IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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第四幕 Radioactive act.13

 

 

 

―数時間後

 

 

ドリームエンジェルス拠点

 

 

 

すっかり日も暮れそうな時間帯で戻ってきた撮影班達。

あれから襲撃は何とか撃退したとのことだが、現場にいた全員が警察署で軽い事情聴取を受けたとのこと...

ハジメとあかねが廊下で歩いていると合流してきた撮影班たちによる安堵するように会話が聞こえてきた。

 

 

 

 

「―ったく、撮影スケジュールだいぶ押したなぁ...」

 

 

 

 

「―にしても、なんで襲われたんだ?」

 

 

 

 

「―知るかよ...唯一捕まえれたヤツも"金髪の女を狙ってた"の一点張りらしいしな」

 

 

 

 

「―金髪の女...あの場に居た金髪の女ってルビーちゃんだけだよな?」

 

 

 

 

 

会話の内容を盗み聞きしてから一旦その場から離れる二人。すると、神妙な面持ちであかねの方から「ねえ」とハジメに話しかけてきた。

 

 

 

 

「犯人たちは待ち伏せしてたんだよね...?

番組側の誰かが情報をリークしたってことになるのかな?」

 

 

 

 

「まあ...ただ、撮影班の進行ルートまで予測して動くってなるとかなり知ってる人間が限られてくる。

でも、今売れっ子のB小町のルビーを襲って得するヤツなんてそういないと思うけどなぁ....」

 

 

 

 

 

そうこう話している間にマネージャーに宥められているルビーが横を通りかかる...彼女は目元に涙を溜めている様子を見たあかねが「ルビーちゃん?」と呼び止めると安心させるようにしてから興味本位からかこの事件を探ろうと聞き始めた。

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

 

 

「は、はい...」

 

 

 

 

「...ちょっと聞いた話なんだけれど、犯人たちはルビーちゃん目当てで襲ってきたって話だけど心当たりはある?」 

 

 

 

 

 

「心当たり...コレと言っては特に」

 

 

 

 

 

首を横に振りながらも答えるルビーに対して「そっか...ゴメンね、呼び止めたりして」と言ってハジメと去ろうとするあかね。しかし、二人が数歩ほど歩いたところで「あ、あの...!」と呼び止めてきた。

 

 

 

 

「もしかしたら...!その...」

 

 

 

 

「その...?」

 

 

 

 

「さ、斎藤さんが関わってるかもしれません...

今になって振り返ると私、前の取材の時に彼女から素っ気ない対応されていたような気もするので...

正直、ちょっと怖いなって思いもあったんです。あの時は当時のADの吉住さんが庇ってくれましたが..

今日のロケの行き先、彼女の立場なら指定出来ますよね?

もしかして、それに合わせてあの人たちを雇って...!」

 

 

 

 

 

急に感極まったように話を加速させていくルビー。

近くで偶然聞いていたADも顎に手を当てるようにして「確かに、彼女なら...」と納得しているとハジメのスマホの着信がピロンッと鳴り響く。内容を確認して...ポケットに再び戻すとあかねにこう促した。

 

 

 

 

「...あかね、行こ」

 

 

 

 

「う、うん。また後で...詳しいこと聞いてもいい?」

 

 

 

 

「あ、ありがとう...」

 

 

 

 

そのまま一旦その場から離れるも、しばらくしてから再びルビーの元へと戻ってメンタルケア兼聞き取りを始めた二人。そんな二人の対応に彼女は心の中でほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後

 

 

ルビーの声の影響で現場内に"斎藤真奈美が主犯"という雰囲気が流れ始めた。そんな流れの中で別室から出てきた真奈美...神妙な面持ちを浮かべながらも歩き、周囲から自分を睨むような目が増えたと感じつつもルビーに話し掛けた。

 

 

 

 

「...外でお話ししない?ちょっとでいいから」

 

 

 

 

真奈美の言葉に危ないと感じ取り、「だ、ダメですよ!」と制止しようとするマネージャーに対してルビーを小さく笑みを浮かべながらも逆に手を伸ばして制止させた。

 

 

 

 

「...いいですよ、お話しましょ」

 

 

 

 

そう言って真奈美に続くように外へと出ていくルビー...

二人が向かったのはドリームエンジェルスの駐車場。

周囲に誰もいないことを確認...外はもう日が暮れていて、駐車場に立つ街灯が所々照らすような状況下。まだ冷たさを感じるような夜風に吹かれる中、ルビーがついに話し始めた。

 

 

 

 

「...どうする?あの場に居づらい状況になっちゃったけど。

今の私にはコレだけ人を惹きつけて従わせ、その気にさせる力がある。貴女が謝ってくれるのなら...少しはマシな状況にしてあげてもいいけど」

 

 

 

 

先程までの被害者ぶるような素振りから一転した彼女の姿勢...しかし、敗北を煽るようにする彼女に対して真奈美は少し間を空けてから「ハハハ...!」と腹を抱えて笑い始めた。

 

何がおかしい?

 

そう思いながらも彼女を見ているとようやく笑いを押さえつつもこう話し始める。

 

 

 

 

「全部知ってたよ、貴女が自作自演であの連中仕組んでたのも。

彼らは裏を経由して雇われただけの闇バイト...貴女の目的としては襲われたという既成事実で芸能界から注目を集め、更にそれでも仕事を続けるという強い姿勢を見せることで世間から強い好感を得ること。政治家なんかがたまにやってる手段を芸能界でやろうとした...気に入らない私を踏み台にしてね。確かに、今のB小町の人気具合ならこの手法は出来そうね。

 

まあ、全部..."私がぶっ壊してやるけど"」

 

 

 

 

そう言いながらも分厚い資料を手に取ると宙にバッと投げ捨てるようにし始めた真奈美...そこにはネットカフェに出入りするルビーの姿が撮られている写真が載っている上、PCを使った闇バイトの雇い主とのチャットの内容まで全て記録されていた。

宙に撒かれた資料を手に取ったルビーは手を震わせながらも読むと共に真奈美に問いかけた。

 

 

 

 

 

「こ、これ...どうして...?」

 

 

 

 

「アイドルという職業柄、事務所にスマホ関係は管理されてると思ったから...何かをやるならネットカフェに走ると思ってた。それも何かあった時に足がつきづらい非会員でも出入りできるようなところ。そうなると貴女が個人で動ける範囲から概算するとかなり絞り込まれる...

案の定、その絞り込んだ店舗をローテーションするように出入りしてた。貴女はまんまと私の思い通りに動いてたってわけ」

 

 

 

 

 

「で、でも...PCの内容はどうやって抜き取ったの?

ネットカフェのPCは電源が落ちたらデータは基本的に消去されるはず」

 

 

 

 

 

「そう、電源が落ちたら...ね?」

 

 

 

 

 

意味深にも思えるような復唱の仕方...記憶を辿って辿ると唯一データが綺麗に抜け取れるタイミングがあったことを思い出した。

 

ドリンクバーで女子高生とぶつかった時だ。

 

まさか、あれも...!?

 

内心驚きながらも確認すると真奈美は不敵な笑みを強めながらも「思い出した?」と確認するように問いかけてからその説明を始めた。

 

 

 

 

「あの貴女にぶつかった女子高生、私の高校時代の後輩の後輩なんだ。

B小町のファンっていうのと私がテレビに出た関係もあって貴女の居場所を知ってるって言ったらスゴい食いついてきてさ...2〜3分稼いでくれれば十分なところ5分以上時間稼ぎしてくれたからありがたかったよ」

 

 

 

 

「で、でも...あの時、貴女の姿は...」

 

 

 

 

 

「分からなかった?隣の部屋だったんだけどなぁ」

 

 

 

 

隣の部屋...しかし、彼女らしき人物がいたような雰囲気はなかった。眉間にシワを寄せて考え込んでいるルビーに真奈美はクスッと笑いながらもおふざけ半分でヒントを与えた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、ヒントねー。

私が深掘れ!に出るキッカケになったのは何かな〜?」

 

 

 

 

「ま、まさか...!?」

 

 

 

 

「わかった?元レイヤーだからウィッグとかカラコンとかいっぱいあるんだ。髪型や髪色、瞳まで変わった状態で口元なんか隠すような変装されたら大抵の人間はわからないよねー?」

 

 

 

 

そう言いながらも自分の86の前まで移動する真奈美。軽くボンネットに腰を掛けるようにする彼女に対し、ルビーは強がりを見せるようにこう言ってきた。

 

 

 

 

「でも...私は貴女が大好きなあの二人にすら話を信じ込ませた。こんな情報を撒いたところで...」

 

 

 

 

「信じ込ませた?なに言ってんの、あの二人はハナから貴女を疑ってた。特にあかねちゃんに関して言えばスゴい嗅覚が鋭いからねー、簡単に騙せるなんて思わないほうがいいよー?」

 

 

 

 

「で、でも...!私の話を親身に....!!」

 

 

 

 

ルビーの必死な言葉に思わず「はぁー...」とわざとらしく大きなため息をつく真奈美。「物分かり悪いなぁ..」と面倒くさそうに呟いてはそこから種明かしをしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間以上前

 

 

 

ハジメとあかねは届いてきたメッセージを頼りにある場所まで移動した。指定されていたのは機材室、そこで待っていたのは斎藤真奈美だ。腕を組んで壁に背を預けるようにして待っていた彼女は二人に単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

「二人とも、どうだった?ルビーの話聞いて」

 

 

 

 

あまりにも単刀直入な質問に「うーん」と考え込む二人。少し間を空けてからハジメの方から詳細を語り始めた。

 

 

 

 

「...なんか引っ掛かるな。

話し方も必死すぎるような感じだし、犯人をお前と決めつけた理由も無理矢理感がある。確かに立場上では仕組めないこともないが、一回会ってちょっと素っ気ない態度取られたぐらいで犯人に決めつけるのは動機として考えるのは無理がある」

 

 

 

 

「私も違和感あったかな...

話す直前まで人となるべく目を合わせないような感じだったし、瞬きの回数も多かった。それに、最後の言葉も情報を細かく詰め込んでる感じがした...全部嘘をつくときに出る特徴だよ。

たぶん、何か隠してると思う」

 

 

 

 

 

二人の言葉にホッと安堵した様子を見せる真奈美。

「その通り」と告げて背を壁から離すと二人にゆっくりと歩み寄りながらも続けては即席で作った文を二人に手渡してからこう頼んだ。

 

 

 

 

「二人にちょっと頼みがあるんだー、軽い談笑をしてからこの文の中にあるワードを話してほしい」

 

 

 

 

確認したワードに訳がわからないと言った様子のハジメ。

「これを言ってどうするんだ?」と問いかける彼に対し、真奈美はあるものを手に取りながらもその説明を始めた。

 

 

 

 

 

「これで...ヘビを吊り上げるよ」

 

 

 

 

 

そう言いながらも見せてきた道具...

それは機材室の中にあったサーモグラフィーカメラ。教習用に備えられた路面の温度を測るためのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―現在

 

 

こっそり影で撮っていたサーモグラフィの結果を見せるように横向きに印刷した2枚の写真をパッと見せる真奈美。まず見せた2枚には温度の変化はないように見える...これの何がおかしいと内心思っていたルビーだったが、そんな彼女にため息をつきそうな表情を浮かべながらも説明した。

 

 

 

 

「貴女から見て左側のサーモが収録の合間に撮った物、右側が襲撃後にハジメくんたちと話してるのをこっそり撮ったもの...襲撃されたにしては体温の変化はさほどない」

 

 

 

 

「そ、それがどうしたっていうの」

 

 

 

 

「まあまあ、これを見てよ」

 

 

 

 

そう言って別の写真をパッと見せる真奈美...

目頭を中心に先程よりも顔の皮膚の温度が上がり、結果は真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

「人間は嘘をつくとき、動揺したときに心理的ストレスから無意識に体温が上がる。

アンタがこの反応を見せたワードは...

 

闇バイトによる雇われじゃないかっていうのと、ネットカフェで貴女みたいな人に会ったっていうの、犯人は私じゃない身近な人物かもしれないっていうの。

全部、私が見せた証拠に結び付けれるけど...どうする?」

 

 

 

 

完全に追い込まれた状況に絶望するルビー。

そんな彼女に追い打ちを掛けるように真奈美は更に語り続けていく。

 

 

 

 

「にしても、もっとマシな場所で襲わせると思ったけどなぁ...あの場所って貴女が指定したの?

あの場所、人気こそはないけど監視カメラもいっぱいあるし、交番も1km圏内にあるし、パトカーの巡回ルートになってる。素人丸出しだよ、ホント。

 

おにいちゃんよりもツメが甘いねー、"ルビーちゃん"?」

 

 

 

 

不気味なぐらいニコニコしながらも顔を近づけてくる真奈美...そのまま耳元に口を近づけるとドスが効いた低い声でこう囁いた。

 

 

 

 

「....自分が何やっても許される存在だと思ってるじゃないよ、小娘が」

 

 

 

 

思わず血の気が引いたようにするルビーに対してゆっくりと離れると神妙な面持ちのまま再び86に腰を掛ける真奈美。そこから呆れたような表情でルビーを見ると最初の時とは立場逆転するような形でこう問いかけた。

 

 

 

 

「どうする?アナタ、私が把握してるだけでも今回の合わせて3つは罪があるわけだけど」

 

 

 

 

「3つ、って....?」

 

 

 

 

「冬コミ炎上の件と吉住ADの件、それから今回の件...

完全に把握してるだけでコレだけあるんだから余罪もいっぱいあるでしょうに。いずれも誰かの人生を無茶苦茶にするようなクズみたいな内容...首を絞めてやろうかどうか悩んでたけど、ここまでやってたら絞め上げるしかないよね。

 

貴女の人生を完全に終わらせるから...せいぜい首洗って待ってなさい」

 

 

 

 

人生が、終わる...

 

一度病室で終わってからやり直した新しい人生。

 

歩んでいる途中でママや先生の復讐を誓って強く踏み出した人生。心の中のもう一人の自分を傷つけながらも一歩、また一歩と力強く進んだ。

 

だが、進んだ先でこの女に阻まれてしまった。

 

 

イヤだ、ママや先生の復讐を果たせないなんて...!

 

 

そんなの死んだも同然だ、ここまで来たら最期まで抗ってやる...例え、この女を殺してでも進んでやる。

 

 

 

そう考えている時に真奈美があるものを手に取って見せてきた...USBメモリだ。

 

 

 

 

 

「....それは?」

 

 

 

 

「クズに答える義理なんてないよ」

 

 

 

 

 

ゴミをみるように見下すような目を向けながら吐き捨てるように告げてきた真奈美。

....間違いない、自分が行なってきた内容が記録されてるUSBに違いない。そう考えると咄嗟に手を伸ばして奪おうとした。

 

 

 

 

「離せ!」

 

 

 

 

 

「いやだ!これは私が...!!」

 

 

 

 

 

そのまま奪い合いから地面に押し倒しての揉み合いに発展していく真奈美とルビー。外の喧騒具合に違和感を感じてマネージャーが出てきた時、ちょうどルビーが真奈美からUSBを奪った瞬間だった。このまま足で踏み潰そうと考えたが...ふと後ろを振り向くと自分のマネージャーの姿が...その後ろにはハジメやあかねもいる。

彼からすれば自分が真奈美を押し倒して暴力を振るったようにも見える。

 

 

一気に頭の中が真っ白になっていく...

 

終わった...もう逃げるしかない。

 

 

 

咄嗟に立ち上がってその場から逃げるルビー。

「ルビーさん!」「ルビーちゃん!」という制止させるような声を完全に無視し、ドリームエンジェルスの拠点から逃げるように抜け出すと偶然にも近くを通り掛かったタクシーを拾い、一気に後ろに乗り込んだ。

 

 

 

 

「―どちらまで?」

 

 

 

 

「とにかく出して!お願いします!!」

 

 

 

 

そのまま走り去っていくタクシー...

その姿を1台の黒いBMWが静かに追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―少しして

 

 

小さな会議室に集結して座る目撃者三人と被害者の真奈美。

マネージャーがルビーに代わって「申し訳ありません!」と真奈美に向けて深々と謝罪する中、彼女は「大丈夫、大丈夫」と笑みを浮かべながらも対応していた。

 

 

そんな中でハジメが安堵するようにホッとした様子で単刀直入にたこう問いかける。

 

 

 

 

「何があった?あんな人を押し倒して逃げるって相当だぞ」

 

 

 

「まあ、ちょっとしたじゃれ合いだよ。大したことじゃないから」

 

 

 

 

 

そう言いながらもスマホを操作してマップのような画面を見てから神妙な面持ちを浮かべると「ゴメン」と呟きながらも立ち上がってドアの方へと向かった。

 

 

 

 

「今から用事あったの忘れてた。ちょっと行ってくるから」

 

 

 

 

「え、用事って今日撮影じゃ...」

 

 

 

 

ハジメが確認しようとする間に飛び出すように出ていく真奈美。それから間もなくして外からブォゥンッ!というボクサーエンジン特有のサウンドが聞こえてきた...多分86に乗って何処かに行く気だ。

 

 

 

 

「たく、こんな時に...」

 

 

 

 

「あー、ど、どうしましょう...

明日にはマネージャーをクビになるかもしれません...

担当アイドルを襲われかけたその日に傷害事件を起こさせ、更には行方不明だなんて...シャチョー、どうかお許しクダサイ...」

 

 

 

 

呆れているハジメの横でガタブルと震えるマネージャー。

そんな二人に対してあかねは「うーん...」と小さく唸るようにして顎を手に手を当てるようにして何かを考えていた。

 

 

 

 

「考え事?」

 

 

 

 

「...うん、真奈美さん何か隠してるような感じがあったんだよね」

 

 

 

 

「何かって...?」

 

 

 

 

「それが...よく分からないんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―1時間後 秋名湖前の駐車場

 

 

近くまでタクシーで来てはこの場所まで歩き、湖面に映し出される月を眺めるルビー。

街灯もほとんどなく、漆黒が包み込んでいるような空間で真奈美から奪ったUSBを力ない虚無の目で見つめる。

 

 

 

私は元々こんなことをするために芸能界に入ったのか?

 

 

 

 

今の私を昔の私が見たらどう思うのだろうか?

 

 

 

死んだ母や先生が見たらどう思うのだろうか?

 

 

 

色々と考えている間にUSBをグッと握りしめるルビー...大きく振り被って投げようとした時にある声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

"そんなことをした所で罪は無くならないよ"

 

 

 

 

"キミは一生、自分の罪を背負って生きていかなきゃダメだ"

 

 

 

 

....幻聴だったかもしれない。だが、しっかりとハッキリと聞こえた。投げようとする手がピタリと止まると共にゆっくりと下ろすルビー。

 

投げたところで何も解決しない...でも、どうすればいい?

 

 

 

心の中で自問自答していた...その時だ。

 

後ろから誰かの気配を感じ取り、咄嗟に振り向く...

 

雨も降ってない状況下で緑の雨合羽をフードまで被った如何にも不審者という人物が立っている。

 

 

 

...誰?

 

番組側の...ドッキリ?

それにしては通知も何もないような...

 

 

 

 

いきなりのことで頭の中で色々と混乱している中、不審者は手に持っていたある物をルビーの方へと向けてきた。

 

....ナイフだ。

 

 

 

 

「え....?」

 

 

 

 

呆然とその場で立ち尽くすルビー...

脳裏に浮かんだのはあの日、玄関で刺されて息絶えた亡き母の姿。

 

2回目の私の人生、ここまでなの...?

 

そう考えると共に罪という言葉が強く心の中を覆い尽くしてくる。

 

今まで人に嘘をつき、踏み台にしてきた。

 

 

その報いが来たのかもしれない...

 

 

そう考えると恐怖を感じる前に自分の人生が哀れだと思い、思わず自嘲染みた笑みを浮かべてしまった。

 

 

 

 

「哀れだね...追い詰めて殺してやろうと思ってたのに、逆に殺されるなんて」

 

 

 

 

そう思い自分の運命を受け入れようとした...その時だ。

 

 

キィィィィッ!!というスキール音と共に1台の白い車が駐車場に飛び込んできた。ブォゥンッ!ブォゥンッ!!とボクサーエンジン特有のサウンドを響かせながらも不審者とルビーの間に割って入るようにしてくる車輌...真奈美の86だ。

不審者が怯んでいる間に助手席側のウィンドウを開けてはルビーに向けてこう叫んだ。

 

 

 

 

「乗って!早くッ!!」

 

 

 

 

想像もしていなかった助け舟に驚きながらも言われた通りに乗り込むルビー。不審者が襲いかかろうと駆け出すも、それを振り切るように加速する86。

 

突き当たりでドリフトターンして駐車場を出ていくと助手席のルビーは疑問に思ったことを真っ先に問いかけた。

 

 

 

 

「ど、どうして...あそこだって?」

 

 

 

 

「アンタが私から盗み取ったUSB、実は中身はGPS発信機だよ。

こんな風に逃げ出すと思って仕込んでおいた。

マップで確認したら湖の方行ってたから入水自殺でもするんじゃないかって思って急いで出たのよ!」

 

 

 

 

「え、じゃあ...データは?」

 

 

 

 

「別の場所で管理してる、アンタには教えないけど!」

 

 

 

 

 

そう言いながらも86を走らせ、秋名山へと入っていく真奈美。一方、不審者の方も逃がすまいと急いで自らの車の乗り込む...黒いBMW、335i。

 

ブォォォゥンッ!とボクサーエンジンのサウンドを山に響かせながらも疾走する白い車影を黒い車影が追い始めた。

 

 

 

 

 

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