IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第四幕 Radioactive act.4

 

 

 

―年末 コミケ本番

 

 

 

キャリーケースをガラガラと引きながらも会場へと移動する真奈美。あれから東京ブレイド側から無事に許諾が降り、予定通りのコスプレ出来るようになった...

交渉に行ったハジメとあかねに感謝しつつも会場の片隅の更衣室で私服から衣装に着替え、メイクを済ませる...ウィッグもつけて完成。

 

 

鏡で見た自分の姿に小さく「...よしッ」と呟いて頷くと事前にチェックしてオッケーだったコスプレ用の刀を手に会場内の待ち合わせ場所へと移動する...今回、レイヤーとして一緒に番組に出演するのは4人。

 

星野アクアの妹の星野ルビー、彼女と同年代の寿みなみ、吉住未実、メイヤの4人だ。

 

 

待ち合わせである広場の前で4人ともコスプレしていたが、4人全員が意外すぎる角度のコスプレに思わず驚きの表情を浮かべていた。

 

その意外すぎるコスプレは...

東京ブレイドの主人公、ブレイドのコスプレ。

 

そう、彼女は男装してきたのだ。

サラシで胸の膨らみを抑え、所々に見える程よく引き締まった筋肉はまさに剣士そのものだった。

 

 

 

 

「みんな、おまたー!待ち合わせ、ここで合ってるー?」

 

 

 

 

いつものペカーと言わないばかりの笑顔を振り撒きながらもフリフリと手を振る彼女に対し、4人のうち未実とメイヤが恐る恐る口を開けた....

 

 

 

 

「ま、まさかの男装...?」

 

 

 

 

 

「でも、クオリティーたかっ....」

 

 

 

 

2人だけでない、あまりの高いクオリティに番組に関係ないカメ子なんかも寄ってくる。

「い、1枚いいですか?」と聞かれて「収録前だしいいよー」と答えてコスプレ用の刀を構える彼女の目つき...それは死地の狭間で命のやり取りを行う剣士そのものだった。

 

先程の表情とは全く違うものにギャップ萌えからか彼女を見ていた者たちの大半がその世界に引き込まれると共にキュン...ッと胸をときめかせてしまった。

カメ子がパシャパシャと写真を撮り終えて「ありがとうございます!」と一言礼を言うと彼女は再びペカーと笑顔を浮かべると共に手をフリフリと振って「達者でねー」と見送った。

 

 

 

 

「な、なんや...スゴそうな人来たわー....

あないな人も居るとなると、ウチらちょっと場違い感出てしもうてるわ....」

 

 

 

 

みなみがそう言いながらも隣にいるルビーに目を向けようとするも、彼女はどこか不愉快そうな表情を見せていた。

 

 

 

 

「....ルビー?どないしたんや?」

 

 

 

 

「なんでもないよ。今日もがんばろっ」

 

 

 

 

そう告げて離れようとするルビー...そんな彼女が視界に入った真奈美は大きめの声で「ねえ」と離れた位置から話し掛けた。

 

 

 

 

「ルビーちゃん、何かあった?」

 

 

 

 

「...別に」

 

 

 

 

「別にって、私が来るや否やスッゴイ不機嫌そうにしたから...前に会った時のこと引き摺ってる?

それとも、芸能界の汚い荒波に呑まれて汚れちゃった?

私的にはB小町初期時代の天真爛漫なキミの姿が好きだったんだけどなぁー、もうその頃の貴女には戻れないのかな?」

 

 

 

 

「放っておいて下さい。もうそろそろスタッフさん達も来るので」

 

 

 

 

素っ気なさそうにそう言って距離を取るようにし始めたのを見ていると咄嗟に「すいまへんな...!」とみなみが間に入ってきた。

 

 

 

 

「なんやあの娘、今日は不機嫌みたいやわ...ちょっと堪忍や」

 

 

 

 

「ううん、大丈夫。ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど...今日集めたメンツって、あの娘と繋がりがある娘はどれぐらいいる?」

 

 

 

 

「せやなぁ...ウチとメイヤさんはあの娘との繋がりで来たんや。ウチはあの娘と同じ高校の同級生で...メイヤさんは違う仕事で繋がりを持ったって言うてたわ」

 

 

 

 

違う仕事....

そのフレーズを頭の中で繰り返すながらもメイヤの方に目を向ける真奈美。作っているような笑顔を前面に出して振り撒くような彼女の姿勢から色々と彼女のことを考察した。

 

 

 

 

「(ああいうタイプって、表はずっとニコニコしてるけど裏ではボロクソに不安ぶち撒けてる娘多いんだよね...決めつけちゃダメだけど裏アカとかで色々発散してそう)」

 

 

 

 

 

そう思いながらもメイヤの方をチラッと目を向けると離れたところから十人ほどの集団が歩み寄ってきた...撮影班だ。

先頭には眼鏡を掛けた品がなさそうなディレクターの漆原の姿が...品定めするように5人を見ると彼の目線はメイヤの方へと注目するように向けられた。

 

 

 

 

「すっげえ、胸デカ!?バストどんなもんあるの?スリーサイズは?」

 

 

 

 

ニヤニヤしながらもメイヤに詰め寄るようにする漆原...流石に看過できないとそんな彼に対し真奈美は「ちょっと」と制止するように声を掛けると2人も間に割って入るようにした。

 

 

 

 

 

「流石に品がないんじゃない?セクハラしてるって自覚ある?」

 

 

 

 

割って入ってきた真奈美の姿にムッと表情を一気に変える漆原。そのまま彼女の衣装に指を差すと共にこうぶち撒けてきた。

 

 

 

 

 

「セクハラだぁ?知るかよ、そんなこと。

ていうか、男装してる女になんか興味ねえよ」

 

 

 

 

「番組側からは女性キャラのみなんて指定なかったけど?ちょっと失礼すぎない?

知り合い経由でアナタの上司の鏑木Pに今の発言を言いつけてやってもいいけど?」

 

 

 

 

「やれるもんなら、やってみな。まあ、小娘如きが出来るとは思わねえけどな」

 

 

 

 

小馬鹿にしたように笑い混じりにそう言ってくる漆原...

ムカつく、あれほど欲しかったお金などどうでもよくなるぐらい腹立たしい。小道具の刀を握る手にグッ...と力を入れてしまい「アンタね..!」と声を震わせている中、「ま、まあまあ...!」と誰かが静止するように割って入ってきた。ADの吉住だ。

 

 

 

 

「お二人とも落ち着いて...斎藤さん、あちらで撮影お願いします!」

 

 

 

 

そう促されると断るのも無礼だと仕方なしに「わかった」と承諾し、渋々その場を離れるもその際に漆原に向けて強くガン飛ばした。"余計なことするなよ"という今の彼女なりの釘差しだ。

 

だが、漆原の方は「へっ」と鼻で嘲笑ってからメイヤに視線を向けた。

 

 

 

 

「ねえ、露出系多いコスしてどんな気持ちなの?」

 

 

 

 

「ねえ、やっぱり終わった後にヤッたりするの?」

 

 

 

 

「ねえ...!」

 

 

 

 

 

漆原から次々と繰り出されるセクハラ紛いな質問。

撮影という関係上、逃げることも出来ずに答えるしかないメイヤ...表面上はニコニコとしていたものの、心の中にいたもう一人の彼女は怒りで溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜 とある繁華街

 

 

 

コミケの衣装をキャリーケースに詰めた真奈美が向かったのはあるビルの4階にある焼肉屋。やや寂れた屋内階段を上がっていき、中に入った。

 

 

 

 

 

「―いらっしゃいませー!!」

 

 

 

 

 

店員たちによる勢いのある挨拶と共にあちこちで聞こえると共にジューッと焼かれる肉の音、ニオイを感じているとバイトらしきスタッフが歩み寄ろうとするもそれを遮るようにやや短髪に口髭を携えたややワイルドな風貌のオーナー兼店長の男が二人の間に割って入った。

 

 

 

 

「予約のお客さんですよね、奥でお連れ様がお待ちです。どうぞ」

 

 

 

持っていたキャリーケースを一旦持ってもらい、最奥にあるやや狭めの個室に案内される。真奈美が靴を脱ぎ、横開きのドアを開けるとブラインドが閉められた室内にはあの2人の姿が...ハジメとあかねだ。

 

本日は忘年会も兼ねて約束通り焼肉を奢って貰う会なのだ。

 

 

 

真奈美の姿を見るや否や横並びで座る2人が「よっ」、「お久しぶりです」と挨拶を交わしてきたのを見て向き合うように座る。

そこから程なくして乾杯タイム...真奈美とハジメはビール、あかねはまだギリギリ未成年ということでウーロン茶だ。

 

 

 

「「「カンパーイ!」」」という勢いのあるコールと共に、それぞれのジョッキを手にカンッとぶつけて飲み始める。

真奈美が「プハァ〜!」とビールの泡を口の周りに綺麗につける中、あかねとハジメはジョッキを置いてから2人で盛り上がっていた。

 

 

 

 

「ハジメくん、こんな隠れた感じのお店知ってたんだね」

 

 

 

 

「まあ、監督に教わったんだ。色々な人がお忍びで来るような店だって」

 

 

 

 

そう言っている間に店主が注文票を手に入ってきたが、適当に肉を注文してふと顔を上げた時に彼から去り際に無意識なのか爆弾とも言える発言が飛んできた。

 

 

 

 

 

「あれ...この前の娘はいないのか?」

 

 

 

 

この前の娘...有馬かなのことだ。

スランプの時に彼女と一緒に来たことがあったハジメ。しかし、この言葉の響き方からしてもよくない受け取られ方をされかねないと思わずギクッ...!?と身体を反応させてしまうと案の定あかねの雰囲気が禍々しく変わった。

 

 

 

 

「ハジメくん、この前の娘って...?」

 

 

 

 

 

「えっと...その、色々あって」

 

 

 

 

「へー、色々か。そっかー、へー....」

 

 

 

 

笑顔で何度も何度も復唱するあかね...そんな彼女からはこんなオーラが漂っていた。

 

 

 

"浮気したら、殺すから"

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

愛しい彼女ではあるが、こうも強い圧のようなものを掛けられると流石に恐いと感じてしまう...が、無意識に怯えるように身体をブルブルと震わせている彼を見たあかねは少し間を空けるようにしてクスッと小さく笑った。

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、キミがどれだけ一途なのかは知ってるから。この前の子っていうのが誰だかは分からないけど...多分、去年スランプした時に話したんだよね?」

 

 

 

 

コチラから話していないにも関わらず、信頼するように全て見透かすように話して来たあかね。怖さ半分、嬉しさ半分と行った複雑な心境になっている最中で肉が来ると何事もなかったように焼き奉行に徹し始めたあかね。

 

 

 

 

「お肉焼けたよー。はい、あーん」

 

 

 

 

「あ、あーん...」

 

 

 

 

程よく焼けた肉を食べさせる微笑ましい光景。しかし、向かい側に座っている真奈美は複雑な心境だった...

 

 

 

 

 

「(奢って貰えるのは嬉しいけどさー....

この2人のイチャイチャ見せつけられながら食事するのキッツ!!)」

 

 

 

 

くぅー...!となりながらもビールのジョッキを手にし、半ばヤケクソ気味でゴクゴク!と残りを飲み干してはやや強めにテーブルに置く真奈美。あかねから彼女の皿にも「はい、どうぞ」と肉が置かれる最中でハジメが「そういえば...」とふと疑問に思ったことを投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「コスプレ撮影、どうだった?」

 

 

 

 

 

「どうだったって...ディレクターの漆原ってやつ、マジで品がなくてイライラした」

 

 

 

 

 

「漆原Dって....この前、アビ子先生の所に行った時にハジメくんがわざわざ席外させた人だよね?」

 

 

 

 

 

「ああ、心の中で"歩くハラスメント爆弾"ってこっそり呼んでる。

やっぱり交渉の席に連れていかなくて正解だったな。

まあ、あの時は代理の吉住も地雷踏みかけて危なかったが...」

 

 

 

 

そう言いながらもビールのジョッキに手を伸ばし、残りのビールをゆっくり飲んでいくハジメ。

そんな中で真奈美の脳裏に浮かんだのは撮影の時の光景だ...漆原がメイヤに詰め寄り、ハラスメント発言を繰り返していた彼。その詰め寄られた相手のメイヤは表ではニコニコしているものの、裏で爆弾を落とすタイプの女。

この2人が合わせたらどうなるかは容易に想像がつく...

そして、この2人が合わさったのは偶然ではないような気もする。

誰かに仕組まれたような...そう考えていると自分に会ってから不機嫌そうにしていた星野ルビーの後ろ姿がふと浮かび上がった。

 

 

 

....まさかな。

彼女が幾ら芸能界の汚い荒波に揉まれたとは言ってもそこまで汚い事はしないだろう。

 

 

 

そう思いながら真奈美は店員を呼んでビールを追加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 地下鉄

 

 

コスプレの衣装をバックに入れながらも帰路に立つメイヤ。席に座りながらも彼女がふとスマホを手にすると脳裏に浮かび上がったのは自分にセクハラ紛いな質問を繰り返す漆原の姿だ...

 

 

手を震わせながらもSNSを開くと高速で文字を打ち込んで次々と不満をぶち撒けた。

 

 

 

 

 

"テレビの取材受けたけど、セクハラ紛いな質問ばかりでイライラした"

 

 

 

"レイヤーのこと完全に見下してる、リスペクトを全く感じない"

 

 

 

 

"なんでテレビ業界の人ってあんなに上から目線なの?スゴい腹が立つ"

 

 

 

 

次々と投稿される不満の嵐...

番組を燃やすようなその投稿は彼女の周辺だけでなく、日本中に拡散されていく。

最初は静かに燃えていたその火もいつしか年末の寒さを忘れさせるほど大きく燃え広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―年明け

 

 

 

メイヤが投げた火はSNSでまたたく間に燃え広がり、SNSのトレンドランキングでランクインするほどのものとなった。

 

その事に関連してか年始早々にスポンサーであるベリッシモの本社に呼び出された鏑木。畏まるように様子を伺う彼に対し、玉座に座る井出は左右にその席を軽く振るようにしてから肘掛けに肘を置きつつもこう呟いた。

 

 

 

 

「まさか、新年早々こうなるとは...」

 

 

 

 

 

「も、申し訳ありません...監督不行届でした」

 

 

 

 

「まあ、以前とは違って故意に仕向けたワケでは無い事故のようなものですし...とは言っても、スポンサーの我々としてもそれなりの対応を取らなければなりません」

 

 

 

 

そう言ってザッと立ち上がると秘書に向けて「例のモノを」と告げる井出。秘書が「畏まりました」と一礼して一旦その場を離れると書類を手に戻って来ては鏑木に手渡した。

 

それはこの後に出される予定のベリッシモ側の声明文だった...

 

長い内容を短く纏めると以下のようになる。

 

 

 

 

 

"弊社は、深掘れ!ワンちゃん番組内で確認された人種差別的発言およびハラスメント行為を重大に受け止めております。

番組内での行為は、弊社の掲げる価値観および倫理基準と相容れないものであり、看過することはできません。

よって、本日付で本番組におけるスポンサー契約を解除するとともに、当社モータースポーツ部門所属の五十嵐一の番組への出演・使用についてもすべて終了することを決定いたしました。

番組制作側には再発防止策の徹底を強く求めるとともに、今後の対応を注視してまいります。"

 

 

 

 

 

内容を読むと共に珍しく深刻そうな表情を浮かべる鏑木。顎に手を当てて思考を巡らせるようにその場で考えている彼に対し、井出は引き出しから別の書類を取り出すと共にその隣まで歩を進めた。

 

 

 

 

「五十嵐ハジメは今、ただ速いというだけでなく人気者としての地位も築き上げております。昨年度...彼はシーズンチャンピオンの座だけでなく、人気投票ランキングでもGT300部門で堂々の1位に輝いております。築き上げてきたものに泥を塗るわけにはいきません」

 

 

 

 

そう言いながらも手渡してきた書類は昨年度のGT300の任期投票ランキングの内訳だ。1位に輝いているベリッシモは2位のヴィブルスRTに大差をつけるような投票数...それを見せてから井出は更に話を進めていった。

 

 

 

 

「アナタ方が番組を守る必要があるのと同様に私には会社と彼らの尊厳を守る義務があります...早急に対策を練って下さい。我々や視聴者側が納得出来る内容を提出しない限りは...

スポンサーの再契約と彼の復帰は望めないとお考えて下さい。誠意を見せなさい、ミスター鏑木」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日後 真奈美の部屋

 

 

引っ越し準備もある程度終わり、前よりもスッキリした部屋の中央でケンゴと向き合うような形で鍋を突く真奈美。どこか浮かない様子のままグツグツと煮える鍋を眺める彼女に対し、先に具材を掬ったケンゴが食べる前に疑問を抱くと小さく首を傾げながらも単刀直入に問い掛けた。

 

 

 

 

「どうした?そんな浮かない顔して」

 

 

 

 

 

「いや...深掘れの炎上、ケンちゃんはどう思う?

炎上する条件がここまで綺麗に揃うのって、なんか違和感しかないんだよね...誰かがこうなるように仕向けたようにも見える」

 

 

 

 

「そうは言っても、キャスト組めるような立場で炎上して得するヤツっていないと思うけどな...」

 

 

 

 

そう言いながらも鍋を再度食べ始めるケンゴ...だが、真奈美の脳裏にはある人物の背中が浮かび上がっていた。

 

 

 

星野ルビー...

 

 

 

寿みなみ曰く、メイヤを呼んだのも彼女である上に比較的に自発的に動く自分を見てはあからさまに不機嫌そうな顔をしていた。そして、もう一つ違和感があるのは漆原を止めようとしたあのタイミングで吉住が入ってきたところだ...

傍から見れば違和感がないが、あのまま自分が漆原を言い包めてしまうことも考えて言い合いしてる間に彼女が彼に唆した可能性もある。

 

だが、今回の件はもう一つだけ違和感がある部分がある。

 

それはコスプレを許した東京ブレイド側の動きだ...

彼らのあの後の動きは問題があった回の放送差止めと軽い声明文だけだった。

許諾時の契約にもよるが、東京ブレイドほど大きなコンテンツである上に慎重な動きを見せる著作物だと大抵の場合は書類契約がある。この書類契約には著作物に対してのモラル条項やイメージ毀損時の解除、信頼関係破壊条項などが記載されていることがほとんど...今回の件では東京ブレイド側もイメージ的にダメージを負っているという意味ではこの部分が取り上げられて裁判沙汰になってもおかしくないのだ。

 

 

しかし、そうはしない...何か理由があるのだろうか?

 

 

色々と考えていると再び箸を進める手が無意識にもピタッと止まってしまう。再び不思議そうにケンゴが見つめる中で、真奈美は箸を置いてから「あと、もう一つあるんだけどさ」とダメ元で問い掛けてみた。

 

 

 

 

「今回の件、東京ブレイド側の動きがアレだけで済んだのは...何か理由があるのかな?」

 

 

 

 

真奈美の問い掛けに一瞬表情を変えるケンゴ。取り皿に汲まれた鍋のスープを飲もうとしている手を手前でピタッと止めるとその場で静かに置いてから答えようか悩むような素振りを見せつつも答えた。

 

 

 

 

「...それは、間違いなくあの2人のお陰だろうな」

 

 

 

 

「え、あの2人って....」

 

 

 

 

「...ハジメとあかね。

あの2人、年始早々にアビ子先生に頭下げに行ったって話だよ。俺もチラッとしか聞いてないから詳しくは知らないけど...噂だと番組スタッフよりも早く謝りに行ったらしい」

 

 

 

 

それを聞いて込み上げてくる思いから手を震わせる真奈美。

 

せっかく縒りを戻し、真っすぐと楽しそうに生きていた2人に頭を下げさせるようにしただなんて...

 

 

トリガーとなった漆原は許せないが、影でそうなるように仕向けたヤツはもっと許せない。

 

 

 

 

 

"私の好きな世界を汚すヤツは絶対に許さない"

 

 

 

 

その思いが込み上げると共に無意識にも眉間にシワを寄せてしまう。そんな彼女を見たケンゴはその心中を察するも、敢えて聞かずにそのまま鍋を食べ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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