普通の美少女アンドロイドです。通してください。   作:Alkane・Havok

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ストーカーマシマシ

今日はいい日だ。

 

鳥は歌わず、風の吹く静かな音だけがして......

 

こんな日こそ、朝の散歩にはうってつけ。

 

活気の無い閑静な住宅街を歩き、アビドス自治区の空気を堪能していると、見覚えのある人影が見えたので出来るだけ気取られないように近付く。

 

そして、そんなボクが見たものは────

 

 

「ああもうっ!しつこい!あっち行けってば!!」

 

 

───女子高生(セリカさん)をストーキングする不審な成人男性(先生)の姿だった。

 

......通報するべきかな、これ。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

“いや、あの、違うんです。決してやましいことをしていたわけでは......”

 

はいはい言い訳は署で聞くから。

 

“そんなぁ〜......”

 

このストーカーはどうやらセリカさんが何処へ行くのか気になっていただけらしい。人がいたら普通に通報されると思うので、生徒の尻を追っかけるのはやめた方がいいよ、先生。

 

“そういう目的じゃないからね!?いや本当に違うんだってぇ......”

 

最初に出会った時のように先生を引きずって、アビドス高校へ続く道を歩く。セリカさんは用事があるらしく、急いでいる様子で別の道を走っていった。

今日は自由登校日なので必ず登校する必要は無い。

何の用事か知らないけど、危険なことはしていないだろうから気にしなくてもいいかな。

過去に児童誘拐殺人事件の起きたピザ屋を警備するとかそんな内容の仕事をしているわけでもないのであれば、何をしていようがセリカさんの勝手だ。

この先生やあの先輩方が放っておくかは別として。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで......」

 

「あの〜☆6人なんですけど〜!」

「あ、あはは......セリカちゃん、お疲れ......」

「お疲れ」

 

や、セリカさん。久しくないね。

 

というわけで、只今ボク達はセリカさんのバイト先である柴関ラーメンに来ております。

学校に着いてからも先生はまだセリカさんの行先が気になっており、対策委員会の方々に訊いてみるとそれについて心当たりのあったホシノさんがどうせ暇だから行ってみようと言い出して...という流れでお邪魔してしまった。お忙しい中すみませんね。

 

「せっ、先生まで......やっぱストーカー!?」

 

先生が再びストーカー扱いされているが、まあ事実なのでボクは庇わない。

 

「うへ、セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ......!!ううっ......!」

 

先程までの快活な店員さんの姿ではなく、いつもの姿を見せているセリカさんを眺めていると、カウンターの方から男性の声が聞こえた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

 

目を向けると、そこには二足歩行かつ人間サイズの柴犬が立っていた。人通りの無い場所ばかりを通っていたので生徒さんと先生以外の人は初めて見たが、まさかケモナーが喜びそうなタイプの獣人までいるとは。ケモミミしかいないと思っていたボクにとってかなり衝撃的だ。

 

「あ、うう......はい、大将。それでは、広い席にご案内します......こちらへどうぞ......」

 

セリカさんに案内された席に対策委員会のみんなが座っていく。ボクはアヤネさんの隣に座り、先生はシロコさんの隣に座った。シロコさんはなぜか勝ち誇ったような表情でノノミさんのことを見ており、ノノミさんもなぜかシロコさんを見ながら悔しそうな表情をしていた。知らない間に何かを競い合っていたのだろうか。

 

「先輩達!人の店でイチャつこうとしないでよ!」

 

いつもの調子で怒っているセリカさんをノノミさんがジッと眺める。どうしたのだろう。おかしな部分は特に無いと思うけど......

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

 

ユニフォーム......ああ、確かに。カワイイね。

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。先生、一枚買わない?」

 

バイト中のかわい子ちゃんをいつでも見られるなら疲れている時も頑張れそうだ。ボク的には欲しい。

 

「買おうとしないでください、カゲさん......」

 

アヤネさんに注意されてしまった。ザンネン。

 

「も、もういいでしょ!ご注文はっ!?」

「「ご注文はお決まりですか」でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃ〜」

 

笑顔......笑顔を忘れように.........いけない、何か変な記憶が......前世のものだとしてもこれは今思い出すべきではない気がする。一旦忘れよう。

 

「ご、ご注文は、お決まりですか......」

 

どうにか笑顔を作り、そう尋ねるセリカさんを哀れみつつ、注文を終える。ボクは濃厚豚骨ラーメンのチャーシューマシマシを頼んだ。うっひょ〜!

アンドロイドなのに人間と同じ食事なんて出来るのかと思うかもしれないが、ところがどっこい緋鯉の初恋。ボクの身体は思っていたより高性能で、摂食機能に味覚と嗅覚も備わっている。ボクは活動する上で食事を摂る必要は無いが、休憩や睡眠の必要が無くても睡眠をとれるのと同じく、ようは人間性を保つ為の娯楽として行えるのだと思う。機械なのに人間と同じ生活ができるなんて、面白いな。

 

「......ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

 

変な方向に行きかけた思考を戻すと、ノノミさんが金色のクレジットカードを取り出していた。所作や口調の丁寧さでなんとなく分かってはいたがノノミさんは実家が金持ちな...所謂、お嬢様らしい。

...こういうのって黒色な気がするけど、ボクが知らないだけで実際はそういうものなのかな。

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

“うぇっ?ホ、ホシノ?初耳なんだけど......”

「あはは、今聞いたからいいでしょ!」

 

なかなか鬼畜だ、ホシノさん。

まあ正直、先生が生徒に奢られているのは情けないので、逃げようとした先生を呼び止めて説得する。

 

“ううっ......わ、分かった、私が全員分奢るよ”

 

そんなにキツイことを言ったつもりはないが、先生には効いたようだ。目に見えて落ち込んでいる。

ジャケットの内側から黒いクレジットカードを取り出して名残惜しそうにため息をつく先生に、ノノミさんが自身の持つ金色のカードをこっそり使うよう耳打ちしたが、先生はそれを拒否していた。

あの表情からして先生の懐にはあまり余裕がないのだろうが、漢気を見せてくれてボクは嬉しい。

 

そうして、ボク達は先生の金でラーメンを食べた。

今まで食べたことがないくらい美味しいラーメンだった。ここの常連になろうかな。

 

店を出ると、すっかり日が傾いていた。

 

「いやぁ〜!ゴチでしたー、先生!」

「ご馳走様でした」

「うん、お陰様でお腹いっぱい」

「あ、あはは......セリカちゃん、また明日ね......」

 

大満足。また来るよ。

 

「二度と来ないで!」

 

フハハハ、元気だなぁ。

 

「ホント嫌い!!みんな死んじゃえ〜!!」

 

軽口の類だとしても、そのようなことを軽率に口にしてはいけないよ。セリカさん。

 

「う......急にまともなこと言わないでよ!ほらさっさと帰って!仕事の邪魔!」

 

セリカさんの元気な怒鳴り声を背に、ボク達は帰路についた。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

「はあ......やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ。みんなで来るなんて......騒がしいったらありゃしない」

 

日も完全に落ちた頃、セリカは大将に挨拶をして店を出た。心の内に留めることなく、愚痴を独り言として呟きながら、暗い街中を通って足早に帰る。

 

「人が働いているってのに、先生先生ってチヤホヤしちゃって。ホント迷惑、何なのアレ」

 

セリカは街灯の明かりに照らされた道を歩く。

暗闇から近付いてくる。

 

「ホシノ先輩、昨日のことがあったからってわざと先生を連れてきたに違いないわ!」

 

セリカは並んだ自動販売機の明かりに照らされた道を歩いていく。明かりの中にいても安全ではない。

 

「それに、あのカゲとかいう自称アンドロイドの変なヤツも......」

「自称ではありませんよ。それと、ただのアンドロイドではなく美少女アンドロイドです」

「知らないわよそんな......っ!?」

 

セリカは背後から返ってきた言葉に振り向く。

気配もなく、当然のようにそこにいる存在を見た。

 

「こんばんは、セリカさん。お仕事お疲れ様でした」

 

全く人間味の無いノイズ音の機械音声で、紳士的に挨拶をされる。真っ暗な夜闇から赤色の眼と金色のネクタイが浮き出ており、2mはあろう背丈も相まって、傍目には都市伝説の怪人に見えるだろう。

 

「空は見ましたか?今夜は三日月です。綺麗ですよ」

「......いつからいたの?」

「「お疲れ様ー!」の辺りから」

「柴関ラーメンを出る前からじゃない!なんで私にストーカーが二人もついてるのよ!?」

 

うんざりした様子で叫ぶセリカを見て、その存在、夜馬カゲは愉快そうに笑った。

 

「まあまあ、そう怒らずに。ボク達はただ、セリカさんのことが心配で仕方がないだけなのです」

「なっ、子供扱いしないで!あんた達なんかに歩き方を見守られるような歳じゃないわよ!」

「アヤネさんや先輩方にも心配されていますが」

「みんな心配性が過ぎるのよ!私だって自分の身は自分で守れるから!」

「ふむ、そうですか。ちなみにですね、セリカさん」

 

カゲはセリカの背後に視線を向ける。

 

「貴方のストーカーは二人だけではありません」

 

 

 

 

「......え?」

 

セリカは、カンッという空き缶が落ちたような音を聞き、足元から立ち上るガスを吸い込んだ。

 

セリカの視界は黒になった。

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