IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第四幕 Radioactive act.8

 

 

 

―翌日 夜 

 

 

収録を終えて街に繰り出したB小町の三人。

「う〜、疲れた〜」と軽く身体を伸ばすMEMちょに対しルビーはどこか急ぐように足早に歩を進める..そんな彼女に少し違和感を感じたかなは「ちょっと」と軽く呼びながらも話し掛けた。

 

 

 

 

 

「アンタ、なに急いでんのよ」

 

 

 

 

 

「ん?この後ちょっと予定あるのでちょっと早足で移動してるだけですよー」

 

 

 

 

「ちょっとって...どんな用事よ。明日、次のライブのリハもあって入り早いのよ」

 

 

 

 

「大丈夫ですよー、ちゃちゃっと終わらせてくるんで」

 

 

 

 

 

そう言って適当な十字路でパタッと足を止めては「じゃあ、私はこっちなんで!」と言って手を振って一方的に二人と分かれるルビー。止める間もない中で「明日遅刻したら承知しないわよー!」というかなの声が響き渡る中、足早に人混みの中に紛れると素の表情に戻りつつも足を止める。

そのままスマホを手にし、一件通知をキャッチしたのを確認...送り主は深掘れ!の新しいADからだ。

 

 

 

"ルビーさんの推しもあって、次回の深掘れ大賞の第一勧誘候補が斎藤真奈美さんなりそうです!

彼女の現在の生活拠点からして取材場所は群馬県の渋川あたりメインのロケになりそうです。イチゴプロの方にも話は通させて頂く予定ですが、もし通った際にはルビーさんに取材をお任せする予定です!"

 

 

 

 

群馬県の渋川...彼女にとっては久々の地方ロケ。

 

 

 

自分が考えていた計画が進めやすい...

 

この計画は今のB小町の知名度なら出来る計画だ。

世間からの注目を十分に集められる上、同情からファン層も増える上に熱も熱くなる。だが、考えていた時に母親が刺される光景が脳裏に過らなかったと言ったら嘘になる。

それが故に恐怖心すら感じた...だが、だから何だという話だ。

 

 

母親の無念を晴らすならそんな恐怖心も押し殺して進むしかない。

 

自分を見下している奴を踏み台にし、トップに立ち...

 

 

 

 

 

復讐を果たす。

 

 

 

 

 

その決意を胸に再び歩き始めたルビー。

マスクやサングラス、帽子を身につけて力強く踏み出す彼女の姿を...脇で構えていた誰かがパシャリとカメラに収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

ー3日後 群馬県 渋川

 

ドリームエンジェルス活動拠点

 

 

古びた教習所を改修してミニサーキットのようになっているコースを「へー...こうなってんだ」と呟きながらも眺める斎藤真奈美。近くにあった事務所で入校手続きを済ませて車に戻ろうとする中、少し離れた位置に停まっていた1台の車に「おっ...!」と思わず目を奪われてしまった。

 

まるで太陽の欠片を切り取ったような鮮烈なサンライトイエローのボディ...ホンダ・シビック Type R、EK9。

 

Spoon製のカーボンボンネットに同社のフルエアロを組んだ攻撃的な見た目になってる車輌に「カッコいいー!」とテンションが上がるようにその場で足踏みし始めては舐めるように360度見始めた。

 

 

 

 

 

「(え、ホイールとブレーキでっっか!マフラーもSpoonの1本出し!メチャクチャいい音出そう...!!

 

持ち主誰かな!?私と同じ選ばれた生徒の子かな!?)」

 

 

 

 

 

そう思いながらも眺めていると後ろから「ちょっと」と凛とした口調の女性の声が響き渡ってきた...振り向くとそこには一人の女の子の姿が...

 

真っ黒な黒髪を後ろで小さくまとめたお団子ヘアが特徴的。少し吊り目がちな鋭い青みがかった瞳はどこか挑戦的で眉を寄せた表情からは気強さが滲み出ており、色白の肌に薄い唇がきゅっと結ばれ、不満げな顔を浮かべている。見た目の年齢は真奈美とそれほど変わらない雰囲気だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「それ、私の車だけど...何してるの?」

 

 

 

 

 

「え!?これ、アナタの車なの!?

へー、スゴい!スゴいカッコよくて速そうな車だから思わずじっくり見ちゃったよ!!」

 

 

 

 

「あまりジロジロ見ないで。というか、そう言っておきながら盗難しようと考えてたんじゃない?

言っておくけど、そんなことしようものならタダじゃ済まさないから」

 

 

 

 

 

かなり上から目線で決めつけてモノを言う女に一瞬イラッとする真奈美。表情に出そうになるのを抑えながら「ち、ちち、違うよー!」と声を震わせるとドリームエンジェルスの仮証明書を見せながらもこう説明した。

 

 

 

 

「私、次期ドリームエンジェルスの生徒だよ。

昨日、渋川のアパートに引っ越し済ませたばかりで、さっき事務所で入校申請出してきたんだ」

 

 

 

 

 

「そうなんだ...車は何乗ってるの?」

 

 

 

 

 

「ん?あぁ、あそこに停まってる白い86だよ!」

 

 

 

 

 

そう言いながらも少し離れた位置に停められた86に指を指す真奈美。その向けられた指の先を辿るようにして遠くながらも86を吟味するようにジッと目を向ける女の子...

 

その様子から褒められるとウズウズしていた真奈美だったが、彼女の口から出た言葉は180度違うものだった。

 

 

 

 

 

「あの86ね...とりあえずホイールのインチアップはしてるみたいだけれど、ブレーキは?」

 

 

 

 

「あー、ブレーキは...とりあえずパッドだけって感じかな。お金無くてさ」

 

 

 

 

「...レベル低いわね。

ブレーキなんてスポーツ走行で1番重要な要素と言っても過言じゃないでしょ?そこにあまり手を加えてないって時点で色々お察しなんだけど」

 

 

 

 

ハァ...?

なんだ、コイツ?

人が愛想よく接して仲良くしようとしてんのに一々上から目線でモノ言って...!!

 

 

ぐぬぬ...!と堪えてた堪忍袋の緒が切れ掛けている中、気にも掛けずに凛とした佇まいでEK9に乗り込む女の子。

 

 

ブゥワゥンッ!とB16エンジンのサウンドを響かせるように始動させては颯爽と去っていく姿を親の仇でも見るような目で睨んでいたが、高回転域のバァァッン!!と鳴り響くVTEC特有の甲高いサウンドに思わずアウッと声を漏らした。

 

 

 

 

「(く、悔しいけどあの年式のVTECって本当にいい音するんだよなぁ...!ハジメくんのNSXもかなりいい音するし...!!)」

 

 

 

 

 

そう思いながらも視線を自分の86にズラすと思わず「ハァ...」と小さくため息をつきながらもトボトボと歩く。すると、先程よりも大人びた女性の声で「あら?」と自分を指すような声が聞こえてきた。

 

 

チッ、今度は何だよ....

 

 

不機嫌そうに歯軋りしながらも振り向くとまさかの人物の姿に表情をスッと一気に整えてしまう。その人物は...自分達の指導教官であり、女子プロとしても活躍している佐藤真子だ。

 

 

 

 

 

「(うっひゃあ!?本物だー!めっちゃ綺麗ー!!)」

 

 

 

 

先程のイラつきなど何処へと行った様子で思わず目を輝かせていると、真子は小さく笑みを浮かべながらもこんな風に話を持ち掛けてきた。

 

 

 

 

「アナタ、確か斎藤真奈美さんよね?」

 

 

 

 

「あ、はい!月末からお世話になります!」

 

 

 

 

「ええ、コチラこそよろしくお願いするわ。

ところで...アナタ、この後に時間空いてたりするかしら?

よかったら先行で軽く中の案内をしようと思うのだけれども...」

 

 

 

 

先行で独り占めして中を案内して貰える...!?

手続きのみで帰ると思い込んでいた真奈美としては予想外ながらもラッキーな展開だ。

 

 

 

 

「えぇ!?も、もちろんです!

是非是非よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―数時間後 真奈美の新居のアパート

 

 

 

引っ越したばかりの段ボールの山が積まれてる部屋に帰ってきた真奈美。必要最低限のローテーブルとPCだけとりあえず展開しているような部屋の中央にちょこんと座るとその場で両手で頭を抱えた....

 

 

 

 

 

「(ヤバいよー、あそこ想像以上にガチな場所だった...)」

 

 

 

 

施設に配備されていたのはタイヤチェンジャーや空気入れぐらいだとタカを括っていた真奈美。しかし、実際にはレースで使われるような車の状態を確認するテレメトリー監視モニターや、撮影用の自動制御ドローン、駆動方式別に生徒の人数分確保されている教習用の車輌...更には路面温度を確認する用なのか、体温のズレですら感知してしまうような高性能サーモグラフィーまで配備されていた。

 

自分みたいな偶々受かっただけの半端者はこんな場所で本当にやっていけるのだろうか...?

 

 

まだ始まったわけでもないのに湧き上がってくる不安。

そんな中、ピロリンッと彼女のスマホがメッセージをキャッチ...手に取って中身を見るとケンゴからだ。

 

 

 

 

"入校祝い、まだだったな。おめでと"

 

 

 

そのメッセージと共に添付されていたのは有名店のケーキのギフトカードだった。

 

予想外の出来事に内心驚きつつも、先程まで不安だった自分が逆に恥ずかしくなってくる...引き締まっていく気持ち。

 

しかし、気持ちだけではどうにもならないのが世の中だ。

 

 

何かしらの行動に移さないと...そう思いながらも腕を組んで天井を仰ぐように見ていると脳裏に駐車場であったEK9乗りのあの女の子の言葉が脳裏に浮かび上がった。

 

 

 

 

"...レベル低いわね。

ブレーキなんてスポーツ走行で1番重要な要素と言っても過言じゃないでしょ?そこにあまり手を加えてないって時点で色々お察しなんだけど"

 

 

 

 

ブレーキ、か。

何度か変えようかな?と候補に上がってきたが値段を見る度に他のことをしようとなって後回しになり続けていた。

 

 

そろそろ手を加える頃合いかな...?

 

 

 

そう思いながらもノートPCを開くと検索サイトで自分が欲しいブレーキのブランド名を打ち込んでから一つスペースで空けてZN6と打ち込み、検索。

 

 

出てきた検索結果に思わず「やっぱりかー...」と呟きながらも頭を抱えてしまった。

 

 

 

 

 

「(欲しいブレーキキット、物だけで前後セット80万超えかー....

結構貯金貯まって来たとは言っても、工賃のこととかも考えると流石に一括は無理かなぁ。

しかも、恐ろしいのがこれでこのブランドのブレーキの中間グレードぐらいの位置なんだよね。

最上位ってなったら幾らするんだろ?)」

 

 

 

 

興味本位でパチパチと最上位グレードについて検索...値段を見て思わず「うっわ...!」と声を漏らしながらも開いた口を手で塞いだ。

 

 

 

 

「(ひゃ、140万!?中古の安い86買ってそこそこイジってもお釣り返ってくるような値段じゃん....!!

 

あー、でも。鍛造でモノブロック削り出しだし、これぐらいしても....まあ、買わないけど。というか、買えないけど)」

 

 

 

 

そう思考を巡らせながらも再び腕を組んで思考を巡らせる真奈美...今すぐにやるなら欲しいグレードより安い中の下ぐらいのやつを買ってもいいかもしれない。しかし、その思考の先に現れたのはあのEK9乗りの女の子だ。

 

 

 

 

「―え、貴女...安物で済ませたの?

信じられない、こんなレベルの娘と同じ舞台で学ぶなんて心外なんだけど。許せないわ、教官に退学させるように促そうかしら?」

 

 

 

 

 

腕を組んだ感じで冷めきった眼差しを向けてそう言われるのが想像つく。

それと共に苛立ちからか「カーッ!!」と声を出しながらもカシャカシャカシャカ!と激しく頭を掻いてしまった。

 

 

 

 

 

「(チクショー!!フザケンナー!!

絶対負けないからなぁぁッ!ギャフンと言わせて泣かせてやるーッ!!泣きながら帰ってママのおっぱいでも吸ってろーい!!コンチキショーイッ!!)」

 

 

 

 

 

そう思ってる際にふとある疑問が浮かび上がってくる...あの娘、何者なんだと。落ち着きを取り戻したところで手続きを終えた際に貰ったパンフレットの存在を思い出し、ノートPCをテーブルの隅に移してからバッと開いて中を確認...すると、最後の方のページに今年の生徒リストがそれぞれのお気に入り写真と共に記されていた。メディア向けにも公開される予定のもだ。

 

どれどれ....

 

 

今回採用された最年長は25歳、最年少は17....

 

 

 

えっ、17!?

 

 

 

二度見するようにページを見ると確かに他のメンバーよりも明らかに幼そうな顔立ちの女の子がいた。免許は持っていないだろうが、恐らく幼少期にカートとかで腕を磨いていたのだろう...そう考えると免許を取ってようやく動き始めた自分はかなり遅い部類なのかもしれない。などと思い込んでいると見覚えのある人物の写真が目に入ってきた。

 

黒いドレスに身を包み、ピアノを優雅に弾いている素振りを見せながらもカメラ目線で微笑んでいる女。間違いないあの時の女だ。

 

 

 

 

 

「(まったく、あれだけスポーツ走行云々言っておきながら自分はおピアノですか?これはまた大層なことで。

どれどれ、名前と年齢っと....)」

 

 

 

そう思いながらも写真横に綴られたプロフィールに目を向けた。

 

 

 

 

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_____

 

 

__

 

 

 

・舘由梨花 (19歳)

 

・愛車 シビック TYPE R EK9(サンライトイエロー)

 

・血液型 AB型

 

・趣味 旅行

 

・特技 ピアノ

 

・最後に一言

2年間という短い期間ですが、自分のドライビングを見つめ直し、学友達と切磋琢磨していけるように努めて参ります。

 

 

 

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「19って...私の2つ下じゃん!?

何歳上相手に偉そうに語ってんだよぉ!!相手が歳上ならもっとリスペクトして敬って接しろよ!!フザケンナーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻、都内にあるオシャレなカフェ

 

 

 

夜景が綺麗なオシャレなカフェのテラス席で向き合うように座って楽しそうにお茶をするあかねとハジメ。

お互いにセットで来たケーキの食べさせ合いなどをして満喫していたが...ふとしたタイミングでハジメの眉間のシワが強く寄った。

 

 

 

 

「....どうしたの?ハジメくん」

 

 

 

 

「ん...?あ、なんでもない!」

 

 

 

 

「本当に?...なら、いいけど」

 

 

 

 

咄嗟に隠すようにそう答えて再び二人の時間を満喫するハジメ。

 

しかし、なんでもないとは言ったものの何かあった。

 

何かは分からないけど、何かあった。

 

一瞬だけ物凄くイライラしたのだ。

 

だが、本当にイライラした原因が何なのか分からない...

 

 

考えれば考えるほど疑問が大きくなっていくため、途中で考えることを放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―真奈美の部屋

 

 

パンフレットを畳み、足をぐでーと伸ばす真奈美。

ハァー...とため息をつきながらもテーブルの上に置かれたノートPCを引き寄せるようにして開いてはもう一度中身を確認。

 

 

 

 

ブレーキキット前後セット 80万...

 

 

 

 

工賃のことを考えると現状一括では払えないような金額。

 

手っ取り早く稼げるバイトがあったらなぁ...そんなことを思っていると彼女のスマホがピロンッ!と鳴り響いてメッセージをキャッチ...中身を確認すると、前にやり取りしていた深掘れ!のアカウントからだった。

 

 

 

 

"お世話になります、深掘れ!ワンチャンのADの浅野と申します。

 

この度、数ある出演者の方々の中から斎藤真奈美さんが次期深掘れ!大賞の候補に選ばれました。

 

つきまして、日程が空いている日時に密着取材の方をさせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?

 

なお、謝礼などの詳しい詳細は別途添付しているPDFをご確認下さい"

 

 

 

 

 

え、自分が大賞候補に...?

 

イマイチ実感が湧かないが、本当だったらスゴい話だ。

ただ、深掘れ!への出演となると先日のルビーの動きも気になる...どうしようかな、断ろうかな?

 

スマホを一旦置いて腕を組みながらも悩みつつもとりあえずは...とPDFファイルを開く。すると、そこには美味しすぎるような内容がズラりと並べられていた。

 

 

 

 

「(え、謝礼金が前の3倍...!?

しかも、大賞に選ばれたら番組特製の純金メダルが貰えるってヤバ...!!確か、今って金の相場スゴい上がってたよね!?)」

 

 

 

 

そう思いながらも現在の金の相場とメダルの重量からその価値を換算...およそ25万円。もし、大賞に選ばれたら貯金と足せば余裕でブレーキキットのお金を補う事が出来るのだ。

 

 

 

 

「(うんわっ、すんごい魅力的だわぁ....これ...!!)」

 

 

 

 

星野ルビーの黒い影はチラチラと見えるが、今の自分にとってはこの条件は魅力的すぎる。

 

どうしよう...

 

ブレーキキット、星野ルビー、ブレーキキット、星野ルビー、ブレーキキット、ブレーキキット、ブレーキキット、ブレーキキット、ブレーキキット....!!

 

 

 

 

 

 

「えぇいっ!罠でもいいから飛び込んでやるーッ!覚悟しろーいッ!!」

 

 

 

 

ピッピッピッ!と高速で承諾の返事と空いている日程を打ち込んでピッ!と一気に送信。送信完了すると共にグイッと身体を伸ばしてからゴロゴロと左右に転がり始め、感情の起伏からかしばらくするとスヤァ...と寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくして

 

 

いつの間にか寝てしまってぐーすぴーとイビキを立てていたものの、節々から伝わる違和感から「ふへ?」と急に起きた真奈美。スマホで時間を確認...時刻は1時。

 

あー、変な時間に起きて何したらいいかよく分かんないタイプのやつだ。

 

 

 

内心そう思いながら「よっこらせ...」と身体を起こして適当にお風呂入ってから軽く食事を済ませ、シャコシャコと歯磨きを済ませてから布団を敷いてお休み....

 

 

とは、なかなかいかない。

 

 

布団の中に入って顔の半分ほど毛布からスッと出すも、ガンギマリするように目をバチッとしっかり開けた状態で眠れない。

 

 

...まあ、さっきまで寝てたしそうなるよね。

 

 

 

そんな中で再びスマホでチラッと時間を確認...時刻は早朝2時を過ぎたと言ったところだ。

 

 

 

 

「(この時間じゃ、コンビニぐらいしかやってないよねー...困ったなぁ。どしよ。)」

 

 

 

 

そう思いながら、これ以上寝ようとするのも無駄と考えればふと脳裏にあることが浮かび上がってきた。

 

 

 

 

「(そういや、この辺り峠ばっかりだけどまだ一回も走ったことないな...峠巡りでもしようかな)」

 

 

 

 

 

布団をバサッと剥がし、軽く着替えて外に出る...季節や時間帯の割に寒くない。

 

これが暖冬というやつかな?

 

そんなことを考えながらも自分の86に乗り込み、暖気を済ませてから適当に出発。ブゥォォンッ...!というボクサーエンジンの音を木霊させながらも向かったのは秋名山。

 

噂だとちょっと前まで活躍していたWRCの日本人ドライバーがここの峠で育ってきたなどという話も耳にしていた為、なかなか楽しみ。

だが、期待値が高かったせいか実際に走ってみると「うーん...」と思わず微妙そうに声を漏らしてしまった。

 

 

 

 

 

「(比べちゃ悪いけど...ハジメくんと一時期走ってた箱根辺りの峠の方が道が整備されてて走りやすいんだよねぇ。

まあ、こういう道で腕磨いてたからこそラリーとかで戦えたんだろうけど)」

 

 

 

 

 

そんなことを思いながらも適当に上り下りを何本か適当に往復。...そして、ふと貯水槽がある頂上で軽く休憩しつつもスマホで時間確認。時刻は間もなく4時を回ろうとしていた。

若干ながら空の雰囲気も明るくなった気もする。

 

自律神経的な時計が復活したのか先程までバチバチだった感覚も薄くなり、流石に眠気も襲い掛かってきて「ふわぁぁ....」と派手な欠伸もかましてしまう。

 

もうそろそろ引き上げよっかな?

 

その思いから下り道を走らせていく...

それっぽいのが居たらよかったなぁと思いもあったが、時間帯時間帯である上に今の御時世じゃそう走ってる人間もいない。

 

今日はコースレイアウトを軽く覚えて終了と言わないばかりに下り道を颯爽と駆け抜けていく。...が、スケートリンク前の長い直線を駆け抜けている時だ。

 

 

先程までなかった気配を感じ取った真奈美。

 

「ん?」と疑問に思いながらもバックミラーに目を向けると闇夜の中に映る2つの閃光のような光...ヘッドライトの明かりのようだ。スタイリッシュな見た目なのは分かるが、距離もあって車種までは特定できない。

 

 

 

 

「(そこそこ流してたつもりなんだけど、追いついてくる....この車、もしかして)」

 

 

 

 

 

思考を働かせて辿り着いた答えは一つだけ。

 

"そういう車"が来たのだ。

 

思わずニヤリと不敵な笑みを溢してしまう真奈美。

ステアリングを握る手に力が入った。

 

 

 

 

「(多分その気なんだよね?

いいよ、来なよ。

私も一人で走り込むの飽きてきたところだから!)」

 

 

 

 

アクセルを強く踏み込んでからスコンッ!とシフトアップ。戦闘態勢に入った白い86のテールランプを後ろについていた車のドライバーはタバコを片手に眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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