IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第四幕 Radioactive act.5

 

 

 

―1週間後 放送局の会議室

 

 

 

スポンサーからの契約解除やネットからの炎上により、進退を問われるまで追い詰められた漆原。局の偉い人間に詰められに詰められ、自分が行った失態の大きさがどれほどのものか思い知らされる。

一発逆転出来る術もない..潔く辞表でも書いて身を引こうなどと座りながら考えている最中でコンコンとドアをノックする音が部屋中に鳴り響いてきた。

「...入れ」という彼の促しと共にノック音の主が入ってくる...星野ルビーだ。

手には書類のようなものを持っている。

 

 

 

 

「失礼しまーす、漆原さん。いいご提案があるのですがよろしいですか?」

 

 

 

 

「...なんだ、いい提案って。今、それどころじゃねえんだよ」

 

 

 

 

そう言って適当にあしらうような対応をする漆原。そんな彼に対し、ルビーは前に持ってきた書類をサッと置いた...その内容は深掘れ!ワンチャンの新しい企画書。この状況を打開したい漆原にとっては命綱と言っても過言ではないような内容だ。

恐る恐る手に取ってはやや食いつき気味に手に取って読み始める彼に対し、ルビーは何かを企むように不自然な笑みの浮かべ方をしながらも軽く顔を覗き込むようにしてこう提案してきた。

 

 

 

 

 

「その企画、使ってもいいですよー。鏑木Pや先方にはちゃんと許可も取れそうですし。ただ...ちょっと条件があります」

 

 

 

 

 

「...条件?なんだ」

 

 

 

 

「今後、他の番組でも積極的に私を使ってください。

どうしますかー?

お互いウィン・ウィンになってハッピーに過ごすか?

それとも、アナタだけ業界を去るか」

 

 

 

 

笑みを浮かべながらも詰め寄るように問い掛けるルビー...崖の追い詰められた状況下で手を差し伸べられているような気分に陥る漆原...拒否権など彼にはなかった。

 

 

 

 

「....わかった、引き受ける」

 

 

 

 

ゴクリと唾を飲み込みながらもそう答える漆原。企画書を手に取った彼の動きを見ると共にルビーは口元の笑みを深くさせながらも彼にこう告げた。

 

 

 

 

「ありがとうございます、流石は漆原さんですね。良い選択だと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―夜、ハジメの借家

 

 

ソファーに座り、あかねとスマホのスピーカーモードで通話しながらもスケジュール管理をしようとノートPCを開いていたハジメ。しかし、思ったよりも彼のスケジュールは密なもの...番組側やベリッシモ側の諸事情で深掘れ!から降りたとは言っても、他の番組やラジオからの出演オファーがいくつもあったのだ。それ故にPCを操作する手を止めてついついあかねとの会話に夢中になっていた。

 

 

 

 

「―あれ、ハジメくん...また手、止まっちゃった?」

 

 

 

 

「え、なんで気づいた?」

 

 

 

 

「―タイピングとクリックの音が聞こえなくなったから」

 

 

 

 

「鋭いな、あかねは...流石だよ」

 

 

 

 

苦笑いしながらもソファーに凭れるようにするハジメ...少し間を空ける共に天井を軽く仰ぐように眺めると「あかね」と呼んでからあることを切り出した。

 

 

 

 

 

「この前は悪かった...年始早々あんなことになって」

 

 

 

 

 

「―ううん、いいよ。気にしてない」

 

 

 

 

 

「いや、あかねが気にしなくても俺が気にする」

 

 

 

 

 

「―そっか。

じゃあ、今度のデートで一緒にカフェ行くの付き合ってもらっていい?オシャレでよさそうなところ見つけたんだ」

 

 

 

 

 

「優しいなぁ、あかねは...わかった、いくらでも付き合うよ」

 

 

 

 

 

そう受け答えに夢中になっていたハジメ...

しかし、PCがふと視界に入って本来の目的であるスケジュール管理が疎かになっていると思い出せば"やっちまった"と言わないばかりに軽く頭を抱えてしまう。その間の空き方から色々と察したあかねが恐る恐るこう質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「―ハジメくん、マネージャーさんとかいないの?」

 

 

 

 

 

「いない...ってわけじゃないけど。なんて言うか、動きが限定されるんだ。

俺の場合はベリッシモに所属してるだろ?

その兼ね合いでベリッシモ側から何人か、別の仕事と兼業みたいな感じのマネージャーっぽいのがつくんだけど...やる仕事はベリッシモに関連するものだけ。例えて言えば、ベリッシモのドライバーとして出る会見や、レースの調整はするけど個人での雑誌やTV・ラジオなんかの取材や個人スポンサー管理は請け負わない。そこからは個人でやってる副業みたいな扱いで業務外なんだ。...あかねの方はどうなんだ?」

 

 

 

 

 

「―私の方は事務所経由でマネージャーさんいるけど、仕事の管理は基本的に全部してくれるよ」

 

 

 

 

 

「ナニソレ、うらやましっ....」

 

 

 

 

 

思わずポツリと呟きながらも再びPCと向き合おうとするハジメ...しかし、なかなか捗らない。受話器越しからあまりタイピングやクリックの音が聞こえないことから色々と察したあかねはふとそんな彼にこう提案した。

 

 

 

 

「―ハジメくん、そろそろマネージャー雇ったらどう?」

 

 

 

 

マネージャー...昔と違って今の稼ぎなら十分雇える。

 

マネジメント事務所とは無縁なハジメの立場から雇うとなると完全専属の個人マネージャーになる。雇えば自分のスケジュールを管理してくれる分、仕事は円滑になる...故にプライベートの時間もよりゆとりが出来る上、更なる個人スポンサーの獲得への余裕が出来るとパッと考えただけでも一石二鳥以上あるのだ。

 

が、ある懸念事項もあった...

 

それは個人で雇うとなれば自分が雇用主になる、故にその人物の生活も支えなければならないという不安だ。

 

もし、自分の身に何かあればその人物も巻き添えを被り兼ねない..そう考えながらもその場で軽く腕を組んで考えているとピンポーンという呼び鈴の音が鳴り響いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「誰か来たみたいだから一旦切る。また後で掛け直す」

 

 

 

 

 

「―うん、わかった」

 

 

 

 

 

この時間に来客...珍しいと思いながらも一旦通話を切ってから「はーい」と呼び掛けて足早に玄関へと移動...パッとドアを開けると扉の向こうには深掘れ!ワンチャンのAD、吉住の姿が...

 

コチラが姿を見せるや否や深々と頭を下げて「この度は申し訳ございませんでした!」といきなり謝罪してきた。

 

 

 

 

 

「この度はって...何のこと?」

 

 

 

 

 

「アナタ方の顔にも泥を塗った上、頭を下げさせるような事までさせてしまいました!それと、アビ子先生経由で耳にしました、本来動かないといけない我々番組サイドよりも先に動いて謝罪されたと...!」

 

 

 

 

必死に許しを請うように頭を下げ続けると共に菓子折りが入った紙バックを両手でザッと差し出してきた吉住。流石のハジメもいきなりのことにどう対応すればいいか分からずに、困ったように頭を掻く素振りを見せる。しかし、落ち着いて来ると共に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな溜息をつきつつもこう質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「...漆原Dはどこ?事の発端はアイツだろ、なら...ここに来るべきはお前じゃなくてアイツだと思うが」

 

 

 

 

 

「う、漆原さんは今別件で忙しいので...自分が代わりに」

 

 

 

 

その話を聞いて同情したくなるハジメ...つまり、吉住は上司の尻拭いをするためにここまで来たのだ。今、漆原自身が追い詰められている立場なのは察しがつくが部下にその一部の始末を押し付けるとは...

 

そう考えると共に、吉住という男が可哀想に思えてきたハジメは菓子折りを受け取ってから彼を迎え入れようとドアを大きく開けた。

 

 

 

 

 

「時間あるか?コーヒーの一杯ぐらい飲んできなよ」

 

 

 

 

そう言われて最初は「い、いや。それは流石に...」と断ろうとしていたが、「いいから」と促されて渋々靴を脱いで「お、お邪魔します」と中に入ることに。

未開の地に踏み込んでしまった探検家のように辺りを見回している吉住に対し、キッチンに回ったハジメはコーヒーメーカーのセットをしつつも軽く居間を覗き込んで彼にこう促した。

 

 

 

 

「好きなところ座りな」

 

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

「コーヒーでいいか?砂糖とかミルクは?」

 

 

 

 

「こ、コーヒーで...ブラックで大丈夫です」

 

 

 

 

そう受け答えをしつつも居間のソファーに座ると開かれた状態で放置されたノートPCが視界に入る吉住。内容的にスケジュール管理の真っ最中だったんだと内心察しながらも無意識にも注視してしまう...が、淹れたてのコーヒーを2つ手にして近づいてきたハジメに気付き「おわっ!?」と驚いてから「ご、ごめんなさい!!」と咄嗟に謝罪した。

 

 

 

 

「か、勝手にスケジュールを覗くような真似をして...!本当に申し訳ありませんっ!!」

 

 

 

 

 

「気にしてない。それ、まだ作り始めたばかりだし」

 

 

 

 

苦笑いしつつもコーヒーを彼の前に一つ置くと適当なイスを用意して側面に配置させて座るハジメ。

「冷める前に飲みなよ?」と軽く促しながらもその場で静かにコーヒーを飲み始めた彼に合わせるように恐る恐るコーヒーを口にする吉住。

香りと共に心が安らぐような感覚に見舞われているとハジメの方が「さて...」と本題に入るようにこう切り出してきた。

 

 

 

 

 

「吉住、今の仕事に不満あるんじゃないか?」

 

 

 

 

「え、不満って....」

 

 

 

 

「無いなんて誰しも絶対あり得ない...俺で良ければ全部聞いてやるよ。大丈夫、鏑木さんや漆原には絶対漏らさないから」

 

 

 

 

 

そう言いながらも静かに一口飲むハジメ。自然な感じで聞き出そうとする雰囲気に釣られ、吉住は今の仕事への不満を打ち明け始めた。

 

サービス残業当たり前の給料体制、漆原を筆頭とした上司からのパワハラ、与えられる膨大な仕事量...

そして、今日のような上司のミスに対しての尻拭い。

 

 

 

一つ話すつもりが、気づけば全部打ち明けてしまった...

言った後に内心後悔していたが、そんな彼の確信に迫るようにハジメはこう問い掛けた。

 

 

 

 

「吉住、今の会社辞めたいって思ったことないか?」

 

 

 

 

 

「も、もちろん...ありますよ。...五十嵐さんはどうですか?

今の仕事辞めたいって思われたこととか」

 

 

 

 

 

「あった。いくらでも...それこそ、一昨年の6月辺りとか本当に上手く行かなくてさ。何回逃げようと思ったことか...」

 

 

 

 

 

苦笑いしながらもコーヒーをもう一口飲むハジメ。ゆっくりとテーブルに置いていく彼を意外そうな目で見る吉住はふとこんなことを呟いた。

 

 

 

 

「意外ですね。

でも、そんな状態になっても挑み続けて今の地位を獲得した...五十嵐さんってスゴいですよ」

 

 

 

 

その言葉にピタッと動きを止めるハジメ。彼の変化から地雷を踏んだかもしれないと思ったのか、身構えようとする吉住...しかし、当の本人は自分の歩みを振り返るようにコーヒーの水面を眺めて小さく笑みを浮かべながらこう答えた。

 

 

 

 

 

「俺は凄くない、本当にスゴいのは俺をここまでの人間にした周りの人間だ」

 

 

 

 

言っていることの意味がよく分かってない様子の吉住。そんな彼に対してハジメはそこから掘り下げるように静かに語り始めた。

 

 

 

 

「精神的にも肉体的にも...周りのバックアップがあったからここまで頑張れた。

環境が良くなければどこかで腐ってるかもな...農業とかと同じだよ。

どんな優れた作物でもそれを育てる為の土壌と水が備わってなきゃ、どこかで腐るのがオチだ」

 

 

 

 

そう言いながらも思いに浸るように天井を軽く仰ぐように見るハジメ。少し間を空けてから「なあ、吉住」と声を掛けるとそのままこう問い掛けた。

 

 

 

 

 

「お前の周りの環境はどうだ?お前という作物をしっかり育ててくれそうか?

将来、何年か経ってから"ここに居て良かった"と心から思えそうな明るいビジョンは見えるか?」

 

 

 

 

核心を突くような問い掛けに思わず動きを止めてしまう吉住。

考えてみれば数年後にはADからディレクターへの昇進という話も来るかもしれないが、それはあくまで流れ的な憶測。

現実は真っ暗な森の中を彷徨いに彷徨い、躓いて転んだりを繰り返しているようなものだ...そんな状況で明るいビジョンなんて見えるはずもない。出来ることなら今すぐにでも逃げたい、もっと光が照らしてくるような道の方へと駆け出していきたい。

 

 

そんなことを思っていると無意識にも膝の上に置いていた手にグッ...と力を入れてしまっていた。表情やその手に気づいたハジメは彼の方に目を向けつつも本題を繰り出した。

 

 

 

 

 

「もし、今の職場に明るいビジョンが見れないなら...ウチに来るか?」

 

 

 

 

「ウチって...五十嵐さんのところにですか!?

で、でも...!自分、レースの知識は全く...!!」

 

 

 

 

「レースの知識が無くても出来る、スケジュールやスポンサーの管理をするマネージャーとしての仕事だ。

まあ、知識はあった方が有難いと言えば有難いけど...その辺りは来てから覚えて貰えばいい」

 

 

 

 

そう告げると軽く顎に手を当てながらの俯き始めた吉住...

自分の人生が掛かるような選択、それを急に迫られて彼も悩んでいる様子だ。

これ以上迫って無理強いするような真似だけはしたくないと感じたハジメは残ったコーヒーを一気飲みし、聞こえない程度に息をゆっくりと吐いてはこう告げた。

 

 

 

 

 

「給料面だったりの詳細は後日、またメールで送る。

言っておくが無理強いはしない...好きな選択をしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―3週間後 とある人気のない通り

 

 

 

1月も終わり、2月に入った頃。

 

深掘れ!ワンチャンは緊急の謝罪放送を行ったことによってあれだけ燃えた炎上騒ぎも丸く収まった。著作権の許諾案件から漆原によるパワハラ騒ぎ、終いには彼が被害者であるメイヤに自前のコスプレを披露して直接謝罪するといった内容...これによってスポンサー騒ぎも全て落ち着き、綺麗すぎるぐらいの幕引きを迎えた。

 

 

そんな幕引きもあって問題視されていた回の放送も無事に終わり、今日の収録を終えて一人帰路を歩いていたルビー...

しかし、階段に登ろうとした時に「おい」と女性の低い声で話し掛けられた。立ち止まって振り返るとそこには黒いパーカー姿でフードを被って顔を隠した女の姿が...その姿には見覚えがあった為、これと言ってリアクションもなく見ていると女の方がフードをサッと取って顔を露わにした。

 

斎藤真奈美だ。

 

 

 

 

 

「やってくれたね、アンタ」

 

 

 

 

何かを見抜いたようにドスが聞いた声で呟きながらも睨む真奈美...

そんな彼女に対してルビーは動じる素振りも見せずに口角を軽く上げるように小さく笑みを浮かべながらも「何の話?」と惚けると詳細について話し始めた。

 

 

 

 

 

「この前の炎上、アンタが仕組んだんでしょ?

メイヤっていうフォロワー多くて陰口吐きまくってるレイヤーを漆原というハラスメントディレクターと掛け合わせることによってあの炎上を引き起こすように仕向けた」

 

 

 

 

 

「へー...そう思った根拠は?」

 

 

 

 

 

「収録前後に聞いた寿みなみと吉住ADの証言が根拠。

寿みなみは自分とメイヤは貴女に誘われてあの収録に出たと言っていた...みなみはディレクター相手に強気に出れる性格には見えないし、メイヤはさっき言った通りに陰口でフォロワーの同調を掻き立てるタイプの女。

あの時、私を見て不機嫌そうにしたのは...私がセクハラする漆原を潰して貴女が仕組んだプランが台無しになるのを懸念したからでしょ?

それで...私が漆原を潰すのを防ぐ為に吉住ADに即席で止めさせるように仕向けた。

ちゃんと本人から聞いたよ、貴女に言われてあのタイミングで出向いたって」

 

 

 

 

 

見抜くように淡々とした口調で語る真奈美。しかし、そんな彼女に対してルビーは「アハハ」と小さく笑ってから妖艶染みた笑みを浮かべながらもこう問い返してた。

 

 

 

 

 

「面白い話だけど...それで私にメリットはあるの?」

 

 

 

 

 

「炎上を仕組んだ先の打開策まで事前に考えてるなら、幾らでも貴女のメリットを見出すことが出来る....

 

例えば、炎上で追い詰められた漆原に対して打開策を提示する見返りとして、積極的に番組に出すように促したりとか。

 

 

自分のクビが掛かってるんなら乗らざる負えないよね、小娘のクソみたいな計画に」

 

 

 

 

真奈美の推測を聞いて先程まで余裕そうにしていた雰囲気を崩して真面目な顔になるルビー。彼女は「ふーん...」と呟きながらも階段の手すりに凭れるようにしてこう答えた。

 

 

 

 

 

「流石はアクアを追い詰めたことはあるね、ほぼ正解だよ。

あの企画を持ち掛けたのも私だし、許諾の問題が出るのも予想がついてた。ただ、計画を実行する上でいくつか誤算はあったけど...」

 

 

 

 

 

「誤算?」

 

 

 

 

 

「元々は東ブレの許諾が降りない状況で収録まで追い込んでいく予定だった。だけど、何処かの誰かさんがいらないことして色々掻き回したせいでその辺りの効果は薄れた...」

 

 

 

 

「何処かの誰かさんって...まさか」

 

 

 

 

 

「そのまさかだよ...誰かさんってのは五十嵐ハジメ。

出演者の立場でありながらわざわざ許諾貰いに行ったり、問題があれば頭下げに行ったり...あのせいで東ブレ側からの番組への追及はかなり薄れた。あわよくば裁判沙汰なんて思ってたけど...ホントにいらないことしてくれたよ」

 

 

 

 

 

溜息混じりに答えるルビーに対して怒りが込み上げてくる真奈美。今すぐにでもぶん殴りたいぐらいの衝動に駆られながらも握り拳をつくり、手を震わせて「アンタね...!」と睨む彼女に対してルビーは対抗するように冷めた眼差しを向けながらも続けるようにこう語った。

 

 

 

 

「ホントにいらないことばかりするんだよね。

ほとぼり冷めた頃に吉住ADをB小町のマネージャーとして引き抜く予定だったのに、それを横取りしていったし...」

 

 

 

 

 

「別にアンタを邪魔する為にやったわけじゃないよ、あの人...アンタみたいなの眼中にないだろうし」

 

 

 

 

 

眼中にない...

そのフレーズを聞いて一瞬、瞳孔を開いたように反応すると先程とは別人のようにイライラしたような表情でこう答えた。

 

 

 

 

「意識しないでやってるのが逆に腹が立つのよ...!

お花畑みたいな世界で善人ぶった振る舞い方してるのも本当に気に入らない...!!」

 

 

 

 

 

「善人ぶってなんかない、アレが彼の生き方。

それから...お花畑みたいなのは貴女の方じゃない?

初めから事務所にヨイショされて、グループにはインフルエンサーや元天才子役のメンバー。世間から注目されないわけがないよね?」

 

 

 

 

 

お花畑...?

 

自分が....?

 

 

そう自分の心の中で反響して響いていくルビー。

そんな彼女の中で呼び覚まされたのは過去の記憶...ドア越しに血塗れで倒れた自分の母親、星野アイの姿だ。

 

 

...お花畑なんかじゃない。あの時から私は...!!

 

 

 

 

その強い思いから握り拳を作ると「違う!!」と力強く叫ぶように否定してから反論した。

 

 

 

 

 

 

「お花畑なんかじゃない...!

貴女に私の何が分かるって言うの...!?」

 

 

 

 

「分からないねえ、さっぱり。

他人をチェスの駒ぐらいにしか思わないクズ兄妹のことなんて...分かりたくもない。逆にアンタは私や彼のこと分かってるの?知らないでしょ?それと同じ...分かる?」

 

 

 

 

自分を下に見ているような言い包め方、あの男の存在も気に入らないが...この女の存在はもっと気に食わない。

 

ここから先、お互いの立場からそう会うことはないだろう。

 

 

だが、もし今後会うようなことがあれば...

 

この女や彼女が大事にしているものも含めて自分の踏み台にしてやる。

 

 

 

そう思いながら「...明日収録早いから、じゃあ」と素っ気ない態度で階段を上ろうとするルビーに対して真奈美は鋭い眼差しを向け続けながらもこう告げた。

 

 

 

 

「今度、私が好きな世界を荒らしてみろ...

 

 

 

アンタの人生、本気で潰しに行くから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1週間後 とある部屋

 

 

 

薄暗い部屋でPCを開き、依頼で撮影した写真の加工を行なっていたある有名カメラマン。

写真の対象はコスプレで、東京ブレイドのつるぎのコスプレだ...しかし、その手直しの具合に頭を抱えていた。夢を見せるために現実の写真から加工、加工、更に加工と加工を繰り返し続けて流石に仕事とは言えど嫌気が差してきた。

 

 

 

 

 

「(ったく、金払われてるからやってるけどよ...

流石に元キャラと離れすぎだろ、もうちょっと自分で寄せるって努力はしねえのかよ)」

 

 

 

 

 

そう思いながらもハァ...溜息をつくカメラマン。

ちっともやる気が出ない...少し息抜きをしよう。

 

 

そう思いながらもピッとテレビをつけると放映されていたのは深掘れ!ワンチャン。炎上によって放送が一時取り止められていたあのコスプレ回だ。

 

冬コミ特集か...とボッとした目で流れる映像を眺めていたカメラマン。しかし、ある人物が目に入ると共に思わず食い入るように見てしまった...

 

 

 

それは東京ブレイドの主人公、ブレイドのコスプレをした男装姿の斎藤真奈美だ。

 

 

単純なビジュアルもさることながら、撮影に入ると共に原作さながらの鋭い眼差し...死地を切り抜けてきた剣士を彷彿させるようなその目にカメラマンは釘付けになっていた。

 

 

 

 

「(さ、再現度ヤバすぎだろ...!しかも、これで女の子なの!?ウソでしょ...!!)」

 

 

 

 

 

思わず呆気に取られてしまうカメラマン。

しかも、インタビュー時には撮影時の頃からは想像がつかないようなペカーとした表情で受け答えをしていた。

 

そこがまたギャップとなって刺さってきた。

 

 

この娘、何者....!?今までこんな娘、どこに隠れてた!?

 

 

 

衝動に駆られたカメラマン...すぐに自分のスマホを手に取るとSNSに書き込みしていった。

 

 

 

 

 

"深掘れ!のコスプレ特集のブレイドの男装してる娘、ヤバすぎでしょ!?こんな娘見たことないんだが!?

 

#深掘れ

#深掘れ!ワンチャン

#冬コミ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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