IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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―求められるのは、変革。



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第五幕  Catalyst act.2

 

 

 

―数日後、夜

 

 

 

深掘れ!の収録を終え、すっかり夜も深まったと感じつつも吉住の送迎車に乗り込むハジメ。

 

 

三角型の腕時計で時間を確認...終電には間に合いそうにもない感じだ。吉住がそれに気付くと運転しながらも気を遣うようにこう提案してきた。

 

 

 

 

 

「今日も自宅前まで送りしましょうか?」

 

 

 

 

「ん...?あぁ、悪いな。最近こんなのばかりで」

 

 

 

 

「いえいえ、無理もありませんよ...あの時間からの2件の収録ですし。それに、箱根までの終電って割と早くになくなりますし」

 

 

 

 

「そうは言ってもお前の帰りが遅くなるだろ?」

 

 

 

 

「まだ大丈夫ですよ、今の時間って道空いてますから。ここからなら飛ばして1時間ちょっとあれば着きますし。そこから家までって考えてもADしてた頃に比べれば全然可愛いぐらいの時間には就寝できます」

 

 

 

 

そう聞くと共に「なんか悪いな...」と申し訳なさそうに告げると運転しながらも「いえいえ」と首を横に振って見せる吉。

 

...彼を雇ってから大体4ヶ月。

 

たった4ヶ月で随分と成長したものだ。

 

ちょっとばかり給料上げるのも考えようかと内心思いながらもシートのリクライニングを少し倒すと更にこう頼んだ。

 

 

 

 

「悪い、ちょっと寝る...着いたら起こして」

 

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 

そのまま目を閉じて仮眠に入るハジメ...

1時間ほどして感覚からか、薄らと目を開けると自分の借家の近辺の道を走っているのに気付く。欠伸してからグイッと身体を伸ばすと運転していた吉住も起きたことに気づいた。

 

 

 

 

「寝れましたか?」

 

 

 

 

「まあまあな。悪いな、ホントに」

 

 

 

 

「いいですよ、最近お疲れみたいですし...」

 

 

 

 

そうこう話している間に借家に到着。

車から降りて「ありがと、お疲れ」と礼を言って程なくして車が走り去る音が聞こえてくる...

 

それと共に吹いてくるひんやりと冷たい夜風。

 

腕時計で時刻を確認...既に日を跨いでいる。特に驚くような様子も見せずに家に入ろうと歩を進めると視界に入ってきたのは借家のガレージ。

自分の白いNSXの隣に停める白いRX-8。

彼女が傍に居なくても、この光景を見る度に同棲を始めたんだと実感させられる。

 

 

音を立てないように気をつけつつ、シャワー室でシャワーを浴びる。身体を洗い終えてパジャマに着替えるも、ここで終わりではない。

 

タオルを首に掛けながらも寝室とは別の部屋へと移動...トレーニングルームだ。

 

そう、今からトレーニングだ。

コンディションを維持しながらも技術向上に徹する、これはアスリートには必要不可欠と言っても過言ではない。先ほど、車内で仮眠を取ったのは出来るだけ万全な状態でトレーニングを行うためだ。

 

 

 

 

 

「さて、やるか...」

 

 

 

 

タオルを適当なところに掛けてからシミュレーターのシートに座り込み、起動させては次回行われるスーパーGTの3戦目、セパン・インターナショナル・サーキットにコース選択。

 

 

マレーシアの首都にある国際サーキット、一時期F1GPのコースにも選ばれていたコースだ。

 

全8戦あるスーパーGTのコースの中でも唯一の国外サーキット...今日はその中でも苦手なセクター2の攻略をしようと乗り出した。

 

ステアとペダルに意識を集中させてドライビング開始...

ダメだと思ったらまた最初から、これをひたすら繰り返す。

 

 

上手く行った部分は別日により精度の高いベリッシモ内にあるシミュレーターで試し、それでダメならまた別の新しいやり方を模索していく。

 

文字通り一つのコーナーに対して0.01秒でも速くだ。

 

 

一つのコーナーに対して0.01秒速いということは10抜ければ0.1秒...更に100抜ければ立派な1秒になる。

 

1周あたりのコーナー数が15。周回数が50周ほどのセパンでは充分大きな武器になるのだ。

 

 

 

走る、結果を見る、セッティングを変える、リトライ。

 

 

走る、結果を見る、セッティングを変える、リトライ....

 

 

 

天候だけでなく、気温なども変更して様々な条件下で繰り返し、繰り返しにトライアンドエラーを行なっていると本来想定していた練習時間の倍過ぎていることに気付く。

 

まずい、そろそろ寝ないと...

 

まだまだ詰めたいところが山程あるが仕方ないとシミュレーターの電源を落とすハジメ。水を一杯だけ飲み、静かな足取りで寝室に移動...

なるべく音を立てないようにドアを開けて中に入るとあかねの静かに寝息をスゥ...スゥ...と立ててベッドで寝ている姿が...

思わずホッとしたように小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「...ただいま」

 

 

 

 

小声で小さくそう言いつつも静かにベッドに入る...

彼女が反応するように身体をこちらに向けてきたが、起きる気配はない。

そのまま「おやすみ」と一言言ってから向き合うような形で静かに眠りにつくハジメ。

 

それから程なくして、あかねはゆっくりと目を開けると穏やかな笑みを浮かべながらもこう告げた。

 

 

 

 

「...おやすみなさい、夜ふかしさん」

 

 

 

 

 

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               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日 昼前 とあるビル

 

 

 

マネージャーを交えてのCMの打ち合わせを終えたあかね...だが、そこで共演者が一人いることを明かされた。

 

その共演者は有馬かなだ...

 

B小町は活動休止しているものの、個人としての活動で彼女も同じCMに出るようだ。複雑の心境のまま廊下を歩いていると向かい側から一人ふらりと歩いてくる姿が見えてきた...有馬かなだ。

 

 

役者という仕事上、昔から意識してきた...

昔の天才子役だった時代の彼女に憧れて演技というものを始めたが、そこから仕事上ではライバル関係に発展していった。

 

前の東京ブレイドの時だってそうだった...互いにどちらが一番輝いているかのぶつかり合いだった。

 

 

そんな関係である上に今はあかねのマネージャー以外は二人しかいない状態、しかも先ほど同じCMで共演すると言われたばかり。

 

故にライバル意識からかお互いがお互い睨み合ってるような状態だ。

 

 

そのまま無言で横を通り過ぎようとした時、あかねの脳裏にある言葉が浮かび上がる。ハジメから言われた一言だ。

 

 

 

 

 

"過去に助けられてるからさ。

あの場で助けてくれなきゃ、アイツよりも先に俺が腐って折れてた可能性があるし...何よりもあかねとこんな同棲生活なんて出来なかったと思う。だから、なんか恩返しがしたいって思って"

 

 

 

 

彼の言う通りなら、今の幸せがあるのは彼女のおかげかもしれない...

そう考えると自分も彼が言った恩返しに携わった方がいい。

 

その考えと共にその場で足を止めるあかね。

マネージャーも首を傾げながら一緒に足を止める中、彼女は「ねえ」とかなに背中を向けながらも呼び止めた。

 

かなも呼び止めに反応するようにその場で足を止めるとあかねはこう提案してくる。

 

 

 

 

「かなちゃん、このあと空いてる?」

 

 

 

 

「....なによ、急に。売れっ子になったって話を落ち目の私に長々と聞かせる気?」

 

 

 

 

「違う、そういうのじゃないよ。ただ、久々だし...その、近況とか聞きたいなって。

いいですよね、マネージャーさん?」

 

 

 

 

 

 

あかねの問いに対して時間を確認しては「ああ、いいよ」と許可を出すマネージャー。

しばらくして場所を近隣のビル内にあるカフェに移動...

マネージャーに席を外してもらい、4階の窓際の席に向き合うような形で座ると互いに頼んでいたアイスコーヒーが来たのをタイミングでかなの方から半ば不機嫌そうに問いかけてきた。

 

 

 

 

「で...私の何が聞きたいの?」

 

 

 

 

「その、B小町も活動休止になったし...最近何してるのかなって...」

 

 

 

 

「はぁ?アンタに答える必要ある?」

 

 

 

 

やや反発染みた返答に少しピキッと眉間にシワを寄せそうになるあかねだが、かなの方は気づいても特に気にする様子も見せない。「まあ、いいわ」と腕を軽く組んで椅子の背もたれに凭れ掛かってはため息をつきそうな表情でこう答えた。

 

 

 

 

「...何もしてない、いや...しているけど実らない。

アンタと違って大学進学したわけじゃないし、それに今はB小町としてのアイドル活動もできない...そうなると私に残された事と言えば役者の仕事しかない。でも、オーディション受けても毎々落とされる日々...。まあ、大半は形だけのオーディションだと割り切ってるからショックも何もないわ。それで、そんな私にとって今日のCMの仕事が活動休止してから初の仕事。大学に通いながらも売れっ子女優として月9ヒロインに抜擢されるアンタと比べれば...今の私は惨めに見えるわね、ホントに」

 

 

 

 

 

自嘲染みた笑みを浮かべて一旦腕組みを崩すとアイスコーヒーにストローを差して一口だけ飲むかな。小さく安堵するように「ふぅ」と息をつくと再び腕を組みつつも今度は彼女の方からあかねに質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「それで、なんで私にそんなこと聞くのよ?

自分の方が売れてるっていう優越感に浸るため?」

 

 

 

 

 

あまりにも捻くれた思考に更に眉間にシワを寄せるあかね。しかし、深くゆっくりと息を吸って気持ちを落ち着かせるとつつみ隠さずにその理由を話した。

 

 

 

 

 

「その...ハジメくんが、気にしてたから」

 

 

 

 

「はぁ?なんでアイツが...」

 

 

 

 

「過去に助けられたからその恩返しがしたいって言ってたから...」

 

 

 

 

 

あかねの言葉にフッと鼻で小さく笑うかな。衝動的に彼のことを馬鹿にしたと思い込み、一言言ってやろうとするあかねだったが、かなの方は天井を仰ぐように見ながらもゆっくりとした口調でそうした理由について語り始めた。

 

 

 

 

「確かに、私はアイツの相談に乗って結果としてアイツを助けた。けど...その結果として私もアイツに助けられた」

 

 

 

 

言っていることの意味が分からず、コーヒーを飲んでから首を傾げそうな様子を見せるあかねに対してかなは小さく笑みを浮かべながらこう答えた。

 

 

 

 

「...あの時期、実はアイドル辞めようかかなり迷ってたのよ。B小町も軌道に乗り始めたは良いものの、ファンの大半はルビーかMEMちょのどちらか。お下がりであの場所に居るような感覚で...その環境に慣れてきてる、甘え始めてるような自分に嫌気が差した。

アイツに色々言った時も自分に言い聞かせてる部分もあったわ。

でも、その相談の後...2年前の8月に私はあのレースを見せられた。

期待通りの成績が残せていない冴えないルーキーと言われていたアイツが、当時レジェンド扱いされていたベテランドライバーを下したあの一戦。

レースのことは正直よく分からないけれど、あの姿は心打つものがあったわ。抜かれようが、雨が降ろうが、何があろうが何度も立ち上がって挑み続け...最終的にジャイアントキリングを果たしてトップに立った。お世辞抜きでカッコよかったわよ、アイツ」

 

 

 

 

 

「それを見たからまだアイドルを...?」

 

 

 

 

 

「そういうこと。私も立ち上がって挑み続けていれば...いつかあの二人を超えられる存在になれるって、本気で思っちゃったのよ。...まあ、結果としてはそれも果たせずにアイドルの道を諦めそうだけど」

 

 

 

 

苦笑いしながらも最後に付け足された一言に反応するように「え...?」と言葉を漏らしながらも彼女の顔を見るあかね。視線に気付いたかなは肩の力が抜けたように自然な笑みを浮かべながらもこう答えた。

 

 

 

 

「ここだけの話だけれども、私...アイドル辞めるわ。まだ社長には何も言ってないけれど」

 

 

 

 

「...そっか、役者一本でやっていくんだね」

 

 

 

 

「そう、活動休止してからの仕事の無さから改めてルビーのお下がりだったんだって自覚させられちゃったのよ。結局、私はアイドル界でアイツのようなジャイアントキリングは果たせなかった...悔いはないわ。やれることはやったし、アイドルやらなきゃ学べなかったであろうことも学べたから無駄じゃなかったと思ってる」

 

 

 

 

 

自嘲染みた笑みを浮かべてからアイスコーヒーを口にするかな。そんな彼女に対し複雑な心境になるあかね。

 

役者に専念してくれるのは嬉しい。けど...

 

目線を下目に下ろすと溜まっていた感情から思わずこう口走った。

 

 

 

 

 

 

「...途中で諦めるだなんてかなちゃんらしくないな」

 

 

 

 

 

"諦める"...その単語を聞いてピタッと動きが止まるかな。

すると、ハハハ...!と急に笑い出した。何がおかしいと見るあかねの視線に対し、彼女は大きく息を吸って整えてからこう答えた。

 

 

 

 

「アイドルを辞める分、本業(女優業)にはしっかり力を入れるわ!今度はやり遂げて見せるわ、ジャイアントキリングを!」

 

 

 

 

いきなりの豹変振りに思わず驚いた表情を見せるあかね。そんな彼女に対し、かなは勝ち気な笑みを浮かべると共に宣戦布告するようにこう告げてきた。

 

 

 

 

「黒川あかね、今はアンタの方が優位でしょうけど...いつかはその背中もぶち抜いてやるわ!せいぜい、私に寝首狩られないように気をつけることね!!」

 

 

 

 

かなの強い言葉に思わず小さく不敵な笑みを溢してしまうあかね...東京ブレイドの舞台の時よりもその強気な姿勢は増している。

 

これがB小町で学んだ事から得た効果なのだろうか?

 

何はともあれ、やっぱり"女優・有馬かな"はこうでなければ...!

 

 

 

 

 

「望むところだよ、かなちゃん。いや..."有馬かな"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻

 

ベリッシモ トレーニングルーム

 

 

 

いつも通りランニングマシンで走り、フィジカルトレーニングを行うハジメ...だが、いつもと違うことが一つだけあった。それは横に取材班が密着するように付いていること...彼らは雑誌の取材で付いているわけではない、CM撮影の素材を集めるために来ているのだ。

 

 

 

 

「(や、やりづれえ...)」

 

 

 

 

しっかりと密着するように撮影されている。ここだけピンポイントで撮ってるわけではない、シミュレーターで練習している時や瞬発力トレーニングの時もだ。ずっとずっとこんな感じだ...

 

 

 

「はい、オッケーです!」

 

 

 

 

そう言われてランニングマシンのスイッチを停めるハジメ。タオルで汗を拭いてからスポーツドリンクを飲んで一服している間にコツコツ...と誰かが歩み寄ってくるような足音が聞こえてきた。そちらを見ると...ベリッシモCEOの井手だ。後ろには秘書も引き連れている。

 

 

 

 

 

「い、井手さん...?」

 

 

 

 

 

まさかの人物の登場に驚きながらも固まってしまうハジメに対し、井手はニンマリとした不敵な笑みを浮かべながらもこう指摘してきた。

 

 

 

 

 

「目に見て分かるほど驚いたような顔をされてますねー?

GT300クラスとは言え、チャンピオンたるものもっと堂々とされた方がよろしいかと思われますよ?」

 

 

 

 

「どうして、ここに....?」

 

 

 

 

「どうしても何も...アナタが出演される予定のCMは当社の新商品であり、看板商品になると考えられている睡眠サポート飲料です。どのように進んでいるかは気になるのは当然のことです」

 

 

 

 

そう答えながらもすぐ横まで歩み寄ってくる井手。すると、少し間を空けてから探るような口調でこうハジメに問いかけてきた。

 

 

 

 

「RS GIGAのGT500への移籍オファー、蹴ったそうですね?」

 

 

 

 

 

「...どうしてそれを?」

 

 

 

 

「業界の噂話というのは広まるのが結構早いものでしてね...なに、別に怒ってもいませんよ。ただ蹴った理由が聞きたいものでしてね」

 

 

 

 

井手の言葉に若干難しそうな表情を浮かべるハジメ。しかし、隠し通したところで意味もそんなに無いと思えばため息をつきそうな表情を一瞬浮かべながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

 

「あそこの態勢ですよ...ここ数年、勝つ為の気迫みたいなのが薄いんですよ。あそこ。マシンも他のGT500車両と比べるとメーカーとタッグ組んで創り上げてると言っても見劣りする感じですし、ドライバーも腕よりかは他の要素を重視してチョイスしてる感じがします。ルックスだったりとか、トーク力だったりとか...」

 

 

 

 

「おや、そういう面ではウチも一緒と言えるのでは?」

 

 

 

 

「いや、別にいいんです。喋るのも割と好きなんで、ああいうバラエティ番組とかに出るのも...ただ、自分はあくまでドライバーです。

勝てる環境を整えて提供してくれるチームでなきゃ、行きたくはありません。例え、それがGT300よりも上のGT500であったとしても」

 

 

 

 

それを聞いてンフッと思わず笑みを深くさせる井手。しかし、そんな井手に対してずっと疑問に思っていたことをここで聞こうとハジメはスポーツドリンクの蓋を閉めながらも徐々に聞き出そうと試みた。

 

 

 

 

「井手さん、ずっと前から疑問に思ってた事があるんですが...いいですか?」

 

 

 

 

「どうぞ」

 

 

 

 

「...どうして、俺ばかり気にかけるんですか?

3年前の今ガチのときからずっと気にかけられてましたよね?GT300のデビューから、バラエティ番組の起用まで何から何まで後押ししてくれた。

今回だって、アスリート起用ならメジャーリーガーとか、サッカー選手とかに任せた方が...!」

 

 

 

 

 

ハジメの言葉にどう答えるべきか悩んでいるのか、間を空けてしまう井手。しかし、その表情は先程とは一切変わらない。相変わらずの風格を漂わながらもゆっくりと口を動かすようにこう答えた。

 

 

 

 

「....いずれ、分かりますよ」

 

 

 

 

「いずれって...?」

 

 

 

 

「そうですねぇ...早ければあと1、2年と言ったところでしょうか。長く見積もっても大体4年、そこで答えが出ます」

 

 

 

 

 

言っていることの意味がよく分からない様子で立ち尽くすハジメ。彼が「答え...?」と小さく復唱している間に井手は腕時計で時間を確認してから優雅な笑みを浮かべながらもこう告げた。

 

 

 

 

「そろそろ本社に戻る時間です、撮影頑張って下さい。

応援していますよ、五十嵐ハジメ」

 

 

 

 

クフフ...!と大きく含み笑いをしながらも秘書を引き連れてトレーニングルームを後にする井手...そのまま外に出て秘書と共にセンチュリーの後部座席に座ると、軽く腕を組みながらも秘書に話し掛けた。

 

 

 

 

 

「そろそろ次の段階に行く時ですかね...明日、インド支部とのオンライン会議まで時間がありますよね?」

 

 

 

 

「はい、あります」

 

 

 

 

それを聞くと共にスマホを手にしてある番号にピッと連絡を取る井手...プルルというコール音が5回ほど繰り返され、相手が出た所で通話を始めた。

 

 

 

 

「私です...お久しぶりです。御多忙のところ申し訳ありませんが、明日のお昼頃にそちらに御用があって伺おうと思うのですが...14時30分から1時間、ですか。それだけあれば充分です。ええ、では...また明日」

 

 

 

 

ある人物との通話を終えてピッと操作してからスマホをスーツ内にしまう井手。そのまま着ていたスーツを軽く整えると秘書に対してこう命令した。

 

 

 

 

 

「明日の14時30分から1時間ほど、面会の予定を入れて下さい。

場所はTKマッハコーポレーション本社、面会相手は...高橋啓介」

 

 

 

 

 

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