IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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―求められるのは、変革。



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第五幕  Catalyst act.1

 

 

 

 

―とある夢の中

 

 

 

蜃気楼の中にいるような感覚の中で見覚えのないサーキットを走っていた。

耳に飛び込んでくるのは296GT3のV6ターボとは全く違う甲高いサウンド...ドライビングの視点的にフォーミュラカーのような青と白の車に乗っている。

 

音だけでなく、車内の気温や重たいステアリングの感触、更にはサスペンションが粗めの路面から拾う振動までリアル過ぎるぐらいに伝わってきた。

 

 

自分の意識のようなものがあるが何もできない...勝手にこの夢の中の自分なのかわからない人物がステアリングやペダルを操作している状態だ。

 

 

サイドミラーに強制的に向けられる意識...そこから見えるのは1台の赤い車。相変わらず蜃気楼のような視界だが、相手もフォーミュラカーのようだ。

 

再び視線が前に向けられて程なくして、自分の意志とは違うタイミングでブレーキング...強烈な減速Gが身体に襲い掛かる。そこから更にコーナリングに入ればGの方向は一気に変化、それでも速度を落とす気配はない。しかし、アクセルペダルを踏んでいる操作感...まるで足を痙攣させるようにしてアクセルワークをこなすこの感覚が自分と類似してる。

 

 

 

これは一体、誰なんだ?

 

自分自身の未来...予知夢なのか?

 

 

 

 

 

そう思っている間にも次の左コーナーへと突っ込んでいく車体...だが。

 

 

立ち上がりのタイミングで姿勢を崩した車体、減速する気配もなくコースアウト。

 

 

キィィィッ!!という悲鳴のような激しいスキール音と共に目の前に近づいてくるコンクリートの分厚い壁。

 

 

 

だめだ、避けられない...!

 

 

 

そう思い、目を瞑りたくなるような衝動に襲われていると...眩い光が自分覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―5月 朝 ハジメの借家

 

 

魘されるようにしてから一気に目を開けるハジメ。

ハァ、ハァ...!と息を荒らげながらも落ち着かせようと大きくゆっくりと呼吸するようにすると目の前には見覚えのある天井。身体を見ると冷や汗からなのか、やや湿り気のある毛布に包まれている...ほぼいつものベッドの光景。

ふぅ...と安堵の息をついて気持ちを落ち着かせていると、別の部屋からグツグツと煮えるような音が聞こえてくると共に味噌の香りが漂ってきた。まれに聞こえてくる包丁を捌くようなトントントンという小気味の良い音...

 

身体を起こして寝室を出るとキッチンに立つよく知った後ろ姿の女性が...青みを帯びた長い黒髪に釣られるようにそっと後ろから抱き締めるとそのまま頬に軽く口付けした。

 

 

 

 

「おはよう、あかね」

 

 

 

 

一瞬びっくりしたように手を止める彼女だが、直ぐに誰か察して「もう...」と頬を赤らめながら気を許すように小さく笑みを浮かべてきた。

 

 

 

 

 

「おはよう、お寝坊さん」

 

 

 

 

「寝坊してないって、今日はゆっくりでもいいから」

 

 

 

 

そう言って程なくして朝食に...

テーブルでお互い向き合うようにして「いただきます」と合掌すればそのまま談笑を交えて食事を始めた。

 

 

 

 

 

「撮影は何時から?」

 

 

 

 

「今日は遅めだよ、ハジメくんと同じ」

 

 

 

 

「そっか...じゃあ、一緒に住み始めてから初めてお互いゆったりできるな」

 

 

 

 

安堵するように笑みを浮かべながらも朝食を食べ進めるハジメ...そんな彼に対してふと何か思うことが浮かび上がったあかね。やや不安げな表情を見せながらも恐る恐る問いかけた。

 

 

 

 

「最近、寝てる時によく魘されてるみたいだけど...大丈夫?」

 

 

 

 

「まあ...最近似たような悪夢を見るんだ、レース中に事故する夢。事故った瞬間に毎回起きるんだ」

 

 

 

 

「そっか...過去に似たようなことがあったとかある?」

 

 

 

 

「いや、あそこまでの事故は今までない...予知夢とかかな?」

 

 

 

 

「うーん、よく分からないかな...

正直、人の夢ってまだ分からないことがいっぱいあるんだ。

記憶や感情の処理のためとか、レム睡眠時に見るというのは分かってるけど...

そもそも寝る時に何で夢を見るのか、どういう意味や経緯でその夢を見るのかまだ分かってないんだ」

 

 

 

 

 

あかねの言葉を聞きながらの味噌汁を静かに啜るハジメ。二口ほど飲んでから彼女の言葉を聞いて疑問に思ったことを単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

「でも、よく夢の心理テストとかあるよな?あれはどうなんだ」

 

 

 

 

「正直、エンタメ性が強い占いみたいなものだよ。

これという根拠はないかな...ただ、一つだけ言えることがあるよ」

 

 

 

 

言えること...それを確認しようと食べる手を止めるとあかねは真っすぐとした目でこう伝えてきた。

 

 

 

 

 

「もし、それが予知夢だとして...

キミにそんなことが起きたら私は耐えられない」

 

 

 

 

 

そう伝えると共に想像したのか目に涙を貯め始めたあかね...

そんな彼女を安心させようとハジメは小さく笑みを浮かべて箸を置いては空いた手で頭をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

「大丈夫、まだ予知夢って決まったわけじゃないし...

それにさっきあかねが言った通り、夢って分からないことがいっぱいあるんだよね?その分からない何かかもしれないし」

 

 

 

 

 

そう言って彼女をなんとかある程度落ち着かせると話を切り替えようと朝食に再び手をつけるハジメ。卵焼きを食べてウンウンと小さく頷くようにしてから話の話題を切り替えた。

 

 

 

 

 

「にしても、あかねはホントに料理上手いよな...

どれも美味しいし、栄養バランスも考えられてる。同棲する前は簡単な料理で済ませてたから、ホントに有難いよ」

 

 

 

 

 

「そ、そう...かな?

今日もお弁当つくったから食べてね」

 

 

 

 

「ありがと、楽しみにしてる」

 

 

 

 

 

再び穏やかな食事の時間が始まる...

こんな時間がいつまでも続けばいいのになと互いに思いながらもふとハジメが「テレビつけていい?」とあかねに問いかけ、「うん、いいよ」と答えたところでリモコンを手にしてピッとテレビの電源をつける。女性アナウンサーが今朝のニュースを淡々とした口調で読み上げるものの、B小町の活動休止に関する話題はすっかりなくなっていた。

 

 

 

 

 

「アレだけワーワー言われてたのに、すっかりなくなったよな...B小町の話題」

 

 

 

 

 

「そうだね...ハジメくん、気になるの?」

 

 

 

 

 

「まあ...そりゃあ、社長の活動休止宣言を目の前で見た訳だし...ルビーちゃんとかスゴいショックだったろうなって」

 

 

 

 

「確かに...でも、あの娘色々隠し事してたんだよね?

真奈美さんは結局何を隠してるのか教えてくれなかったけど」

 

 

 

 

そう会話を繰り広げていると他のことも気になり始めた...

ルビー以外のメンバーのMEMちょや有馬かなについてだ。

 

 

 

 

「MEMちょとかなはどうなんだろう...活動休止してから」

 

 

 

 

「MEMさんに関して言えば大丈夫だと思うよ、個人で動く分には問題がないから自分のチャンネルで動いてるみたい。でも、かなちゃんに関しては...」

 

 

 

 

あかねの間の空け方から色々と察しがついてしまうハジメ。活動休止の余波がメンバー各々の差を大きくしているのだと。その中でも有馬かなはB小町に入る前はブレイクがとっくに過ぎた元天才子役、正直パッとしないような役回りをさせられる女優人生を送っていた...こうなるのは必然的だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「なあ、あかね」

 

 

 

 

「なに?」

 

 

 

 

 

「何とかしてやれないかな?俺らの力で」

 

 

 

 

 

ハジメの言葉に箸を動かす手を止めて「そうだね...」と考え込むあかね。しかし、申し訳なさそうに目を下に向けて逸らすようにしてから考え込んだ結論を出した。

 

 

 

 

 

「正直、私の方ではどうしようもできないかな...

今出てるドラマでも空きが出て緊急で人がいるような役は無さそうだし。...ハジメくんの方は?」

 

 

 

 

 

「...俺も一緒。

モータースポーツ関係然り、最近出てるバラエティ番組の方も特にこれって話ないしな...」

 

 

 

 

 

「そっか...それにしても何でかなちゃんをそこまでして...?」

 

 

 

 

「過去に助けられてるからさ。

あの場で助けてくれなきゃ、アイツよりも先に俺が腐って折れてた可能性があるし...何よりもあかねとこんな同棲生活なんて出来なかったと思う。だから、なんか恩返しがしたいって思って」

 

 

 

 

ハジメの言葉にクスッと小さく笑ってから安堵したような笑みを見せてくるあかね。ハジメが「なんか変な事言った...?」と確認するように問いかけると彼女は首を横に振ってから顔を近づけるようにしてこう答えた。

 

 

 

 

「恩とか大事にするところ、キミらしいなって」

 

 

 

 

 

「嫌い?」

 

 

 

 

 

「ううん、その逆。

正直、最初に聞いた時はなんでかなちゃんがって嫉妬しちゃったけど、そういうの大事にするところも好きだよ」

 

 

 

 

そのままうっとりと頬杖をつくようにして見つめてくるあかね...彼女を見て何が欲しいか察すると、ハジメは軽く立つようにしてから身体を前に伸ばすようにしてそっと唇を重ね合わせた。

 

 

 

 

「....味噌汁味のキスか」

 

 

 

 

「もお...からかってる?」

 

 

 

 

「いやいや、からかってない。ただ、悪くないなって」

 

 

 

 

そのまま二人での食事を終えて出勤の支度を進めるハジメ。

本日のスケジュールである出版社やスポンサーとの打ち合わせに備え、スーツに腕を通して玄関で革靴を履いているとあかねが軽く急ぎ足で駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

「鞄、忘れてるよ」

 

 

 

 

「お、悪い。ありがと」

 

 

 

 

しっかりと革靴を履き終えて鞄を手に取ると振り向いて"いってきます"の口付けをする二人。

 

名残惜しいながら離れて「行ってくる」と伝えるハジメに対し、「気をつけてね」と返すとそのまま出勤。いつもの電車に乗り込み、いつもの駅で降りては吉住の車に乗り込む。

 

「おはよう」と伝えながらもシートベルトを締めている間に「おはようございます!」という返事と共にいつものスケジュール読み上げが始まった。

 

 

 

 

「本日は昼前にマッハスピードと企画打ち合わせた後、丸山精工との打ち合わせがあります。夕方にFMラジオのゲスト収録一件、夜に深掘れの収録が2件あります」

 

 

 

 

「そうか。3戦目のセパンも近づいてるし、練習出来る時間が欲しいが...」

 

 

 

 

「わかりました、調整できる日程は調整していきます」

 

 

 

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 

 

そのままマッハスピードとの打ち合わせがあるビルへと向かっていく車。その車内でハジメはセパンのコースを少しでも身体に覚えさせようとA4サイズのコースレイアウト図面を手にしては頭の中でイメージトレーニングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―昼 イチゴプロ

 

 

 

86を近隣の駐車場に停め、この場所に来た真奈美...

両手に差し入れがてら買ってきたコンビニスイーツが入ったビニール袋を引っ提げてピンポーンとインターホンを鳴らして少しすればマイク越しに聞き覚えのある「―はい?」と尋ねるような声が聞こえてきた...ミヤコだ。

 

 

 

 

 

「斎藤でーす、斎藤真奈美。ちょっと暇だったんで来ちゃいましたー」

 

 

 

 

そう言って程なくしてからガチャッと中から開ける音が聞こえてきてはミヤコが顔を出してくる。目が合うと共にホッとしたような表情を見せた彼女は辺りを軽く見回してからドアを大きく開けるようにして中へと招き入れた。

 

 

 

 

「群馬からわざわざ申し訳ないわ...さあ、入って」

 

 

 

 

「お邪魔しまーすッ」

 

 

 

 

ぴょんッと跳ねるようにして中に入ったのを確認し、やや急いだ様子で鍵をガチャと掛けるミヤコ...そんな彼女に疑問を抱くと靴を脱ぎながらも首を小さく傾げては単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

 

「なにかありました?いつになく警戒してる感じですが...」

 

 

 

 

「え、えぇ...最近ニュースとかでは活動休止の報道がなくなったけれど、まだ特ダネ目当てで探ってる週刊誌の連中とかがこの辺りでよく嗅ぎ回ってるのよ...

アリもしない噂程度の"男が出来たから逃げた"なんていうデマを真実に仕立てようとするような連中。きっと、締め切りギリギリで一発逆転の大博打気分で狙ってる奴らよ」

 

 

 

 

「なんか大変そうですねー....」

 

 

 

 

同情するようにそう言うと「ホント、大変よ...」とため息混じりに呟くミヤコ。そんな彼女を元気付けようと両手に持っていたコンビニスイーツが入ったビニール袋をザッと持ち上げた。

 

 

 

 

「そんなミヤコさんに〜...差し入れッ!

ほかのスタッフさんたちの分もあるので今からどうですか?」

 

 

 

 

「わざわざ気を遣ってくれてホントに申し訳ないわ。

そうね...ちょうど休憩するにはいい時間だし、お言葉に甘えていただこうかしら」

 

 

 

 

そう言って奥まで移動し、スタッフ達の居るフロアまで移動。ミヤコの「みんな、差し入れが来たわ。休憩にしましょ」という一声で全員が気を緩めたようにすればそれぞれ礼を言いながらもコンビニスイーツを受け取っていく。

 

そして、そのままの流れで近くにあった簡易商談スペースのソファーに向き合うようにして座るミヤコと真奈美...

コンビニスイーツをテーブルの上に置き、コーヒーの当てにしつつも雑談を始めた。

 

 

 

 

 

「どうですかー?最近」

 

 

 

 

「そうね...以前と比べてかなり時間に余裕が出来たわ。前はこんな休憩する間もないほど忙しかったから」

 

 

 

 

そう言ってコーヒーを口にするミヤコを見つつも考えを巡らせていく真奈美...少ししてから「ねえ、ミヤコさん」と呼んでは単刀直入にこう問いかける。

 

 

 

 

「前か今、どっちがいいですか?」

 

 

 

 

その問いかけにピタッと動きを止めるミヤコ...考えるように天井に軽く目を向けて「そうね...」と返しつつも軽く腕を組むと聞こえるか怪しいぐらいに小さく息を吐いてから答えた。

 

 

 

 

 

「どっちがいいとは...言えないわ。ただ、言えることが2つだけある。どちらも方向性の矛盾があるけれども」

 

 

 

 

 

「その2つは...?」

 

 

 

 

 

「一つは現状の事務所の機能キャパ的に今の状態が妥当だというの。そして、もう一つは...」

 

 

 

 

 

少し躊躇うように間を空け、コーヒーの表面を見つめるミヤコ。そこから意を決するように手を伸ばして一口だけ飲むとゆっくりとカップを口から離しつつも続けて答えた。

 

 

 

 

「...私自身、まだ夢を諦めきれてないということ」

 

 

 

 

 

「その...夢っていうのは?」

 

 

 

 

「B小町をドームの舞台に立たせ、トップアイドルに導く夢。...見たいのよ、そこからの景色が」

 

 

 

 

そのまま静かにカップをテーブルに置いていくミヤコ。若干懐かしそうな表情を浮かべながらもそのまま語り続けていく。

 

 

 

 

 

「...壱護が私に語った夢、私をイチゴプロに勧誘した時に言った口説き文句よ。あの当時は旧B小町のアイがそのトップに立つ寸前だった...けれど、彼女の死によって皆のその夢は絶たれて壱護は失踪。事務所で一人残された私は再建を余儀なくされ、それどころの話じゃなくなってた。

けれども、今は...ルビーがいる。彼女なら伝説のアイドル、アイを超える可能性すらある。無理だと思ってた夢が再び現実的なものになってきた」

 

 

 

 

 

「でも...現状の事務所のキャパ的にはB小町のこともとなると一杯一杯なんですよね?」

 

 

 

 

 

「そう...それにルビーのメンタルももう限界だった。

現にあの娘はあの日以来、引き篭もりっきり...高校の卒業式にすら出なかったのだから」

 

 

 

 

ミヤコの話を聞いてからコーヒーを飲む真奈美。

チャキッとテーブルに置いた時、再び「ねえ、ミヤコさん」と呼ぶとこんなことを頼んだ。

 

 

 

 

「よかったら...ルビーちゃんとお話したいんですが。今日もダメかもしれませんが」

 

 

 

 

「いいわよ...行っても。まだ部屋に籠もってるわ」

 

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

それからコーヒーとコンビニスイーツを食べ終える二人。

その場から立ち上がって移動...程なくして彼女の部屋へにたどり着く前にある階段まで来ると真奈美は「あっ」と小さく呟いて立ち止まってから申し訳なさそうにミヤコにこう告げた。

 

 

 

 

「今日は二人きりにしてもらってもいいですか?ちょっとナイーブな話題も取り上げるので...」

 

 

 

 

 

「ナイーブ...?まあ、いいわ。私もそろそろ戻らないと皆から顰蹙買うかもしれないし。あとはお任せするわ」

 

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

ミヤコが去ったのを確認して階段を上る真奈美...

ルビーの部屋の前まで歩き、扉の前でコンコンとノックするも応答なし。思わずその場で「はぁ...」と小さくため息をつきながらも扉の向こう側に居るであろうルビーに向けて話し掛けた。

 

 

 

 

 

「居るんでしょ?今日ぐらい顔見せたらどう?」

 

 

 

 

どうせ返事も何も無いと思い込みながらもドアに身体を向けるようにしてその場に胡座をかいて座り込む真奈美。しかし、油断したように頬杖をついていると歩み寄って来るような音が聞こえてきてから恐る恐るといった様子でこう問いかけてきた。

 

 

 

 

 

「―....ミヤコさんは?」

 

 

 

 

 

「今日は居ない、私が無理言って仕事に戻ってもらった」

 

 

 

 

「―そう...アナタしかいないなら思い切って色々言えるね。よくあんなことして私の前に顔出せるよね?アナタが居なければ私は今頃...!!」

 

 

 

 

 

「刺されて死んでた。そうじゃなくてもどこかで潰れてた...精神的にも肉体的にも」

 

 

 

 

 

真奈美の淡々とした一言で言葉を詰まらせるルビー。彼女がどう返せばいいか迷いが出ている間、真奈美はドア越しに諭すように続けてこう語った。

 

 

 

 

 

「アナタは自分で自分の首を絞めた。自分の限界を欺き、他人をハメ続けて上手くやっていたつもりだったけど...そのツケが回ってきただけ」

 

 

 

 

「―ツケ....?アナタが追い込んだんでしょ!?私を!!」

 

 

 

 

「それは言い掛かりだよ、言い掛かり。

アンタ、銃向けてきたヤツに抵抗せずにそのまま撃たれろっていうの?私が銃を向けてきたアンタに抵抗したら結果としてお灸を添えるような形になっただけ。それとも、私にそのまま撃たれて人生終わってくれとでも言ってるの?イヤだよ、そんなの真っ平ゴメン。私にだって叶えたい夢はまだあるからそんな道半ばで倒れたくない」

 

 

 

 

 

いきなりドア1枚挟んでの喧嘩腰での対話。

初っ端からこれでは先が思いやられるとハァ...と小さくため息をついている間にルビーは反撃しようと噛みつくような口調でこう反論してきた。

 

 

 

 

「―アナタの夢なんてどうでもいいよ...!

あの件の影響で私だけじゃなく、先輩まで...!!」

 

 

 

 

"夢なんてどうでもいい"

その一言は心に槍のように深く突き刺さると共に逆鱗に触れた。

 

 

 

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

 

 

今までの諭すような口調から一変、完全に怒りに任せて吐き捨てた言葉。ドア越しどころか、廊下中に大きく響き渡るような激昂具合、いきなりの変貌に流石のルビーも狼狽えて黙り込んでいるとそのまま怒り混じりに語り続けた。

 

 

 

 

「自分が悲劇のヒロインだから何言ってもしても良いなんて思ったら大間違いだよ!いい加減、アンタのそのワガママに周りが振り回されてるってこと自覚しろ!!高校卒業したんだろ?大人に一歩近づいたんならそれぐらい理解しろ!!自分のしたことに責任を持て!!

いつまで3歳児みたいに駄々捏ねて責任擦り付けるつもりなんだ!?」

 

 

 

 

真奈美の言葉に先ほどよりも長い時間黙り込むルビー...

 

 

しまった、言い過ぎた。

 

 

別に喧嘩するために来たわけではないのに...と自己嫌悪から頭を軽く押さえて思わずため息をつきそうな表情を浮かべる真奈美。それからしばらくの沈黙が続くとドア越しに啜り泣くような音が響いてきた...演技かどうかは分からないが泣いているみたいだ。

 

今日も失敗、とりあえず帰ろうとゆっくり立ち上がるとルビーがドア越しにこんなことを訴えてきた。

 

 

 

 

 

「―アナタに...私の何が分かるっていうの」

 

 

 

 

...出た、前にも聞いたことがある言葉。

前に言われた時は"分かりたくもない"って答えたっけなと記憶を辿りつつも淡々とした口調でこう答えた。

 

 

 

 

「全部は流石に分からない...

ただ7、8割は理解したつもりだよ」

 

 

 

 

7、8割と言われて驚いたように一瞬言葉を詰まらせるルビー。

どうせ言葉の綾で本質に迫ってないと思って反論しようとする彼女だが、真奈美はそこから畳み掛けるようにしてこう伝えた。

 

 

 

 

 

「この情報はアナタの身の回りでもほんの一握りの人間しか把握してないような情報。下手したらマネージャーですら把握していないかも」

 

 

 

 

「―その...情報って?」

 

 

 

 

恐る恐ると言った様子で問いかけてくるルビー...

真奈美は周囲に誰もいないことを確認するように念のため辺りを見回してからその情報について答えた。

 

 

 

 

「アナタが...伝説のアイドル、アイの隠し子だということ。

結構複雑な情報の散らばり方で集めるのに苦労したよ」

 

 

 

 

まさかの情報に黙り込んでしまうルビー。

死んだ母が隠し通そうとした嘘をこの女は見抜いた...もう終わったと言わないばかりにハハハ...と正気を失いそうな笑い方をしてはこう問いかけた。

 

 

 

 

「―その情報...どうするの?

私を苦しめるために週刊誌にでも売る気?」

 

 

 

 

「まさか...アナタじゃあるまいし。

寧ろ、その逆...助けてあげたいって思った。今までつらかったでしょ、相談できるような相手もそんな多くないだろうし」

 

 

 

 

その言葉に只々黙り込んでいるルビー。

真奈美はドア越しではあるがどんな黙り込み方をしているかは何となく察しがついていた。

そして、色々と迷い始めているということも...

迷っているうちではまだまだだと気を取り直すように帰路に身体を向けると彼女は最後にこう一言だけ言い残した。

 

 

 

 

「無理にそのドアを開けてくれなんて言わない。

ただ、アナタの方からドアを開けてくれる日を待ってる...その日が来るまで私は出来るだけここに来るつもりだよ」

 

 

 

 

「―ドアが開いたら...もう来ないの?」

 

 

 

 

「さあね。ただ、アナタの方から相談なんか頼まれれば...いくらでも付き合ってあげる。こう見えて三姉妹の長女だから面倒見はいい方だって思ってる」

 

 

 

 

そう言ってから「じゃあ、行くね」と言ってその場を後にする真奈美...ルビーはドア越しに内鍵に指を伸ばしながらもどうしようか悩むようにその場で留まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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