普通の美少女アンドロイドです。通してください。 作:Alkane・Havok
目が覚めたら美少女になっていた。
......なんて展開、創作物でよく見かけるよね。
実際そうなってしまったらって考えたことはある?それもただの美少女ではなく美少女の姿をしたアンドロイドだったなら?声が足立レイや九十九シオンのような可愛らしい無生物音源になっていたなら?
ボクは今それを考えているよ。
「あー、アー......すごいなぁ......フハハハ!」
だって今の状況がそうなのだから。
◇◇◇◇◇◇◇
どうしてこうなったとか、それらは覚えていない。
気付いたらこんな身体になって、廃墟のような様相の部屋で座っていた。あまりにも混乱してしまい、勢い余って錯乱しかけたのは記憶に新しい。
なぜ?普通に死んだ?それとも普通に生きていた?
以前の自分の情報がほとんど思い出せない。
この口調であっているのかさえ分からない。
怖い。自分のことを思い出せないってこんなに怖いものなんだ。でも不思議と恐怖が消えていく。
それも怖い。それも消える。この機械仕掛けの身体の所為なのかな?恐怖というよりは人間性が消えているような気がしてくる。そのうちボクが消える?そうかもしれないね。ずうっと怖いなぁ。
立ってみると部屋が窮屈に思えてくる。この部屋の天井が低いから?それとも不思議の国にあるキノコを知らない間にしゃぶった?まあどうでもいいか。
部屋の中には汚れた鏡が取り残されていた。そこに写るボクの姿は...元を覚えていないから確証はないけど、元が人間だったなら確実に変化している。
毛先へ近付くにつれ紫色にグラデーションしていく肩にかかるぐらいの長さの黒髪、生気も感情も感じられないレンズの瞳孔を持つ赤い目、関節の継ぎ目から鈍い色の機械が覗く薄橙色の体、本来耳が存在する部分に取り付けられた熊耳付きヘッドセット、左腕に彫られた赤いナンバー...07。
顔だけならば目が完全にキマっているだけの美少女に見えるだろうが、首から下は機械の部分をあまり隠していない。見る人が見ればエロスを感じるであろう身体。ボクもこれがボク自身でなければ何か感じられたのかもしれない。服を着ていないことに何も思わない時点で無理かもしれないけど。
とりあえず、発声練習でもしながら服を探そう。
外がどうなっているかは分からない。でもどうなっているにせよ最低限の尊厳を守る為にも服は着ないとまずい。それにこの身体がどのくらいデリケートなのかは知らないけど、保護の面でも役立つはず。
そうと決まれば早速行動に移そう。
◇◇◇◇◇◇◇
......そして発声練習で声に聴き惚れた結果が冒頭の「自分の声に喜ぶ美少女アンドロイド」の図。
服を探して着るという目的を忘れ、独り言を呟いて歌ったりしている。あっすごい、口動かさなくても発音できる。腹話術師になったみたいで楽しい。
四曲ほど歌った辺りで本来の目的を思い出し、着れそうな服を探し始めた。
探せば案外簡単に見つかるもので、ボロボロなクローゼットを開けると今のボクにピッタリのサイズ、おそらく特注品であろう衣服を発見した。
真空パックの中に入っていたおかげでクローゼットの酷い状態に反して衣服は綺麗なままだったので、万が一にも破いたりしないよう、丁寧に衣服を着用していく。そして着替え終わり、鏡を見る。
スリーピーススーツっぽいデザインの学生服だ。
着ている時にも思ったが、真っ黒すぎやしないか。シャツや下着まで黒いのにネクタイだけは何故か金色だ。発色が良すぎて悪趣味にしか思えない。
スラックスなのはよかった。スカートは動きづらいし落ち着かない。元々のボクはスカートを履かない人だったんだろう。ミニスカートは特に。
手袋もあったので着けてみたら、指先から鋭い鉤爪が飛び出した。試しに壁を引っ掻いてみたら簡単に深々と刺さり、そのまま下ろすと鉤爪と同じ太さの深い引っ掻き傷がスルスルと生成されていく。
これで戦えということだろうか?ブラックパンサーみたいだ。ボクは黒豹じゃなく黒熊らしいけど。
兎に角、これで堂々と外に出られるようになった。この部屋には窓すら無いし、外に出ない限りは外がどうなっているのか確認する術が無い。
だから怖い。感じたそばから消えるけど、怖い。
こんな廃墟の中にアンドロイドが放置されている。
外がどんなふうになっているか、想像したくない。
だが未知を恐れるべきではない。怖くても今は前に進むしかないらしい。
何かあっても、何もなくても、歌うことにしよう。
建て付けの悪いドアを蹴っ飛ばして先へ進んだ。