―収録日 体育館
今度はペアマッチでバトミントンのダブルスをすることになった今ガチ8人集。1戦目はケンゴ&ゆきペアとハジメ&かなペアの対戦することに...くじ引きでペアが決められたものの、あまりの出来具合に決まった瞬間からハジメとかなは「はぁぁぁッ!??」と大声を上げながらも互いにラケットを差していた。
「なんでまたこんな野蛮人と組むのよッ!ゼッッッタイいやなんだけど!!」
「それこっちセリフだ、妖怪ピーマン体操ッ!」
「だーれーがー妖怪よ!私、現役のアイドルなんですけど!!」
「ああ、そうだったなぁッ!名前なんだったっけ?あぁ、ビーマイベイビーだっけか!!?」
「びーこまちーッ!アンタ、しっかり名前言う気ないでしょッッ!!」
白熱した漫才のような痴話喧嘩が向かい側のコートで繰り広げられる中、"またやってるわ"と言わないばかりに思わず苦笑いの笑みを浮かべるケンゴとゆき。このままだと試合が始められないとスタッフが「じゃあ、試合始めますよー!」と告げて先行のハジメ&かなペアにシャトルを渡す...
前衛がハジメで後衛がかなの位置のため、かなからのサーブ。気を改めて「行くわよー!」と声を出すと手始めにと緩めのサーブを放つ。ゆきが「エイッ」と拾って返ってきたシャトル...それをハジメが拾おう横に移動するとかなが猛スピードで突っ込んできた。
「バッキャロォォォッッ!!」
そのままガンッ!と正面衝突。ハジメが怯み、かなは尻餅をつく状態...互い「イタタ...」と呟いているその間にシャトルは床に落ちてケンゴ&ゆきペアに1ポイントが加算される。向かい側のコートで「やった!」とエモい感じに盛り上がっている間にハジメ&かなペアの痴話喧嘩のようなバトルが再び始まった。
「なんで突っ込んできたッ!?イノシシかよお前ッッ!!」
「うっさいわね!今の明らかに私のボールでしょッ!!」
「どーこーがーだーよッ!センターライン割ってなかったし、こっちのほうが移動距離少なく拾えただろうが!!」
再び始まった痴話喧嘩に苦笑いの笑みを浮かべる他の出演者やスタッフ....試合を進めようと次のサーブ権としてゆきにシャトルを渡して試合再開。
彼女が「エイッ」と放ったシャトルは山なりの優しい弾道だ...かなりチャンスボール。
放った本人ですら「あ、ゴメーン!」と言うようなその軌道を見てチャンスと言わないばかりにニッと笑みを浮かべたかな。ラケットを上向きに構えつつも跳びながらも思わずこう叫んだ。
「もらったぁぁぁぁッ!!」
スパァァァァンッ!!と弾丸のように勢いよく返されたシャトル。
推進力を得るように高速でクルクル!と勢いよく回りながらもかっ飛んでいったその行く先は...
ハジメの後頭部だった。
バチィィンッ!と綺麗に鳴り響く音。
無警戒な背後から強烈な狙撃スマッシュを受けた彼はそのまま前に仰け反るようにしてバタリと転倒...コロコロとシュールにシャトルが転がる中、「イッテー....!」と頭を押さえながらも立ち上がると再びゴングが鳴り響いた。
「どこ目掛けて打ち込んでんじゃああぁぁぁッ!このメスゴリラァァッッ!!」
「だれがメスゴリラじゃあァァッ!アンタがそんなところに立ってるから悪いのよッッ!!」
「理不尽すぎんだろ!その言い方!!これが硬式テニスのボールとかだったら気失ってたぞッ!!」
「大袈裟よ、大袈裟!それっぽちで気を失うなんてアンタが軟弱だからよ!あ、あー!レーサーって速いだけで身体タフじゃないんだ!ゴメンナサイねー、核心突くようなこと言っちゃって!!」
「誰が軟弱だー!?俺のチームのメンツ全員でお前のアイドルプロダクション乗り込んでやろうか!?なんっつー名前だった!?あー、"イナゴプロ"か!!」
「誰がイナゴじゃああぁぁっ!、"イチゴプロ"よ!!またわざと間違えたでしょッ!アンタァッ!!喧嘩売ってるの!?」
「売ってるつもりないが、売ってほしいなら売ってやるよ!やってやんぞ!やってやんぞ!!」
腕まくりをして向き合うようにファイティングポーズを取る二人。息の合った勢いのある痴話喧嘩に思わず周囲からクスクスと笑い声が漏れるが、そのやり取りを離れたところで真剣に見つめる者が一人いた。あかねだ...やり取りを見てからカメラが二人に向いていると感じ取りつつも考え込むように黙り込んだ。
「(五十嵐さんとかなちゃん、スゴい息が合った自然なやり取り...私にはああいうのは無理かな)」
その思いと共に、前に社長室から聞こえてきたフレーズが脳裏を駆け巡る....
"もっと目立たせろ"というあのフレーズだ。
・
―収録の合間 廊下
外をボーっと眺めながらも前から手摺に凭れ、紙パックの牛乳にストローを差してチューッと飲むハジメ。そんな彼の方へと近づく足音が...誰だろうか?ゆっくりと振り向くとそこには一人の男の姿が。アクアだ。
「...んだよ。誰かと思えば二枚目の坊やか」
そう呟きながら姿勢を正すとそのまま横に並んできたアクア。そのまま互いに外を眺めるようにすると彼の方から一言質問が飛んできた。
「アンタ、目立たないって言ってなかったか?」
「まあな。テキトーにやってたらこうなっちまったって話。まあ...コレはコレで面白いからいいけど」
そう答えていると「そうか」と一言だけ答えて黙り込むアクア。彼の姿を横目に見て何か言いたげだと思い、少し考えるとある答えが浮かび上がり、ニヤリと小さく笑みを浮かべてから「ははーん」と呟いてそれを言い当ててみた。
「お前、有馬かなのこと気になってんだろ?」
唐突な発言に一瞬だけどこか表情を変えたアクア。再びいつものクールな表情に戻るもハジメの方は面白がってそのまま話し続けた。
「別に好きになるのは勝手だが、気をつけた方がいいぞー?ああいうタイプって金遣い荒そうだし、結構手間かかるぞ?それにさっきのバトミントンみたか?あんなん、ガワだけいいメスゴリラだぞ」
ため息混じりにそう呟いてから再び牛乳をチューとストローで飲んでいくハジメ。ジュルルッと音が変わったところで無くなったと察してパックを潰し、近くにあったゴミ箱にポイッと投げ捨てるとアクアの方がゆっくりとした口調で語り始めた。
「...有馬はアンタと話してる時が一番楽しそうに見える」
「はぁ?楽しいって...お前、眼科行った方がいいんじゃないか?」
呆れたような表情でアクアを見ながらもそう答えるハジメ。しかし、アクアの方は至って真剣な表情だ。ふざけているような雰囲気はない。
「俺、有馬とは幼い頃からの仲なんだ。だから分かる」
「幼い頃って...子役時代からってこと?」
「...そう。ある映画で共演したのが最初だった」
「へー、そんでここで再会した...って、ん?待てよ」
ふとあると疑問が浮かび上がってきたハジメ。数秒ほど間を空けるようにしてから彼の方に目を向けながらも問いかけた。
「お前、どこのプロダクション所属だっけ?」
単刀直入の問いかけに思わず目を逸らして黙り込むアクア。この姿を見て察すると「ほーん...」とニヤニヤするとウェーイと言わないばかりに肘をグイグイ押し付けた。
「応援してっぞー!がんばんなー!!」
「そういうのじゃ...」
そうこうしてたが、窓の向こう側から見えた景色が気になって肘の押し付けを止めたハジメ。急にピタッと動きを止めて肘を下ろす彼にアクアが「...どうした?」と問いかけるとあそこと言わないばかりに渡り廊下に指を差してきた。目で辿るように見るとそこにはノブユキ相手にアプローチする黒川あかねの姿が。
「...アイツ、なんか無理してるように見えない?」
ハジメの問いかけに無言で二人を見てからコクリと頷くアクア。そのまま目線をハジメの方に移すとあることを問いかけた。
「アンタの方こそ、気になってるだろ。黒川あかねのこと」
「まーさか。ただ、妹みたいに見える時があってさ。なんつーか放っておけないっていうか...」
「妹?いるのか?」
「いねーよ。ただ、もし居たらあんな感じなんだろうなってさ」
そう答えながらも離れた場所からただただ彼女のアピールをじっと眺めるハジメ。思えば、自分と一緒に走行会に行ったあの日以降の収録からこういうアプローチが増えていってる気がする。SNSでの評判を見てもゆきから男を横取りしているようなムービングに世間からはあまり良く見られていない。
寧ろ
"こんな女いたっけ?"
"影薄いんだよなー、コイツ"
"無理に爪痕残そうと必死すぎんだろww"
などと、悪いように見られている感じがする...
「(アドバイスの一つや二つしてやりたいところだが、俺もこういうのに疎くてな...どーすりゃいいのやら)」
彼女の動きからして明らかに本心で当たりに行っていないと察するハジメ。
どこかしら焦りすら見える...
所属してる事務所からの圧?
となれば、この要因を作ってるのは劇団ララライの上層部だろうか...?
色々と考えてみるも、現状では単なる予想に過ぎない。しかも、答えが出たところで的確なアドバイスを出せるかどうか怪しいところだ。
「(もどかしいな...見ることしか出来ないなんて)」
・
―数日後 夜
何ヶ月か前にショップから依頼されたデモカーのGR86で再度タイムアタックを依頼されたハジメ。今度は仕様を変更して鈴鹿サーキットでのタイムアタックだ。
自室でソファーに座りながらも鈴鹿サーキットのレイアウトを頭の中に叩き込んでいく。時折、ブラックコーヒー片手にエアプレイで足を動かしてペダルワークをするような素振りを見せつつも脳内でイメージトレーニング。そうしていると、テーブルの上に放置されていた彼のスマホがピロンッと何かをキャッチした。
「(...誰からだ?)」
依頼人からのメッセージだろうか?
そう思いながらもスマホを手にとって確認...相手は黒川あかねだった。
"夜分遅くにごめんなさい、電話してもいいですか?"
恐る恐るといった様子の文面での問いかけにどういう相談なのか何となく察しながらもコチラから電話を掛けるハジメ。2コール目の途中で直ぐに出てくれた。
「もしもし、黒川?」
「―五十嵐さんですか?夜分遅くにすいません...」
「いや、気にすんなよ。それよりなんか用か?」
リラックスするようにソファーの背凭れに身を委ねるように問いかけるハジメ...すると、あかねの方は予想していた内容を恐る恐る相談しようと投げ掛けてきた。
「―あの...今ガチの撮影のことで相談が」
やっぱりなと言わないばかりにややため息をつきそうな表情を浮かべるハジメ。小さく息を吸うようにして整えてから「黒川」と呼んでから軽く指摘してから自分なりの言葉でアドバイスしてみた。
「お前、無理に目立とうとしてないか?」
「―っ...は、はい...そう、ですが」
「やめたほうがいい。SNSの評判とか見たか?あまりよく思われてない。世論が全てってワケじゃないが...個人的に今のやり方を推すことはできない。もっと自然体でいきなよ、そうすりゃ...」
「―ダメなんです....!それじゃあ...!!」
彼女にしては強い口調の否定に目を少し見開くようにして驚くハジメ。ここでかなり追い詰められていると察しつつもどうアドバイスしようか数秒ほど間を空けていると彼女は自分の苦悩を一気に解き放つように早口で語り始めた。
「―今の私じゃ誰も見てくれない...!もっと目立たないと...!劇団は私にそれを望んでるし、私が頑張らないとマネージャーが...!それに私に期待を寄せてる他の人たちにも迷惑が掛かる!!だから、誰にも負けないぐらいもっともっと目立たないと...!!私はその為に番組に出演してるんだから...!!結果を残さないとダメ!!」
受話器越しにも涙ぐんでいると分かるような声に予想以上に追い詰められていると察したハジメ。彼女はララライの上層部の圧で想像以上に苦しい立場に追いやられていると分かる...自分のような"ただ出ればいい"という立場の人間からは到底理解できないようなプレッシャーの掛かり方かもしれない。
コレだというような掛ける言葉が見つからない...
少し迷いながらも手伝いに気晴らしぐらいは出来ないかと考えるハジメ。「なあ」と話しかけつつもあることに誘ってみた。
「今、空いてるか?気晴らしにドライブでも...」
ふと思いついた提案...こういうちょっとした提案から大きな気晴らしに繋がることも結構ある。しかし、彼女は少し間を空けるようにしてから「―ごめんなさい」と断ってきた。そんなことも出来ないほど追い詰められていたのだろう。そして、こんなことを恐る恐る言ってきた。
「―今日、ディレクターさんに言われたんです。ゆきから男を奪う悪女ムーブをすればもっと目立つって」
ディレクター...ちょくちょく彼女がメモを手にアドバイスを聞きに行っていたあの男だろう。それにしても悪女ムーブの提案...今の彼女の追い詰められ方からしてなんだか嫌な予感しかしない。
「悪女?おいおい、お前の性格からしてそんなことゼッタイにしないだろ!やめたほうがいい!」
「―...いえ、やります。ごめんなさい...もう決めました。私にはコレしか道はありません」
「ちょっと待っ...!!」
なんとか止めようと声を荒らげて静止させようとするも一方的に通話を切られてしまった。一連の会話で鈴鹿の向けてのイメージなんて一切脳内から消えると共にあかねへの心配が大きくなっていく...自分の力の無さに思わず「クソッ...!」と言葉を漏らしながらもスマホをテーブルに乱雑に置くと両手で頭をクシャクシャと掻くようにした。
「(頼むから変な真似するなよ...!)」
・
―同時刻 ベリッシモ本社
今ガチのメインスポンサー、番組の大きな柱にもなっているこの会社の最上階にあるCEO室。
白と金色で統一された賓のある綺羅びやかなこの部屋の席に座りながらもモニターと向き合うようにして番組を鑑賞していたのはCEOの井手辰美だ。格好としてはワイシャツのスラックスというクールビズだが、鍛えられたであろうガシッとした身体は服越しに見てもハッキリと分かるほど鍛えられている。
王座と言っても過言ではないような大きな椅子に腰を掛けながらも足を組み、濃いアイラインが際立つ鋭い目線をモニターに向け続けながらも鑑賞...そんな中で執事のような格好をした30代後半ぐらいの眼鏡を掛けたスラッとした体型の男が井出に歩み寄ってくる...彼の秘書だ。
「そろそろ引き上げた方がよろしいかと。これ以上の鑑賞は明日のタイでの会合に影響するかと思われます」
頭を下げながら言われた申し出に「ふむ」と答えながら腕時計で時間を確認...あっという間に井出が想定していた時間を過ぎていた。
「おやおや、溜まっていた分を鑑賞していたらもうこんな時間ですか...。まあ、最新話の途中まで追えたのでこの辺りで引き上げましょう」
そう言いながらも番組を停止させてモニターの電源を落とす井出。「車は既にエントランス前に停めております」と告げながらも彼のバックなどの荷物を代わりに持とうとする秘書に「ところで...」と話を持ち掛けるようにしてふとこんなことを問いかけてきた。
「貴方は今シーズンの今ガチはご覧になってますか?」
「もちろん、最新話まで鑑賞済みです」
「そうですか、貴方の感想を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
スッと椅子から立ち上がりながらも井出の問いかけに眼鏡を軽く整えるような素振りを見せる秘書。背筋を真っすぐと伸ばした姿勢のままトーンを変えない冷静な口調で答えた。
「CEOがお推しになられていた五十嵐ハジメの扱いはあのような扱いで問題ないのでしょうか?まるで若手の芸人のような扱いですが」
「ふむぅ...まあ、全くフォーカスされないよりかはマシだと思いますねぇ。良いように言えば彼の別の一面が見れたとも言えます」
「そのような発言ですと、悪いような言い方も出来ると捉えられますが...」
秘書の指摘にオッホホホ...!と野太くも高く感じる声で笑う井出。ニッコリと口角を上げるようにして笑みを浮かべると一本取られたと言わないばかりに語り始めた。
「流石は私が秘書に選出しただけのことはありますねぇ。その通り...悪いように言えば私が本来望んでいた使われ方をされていないというものです。まあ、使われてるだけ有り難いと思っておきましょう...」
そのまま自らも退室する身支度を進める井出に対し、秘書は軽く頭を下げながらもある質問を単刀直入に投げ掛けた。
「CEO、僭越ながら一つ私の方から質問があるのですが...」
「貴方から質問とは...珍しいですね。いいでしょう、どうぞ発言なさって」
「CEOは何故、五十嵐ハジメという男を推薦したのですか?」
秘書からの質問にんうぅ?と考える素振りを見せる井出。どう答えるか考えがまとまると不敵な笑みを浮かべながらもゆっくりとした口調で答え始めた。
「番組を観ていればそのうち分かることでしょう...そんな中で先に答えを言ってはツマらないかと。ですが...何も答えないでは意地悪が過ぎますしねぇ。強いてヒントを与えるのであれば"愛"でしょうか」
「愛...ですか」
「そうです。意外ですか?私、見かけによらずロマンチストな部分もありますので」
「既に承知済みです」
「あら、そうでしたか。流石は私の秘書です」
そう言いながら退室しようと出口の扉へと歩く井出。先回りするように秘書が扉を開けるも、彼は退室する前に足を止めて「にしても...」と語り始めた。
「不穏な音がしますね、最新話は」
「不穏な音...ですか?」
「ええ。自分の立ち位置を見失って焦っている者が一人...
人というのは脆い。どれだけ賢くても精神的に追い詰められてしまえば、意図も簡単に崩れてしまう」
「...黒川あかねのことですか?」
「さーて、どうでしょうか。ミスター鏑木を筆頭とした番組制作陣が愚業を促すような真似をしなければ良いのですが」
そう言い残して部屋を立ち去る井出。そのまま秘書と共に会社を出ていき、正面玄関に停められていた現行型センチュリーの後部座席に乗り込むとそのまま走り去っていった。
・
―今ガチ 撮影日
あかねとの電話のことが頭から離れないハジメは運動場の方へと足を運んでいた。誰もいない中でベンチに腰掛け、空を軽く仰ぐように眺める...
今の自分が彼女にしてやれることはないだろうか?
今から彼女にアプローチするべきか?
いや...番組も中盤に差し掛かろうとしている今、各人物のキャラの方向性が固まった現段階で無理に動くのは違和感がある。自分はすっかり有馬かなと漫才をするようなキャラになってしまった...せめてそれらしい自然な匂わせをしてから行動を移したほうがいい。
ただ、自然な匂わせってどうすればいい?
それこそ難しい問題だ...何かしら大きなイベントみたいなのがあればやりやすいが、そういうのはもう少し先だろうし。
などと考えてると後ろから「ちょっとアンタ」と聞き覚えのある声が聞こえてくる。ふと顔だけ向けるとその姿に思わずため息をつきそうになった...有馬かなだ。
「なにベンチで寛いでるのよ、撮影中よ」
「いいだろ、別に...考え事してんだよ」
「考え事ねぇ...アンタみたいなのでもそういうのするのね。で、なに考えてるのよ?」
「今、俺に話しかけてきてる女を遠ざける方法について」
「なんですって!!?」
適当に誤魔化して答えるとグニィ...!と噛みつきそうな表情で睨見つけてくる有馬かな。案の定簡単に誤魔化せれたが、この女は相変わらずだな...と内心苦笑いしていると教室近くの場所からザワザワ...と慌ただしい声が聞こえてきた。目を向けるとスタッフや役者が集まってきてる。
「...なんか嫌な予感するな」
ポツリと呟きながらベンチから立ち上がり、その方向に移動するとかなの方も気になったのか、「私もいくわ」と後ろからついてくる。
そのまま一緒に現場まで移動すると...目の前には衝撃の光景が広がっていた。
あかねがゆきを叩いてケガをさせたのだ。
ゆきの頬にはあかねの爪のネイルで切った痕が綺麗に残っていて、そこから血が滴るように出てきている。
「(ウソ、だろ...?)」
呆然と立ち尽くす二人を見ていると周囲からスタッフ達による色々な声が飛び交ってきた。
"おいおい、ヤバいって!"
"どーするんだよ、明日モデルの撮影あるんだぞ!"
"マジかよ、とにかく事務所に連絡しろ!"
一番恐れていた事態が起きてしまった現状に...
頭の中が真っ白になってしまった。