IF 〜もしもあの時〜   作:マグウェル

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―求められるのは、変革。



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第五幕  Catalyst act.4

 

 

―渋川市内 とあるラーメン屋

 

 

 

行きつけのこの店に入った真奈美...

昔ながらの町中華といった雰囲気ながらも、電子マネーもちゃんと使えるお店だ。時間が時間なこともあって客足はピーク時よりかは減っているがそれでも疎らに席が空いてるような感じの混み具合。

若干頑固そうな50代ぐらいの店主がサッサッと麺の湯切りをする中でL字型カウンターの奥の席に座ると男性店員がお冷を置いてから注文票とボールペンを手にして構えてきた。

 

 

 

 

 

「注文は?いつもの?」

 

 

 

 

 

「ん...?あー、今日はちょっと違うかな。

チャーシューメンセットのチャーシュー増し、セットは半チャーハンと餃子で。食後の杏仁豆腐も頼もっかな」

 

 

 

 

「めずらしい...随分と色々頼むね」

 

 

 

 

「まあね、色々あったから...チートデイってやつかな?」

 

 

 

 

真奈美の言葉に「なるほどねぇ...」と返しつつもボールペンでオーダーを書いていく店員。

「ちょっと時間掛かるけど待ってて」と伝えて厨房の方に威勢のいい声でオーダーを伝えたのを見たところで真奈美はホッと一息つきつつもお冷を手にし、一口だけ口にした。

 

そんな中でガラガラと横開きのドアが開いてくる音が聞こえる...客が来たようだ。音に釣られるようにチラッと目を向けるとどこかで見たような顔立ちと金髪の男が...サングラスを掛けていて目元までは分からないが、5月半ばを過ぎたた時期にしては白が基調のやや厚手の格好で若干怪しく見える。

 

手元を見ると黒い革手袋...バイクのライダーだろうか?

 

しかし、入る直前にバイク特有の高回転によるエンジンサウンドは全くと言っていいほど聞こえなかった。

 

 

内心怪しいと益々思いながらもあまりマジマジ見ていると勘付かれると察すれば直ぐに目線を逸らしてスマホを手にして触ると男の方はL字型カウンターの一番手前に座ってくる。角度的に...更にもっと言うと他の客の配置や厨房から出てる湯気の関係もあり、こちらからは見えづらい位置だ。

 

 

自分のことを狙ってる?

 

いや、考えすぎだろうか...?

 

 

 

色々と考えを巡らせている一方、男の方は立ち登る湯気越しに一瞬だけ真奈美を見て小さく笑みを浮かべてからメニューに目を通す。歩み寄ってきた男性店員に「注文は?」と聞かれて「小ラーメンと半チャーハンで」と注文。そこから伝票に書き込んで去ろうとする店員を「ねえ」と1回呼び止めてから小声で話し掛けた。

 

 

 

 

 

「向こう側の角に座ってる彼女の話が聞きたいんだけど」

 

 

 

 

「...お客さん、ナンパかなにか?」

 

 

 

 

「いや、違う違う。こう見えて僕は彼女が通ってるドリームエンジェルスの教官の一人だよ。

今日は変装して来ていてね...こんな時間に高カロリーなもの食べるのはちょっと見過ごせないなってね。モータースポーツのドライバーもアスリートと言っても過言じゃないぐらい食事の摂取も気にしないといけないから」

 

 

 

 

小さく笑みを浮かべながら語りつつ職員証明を見せる男。

もちろん、全部嘘だ...職員証明も偽造品。巧みなまでに息を吐くようにしてついた嘘は逆に自然な流れを生み出し、偽りの信憑性を生み出していた。

そのため、店員も「そういうことね...」としっかり信じ込んだ様子だ。

しかし、男の方の話はこれで終わりではない。

ここから本題と言うようにこんな質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「彼女が他に通ってる飲食店とか知らないかな?

証拠を集めてスクールの時に叱ってやらないといけないから知りたいんだ」

 

 

 

 

「うーん...」と悩んだような様子の男性店員。辺りを見回して他の客が食事に夢中になっているのを確認すると耳打ちするようにこう教えた。

 

 

 

 

 

「...直接彼女の口から聞いたワケじゃないけど、バイト先近くのファミレスで出入りするのはよく見かけるよ。あと駅近の牛丼チェーン店。スクールで叱る時に俺から情報聞いたなんて言わないでくれよ?」

 

 

 

 

「ありがとう、助かるよ。あ、それと彼女には僕がここに居ることは内緒にしてほしいな。居るって知ったら証拠隠滅に走るかもしれないから」

 

 

 

 

 

優雅に微笑みながら礼を言いながらも軽く促す男に対し、小さく頷きながらもその場から離れて厨房に向けてオーダーを読み上げる男性店員。そんな中で真奈美が湯気の向こうで動き始める姿が見える...店の奥に行こうとしているようだ。

 

恐らく、トイレだろう。

 

 

離席した...何かするにはここしかない最大のチャンスと言える。

 

 

そう考えた男は男性店員に「ああ、ごめんなさい」と再び話し掛けた。

 

 

 

 

 

「お腹痛くなって...トイレってある?」

 

 

 

 

「ん、あぁ...店の奥だよ」

 

 

 

 

その言葉を聞いて再び微笑みながら「ありがとう」と告げる男。伝え終わった時に湯気越しに真奈美を見ると彼女の姿は既にない。それを確認すればスッと立ち上がってトイレへと静かに歩きつつもポケットの中に持っていたある物を手にした。

 

小さい醤油差しのようなプラスチック製の瓶。中には何やら透明の液体が入っている。もちろん、水ではない...睡眠薬を溶かした液体だ。

これをお冷にこっそりと混ぜようと考えていたのだ。

そのまま通常通り服用しても即効性のある薬、更に言えばカプセルなどもない状態で食事前に飲んだとすれば帰宅中に効き始める。

 

車に乗っている彼女はそこで事故を起こして大怪我...

 

あわよくば死んでくれればいい。

 

 

もし死んでもそこまで調べられることはないだろう...

ただの事故として処理される筈だ。

 

 

 

そう思いつつも歩きながら彼女の席の後ろを通りかかる男...店員どころか客すら自分には意識は向けていない。そう思いつつも素早くスムーズにお冷に睡眠薬を注入。そのまま男子トイレの方へと入る前に女子トイレから出てきた彼女とすれ違いざまに一瞬目が合った。

 

...が、特に何も起きない。

 

 

そのままトイレに籠もって適当に時間を潰す男...その一方で、真奈美は自分の席に着席。

 

しかし、ここである行動に出た...

 

 

カウンターテーブルの各席の前に置かれた卓上調味料や爪楊枝の列...その裏からスマホを手に取ったのだ。

 

 

実は彼女、男を泳がせる為にこの列の裏にスマホを隠し、インカメラで怪しい動きがないかコッソリ撮影していたのだ。

 

 

そのまま撮影を停止させ、撮られた動画を再生。

自分のお冷に何かを仕込まれた瞬間が記録されていたが、ある重要なことから若干頭を抱えるようにしてしまう...男の顔が映っておらず、手元だけ映されていたのだ。無意識に向こうもそういう動きを想定した動きをしていたのだ。

 

警察に通報する証拠としては断定出来ないため薄いものとなる...

 

 

 

 

「(お冷に何か仕込まれたけど、これだとちょっと突き出すには厳しいな...誰だか知らないけど、もう少し泳がせたほうがいいかも)」

 

 

 

 

内心そう思いながらも床に手を伸ばして軽くお冷に小細工。少しして通り掛かろうとしていた男性店員を「ちょっといいー?」と捕まえると、睡眠薬が入ったお冷を見せながらもこうお願いした。

 

 

 

 

 

「誰かの髪の毛入っちゃったから、お冷変えてもらってもいい?」

 

 

 

 

 

「誰かの髪の毛って?」

 

 

 

 

「ほら、この黒い短い髪。多分男の人ので他のお客さんのだと思う」

 

 

 

 

「あー、わかった。わかった。いいよ、変えてあげる」

 

 

 

 

...この髪の毛は床に落ちてたヤツを拾って即座に入れたもの。何か仕組まれたお冷を口にせず、自然な形で変えてもらうにはこうしかないと速攻で思いついたものだ。そのまま何の違和感も感じずに新しいお冷を持ってきた男性店員に「ありがとー」と告げると店員は古いお冷を手に厨房へ回り、排水に流した。

 

それからほどなくして男が戻ってくる...

 

 

何も気にする素振りも見せずにカウンター逆側の角に座ったのを確認すると、新しいお冷を一口...お冷が変わったと知らない男は湯気越しに見ながらも一瞬不気味な笑みを零した。

 

 

 

 

 

「(これで邪魔者はいなくなる...!やったよ、アイ...!!

 

これでまた君を越えようとする輝きを消すことに専念出来る...!!)」

 

 

 

 

 

そのまましばらくすれば、注文されたチャーシュー麺やチャーハン、餃子に杏仁豆腐とフルコースを堪能していく真奈美。ケンゴから貰ったポイントでお会計を済ませ、「ごちそーさまー!」と言いながらも笑顔で出ていくも店から出た後に辺りを軽くキョロキョロと見回す...

 

店の中にも外にもあの男はいない。

 

 

どうやら食事の間に何処かへ行ったようだ。

 

 

 

 

 

「(外で待ってないってことは、あのお冷に混ぜた薬に相当自信があったんだろうね...何を混ぜたかは分からないし、どこの誰かさんかも知らないけどかなり手慣れた感じの動きだった。常習犯かな?)」

 

 

 

 

 

夜風が静かに吹く状況下で色々と思考を巡らせていくと脳裏にあることがふわりと浮かび上がる...先に店を出たということは車に何かしらの小細工をした可能性もある。

自分の86に歩み寄ってから店の外にある防犯カメラの位置を確認...フロント側の一部分だけ角度的に収められない可能性もある。

 

しゃがんだ状態であれば車内のドラレコでも収められない...

 

何かするならこの位置だろう。

 

 

そう考えて助手席側のドアを開けてグローブボックスから無線機のような形のある物を取り出して電源をつけた。

 

RF信号探知機...

隠しカメラや盗聴器、GPSトラッカーなどの盗聴・盗撮機器が発する電波を検知するデバイスだ。昔、ストーカー紛いの被害に遭った際に通販サイトで購入したもの。しばらく使ってなかったが、まだ使えそうだ。

これを防犯カメラが見えない位置を重点に近づけて反応を伺う...すると、フロントバンパーから左フェンダーの境目ぐらいで探知機がピッピッピッ!と何処よりも強い反応を示してきた。

 

そこを重点に手探りして手を伸ばすと...ある物を発見。

 

小型のGPS発信機...予感的中、ビンゴ。

家の位置でも特定する気だったのだろうか、いや...それどころの話じゃないかもしれない。物としてはストーカー被害の証拠品としては充分すぎるが、厚手の革手袋をしていたことや防犯カメラの角度からして明確にあの男がやったと証拠付けて警察に突き出すには薄すぎる。

 

 

 

 

 

「(動きが悪質だけど、尻尾っていう尻尾が掴みきれない...かなり手慣れたこの感じ。厄介なのに目付けられちゃったな。さて、これどうしようかな...?あまり動きがないと向こうに外したってすぐにバレちゃうだろうし、なんとか時間稼ぎしてその間に尻尾掴んでやらないと)」

 

 

 

 

そう思いながらも運転席に乗り込む真奈美。

思わずハァ...と深くため息をついてしまうとエンジンを掛ける前に軽く頭を抱えるようにした。

 

 

 

 

 

「(ケンちゃんから貰ったポイントの残り分でコンビニスイーツでも買い漁ろうと思ったけど、またアイツに見つかるリスクの事を考えるとナシかな...あー、ホントに面倒なことになった)」

 

 

 

 

そう思いながらもようやくエンジンスタートボタンをプッシュ。ブォゥンッ!というボクサーサウンドを響かせながらもエンジンが掛かるとステアリングにスッと手を伸ばすと共にふと自分の中で良案が浮かび上がってきた。

 

この案ならしばらく自分の車も隠せれる...それに、成績不振の現状も打開できる可能性もある。

 

お金は掛かるが、自分の夢を掴み取る為だ...背に腹は代えられない。

 

 

中途半端な生き方は辞めよう、やるなら大胆に...だ。

 

 

 

 

「(よし、じゃあ...行こっか。そうと決まれば)」

 

 

 

 

そのままゆっくりと夜道を走り始めた白い86...しかし、真っすぐ帰路にはつかずにある場所に寄り道するようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日  昼

 

 

 

前日の男は白いレクサスISを運転しながらも、スマホホルダーに差したスマホに映し出される画面で前日に仕掛けたGPSの位置を確認して追っていた。

 

動いている様子からしてまだ生きているようだ。

事故も起こしていない。

 

 

 

しかし、収穫がないわけではない...住んでいる拠点は把握出来たのだ。これで別の策を講じることも可能だ。

 

 

 

 

「(睡眠薬で事故を起こす作戦は失敗した...けど、失敗した時の予備の手も打っておいて正解だったよ)」

 

 

 

 

そう思いながらも運転を続けると発信機の動きが近づいているのを確認。次の信号を左に曲がれば見えるハズだ。そう思いながらも左車線に入って曲がる...が、目の前には想像していない光景が広がっていた。彼女が乗っている86がいないのだ。

 

 

 

 

「(いない...?まさか....)」

 

 

 

 

そう思いながらもGPSの位置を見つつも車列を確認...すると、GPSはある車と連動するように動いているのに気づいた。市営バスだ...どうやら、このバスに発信機を貼り付けられたようだ。

 

予想を上回る動きに一瞬無表情になる男...しかし、そこから思わず込み上げるようにハハッ...!と大声で笑った。

 

 

 

 

「(僕が今まで相手してきた誰よりも出来るみたいだね、斎藤真奈美...!)」

 

 

 

 

そう思いながらもバスと並走している状態から離れて加速させていく男...しかし、真奈美が仕掛けていたのはコレだけでない。

実は彼女、バスの車内に居たのだ。

変装で金髪のロングヘアに黒マスクをつけた別人を装っていた彼女は車窓から怪しげに横付けしてから離れるレクサスISを見てはスッとスマホを構えてはカメラを起動し、パシャッ!パシャッ!と写真を撮っていく。

運転している男の姿、車の全体像、ナンバー...顔に関しては相変わらずサングラスで目元は隠していたがこの場で撮影出来るものは全て撮影した。

 

 

 

 

「(思ったより上手く行った...これでちょっとは時間稼ぎ出来るはず。今日はスクールが休みで良かった...)」

 

 

 

 

そう思いながらも撮影した写真をチェックする真奈美...ドライバーの容姿を確認すれば改めてある人物にそっくりだと感じ取った。

 

 

 

 

「(サングラスで目元は見えないけど、やっぱり星野アクアそっくり...年齢は30代くらいかな?40までは行ってない)」

 

 

 

 

そう考えながらも次のバス停で降りると更に手を回そうとスマホを操作して誰かと連絡を取り始める真奈美...

 

その相手は...奥山だ。

 

 

 

 

 

「―はい、もしもし?」

 

 

 

 

「奥山さん、お久しぶりでーす」

 

 

 

 

「―おお、真奈美ちゃんか。久しぶりだなぁ、本当に」

 

 

 

 

「ええ、ちょっと2件ほど相談したいことがあるんですがいいですかー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1週間後 

 

 

オートショップ スパイラル

 

 

 

オイル交換に訪れたあかね...車を駐車場の前に愛車のRX-8を停めて降りてはピットの方へと歩いて移動。

すると、エンジンのOHをしようと下ろしたエンジンと向き合い、カチカチッとラチェットを操作していた奥山を発見。「こんにちは!」とやや大きめの声で挨拶してみるとコチラに気づいて「ああ、こんにちは」と笑みを浮かべながら返してきた。

 

 

 

 

「久しぶりだな、あかねちゃん。今日はオイル交換だったよな?」

 

 

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

「オーケー、車のキーは預かるぞ。あとは俺がやっておくから商談室で待っててくれ」

 

 

 

 

 

そう言う奥山に車のキーを渡した時、ふと奥に停めてある車を見てふと疑問を抱くと単刀直入に問いかけた。

 

 

 

 

「あの奥の白い86って...」

 

 

 

 

「ああ、真奈美ちゃんのだ。怪しい奴に追われてるって話でナンバー変更したんだ」

 

 

 

 

「怪しい奴にって...大丈夫なんですか?」

 

 

 

 

「まあ...とりあえず大丈夫みたいだ。

今はウチの代車に乗ってるから特定するのも無理だろう。

まあ...俺の方もあの車にあそこから一仕事どころか二仕事ぐらい手を入れないといけないから、もうしばらく代車生活だろうな」

 

 

 

 

 

一仕事?二仕事?

そう疑問を抱いて小さく首を傾げていると奥山が察してきたのか背中を見せつつも「何やるか見せようか?」と問いかけてくる。コクリと頷いてから「じゃあ、来てくれ」と歩き始める彼に続くように歩くと店の裏へ。

 

大きな段ボールに包まれた2つの荷物が置かれてる...

梱包に使われてたガムテープをザッと剥がして中身を見せるように開ける奥山...中に入っていたものにあかねは思わず驚いた表情を見せた。

 

 

 

 

 

「こ、これは...」

 

 

 

 

「6POTタイプの大口径ブレーキキットと...スーパーチャージャーキットだ。いよいよ、あの子の86に過給器がつく...かなり速くなるぞ」

 

 

 

 

自分のことのように嬉しそうに話しつつも立ち上がるとタバコを咥える奥山。吸っていいか?と聞くようにあかねの方に軽く目を向け、彼女がどうぞとジェスチャーで伝えたのを見てライターで火をつけてタバコを吹かすとフゥー...と小さくゆっくり煙を吐いてからこう呟いた。

 

 

 

 

「現状の状態でコイツが載っかれば、200馬力台後半は硬い。セッティング次第では300届くか届かないかまでは行きそうだな」

 

 

 

 

「300馬力、ですか?」

 

 

 

 

「そうだ。しかも、86の車重でその馬力ってなると相当速い...パワーウェイトレシオ(1馬力辺りに掛かる車重)ではポルシェのケイマンクラスともいい勝負になる」

 

 

 

 

段ボールの中に収まったパーツを眺めるように見ながらタバコを吹かし続ける奥山。そんな彼に対し、あかねは疑問に思ったことを恐る恐る問いかけた。

 

 

 

 

「でも、どうしてターボじゃなくてスーパーチャージャー...なのですか?」

 

 

 

 

「考えられる理由は2つあるな...

一つは構造の違いから来るそれぞれの特性の違い。エンジンから出た排圧をタービンに送り込んでから再びエンジンに送り込みパワーを得るターボは、その仕組みの過程でどうしてもラグが発生する。所謂、ターボラグってやつだ。

それに対し、スーパーチャージャーはエンジンのクランクシャフトの駆動を活かし、ベルトを介して圧縮空気を生み出してエンジンに送り込む仕組み...構造上ターボほどのハイパワーは得られないが、ラグが少ない故に大排気量のNAエンジンのようなダイレクトな操作感がある。そっちの方が操作感的に馴染んでるのかもな。最近流行りのターボラグが少ない小径タービンでのターボ化も勧めたが、お気に召さなかったらしい」

 

 

 

 

「それで、もう一つは?」

 

 

 

 

あかねの問いに対して間を空けるようにする奥山。口に咥えていたタバコを指で挟んで離しては穏やかな笑みを浮かべながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

「あかねちゃんなら...分かるんじゃないか?」

 

 

 

 

 

「分かるって...?」

 

 

 

 

 

「近くどころかいつも傍にいるだろ、NAエンジン大好きな馬鹿な奴が」

 

 

 

 

 

近くにいるという言葉ですぐに分かり、やや恥ずかしそうに頬を赤く染めるあかね。そんな彼女の察しに対して詳しく答え合わせをするように奥山は語り続ける。

 

 

 

 

「真奈美ちゃんはあかねちゃんと会うよりも前からアイツからドライビングを教わってる。よく弟子は師匠の背中を見て育つというが、彼女もその型にはまったドライバーになったらしい。本音を言えば過給器すら積みたくなかったのかもな、あの娘。妥協してのスーパーチャージャー...まあ、贅沢な妥協だけどな」

 

 

 

 

「でも、お金大丈夫ですかね...?」

 

 

 

 

「頭金は持ってきてくれたが、それでも足りないから残りはローンだ。あの娘なりの覚悟を見たよ...今通ってるスクールに対しての覚悟が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻 ルビーの部屋前

 

 

 

代車の軽自動車に乗って訪れた真奈美。

いつも通り、ミヤコに案内されて部屋前まで移動...相変わらず引き篭もってるらしい。

 

 

 

 

 

「ミヤコさん、ごめんなさい...今日も外して貰ってもいいですか」

 

 

 

 

「ええ、構わないわ。私も仕事があるから」

 

 

 

 

そう言ってその場を後にするミヤコ...

彼女が階段から降りて居なくなったのを確認してからドア越しに居るであろうルビーに声を掛けた。

 

 

 

 

「居るんでしょ?」

 

 

 

 

「―...今日は何?」

 

 

 

 

「アナタに聞きたいことがあってきた。

アナタ達双子に...アイ以外の親族はいるの?年齢的に30代ぐらいの」

 

 

 

 

 

質問に一瞬驚いたように言葉を詰まらせるルビー。

少し間を開けるようにしてからドア越しに「―それがどうかしたの?」と問いかけると真奈美はドアに背を軽く凭れさせるようにしてこう答えた。

 

 

 

 

「最近、アナタのクソ兄貴にそっくりな男に目付けられちゃってね...ヤバそうな薬を盛ろうとしたり、車に発信機つけて尾行しようとしてきたりするぐらいのガチなヤバいやつ。

 

アナタが仕向けたの?二人の弱み握ってる私を潰す為に」

 

 

 

 

「―...違う、今の私に出来るわけないよ。スマホはミヤコさんに管理されてるし、活動休止になってから家から出てないから...前みたいにネカフェにも行けない」

 

 

 

 

「そう...じゃあ、アイツは誰なの?」

 

 

 

 

ドア越しに問いかけても答えは返ってこない。そうだろうと予想していた為、特に追求するような様子も見せない。真奈美はドアに背を凭れさせたまま腕を軽く組むと淡々とした口調でこう語り始めた。

 

 

 

 

 

「ここから先は私が予想したシナリオ...一応聞いてみる?」

 

 

 

 

 

「―聞くだけ聞いてみる...」

 

 

 

 

 

「そう。じゃあ、静かに聞いてね...

アナタの兄貴とアナタを調べてる上で唯一分からない存在がいた。それが父親の存在、アナタの母親であるアイまでは私レベルでも調べられることができた...けど、この父親だけは尻尾すら掴めなかった。私が思うにこの父親なんじゃないかって」

 

 

 

 

真奈美の推測に再び「―っ...!?」と声にもならない声を漏らすルビー。それに対し、真奈美はそのまま気にすることもなく自分の推測を語り続けた。

 

 

 

 

 

「最初はアナタを思って私を消そうと動いていたのかと思った...けど、そうすると兄貴の弱みを掴んだ時点で動いてもおかしくない。アナタの方が大切に思ってるからじゃないかっていうのも推測として立ててみたけど、それなら尚更予防策として早く動くはず...それに十何年も正体明かさずに過ごしてたっていうのに急に助けに来るのはおかしな話だよね。それで私は違うの推測を立ててみた...何だと思う?」

 

 

 

 

 

ドア越しの音から少しソワソワとした雰囲気を出すルビー。真奈美は組んでいた腕を組み直すとそのまま淡々とした口調でこう答えた。

 

 

 

 

「彼は活動休止前にアナタを殺そうとした奴の一味で、邪魔者の私を消そうとしたって仮説」

 

 

 

 

「―い、一味って?」

 

 

 

 

「あの旧B小町の女とグルってことだよ、私が言いたいのは。まあ、正確に言えばグルっていうよりかは一方的な指示役的な立ち位置だった可能性のほうが高いだろうけど...彼女はアナタの襲撃に失敗した後に自分の命を絶った。その背景にもあの男が絡んでると私は睨んでる...それに今回のは氷山の一角だと思ってる。今の今まで同じような手口であらゆる人間を葬り、他人を平気な顔でスケープゴートに利用する奴...まさにゴーストだね。下手すれば...あの男はアイの死にもかかわってるかも」

 

 

 

 

その言葉を聞くや否や、ガチャッとドアノブが動く音が響いてきた。それに気づいて若干驚いた様子でドアから離れると...ルビーが開かずの扉を開けて姿を見せてきた。

 

 

若干乱れた髪にスウェット姿の彼女は何かを決意するように真っすぐとした目で真奈美を見ながらもこう話す。

 

 

 

 

「....話しましょ、その男について」

 

 

 

 

 

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