―撮影1週間前 都内のネットカフェ
フルフラットの個室に入り、PCを前に座りながらもゆっくりながらもカタカタッとタイピングを行う星野ルビー。時折スマホを見て1週間後の撮影スケジュールを確認してからタイピング...
そう、斎藤真奈美を自身の踏み台にするための計画を進めていたのだ。画面を眺めながらもジュースを飲む彼女の脳裏に浮かぶのは自分の母が刺されたあの瞬間...
今回の計画を進めるに当たってやはりあの光景が浮かび上がる。時折気持ち悪いような感覚にも見舞われるが、そんなことで折れたら死んだ母の顔が浮かばれない。
堪えながらも作業を進めていると自分のドリンクが無くなっていることに気づく...喉カラカラのまま作業するのも進まないとサングラスやマスクを装着し、帽子を深々と被って変装してはグラスを手にドリンクバーの方へと向かった。
念のため周囲を軽く見回して気づかれてないか、誰かにつけられていないか警戒...大丈夫そうだ。自分の見知ったような顔もいない。
しかし、そのままドリンクバーのコーナーに移動した際にガンッ!と誰かとぶつかって身体がふらついてしまった...ふと顔を上げるとそこには自分と同い年ぐらいの女子高生の姿が。
「すいません、大丈夫でしたか!?」と謝りながらも近づく彼女の手には布巾が...何故布巾?と疑問を抱いていたが、程なくして腹部に感じ取った湿った感触から自分の服に少量ながらも彼女が持っていた水が掛かったと気づく。
まずい、この距離感だと流石に気づかれる...そう思いながらも無言で顔を隠そうとしたが、水を拭き終えた女子高生はその前に勘付いてしまった。
「あれ...?ひょっとして、B小町のルビーちゃん...!?」
女子高生としては配慮してくれたが声の音量を抑えつつも指を差されては呼ばれてしまう。なんとか手早くやり過ごそうと試みたが、彼女は声をなるべく押さえ続けながらも両手をギュッと掴んでは目を輝かせながらもこう伝えてきた。
「自分、ファンなんです!まさかこんなところで会えるだなんて...!」
「い、いつも応援ありがと...!」
「あ、あの...!よかったらサインとかイイですか!?」
動揺の動きに動じずにサインを求めてくる女子高生。写真は何かあった時に証拠として残されるが、サイン程度なら...その思いから「う、うん。いいよ...!」と咄嗟に返してはその場で適当な紙とボールペンを探し、手に取ってはササッと書き込んでいった。
「あ、ありがとうございます!友達に自慢しちゃおうかな....!!」
サインを受け取るや否やルンルン気分で去っていった女子高生。とりあえずそれ以上の事はなくて済んだとホッとするように小さく息をついてはスマホで時間確認。
...何だかんだで5分以上はロスしてしまった。
あまり遅いとミヤコさんやアクアに怪しまれる、手早くやらないと。
その思いからドリンクバーで新しいグラスにコーラを注いでいくルビー。
一分もないような短い時間...
しかし、先程のバレてしまった件もあってここを一刻も早く離れたいという衝動に駆られれば、いつもよりも少なめの量を注ぐのをやめ、すぐに自分の部屋に戻った。
「っ...ハァッ...ハァァッ....!」
誰かに見られているような緊張感から解放され、呼吸を荒げながらも壁に背を凭れてはそのまま力を無くすようにズルズルとずり落ちるようにして床に座り込むルビー。
あと少し、あと少しだ...
あと少しで計画が終わり、自分は芸能界更なる脚光を浴びることになる。それをキッカケの一つにし...母親と同じような頂点のステージに立ち、殺した犯人を見つけて復讐を果たす。
その決意と共に床のクッション部分を共にギッと...握ると変装を剥がして再び作業に取り掛かった。
・
―深掘れ!撮影二日前
栃木県 日光東照宮
スケジュールに予め組み込んでいた三連休デートの初日、あかねとハジメは二人で肩が触れ合うような距離感で雑談を交えながらも駐車場から入り口に向けて歩いていた。
「ここ来るの小学生の時以来かも」
「にしても、渋いチョイスな気がするけど...
なんでここにしたんだ?」
「栃木と言ったらここかなーって思ってデートプランに入れたんだ。
大丈夫だよ、お昼からもっと色々な所行く予定だから」
ウキウキした様子で事前に作った旅行プランのメモを確認するあかね。「ふーん...」と答えるハジメは少し間を空けるようにしてからあることを明かした。
「...実は俺、ここ来るの初めてなんだよな」
「え、そうなの?」
「ああ。多分、本当だったら俺も遠足かなんかで行ってたんだろうけど...小学校高学年ぐらいで既にカートの大会やら何やら優先で動いてたからさ。中学以降は日数だけ稼げたらって感じがより一層強くなったし」
そう言いながらも辺りを軽く見回している彼の姿を見てクスリと小さく笑みを浮かべるあかね。両手を後ろに回して軽く覗き込むようにしている彼女に対し、ハジメは「にしても...」と話を切り替えるようにした。
「まさか、2日目の仕事を一緒に出来るようになるとは...」
「うん...私も正直ダメかと思ってたけど、意外と行けちゃったね。事務所の方はちょっと渋ってるカンジだったけど...」
「まあ、いいじゃん。一緒に仕事するのって今ガチの時以来?」
「そうだね、あの時以来になるかな。
でも、付き合ってからだと...初めてになるかな?」
付き合ってからだと初めて...そう考えると表立ってカップルと見せつけて動く初仕事とも言える。嬉しいような、恥ずかしいような...複雑な心境に見舞われているハジメ。
そうこうしている間に入場料を払い、正面の階段の前でまずは2ショットすることに。平日でもやや混み合ってる...
それを感じつつも二人で正門をバックにやや下目から見上げるようなアングルでパシャリと撮っては中に入ろうと階段を上がりかけた時、ハジメのスマホがピロピロ!と鳴り響いた。
相手を確認すると登録していない番号...だが、その相手には身に覚えがある。
「悪い、あかね。先行ってて...仕事の連絡だから」
「あ、うん...」
少し残念そうにしながらも言われた通りに階段の一番上まで先に上るあかね。ピッと通話に出て「もしもし?」と問い掛けると相手が名乗り出た...マジックフローの代表、2日目の仕事を裏で取り付けた雷田澄彰だ。
「―折り返して掛けたわけだけど、まさか君から直接連絡が来るとは思わなかったよ...」
「まあ、何も無しでは流石に無礼ですし...
あらためまして、個人スポンサーのご紹介ありがとうございます」
「―いや、まあ...大したことはしてないよ。
僕としてはあの時のお詫びっていうのもあるけど...
偶々僕の知り合いの会社が君みたいな存在に興味を示していたのもあったから連絡を取り付けたって話だし。ウチの会社が直接スポンサーになるってのもちょっと考えたけど、私用でそういうの取り付けるのは流石にマズいと思ってね」
「別に気にしてませんがね...貴方も仕事でやってるわけですし」
「―いや、キミがそう言っても僕は気にするよ。
君ら二人の仲を裂きかけたキッカケを作ったのは事実なわけだし。
まあ、こう言っててもお互いに水掛け論で埒が開かないだろうから...素直に受け取ってくれよ、僕のお詫びを」
雷田の今にも"んー"と渋るような声を出しそうな表情を作るも、少し間を空けてから「分かりました」と素直に受け入れたハジメ。すると、電話越しに雷田は「―よし」とやや嬉しげに返してからこう続けて話してきた。
「―明日の"あかねくんとの"取材、楽しんできなよ」
「え...なんで二人で受けるって知ってるんですか?」
「―当然だよ、先方から相談されて意見後押ししたの僕なんだから」
「そう、なんですか...なんかありがとうございます。色々」
このまま通話を終えるのも切りが良い思い、「では、また...」と切ろうとした時...雷田の方から「―ちょっと待って」とストップを呼び掛けられると彼は最後にこう一言だけ言い残した。
「―レゼの代表、僕の同級生なんだけど...
なんていうか、悪いヤツじゃないけど変態気質なところあるから気をつけて」
「へ、変態?」
思わず復唱している間に「―じゃあ、頑張って」と通話を切られるハジメ。プープーと鳴り響く通話後の切断音を聞きながらもゆっくりと首を傾げながらもピッと切ってスマホしまってあかねの方に目を向ける...階段の上でずっと見守りながらも待っていた彼女は視線に気づいて小さく笑みを浮かべて見せてきた。
よし、戻ろう...そう思った時。
パンッ...という音と共に地についていた彼女の身体が前のめりになってふらついたのだ。
「ッ...!?あかね!!」
マズいと気づいて人をかき分けるようにして駆けつけると案の定転げ落ちかけるあかね。そんな彼女を咄嗟に下の段でガシッと両手で抱きかかえるようにキャッチ。
だが、咄嗟すぎてキャッチ時にスライディングするような形になると受け身もまともに取れずに勢いよく尻餅をついてしまった。
「...いてて...ッ」
「だ、大丈夫...!?」
「折れたかも...」
「えぇ...!?」
「...ごめん、ジョーダン」
周囲がザワザワとざわつきながら騒然と二人を見ている状況下で「へへへ」と笑いながら答えるハジメに対し、「もう...!」と怒りながらもプクーと頬を膨らませるあかね。「ごめん、ごめん」と笑いの内容が苦笑いに切り替わると共に脳裏に浮かび上がったのは彼女が転げ落ちかける直前までの光景...一瞬ながら見覚えのある人物がいた気がする。
...いや、居るはずがない。
今頃、彼は深掘れのレギュラー収録をしている頃だ。
栃木にいるわけがない...だが、その風貌は彼にそっくりだった。顔まではよく見えなくて分からなかったが、少なくとも髪型や色...何なら背格好まで似ていた。
似ているだけの別人...?
疑問はそれだけに留まらない。
あかねの転げ落ち方も違和感があった...まるで誰かに仕組まれたような転げ落ち方だった。
いや、転げ落ちるというよりかは...混み具合に紛れて突き落とされた?
色々と考察を頭の中で巡らせるも、答えは見つからない。
とりあえず、あかねが無事でよかった...そう安堵して思考を巡らせるのを止めるとそっとあかねを下ろしてその場で立たせた。
「とりあえず無事で何よりだ...行こ」
「う、うん...手、繋いでもいい?」
「ああ。これで次落ちるときは一緒になるな」
「もう...からかってる?」
あかねの反応を見て思わずクスクスと笑ってしまうハジメ。そのまま二人で手を繋いでカップルらしく行動を共にするも、周囲への警戒をより一層強めた。
・
―夜、真奈美の部屋
ローテーブルの前で座り、PCを眺めて適当にネットサーフィンに勤しんでいた真奈美。時折真剣な眼差しで机の上にあるあるものに目を向ける...黒いUSBメモリだ。手を止めながらもジッと睨むようにして数秒間を見続けるとピンポーンと呼び鈴が鳴り響いた。
この時間に来客とは珍しい。
内心そう思いながらもUSBをポケットにしまい、「はーい」と駆けつけてパッとドアを開けるとそこにはケンゴの姿が。
「け、ケンちゃんじゃん...!?」
「久しぶり。近くのラジオ局で偶々収録があったから来てやった」
そう言いながらも片手に持っていたコンビニスイーツが入ったビニール袋を見せてきたケンゴ。「いいよ、入って」とまだそれほど段ボールが片付いていない部屋に招き入れると向き合うような形で座りつつもコーヒーを淹れては二人でコンビニスイーツを堪能し始めた。
「おいしー!ケンちゃん、私の好みよくしってるね!!」
「それは、まあ...前に散々突き回されたからな」
半ば呆れたような口で答えた時に急に緑色の小さいノートを取り出してカキカキと何かをメモし始めた真奈美。ケンゴが気になって覗き込もうとすると咄嗟に「えー、やだー!」とメモを閉じて隠してきた。
「見ちゃダーメ、絶対」
「なんで?」
「なんでって、ダメなものはダメだよー。女の子のプライバシーはそう勝手に見るものじゃないよ」
ため息混じりにそう呟きながらもノートをしまうと、コーヒーを一口だけ口にする真奈美。「ふぅ...」と小さく息をつくと天井を仰ぐようにして見ながらも「ねえ、ケンちゃん」と切り出してはこう問い掛けた。
「ケンちゃんはさ...自分の葛藤と向き合う時、どうしてる?」
「...急にどうした」
「いや...何となくだけど、聞きたかっただけ」
そう答えられて軽く眉間をつまむようにして考える素振りを見せるケンゴ。そこから悩み続けるように「んー...」と眉間にシワを寄せ続けながらもこう問い掛けた。
「その...葛藤してる内容は?」
「ちょっと言えないかな」
「そうか...まあ、質問が漠然としてるからコレだとはハッキリ言いづらいけど。とりあえずは自分が信じてる方向に進めばいいんじゃないか?」
信じてる方向に進む...その言葉を心の中で復唱する真奈美。自分の中でどうするのか決めたのか「そっか、わかった」と小さく笑みを浮かべて答えるものの先程とは別人のように「ところで...!」と話を切り替えるこう切り出してきた。
「明後日、いよいよ取材なんだー!
人生初の密着取材!しかも、受けられる側なんだ〜!!」
「前の一件で懲りたかと思ったけど...もしかして、金か?」
ケンゴの指摘に分かりやすくギクッと反応する真奈美。図星かと言わないばかりにため息をつきそうになってるケンゴに対し、「ち、ちがうもーん!」と反論する彼女。二人の楽しい会話はしばらく続いた。
・
―翌日 朝 栃木
取材を受けようとNSXに乗り込み、待ち合わせの場所へと移動するハジメとあかね。スマホのナビを頼りつつも運転しているハジメの脳裏に巡るのは昨日のあかねが突き落とされ掛けた件についてだ。
結局、あの人物は誰なんだ?
そして、何故あかねを狙った?
そう思考を巡らせてついつい表情が難しいモノに変わっていくとそれに気づいた助手席のあかねが軽く顔を覗き込むようにしながらもこう問い掛けた。
「...考え事?」
「まあ...ちょっと色々と」
「そっか、でも...せっかくのデートなんだし、もっと楽しそうにして欲しいなーなんて」
「まあ...今からやるのは一応仕事なんだけど」
「でも、台本っていう台本もないみたいだからデートみたいなものだよ。自然な形で進めて欲しいってお願いされたし」
そう言われてもなかなか表情を変えてくれないハジメ。ここまでデートの時に考え込んでいる彼も珍しいと思ったが、あかねの中で2つの選択肢が浮かび上がる。
このままそっとしておくのと、考え事をやめさせるようなビックトピックを伝えること...
この時、彼女が選んだ選択は後者だ。
「ハジメくん、実はまだ伝えてないビックニュースがあるんだけど...」
「ビックニュース?」
「うん。ひょっとしたら、今年から同棲出来るかもしれないって話」
"同棲"
いきなり過ぎるド強いワードに先程までの思考が一気に何処かに吹っ飛んでしまった。
「ど、どど、どどど、同棲ッ!!?」
驚きのあまり、思わず声を震わせながらもオーバーリアクションにも見えるような反応を見せるハジメ。そんな彼の反応を見て思わずクスッと笑ってしまうあかねはその理由について語り始めた。
「まだ表に出てない話だけど、次の月9ドラマの主演に抜擢されちゃって...その舞台が小田原なんだ。
小田原だったらハジメくんが住んでる箱根とも近いし、同棲出来るかなって」
「なるほどな...親御さんから許可は?」
「貰ってるよ。それに、私ももう年齢が年齢だし...それぐらいは認めてくれるよ」
あかねの思惑通り、完全に思考が同棲の方へと逸れてしまうハジメ。信じられないと言わないばかりに「はえー...」と呟きつつも運転し続けるとそんな中でふと頭の中で浮かび上がったことを問い掛けてみた。
「にしても、月9主演かー...スゴいなぁ、あかねは」
「ううん、偶々だよ。昨日連絡が来たんだー。
制作側も本当は他の役でオファーを出すみたいだったけど、元々の主演予定の人と突然連絡が着かなくなったから私に役が回ったカンジだね」
「元々は誰になる予定だったの?」
「片寄ゆらって知ってる?女優の...」
「ああ、もちろん知ってるよ。
映画とかでもバンバン起用されてるイメージあるし...確かちょっと前までベリッシモの化粧品のCMも出てたよね」
片寄ゆら....ハジメレベルの人間でも知ってるような大女優だ。そんな女優の次点に選ばれるとはあかねも大女優への出世街道を歩いているなぁと実感しつつも運転し続け、目的地へと向かった。
・
―同時刻 とある山奥
携帯の電波届かないような場所。
虚ろな目で空を仰ぐように仰向けに倒れ、血塗れで動けない一人の女性...彼女の名前は片寄ゆら。何日か前に崖から転落し、足の骨を折った上に所々血を流していてまともに動けない状態だ。
しかも、こんな場所では叫ぼうにも気づいてくれる人間なんていない。
まさに地獄に突き落とされたような感覚。
そんな中でコツコツ...という足音が聞こえてきた。
そちらへと目を向けるとそこには緑のジャケットを羽織った金髪の男が...その姿を見ると共に片寄は最後の力を振り絞るようにしてこう言葉を漏らした。
「....人、殺し....」
それだけ告げて彼女はついに息絶えた。
その絶える瞬間を近くでじっと観察するように眺めていた男...
すると、彼は猟奇的とも言えるような狂ったような笑みを浮かべながらも高らかに叫んだ。
「アイ...!また一人...奪ってしまったよ...!!」
____________後書き_____
なんか最近、更新してないのに閲覧がスゴい増えるタイミングがあるんですが...なんででしょうか?
正直よくわかんないです。。。