普通の美少女アンドロイドです。通してください。   作:Alkane・Havok

2 / 4
オハヨー、ワールド。ハロー、アビドス。

廃墟から出たら砂に囲まれた街でした。

人いないし見渡すかぎり砂と廃墟だしやっぱり終末世界じゃないですかヤダー。

この身体だと関節だとかの隙間から体内に砂が入りそうであまり長居したくはない。でも移動しないことには始まらないので人影を探す。ヒャッハーでもカルト信者でも、生存者の有無は知っておきたい。

長年整備されていない様子の道路の上に薄く積もった砂をザリザリと踏みしめ、あてもなく彷徨う。

静かだ。風の音と足音、自分の身体から発せられる小さな駆動音しか聞こえない。本当に人がいないのかもしれない。

そんなことを考えていると、前方に何か落ちているのが見えた。少し近付くとその姿は鮮明になった。

 

人だ。白いスーツを来た男性が倒れている。

 

慎重に近付き、立ったまま覗き込む。息はある様子なので足先で軽く蹴って反応を確かめる。

“ヴッ......”という掠れた呻き声が発せられ、ピクリと動きはしたが、それ以上の反応はない。ここは砂漠みたいだし、暑さで倒れているのだろうか。

とりあえず何が起きたのかを知りたいので、男性の首根っこを掴んで近くの日陰に引きずっていき、水を探す。ボクは今はアンドロイドだから水が無くても大丈夫みたいだけど、あの人は違うらしいから。

でも、水...そうでなくても飲み物なんて、終末世界なら貴重だろう。ボクには多分必要なさそうだし、あの人が死んでしまう前に飲ませたいところなんだけどなぁ。

 

スーツの男性を寝かせた場所からそう遠くないところを歩いて飲み物を探していると、自転車の走行音に似た音がボクの耳...集音マイクに入った。辺りを見回せば、ロードバイクに乗った制服姿の少女が近付いてきている。手を振ってみると少女はロードバイクから降りてゆっくりと歩み寄ってきた。

近くで見ると犬耳が頭に生えており、頭上に銃の照準のような形状の青い輪が浮いていた。この世界、わりとファンタジー寄りの世界観なのだろうか。

 

「こんなところで何してるの?」

 

警戒しているのか、スリングで肩から提げている白いライフルをいつでも取れるようにしている。

ライフルについて驚きはしない。終末世界ならこんな少女が銃を持っていても不思議ではない。

問答無用で攻撃してはこないようなので、飲み物を持っていないか尋ねてみる。それで攻撃されたら?その時は戦うしかない。

 

「飲み物?エナジードリンクならあるけど...」

 

攻撃されなかった。気性は荒くないらしい。

体調不良で倒れている人がいたので、そこの日陰で休ませていること、良ければそのエナジードリンクを恵んであげてほしいということを少女に伝える。

 

「ん、遭難者。そういうことなら手伝うよ」

 

犬耳の少女を連れてスーツの男性の元へ戻った。

見ず知らずの人の為に自分の物をあげるだなんて、とても良い子だな。

男性の頬を軽く叩いて意識の有無を確認し、水筒から紙コップに注いだエナジードリンクを未だ床に伏せている男性の目の前に置く。すると辛うじて顔を上げている状態だったはずの男性は目にも止まらぬ早さで紙コップを掴み、一気に中身を飲み干した。

 

“ぷはッ!あ〜......しぬかとおもった......あ、ありがとう2人とも。おかげで助かったよ”

 

ようやくまともに話せるようになった男性は幾らか元気そうな様子でお礼を言った。あと数十分程度は保つだろう。

 

「見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど......もしかして、アビドス高校に用があって来たの?」

 

男性がその問いに頷くと、犬耳の少女はほぼ無表情だった顔を緩ませる。アビドス高校はそのまま高校だとして、連邦生徒会とはなんだろう。

 

「......なら、久しぶりのお客様だ。それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから」

 

少女はそう言ってロードバイクを取りに行こうとしたのか日陰の外へ踏み出そうとしていたが、ふとボクの方に振り向いた。どうかしたのかと訊く前に少女が口を開く。

 

「そういえば、あなたはどこに行くの?ここら辺に目ぼしいものはあんまり無いと思うけど」

 

ああ、そういうことか。実を言うと決めていないのだ。そもそもの話、先程そこの廃墟で目覚めたばかりでここがどこなのかも分からないし、どういった場所なのかさえ知らない。

記憶が無いので誰でもいいから人を見つけることを目的に歩いていた。達成した今は世界を知って生活していくことを目的にしている。

そんな感じで身の上を話す。嘘は言っていないよ。

全てが事実とは言えないけどね。

 

「......」

 

少女は考える素振りを見せ、「...そっか」と柔らかい声色で言った。懐かしんでいるような、そんな雰囲気の青い目でボクを見る。

 

「じゃあ、一緒に来る?」

 

少女はボクに手を差し出してくる。

ボクはその手をとり、行動を共にすることにした。

 

 

ちなみに、連邦生徒会?から来たらしいスーツの男性は空腹で動けないからチャリに乗せてくれだの、それがダメならおぶってくれだのと抜かしていたので、ボクがファイヤーマンズキャリーで運んだ。

ついでに少女がプロテインバーを持っていたので、受け取って男性の口にねじ込んでおいた。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

ロードバイクで先行してくれている少女の後をついていき、アビドス高校に到着した。少女はすぐそこだと言っていたが、それなりに距離があった。成人男性を担いでペースを落とさず走っていたのに疲れの一つも感じない。アンドロイドの身体だからか。

 

日本の一般的な学校と同じ様式をしており、特筆すべき部分もない校舎に入る。少女が靴から上履きに履き替えているのを見て、上履きは持っていないと伝えたが、少女はそのままで大丈夫だと言って階段の方へ向かっていく。少女を追うと「アビドス廃校対策委員会」と札に貼り紙がされた部屋の前に着いた。少女がドアを開けて「ただいま」と声をかける。

 

「おかえり、シロコせんぱ......い?」

 

部屋の中には三人の少女がおり、その中でも返事をした猫耳の生えたツインテールの少女はボク達の方を見た途端、固まってしまった。

 

「......はっ!うわっ!何っ!?誰よその真っ黒なデカい人!?誰か担いでるし!!」

「わあ、シロコちゃんが人を二人も拉致してきました!」

「拉致!?というか担がれてる人死んでませんか!?まさかシロコ先輩、ついに犯罪に手を...!!」

 

シロコ、という名前らしい犬耳の少女はあんまりな言われように不満げな表情を浮かべている。

信用されているようで何よりだと伝えれば、ボクの脇腹に思いきり肘をいれてきた。人間だったら悶絶しただろうがアンドロイドなので問題ない。

 

「いや......普通に生きてる人だから。うちの学校に用があるんだって」

 

頭をぶつけないようにだけ気をつけて担いでいた男性を床に落とす。ドサッという音と共に床とキスをした後、何事も無かったかのようにスクッと立ち上がり、元気に挨拶をした。

 

“シャーレの先生です、よろしくね”

 

シャーレが何かは分からないけど、そこの先生なんだねこの人。あの醜態を見ていると、とてもそうは見えなかったけど......

 

......うん?それだけ?名前は?自分の本名は?

 

「......えっ、ええっ!?まさか、連邦捜査部シャーレの先生!?」

「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

「はい!これで......弾薬や補給品の援助が受けられます!」

 

誰もツッコまないの?ボクがおかしいのかな......

 

「あ、ということはもしかして、そこの方は連邦生徒会の......?」

 

カーディガンを着ている淡い金髪の少女が、ボクにおずおずと問いかけてくる。だけど連邦生徒会とやらとはまったくの無関係なので否定しておく。ここで肯定する意味が無いし、シロコさんに話した内容と矛盾している。

ボクはこの場の人達へ気付いたら廃墟にいてそれ以前の記憶が無く、ここの常識や非常識さえ知らないとありきたりな記憶喪失ムーブをかます。

実際そうなので疑われた場合は困る。困り果てる。

 

「なるほど。つまり......記憶喪失、ですか」

「ん、私とお揃い」

 

シロコさんがシレッとそんなことを言った。

もしかして先駆者だったり...?

 

「そう。私も気付いたらアビドスにいた。名前以外は何も覚えてなかったけど...ホシノ先輩とノノミのおかげで、今は上手くやっていけてる」

 

まさかのまさかだ。ほぼ記憶喪失のような状態での第一エンカウントが記憶喪失の先駆者だったなど、いったいどんな確率なのか。

 

“そうなんだ......”

 

白いスーツの男性こと先生は私達の話を聞いて何か考えているようだ。同情なら要らないのだけど......

 

そんなことを思っていると、校舎の外から連続した銃声が聞こえ、全員が窓の外に目を向けた。

 

「攻撃、攻撃だ!!奴らは既に弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!!学校を占領するのだ!!」

 

ヘルメットを被ったセーラー服の武装集団が校庭でそう叫びながら手に持った銃を宙へ乱射している。

本場のソレには程遠いが、所謂ヒャッハー系な集団らしい。無駄弾を撃ちまくって威嚇してきていた。

 

「あ、あれは...カタカタヘルメット団です!」

「あいつら......!!性懲りもなく!」

「私、ホシノ先輩起こしてくる!」

 

走って部屋の外に行く猫耳の少女を見送り、再び窓の方へ視線を戻す。この学校はあんなのに襲撃されているのか。学校の中やみんなの身なりが綺麗だから違うのではないかと思い始めていたのに、やはり終末世界。北斗の拳かマッドマックス的なやつだ。

 

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」

 

猫耳の少女が桃色の髪の小柄な少女を連れて戻ってきた。桃色の髪の少女はむにゃむにゃ言いながら寝ぼけている。大丈夫なのだろうか。

 

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方々はシャーレの先生と...お客様です!」

 

赤縁メガネをかけたエルフ耳の少女がそう言うと、桃色の髪の少女は眠たげにではあるが、ようやく目を開ける。

 

「ありゃ〜そりゃ大変だね......あ、先生、と......」

 

ボクに視線を向けた瞬間、少女は今までの気の抜けた様子が嘘だったかのように目を見開き、手に持ったショットガンの銃口をボクに突きつけた。

 

「なんだ、お前」

 

なんだってなんだ。自分がなんなのかなんてボクが知りたい。それより周りを見てほしい。みんな困惑しているし、ヘルメット団とかいう武装集団が襲ってきているのだから、ボクに何をするにせよ、まずそちらをどうにかするべきじゃないのかな。

 

「......ま、確かにね〜。じゃあおじさんは先に行ってるよ〜」

 

口調だけは緩い状態に戻った桃色の髪の少女は足早に外へ向かっていった。寝起きで機嫌が悪かったのかな?銃を持ったまま呆然としているシロコさんに尋ねてみる。

 

「...そう、なのかな?いや、違う、と思う」

 

どうやら違うらしい。ボクが美少女だったから......というのは無さそうだ、うん。ほぼ黒ずくめで見たことのない人だったから不審者だと思ったのかな。或いは因縁の相手とよく似ていたか......

 

「え、えっと......わ、私がオペレーターを担当しますので、先生はこちらでサポートをお願いします!」

 

気を取り直して、といった風に赤縁メガネの少女がそう言う。桃色の髪の少女の変わりように驚いていたらしい三人もハッとして準備を再開し、駆け足で外に向かっていった。

赤縁メガネの少女に、自分も参戦していいかと尋ねる。ここで待機していても手持ち無沙汰だ。

 

「えっ?......戦えるんですか?銃も何も持っていないように見えますが...」

 

このベアクローで奴らの(はらわた)を抉り出します。

ヘルメットで頭と顔を守れていても胴体にはロクな装備を着けていないので有効だと思うよ。

 

「......待機でお願いします」

 

待機命令を出されてしまった。顔色が若干青くなっているけど、こういった表現が苦手なのかな?

それなら、戦うにしてもこの子の前ではあまりやらないでおこう。でも見たところみんな銃持ちだし、ボクが参戦せずとも頭がスイカみたいに弾け飛ぶことぐらいはあるのでは?と、戦場になっているグラウンドを窓から覗く。

 

「ホ、ホシノ先輩、いったいどうしてしまったんでしょうか...」

 

桃色の髪の少女が無双していた。多少被弾しているはずなのに動きが全く鈍らない。他のみんなも戦ってはいるが、桃色の髪の少女に気を取られているようだ。あんな勢いで戦っていたら真っ赤になりそうなものなのに、少女達もカタカタヘルメット団とやらも無傷に見える。そういう世界なのか?戦闘終了後に質問してみよう。

先生はずっとタブレットを見ながら指揮している。

ただタブレットから女の子の声が聞こえるし先生もそれに話しかけていた。J.A.R.V.I.S.的なアレかな。

 

「カタカタヘルメット団残党、校外エリアに撤退中。皆さんお疲れ様でした」

 

周囲を観察していると、戦闘終了の合図が届いた。

カタカタヘルメット団は撃たれて倒れていた者含めほぼ全員が元気に走って撤退している。実銃で撃ち合っていたはずなのに、おかしな状況だ。

廊下から複数の足音が聞こえ、部屋のドアが開く。

 

「いやぁ〜まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩......勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか......」

「先生の指揮が良かったね。それと、ホシノ先輩」

 

シロコさんが桃色の髪の少女...ホシノさんに目を向ける。ホシノさんはその視線に見つめ返した。

 

「どうしてこの人に銃を向けたの」

 

シロコさんがそう言った途端、部屋の空気が凍ったような気がした。ホシノさんの雰囲気が一変したからだろうか。こんな調子で質問はできるのか...

だけどそういえば銃口向けてきてたなと思い出し、とりあえずボクからも訊いてみる。

ホシノさんは呆気にとられた表情をしていた。

 

「そういえば、って......自分で言うのもなんだけど、初対面の相手が顔を合わせるなりすごい形相で銃口突きつけてきたのに、そんなに印象に残らないことある?」

 

印象に残らないというか、いかにもといった怪しさ全開の全身黒ずくめな見知らぬ者が自分のホームにいたら普通そのぐらいはするだろう。だから別に気にすることでもないと思っていた。

 

「うへ......いきなりあんな事しちゃってごめんね。ちょっと...どうにも苦手な奴と雰囲気が似ててさ」

 

先程も言ったが別に気にしていない。というかやっぱり因縁の相手と似ていたのか。嬉しくない。

 

「ん、ホシノ先輩、この人はすごく背が高くて真っ黒で目がキマってるだけで、悪い人じゃない」

「シロコ先輩、庇おうとしているんでしょうけど、かなり失礼ですよ...」

「悪いのはネクタイの趣味だけ」

「シロコ先輩?」

 

分かる。趣味悪いよねこのネクタイ。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

だいぶ空気が和んできたところで、自己紹介タイムが入った。赤縁メガネの少女は奥空アヤネさん、猫耳の少女は黒見セリカさん、淡い金髪の少女は十六夜ノノミさん、そして砂狼シロコさんと小鳥遊ホシノさん。アヤネさんとセリカさんは1年生、シロコさんとノノミさんは2年生、ホシノさんは3年生らしい。パッと見では分からない人の方が多いだろう。

そしてそれが終わると、ボクに声がかけられた。

そろそろ名乗るべき、だそうだ。確かに。

名前を考えていなかったので、適当に夜馬(よるま)ユメだと答えると、ホシノさんが真顔になった。もしかしてこの名前も地雷なの?

また部屋の空気を凍りつかせそうなホシノさんに、「それ、本名?」と訊かれたのでプリセットネームでこちらの命名規則と同じものを選んだと言ったら、プリセットネームについて訊かれた。どうやらボクがアンドロイドであることは誰も見抜けていなかったらしい。声とか目とか、明らかに人間のそれではないのだけどなぁ。自分の身体について教えると、かなり驚かれた。ついでに今の服はボクの趣味じゃないことも伝えた。誤解は解いておきたい。

プリセットネームに関してはただの出まかせなのでそれっぽいことを話して誤魔化した。今の名前が気に召さないならばとフレディ、ヤオ・グアイ、スキッツォなどの名前も用意しておいたが、夜馬という名はそのまま苗字として採用し、ユメという名前だけ変えるという処置をとることになった。せっかく二十個も候補を考えたのに......悲しい。

その後は先生に「アビドス」の現状を説明したり、世間知らずLv10000なボク向けにちょっとした授業をすることになったり、突然の異世界転生の初日は楽しい日になった。

 

ただ、終始ホシノさんから熱い視線を貰っていた。

監視にしても堂々とし過ぎではないのかな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。