT500の車の方が専用設計な分、速いから上位クラスとして見られるかな。

色々と比べると他にも違いがあるんだけど、一番の違いは車種のバリエーションかな?

GT300はベンツやポルシェ、ランボルギーニみたいな外車でも参戦出来る。ハジメくんが乗ってるのもフェラーリだしね。あと、ゼッケンの色かな。GT500は白、GT300は黄色だよ」

 

 

 

 

 

「でも、なんで500と300なんだよ。単に性能の違い示すなら他にもあっただろ」

 

 

 

 

 

ノブユキの質問に「それは...」と少し考えているとオジサンの方が助っ人のように肩入れするように話題に入ってきた。

 

 

 

 

 

「元々はパワーが500馬力台、300馬力台っていうので分けてたんだ。だけど、近年のレースカーの高性能化によってGT300の車でも500馬力以上出てたり、GT500に関してはもっとパワーが出るようになったりしてる。

とりあえず、名前だけ昔の名残りで残ったって感じだな」

 

 

 

 

 

その言葉に「へー」と納得するノブユキ。しかし、フォーメーションラップが終わってスタートラインについた車両を見てMEMちょが「あれれー?」とコースに指を差しながらもふとした疑問をオジサンに向けて投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「500の車はすぐにでも出れそうな感じなのに300の車はずっと後ろにいるよねー?あれはなんで?」

 

 

 

 

 

「そりゃあ、性能が大きく差があるマシンが一斉にスタートしたら事故る可能性があるからな。最初のストレートからの1コーナーは最も車両の密度が高くなるタイミングで事故が多発する可能性もある、だから500が走った30秒後に300がスタートするようになってるんだ」

 

 

 

 

 

「でも、それならレース自体別々にやればいい話なんじゃ?」

 

 

 

 

 

池谷の言葉にふと疑問を投げ掛けるケンゴ。しかし、その後ろで真奈美は息をつきそうな表情で「わかってないなぁ、ケンちゃん」と言い放ってはこう説明した。

 

 

 

 

 

「速い500の車に対し、遅い300の車が混ざって走る...レース中に起きることは?」

 

 

 

 

 

「300の車が500に追いつかれる、それがどうした?」

 

 

 

 

 

「その追いつかれたタイミングが300の車同士の攻防戦だったら?逆に500の車同士の攻防戦中に遅い300の車に追いつくような形になったら?」

 

 

 

 

 

ようやく気づいたようにハッと表情を浮かべるケンゴ。その表情を見て真奈美はクスッと小さく笑ってから続けてその詳細について語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「単なる鍔迫り合いだけではない別の要因からドラマが生まれる。それが国内最高峰のツーリングカーレース、スーパーGTの醍醐味。...どう、ワクワクしてきた?」

 

 

 

 

 

軽くウィンクを送られ、ドキッと動揺するケンゴ。それと同時にレースのスタートシグナルが点灯...

 

ヴァァァンッ!!とエンジンの咆哮を轟かせ、風を切るように走るGT500、15台。

周囲の観客の熱気が最高潮に...一行は500に関してはハジメがいるベリッシモもいないため、「スッゲー!」ぐらいの反応だった。ただし、オジサンは除く。

 

 

 

 

 

「頼んだぞー!TKマッハ!!」

 

 

 

 

 

完全に応援モードになったオジサンにキョトンとした表情の一行。しかし、真奈美に関してはそこから更に深く掘り下げるようにクスッと笑ってから問い掛けた。

 

 

 

 

 

「オジサンの推しチームは500のTKマッハなんですね」

 

 

 

 

 

「まあな。自慢じゃないが、TKマッハの社長とは若い頃にちょっと色々あった仲でな。その兼ね合いもあってって感じだな」

 

 

 

 

 

「えぇーッ!?高橋啓介と知り合いなんですか!?めっちゃスゴいじゃないですか!!?」

 

 

 

 

 

二人が完全に自分たちの世界に入っている中、ゆきは隣にいるあかねに目を向ける。

その目は何処か不安そうだ...そして、ある物に目を向けていた。ベリッシモの296GT3。今乗ってるのはハジメではないが、それでもずっと目を向けていた。

 

 

 

 

 

「あかね...」

 

 

 

 

 

「あれがハジメくんが乗る車なんだね。

初めて生で見た...彼のこと知ってるつもりだったけど、何も知らなかった」

 

 

 

 

 

そう小さく呟くあかねに対し、彼女の手を取るゆき。グッ..と軽く力を込めて勇気を送ると共に小さく微笑みながらもこうエールを送った。

 

 

 

 

 

「今から知っても遅くないよ。

だから...一緒に応援しよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―296GT3車内

 

 

前走のGT500の車両が去っていったのを確認した石神は車を出走位置につけた。出走のスタートシグナルが緑にならないかと注視しながらも狭く暑苦しい車内で彼は1人物思いに更けていた。

 

痛み止めがないこと、子供たちの存在、そして嫁に離婚を言い渡されたこと...

 

全てが脳裏に過ぎる。まるで走馬灯のようだ...

 

 

 

そして、それらが頭の中を巡りに巡った後にある言葉が浮かび上がってきた。それは、五十嵐ハジメに昼食時に言われた言葉だ。

 

 

 

 

 

"アプローチは多少変えた方が良いかも知れません。

ただ、今のやり方が全くもって間違ってるというわけではありません。あくまで己の芯みたいな部分は保持しながら..."

 

 

 

 

 

芯を保ちながらアプローチを変える...自分の中で言い聞かせつつもグッとステアリングを握る手に力を加える。

そして、目を開くと自分の中でこう決意した。

 

 

 

 

「(俺のカラダは長くは保たない...短期決戦だ、今までみたいに安牌なんて考えるな。

勝ちたいという思いや走りたいという信念、その芯だけはゼッタイに何があっても変えない。

 

それが"俺の全て"だ。

 

朝服用した薬の効き目が無くなるまでにどれだけ稼げるかが勝負だ、バトンは落とさない。絶対に次に繋げる)」

 

 

 

 

その思いと共にヴァゥンッ!ヴァゥンッ!!とアクセルを煽っていく石神。そして、それから間もなくしてグリーンのスタートシグナルが点灯。GT300全車両、28台が勢いよく飛び出すようにスタートを決めると実況席から見ていたサーシャが熱い思いを届けるように実況を木霊させた。

 

 

 

 

「―さて!AutoBS Round4!GT300が今スタート!!28台のマシンが一斉に飛び出しいきました!!」

 

 

 

 

 

 

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