IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第四幕 Radioactive act.3

 

 

 

 

―夜 真奈美の部屋 

 

 

 

テーブル上に今日の夕食を並べていく真奈美。

5皿ほど並び終えた所で箸やコップなども準備してはその光景にふぅ...と小さく息をつきながらも額から出て来た汗を手の甲で拭いた。

 

 

 

 

 

「完成ーッ!

もやしのカルパッチョ!もやしナムル!もやしの四川風炒め!もやしのカルボナーラ!それから...もやしのバター炒め!!」

 

 

 

 

 

並べられたもやし料理たちを見ながらもサッと座り力強くパンッと合掌して「いただきます!」と力強く告げてから勢いよくパクリと食べ始める...しかし、噛めば噛むほど虚しさが込み上げてきて...遂には「だあああああ!」と両手で頭を抱えるようにしてコロコロと左右に転がり始めた。

 

 

 

 

 

「米と肉が食べたいいいいい!!こんなもやしだらけの貧しいのもうやだああああ!!」

 

 

 

 

そのまま「うわああああん!」と泣き出しそうな声を出しながら高速で左右に転がり続ける真奈美...しかし、そんな最中でピロピロ!とスマホの着信音が鳴り響くと共にピタッと彼女の動きが止まった。「へ?」となりながらも手に取って相手を確認...ハジメだ。頭上にハテナマークを浮かべながらもピッと手に取って「もしもし?」と応じると彼が出て来た。

 

 

 

 

 

「―久々だな」

 

 

 

 

「うん。急に掛けて来てなんの用....?あ、私の声聞きたくなっちゃった?」

 

 

 

 

 

「―バーカ、寝言は寝てから言え」

 

 

 

 

呆れたような声でツッコまれては「へへーん」と誤魔化すようにする真奈美。そんな中、脳裏にある考えが浮かぶとニッと不敵な笑みを浮かべてからこう提案した。

 

 

 

 

 

「ねえ、ハジメくん。今度、ご飯行かない?」

 

 

 

 

 

「―急にどうした?」

 

 

 

 

 

「いいじゃん、いいじゃん。

あかねちゃんも連れてそこからプチツーリングとかどう?

ファミレスとかでもいいから行こうよー」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて受話器越しに少し間を空けるようにし始めたハジメ。その様子から自分の作戦が上手く言っていると察した真奈美...彼女の作戦は流れに乗じて現地で奢って貰おうという作戦だ。

しかし、その考えは時間も経たずに看破されてしまった。

 

 

 

 

 

「―奢って貰う気でいるだろ?お前」

 

 

 

 

その指摘にギクッと目を見開いて一瞬固まってしまう真奈美。額からダラダラと冷や汗を流しながらも「ナ、ナニイッテルノー...ソンナワケナイジャン...」と片言で言い訳してるとハジメの方は今にもため息をつきそうな声で見抜いた理由について答えた。

 

 

 

 

 

「―お前、俺がそれなりに稼ぎ出してから同じような手使って3回は奢らせてるだろ」

 

 

 

 

 

「うぅ...バレたか」

 

 

 

 

 

脳裏に浮かび上がる遠ざかっていく肉と米...その儚さから手を伸ばしたくなるような感覚に見舞われているとハジメの方は指摘するように電話越しにこう問い掛けてきた。

 

 

 

 

 

「―さては、お前...金無いんだろ?」

 

 

 

 

 

「ヴぇ゙ぇ!?な、なんでそこまで....」

 

 

 

 

 

「―やっぱり図星か...」

 

 

 

 

ため息混じりにそうポツリと呟くハジメ。しかし、少し間を空けてはこんな話しを持ち掛けてきた。

 

 

 

 

 

「―そんなお前にいいバイトの話があるんだけど、どう?

その辺の店でバイトするよりかは稼ぎが圧倒的に多いバイトだぞ。やってくれんならバイト代と別に飯奢ってやってもいいぞー」

 

 

 

 

 

「いいバイト...?白い粉運んだりする仕事?」

 

 

 

 

「―ちげーよ。俺のことなんだと思ってんだ...

なんか番組で冬コミに向けてコスプレ特集組むっぽいけど、出てくれるレイヤー居なくてなスタッフがスゴい焦っててな」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いてふと掛けてあるカレンダーに目を向ける真奈美...すると「うーん...」と考えるような素振りを見せつつもこんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

「今から冬コミに向けてって、衣装間に合う?大丈夫?」

 

 

 

 

 

「―最悪、その辺りは番組側で用意するらしいから大丈夫...って、お前なんでそんな知ったような口なんだよ」

 

 

 

 

 

「え?だって、私...元手芸部でレイヤーだよ?まあ、宅コス限定だけど」

 

 

 

 

 

ポロリと彼女の口から溢れた一言に「―はぁぁぁ!?」と受話器越しに驚きの声が漏れてしまうはハジメ。彼は食い気味になりながら更に質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

「―ち、ちなみに当日は東ブレのコスって指定が来てるけど...」

 

 

 

 

 

「東ブレ!?東ブレなら昔作ったのあったような...!!」

 

 

 

 

 

そう言いながらも急いでクローゼットの方に足を運んで開けてガサゴソと探すと衣装を発見。しかも、保管が良かったのかかなり綺麗な状態だ...これはもう出ろと神様に言われているようなものだ。

 

 

 

 

 

「(こ、これはもう出るしかないやつじゃん...!所々修正はいるけど、そんな傷んでる感じも無さそうだし...ありがとー!高校時代の私とここに保管して捨てなかったワタシー!!)」

 

 

 

 

内心ガッツポーズしつつも「衣装もあったし出てもいいよー」と承諾すると、ハジメからお礼の「―サンキュー」の言葉が飛んできた。そして、それから程なくして「―それから...」と少々恐る恐ると言った口調でこんな要求が飛んできた。

 

 

 

 

 

「―コスプレしてる時の写真とかあるか?

一応担当してるADに参考までに見せようと思っててさ」

 

 

 

 

「コスしてる写真?」

 

 

 

 

ハジメの要求を聞きながらもスマホの画像フォルダを開いてスクロールしていく真奈美...そして、ある写真のところでピタッと指を止めて「あった」と呟くと彼のDMに直接送った。

 

 

 

 

 

「今送ったよー、確認してね」

 

 

 

 

 

「―オッケー...お、キタキタ。って、これ誰だよ!?」

 

 

 

 

 

「ワタシだよー、3年以上の付き合いあるのに気づけない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後 都内

 

 

ロケを終えた星野ルビーの送迎をしようと動いていたADの吉住。今後の収録に不安しか抱えてなかった彼のスマホに1件の通知が来た...ハジメからだ。

 

 

 

 

"とりあえずレイヤー1人確保。詳細は下記と添付にて"

 

 

 

 

その内容を見てから情報に目を通してから添付された2枚の写真を開く吉住。1枚目はすっぴんの私服姿だ...一見するとオシャレに無頓着な髪を結んだ娘に見えるが、彼の目は誤魔化せない。

 

 

 

 

 

「(こ、これは...!普段は実力を隠してるタイプ娘だ...!

自分の本来のポテンシャルは知ってるけど、それを敢えて表に出さないでいるタイプの強者!能ある鷹は爪を隠すの典型的な例...!メイクや服替えただけで化け物になるんだよなぁ、こういう娘...!!)」

 

 

 

 

そして、もう1枚の写真がコスプレ写真...しかし、その写真を開いた瞬間に吉住は電撃が走るような衝撃のあまり、固まってしまった。

 

 

 

 

 

「(そ、その角度のコスプレ...!?これは想定外だ...!

でも、これは大いにアリ!いや、寧ろこうじゃないとダメとすら思えてしまうぐらいのレベルだ...!

なんて人を紹介してきたんだ、五十嵐さん...!!)」

 

 

 

 

 

スマホを胸に軽く押し当てながらも夜空に輝く星を仰いでみると親指を立てているハジメの姿が浮かび上がって見えた。

 

 

ありがとう、ありがとう、五十嵐ハジメ...

 

 

 

そう思っている間に誰かが歩み寄ってきた...星野ルビーだ。足音で気づいた吉住が「お、お疲れ様です!」と彼女に挨拶してから用意していたバンの方に案内した。

 

後部座席に彼女が乗り込んだのを確認し、自分も運転席に乗り込んで運転...しばらくして首都高速に入るとルビーが話しかけて来た。

 

 

 

 

 

「吉住さん、なんだか嬉しそうですね!」

 

 

 

 

 

「ええ、例の企画のレイヤーの娘がいい感じに集まってきたので...!」

 

 

 

 

 

運転しながらも若干浮足立ったように話す吉住。しかし、そんな彼に対してルビーが無意識にも現実に戻すような一言をポロリと口にした。

 

 

 

 

 

「それにしても、当日は東ブレのコスプレなんですよねー?あそこ許諾取るの難しいって聞いたのですが?」

 

 

 

 

 

「え、そ...そうなんだ....」

 

 

 

 

 

....初耳だった。

上司であるディレクターの漆原からは"そんなもんチャチャっと取れる"ぐらいの言われ方だったが、実際はそうは行かないようだ...許諾自体は口からして彼が取りに行ってるハズ。...念のために確認したほうが良さそうだ。

 

 

一気に込み上げる不安からハンドルを握る手を震わせながらも吉住は送迎に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 夕方 首都高速

 

 

 

日も暮れる間近に雑誌の取材を終えて帰路についたハジメはNSXをゆったりと走らせていた。

時折エアコンの吹き出し口に付けたドリンクホルダーまで手を伸ばしてコーヒーを一口嗜んではホッと一息...

 

束の間の至福の時間。

 

そんな時間を堪能している最中、それを打ち破るようにピロピロ!といきなり着信音が響いてきた。

 

 

たく、今日は閉店気分だったのに..

 

 

内心そう思いながらも耳に掛けていたBluetoothイヤホンを通じて「はい?」と応じてみる...相手は真奈美だった。彼女は繋がるや否や助けを求めるように「―ハジメく〜ん〜!」と大声を出してきた。

 

 

 

 

 

「は?えぇ!?どうした!?」

 

 

 

 

 

「―例のコスプレの件〜!東ブレ側から許諾降りないからコス変えてくれって言われた〜!!しかも、その関係で番組側からは衣装用意できないってさ〜!!アレしか衣装残ってないワタシからすればツラいよ〜!!もう、冬コミまで時間ないから一から作るなんて無理だよ...!バイトのシフトも入っちゃってるし...!!」

 

 

 

 

 

「―ぶわあああ〜ん!」と泣き声混じりに不安をぶち撒ける彼女に対し、「まあまあ、落ち着け!」と大きめの声で静止を呼び掛けるハジメ。ちょうど通り掛かりかけた代々木PAに立ち寄り、車を停車させると自分の心も落ち着かせてからこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「その話、誰から来た?ADの吉住?」

 

 

 

 

 

「―そうだよ〜!何聞いても許諾が降りないゴメンなさいの一点張りでさ....結構参っちゃったんだよね。

バイト代欲しかったけど、流石に衣装がないんじゃコスプレにならないし....今回は諦めようかなって」

 

 

 

 

 

「わかった。俺からもちょっと聞いてみる。降りるかどうかはその結果次第でまた決めてくれ」

 

 

 

 

そう告げて一旦通話を切る。すぐにBluetoothイヤホンの電源を切って外して、スマホを手にある人物に掛けた...ADの吉住だ。通話が繋がるや否や、「―は、はい!?もしもし!?」と半ば怯えたような声で受け答えする彼にハジメはため息混じりに単刀直入にこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「紹介したレイヤーの娘から方針が急に変わって戸惑ってるってクレーム来てるけど、どういうことか詳しく説明してくれる?つい先日までコレでって言ってた方針を急に変えられたら誰だって納得できないだろ...」

 

 

 

 

 

「―え、えっと...その件なのですが、漆原さんが...」

 

 

 

 

漆原...そのフレーズを聞いてハジメの脳裏に浮かび上がったのはスタジオで彼に怒鳴りつけていたパワハラ紛いなディレクターだ。いい年してというべきか、いい年だからと言うべきか...責任やら何やら全て他人に押し付ける気質がある中年だ。

あの感じ悪いのが原因か...と思っている間に吉住はたった今、彼らを悩ませているのが何かというのを掘り下げるように語り始め、彼が語り終えたところでハジメが確認するように話をまとめた。

 

 

 

 

 

「つまり、話を要約すると...

 

漆原が許諾取るの楽勝だからお前はレイヤー集めに専念しろと言われてそっちに集中したはいいけど、いざ集まったら許諾が降りなくて頓挫しそうになったから東ブレコス自体を辞めようって話になったと」

 

 

 

 

 

「―ま、まあ...そんな感じです。でもどうしようもないですよね?この状況だと...」

 

 

 

 

 

震えた声で諦めたようにそう告げる吉住に対し、腕を組んでじっくりと考え始めるハジメ。すると、ある考えが思い浮かぶと共に少し間を空けるようにしてから「ちょっと聞きたいんだけどさ」と確認するようにこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「許諾云々のやり取りってのは出版社側でやってるわけだよな?フィルターみたいな感じで怪しいのは門前払いで弾くような感じで」

 

 

 

 

 

「―あ、はい...詳しく言うと若干違いますが大体はそんな解釈です」

 

 

 

 

 

「じゃあ...もし、著作者本人であるアビ子先生を動かすことが出来たら?」

 

 

 

 

 

「―え、そんなこと出来るんですか!?」

 

 

 

 

「もしもの話だよ、とりあえずやれることはやっておくから。じゃあな、ちょっと掛けるところがあるから切るぞ」

 

 

 

 

そう言って通話を切ると直ぐに別の番号に掛けた...あかねだ。3コールほどして彼女がピッと電話に出たところでゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

「もしもし、あかね?ちょっと頼みがあるんだけど....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1週間後 昼 とあるオフィス街

 

 

 

 

ハジメとあかねはAD吉住と共にあるビルの中に入っていった。ややフォーマルな格好を着て三人でエスカレーターに乗り込むと共にハジメがあかねに謝罪の言葉を告げた。

 

 

 

 

 

「悪い、撮影の合間に来てもらって」

 

 

 

 

 

「ううん、いいよ。気にしなくても...今日は午前中の撮影終わったら夜まで撮影ないから」

 

 

 

 

半ばイチャイチャムードで話す二人に「あのー...」と恐る恐る手を挙げて話に入ってきた吉住。不安そうにしながらも恐る恐る確認するようにこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「本当に番組代表の説明役、僕でいいんですか?

やっぱり、立場上ディレクターの漆原さんの方が...」

 

 

 

 

 

「いや、アイツはダメだ。あんなパワハラの塊みたいなやつ、いつ爆弾投げてもおかしくないからな...次に爆弾投げられたらマジで終わる。慎重に行かないと。

大丈夫、鏑木さんにも許可貰ってるし」

 

 

 

 

そうやり取りしている間に目的の階層に到着。挑戦者を招き入れるようにガッと扉が開いて三人が足早に向かったのはミーティングルームだ。先導するようにハジメが先頭に立ち、ドアの前に立ち止まると無言で三人に目を向ける...あかねが気を引き締めるように頷くのに対し、隣にいた吉住は相変わらずガタガタと震えている。...これは待ったところで治まらないと察するとコンコンとノックしてから「失礼します」と告げて入っていった...

 

中に居たのは東京ブレイドの作者である鮫島アビ子とその担当編集だ。

 

 

あかねは初対面ではないが、あとの二人は彼女とは初対面...アウェーの試合に駆り出されたような気分になっているのに対し、アビ子は真剣な面持ちながらも脳裏で真逆のことを思い描いていた。

 

 

 

 

 

「(すごい...!黒川さん、去年に鞘姫演じてた時よりも大人びて美人になってる...!!

 

しかも、隣にいるのは本物の五十嵐選手...!!

 

最近追加した新キャラの紅彗のモデルになってる人とこんなところで会えるなんて...!これはキャラにより色を与える為にも色々と聞かないと...!!)」

 

 

 

 

 

それぞれが初対面のメンバーがそれぞ名刺交換を行ったところでそれぞれの陣営に分かれて向き合うような形で座る。

緊張の雰囲気から、吉住がゴクリと唾を飲み込んでいるとハジメの方から発言を開始...しかし、いきなり本題には入らない。まずは相手の機嫌を探りがてら軽いジャブ程度の会話から始めた。

 

 

 

 

 

「先生、本日はお忙しい中で御足労頂きありがとうございます。私事ですが、先日東ブレの最新巻の方を拝読させて頂きました」

 

 

 

 

 

「ほ、本当ですか....!?ありがとうございます!!

 

五十嵐選手、東ブレ読まれてたんですね...!!」

 

 

 

 

「え、ええ。まあ...

最新巻の展開は意外でしたね、今までの感じとは全く異なる方向性...だけど、凄い引き込まれるような世界観の動かし方に驚きました。流石は先生です」

 

 

 

 

 

思ってたのと違う反応ぶりに内心驚きつつも額から少し冷や汗を流しながらも受け答えするハジメ。そんな彼に対しアビ子は「ありがとうございますっ」と答えてから今度は隣に座ってるあかねに目を向けた。

 

 

 

 

 

「黒川さん、遅くなってしまいましたが新人賞受賞おめでとうございます」

 

 

 

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

「来年の東ブレの舞台、黒川さんに引き続き鞘姫を任せれると聞いて安心しました。また打ち合わせなどでよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

そう言っている間にピロピロ!とミーティングルーム内にスマホの着信音が鳴り響く...アビ子の携帯だ。

「あ、ゴメンなさい!」と急いで立ち上がって一旦部屋を出て応対し始めると共に編集も付き添いがてら彼女に続くように部屋を出ていく。部屋から完全に出たのを確認すると共に深掘れ!側陣営3人は全員が顔を見合わせてはハジメから思ったことを話し始めた。

 

 

 

 

 

「なんか...あかねから事前に聞いてた話と全然違うような」

 

 

 

 

 

「私もちょっと驚いてる...

あんなあからさまに機嫌がいいアビ子先生、そう見ないから...」

 

 

 

 

 

「か、会議の前に何か良いことにあったんですかね....?」

 

 

 

 

 

「さあ...あかねの方はコレだっていうの思いつく?」

 

 

 

 

 

「うーん...正直、コレだっていう理由は浮かばないかな」

 

 

 

 

 

「え、ナニソレ。逆にめちゃくちゃ怖いんだけど」

 

 

 

 

 

三人でヒソヒソと話していたが、ドアノブが動くガチャッという音に反応にびっくりしつつも前を向くと「ゴメンなさい」とペコペコと頭を下げながらもアビ子と担当編集が入ってきた。

 

 

 

 

 

「アニメの続編の話で監督の方から連絡が来て...」

 

 

 

 

「そ、そうなんですね。本当にお忙しい中で申し訳ない限りです」

 

 

 

 

ハハハ...とハジメが苦笑いしているとふと目に入ってきた物に思わず視線が釘付けになるアビ子。そのままふと指を差しながらも恐る恐るこんなことを問い掛けてきた。

 

 

 

 

 

「五十嵐選手、それ...スーパーGTのウイニングウォッチですよね?年間王者のみ贈られる世界でたった一つの自分の名前が彫られた特別な腕時計...!!」

 

 

 

 

 

唐突な質問に「えっ?」と思わず言葉を漏らすハジメ。

それを見て自分がやってしまったことを後になって理解したアビ子は心の中で「(しまった...!)」と言葉を漏らしつつも慌てた様子で身ぶり手ぶり言い訳を始めた。

 

 

 

 

 

「い、いや...!その、なんというか!友達から!?聞いたっというか...!!」

 

 

 

 

「あ、あー!そそ、そうなんですね!よくご存知で...!!」

 

 

 

 

「え、えぇっ!と、とは言ってもッ!本当に偶々というか、偶然というか!?」

 

 

 

 

二人が苦笑いして会話を進めるとハジメの隣のあかねやアビ子の横にいた編集も釣られるように「は、ははは!」と苦笑いし始めた。

だが、一人だけは違った...吉住だ。

ジト目でアビ子のことを見ながらもこんな呟きを繰り出した。

 

 

 

 

 

「でも、アビ子先生...そんなにお友達が居るようには見え」

 

 

 

 

発言を最後まで言い終える前に机の下で肘で腹に軽く一撃を食らわせるハジメ。おぶっ!?と驚いたようにしながらも急に腹を抑え始めた吉住に対し、彼はややわざとらしそうに気にするように顔を向けた。

 

 

 

 

「お、おいッ!吉住!昨日飲み会で食った牡蠣当たったんじゃないのか!?大丈夫か...!?トイレ行くぞ!」

 

 

 

 

 

そう言いながらも吉住の肩を支えるようにして立ち上がるハジメ。介抱するようにそのまま一旦ミーティングルームを出つつもため息混じりで半ば呆れたようにこう呟いた。

 

 

 

 

 

「たく、漆原が地雷踏みそうだからっていうので番組代表をお前にしたのに...ナニ地雷踏み抜こうとしてんだよ」

 

 

 

 

 

「す、すいません!でも、アビ子先生...僕と同様に社交的タイプには見えない感じだったのでつい、口走ってしまいました...!!」

 

 

 

 

 

その一方、深掘れ!組が二人抜けてあかね一人だけになってしまったミーティングルーム。今度はあかねに聞きたいことがあると直ぐに質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「その、黒川さんは...五十嵐選手とお付き合いされてるのですよね?」

 

 

 

 

 

「え、あ...はい」

 

 

 

 

 

「彼のどういうところに惹かれたとか...あったりします?あ、あぁーッ!その...!無理に答えろとは言いません!今後の作品の参考にさせて頂くだけなので...!!」

 

 

 

 

 

どこか目を輝かせながらも問い掛けるも、途中で自分は何を聞いているんだと我に返るようにしつつも質問を下げようとするような素振りを見せるアビ子。

 

 

 

やっぱり、ちょっと変だ...

 

 

そう内心思いながらも軽く受け答えすると吉住をトイレまで送ったハジメが帰ってきた。着席したのを見て、アビ子はメモを手にして再び彼に向けて連続で質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

「五十嵐選手、朝起きた時のルーティンなどはありますか...!?」

 

 

 

 

 

「五十嵐選手、レース時に心掛けてることとかありますか...!?」

 

 

 

 

 

「五十嵐選手、レース中に1番嬉しい瞬間はなんですか...!?」

 

 

 

 

「五十嵐選手....!」

 

 

 

 

 

連続で来る質問の嵐に苦笑いしつつも受け答えするハジメ。内心、まるで雑誌の記者への質問に対応しているようだと思っていると向こう側の付き添いでいた編集が苦笑いしながらもアビ子にこう告げた....

 

 

 

 

 

「せ、先生。もうその辺りで...時間も時間ですし」

 

 

 

 

 

「あ、ご、ゴメンなさい...つい」

 

 

 

 

ようやく我に返ってオフンッ...と軽く咳き込んで落ち着きを取り戻すアビ子。時間も経っていて吉住も既に戻ってきてる状況下でハジメはようやく本題を切り出した。

 

 

 

 

 

「先生...お願いがあります。

私が出演している番組でコスプレ特集を行い、そこで東京ブレイドのコスプレを組む予定があるのですが...許諾を出版社側に拒否されている状況です。今日、我々がここに来たのは先生から直接許諾をいただくためです」

 

 

 

 

 

そう切り出しては隣にいた吉住が資料を手にアビ子に渡す...彼女は素直に資料に手を取って軽く目を通すものの、表情からして前向きでは無さそうだ。

 

 

 

 

 

「...五十嵐選手、申し訳ありません。

私の方針としては比較的にコスプレや同人誌などの一般的な作品の展開は許容するようにと伝えてますが、許諾の管理を行うプロの受付側で拒否するということは何かしらの引っ掛かるような内容が...」

 

 

 

 

 

恐る恐るながらも却下しようとするアビ子。しかし、そんな彼女に対してハジメは立ち上がると共に大きく頭を下げて見せた。そして、こう語り始める....

 

 

 

 

 

「お願いします、アビ子先生...!

コスプレそのものが許諾関係においてグレーだというのは事前に調べてきました。ですが、この日の為に何日も掛けて衣装作りに励んできた番組出演者の方々もいます!彼女たちの思いも汲み取ってなんとか許諾を頂けないでしょうか...!?」

 

 

 

 

番組のことでも自分の事でもなく、赤の他人であるレイヤーのことを出しては頭を下げてきた...

 

その姿は自分が描きたかったキャラクター像そのものだった。それ故に、自分の作品のキャラに直接頼まれているような不思議な感覚に陥るアビ子。

 

すると、小さく笑みを浮かべながらも彼女はこう答えた。

 

 

 

 

 

「わかりました...アナタ方がそこまで言うのであれば、一度持ち帰って担当の者と協議しようと思います」

 

 

 

 

 

 

 

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