IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第三幕 ANTARES act.Final

 

 

 

 

―4カ月後 

 

 

朝、ベリッシモ本社。

 

 

 

 

暑さもすっかり何処へ去っていき、冬の訪れを感じさせるような冷たい風が人々の髪を靡かせる。外がクリスマス色に染まり始める中、ハジメと石神はスーツ姿でエレベーターに乗り込んでいた。

 

 

 

 

「休日なのに急な呼び出しとはな...」

 

 

 

 

 

「ひょっとして、解雇通達だったりして」

 

 

 

 

 

「それは無いだろう」

 

 

 

 

 

ハジメの冗談混じりの一言にフッと鼻で嘲笑う石神。

二人で横並びになるようにしながらもエレベーター内を見上げ、上がっていく階層の表示を眺めているとハジメの方から時間潰しにと話題を振った。

 

 

 

 

 

「そういえば、石神さん...

午後からお子さんと何処か行くんじゃなかったでしたか?」

 

 

 

 

 

「ああ。正確に言えば"嫁"もな」

 

 

 

 

 

「あれ、離婚されたんじゃ....?」

 

 

 

 

 

「言ってなかったか?あの話は4カ月前に破棄になった」

 

 

 

 

 

どこか清々しい表情で腕を組みながらも答える石神。

「そうですか」と小さく笑みを浮かべながらも返すハジメだったが、そんな中でふとこんなことを逆に聞かれてしまった。

 

 

 

 

 

「...お前の方はどうなんだ。

一緒に写真撮られた例の彼女とは?」

 

 

 

 

 

一緒に写真...そのフレーズを聞いてハジメの脳裏に浮かび上がったのは4戦目の富士スピードウェイであかねと二人で抱き合っていた時のことだ。

実はあの時に雑誌社の一人が偶然にも自分達二人を撮影していたのだ。

 

これによってあかねが浮気したというイメージもある程度払拭された。

 

完全にというわけではないが、充分すぎるぐらい拭えた...

 

 

思わずクスッと笑いそうになりながらも「俺の方は...」と答えようとした時、エレベーターが目的の階層に到着。

気を取り直して二人である部屋へと移動する...井出が鎮座するCEO室だ。

 

ドアの前で待ち構えていた秘書に招かれるがまま中に入る...呼び出した本人、玉座に座る井出は二人を見るや否や笑みを深くさせた。

 

 

 

 

 

「休日のところ申し訳ありません、明日から年明けまでタイに出張の予定だったので...それまでにアナタ様方に伝えたいことがあってお呼び出ししたまでです。

 

なるべく手短に済ませるのでご安心を」

 

 

 

 

そう言ってゆっくりとその場から立ち上がり、数歩ほど歩み寄ってきた所でいきなり本題というのも品が無く違和感があると感じたのか、「まずは...」と前置きするように話を持ってきた。

 

 

 

 

 

「今シーズン、お疲れ様でした。

前半は苦戦を強いられたようですが...後半からは巻き返されましたね。見事、28チーム中3位の好成績です。あの状態からよくここまで巻き返されたものです。

 

しかし、私が一番評価したいのはそこではありません...何かは分かりますか?」

 

 

 

 

そう聞かれてイマイチパッとしない様子の二人。思わずクフフと笑い声を溢れさせてしまうと井出は二人に更に歩み寄りながらもこうズバリと答えた。

 

 

 

 

 

「昨年度までの絶対王者"MARS"を2位に陥落させ、火原を引退に追い込んだことです。彼らは4戦目の富士で痛いリタイアを引き起こし、それが大きな足枷となって今年のシーズンチャンピオンを逃しました。

そして、その痛いリタイアを引き起こしたのは他でもないアナタ方が要因です。よくあのチームを陥落させたものです。

 

僅差ながらも棚ぼたで初優勝を遂げたティーズガレージの連中もアナタ方に感謝してるでしょうねぇ。

 

 

ですが、そんな他人の力で得た棚ぼたの優勝よりかは...

己の力でしっかりと地に足を踏んで掴み取ったアナタ方の3位の方が余程素晴らしいと思います」

 

 

 

 

 

そう言いながらも服の内ポケットからある物を取り出して二人に手渡しする井出。二人がそれに目をやると若干驚いたような表情を見せた...ボーナスの明細だ。

 

 

 

 

「あの、これは...?」

 

 

 

 

「通常のボーナスとは別の特別ボーナスです。

期待に応えた仕事をこなす者に対価を与えるのは当たり前のことです。私の気持ちも添えてたっぷり入れておきました」

 

 

 

 

そう話す彼に対して「ありがとうございます」と礼を言いながらも二人が頭を下げた時、突然ピロピロ!という着信音が鳴り響いた...ハジメの携帯だ。

 

 

 

 

 

「(げっ、やば...!)」

 

 

 

 

マナーモードにするのを忘れていることに気づいて固まるハジメ。石神が「おい、バカ...!」と小声で叱る中、井出は幼い自分の息子でも見るような形でホホホッと笑いながらもハジメに告げた。

 

 

 

 

「気にしてませんよ。寧ろ、本来の休日を潰すような形でこの場に呼び出した私の方がマナー違反ですからね」

 

 

 

 

そう言われながらも一度軽く「失礼します」と頭を下げてからピッと電話に応じるハジメ...相手はあかねだった。後ろからガヤガヤと聞こえる感じから街中にいるのが何となく察することが出来る。

 

 

 

 

 

「―もしもし、ハジメくん?」

 

 

 

 

 

「ああ、どうした?」

 

 

 

 

 

「―待ち合わせの駅に行こうとしてるけど、電車が事故しちゃったみたいで...ちょっと遅れちゃうかも」

 

 

 

 

 

「今、どこ?家の最寄り駅?」

 

 

 

 

 

場所によっては回収出来るかもしれないとスマホを肩と耳で挟むようにしてスーツの袖をズラして時間を確認。三角型の機械式腕時計を眺めるその姿を見た井出は色々と察したのか、フフフッと野太くも小さい笑い声を響かせると彼の背中を押すようにこう告げた。

 

 

 

 

 

「行きなさい、五十嵐ハジメ。大切な者の元へ」

 

 

 

 

通話を終えた時に聞こえてきた声に内心驚くハジメ。確認するように井出の方に目を向けると横にいた石神がフッと鼻で笑ってから更に背中を押すようにこう告げてきた。

 

 

 

 

 

「行ってこい、あとは俺に任せておけ」

 

 

 

 

二人の気遣いに「ありがとうございます!」と勢いよく頭を下げるハジメ。そのままパッと飛び出すようにCEO室を後にし、エレベーターに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

ーしばらくして、とある駅前

 

 

 

着替える暇もなく、スーツ姿で白いNSXをドライビングするハジメ。クリスマスモード一色になり始めた外の雰囲気を感じ取りながらも駅前のロータリーに車を停車させると誰かが駆け寄ってきた...あかねだ。

 

 

 

 

 

「ゴメンね、わざわざ来てもらって...!」

 

 

 

 

 

「いいって、いいって。乗って」

 

 

 

 

 

そう促す彼に言われるがまま助手席に乗り込むあかね。 

黒や茶色を基調としたシックな大人向けの服装。

内心ドキッとするハジメだったが、そんな彼の気持ちなど知らずにシートベルトをつけたあかねは頭の上にハテナを浮かべながらも「どうしたの?」と問い掛けるも、ハジメの方は「何でもない!行こ!!」と咄嗟に隠すように車を走らせ始めるとあかねは早速いつもと違うハジメの服装に注目した。

 

 

 

 

 

「スーツ姿、珍しいね」

 

 

 

 

 

「なんか違和感あるなぁ...二人きりの時にスーツって。

トランクに私服積んできてるから...車から降りたら着替えようかな。あまり目立って週刊誌とかに撮られるの嫌だし」

 

 

 

 

 

「そうだね。でも、その格好...スゴく似合ってるよ。

いつもと違う感じがしてなんだか新鮮」

 

 

 

 

 

そう他愛もない話をしていたが、あかねから香る爽やかなほのかな香水の香りにドキドキし始めたハジメ。そんな彼に彼女は「ねえ」と確認するように話し掛けてきた。

 

 

 

 

 

「今日どうするか、あらためて確認していい?」

 

 

 

 

 

「ああ。

ちょっと開始地点は変わったけど、まずはショッピングモールに寄って買い物。そこから映画館で...」

 

 

 

 

 

この発言に色々と察したあかね。

「えー...!」とやや否定気味な反応を見せてから少しモジモジするように車窓から流れて見える景色に目を逸らした。

 

 

 

 

 

「...ホントに見るの?私が出てる映画」

 

 

 

 

 

「ああ、ダメ?」

 

 

 

 

 

「えっと...いいけど、何だか恥ずかしいかな。キミに見られるの」

 

 

 

 

 

「ダメならダメでいい。

ただ、あかねのこと少しでも多く知りたいから」

 

 

 

 

 

「もう....そう言われると断れないじゃん」

 

 

 

 

若干プクーと頰を膨らませるあかねに思わず苦笑いのはハジメ。赤信号で車を停車させると少し間を空けてからあかねが「ねえ」と再度切り出すように問い掛けてきた。

 

 

 

 

「映画の後の予定、忘れてないよね?」

 

 

 

 

 

「あ、あぁ...でも、いいのか?ホントに。

わざわざ奥山さんの店でスポーツカー買うなんて...

車使うだけならミニバンとか軽でもいいだろ」

 

 

 

 

 

「いいんだよ、その為に撮影の合間縫ってがんばって免許取ったんだし...

それに、私もハジメくんのこと"少しでも多く知りたい"から」

 

 

 

 

 

やり返すように言い返してきた発言にドキッとし、思わず焦ったように助手席に目を向けるハジメ。見ていて分かるような反応ぶりにあかねもクスリと笑うとそのまま小悪魔染みた笑みを見せながらもこう呟いた。

 

 

 

 

 

「お相子だね、コレで」

 

 

 

 

「ま...まあ、確かに」

 

 

 

 

こそばゆそうに外に目を向けて心境を誤魔化すハジメ...

しかし、一緒に居られる時間から得られる幸福感にいつまでもこうして居たいと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 とある薄暗い部屋

 

 

 

机の上に散乱するように置かれた原稿用紙とエナジードリンクの山。カーテンから微かに差し込んでくる陽射しを感じながらも机に突っ伏すようにして寝ていた鮫島アビ子は起床した。

 

 

 

 

 

「っ、いけない...!もう締め切り間近なのに...!!」

 

 

 

 

頭をカリカリと掻いて無理矢理身体を起こすも、直ぐに身体を動かそうというのは誰しも無理があるもの。ゾンビのようにまだ残ってるエナジードリンクに手を伸ばし、ゴクゴク...と飲むも頭が冴えない。

 

単に締め切りが間近云々だけの話ではない...最近、彼女が手掛ける作品、東京ブレイドがマンネリ化してきてるという読者からの意見が増え始めているのだ。

 

 

方針を変えるか、この作風のままで行くのか...

あるいは何かしらの新しい風を取り込んでいくか。

 

 

作者として悩みながらも飲み干したエナジードリンクを机に置いて時間確認や編集からの連絡がないか見ようとスマホをチェック...すると、あるネット記事を見つけた。

 

 

 

 

"絶対王者の陥落。新たな風を吹かせる新星の誕生"

 

 

 

 

いつもならこんな記事はスルーするが、この日の彼女はそうはしない。何となくながらも記事をタップして読み始めた...

 

以下は記事を抜粋したものである。

 

 

 

 

"4月デビュー戦、春のそよ風が吹く岡山国際サーキットでその星は産声を上げた。絶対王者にも引けを取らない2番グリッドを獲得。しかし、その才能は焦りからか頂点を掴みきれない。結果は10位、ポイント獲得こそしたもののイマイチ掴みきれない結果だ"

 

 

 

"5月の2戦目、富士スピードウェイでの出走。初戦の巻き返しを誓う。ペースは上位陣と同等。しかし、ピットストップで大きなタイムロス。結果は6位"

 

 

 

 

"6月の3戦目、マレーシア。セパンでの一戦は予選後のセッティング変更が裏目に出た。前走者の石神がクラッシュし、マシンは大破。出走することなくリタイアを余儀なくされる。

この時、周りが疑問視し始めた。彼やそのチームが本当に期待できるような存在なのか?"

 

 

 

 

"そして、迎えた8月の4戦目の富士スピードウェイ100RAP。今まで以上に1台、また1台と確実に仕留める走り。そして篠つく雨の下で彼は遂に成し遂げた...絶対王者、MARSの火原を追い詰め、撃破したのだ。結果は今季初優勝。4月に産声を上げた星はここで力強く輝きを放ったのだ。その輝きは夏の夜空に輝く赤い星のようだった"

 

 

 

 

 

"以降4戦、星はその輝きを遺憾無く解き放ち続けた。鈴鹿、菅生、オートポリス、もてぎ...彼が表彰台から外れるところを見ないことがない。その結果、今シーズンのランキングは3位。崖っぷちだった状態から巻き返しただけでなく、4戦目に絶対王者である火原をクラッシュまで追い詰めたことにより、彼が所属しているMARSを2位に陥落させた。その功績は停滞化していたモータースポーツ事情に火をつけるものとなるであろう。来シーズン、彼がどのような成績を残すのか期待しながらも追っていきたい"

 

 

 

 

所々に添付されたサーキットを疾走する白い跳ね馬と戦闘前を思わせるような真剣な眼差しでグローブを嵌める姿の男の写真...そして、一番驚いたのはピット裏で彼が女性と抱き合ってる女性についてだ。

 

黒川あかね...自分が執筆している東京ブレイドの舞台の際にヒロインの一人、鞘姫を演じる女優だ。

 

これは何か運命のようなものかも知れない...

 

 

そう考えると椅子の背に凭れるようにしながらも天井を仰ぐように眺めてこう考え始めた。

 

 

 

 

「(王道だけど、こういう泥臭いキャラも一人ぐらい居てもいいかもしれない...)」

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―夕方 

 

オートショップ スパイラル

 

 

 

夏に比べて早く暮れ始めた夕陽の下で駐車場にNSXを停めるハジメ。スーツから私服に着替えた状態で、あかねと共に降りてくると店のガレージで作業をしていた奥山がツナギ姿で出てきた。

 

 

 

 

 

「おぉ、来たか....二人とも久々だな」

 

 

 

 

「はい、今日はよろしくお願いします」

 

 

 

 

「久々と言っても、俺の方は前に足回りの調整で来てるんすけどね」

 

 

 

 

そう言っている間にブォンッ!と入り口付近で軽くエンジンを吹かすような音が響いてきた...目を向けると白いZN6型の86GTが...斎藤真奈美だ。ハジメのNSXの隣に車を停めて降りてきては「やっほー!」といつものテンションで手をブンブン振りながらも歩み寄ってきた。

 

 

 

 

 

「なんでお前が来るんだよ、呼んでねえよ」

 

 

 

 

 

「いや、じつは...私が呼んだんだ」

 

 

 

 

あかねの言葉に「え?」と呆気に取られるハジメ。

真奈美の方は小学生染みた笑顔を見せながらもピースサインを見せて軽く煽ってきた。

 

 

 

 

 

「へへーん!残念でした!ブイブイ!!」

 

 

 

 

 

「たく、ガキかよ...」

 

 

 

 

ハァ....とため息混じりに軽く頭を押さえて呟くハジメ。

そんなやり取りをあかねと奥山だったが、奥山の方が気を取り直して自分の後ろに親指をグイグイと見せるようにしてこう促してきた。

 

 

 

 

 

「裏にいいの来てるぞ、ゆっくり見ていくといい」

 

 

 

 

奥山に連れられて裏のヤードへと足を運ぶ3人。明らかに部品取りになってる車もあるが、かなり綺麗な車も陳列してある中であかねはふと疑問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「あの、奥山さん...この車って売り物じゃないんですか?」

 

 

 

 

「いや、売り物だ。ただ、ウチとしては店の景観も守りたいから値札とかは基本貼っつけないんだ」

 

 

 

 

 

奥山の回答に「なるほど...」と顎に手を当てながらも陳列されている車を眺めながらも歩くあかね。すると、1台の車の前でピタッと足を止めた。

 

 

 

流線型で風を優雅に受け流す彫刻のような白いボディ。

 

低いノーズから始まるシャープな曲線、フリードアの巧妙なシルエット、そして猫の目のように鋭いヘッドライト...RE雨宮製のエアロが入っているが尖り過ぎない印象のその1台の名は...RX-8。

 

 

 

 

「...あかね?」

 

 

 

 

「私、この子がいいかも」

 

 

 

 

その言葉に「え?」と固まるハジメ。そこからパッ!と勢いよく手を出すと「待て!待て!」とRX-8とあかねの間に割って入るようにして静止させようと試みた。

 

 

 

 

 

 

 

「この車だけは辞めたほうがいい!絶対後悔する!」

 

 

 

 

「え、どうして?」

 

 

 

 

「ハジメくん、前に言ってたあかねちゃんに乗ってほしい車の1台に上がってたよね?エイト」

 

 

 

 

あかねと真奈美にサンドウィッチされるように疑問視されるとハジメはRX-8にパッ!と指を差しながらも早口に話し始めた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「冷静に考えてみたんだけど、初心者が乗るには特殊すぎる!まず、整備性最悪!エンジンが特殊すぎてイジれる人間少なすぎるし、燃費も最悪!知り合いから街乗りで4の時もあるって聞いた、アクセル踏む度に小銭ジャラジャラばら撒きながら走る車だ!冷静になれ、あっちにロードスターっていうもっとちっちゃくて初心者向きの扱いやすい車が...」

 

 

 

 

 

「あれ、売れたぞ」

 

 

 

 

「売れたのォ!?」

 

 

 

 

その言葉にオーバーリアクション気味に反応するハジメ。そんな彼をさて置き、奥山はあかねに歩み寄ると共に丁寧に説明した。

 

 

 

 

 

「ハジメの言う通り、コイツはロータリーっていうエンジンを持つかなり特殊な車だ。だが、通常のレシプロエンジン車にはない魅力的なフィーリングがあるんだ...それに、整備性に関してもウチには一応コイツを触れる設備もあるしノウハウもある。もっと言えば、コイツは6000kmも走ってない超極上車だ...こんな個体、そう出回らないぞ。

アイツが何を言おうが買うかどうか決めるのはあかねちゃんだ。

最後に一つ言うと...車ってのは一期一会だ。

こういう古くなったスポーツカーに関して言えば尚更の話だ」

 

 

 

 

 

そう説明してからチラリとハジメの方に目を向ける奥山。溜息をつきそうになるも、そのまま彼を諭すようにこんなことを告げてきた。

 

 

 

 

 

「お前の気持ちは分からなくもないが、彼女の気持ちも汲み取ってやれ。

第一、お前のNSXだって30年近く前の車だ...人のこと言えないだろ」

 

 

 

 

 

そう指摘されてギクッと表情を歪ませるハジメ。少し頭かくようにしてから恐る恐ると言った様子であかねを見てはこう彼女の背中を押した。

 

 

 

 

「...好きなの選んでくれ。ただ、俺はちゃんと言ったからな」

 

 

 

 

 

「うん、分かってるよ。心配してくれてありがとう」

 

 

 

 

不器用な答え方にクスッと笑いそうになりながらも礼を返すあかね。そのまま奥山と細かい話を聞こうと商談室に移動しようとする彼女の後ろについていくと真奈美が「あ」と何かを思い出したように言葉を漏らしてはハジメにこんなことを問い掛けた。

 

 

 

 

 

「そういえば、かなちゃんやMEMちょ最近何してるのかなー?

MEMちょに関しては個人チャンネルの更新頻度減ったような気がするんだけど...」

 

 

 

 

「んー、どうだろうな。

ただ...ちょっと聞いた話だと今、宮崎でB小町のMV撮ってるって聞いたぞ。それで忙しいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜 宮崎

 

 

 

泊まっていた宿の鍵をカラスに取られた星野ルビーはそれを追うように懐中電灯を片手に祠のような場所に入っていった。隣には有馬かなの姿も...ガタガタブルブルとあからさまに震えながらもブツブツと文句を垂れていた。

 

 

 

 

「たく、なんでアンタと違う宿に泊まってる私がアンタの鍵探しなんかに行かないといけないわけ...」

 

 

 

 

 

「いいじゃないですか、別にー。それに、このまま宿に帰れなかったら明日のMV撮影にも影響しますよー?

それともビビってるんですか?」

 

 

 

 

 

「っ、そんなわけないじゃない!わかったわよ!ほら、さっさと行くわよ!」

 

 

 

 

そのまま奥へと進んでいく二人...しかし、カラスが鍵を置き去った祠の奥で二人が見たものは衝撃の光景だった。

 

 

 

 

 

座るように佇む白骨化した男性の遺体。

 

 

 

 

医者なのか白衣を着ていたものの、土埃で汚れきっている。星野アイ激推しのキーホルダーを掛けた男の名前は胸ポケットについていた名札から判明出来る...

 

彼の名前は雨宮吾郎...星野ルビーに取っては前世で大好きだった存在。

 

 

 

生まれ代わった今、彼に活躍を見てもらおう...

 

そして、アイドルとして認めて貰おう。

 

そう毎日のように目を輝かせて努力し続けていたが...その存在と朽ち果てた姿で再会してしまったのだ。

 

 

 

 

「い、いやあああああああああ!!」

 

 

 

 

祠内に木霊するかなの悲鳴...それに対して力なく両膝を地面につけるルビー。

 

 

誰が、誰が....こんなことを。

 

 

 

彼女の心の中は絶望で覆い尽くされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日、都内

 

 

人が行き交う交差点を歩く1人の男...大きなサングラスにどこか見覚えのあるような金髪の男。全身黒で統一した暗めの格好を身に纏いながらもカツカツと革靴の音を周囲に響かせて歩く。

 

交差点を渡りきり、ふと街で放映されているニュースに目を向ける...

 

 

 

"昨夜未明、宮崎県にて白骨化した男性の遺体が見つかり..."

 

 

 

早口で読み上げるアナウンサーの声に耳を傾けながらも不敵な笑みを浮かべる男。その場でスマホを手にする耳にイヤホンをつけ、Youtubeである動画を見始めた...

 

 

 

"B小町チャンネル"

 

 

 

三人が横に並ぶように座り、雑談する回の放送を観た男は1人のことを注視していた...星野ルビーだ。彼は彼女の姿を見ながらも笑みを深くさせるとこう呟いた。

 

 

 

 

 

「大きくなったね、星野ルビー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













どうも、作者です。


ANTARES編いかがだったでしょうか?


プロレース主体の話なので推しの子感はどうしても薄くなってしまいますが、個人的には現状書き上げている3章の中では1番好きな章だったりしますが...まあ、各々思ってることはあると思います。よろしければコメントや評価、お気に入り、栞のほうよろしくお願いします。励みになります。

まあ、正直な話言うと偶に辛辣なの来てウッてなっちゃう時ありますが...(笑)


さて、次回はRadioactive編...現状書き溜めしてる最新章です。
冒頭はアレですが、全体的にはテイストがかなり推しの子寄りな感じに戻ります。そして、今まで時期がズレながらもある程度原作の流れ通りだった流れが途中からガラリと変わる章でもあります。

まあ、追いついちゃったら更新スピードがガクッと落ちるのでその時は

「あっ、追いついちゃったんだ...」


と察してやってください(笑)




では、また次回Radioactive編でお会いしましょう




【おまけ・3章って要約するとこんなお話】

【挿絵表示】
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